フジ『北の国から』第20回

じゃがいもと玉ねぎとベーコンのスパゲティ(参考: 日清製粉のレシピ)をたまに思い出してはしんみりしてしまう当方が、BSフジ『北の国から』の第20回を見ましたよ。

* * *

UFOを観察すると言って凉子(原田美枝子)が螢(中嶋朋子)を連れ回し、山で遭難したことが新聞で報道された。口止めされていたにも関わらず、純(吉岡秀隆)が新聞記者にペラペラとしゃべってしまったせいだ。純はひどく落ち込んだ。五郎(田中邦衛)は純が傷つかないように、その話題には触れないようにしていた。純は五郎らの配慮に気付き、そのように気を使われている立場にいること自体にますます傷つくのだった。

寝室で螢が純に話しかけてきた。近頃、五郎が毎晩富良野に行っていることが気にかかるというのだ。ある日など、朝帰りした時にラベンダーの石鹸の匂いがしたという。それは家で使っているものとは明らかに違うものだったという。五郎に女友達ができたとみて間違いないと螢は言うのだ。純は、五郎は再婚について考えを巡らせた。そして、なにもラベンダーの石鹸の女などではなく、雪子(竹下景子)と結婚すればいいのにと思うのだった。
純は、五郎は雪子のことを好いていると予想していた。しかし、螢の考えは、雪子は草太(岩城滉一)のことを好きなのだから、五郎と結婚することはないというものだった。ふたりで話していても埒が明かないので、雪子の気持ちを確かめることにした。じゃんけんの結果、純が雪子から聞き出すことになった。

純が雪子から話を聞きだすと、雪子はここで一生を過ごす予定であり、結婚もこちらでするつもりでいることがわかった。ただし、相手は特に決まっていないといって言葉を濁した。純は黒板家でずっと暮らすことを提案した。その流れで、いっそのこと五郎と結婚すればいいと言った。雪子は口に出して否定はしなかったが、態度でそれを拒絶した。
そして雪子は、五郎が建築中の丸太小屋が完成したら家を出ると告げた。近くに部屋を借りて一人で住む予定だという。突然の告白に、純は驚いた。雪子はまだ五郎にも話していないという。しかし、五郎もそのつもりでいるらしいというのだ。なぜなら、五郎の作った丸太小屋の模型には雪子の個室がないからだ。指摘されて、純も模型にはベッドが3つしかないことを不思議に思っていたことを思い出した。

その晩、五郎はやはり夜遅くに帰ってきた。家に入る前、体の匂いを確認することを怠らなかった。
五郎はすぐに寝床に入ったが、ランプを付けて開高健の本を読み始めた。純は、五郎の雪子に対する気持ちを聞いてみたかった。しかし、なんとなくそれを聞ける雰囲気ではなかった。逆に、五郎に対して何か良くない感情が浮かんできた。漫画すら満足に読めない五郎が、急に活字ばかりの本を読み始めたことがなんだか気に入らないのだ。ランプを付ける油がもったいななどと、五郎に対して憎まれ口を叩くのだった。

次の日は日曜であった。仕事が休みの五郎は、一人で丸太小屋の建築現場へ出かけた。
その日は螢が昼食を作った。それを弁当箱に詰めて、螢が五郎に届けることにした。五郎を驚かせようとワクワクして出かけた螢であった。しかし、そばまで来てみると、五郎が螢の知らない女・こごみ(児島美ゆき)と楽しそうに弁当を食べているのを目撃してしまった。螢は踵を返して駆け出した。途中の川で弁当を廃棄し、何くわぬ顔で家に帰り、誰にも何も言わなかった。

その翌日、東京からテレビ局の職員が訪ねてきた。バラエティーショーの制作スタッフで、UFOを目撃した螢のことを取材したいというのだ。純は興奮した。そのバラエティーショーは全国放送で、令子(いしだあゆみ)もよく見ていたものだ。テレビに映れば、令子に元気な姿を見せてやれると期待したのだ。螢に出演するよう迫った。しかし、螢はひどく嫌がった。収録は翌日である。五郎は螢が一晩よく考えて、明日までに結論を出せばいいと言って、肯定も否定もしなかった。

純は螢の出演を強い口調で説得した。頭を小突いて脅すのだ。しかし、螢はテレビへの出演よりも、五郎のことを気にしていた。前日、五郎が知らない女と弁当を食べていたことを純に報告した。その時の五郎の様子がどんなに楽しそうだったかということを純に話すのだった。
深夜、螢は雪子の布団に潜り込んで相談した。雪子は、螢が嫌ならば止めるのが良いと助言した。螢はテレビに出たくないという思いと、令子に姿を見せてやりたいという思いの間のジレンマを打ち明けた。それから螢は話題を変えた。令子や五郎は近いうちに再婚するのだろうか、と雪子に聞くのだった。そして、急に雪子に抱きついて泣くのだった。雪子はわけが分からず困惑した。

