京都府精華町に「私のしごと館」という職業訓練/博物館施設がある(うちから歩いて10分ぐらい)。
この施設の運営財源として雇用保険料がつぎ込まれているが、年間十数億円の赤字を出していることで問題視されている。
昨年、渡辺行革大臣が「絶対廃止!」と主張したものの、廃止決定にまでは至らなかったというところまではニュースを追っていた。しかし、その後どうなったのかはよく知らなかった。
今日、森永卓郎のエッセイ(「赤字の公営施設はただ潰せばいいのか」)を見つけて、およそどういう状況になっているのかがわかった。
このエッセイ、わりかし面白い。けれども、結構長くて、読むのが疲れる。
そこで、僕では力不足だが、概要をまとめてみる。
今年の3月から4月にかけて、厚生労働省で「私のしごと館のあり方検討会」というのが3回開催されている(厚生労働省のページに資料もある)。この会議の有識者として、森永卓郎も参画している。なお、厚生労働省はどちらかと言えば “私のしごと館の賛成派” であろうと、僕は思う。
この会議の結論としては「私のしごと館は、民間委託で存続」というもの。
まず、基本的な職業訓練機能を残しておけば、何をやっても良いことにする。例えば、宿泊施設を作って、泊りがけの研修ができるようにとか。民間企業の創意工夫で、利益を出してもらって、皆がハッピーになるようにしよう、と。
ただし、年間6億円くらいは国が援助してやることを認める。今(年間十数億)よりも劇的に支出を減らせるんだから、良いじゃないか、と。
施設を壊すのにもカネはかかるし(生で見るとバカでかいよ)、修学旅行でよく利用されているし(彼らの行き先がなくなると困る)、地元の人も好意的だし(典型例が俺)、存続させるためのアイディアとしてはギリギリ許容できるラインだと思える。
7月くらいに入札をやって、9月から民間委託という具体的スケジュールも作った様子。
ところが、渡辺行革大臣がそれに反発。
いや、森本哲郎の言い分を信じるなら、妨害と言っても良いかもしれない。
しごと館は修学旅行生がメインなので、日曜は人出が少ない。それにも関わらず、渡辺大臣は日曜日に視察をした。そして、マスコミの前でこれ見よがしに「ガラガラじゃん」みたいなマイクパフォーマンス(なお、森本の文章では4/25とあるが、5/25がきっと正しい)。
渡辺大臣は政治家としての業績が欲しいだけなのかもしれない。「問題のある施設を自分の手で潰した」ということは手柄になる。検討会の建て直し案なんて見向きもせず、なりふり構わず潰したいだけなんじゃないか。
このような状況では、民間企業が業務請負を避けるようになる可能性がある。不条理な妨害が入るのではないかと、企業が心配するから。結果として、せっかく考えた再生計画が頓挫してしまうおそれがある。
(ここらへんに書いてある)
<追記ここから 2008.7.2 0:10>
渡辺大臣が視察したときの様子を報道したテレビ番組が、youtube にあがってた。
</追記ここまで>
そして、森本はこう結ぶ。
だが、マスコミもわかりやすい話に飛びついてしまい、まるで渡辺大臣を改革派、わたしたちを抵抗勢力のように書き立てるから困ったものである。
(中略)
渡辺大臣の見識のなさ、ビジネスの根本に対する無理解を、わたしは正したい。
俺も正したい。
あ、これ、完全に賛成。
日本が(少なくとも、自分が知っている限りの)欧州諸国と比べて、確実に「やばい/マズい/劣っている」と思うのは、経済的効率性に基づく議論が、全く受け入れられない点。これを除けば、日本が欧州より劣っているとは、全く思わない。
いわゆる官製不況も同じ話でしょ?この風潮、どうすれば変わって行くんでしょうね。
どうしようもないから、bmbさんのように外国で暮らすのがいいんじゃないですか?;-p
似たような話で、有名シェフがフランスのタコな税制に我慢ならなくなって、フランス国籍を捨ててモナコに帰化したという話もあるし。
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/world/20080627-567-OYT1T00126.html
マジメな話としては、日本人が「経済効率性」の意味をきちんと理解していないことが問題なのではないかと。しごと館の話で言えば、運営方法を吟味して必要最小限のリソースを投入すれば、それなりのアウトプットも得られるはず(森本らの有識者会議の結論)。それにもかかわらず世論レベルでは、長期的な利益を考えずに、目先の費用削減とかルールの適正化にしか目が向いていない。そういのがダメなんだと思う。
じゃあどうすれば風潮が変わるのかといえば、僕は「経済学の基本を学ばせる」だと思う。
年始にマンキューの経済学の教科書を読んで、僕自身随分と社会を見る目が変わったと思う。
中学校や高校で、応仁の乱がどーしただの、戊辰戦争がこーしただの教える前に、マンキューの経済学の10大原理とか教えたほうがいいんじゃないかと思う。
>「経済学の基本を学ばせる」だと思う。
個人的には知識の問題ではないんじゃないかと思う。だって、話せば分かるのだから。経験上、「正規社員を解雇しにくくすると非正規雇用者が増える」という論理は、話せば、一応通じるように思う。その命題が真であることは、誰でも理解できるように見える。
けれど、その後がいけない。
「とはいえ、そんな簡単に首にできたら、会社が好き勝手できるじゃないか」、「首にされた正社員の生活はどうなると思ってるんだ」と続く。「解雇しやすくする/解雇しにくくする」のどちらの選択肢にも、コストが伴う。問題は「解雇し易くすることのコストの方が、解雇しにくくするコストより小さい」という話なのに、一方のコストばかりに目が向く。
いろんな原因は考えつくけど、経済学を教えるだけで、変化するんだろうか?
>bmbさんのように外国で暮らすのがいいんじゃないですか?
この世に楽園はありません。
一方のコストばかりに目が向くという現象があるということは、僕も同意です(先日、ある人と非正規雇用の話をして、bmbさんが書いてるのとまったく同じ展開になった)。
では、どうすれば、いろんな可能性を考慮するように仕向けることができるか?経済学の知識が最善だとは思いませんが、ほかによさそうな手段が僕には思いつきません。
>この世に楽園はありません。
ネコと一緒に眠るベッドは楽園ですよ(特に冬は)。
そんなわけで、あるにゃんと一緒に眠ります。おやすみなさい。
このネタ、研究になりそうですね。時間ができたら、一緒にやりましょうか。
面白い。
どういう方法でやるのか今のところ想像が付きませんが、ぜひやりましょう。
俺が私のしごと館と舛添厚労相について語る
今後、私のしごと館が存続するとするなら、いろいろとテコ入れがあるだろうけれど、職業間の連鎖を明示的に扱う施設になってくれることを期待している。
民間委託先が決まったみたいですよ。
情報ありがとうございます。
委託先のコングレという会社は、先日の洞爺湖サミットの手伝いなんかもしてたみたいですね。
http://www.congre.co.jp/
本格的に委託が始まったら、見に行ってみようと思います。