夕方のローカル情報番組といえば、20年近く前に『どさんこワイド』が札幌駅前に神主を呼んで受験生合格祈願をするというので参加し、大騒ぎして木村洋二を呆れさせたことのある当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第36回めの放送を見ましたよ。
アキ(能年玲奈)の誕生日を祝うため、正宗(尾美としのり)が東京からやって来た。翌日がアキの誕生日なのだ。
アキはひどく驚いた。忙しさのせいか自分の誕生日を忘れてしまっていたことに驚いた。それほど仲が良いわけでもない父が誕生日をちゃんと覚えていて、会いに来てくれたことに驚いた。
そして何よりも、憧れの種市先輩(福士蒼汰)が自分の誕生日を知っていたらしいことに一番驚いた。それというのも、数日前に種市が「ちょっと早いが」と言いつつ、ミサンガをプレゼントしてくれていたのだ。もらった時は何のことだかわからなかったが、今にして思えばそれは誕生日プレゼントだと思われた。アキは嬉しくなった。
その時にちゃんと言えなかったお礼を今すぐ伝えたくなった。しかし夜も遅いし、もう帰宅してしまっていたので、電話をかけることにした。ところが、種市の電話番号がわからない。ユイ(橋本愛)に聞いてみたが、彼女も連絡先を知らないという。その夜は連絡がつかなかった。
正宗は夏(宮本信子)や忠兵衛(蟹江敬三)に気に入られ、歓迎されていた。ところが、春子(小泉今日子)は相変わらず正宗に冷たい。正宗に文句をまくし立てる。アキは、春子に自分の誕生日のお祝いをして欲しいと頼んだ。しかし、正宗の登場でイライラしている春子は、アキの願いを聞くことなくあしらうのだった。
翌日の日曜日も、アキにとってはいつもと同じ日だった。ウニ丼の車内販売をして1日を過ごした。
ユイによれば、何人かに聞いてみたのだけれど種市の連絡先は誰も知らなかったという。さらに、アキがもらったミサンガは漁協で海女たちが内職で作っている土産品であり、色気がなさすぎるので、誕生日プレゼントではないと指摘した。実際、弥生(渡辺えり)やかつ枝(木野花)は、余った糸でアキのミサンガと全く同じ模様のアクセサリーを身に着けていた。それでも、アキは種市から贈り物をもらったという事実だけで嬉しかった。
その日の仕事を終えたアキはまっすぐ家に帰ろうとした。大向(杉本哲太)が車をとってくる間、アキはスナック梨明日で待つことになった。
アキがスナックのドアを開けるとクラッカーがなった。街の人々がサプライズパーティーを開いてくれたのだ。さらに、ユイの計らいで種市も来てくれた。春子が冷たい態度だったのも、ユイが種市の連絡先を知らないふりをしたのも、全てはアキを驚かせるためだった。アキは幸せな気持ちでいっぱいになった。
アキは種市にミサンガのお礼を直接述べることができた。しかし、種市はアキの誕生日のことは知らなかったのだという。贈り物は潜水士試験の合格祈願のためだと説明した。もちろん、目的が違ってもアキの嬉しい気持ちに変わりはなかった。
さらにアキは、試験に合格したら種市とデート(デート?デートなのか!?)をして欲しいと頼んだ。種市は一瞬困った顔をしたが、アキはそれに気づかなかった。種市は、考えておくなどとその場をごまかし、時間になったので帰宅した。アキはその言葉をいい方に解釈し、さらに喜んだ。
スナックではカラオケ大会が始まった。忠兵衛は自分が歌い終えると、次は春子の番だと言ってマイクを握らせた。昔の春子は、よく船出前の忠兵衛のために歌を歌ってくれたのだという。しかし、春子は頑なに拒んだ。その様子を傍から見ていた正宗は、勝手にリモコンで「潮騒のメモリー」を予約した。
20年ほど前の流行歌「潮騒のメモリー」は、どうやら春子の思い出の歌らしい。ただし、春子には正宗がその曲を選んだ理由がわからなかった。前奏が流れ始め、歌い出しになったが春子は黙ったままだった。そして、自分で演奏を止めてしまった。
忠兵衛はがっかりした。がっかりして、「東京でアイドル歌手になると言って家出したのに、なぜ歌わないのだ」などと口走ってしまった。春子の家出の真相は、これまで街の人々が話すのを避けていた事実だ。楽しい誕生会の雰囲気が一気に冷え込んだ。
東京では地味で暗くて引っ込み思案だったアキ(能年玲奈)が、春子(小泉今日子)の故郷に行き、これまで見たことのない風物に触れ、大親友ユイ(橋本愛)を得るなど暖かい人々と出会うことで自分を開放していくというのがこれまでの物語です。
アキが観光海女として表舞台に出て行くのも、彼女が人前で目立つのが好きだと言うよりは、自分が好きになった北三陸市のことを他の人にも知ってもらいたいこと、そうすることで自分の好きな田舎の人々にも喜んでもらいたいという動機です。
東京時代のアキは、おそらく自分の希望やわがままを口にすることもなかったものと思われます。けれども、北三陸市に来てからは、海女になりたい、潜水土木科に編入したいなどと自ら希望を述べます。さらには、自分の誕生会を開いて欲しいということや、種市(福士蒼汰)にデート(デート?デートなのか!?)して欲しいなどと、控えめではありますが自分の都合を押し付けるようになって来ました。
ヒロインにこういう変化が見られるのが興味深い。
そういえば、普段は「私」とか「おら」という一人称を使っているのに、第8回で「新米海女は裸で潜るものだ」とからかわれて動揺した時には、自分のことを「アキ」と名前で言ったりしていました。そういう甘えん坊のような態度も、北三陸市に住み始めて表れたアキの変化だと、僕は解釈しています。
さて、今日の放送で昔の春子はアイドルを目指していたということが明らかにされました。昔からの人々は全員そのことを知っていて、あえて隠していたようです。そういえば春子も、帰郷直後は「昔を知っている人に会うとまずい」などと言っていました。一方、娘のアキや、同じくアイドルを目指しているユイにとっては寝耳に水だったようです。
そして、春子がユイのことを心配し「昔の自分を見ているようだ」と言っていた意味がわかりました。結局、春子は東京で成功をつかむことができず、平凡な主婦となってしまったのですから。
なお、劇中に出てくる「潮騒のメモリー」は1980年代の流行歌ということになっていますが、ドラマのオリジナル曲のようです。高田みづえの「潮騒のメロディー」(YouTubeで見る)とは別のようです。
『あまちゃん』ヒストリー(時系列表)
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