翌日、螢はテレビのインタビューを受けることを承諾した。レポーターにマイクを向けられ、UFOを見た時の様子を事細かく説明した。その様子は、3日後の昼のバラエティーショーで放送された。中畑(地井武男)の家にみんなで集まって視聴した。螢はかわいらしく映っており、本人も出来栄えに満足した。
インタビュー映像が終わると、スタジオのコメンテーターたちが話し始めた。彼らの話は、涼子と螢を侮辱する内容だった。レポーターはふたりが遭難したことを口頭で説明し、担任教諭であった涼子に至っては取材拒否したと面白おかしく語った。コメンテーターは、教師がUFOなどという非科学的なことを教え子に信じさせるとは言語道断だと切り捨てた。それから、螢は催眠術のようなものにかけられ、妄想を真実のように語っているだけだと断じた。特に、螢のようにかわいい女の子は、周囲の注目を集めておくために、虚言を真実だと思い込んで吹聴する癖もあると言うのだった。
螢は悲しくなって部屋を飛び出した。純は悔しくて仕方なかった。令子も見ているかもしれない番組で、全国に向かって螢が侮辱されたことにひどい怒りを覚えた。

その晩、五郎は富良野には行かず、早くに帰宅した。中畑の豚舎から分けてもらった豚肉で、豪勢な鍋料理を食べた。みんなが明るく振る舞う中、螢だけは相変わらず落ち込んでいた。五郎は螢を慰めた。誰がなんと言おうと、螢は自分の見たものを信じればいいと諭した。五郎や純をはじめ、螢を知っている人々はみな螢のことを信じている。そういう人々がいるから何も心配することはないと言って励ますのだった。
それから五郎は、翌日はピクニックに行くという計画を発表した。五郎の見つけた秘密の場所があるので、そこに出かけるというのだ。富良野の知り合いに昼食の準備も頼んであるから、楽しい小旅行になると言うのだ。純はとても喜んだ。しかし、雪子は仕事があるので参加できないということだった。

翌8月5日の朝。雪子が仕事に出かけると、五郎は急に上機嫌になり始めた。未だかつて無かったほどに丁寧に身だしなみを整え、鼻歌などを歌っている。純と螢のことを上品ぶって君付けで呼んだりした。
8時過ぎに、こごみが家までやって来た。そしてピクニックに出発した。五郎は終始、こごみの手を引いて山道を登った。その様子は子どもから見ても仲睦まじかった。純は、こごみのことをまあまあ気に入った。五郎の再婚相手として悪くはないと評価した。しかし、螢は不機嫌な様子だった。
昼食は、こごみがスパゲティ・ボンゴレを作ってくれた。五郎はますます上機嫌になってそれを食べ、よくしゃべり、よく笑った。純にはその態度がとても軽薄なものに思えた。自分の父親として恥ずかしい姿だった。しかし、五郎がそれだけこごみのことを気に入っているという証拠でもあった。

螢は、食が進まなかった。こごみの作ったスパゲティを持て余し、魚の餌にするといって川に投げ入れ始めた。五郎は、スパゲティは人の食べ物であって、魚の餌ではないとたしなめる。しかし、螢はやめなかった。ついに、雪子は料理が上手で毎日おいしいものを作ってくれるなどと捨て台詞を吐き、ザリガニを探すといって早々に場を離れた。純もそれを追いかけた。純には螢の気持ちが想像できた。螢はこの場にはいない雪子のことを考えているのだろうと想像した。
帰り道に夕立にあった。周囲は晴れているのに、純たち一行のところだけを狙ったようないやらしい夕立だった。

8月7日になった。北海道ではこの日に七夕祭りをする風習がある。子供たちは空き缶で提灯を作り、それを持って家を回り、お菓子をもらう。日中、純と螢が準備をしていると、同級生の中畑すみえ(塩月徳子)が大慌てでやって来た。涼子の転勤先が決まり、本校ではなく遠い学校へ行くことになったのだという。遭難事件の責任を取らされたことは明らかだった。
涼子が寝泊まりしている分校の後者へ行ってみたがすでに無人で、きつく施錠されていた。純は自分の責任を重く感じた。

夜になって、純と螢は街の子供たちと一緒に七夕祭りに参加した。
ふと、街角に涼子が佇んで見物しているのを見つけた。純と螢、さらにすみえが駆け寄って話しかけた。しかし、涼子は列を離れるのは良くないと言って、子供たちを戻らせた。それでも純だけは涼子のところに留まり謝罪した。自分がUFOや遭難事件のことを第三者に漏らしてしまったことで騒ぎが大きくなったからだ。そのせいで全国の笑い者にされた螢は傷つき、涼子は転勤する羽目になってしまった。
それから純は、自分は螢や涼子のことを信じていると打ち明けた。そして、自分にもUFOを見せて欲しいと頼んだ。今度は絶対に秘密を守るし、涼子に迷惑もかけないと誓った。すると涼子は、翌日の15時に山の登山口に来るよう指示した。UFOは時間に関係なく、信じる人の所に必ず表れるというのだ。純は約束した。

その晩、運の悪いことに純は風邪を引いて熱が出て頭が痛んだ。翌朝には熱が引いたが、大事を取って午前中は薬を飲んで寝ていた。純は夢を見ていた。東京で仲の良かった女の子・恵子(永浜三千子)がスパゲティ・ボンゴレを食べさせようと純と螢を追いかける夢だった。奇妙な夢だったが、純には楽しい夢だった。
雷鳴を聞いて目を覚ますと、15時20分だった。純は完全に寝坊してしまった。螢が止めるのも聞かず、走って待ち合わせ場所に向かった。

