『良い経済学 悪い経済学』(ポール・クルーグマン / 山岡洋一 訳)

ポール・クルーグマンが今年のノーベル経済学賞を受賞したということで、数年前に買ったきり読まずに放置されていた『良い経済学 悪い経済学』を読んだ。

本書を貫くメッセージはとてもわかりやすい。当方の言葉でまとめるなら
「”経済のグローバル化によって、激しい競争に巻き込まれ、多くの人が疲弊する” と世の人々は思い込んでいるけれど、それは誤り。」
ということ。
自由貿易を進めることで多くの人の暮らし向きは良くなるし(リカードの「比較優位理論」に基づく当たり前の結論)、発展途上国の安い労働力に職を奪われるという懸念も杞憂であり無視しうるほど小さい影響しかない(対GNP比で見れば、発展途上国からの輸入分は微々たるもの)というのが、クルーグマンの見解。




経済学の基礎を知っている人なら、至極あたりまえのことしか書いていないのだと思う。逆に、経済学の基礎を知らない(もしくは、知ろうとしない)人には、議論についていけなくてツラい本かもしれない。そんなわけで、売れない本だったんだろうなぁと思う(今は絶版みたいだし)。
当方のような、半可通な読者にしかアピールしない、微妙な1冊なのだろう。


まず、邦題がミスリードだと思う。書名だけ見ると経済学を広範囲に扱う本だと思ってしまう。しかし、実際に扱っているテーマは国際貿易のみであり、書名から内容を期待した読者は裏切られる(それが、数年前に本書を購入し、今まで当方が放置していた理由だ)。たとえば、需給曲線を期待して本を開いても、どこにも出てこない。

原題の”Pop Internationalism”を活かし、本文に出てくるように「俗流国際経済学(の罠)」とか、第1章のタイトルの「(国際)競争力という危険な幻想」とかを書名にすれば、本文との対応もバッチリで、正しい興味をもつ読者をひきつけることができたはずだ。
#それだと、販売に貢献したかどうかは知らん。

本書の構成は、国際競争力・信奉派(国際経済をゼロサムゲームだと思う一派)を批判するため、クルーグマンが書いた論文を13編収めたものとなっている。
正直に言えば、同じ話が何度も繰り返されるのでクドい。頭の良い人だったら、1章だけ読めば、それ以上読む必要はない。幸か不幸か、当方は頭の良い人間ではないので、念仏を唱えるように13回同じ話を読んで、やっと主張が理解できた。手を変え品を変え、同じテーマについて論じてくれるので、ある章でわからなかった話も、次の章を読むあたりで理解が深まったりした。少々の忍耐力を必要とするが、読み終わったときの「わかった感」は大きかった。


しかしまぁ、時間が惜しい、かつ、一流の経済学者(注)が依拠する国際貿易の理論を理解したいという人は、わかりやすそうな教科書(たとえば、マンキューとか)で「比較優位」さえ勉強すれば、それで十分である。

注)
ノーベル経済学賞がそもそもノーベルの遺言ではなく、スェーデン銀行の意向でできた賞だから格が低いとか、今年の経済学賞はアメリカの大統領選をにらんで反・共和党の急先鋒であるクルーグマンが選ばれたのであり、政治クサすぎるとか、いろいろ揶揄もありますが、まぁ、それはそれとしておきます。

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