昭和17年(1942年)12月大晦日。
糸子(尾野真千子)は、客から代金のかわりにもらって大量に集まった食料品を近所にお歳暮として配った。
木之元(甲本雅裕)の電器店は品物を仕入れることができず、開店休業状態だった。食料だけではなく金属も不足し始めたため、電気製品もまともに作られなくなっているのだ。
食料品を分けてもらって木之元夫婦は喜んだが、糸子へ返すものがなかった。木之元の妻(西村亜矢子)は申し訳なさそうにカイロをひとつ差し出した。それが精一杯のお返しだった。事情を察する糸子は、何も言わずに喜んでそれを受け取った。
もらったカイロは善作(小林薫)の手に渡った。善作は、カイロに油を注いで使い方を優子(花田優里音)の前で実演した。ただし、油は危険だと注意し、彼女の手の届かない所に片付けた。
絶交状態にある安岡家ではあるが、糸子は彼らのことが心配だった。自分が食料を届けるわけには行かないので、縫い子のりん(大谷澪)を使いにやった。彼女は新顔なので過去の事情は知らず、もっとも穏便にことが運ぶと思ったのだ。
りんによれば、八重子(田丸麻紀)が出てきて、喜んで受け取ってくれたという。しかし、玉枝(濱田マリ)の顔は見たものの、彼女は一言も口を開かなかったという。勘助(尾上寛之)の姿は一切見なかった。
報告を聞いた糸子は、贈り物を受け取ってくれただけでもありがたいと思った。そして、安岡一家もそれらしい正月を迎えることができるだろうと思い、安心した。
その他、善作は馬場の駐屯地に出向いた。ところが、勝(駿河太郎)への面会を求めたが応じてもらえなかったという。善作は、軍隊は薄情だとブツブツ言っている。
年が明け、豊かな食卓を囲んで楽しい元日を迎えた。その場においても、善作は勝のことをまっ先に思い出した。軍隊ではうまいものも食べられず、苦労していることだろうと思いやるのだった。
年明け以後、生活への規制はますます厳しくなった。電気やガスの使用にも制限が加えられた。それにともなって、善作と千代(麻生祐未)が糸子の家で一緒に住むことになった。光熱費の無駄を減らすと共に、子守りもしてもらえるので糸子は大歓迎だった。
ある日、勝が中国大陸に渡ったという噂を木之元が持ってきた。
それまでは勝のことなど頭になかった糸子だが、ついに日本を離れたと思うと気になりはじめるのだった。しかし、それは複雑な思いでもあった。
浮気をしていた憎い夫である一方で、自分の仕事に理解のある優しい夫。いや、妻が仕事ばかりするので遊ぶのに都合が良いと考えていたに違いない。いやいや、勝はそこまで腹黒い人間ではないはずだ・・・。考えは堂々巡りをするばかりだった。
そこへ、婦人会の役員たちがやって来た。勝の出征に伴い、彼が使っていたミシンは不要になったはずだ。だから、金属供出しろと言うのだ。出征した者は、死んで国の役に立つことこそ本望だ。勝が帰国して仕事を再開するはずはない。だから、ミシンを供出しろと説得するのだった。
勝が生きて帰ってこないと決めつけられたことで、糸子は激怒した。婦人会の役員らを怒鳴りつけて追い返した。
その夜、糸子は悔しくて眠れなかった。戦争の不条理さ、国民の死を強要する理不尽さに腹がたって仕方がなかった。糸子は、自分の布団の横に勝の眠る姿を想像した。彼のたくましい体を思い浮かべ、空想の勝を愛おしく撫でた。彼の立派な肉体を、どうしてわざわざ骨にしなくてはならないのかと大きな疑問を抱くのだった。
しかし、彼の浮気はどうしても許せなかった。無理矢理に勝のことを頭から追いだそうとするのだった。
その夜は、なぜか善作も寝付けなかった。夜遅くまで起きて、取り留めもなく店の帳面などを見ていた。
タバコを吸おうと小さな戸棚の引き出しを開けようとした。しかし、引っかかってなかなか開かない。力を込めて引いていると、戸棚全体が揺れた。
すると、戸棚の上に載せていた油の瓶が火鉢の中に落下して割れた。
瞬く間に火が上がり、善作に燃え移った。
みなさん、火の用心。
他に渡すものがなく、苦肉の策で木之元の妻がカイロを渡す。孫が可愛い善作は、その使い方を見せてやる。ただし、優子の手の届かないように高い所に油をしまう。光熱費の節約のために善作が一緒に暮らし始める。ふとタバコがないのに気づいて戸棚をあさる。
それぞれのシーンは、単なる賑やかしで、人々の日常的生活風景を移すことで現実感を醸しだすという、それだけのものかのように見える。ところがどっこい、それが本日の最大の見所になっているという工夫。面白いなぁ。
もちろん、糸子の勝に対するアンビバレントな感情という点も見逃せませんけれども。
糸子の寝床の横がポッカリと開いていて、そこに勝の幻影が浮かび上がるという映像はベタだけど美しかったですね。CG処理されているのか、薄ぼんやりと存在していました。
その幻影に糸子の手が伸びて撫でるというのがちょっとエロチックで。頬から胸へと糸子の手が降りていくのを見ながら、「おいおいおいおい!その手は一体どこまで降りてくの?まさか男性自身にまで行っちゃうの?」とドキドキしながら見ちゃいました。ごめんなさい。