約束の登山口に着いたのは16時近かった。約束の1時間後だ。すでに涼子の姿はなかった。
涼子は怒って一人でUFOに会いに行ったと予想された。純は後を追うように、山の中へ入っていった。途中で激しい雨がふりだした。それにも構わず純は山を進んだ。
するとどこかから、涼子が「365歩のマーチ」を歌っている声が聞こえてきた。そちらに進んでみると、雨に濡れるのにも構わず、涼子が木の上に登っていた。上空には巨大な葉巻型宇宙船が滞空しており、涼子に向かって一筋の光を伸ばした。純は、涼子がその光に吸い込まれるように消えていくのを確かに見た。

純はその後の記憶が曖昧になった。どうやって家に帰ってきたのかすら覚えていなかった。家の者に言わせると、嵐の中をびしょ濡れで幽霊のように帰ってきたのだという。その日の晩からひどい熱を出し、5日間起き上がることができなかった。
ようやく元気を取り戻したのは、UFOと涼子を見てから1週間後だった。分校の様子を見に行くと、扉や窓には板が打ち付けられていて、完全な廃校となっていた。学校の後片付けをしていたおじさんに話を聞くと、涼子はちょうど1週間前の嵐の日に転勤して出て行ったのだという。
純は、涼子は宇宙船に乗ってどこかへ去ったのだと確信した。人に話しても誰も信じない話だろう。しかし、純はそれを実際に見たし、信じる。ただし、誰にも話さないことを決めた。

8月の半ばなのに、その日から急に涼しくなった。もう秋風が吹き出した。

そして、富良野の夜の街ではひとつの噂が流れ始めた。
以前に富良野の農協のスーパーで働いていた女が、札幌すすきののソープランドで働いているのだという。会った男によると、互いに名前は知らないが見知った顔であり、双方驚いて顔を見合わせてしまったというのだ。本名は依然として知れないが、源氏名は「雪子」であったという。
駒草で飲んでいた五郎は、そばで話している男たちの話を耳にした。

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フジ『北の国から』第19回

「一日3本は胃にもたれるぜ、だけどそこまで頑張ってもあと1日分(昨日放送分)の録画が残っていてゲンナリしてしまうぜ」とひとりごちている当方が、BSフジ『北の国から』の第19回を見ましたよ。

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筏下りの晩。涼子先生(原田美枝子)と一緒にUFOを見に行った螢(中嶋朋子)は、21時を過ぎても帰って来なかった。純(吉岡秀隆)は螢たちの行き先を知っていたが黙っていた。なぜなら、純は宇宙人が涼子に化けていると信じており、その秘密を漏らすと危険だと思ったからだ。しかし、螢が帰ってこないことも心配になったので、純は五郎(田中邦衛)に手がかりを教えた。ベベルイの山奥に行ったはずだと知らせた。五郎はすぐに探しに出かけた。

ところが、螢はなかなか見つからず、23時になっても五郎も帰って来なかった。初めは螢の身を案じていた純だが、だんだん螢に腹を立ててきた。純が行くべきではないと忠告したのにそれを無視して出かけた上、みんなに心配をかけている螢が許せなくなってきたのだ。

いつの間にか眠りに落ちていた純は、玄関の物音で目を覚ました。どうやら螢が見つかったらしい。しかし、中畑(地井武男)やクマ(南雲佑介/現・南雲勇助)たちに捜索を手伝ってもらっただけではなく、警察官も1名出動するまでの騒ぎになっていたようだ。中畑はみんなに今夜のことは黙っているようにと口止めした。警官にもそう伝えたなどと言っている。
五郎は純を呼んで、純にも口外しないよう注意した。今夜のことが公になると、涼子の責任が問われる。涼子は東京でスキャンダルを起こしたこともあり、ただでさえ彼女に批判的な風潮がある。その火に油を注がぬよう、絶対に人に喋ってはいけないと言われた。

寝室でふたりっきりになると、螢は純に心配をかけたことを謝った。しかし、殊勝だったのは初めだけで、すぐに自分が見てきたものを得意げに話し始めた。螢は巨大な葉巻型の母船を見たのだという。涼子が母船に向かって話しかけると、それに答えるように母船から空飛ぶ円盤が飛び出したという。涼子に促されて螢も交信を行うと、母船は同じように答えてくれたのだという。螢は興奮して話した。
純は螢の話を冷ややかな態度で聞いた。一切を信じず、以前に自分が見たUFOも目の錯覚だったと訂正した。そして、UFOを見たなどというと人から馬鹿にされるから、誰にも喋るなと命じた。螢は布団の中で泣き出してしまったが、純は放っておいた。
純は口で言うほどには、UFOを信じていないわけではない。ただ、螢がみんなに迷惑をかけたことをもう忘れ、得意げに話している姿に嫉妬してきつく言ってしまったのだ。

翌日、一家は新しい丸太小屋の建設予定地を見に行った。
純とふたりっきりになった隙に、五郎は螢のことで純をたしなめた。螢は純が信じてくれないと言ってショックを受けているという。螢が純に嘘をつく理由など無いのだから、彼女は見てきたものを正直に話しているはずだという。どうして螢を信じないのだとしかるのだった。
純は頭にきた。五郎がいつも螢の味方ばかりするからだ。

