今週の放送は、勝の浮気への赦しがあり、水玉ワンピースの大ヒットがあり、静子のヒロイン以上にきれいな花嫁姿があり、厳しくも優しかったハルの死去があり、周防との出会いと心の交流があり、奈津がパンパンになっていて、さらには絶交状態の玉枝に会いに行くとか、「盛り沢山すぎだろ!」と叫ばずにおれない当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第85回目の放送を見ましたよ。
パンパンになった奈津(栗山千明)のことを相談するため、糸子(尾野真千子)は玉枝(濱田マリ)に会いに来た。糸子は、奈津が玉枝にだけは心を開くことを知っていた。玉枝とは何年も絶交状態である上、玉枝は息子を戦争で失って心神喪失状態である。まともでないことはわかっていたが、他に奈津を救う方法はないのだ。
玉枝は寝床でまんじりともせず、天井を睨みつけるだけだった。糸子が部屋に入ってくると、目玉だけをギョロリと動かした。糸子の来訪を咎めるでも歓迎するでもなかった。
それでも、玉枝は善作(小林薫)の死去を口にして気遣ってくれた。糸子は、勝(駿河太郎)やハル(正司照枝)も死んだことを報告した。玉枝は、体を動かさず、一筋の涙を流した。
糸子は奈津のことを報告した。そして、深く頭を下げ、泣きながら彼女を救って欲しいと頼み込んだ。
しかし、玉枝はそれを断った。奈津の借金と夜逃げ、そして娼婦になったことは気の毒に思いつつも、玉枝自身もボロボロの状態だった。自分のことすらどうすることもできないのに、人を助けることなどできるはずがないと言うのだ。辛くなった玉枝はさらに涙を流した。
そして、糸子の願いを断り、追い返すのだった。
糸子は諦めて帰るしかなかった。奈津のことが心配だったが、どうすることもできず数日が過ぎた。
ある日、八重子(田丸麻紀)から電話があった。聞けば、玉枝が奈津に会いに行くと言い出したという。すぐに糸子も合流し、孫の太郎(倉本発)に背負わせて奈津の住む掘っ立て小屋へ向かった。小屋には玉枝だけが入ることにした。糸子と太郎は少し離れたところから様子を伺った。
奈津は玉枝の姿を見るやいなや、玉枝を小突いた。杖を使っても立っているのがやっとの玉枝は大きくふらついた。飛び出して助けに行こうとする太郎であったが、糸子が力いっぱいそれを遮った。ここは玉枝に全て任せるべきだと思ったのだ。
最初は気を悪くした奈津であったが、すぐに玉枝を家の中に入れた。
奈津の家の中にはほとんど何もなかった。奈津の母(梅田千絵)もすでに死んでしまったという。仏壇を買うこともできず、小さな台の上に骨壷をむき出しのまま置いて線香があるのみだった。
玉枝は泰蔵(須賀貴匡)と勘助(尾上寛之)を戦争で亡くしたことを奈津に知らせた。それまで強気でいた奈津であったが、いっぺんに感情を爆発させ、耳を塞いで泣き崩れてしまった。
玉枝は奈津の辛さがよくわかった。それ以上は何も話さず、奈津の気が済むまで寄り添い、優しく撫でてやるのだった。
しばらくして、玉枝と奈津が小屋から出てきた。疲弊した玉枝は、すぐさま太郎の背に乗せられて帰って行った。
糸子と奈津はしばし見つめ合った。しかし、互いに何も言わず、糸子もそのまま去って行くのだった。
そして、店での紳士服づくりが終わり、周防(綾野剛)も約束通り店を去ることになった。周防は期待通りの仕事をしてくれたし、最終日には珍しいゼリー菓子を振舞ってくれるなど、最後まで人がよく爽やかな様子だった。店の女たちは周防との別れを惜しんだ。
表に出て周防が去るのを最後まで見送ったのは糸子だった。
糸子は周防の助けを心の底から感謝した。単に職人として紳士服づくりを助けてもらっただけではなく、精神的な部分でも助けてもらったということをほのめかした。
それを聞いた周防は、どこか安心した表情を浮かべた。というのも、周防は糸子に嫌われたものと思っていたのだ。最初の頃はおしゃべりに付き合ってくれたのに、最後の方はあまり口をきいてくれなくなったことを周防は気にしていた。
糸子は周防の懸念を無言の微笑みで否定した。
糸子は黙っていたが、周防に話しかけるのをやめた明確な理由があったのだ。
糸子は周防のことを好きになりかけていることを自覚していた。これ以上話していたら、その気持に歯止めが効かなくなる。それを避けたのだ。
糸子は、もう二度と周防に会わないことを願いつつ、彼を見送った。
面白い。面白いんだけれど、今日の放送はどうにもテンポが悪かったなぁ。
奈津が結局どうなったのかわからず仕舞いだったし(来週の予告を見るかぎり、更生するようには見える)。
ただし、玉枝役の濱田マリの迫真の演技は良かったです。
ドラマ開始直後はやかましくて単なる賑やかし要員かと思っていたら、糸子と仲違いするあたりからの怪演が素晴らしい。見ていて背筋が寒くなるような、気のふれた様子が素晴らしいです。
奈津の家の様子も悲しかったですね。
あれだけ栄華を誇った吉田屋の娘がここまで落ちぶれるのか、と。小学校では一人だけ日傘をさして、毎日違う着物だった彼女なのに(呉服屋の娘の糸子ですらほぼ毎日同じ着物)、母の仏壇も用意できない。あるのは線香のみという。家の中にも何も無いのに、商売用の派手な洋服だけは目立つという。家にいる奈津は、頭はパーマでリボンもつけているのだけれど、簡素な浴衣を着ているだけという。
悲しいのぅ。
そして最後、ついに糸子が初恋を自覚。
勝との結婚は頼まれてイヤイヤという感じで、結婚後数年も単なる同居職人くらいにしか思っていなかったわけで。彼の出征直前に、やっと「大切な人だ」と思うようにはなったけれど、それが異性としての恋愛感情だったかどうかは曖昧だったわけで。
それが今回、周防のことをはっきりと異性として見ていましたね。
しゃべると好きになってしまうからしゃべらないというのも、いじらしい。
面白いのは、第82回の放送で、酒に酔った糸子が周防に家まで送られてしまい、翌朝恥ずかしくて「もう二度と会いたくない」と思ったこと。その時と同じセリフが、違う感情を伴って出てきました。
面白い。