あんまり用事がないけれど、電車に乗って大阪へ行って来ようと思う当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第97回目の放送を見ましたよ。
1948年(昭和23年)12月。
結局、糸子(尾野真千子)が我を押し通し、周防(綾野剛)は糸子の下で働き続けていた。糸子の娘たち(野田琴乃、二宮星、杉本湖凛)も周防によくなついていた。
ただし、他の従業員との関係や世間体があるので、隣町に紳士服専門店を作り、そこを周防ひとりに任せることを予定した。出店資金は糸子が全て用意した。糸子は自分の甲斐性を自画自賛した。
その一方で、糸子と従業員との関係は冷え切っていた。外出した糸子が土産に団子を買ってきても、全員から無視された。いつも糸子の味方だった八重子(田丸麻紀)ですら、はっきりと言うことは避けているものの、周防との関係についてあまり良い顔はしなかった。
ついに、糸子の話相手は周防しかいなくなった。
ところが、土産の団子を差し出しても、周防は手をつけようとはしない。実は周防は、店で出されたおやつをこっそりと持ち帰り、自分の子供達に食べさせていたのだ。そのことに勘付いている糸子は、周防の子供の分は別に買ってあると言って包を差し出した。
ふたりの間に少々気まずい空気が流れた。それでも、ふたりは互いの優しさに感じ入り、優しく寄り添うあうのだった。
店の内部の雰囲気が悪化しているのとは無関係に、店はむしろ大繁盛していた。莫大な利益が出ているので、昌子(玄覺悠子)も松田(六角精児)も、糸子のすることを表立って批判することができなくなっていた。糸子はそれを鼻にかけ、ますます増長するのだった。
ある日の夕、優子がお稽古に出かけようとしたら、見知らぬ子供が自分の家の中を覗いているのに気づいた。その弟は周防にそっくりな方言で「父ちゃんを返せ!」と言って優子を突き飛ばした。そして、姉と一緒に逃げて行ってしまった。
優子は、そのふたりがどの家の子供なのか、そして何の目的で来たのかを悟った。しかし、その事件を誰にも話すことができなかった。
その年の12月30日。隣町の紳士服店の準備が全て整った。年明けには開店の予定である。糸子は、初めて周防をその店へ案内した。
その店はオハラ洋装店以上に立派な店構えだった。糸子は高価な調度品を自慢気に見せた。周防と再会したときに、手巻き式時計のネジを壊してしまったことを引き合いに出し、電気式の時計を購入したのでもう安心だなどとおどけてみせた。
けれども、周防はニコリともしなかった。
その様子を見て、糸子は不安になった。周防は本当は紳士服店など持ちたくなかったのではないか、自分の一人相撲だったのではないかと思うと辛くなった。周防は自分の店を持つことは昔からの夢だった、それがかなったと言って慰めてくれたが、糸子はその場にいられないほど悲しくなった。
周防を残して店を飛び出してしまった。
糸子は店の前に立ち尽くし、「テーラー周防」の看板を見上げた。
糸子は自分の店を初めて持った時のことを思い出した。「小原洋裁店」の看板を初めて見上げた時のとても嬉しかった思い出が浮かび上がった。人は誰しも、自分の名前を冠した店を持ったら嬉しいはずだ。なのに、周防は嬉しそうにしていない。
糸子には何が違うのか、さっぱりわからなかった。何もわからないことで、ますます悲しくなった。
糸子を追って、周防が外に出てきた。ふたりで看板を見上げた。
その時、糸子は悟った。自分は周防の夢を叶えてやったつもりでいたが、むしろ周防の夢を奪ってしまったのだと。周防は自分の金ではなく、女の金で店を持たせてもらったことを卑屈に考えているに違いないのだ。
周防は、糸子に優しい笑顔を向けた。それは、糸子の推測を肯定する意味を持っていた。やはり周防は、他人の金で作った店などは欲しくなかったのだ。けれども、糸子には深い感謝の意を表した。
その時、周防は初めて「糸子さん」と呼びかけた。
糸子はさらに悟った。自分の力では、周防を心の底から満足させ、幸せにさせることはできないのだと。そう口に出し、糸子は泣き出した。周防は糸子を抱き寄せて、優しく慰めた。そして、自分も同じく糸子を幸せにできる人間ではないと告げるのだった。
その夜、糸子は初めて無断外泊をした。ふたりでテーラー周防に泊まりこんだ。
そして、ふたりで初めて迎えた朝、糸子と周防は契約を交わした。それは周防が糸子から店を買い取るという契約だった。月賦による支払いであったが、毎月の支払額は小原洋装店の月の利益の10%ほどに相当した。
ふたりは晴ればれとした表情だった。
異口同音に「さよなら。お元気で。」そう言って、糸子は帰宅した。
糸子は寝室で寝ている娘たちの間に横たわった。
自分はまた前へ進むのだ。そう思うと内面から力が湧いてきた。
糸子と周防が別れた。まさか、まさか、まさか。ふたりは円満に、自発的に、自分の人生とのすれ違いを自覚し、互いの人生を尊重し別れた。なんと、なんと、なんと。
そういう展開になるとは、昨日まで全く予想していなかった。
完全にやられた。今、放心しています。
・・・さて。
他の見所としては、やはり糸子&周防の絡みですが、周防が初めて糸子のことを「糸子さん」と呼んだシーンですね。これまでは一貫して、長崎なまりの「小原さぁん」という呼びかけだったものが変わりました。周防が、また一歩、糸子に対して距離を縮めたわけです。
それにもかかわらず、それが最初で最後の「糸子さん」だったとは。涙、涙、涙。
そして、ふたりが店に泊まりこむ官能的シーン。ランプの明かりで浮かび上がるふたりのシルエットがエロチックでした。朝から鼻血が出そうです。
一方で、糸子と周防のキスシーンすら一度もなかったというのが驚きですよね。朝ドラでは必ずしもキスシーンがタブーではないので(僕がすぐに思い出せるのは『つばさ』の多部未華子とか)、やろうと思えばやれたはずなのに。尾野真千子にしても、作品のためにヌードになるのも辞さない女優さんなので(僕には『殯の森』で拝ませてもらったおっぱいがいい思いです)、あってもよさそうなのに。
それにもかかわらず、キスシーンすらなかったというのが、余計に艶かしいっつーか、なんつーか。大人の恋だねぇ、という感じ。
で、一夜明かしたら、店の売却が決まっているという。
これ、糸子は自分が店を持たせてやって、ずっと周防を男妾さながらに囲っておくつもりだったわけですよ。ところが、それでは周防が満足しないということで、急遽、周防が自分で金を払って店を持つということになったわけです。
そして、それぞれの人生は平行線だと悟り、別れを決めたわけです。
切ないのぉ。
さて問題は、糸子と周防はその夜結ばれたかどうかという点ですね。ドラマではぼやかされていますし、どちらとでも取れる演出になっている。
僕としては、「結ばれた」に1票。それぐらいさせてやれよ。プラトニック・ラブ云々言う歳じゃねーんだし。