7月28-29日は富良野市街で北海へそ祭りが開催される。五郎は、中畑らと一緒に見物に行こうと言って張り切っていた。そこへ、草太(岩城滉一)が雪子と純に会いに来た。その日の晩、富良野のボクシングジムで草太が新聞の取材を受けるのだという。札幌で行われる草太のボクシングのデビュー戦についての取材だという。自分のいいところを雪子らに見せようと思って誘いに来たのだ。雪子たちは、へそ祭りの前に立ち寄ることを約束した。

しかし、取材は散々な結果に終わった。草太の記事のはずなのに、ジムの会長・成田(ガッツ石松)が一人でインタビューに答えたり、スパーリングで草太を叩きのめしてしまったのだ。雪子や五郎らは見ていられなくなって、へそ祭りの踊りの見物に行ってしまった。純だけはジムに残ってもう少し見学することにした。草太は自分が蔑ろにされていることについて文句を言った。すると今度は成田が怒りだして、ジムはますます混乱した。記者がふたりをとりなす間、カメラマンは退屈になって雑誌を読み始めた。
純は、カメラマンの見ている記事がUFOに関する記事であることに気づいた。純はそのカメラマンに軽い気持ちでUFOが実在すると思うか聞いてみた。するとカメラマンからは肯定的な答えが返ってきた。それを嬉しく思った純は、螢がUFOを見てきたことを話してしまった。純は自分のおしゃべりな性格を自覚しているが、一度話し始めると留めることができなかった。涼子が引率して迷子になったことまで含めて、昨夜の出来事を包み隠さず全て話してしまった。五郎は純のおしゃべりな性格ととても嫌っている。それだけで気が重いのに、何かとても悪いことが起きそうな予感がした。

へそ祭りを見物していた五郎は、踊りのグループの中にこごみ(児島美ゆき)がいるのを見つけた。五郎は我知らず、彼女の姿に見とれてしまった。五郎は街に用事があると言って、中畑に子供たちを家まで送り届けることを頼んだ。
街に残った五郎は、こごみの務めるスナック駒草を訪れた。

筏で一緒になった縁で、スナックのママ(羽島靖子)は五郎の来店をとても喜んだ。五郎と中畑が親友同士だと知ると、ママは中畑の話を始めた。中畑は冬によく来ていたが、最近はあまり来ないという。五郎に、中畑の下の子どもはどうしているかと尋ねるのだった。生まれつき腎臓が悪くて札幌の病院に入院しているという話だった。五郎には何のことだかわからなかった。

そこへ、こごみが五郎の横に座った。五郎が来たことを喜び、前触れもなく抱きついて頬にキスをした。
こごみも中畑の話を始めた。こごみは中畑のことを「悲劇さん」と呼んでいるらしい。いつも悲しい話ばかりするからだという。両親とは生き別れで行方が知れないし、子どもは重い病気で入院している。実の妹は身を持ち崩して札幌のソープランドで働いていると言うそうだ。ところが、こごみはそれらが全てホラであると見抜いていた。自分を悲劇の主人公にすることで女にもてる作戦なのだという。ただ、中畑の語り口が真に迫っているのでママはコロッと騙されているし、こごみも嘘だと知っていながらもらい泣きをしてしまったこともあるという。

さらに、こごみは中畑が語った妻の話も紹介した。中畑が東京にいた頃、妻はよそに男を作って出て行ってしまったという。2人の子どもを押し付けられ、中畑は富良野に帰ってきたと言ったそうだ。そして、前妻の妹が中畑を慕って追いかけてきて、その女性と再婚したのだという。五郎はそれがそっくり自分の話だと気づいた。五郎は、前妻の職業は美容師だったと指摘した。こごみは、中畑から同じ事を聞かされていた。中畑と五郎の話が一致したため、こごみは妻に関する話だけは本当だと信じてしまった。
その世、五郎は泥酔して中畑の家へ行った。深夜にもかかわらず玄関を激しく叩き、一家をたたき起こした。中畑の妻(清水まゆみ)がいるのも構わず、駒草で聞いてきた話をひと通り中畑にしゃべって聞かせるのだった。中畑は、慌てて五郎を追い払った。

それから2日ほどして、小学校の本校から2人の教師が螢を訪ねてきた。螢は涼子とUFOを見に行った日のことを詳しく聞かれたのだという。初めは黙っているつもりだったけれど、教師たちが真相を全て知っていることがわかったので、ごまかすことをやめて正直に答えたのだという。教師たちは、涼子は困った教師だなどと言い合いながら話を聞いていたという。
純は、自分が新聞記者にしゃべったことが広まっていることを悟った。UFOが実在するかどうかよりも、涼子が螢を連れて道に迷ったことが大きな問題になっていることを知った。五郎が口止めした理由が実感としてわかった。

その日帰ってきた五郎はとても暗い顔をしていた。螢や雪子が声をかけても上の空だった。純は辛くなった。五郎が自分に絶望したこと以外、彼の不機嫌の理由がわからなかったからだ。夕食の席で、純は五郎に謝った。涼子のことを新聞記者にしゃべったことを正直に打ち明けた。ところが、五郎はしゃべってしまったことは仕方ないと言うに留まった。そして、食事を切り上げ、表に出て丸太小屋の材料作りを始めた。

