近々デート(デート? デートなんですか?)する予定の女の子のプロフィールを某所で見てみると,好きな映画に「海の上のピアニスト」とあった.
話題づくりのために,海の上のピアニストをレンタルしてきて,予習を欠かさない僕.
こういうところはマメ.自分でも思うし,常識を備えた読者諸氏も思うところだろうが,このエネルギーをもっと別の方面に向ければよいのにとは思う.
まぁ,それはそれとして,心の平安のためにも,それは考えないことにしておく.
主人公 “Nineteen Hundred” は,1900年の生後まもなく,大西洋横断客船のパーティールームのピアノの上に捨てられていた.生みの親は,自分の子が上流階級に拾われることを願ったのだろう.しかし,その願いはかなわず,船の石炭係がパーティールームで「地見屋」(地べたにはいつくばって,落ちているお金を拾う人.現代なら,自販機のおつりが出てくるところに手を突っ込んで歩くとか)をしている時に拾われる.そのまま Nineteen Hunderd は船から一歩も降りることなく,30年近くの生涯を過ごす.
天涯孤独な彼であったが,彼には天から与えられたピアノの才能があった.
少年のころ,いたずらでピアノを弾いてみたことが,彼の才能を開花させた.
その後は,豪華客船でピアノを弾く仕事に就く.
彼は演奏がうまいだけではなく,即興曲の演奏がうまい.
客の顔を見渡し,その客の背景とか心の内面とかを想像し,それにあわせた曲を即興で作る.
例えば,中年女性と若い男のカップルを見つけると「若い愛人に夫を殺させ,宝石を奪って駆け落ちしたカップルの曲」とか,派手な化粧の女性を見ると「尼になろうとしている売春婦の曲」とか,巧みに弾き分ける.
彼の演奏の魅力は,そのテクニックもさることながら,彼の「妄想癖」に裏打ちされているのだ.
僕の観点から見れば,ストーリーの中における彼最大の妄想は,彼の「恋のスイッチ」が入るシーン.
船室で,彼の生涯で最初で最後のレコード録音を演奏していると,美しい女性が窓の外から室内を覗いている.その女性をじっと見据えながら,彼はその思いを曲の旋律に乗せていく.その曲は彼の最高傑作となる.そんなシーン.
しかし,それって,僕が”妄想”するに,彼の思い過ごしなんだなぁ.
彼女は,別に Nineteen Hundred に興味があったわけではないんだなぁ.
きっと,彼女は窓を鏡代わりにしただけで,窓に映る自分の姿を見ていただけなんだなぁ.
だって,外は晴天で室内はそれほど明るいわけではない.ということは,窓の外から室内の様子はあまり見えないはずで,窓は鏡のようになって外の様子を映すだけだと思うんだなぁ.
実際,その女性は,窓を見据えながらタオルで顔をぬぐってるし.あなたが女性で,もし「あら,素敵な男性.私,ちょっと,ウフ・・・だわ(ハート)」という気持ちになったら,無遠慮にタオルで顔をゴシゴシしますか? やるなら,髪の毛を整えるとかでしょ?
そしてその女性は,曲の途中で,何事もなく場所を移動して,遠くをボーっと眺めたりしてるし.
ありゃあ,脈はないね.
実際,その後に甲板で会っても,そっけない態度だったし.
Nineteen Hundred は「恋のから回り」(似たような番組があったな)ですわ.
まぁ,彼の気持ちは痛いほどよくわかるけれど.
いつか機会があったら書こうと思うけれど,僕にも「恋のスイッチ at ドア」っつー苦い経験もあるし.^^;
一般に,恋ってのは妄想から始まり,多くの場合は切ない片思いで終わるのだ.
さてさて,そんな妄想癖の持ち主の主人公であるが,僕が記憶している限り,彼が「将来への妄想」をしたシーンは,1箇所を除いて存在しない.
彼の妄想は,今の自分の気持ちとか,誰かの過去の経歴とか,知らない土地の姿とかで,「自分は将来こうなる」とかいう妄想はなかった.彼にとっては,船の中が唯一絶対の世界で,毎日が大西洋の横断のみ.それを超えた世界は,まったく想像できない様子だった.
彼の友人の Max が「お前もいつか女性と結婚して,家を構え,子供も生まれる.俺を家に招待してくれるだろう.俺はお土産を持っていくが,お前は『土産なんていらないのに』って言うだろうなぁ」と,将来の”妄想”を話しかけるシーンがある.そんなときも,Nineteen Hundred は微笑みながら聞いているだけで,得に自分のプランを差し挟むでもなかったし,それが実現するのかしないのかすら考えていない風だった.
彼は,将来に対する想像が一切できないのだ.
唯一,彼が将来の妄想をするのは,死の直前のシーン.
映画をご覧になった人なら,「あ,あのシーンかな?」と想像できるはず.
映画をご覧になっていない人には,ネタバレになるのでお話しません.
まだご覧になっていない人は,見る機会があった時に「そいや,木公があんなことを言っていたなぁ」と思いながら,そのシーンを探してみてください.
すでにご覧になっている方は,「木公が言っていることはホンマかいや?」と裏を取るために,もう一回見てみてはいかがかと.