本日、無愛想な段ボールの小包が届いた。僕への宛名がアルファベットで書かれており、どうやら外国から来たもののようだった。テッシュペーパーの箱を一回り大きくした感じで、数百グラムの重さがある。そして、ざっと見たところ差出人は書かれていない。
一瞬、爆弾でも入っていて、開封したとたん爆発するんじゃないかと不安になってしまった。外国人から恨まれるようなことをした覚えはないけれど、偶然僕のアドレスを入手した人物による無差別テロかもしれんし。僕は少々世をはかなんでいる部分もあるので、まぁ爆死したらそれはそれとして、この世に未練はないのだけれど、周りの人を巻沿いにするのはちょっと忍びない。
開封すべきか、裏山に放り投げて安全なところで爆発させるか考えながら、もう一度包みを見直すと薄く消え入りそうな “BOOK” というスタンプがあった。
ああそうなのか、本なのか。と安心して開けた。
中から出てきたのは、アメリカの社会学者の Karen Cook らが編纂した “eTrust: Forming Relationships in the Online World” という書籍だった。Karen Cook には1, 2回お目にかかったことがあるが、金髪で白い肌のとてもお美しく聡明そうな学者さんでした。
ああ、そうか、キャレンは僕のことを覚えていて、わざわざ本を送ってくれたのかと感激しそうになったら、中から出てきたのは出版社の人からのレターだった。出版社の人の英文レターを苦心して読むと
「この本は55ドルですよ。でも、あなたは貧乏で買えないだろうから1冊差し上げますわよ。もっと欲しかったら、連絡してもいいわよ。あなたには特別に 40%OFF で売ってあげるわ!お友達の分も買うといいわよ!!」(俺訳)
なんて書いてあった。
ああ、そうか。新手のセールスか。
そんなわけで、円高のこのチャンスに、40%OFF で “eTrust” を購入してみてはいかがでしょうか。
$1=86円 とすれば、定価 $55 の 40%OFF 2900円以下で買えちゃうわけですよ。
同書を出版している Russell Sage Foundation は、ここ10年くらい継続して「信頼」に関するシリーズを出しています。主に社会学者、社会心理学者、政治学者が集まって、信頼に関する理論研究、実証研究に関するいい仕事をしています。
今回の “eTrust” では、文字通りインターネット上での信頼にフォーカスしています。
ネット上では、ほとんど匿名のような状況で、顔も素性も知れない相手と付き合わなければなりません。しかも、その付き合いというのも、1回限りの付き合いが多いわけです。
例えば、ネットオークションで売り買いする相手というのは、ほぼ一期一会ですよね。良い買い物をしたからといって、その相手からまた買おう・・・なんてことはほとんど起きないわけです。ネットで検索してあるブログにたどり着いて、「ほほぉ勉強になるなぁ」なんて一時的に記事を読むことはよくありますが、その書き手と長く付き合っていこうと思うことは少ないです。その人が普段どんな生活をしているのか(たまに気になることもあるけれど)、ほとんどわからずに表層的な付き合いしかないわけです。
一時的な表層的な付き合いが頻繁に起きる場所では、ちょっと困ったことが起こり得ます。観光地の土産物屋やお食事処は、ひどいサービスであることが多いのと同じです。店の主人は「どうせ1回限りの付き合いなんだから、手を抜いてもいいだろう。どうせリピーターにならないし」と思うからです(もちろんそうじゃない立派な店主もいます)。旅人も「どうせ明日にはこの町を去っているんだから、多少あくどい事しても良いだろう。旅の恥はかき捨て」なんて思って傍若無人な行動をとるわけです(もちろん慎ましい旅人もいます)。
これと似たようなことがネット上でも起き得るわけです。
ブログのコメント欄には、どうせ正体がばれないだろうと匿名で酷いことを書きこむ人がいます(もちろん名乗りをあげて暖かいコメントをする人もいます)。ネットオークションでは落札者との将来の付き合いはないので、ぐずぐずとして商品の発送が遅くなる出品者なんかもいます(もちろん迅速丁寧な出品者もいます)。
こんな人たちばかりでは、ネット上の人々は誰も信頼できなくなってしまいます。
けれども、実際のネット上は、それほどまでにはひどい状態に陥っているわけではありません。例えば、ネットオークションなんかでは取引終了後に相手の評価を行うことで、いかがわしい人を排除するような仕組みがあるわけです。
ああ、そうね。
ネットは、自浄作用で何とかうまく回ってるね。・・・と思うわけです。
でも、学者ってのは「なんでうまくいってるんだろうね?評価制度がなくなったら、本当にダメダメになるんだろうか?」なんてことに興味を持ち始めるわけです。で、それを本当に実験したりして調べるわけです。
そういうのがまとまったのが、この本。
山岸・吉開『ネット評判社会』を読んで興味を持った方(かつ、英語が苦にならない人)は、同書を入手して損はないと思います。
なお、ネットで調べた限り、どこにも目次が掲載されていなかったので、以下に記しておきます。
eTrust: Forming Rlationships in the Online World — Contents
PART I: Effects of Reputation Systems on Trust
PART II: Field Studies on the Reputation Premium
PART III: Assessing Trust and Reputation Online