雪子が表に出て、五郎をとりなした。純は深く反省しているのでこれ以上怒らないで欲しいと頼み込んだ。
しかし、五郎は別の理由でふさぎこんでいると説明した。五郎は今日届いたという封書を雪子に差し出した。そこには、受理された離婚届のコピーが1枚入っているだけだった。五郎と令子(いしだあゆみ)の離婚が正式に成立したのだ。雪子とも書類上の親戚関係が途切れてしまったのだ。
五郎はそのまま街まで飲みに出かけた。

行き先は駒草だった。ふさぎこんでいる五郎を見て、こごみは明るい口調で奥さんとケンカをして逃げられたのだろうとからかった。五郎は雪子にしたのと同じように、封書をこごみに提示した。中身を見たこごみは言葉を失い、先ほどの軽口を謝った。五郎は気にしなかった。その代わり、中畑の妻の作り話は全て自分のことだと種明かしをした。ただし、妹のことだけはでたらめであると訂正した。

五郎は、こごみに問われるまま、令子との馴れ初めを話して聞かせた。キレイな女性であったこと、別れて寂しい思いをしていること、東京で互いの勤務先が隣同士だったことなどを話した。ある日、令子が五郎を彼女のアパートに招待してくれた。そこで令子はスパゲティ・バジリコを作ってくれた。それまでの五郎の人生では見たことも聞いたこともなかった食べ物だった。五郎は味よりも先に、ハイカラな名称や見た目に感動したと話した。五郎と似たような境遇で生まれ育ったこごみは、その話に共感した。

あまりにふたりが暗い雰囲気なので、ママがカラオケでも歌えを薦めてきた。そこでふたりは「銀座の恋の物語」をデュエットすることにした。マイクを向けられると、五郎はポツリポツリと付き合って歌った。
歌いながら五郎は、令子との結婚披露宴のことを思い出していた。その時も同じ歌を歌ったのだ。列席者から祝福され、五郎と令子も幸せの絶頂だった。その記憶が蘇り、五郎はつい目をうるませてしまった。その様子を見てこごみももらい泣きした。

こごみは五郎を部屋に誘った。スパゲティ・バジリコを作ることを約束した。
こごみの部屋には本がたくさんあった。読書が趣味なのだという。最近は開高健高中正義に凝っているのだという。五郎が高中正義という作家は知らないと答えると、こごみは笑った。高中正義はギタリストなのだ。最近読んだ本は何かと聞かれた五郎は、『じゃりン子チエ』だと答えた。その様子をかわいらしく思ったこごみは、「大好き」と言って五郎に抱きついた。男と女になった。明け方、五郎はそっと家路についた。

家に帰ると、雪子と螢がほぼ寝ないで待っていた。五郎は螢の出迎えを受け、彼女を抱きしめた。すると螢は、五郎の体からラベンダーの匂いがすると指摘した。

そして、その日の朝刊に草太の取材記事が載った。しかし、その扱いはとても小さかった。その代わり、涼子のことが大きく報じられていた。

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フジ『北の国から』第18回

昨夜は朝までカラオケ大会だたのだが、山瀬まみの歌を唄おうと思っても「メロンのためいき」、「スターライト・セレナーデ」、「ホワッツマイケルNo.1」、「ゴォ!」しか収録されておらず、「なんで『可愛いいひとよ』が無いんだよ!」とプリプリしつつも、アラサー女子に請われ♪ニャオニャオ♪などと「ホワッツマイケルNo.1」を歌ってしまった当方が、BSフジ『北の国から』の第18回を見ましたよ。

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空知川筏下りの2日前。大人たちはまるで子どものように筏造りに熱中していた。
五郎(田中邦衛)は吉本辰巳(塔崎健二)と組んで筏を造っていた。しかし、ふたりは筏の安全性よりも目立つことばかりを気にしていた。筏の真ん中に大きな旗を立てることを第一の目標にした。そんな様子を見ていた純(吉岡秀隆)と螢(中嶋朋子)は、五郎の筏に乗る気が失せた。中畑(地井武男)たちの作る、大きくて頑丈そうな筏に乗せてもらうよう頼んだ。中畑の筏に、雪子(竹下景子)らと共に乗り込むことが決まった。

本番前日の朝。
五郎はいじけた。誰も五郎の筏に乗ろうとしないからだ。雪子は大勢が乗るには中畑の筏のほうが適しているなどともっともらしい理屈を述べたが、五郎は納得しなかった。五郎の作る筏は危険だと思って乗らないことを見抜いていたのだ。雰囲気にのまれた螢は、五郎の筏に乗り換えると申し出た。しかし、完全にへそを曲げてしまった五郎はそれを断った。

草太(岩城滉一)は自分の筏の最終調整を行なっていた。彼の筏は水すましのような長い足の先に浮き輪を接続した、独特のデザインのものだった。全体に細身の造りで、バイクのようなタンデムシートの付いた二人乗りのものである。去年はつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)を乗せて出場したが、今年は一人で乗るつもりである。本当は雪子を乗せたいのだが、自分から誘うのは男がすたると思っているのだ。
草太の母・正子(今井和子)は、雪子のせいで草太が不機嫌であることを分かっていた。牧場の牛を増やす予定で人出が足りなくなる、そこで清吉(大滝秀治)と相談して雪子を再雇用したいなどと相談を持ちかけた。しかし、草太は両親がつららに肩入れして雪子を追い出したことを知っており、その申し入れを冷たくあしらうのだった。

