NHK『あまちゃん』第12回

昨夜、不意に過去の自分の大失態を思い出してしまい、The 虎舞竜の『ロード』(作詞作曲・高橋ジョージ; 歌詞)をもじって、「ちょうど10年前に新幹線に乗った夜。昨日のことのように今はっきりと思い出す。週末のせいで指定席は満席さ。どこまでも続く黒いオヤジ頭が汚くて。サイドシートの君はまるでマグマのように、無表情のまま毒リンゴの魔女。ニヤニヤ話した俺を恨めしそうに睨んで、俺の言葉を繰り返し『なにそれ、信じられない・・・』と言った。何でもないような事(だと俺が思い違いしたこと)が最悪だったと思う。とんでもない夜の事、二度とは戻れない夜」などとヤケクソ気味に歌っていた当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第12回目の放送を見ましたよ。

* * *

第2週「おら、東京さ帰りたくねぇ」
楽しかった夏休みも今日で終わりだ。明日の朝、アキ(能年玲奈)は東京に帰らねばならない。アキはそのことを納得していた。抗うことなく、定められた運命を受け入れていた。漁協でみんなに別れを告げた。来年の夏休みに再び来ると約束した。

しかし、海女たち(渡辺えり木野花美保純片桐はいり)は仕事の手を休めず、アキの話も聞き流すような態度だった。それどころか、自分たちは高齢だから、来年は仕事を辞めているかもしれないなどと冷たいことを言う始末だった。

短期間だが東京で働いていたヒロシ(小池徹平)は、アキにカレーショップの無料券をくれた。漁協長・長内(でんでん)は、海女たちの言ってることは本心ではない、来年も仕事をしているはずだから心配するなと言う。

夏(宮本信子)は剥いたばかりのウニの身を手ずからアキに食べさせ、「忘れるな」と一言告げるだけだった。

結局、アキを引き止めたり、名残を惜しんでくれる者は一人もいなかった。

しかしそれは、みんなの本意ではなかった。みんなは喫茶・リアスに集まり、こっそりと相談していた。アキは24年ぶりの若い新人海女だ。それが観光業に与える良い影響を考えると、彼女を手放したくなかった。

海女たちは、駅長・大向(杉本哲太)の春子に対する恋心も焚きつけた。春子(小泉今日子)が東京に帰ってしまう前にプロポーズしろと言うのだ。

けれども、アキや春子を引き止める良策は見つからなかった。それどころか、肝心の夏がサバサバしており「去るものは追わず」などと言うものだから、打つ手が見つからなかった。

春子は、最後にもう一度アキの本心を確かめようとした。ところがアキは、吹っ切れたので東京に帰ることに異存はないと答えた。一人ぼっちの正宗(尾美としのり)のことをかわいそうに思う、北三陸市に友達ができたので満足している、来年また来ればいい、などと答えるのだった。

すると、そこへ夏が帰宅した。春子は夏ともう一度話し合いたかった。しかし、夏は朝が早いなどといって布団に入ってしまった。その様子を見た春子は頭にきた。24年前と態度が同じだというのだ。

1984年、高校生だった春子(有村架純)は地元の人々から海女になるよう要請された。判断に困った春子は夏に相談したかった。しかし、その時も夏は何も言わずに、さっさと布団に入ってしまった。それで、春子は誰とも相談できずに、翌朝家出したのだ。

その時のことを引き合いに出し、春子は夏を罵った。いつも夏は相談にのってくれない。肝心なことは全て春子一人に決めさせようとする。親なのにズルいことだなどと一方的にまくし立てた。けれどもやはり、夏は何も答えなかった。

翌朝、海女たちは家まで見送りに来てくれた。しかし、夏の姿はなかった。彼女は早朝から海に出てしまい、一言も別れの言葉はなかった。アキは大向の運転する車の中から、世話になった海女たちや袖が浜の珍しい風景を眺めた。さっきまでは気丈に振舞っていたが、やはり寂しかった。密かに半べそをかいてしまった。

駅に着くと、春子とアキは大向に明るく礼を言った。春子に惚れており、みんなに応援されている大向であったが、やはり改めてプロポーズすることはできなかった。来年の再会を約束するだけだった。列車の時刻が近づくと、無情にも発車ベルを押した。

春子が先に列車に乗り込んだ。しかし、アキはホームから動こうとしない。夏が見送りに来ないとつぶやくのだった。東京へ帰ることはアキが納得して自分で決めたことだと言って、春子はアキを急かした。しかし、アキはまだ動こうとはしなかった。

ドアが閉まる直前、アキは意を決して列車に飛び乗った。それと入れ替わるように、春子はホームに飛び降りた。慌てた春子はアキの腕を掴み、彼女を列車から引きずり降ろした。その瞬間、ドアが閉まり、大向だけを乗せて列車は出発してしまった。

アキは笑顔で夏の家に戻った。夏はアキの意外なUターンを喜んだ。泣きそうな表情になり、心の底からアキを歓迎した。

そんなアキと夏を尻目に、春子だけは虫の居所が悪かった。夏に対して、待っていたのにどうして来なかったのかと問い詰めた。夏はワカメが沢山採れたなどととぼけようとしたが、春子の口撃はやまなかった。それどころか、春子が問題にしているのは今朝のことではなく、24年前のあの日のことだった

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「どーせ、アキは東京に帰らないんだろ」とわかってはいたものの、アキ(能年玲奈)が帰ろうとしている様子を見てジーンと来てしまった、近年涙腺の弛くなった当方です。

特に、発車ベルが鳴るシーンがやばかった。何がやばかったのかは自分自身でもよくわからず、「涙腺のみぞ知る」という状態ですが、あのけたたましく鳴り響くベルにやられた。涙腺はもちろん、腰回りの贅肉も弛くなるほどの中年の当方ですから、同じように中年であるところの駅長・大向(杉本哲太)の心境にシンクロしてしまってグッと来たのかもしれません。

春子(小泉今日子)は夏(宮本信子)のことを罵りました。大事なことを決める時に何も相談にのってくれず、全て春子任せにしてしまう。それは実の親のすることではない、というわけです。春子は昔から勝気な女性で反抗的ではあったわけですが、どこか母に頼りたい気持ちがあったわけです。それが遂げられないことに不満があったのでしょう。

ところが、春子自身もアキに同じような態度を取っていました。「アンタはどうしたいの?」と何度か聞くわけです。もちろん、アキは「帰る」と強がってみせるわけですが。ただし、そう尋ねる春子の姿にはどこか躊躇する様子も見て取れました。彼女は、夏がしたように決定権を娘に与えることは良くないと思いつつ、他のやり方も知らないようなのです。その葛藤が今回の見所だと思います。

その葛藤は、最後の駅のシーンで解決されます。春子が力づくでアキをホームに引っ張り戻すことで、アキの運命を春子が決めたわけです。

春子が娘の人生にこういう形で介入したことは、春子と夏との関係性も変えていくことになるのでしょう。そんなわけで、ふたりの対峙シーンで今日の放送が終わったという次第。

よくできてる。

『あまちゃん』 つづく

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