かの有名な「君の瞳に乾杯」というセリフはどういうシチュエーションでどんな風にしゃべるのか知りたくて。
結論を言うと、3回くらい出てきた。わりとカジュアルな感じだった。
映画を見る前は映画のクライマックスで重厚な決めゼリフとして出てくるのかと思っていたので、そういう意味ではちょっと裏切られた。
しかし、愛し合うふたりだけが共有する符丁としての意味は十分にあった。
なお、物語の中で同じ符丁として「時の過ぎゆくままに (As time goes by)」という曲も出てくるけれど、それは第三者も知ってる符丁であった。そういう意味で「君の瞳に乾杯」というセリフは、本当にふたりだけしかしらない言葉で、大事な意味があるという位置づけだった。
映画のタイトルになっているカサブランカというのは、北アフリカのモロッコにある都市の名前。恥ずかしながら、僕はそのことすらわかってなかった。
物語は第二次世界大戦中、ドイツがヨーロッパを征服している頃のお話。多くの人がヨーロッパからアメリカへ亡命しようとしているのだが、そのための中継地点として重要な拠点になっている。もちろん、ドイツ軍もバカじゃないので監視の目はあるし、当地の亡命ブローカーたちも難民の足元を見ている。よほどのカネかコネ、もしくはその両方がなければカサブランカから脱出することも難しい。
そんな状況のカサブランカで、とあるアメリカ人(ハンフリー・ボガート)が大きなカフェ・バーを経営している。彼はヨーロッパ各地での内戦に参加した過去もあり、スネにはちょっとした傷もある。表向きは健全な商売をやっているように見えるが、当地の裏社会や警察署長にも顔の利く顔役でもある。
タフでクールな男なのだけれど、情にもろいところもある。若い夫婦が亡命しようとしているのだが、カネもコネもない。夫は彼の店のルーレットで費用を捻出しようとするが負けが込んで破産寸前である。妻は、警察署長に体を許せばビザを発給してもらえると脅されている。それを知った彼は、ルーレットのディーラにイカサマを指示し、若い夫に勝たせてやったりする。
そこへワケアリの女(イングリッド・バーグマン)がやってくる。彼女の夫は地下組織の指導者で、ドイツから追われている。なんとかカサブランカに到着して、ここからアメリカに亡命しようとしているのだ。彼らは偶然にもアメリカ人のカフェ・バーを訪問する。
その女は、まさかそこがその男の店だとは思っていなかった。そして、それは気まずい再会だった。
アメリカ人の男とその女は、ドイツに占領される直前のパリで、ごく短期間ではあるが情熱的な恋人関係にあった。いよいよドイツ軍がやって来ることとなり、一緒にパリを脱出する約束をした。しかし、待ち合わせの場所に女は現れず、そのまま音信不通となった。男は失意と怒りにかられ、それ以後はどんな女性にも一切恋をすることはなくなってしまった。
さて、カサブランカで再会したふたり。
男は今でも女の裏切りが許せない。女は、自分たち夫婦の命を救うためには、その男の助けが必要である。
男は、女の夫に嫉妬しするし、女の裏切りは許せない。しかし、過去に深く愛した女を見捨てることもできない。彼ら夫婦を無残な目に遭わせることもできるし、夫を警察に売って女を自分のものにすることもできるだろうし、女の本当の幸せを願って夫婦揃って逃してやることもできる。
女の方も、自分が過去にしたことを思えば、無条件に助けてくれとも言えない。自分ひとりだけが生き残る誘惑もあったが、今の夫は自分の愛する人であり、また夫はヨーロッパをドイツから開放する尖兵でもあるので社会のために彼を救わなければならない。
双方、逡巡してがんじがらめになって、困ってしまうというお話だと理解しました。
なお、夫の方も、妻と男の間に何かあったなというのは勘づいたりして。いやはや。
結局、彼らがどういう結末を選ぶかということは書かないけど。
書かないけど、僕は終始ハンフリー・ボガートに感情移入して見てしまって、「おまえは俺だな」みたいな不遜なことも思ったりして、まあ納得の結末でした。かっこいいね。