その日の夜、凉子(原田美枝子)は分校にいた。分校は廃止になるが、涼子の転任先はまだ決まっていないのだ。決まるまでの間、今までどおりに分校の宿舎に寝泊まりしているのだ。そこへ五郎が訪ねてきた。純と螢が中畑の筏に乗るので、涼子も一緒に乗ってやって欲しいと頼むのだった。

そして、7月26日。空知川筏下り大会の開催日となった。
出発前、草太は中畑の筏の周りをウロウロした。何かと中畑の筏にケチを付けるのだ。子どもである純の目から見ても、いまだに草太が雪子を誘いたがっていることは明らかだった。しかも、見栄を張ってそれをしないでいることまで純にはお見通しだった。

いよいよ川下りが始まった。およそ8km先のゴールに向かう。スタートしてすぐに流れの急なところがあり、そこで衝突したり沈没したりする筏も少なくなかった。草太、中畑、五郎の3艘の筏は無事にそこを乗り越えた。難所を過ぎると川の流れはぐっと穏やかになり、のんびりとした道中となった。ただし、いつしかそれぞれの筏は離れ離れになった。

途中で、草太の筏は浮き輪にしていたタイヤチューブがパンクして動けなくなりリタイアした。

五郎と辰巳を乗せた筏は、スナック若駒の従業員たちの筏と並走していた。若駒の筏にはラジカセが載せられ、軽妙な音楽が大きな音で鳴らされていた。
筏の上では、こごみ(児島美ゆき)がくし切りにしたメロンにかぶりついていた。五郎は、彼女の若い肉体と、果汁で濡れた唇に目を奪われた。五郎と目が合うと、こごみはメロンを一切れ投げてよこした。お礼に、五郎は水に浸けて冷やしていた缶コーヒーを返した。言葉を交わしたわけではないが、親密な雰囲気に包まれた。
その直後、にわかに迫ってきた急流に飲み込まれ、五郎と辰巳は川に投げ出されてしまった。辰巳は岸に泳ぎ着けたが、五郎はいくらか流されてしまった。川から救い上げてくれたのは、駒草の筏だった。五郎はそれに乗ってゴールを目指すことになった。

五郎とこごみは、初めて口を利いた。ふたりとも富良野のあたりで生まれ、一時東京で暮らし、その後帰ってきたという共通点があった。しかも、東京での暮らしぶりを付きあわせてみると、五郎が務めていたガソリンスタンドとこごみが住んでいた下宿が目と鼻の先であったことがわかった。さらに、富良野に帰ってきたのが前年の10月頃だという点まで一致していた。ふたりは意気投合し、急に距離が縮まった。

純らを乗せた中畑の筏は順調だった。
純が川岸に視線を向けると、草むらの中につららがいるのを見つけた。大急ぎで雪子に報せ、雪子もつららの姿を認めた。一方のつららは、自分が見つかったと知るやいなや、草むらの奥に姿を消してしまった。
筏がゴールに着くやいなや、雪子は応援に来ていたつららの母・友子(今野照子)を捕まえ、つららが富良野に来ていることを報告した。友子と兄の辰巳、そして雪子は急いで家の様子を見に帰った。つららの姿はなかったが、彼女の置き手紙が残されていた。それはとても短いもので、元気だから心配はいらないと書かれているのみだった。つららは汽車で帰ると予想できたので、辰巳と雪子は駅に探しに行くことにした。

五郎や雪子とはぐれてしまった純と螢は、涼子先生と一緒に帰路についた。
涼子はUFOのことを話し始めた。涼子と宇宙人との関係に不審なものを感じる(第15回参照)純は涼子の話を警戒して聞き、螢にも目配せやジェスチャーで深入りしないように伝えた。しかし、螢は涼子の話に興味津々だった。涼子によれば、今夜あたりUFOが飛来しそうな予感がするという。少し離れた山に来るはずだから、そこへ案内すると提案した。純は断ったが、螢は一緒に行くことを決めた。

五郎の帰宅は少し遅れた。純は、川でつららを見たことを五郎に知らせた。さらに、置き手紙があり、雪子は辰巳と共に駅に行ったと報告した。すると、五郎もすぐに後を追うことにした。
螢は五郎に今夜のUFO観察の許可を求めた。慌てていた五郎は、螢の話をよく聞かずに許可を出してしまった。

駅に着いた辰巳、雪子、五郎は手分けをして駅の中を探した。しかし、つららの姿は見つからなかった。次の汽車までは時間があるので、一時駅を出て待つことにした。すると、草太が少し離れたところから駅の様子を見守っているのを発見した。辰巳からの連絡を受け、彼も駅に探しに来たのだ。ところが草太は、自分の姿が見つかったことに気づくと、逃げるように喫茶店へ入ってしまった。それを、五郎と雪子だけが追いかけた。

