能町みね子『オカマだけどOLやってます。完全版』を読んだ

今年の五月病は例年よりしつこいという話を聞きました。つーか、聞きましたというのはウソで、僕が今勝手にそういう話を流布するわけだけれど。

みなさまにおかれましては、しつこい五月病に屈しないよう、十分な睡眠と滋養のある食事、適切な運動や日光浴、および仕事や対人関係のストレスを笑い飛ばすスルー力を涵養していただき、心身ともに健康な日々をお過しくださることを心より深くお祈りするところであります。

* * *

さて、今日の本題は能町みね子という人物、およびその著作についてです。

僕がこの人のことを知ったのはちょうど1年くらい前でしょうか。当時放送されていた『ヨルタモリ』(フジテレビ)でお見かけしたのが最初だと思います。

「何者だか知らないけれど、派手な格好をしたオバちゃんが出演してるなぁ。どことなくスノッブな振る舞いが少々鼻に付くよなぁ。嫌悪感を抱くというほどではないけれど、どちらかと言えば、あまり友達にはなりたくないタイプ。『ベッドで抱けるか?』って聞かれたら、抱けないと答える。年齢不詳なオバちゃんなら、圧倒的に永作博美の勝ちやろ!」

正直に記憶をたどれば、そのように評しておりました。
そして、顔ははっきりと覚えたけれど、名前はうろ覚えでした。

* * *

昨日のことです。
オネエ呼ばわり「不快」 テレビ番組、差別助長の恐れ』という記事がたまたま目に留まりました。

ついさっき、女性を「抱けるか、抱けないか」という観点でしか見ていないと宣言した舌の根も乾かぬうちにこんなことを言うのもアレだけれど、僕は性差別のある社会はよくないと思っている。LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)についても、真摯な態度で望まなくてはいけないと思っている。
そんなわけで、同記事に興味をひかれ、リンクをクリックしたわけです。

するとどうでしょう。
その記事で取り上げられていたのは、『ヨルタモリ』の派手なオバちゃんこと、能町みね子さんじゃありませんか。
ここで初めて、彼女の名前をちゃんと覚えました。

加えて。
彼女が男性から女性へ性適合手術を受けていたのだと初めて知りました。
僕は激しく動揺しました。テレビで見た時は、生粋の派手なオバちゃんだと信じていたのに、元々は男性だったとは。

俄然、彼女に対してふつふつと興味が湧いてきた。
「ベッドで抱けるか?」って聞かれたら、依然ノーだけれど、彼女のことをいろいろ知りたくなった。
調べてみると『オカマだけどOLやってます。』というエッセイが処女作だという事がわかった。

* * *

「題名にある『オカマ』も『OL』も性差別用語じゃねーかよ!」というツッコミはひとまず脇に置き、近所の本屋に駆け込み、ちょうど改装中らしく本棚がぐちゃぐちゃになっている中を必死のパッチで探索し、なんとか同書を見つけて購入。

本書は、著者が素人時代にブログで書いていた文章をまとめて出版したもの。

当時、著者は20歳代半ばで戸籍上は男性。男性器も備えていた。ただし、裁判所に改名申請を行い、氏名は女性風に変えていたという。
その状態で女性風の装いをし、一般企業の事務員として就職。男性だと見ぬかれないように生活する様子が綴られている。

髭の永久脱毛や女性ホルモンの投与、衣類や化粧品の選択といった外見上の対応のほか、他の女子社員との関係形成の方略などが面白おかしく書かれている。

全然悲壮感がねぇ。笑いながら読める。

自分が性同一性障害だと確信を持てなかった時代、周囲の少年少女がやっているのと同じように、女の子とベッドインしてみたという話も書いてある。
それはちょっと切ない。少しも性的興奮を得るどころか、不快感しかなかったそうである。そして、相手の少女も傷つけてしまったかもしれないという後悔も書かれている。

けれども、悲壮感がねぇ。ちょっとほろ苦いけれど、読者を落ち込ませない程度に笑わせ、かつ、人を傷つけない程度に真摯に正直に書いてある。尊敬できる書き手だと思った。

「ベッドで抱けない、派手なオバさん」などと書いてすみません。
能町みね子さんのファンになりました。

* * *

本音を言うと、この本には、性的マイノリティーであることの後ろめたさや、社会に対する恨みつらみや、いつまでたっても解消されない生きにくさなど、著者の不幸な身の上が満載されていることを期待して手にとった。

今年の五月病は例年よりしつこくて、心身ともにいつもよりダメージを受けている当方なので、この本を読めば「この著者に比べれば、俺は恵まれてるじゃん。コイツを踏み台にして、俺は明日から明るく生きていくぜ」という気分になることを期待していたわけなんだ。

でも、その期待がいい意味で裏切られました。結果オーライ。

(終)

【追伸】
下記のイラストで言われている「元アイドル H.N」というのは永作博美ですかね。
調べてみると、能町みね子も永作博美も茨城県出身だし。2人の年齢差は9歳ほどなので、担任がかぶってもおかしくない年齢差と思われます。

能町みね子『オカマだけどOLやってます。完全版』 p.263

能町みね子『オカマだけどOLやってます。完全版』 p.263

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