第16週『道を照らす人』
加野屋が銀行設立に向けて動き出した。
変化を嫌い、両替商の大番頭として心血を注いできた雁助(山内圭哉)は、いよいよ自分の居場所がなくなると思いつめた。
台所仕事をしていた うめ(友近)に声をかけ、一緒に家を出ようと誘った。
突然のことで うめは動揺した。
動揺したせいで、火にかけていた鍋をひっくり返してしまった。雁助は慌ててそれを受け止め、熱された鍋で手を火傷してしまった。
冷水で手を冷やしているうちに、雁助の頭も冷えた。
一緒に家を出ようと言ったのは冗談だとごまかした。うめを頼りにしている あさ(波瑠)が許すわけがないと言い訳した。
うめは、自分を連れて行くと言うのは冗談だとしても、雁助が家を出る気なのかどうか確認した。
すると雁助は、少なくとも銀行が開業するまでは留まるつもりだと約束した。
それからしばらくして、榮三郎(桐山照史)は家の使用人を全て集め、3年後の開業を目指して銀行設立を行うと宣言した。
使用人たちは店が変わっていくことに動揺していた。
あさは、伝統ある加野屋を守っていくためには、時代に合わせた変化が必要だと説明した。確かに銀行に変化して成功した店は少数である。しかし、両替商として働いてきた皆の経験と熱意があれば、必ず成功するはずだと言って励ました。
あさの激励に加え、自信に満ちた榮三郎の表情や、全てを納得済みの雁助の様子を見ると使用人たちは落ち着きを取り戻した。それで一致団結して取り組む決意を固めた。
銀行設立の発表の後、新次郎(玉木宏)は雁助に声をかけ、ふたりきりで話をした。新次郎は、銀行開業の後、雁助が家を出て行くつもりだと見抜いていたのだ。新次郎によれば、雁助の清々しい顔を見たらすぐにわかったのだという。
雁助はまさにそのように考えていた。両替商しか知らない自分は銀行で働ける気がしないと打ち明けた。
銀行と同時に開業する炭鉱会社についても興味が持てないという。一時、九州の加野炭鉱に赴任した時、一生懸命働きはしたが、どうしても面白く思えなかったのだという。
雁助は、自分はカネが好きなのだと自己分析した。石炭は目に見えて、実態もある。一方、カネは目に見えるようであるが、実態は無い。そのような得体のしれないものに惹かれるのだと説明した。
新次郎は、雁助の自己分析を否定した。
雁助自身は気づいていないが、雁助は「信用」が好きなのだと説いた。先代・正吉(近藤正臣)から商売における「信用」を叩きこまれ、それが身についているのだと看破した。
雁助ははっとした。確かに新次郎の言うとおりだった。
両替商として付き合ってきたのは、大名や大阪の米会所の商人たちだ。彼らはどこの誰だか昔からよく知っていて信用できた。しかし、銀行になると、素性もわからず、成功するかどうかわからない相手にカネを貸さなければならない。そのようなことは自分には恐ろしくてできないと話した。
自分は江戸時代のままの古い考え方の人間である。榮三郎の将来を考えても、自分のような旧態然とした人間よりも、あさのような先進的な人物に指導してもらった方が良い。だから自分は身を引くのだと語った。
新次郎は、雁助の進退についてそれ以上何も言わなかった。
その代わり、自分がどうしたいかよく考えろと告げた。他人のことは脇において、自分がどうしたいかを優先しろと言うのだ。その結果、加野屋に留まろうが、出ていこうが新次郎は問わないというのだ。
加野屋に留まってくれれば嬉しいが、出て行くとしても気持よく送り出す準備はあると話した。雁助が新しい商売を始めるのに十分な資金を持たせてやると約束した。それが雁助の奉公に対する加野屋から恩返しだと言うのだ。
雁助は感激した。
そして、商売嫌いの新次郎であるが、どこか先代・正吉に似ていると評した。新次郎のことを大人物だと認め、彼を認めているあさの目利きに感心した。
実は、あさは新しく設立する炭鉱会社の社長を新次郎にするつもりだったのだ。新次郎にだけ話していなかったが、榮三郎や雁助らの間ではそれで合意していた。
新次郎にとっては寝耳に水だった。
新次郎はあさに考え直すよう直談判した。
しかし、あさは取り合わなかった。女が社長になるなど、世間が認めないというのだ。
それに、あさは新次郎の人当たりの良さに期待しているのだという。大阪商人の間で、あさの手腕は認められているものの、人間性は気に入られていない。会合に出て行っても、あさが来ると嫌な顔をするものもいるという。
一方、新次郎は顔も広く、皆に好かれている。それは新次郎の才能だというのだ。実際の商売についてはあさが取り仕切るので、新次郎は社長でいてくれるだけで良いと話した。よの(風吹ジュン)や榮三郎も、これを期に新次郎が心を入れ替えて働き者になるかもしれないと期待しているのだという。
そして、五代(ディーン・フジオカ)も新次郎を社長にするというアイディアに大賛成しているのだという。
五代が裏で手引していたと知った新次郎は、彼に文句の一つでも言ってやろうと思い、大阪商工会議所へ出かけて行った。
すると、建物が騒がしかった。
五代が倒れたのだ。