草太はずっとふてくされていた。そして、雪子を非難しはじめた。つららは雪子と顔を合わせたくないはずだから、雪子が駅にいては汽車に乗ろうにも乗れないと言うのだ。大卒のくせに人の気持がわからない女だとなじり、今夜は帰れと命じるのだった。雪子は反省し、彼の言葉に従うことにした。
しかし、横で聞いていた五郎は怒りを顕にした。元々は草太の無責任な態度が引き起こした騒動であるのに、草太が雪子に責任転嫁をしているように聞こえるからだ。草太は全ての非が自分にあることを認めた。それを認めた上で、混乱している苦しい心情を吐露した。自分はバカで単純な男だから、2つ以上のことは考えられないのだと言う。だから、つららか雪子かのいずれか一人のことしか考えられない。前年の秋に雪子が来てからというもの、毎日雪子のことだけしか考えていなかった。せめて今日だけは、雪子のことを頭から追い出して、つららのことだけを考えたいというのだ。

草太は、前年の筏下りの思い出話を話しだした。泳げないから嫌だというつららを説き伏せて、自分の筏に乗せたのだ。急流に差し掛かると怯え、泣きながら草太に抱きついたのだという。
そんな話を聞いて、五郎と雪子は家に帰ることにした。雪子は元気をなくしていた。帰りの車の中で、草太は素敵だ、と一言だけ五郎に漏らした。

草太と辰巳は駅でずっと待っていた。しかし、結局つららは見つからなかった。

そして、同時にもう一つの騒動が持ち上がりつつあった。UFOを見に行った螢と涼子が、21時を過ぎても一向に帰ってこないのだ。

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フジ『北の国から』第17回

昨夜は、過去に某水族館でイルカのトレーナーをしていたという珍しい経歴を持っている女の子(上玉)と食事をし、互いにテレビを見るのが好きだという点で大いに趣味が一致したのだが、『最高の離婚』を除いて見ている番組がひとつも合致せずにしょんぼりした当方が、BSフジ『北の国から』の第17回を見ましたよ。

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夏になった。五郎(田中邦衛)は夏の間に丸太小屋を完成させると張り切っていたが、作業は難航していた。丸太のかみ合わせ部分の細工が思っていた以上に難しく、コツがつかめないでいた。
そんなある日、雪子(竹下景子)が東京から戻って来た。純(吉岡秀隆)と螢(中嶋朋子)はとても喜んだ。

雪子は、五郎にだけ令子(いしだあゆみ)の様子を包み隠さず報告した。2週間前に退院し、今は自宅から通院している。職場の美容室にはたまに顔を出す程度で、本格復帰はしていない。
そして、令子は友人でもある弁護士・本田(宮本信子)を伴って富良野に来ているのだという。この期に、五郎との離婚の手続きを全て片付けてしまう目論見でいるという。雪子は予告していなかったことを詫びつつ、今夕彼女らの宿泊しているホテルで面会して欲しいと頼んだ。

五郎は、一人で約束のホテルのレストランに向かった。そこでは本田が一人で待っていた。令子が席を外している間に、事務的な話をふたりでまとめたいと言うのだ。五郎は応じた。
離婚についての令子側の条件は以下のとおりだった。令子はふたりの子の親権は放棄する。その代わり、令子側からの慰謝料の支払いはない。また、夫婦の財産であるアパートと乗用車の名義は五郎から令子へ移し替えることとする。五郎は特に異を唱えることもなく納得した。令子の署名が書かれた離婚届を受け取り、五郎は証人と共に署名することに同意した。

協議が終わると、令子が現れた。令子らは今夜と明日の2泊するという。令子は、子供たちと最後の別れをしたいと頼んだ。五郎はそれにも応じることにした。
一人で家に帰った五郎は、改まって純と螢に話を始めた。令子と正式に離婚することになったこと、両親の身勝手で子供たちに迷惑をかけたことを謝罪した。子供たちは五郎の下で暮らすことに決まったと告げる一方、子供たちが異議を申し立てるチャンスを与えた。ふたりは大人だから自分で判断しろ、どのような結論になろうと自分は口を挟まないと約束した。子供たちは即答を避けた。
そして、翌日は令子と面会することが決まったと告げた。五郎は外すので、母と3人でゆっくりしてこいと言うのだった。

翌日、純と螢は学校を早退した。五郎はふたりをホテルまで送り届けると、令子に会わずにそのまま去った。親子水入らずだと思っていたのに、本田もついてくることが分かってがっかりした。4人で花畑へ出かけた。ちょうどラベンダーが満開の時期だった。令子はとても楽しそうにしていた。
純の心は少しも晴れなかった。今日を限りに母と縁が切れ、別の苗字になると思うと気が滅入った。一方で、純は密かに決意を固めていた。もし令子が一緒に行こうと言ってくれたら、何の未練もなく母に付いて行くつもりだった。しかし、結局、そのようなことは一言も令子の口からは発せられなかった。
螢は不機嫌な様子を隠そうともしなかった。令子に話しかけても一切口を利かなかったし、手を繋がれても振りほどいて逃げるほどだった。純はこっそりと螢の冷たさを叱った。けれども彼女は全く態度を改めなかった。ついには、予定よりも早く家に帰りたがった。仕方なく、純もそれに従って帰宅した。

その日の夜、五郎は中畑(地井武男)に離婚証人の署名をしてもらった。すると、中畑の家に五郎宛の電話がかかってきた。令子が急に体調を崩し、富良野の病院に運ばれたというのだ。五郎は即座に病院へ駆けつけた。医師の診察によれば、令子は大きな病院で精密検査を受けるべきだという。病状が回復して退院したとは言っているが、医師には病状が良くなっているようには見えないのだという。
病室に入った五郎は、帰京の予定を延期してゆっくり休んでいくことを提案した。しかし、令子は翌日に帰るといって聞かなかった。そればかりか、明日は汽車に乗る前に、黒板家の墓参りに行きたいと言い出した。体調を考慮して思いとどまらせようとするが、令子に子どもと一緒にいれて楽しかったと嬉しそうに言われると、令子の願いを無碍にできなくなってしまった。

