フジ『北の国から』第8回

中学生の時、同級生女子から手編みの手袋を貰ったのだけれども、それがあまりに酷い出来で正直迷惑だったのだけれど、せっかく作ってくれたのだからと思って毎日それを履いて通学した「紳士で優しい(自称)」当方が、BSフジ『北の国から』の第8回を見ましたよ。

* * *

1980年12月29日。
五郎(田中邦衛)は仲間たち数人の力を借りて、水道を作る工事をしていた。これまでは森の奥にある沢まで毎日徒歩で水汲みに行かねばならなかった。雪の降る前は純(吉岡秀隆)と螢(中嶋朋子)の役目だったが、根雪になってからは子供の足では無理になった。大人の五郎でさえ、雪に足を取られて水を全てこぼしてしまうなど、不便でならなかった。そこで、森の中を1kmばかりパイプを渡し、家まで水を引こうというのだ。ところが、作業は難航した。どうやら、パイプの中に溜まっていた水が凍って詰まってしまったようだった。何日か前に敷設したパイプはすでに雪に埋もれており、凍結箇所を見つけることが容易ではないのだ。
楽しみにしていた水道が開通できないとわかり、純は不貞腐れた。素人がやるには無理があるので、役場の水道課に頼んで工事してもらった方が良いに決まっていると愚痴を言った。面白くなくなって、純は街まで年賀状の投函に行くことにした。

麓郷の街はいつもより賑やかだった。街を離れて働きに出ていた人々が、年越しのために次々と帰ってきているからだ。バス停では家族を出迎える人々でいっぱいだった。
純は、そんな人々の中に同級生・正吉(中澤佳仁)の姿を見つけた。彼の母・みどり(林美智子)は旭川で働いており、彼女も帰ってくるはずだった。しかし、バスが到着してもみどりは乗っていなかった。正吉は諦めて家に帰ることにしたが、純の姿を見つけると家に誘った。

正吉は祖父・杵次(大友柳太朗)とふたり暮らしである。杵次は街の嫌われ者で、人のよい五郎ですら杵次を避けるほどだ(第5回参照)。ところが、その日は留守にしていた。正吉は隠しておいた酒瓶を取り出してきて、純に勧めた。大人の口ぶりを真似た年末の挨拶をしながら、湯のみに酒を注ぎ、一気に煽った。酒を飲んだことのない純は躊躇したものの、正吉の手前口を付けないわけにもいかなかった。意を決して啜ってみると、ほとんど水だった。正吉がいうには、ほんのちょっとだけ残っていた酒に水を足したものだという。純も大人が酒を呑む真似をした。
正吉は純の家にテレビが無いことを知っているので、大晦日に紅白歌合戦を家まで見に来るよう誘った。正吉は八代亜紀の『雨の慕情』のものまねをしてみせるのだった。その流行歌のことを知らない純は、自分が遅れていることを恥ずかしく思った。だからどうしても紅白歌合戦を見に来たいと思った。しかし、五郎がそれを許さないだろうと思い、返事を濁した。
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12月30日。
純が目を覚ますと、五郎はすでに森に入ってパイプの凍結場所を探していた。けれども、結局場所を特定することはできなかった。
五郎が作業をしていると、杵次がふらりと現れた。杵次は役場に顔が利くので水道工事を頼んでやると申し出た。しかし、杵次の世話になりたくない五郎は素っ気なく断った。続けて杵次は、五郎の家に電器やテレビのないことを指摘し、大晦日に子供たちを自分の家に寄こすよう言った。これに対しても、五郎は気のない返事をした。杵次はそれ以上は食い下がらず去っていった。ただし、去り際に、人の好意は素直に受け取れと忠告するのだった。

その頃、麓郷では雪子(竹下景子)のことがちょっとした噂の種になっていた。10日ほどで麓郷に戻ってくると言っていたのに、もう1ヶ月近くも東京に行ったままだったからだ。草太(岩城滉一)が毎日駅で雪子の帰りを待っていることもみんなに知られており、ちょっとした笑い者になっている。

東京の雪子は、二度と来ないと誓っていた(第6回参照)下北沢に来ていた。年末の買い物客でごった返す商店街の中に、雪子は元愛人の井関(村井国夫)の姿を見つけた。井関は妻子と共に買い物に来ていた。井関も雪子を見つけ、ふたりは人垣を介してしばし見つめ合った。
雪子は自分の立っていた場所に紙袋を置いて立ち去った。井関は妻子の目を盗んで近づき、それを拾い上げた。中には手編みのマフラーが入っていた。メモには「気に入らなかったら捨てて下さい。北海道に帰ります」とあった。井関はマフラーを袋に入れ、元あった場所に戻した。そして、家族と一緒に立ち去った。雪子は物陰からその一部始終を見ていた。

