威張って言うほどのことではないが、当方は美人に弱い。
“美人に弱い”と言っても、「ねぇ、あれ買ってぇ~」と言われたらホイホイ金銭を貢ぐとか、妖艶な微笑を向けられたら耳の天辺まで真っ赤になってうつむいてしまうとか、そういう類の弱さではなくて。
美人にのぼせ上がるという類の弱さではなくて。
寒さに弱いとか、魚の光物に弱いとか、数字に弱いとか、そういう類の弱さ。
美人を、生理的に受け付けない弱さの方。
そんなわけで、山瀬まみとかが大好きなのだが。
でもって、80年代(当方の思春期)最大の美女と言えば、小泉今日子と言っても過言ではないのだろうが、当時小泉今日子が大の苦手だったわけである。
テレビに出てると、チャンネルを変えてしまうくらい、天敵だったわけである。
ところが、あるとき資生堂のシャンプーのCMで、小泉今日子が髪を洗ってもらうというものがあった。
なんだか、そのCMが妙にツボにはまったことを覚えている。
当方と小泉今日子の(一方的な)停戦協定。
今日では、小泉今日子がかなりのお気に入りとなっていたりするわけで。
当方の好みが変わってきたのか、小泉今日子が枯れてきたのか。
そんなわけで、本屋で平積みされていた『小泉今日子の半径100m』を買ってきて読んでみた。
女性向け雑誌(In Red)に2003年から2006年初頭にかけて連載されていたフォトエッセイの書籍化。
30代終盤から40歳を迎えるまでの状況が、小泉今日子の等身大で語られている。
時代の流行なのか、年齢的なものなのか、いわゆる”スローライフ”にどっぷりと浸かっている様子がありありと伝わってくる。
庭付きのマンションを買ってガーデニングするだの、猫を飼い始めて一緒に昼寝するだの、仕事は数を減らしてじっくり取り組むだの。
ブロークンな日本語しか書けない(あと、ついでにエレガントからはほど遠い Visual Basic と perl と php も書けるけど)当方が言うのもなんだけれど、文章は美味くないし、書き散らし臭がプンプンしてくる。
最初の数ページを読んだときなど「これで、800円かよ、ぼったくりだなぁ」とか思ったり。
ところが、もうちょっと辛抱して読んでみると、妙に筆者と読者の波長が合ってくるから不思議だ。
それがいったいなんなのかと、読みながら不思議だったのだが、最後の最後に種明かしがされていた。
連載が始まった頃、私はあんまり元気じゃなかったかもしれない。生きるのって面倒くさい!なんて思っていて、何もかも投げやりな気分だったの。散らかった頭の中を片付けられないって感じ。でもね、3年間、書いてるうちに自然に片づいてた。居心地のよい生き方ができるようになってたよ。
『小泉今日子の半径100m』 p.170
筆者自身が白状しているように、前半は駄文なのだろう。
しかし、ページが進むにつれて、良い文章になってくるのだ。
意図せぬ効果だろうが、1冊を通してとても良い演出になっていると思う。
そして、一番の見所は随所に配されている写真。
飼い猫の「小雨」(ロシアンブルー)も可愛いが、薹が立った小泉今日子が艶かしすぎ。
37ページのぷよぷよした二の腕の小泉今日子だけで、丼飯が食えそうです。
枯れた美女の魅力です。