NHK『ばけばけ』第5回

某知人がハンバートハンバートの背の高い方と蕎麦屋で相席になったことがあると聞いたことのある当方が、NHK朝の連続テレビ小説『ばけばけ』の第5回めをNHK+で見ましたよ。

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第1週『ブシムスメ、ウラメシ。』

明治19年(1886年)、18歳のトキ(高石あかり)は織物工場で働いていた。同僚はみな貧乏な家の娘で、今の暮らしには良いことも娯楽もないとボヤいてばかりいる。
トキは最近良かったこととして、新しい怪談を聞いたこと、幽霊の夢でうなされたこと、金縛りにあったことなどと答えた。調子外れの回答に同僚たちにかすかな笑いが広がった。

その織物工場は、トキの遠縁にあたる雨清水傅(堤真一)が武士の道を外れて創業したものである。無事に軌道に乗り、トキをはじめ何人かの女工を雇って順調に経営していた。
その日も、女工たちへカステラを差し入れた。貧しい女工たちにとっては生まれて初めてのカステラであったし、たまには良いこともあるものだと喜んだ。

雨清水は、他の女工たちの見ていないところで、トキにカステラを一切れ手渡した。家で内職に精を出している母・フミ(池脇千鶴)への土産だという。

一日中働き、家に帰り着くとトキはヘトヘトだった。それと前後して、同じように疲労困憊した父・司之介(岡部たかし)も帰ってきた。彼は5年前から牛乳配達の仕事で日銭を稼いでいる。

それでも松野家の暮らしは最底辺だった。松江城のそばにあった屋敷はとっくに手放し、現在は川の反対側にある貧民街の長屋に暮らしていた。長屋のすぐ隣は遊郭である。
日々の食事にも事欠き、膳にあるのは飯の他には漬物としじみ汁だけだった。しじみ汁は一家の大好物であるが、椀の中にしじみはほんの少ししか入っていなかった。

雨清水からのカステラを手渡すと母・フミは大喜びした。彼女もカステラは生まれて初めてであり、その甘い香りにうっとりした。おっかなびっくり指先に小さな欠片を取って口に運ぶと、その美味しさに感激した。
その様子を見た父・司之介は自分にもよこせと迫ってきた。しかし、それはフミへの土産だと言って、トキが激しく抵抗した。父と娘の争いはまるで子供のような幼稚さであり、フミはその様子を見て笑った。トキと司之介もどこか楽しそうにじゃれ合っている。
貧しくはあったが、まんざらでもない生活であった。

それでもトキは昔の生活を思い出すことがある。長屋の井戸からは、屋敷のあった川の反対側がよく見える。
トキの幼馴染で、現在は同じ長屋に住んでいるサワ(円井わん)がやってきた。川の向こう側を眺めるトキと一緒になって、こんなはずではなかったとボヤいた。彼女は教師になって家を支えるという夢を持っていたがそれが叶わなかったのだ。

そうこうしていると、隣の遊郭に来ていた酔客が井戸の付近で立ち小便をした。叱りつけるトキとサワの声で遊女のなみ(さとうほなみ)が駆けつけてきた。
その遊女・なみに向かってサワは悪態をついた。このような無様な酔漢から金を貰って生きるなど悲しいことだと言うのだ。

その売り言葉になみは、女が生きていくには身を売るか男と一緒になるしかないと捨て台詞を吐いて去っていった。

ある日、森山(岩谷健司)が借金の取り立てにやって来た。滞納している先月分もまとめて払えというのだ。しかし、松野家は今月分にすら足りない額しか出すことができなかった。
すると森山はトキに目をつけた。遊郭に売ってしまえというのだ。
トキを何よりもかわいがっている祖父・勘右衛門(小日向文世)は激しい剣幕で怒鳴りつけた。元武士の迫力に押され、森山は逃げ帰った。

騒動が収まると、トキは婿を貰うと言い出した。借金を返すには、婿を取って働き手を増やすしかないというのだ。
現状を踏まえれば、家族の誰もその提案を却下することはできなかった。

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