「猫語の教科書」ポール・ギャリコ

全ての猫、必読!

本書は、匿名の猫が世の子猫やのら猫たちに向かって、人間社会で生き抜く秘訣を記した貴重な手記。

あくまで、猫の猫による猫のための啓発書である。
そのため、タイトルは「猫語の教科書」となっているが、人間が読んだからといって猫と話ができるようになるわけではない。

原著名は “The Silent Miaow” (1964) となっている。
直訳すれば「声を出さないニャーオ」(この鳴き方の説明も本書の中でなされている)。
しかし、邦訳タイトルとしては「猫が人間を飼いならす方法」の方がしっくりくる内容だ。

のら猫が愛くるしさを振りまいて、如何にして人の家にもぐりこんで快適な生活を享受するかが、事細かに書かれている。
猫を飼い始めることに猛反対している夫をどのように手なずけるかとか、マズイ餌ばかり出す人間に美味いご飯を準備させるにはどうすればいいかとか、人間の作業を邪魔する(そして、自分の遊び相手にする)ための効果的な方法など、人間が知らなかった猫たちの知恵を垣間見ることができる。

あなたはもうきっと、この本を手引きに、人間の一家を乗っ取ったことと思います。あなたの家族は、結婚していようが、子供がいようが、独身男だろうが、キャリアウーマンだろうが、あなたに夢中で、あなたのことをほかに類を見ないすばらしい猫だと思っていることでしょう。猫の望みを何でもかなえてくれるばかりか、こちらの喜びそうなことを先まわりして探してくれさえするでしょう。あなたの生活は安定しているというわけです。

ポール・ギャリコ(灰島かり 訳)「猫語の教科書」 p.171

続きを読む

「四畳半神話体系」森見登美彦

森見登美彦お得意の丸太町界隈を舞台に、大学生活の2年間を「実益のあることなど何一つしていない」 “私” がパラレルワールドに迷い込んでしまって難儀する話。

4章からなる作品群のいずれも全く同じ書き出しで始まる。
一部には「同じ話を何度も読ませるなんて詐欺だ。しかも、あちこちコピペの痕が見えまくり。金返せ」と憤る人々もいるかもしれない。
確かに、主人公がパラレルワールド・ネタに巻き込まれ、どれが本当の自分なのか分からなくなってしまうという題材は、ある意味、手垢がつきまくっていると言っても過言ではない。

しかし、僕はパラレルワールド・ネタが嫌いではない。
様式が決まっているからこそ、作り手の個性や構成の妙が際立つわけで、読み手としては作者の力量を楽しむことができるから。

続きを読む

「パレード」川上弘美

川上弘美の名作「センセイの鞄」からのサブストーリー。

センセイとツキコさんが、ふたりで台所に立って、騒がしくそうめんを作っている。
偉そうに突っ込みを入れるセンセイと、ちょっぴり拗ねて見せるツキコ。
既にナニも勃たなくなってる年齢のセンセイと、とっくに薹が立ってしまっているらしいツキコなのだが、その”遅れてきた新婚生活”は、とてもゆったりとしていて愛くるしい。

しかし、本書の主題はふたりの後日談というよりも、ツキコが語る小学校時代の奇妙な昔話。
そして、その昔話の背後にある小さな罪の懺悔にフォーカスが当たっている。

続きを読む