今、NHK BSプレミアムの『こだわり男とマルサの女』という伊丹十三の特集番組を見ている。見ながら思い出したのだが、伊丹十三の妹の夫というのが大江健三郎だ。伊丹十三と大江健三郎は義兄弟になる前、若い時分から友達同士だったそうだ。ふたりが交流する中で、大江健三郎は自分の理想の女性像を完成させたという。
そのエピソードが東海林さだお・椎名誠(2000)『やぶさか対談』に掲載されていることを思い出した。
伊丹が、女性は見たところ色黒い感じのほうがいい、本質的な美人は色黒だって。それから眉が濃くて、理想的に言えば二つの眉が繋がっているぐらいがいいと。(中略)そして、伊丹がお寺の離れで暮らしている所に行ったら、彼の妹が七輪でご飯をたいていた。眉が濃くて間に産毛がある。僕は、「あ、この人と結婚したい」と思ったんです。(中略)伊丹は、意識しないで、妹が僕の女房になるように刷り込んだんじゃないですか(笑)。結婚してから四十年近く経っても、彼女はすることなすこと全部、僕がいちばんいいと思うように振舞うから、ものすごく刷り込んでおいたんじゃないかな(笑)。
–『やぶさか対談』文庫版p.100
伊丹十三の策士っぷりに笑います。
そして、大江健三郎は伊丹十三から女性の扱い方も習う。
伊丹はやはり若い頃に、女性を抱きしめるときは尾骶骨から上に一、二、三番目の関節を押さえれば、それが最も理想的な抱きしめ方だって教えてくれたんですよ。(中略)僕は、それをずーっと覚えていた。結婚しても、そうそう立って向かい合って抱きしめるという機会はね、僕ら古い日本人にはないんですよ。それがヨーロッパのホテルにいた時、スイートの小さな部屋に入っていたんですね。かなりロマンチックでしょ(笑)。それで、この機会だと思って、僕は彼女を抱きしめることにしたんです。(中略)右腕で彼女の肩をつかまえて、左手の小指で尾骶骨を探った。そして、心の中で「一、二」って数えて、三番目の関節を押さえようとした瞬間、彼女が「三!」って言った(笑)。
–『やぶさか対談』文庫版p.101
激しく笑った。
伊丹十三は妹になんて言って説明していたんだろうか。
楽しい人だ。
あと、この尾てい骨作戦、僕もいつか試してみたい。