翌朝。螢はどうしても同行しようとしなかった。熱が出て具合が悪いと言いはって、毛布をかぶったまま寝床から出てこない。純や五郎は、令子の気持ちを考えろと言って叱るが、螢は言うことを聞かなかった。腹を立てた五郎は、自分が帰ってきたら病院に連れて行くからずっと寝ていろと命じ、怒りながら出かけていった。

墓は村のはずれにあった。純は去年の秋に越してきて以来、2度めの墓参りだった。墓地では雪子が気を利かせて純を引き止め、五郎と令子にふたりだけの時間を作った。
五郎は、螢は熱を出し、自分が家で寝ているよう命じたと弁解した。令子は、螢を悪者にしないための五郎の優しい嘘だとすぐに見抜いた。続いて五郎は、令子に別の病院ですぐにしっかりと検査してもらうよう言った。令子が元気であることが子どものためであると強調した。そして、体のことに関しては、恋人への義理立て(通院している病院は、令子の恋人の縁故)よりもよほど重要なことだと説くのだった。令子は、その場では素直に承諾した。
最後に五郎は、令子が子供たちに会いたくなったらいつでも応じる気持ちでいると伝えた。さらに、自分の方から相談を持ちかけることもあるだろうと予告した。離婚しても、子供たちは永久にふたりの問題だと言うのだ。

その後、駅で令子を見送った。令子は純の手を握り、螢のことをしっかり頼むと言うのだった。純は目で答えた。
時刻通りに汽車は出発した。令子は沈痛は気分で車窓を眺めていた。駅を出てすぐに、空知川の美しい景色が見えた。するとその岸辺に螢の姿が見えた。令子は窓から身を乗り出し、大きく手を振って螢の名を叫んだ。螢は目に涙を浮かべ、全速力で汽車を追いかけた。

五郎と純は、家に帰ると即座に丸太小屋建築の作業を始めた。するとそこへ螢が帰ってきた。五郎は低い声で、螢が勝手に家を留守にしていたことを咎めた。螢はそれには答えず、寝室で毛布に包まってさめざめと泣いた。五郎は作業の手を休めることはなかった。

その日の夜、草太(岩城滉一)が家へやって来た。7月26日に行われる空知川筏下り大会への出場を誘いに来たのだ。玄関から声をかけるが、寝室の螢は返事をしなかった。代わりに、雪子が答えた。草太は、彼女が麓郷に戻ってきたことを知らなかった。突然の再会に驚き、草太は慌てて家を飛び出してしまった。
草太は、表に飛び出したところで五郎の姿を見つけた。どうして雪子のことを教えてくれなかったのかと食って掛かった。五郎にすれば、草太は雪子のことを諦めたと思っていた(第15回)ので何も言わなかったのだ。草太は雪子のことを諦めたわけではないと言い始めた。雪子への気持ちは変わらないでいるが、彼女が何も言わずに帰京したことについて自分がコケにされたと思っているのだ。草太は男の意地や見栄に関わるので、いきなり態度を軟化させるわけにはいかないのだ等という理屈を述べた。

ここに来て、五郎は草太が来訪した理由を訪ねた。草太は、螢が沈み込んでいてかわいそうに思ったので、筏下り大会に誘って元気づけてやろうと思ったと訳を話した。その日の昼、草太は螢に頼まれて、彼女を汽車が見えるところまで連れて行ってやったのだ。そこで螢と令子が川越しに最後の別れをした一部始終を話して聞かせた。螢は泣き続け、自分たちよりも五郎が一番かわいそうだと言っていたなどと報告した。そこまで話して、草太は自分が口止めされていたことを思い出した。しかし、後の祭りだった。
けれども、五郎は螢の気持ちをその時はっきりと知ったのだ。

草太と別れて家に戻ると、純は母を思い出し半べそをかいていた。螢がどうしているか尋ねると、すでに眠ってしまったと不機嫌に答えた。五郎は純に静かに話した。人はみな悲しい思いをするが、その表し方は人それぞれである。泣く人もいれば、涙を決して見せない人もいる。螢も同じで、もしかしたら自分たちよりもずっと辛い思いをしているのかもしれない。その気持ちを送りにいかないという行動で表現したのかもしれない。そう純に言い聞かせるのだった。
その時、螢は令子と一緒に行った花畑で積んできたラベンダーを抱えて寝ていた。顔は涙で濡れていた。

次の日曜日、純と螢の通う分校の廃校式が行われた。2学期から、彼らは市街にある本校へ通うことになる。廃校式には在校生とその父兄だけではなく、卒業生も参列した。五郎や中畑も卒業生として参列した。しかし、多くの卒業生は札幌や東京などに出て行ってしまっており、全体の3分の1ほどしか集まらなかったということだ。

夏休みに入り、すぐに空知川筏下り大会だ。数日前から、人々は張り切って筏の準備を始めた。純と螢は、中畑木材の作る筏に乗せてもらう予定となった。

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