そんなことを知るはずもない草太は、今日も布部駅で雪子の帰りを待っていた。汽車は到着したが、やはり雪子は乗っていなかった。諦めて駅を出ると、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)が待っていた。草太は彼女を無視して立ち去ろうとしたが、つららは話があると言って誘った。
つららは、麓郷を出て旭川で暮らすと言い出した。遠回しに、キャバレーなどの水商売で働くことをほのめかした。聞いていた草太は、ぶっきらぼうにうちの嫁になると思っていて父(大滝秀治)と母(今井和子)もそのつもりで楽しみにしていると答えた。しかし、その言葉はつららの決意を変えさせなかった。草太は両親の意思を伝えただけで、草太自身の意思を言わなかったからだ。つららは、草太が自分に愛情がないことを知っており、雪子に完全に心を奪われたことを知っている。
草太は、もう雪子のことは諦めたと応じた。そもそも、田舎者の自分と、都会の洗練された女性である雪子とでは釣り合いが取れないというのだ。まるで、五郎と令子(いしだあゆみ)のように失敗することが目に見えていると話した。
草太は、ぼそりと「一緒になるべ」とつぶやいた。つららは、その言葉は草太の本心ではないと分かっていた。それでも、そう言ってくれたことが嬉しかった。

12月31日。
五郎はやっとパイプの凍結箇所を見つけた。そこを溶かし、ついに手作りの水道が開通した。五郎と純、螢は抱き合って大喜びした。さっそく米を研いだり、顔を洗ったりした。冬の川から引いた水はとても冷たかった。しかし、その冷たさが一向に苦にならないほど嬉しいことだった。

夜、五郎はとても機嫌が良くなった。純と螢が正吉の家にテレビを見に行くことを自ら許可した。ふたりを車で送って行き、中畑の家で時間を潰した後、紅白歌合戦が終わる頃に迎えに行くという算段を整えた。

正吉の家に着いた純と螢は、大喜びで家に近づいていった。しかし、家に入ることが躊躇われた。外から覗くと、正吉の母・みどりが帰ってきており、正吉とじゃれ合いながら水入らずの様子が見えたのだ。しばし絶句し立ちすくみ、ふたりは歩いて家へ帰って行った。

中畑の家に着いた五郎も同様だった。中畑の家に家族や親戚が集まって愉快にしている様子が外からわかった。五郎はそれを邪魔する気になれなかった。一人で家に帰り、年賀状の続きを書くことにした。
五郎は、令子への年賀状を書き始めた。子供たちが元気であることを書いた。令子の様子を尋ねる一文を書いた。その後、しばし迷った挙句、五郎自身の近況報告を書こうとした。その時、子供たちが帰ってきた。五郎は手を止めて、書きかけの年賀状を隠した。
五郎は予定よりも早く帰ってきた理由を尋ねたが、ふたりは黙ったまま答えなかった。そこで、3人で富良野の夜景を見に出かけることにした。

富良野の街の灯は美しかった。
五郎は子供たちに優しく語りかけた。家の灯りひとつひとつに、それぞれの大晦日がある。我が家では紅白歌合戦は見れないが、自分たちだけの大晦日はある。純と螢のこの1年の頑張りに感謝しており、それを一生忘れないと告げるのだった。
それに加えて、五郎は凉子先生(原田美枝子)に言われた言葉を思い出した。五郎と純が互いによそよそしい敬語で話すのが奇妙だというのだ。そこで五郎は、今を限りに、純によそよそしい話し方をするのをやめると約束した。純にも同じ約束をさせた。
そして3人で、富良野の街に向かって「さようなら、1980年!」と叫んだ。

家に帰ると、なぜか家に灯りがついていた。雪子が突然帰ってきていたのだ。皆、大いに喜んだ。
そこへ、草太とつららがご機嫌で初詣に誘いに来た。ところが雪子の姿を見た途端、ふたりの態度は正反対となった。草太は有頂天になって喜んだ。一方のつららは能面のような沈み込んだ表情になった。

その頃、令子は、新年の準備をする客の対応で遅くまで仕事をしていた。長い一日が終わり、無人になった美容室で孤独にタバコを吸うのだった。

草太とつららは去り、黒板家では五郎、雪子、純、蛍の4人が大はしゃぎしていた。

* * *

富良野の夜景を見ている時の五郎(田中邦衛)のセリフ
「あの灯ひとつひとつに、それぞれがそれぞれの大晦日を迎えてる。たぶん、そのうち半分以上は紅白歌合戦見てんだろう。」
これ、フジテレビのドラマなのに、NHKの紅白歌合戦が50%以上の視聴率を稼いでいると登場人物に言わせたところに笑う。(文末のYoutube動画参照

さて、今回のナンバーワン・クズは井関(村井国夫)でしょう。女性から貰った手編みのマフラーをその場で捨てるなよ。ひでぇやつだ。お前は、一度自分で編み物やってみて、手編みがどんだけ大変か身を持って学べっつーねん!
俺は、ちゃんと学んだぜ。

とはいえ、雪子(竹下景子)のマフラーを持って帰ったら持って帰ったで「お前は、妻子ある身でありながら、なぜよその女の手編みのマフラーなぞ受け取るのか。あほかっ!」と突っ込まれるわけだけれど。
どっちを選んでもクズ呼ばわりされる井関。はじめから、かなりの無理ゲー。かわいそうに。

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