『なめこインサマー』吉田戦車

吉田戦車がいろんな所に書いたイラスト付きエッセイをまとめたもの。
多くが1990年代初期に書かれたものだ。

1993年に『月刊アスキーコミック』に連載されていたらしい、「ニューボンボン」というタイトルの連載エッセイとかが収録されている。

よく考えれば今から15年前の話だ。今の高校生たちはまだ物心の付いていない時分だ。
ていうか、僕ですら記憶があいまいになりつつある時代のことだ。
吉田戦車が熱中しているゲームが「真・女神転生」だの「ウィザードリィV」だのと書かれている。そして、「ファイナルファンタジーV」がもうすぐ出るとか言われてる。僕にはもう、FFV がどんなストーリーだったのか、果たして自分でプレイしたのかどうかすら記憶に自信ががなくなってくる。
その他、サッカー日本代表の北澤を空港のトイレで見たとか、皇太子がもうすぐ結婚するとか、今となってはかなり懐かしい話のオンパレード。

しかし、意外とビックリなことも。


1993年に吉田戦車が新宿の花園神社に一緒に出かけた仲間の一人が、二ノ宮知子だと記されている。ご存知「のだめカンタービレ」の原作者の人だ。
恥ずかしながら、僕は「のだめ・・・」がドラマ化されるときに初めて二ノ宮知子という漫画家の存在を知ったのだが、なんと15年も前から吉田戦車のエッセイに登場するくらい、ちゃんと漫画家だったのだ。
これにはビックリした。

もうひとつ、ビックリというか、失笑したのが、吉田戦車が知人の結婚式に列席したという話だ。
花嫁が有名人で、吉田戦車とも知り合いだったそうだ。花嫁の姿も、彼特有のヘタウマなイラストで描かれている。

そう、その花嫁というのが伊藤理佐だ。
なんでビックリするかというと、結婚式の様子がこうしてエッセイに書かれた伊藤理佐は、その後離婚するからだ。
とはいえ、本書の中では吉田戦車自身の家庭(妻子あり)の様子がいろいろ書かれているにもかかわらず、彼も離婚しちゃうわけだが。
ていうか、ていうか、2007年に吉田戦車と伊藤理佐は再婚しちゃうわけだけど!
(この話は前にも書いた)

普通の人なら、なんとなく気まずくて出版時には削除してしまおうと思うところなのかもしれないけれど、敢えてシレッと載せてしまっているところが、なんとなくかっこいい。

その他、1993年頃のエッセイは、吉田戦車が売れ始めた時期で、ちょっと天狗になってる様子が痛々しく見て取れる。
本人もそのことに気づいて、文庫版あとがきで反省している。

マンガ家として、いわゆるブレイクしてイケイケだった頃の傲岸不遜な文章を、十数年を経て地味にしずしずと日々を過ごす今読ませられるのは、いったいなんの刑罰か。
(中略)
・・・よほど削除しようかと思いましたが、あの時代の空気のひとつの記録でもあるだろうし、なによりも自分への「ノコギリびきの刑」として残しておくことにしました。

吉田戦車は、自分の恥部の膿を全て出してしまって、次のステージへと進もうとしているのではないかと、勝手に考察してみたり。

当時「看護婦」と呼ばれていたものが今では「看護士」と呼ぶとか、「スチュワーデス」が「客室乗務員」になったなどの例を引き合いに出しながら、

この雑文集にでてくるものごとにも、注釈をつけておいたほうがいいかもしれない様々な変化がありました。

と述べている。

伊藤理佐のくだりで、後に結婚したことを注釈をつけたかったんだろうけど、照れくさくてやめたというのがホンネだろうな、と勝手に深読みしてみたり。

文庫版あとがきの最後は

・・・「ありがとう、昔のオレやその他いろいろ」と思えるのです。

で締めくくられている。
“その他いろいろ” に重要な意味を含ませているんだろうな、と勝手に解釈してみたり。

当blogも叩けばいろいろと赤っ恥系のホコリが出てくるわけですが、敢えて全部残しておくことを自分の誇りにしていたり。
そんなこんなで、この吉田戦車には勝手に共感してみたり。

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