周防役で登場し糸子を背負った綾野剛は、ドラマ『Mother』で尾野真千子の恋人役だったと知って驚くのと同時に、そのドラマで娘役の芦田愛菜を遺棄した直後、尾野真千子がぶっきらぼうにホテル行きを指示するシーンがエロかったなぁ(参考映像; 綾野剛らは8:15あたりから登場、尾野真千子のセリフは9:45ころ)と思い出した当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第83回目の放送を見ましたよ。
糸子(尾野真千子)の店に、背広を作りたいという男性客(門田裕)がやって来た。いくつか店をまわったが、どこも閉店したままだったという。糸子の店だけは開いていたので相談に来たのだ。しかし、紳士服職人だった夫の勝(駿河太郎)がいなくなった現在、引き受けることは難しかった。
横で話を聞いていた松田(六角精児)は泉州繊維商業組合に問い合わせることを提案した。客の言う通りほとんどの店が閉店状態のため、職人たちは働き口がない。そういった職人を組合が斡旋してくれるのではないかと言うのだ。
客には夕方までに職人を手配することを約束し、糸子はすぐに組合へ向かった。
組合事務所に行くと、組合長の三浦(近藤正臣)が対応してくれた。先日の宴会で男たちに酔いつぶされたことを心配してくれたが、糸子は自分が女だからといって特別扱いされることが気に入らなかった。すぐに、女だからといって手加減はして欲しくないと抗弁した。その言葉に、三浦は気を悪くするどころか、糸子について感心するのだった。
肝心の職人斡旋について、三浦は周防(綾野剛)を推薦してくれた。三浦によれば、彼は腕が良いだけではなく、人間的にも優れているという。働き口が無いので今は組合の仕事をさせているが、それにはもったいない人物だというのだ。
しかし、糸子は困った。先日、酔いつぶれたときに家まで背負って送ってくれたのが周防だったのだ。自分の失態を知られている相手と一緒に働くのは気が進まないどころか、恥ずかしくて顔も合わせられないと思っていたのだ。
だからといって、それを言って断るわけにもいかず、周防がオハラ洋裁店で働くことが決まった。
早速、糸子は周防を店に連れて帰った。
一緒に歩くのすら恥ずかしい糸子であったが、周防はのん気な態度だった。先を急ぐ糸子とは対照的に、商店街を歩きながらもキョロキョロと物珍しそうに周りを見回すのだった。一度、糸子を送りに来て知っている道のはずなのに、何が彼の興味を惹くのは、糸子には不思議だった。
いざ糸子の店の前についても、ショーウィンドウを長らく眺めて、なかなか店の中に入って来なかった。
やっと店に入ると、糸子は周防を2階の部屋へ案内した。そこには、勝が使っていたミシンや裁縫道具が全てそのまま残っているのだ。
家に上がるとき、糸子は周防の靴を見た。それは、洗練されていて上等なショートブーツだった。今まで糸子が見たことのないような飴色の美しい革が使われていた。
一方の周防が道具を前にして最初に聞いたことは、ショーウィンドウの水玉のワンピースについてだった。糸子が作ったものだと知ると、軽くニヤついて、それ以上は口を開かなかった。
それでいながら、仕事は真面目だった。例の客の背広を熱心に作り始めた。
翌日、出勤した周防は、またしてもショーウィンドウの前で足を止めた。
糸子も、周防のブーツをうっとりと眺めるのだった。
休憩時間には、二階で一人で仕事をする周防のために、糸子がお茶を運んだ。その時に、ふたりで少々話をした。
周防の靴は長崎で購入した舶来物であり、日本では珍しい革を使っているという。彼にとっての唯一の財産なのだという。長崎に原爆が落とされた時、家財一式失ってしまったが、あの靴だけは妻が持って逃げてくれたのだという。だから大事に履いているのだと話してくれた。
しかし、長崎の言葉に不慣れな糸子は、周防の話がいまいち理解できなかった。けれども、周防はそれで気を悪くする男ではなかった。彼は酒の席には必ず三味線を携えて行くという。音楽ならば言葉が通じなくても楽しめるからだという。糸子は、先日の宴会でも周防が三味線を上手に弾いていたことを思い出した。
周防によれば、服にも音楽と同じ効果があるという。言葉を使わなくても、いろいろなことが伝わるのだという。そして前日、周防が糸子の店に来る道中、道を歩く女性たちに目が釘付けになったと話し始めた。
戦争が終わってまだ1年。周防自身は悲しいのと悔しいのとで胸がいっぱいである。仕事もないその日暮らしで、不安でいっぱいであった。そんな自分とは対照的に、綺麗な水玉のワンピースを着て歩いている女性たちをたくさん見た。かっこいい服だと思ったし、颯爽と歩く姿がきれいだと思ったのだ。
それ以上は喋らなかった周防だが、糸子には彼が勇気づけられた様子がよくわかった。そして、周防が自分の仕事を評価し褒めてくれていることがわかって嬉しかった。
続きを読む