DVD『センセイの鞄』

川上弘美の『センセイの鞄』は、老人と年増女の回りくどい恋愛話なのであるが、僕は大好きな小説だ。読んだのはいつだっけ?と、当ブログの過去記事を探してみたら、2004年の10月末だった。
つい最近のことだと思っていたのに、記録を見ると随分昔の話だ。

とてもお気に入りの小説であり、「好きな本を20冊挙げろ」と言われれば、おそらく余裕でランクインである。
しかし、時の流れとは残酷である。実は、細かい内容をすっかり忘れ去っている。
漠然と、「しっとりとしていて、いいお話だった」と印象に残っているのみである。

ところで『センセイの鞄』は、谷口ジローが漫画化していたり(『孤独のグルメ』の人ですよ)、沢田研二&富田靖子の音楽劇になっていたりするらしい。どちらも未見だが。

それらの映像化も気になるのだが、僕が数年前からどうしても見たいと思っていたのは、小泉今日子柄本明出演で WOWOWがドラマ化したというものだ。
小泉今日子のどこか冷めていて陰のある感じと、柄本明の飄々とした感じは、本作のツキコとセンセイのイメージにぴったりではないかと思っていたからだ。

そんなわけで、やっと小泉&柄本版のDVDを入手して、見ることができた。

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『ニシノユキヒコの恋と冒険』川上弘美

タイトルが示すとおり、ニシノヒキヒコという男性の一生をとりあげ、彼にはどんな女性遍歴があり、彼の生い立ちのトラウマが何かということが語られる小説。
ただし、10の小編に分かれていて、それぞれ狂言回しが異なっている。各物語には、ニシノ氏と付き合った別々の女性が登場し、彼女らの視点からニシノ氏がどんな人物であったかが語られるというスタイルになっている。

このニシノユキヒコという人物、僕には結局つかみ所がなくて、なんだかよくわからない男だった。
しかし、「つかみ所がない」というのは多分間違った印象ではなくて、彼と交際のあった女性たちにとってもニシノ氏はとてもつかみ所のない男であったようだ。
けれども、そのつかみ所のなさが、女の子のハートをがっちりと掴んで離さないみたいだけれど。さらに、彼女らの独白によれば、ニシノ氏はハンサムで優しい紳士で、仕事もできるエリートっぽい落ち着いた男性らしい。これだけでずいぶんと女心をくすぐるんだろうけれど、女性の懐に入る甘え上手な上に、セックスも上手いらしいよ。その反面、どこか幸薄そうな影をたたえていて、そのミステリアスさが一層女の子を虜にするらしい。
もう非の打ち所がないですな。僕もあやかりたいくらいだ。

しかし、その完璧さが、女性にとってはちょっと重荷に思えてしまうことがあるらしい。
そんなわけで、ニシノ氏はいつも女性から一方的に捨てられるという悲しい目にあう。
#実際には、そのタネを自分でまいている(浮気性)ということも、コミカルに書かれてるけど。

ここまでニシノ氏をちょっと美化して書いたけれど、見る人が見れば、”だめんず” 何だと思う。
あんな男が世の中にいて、女性を独占していたら悔しいから、僕もニシノ氏をとりあえず「プレイボーイのダメ男」となじっておくことにする。

ただ、こんなことを書いてしまっては、女性の皆さんから抗議の声が上がるかもしれないけれど、女の子だってダメ男に惹かれてしまう気持ちってどこかにあるよね。
ちょっとキケンな臭いのする男に惹かれる気持ち。

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『古道具 中野商店』川上弘美

当blogでもずいぶんとたくさん読書感想文を書き散らしてきたけれど、川上弘美の『センセイの鞄』は印象に残っている小説のひとつであるし、その感想文を書いたときのこともよく覚えているし、実はその時の記事にまつわる後日談も僕にとっては忘れがたいものなのである。

そんなわけで、川上弘美は当方が無条件に追いかける作家の一人である。
無条件に追いかけているだけあって、たまにハズレもある。
『パレード』とか。大好きな『センセイの鞄』のプチ続編という位置づけなのだが、そのシマリのなさに僕はちょっとガッカリした。
むしろ、最近は、「もう川上弘美と決別しようかなぁ」とか思っていた次第。

そんな中、試金石として『古道具 中野商店』を読んでみた。
これを読んで、つまらなかったら、もう川上弘美を買うのはやめよう、と。

結論を言えば、『古道具 中野商店』は面白かった。かなり僕好みのお話だった。
これからも川上弘美を追いかけようと思う。
#実際、今日は本屋で『ニシノユキヒコの恋と冒険』を買ってきた。

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「パレード」川上弘美

川上弘美の名作「センセイの鞄」からのサブストーリー。

センセイとツキコさんが、ふたりで台所に立って、騒がしくそうめんを作っている。
偉そうに突っ込みを入れるセンセイと、ちょっぴり拗ねて見せるツキコ。
既にナニも勃たなくなってる年齢のセンセイと、とっくに薹が立ってしまっているらしいツキコなのだが、その”遅れてきた新婚生活”は、とてもゆったりとしていて愛くるしい。

しかし、本書の主題はふたりの後日談というよりも、ツキコが語る小学校時代の奇妙な昔話。
そして、その昔話の背後にある小さな罪の懺悔にフォーカスが当たっている。

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川上弘美

先日まで山本文緒にお熱だった当方ですが,ここ数日は川上弘美に夢中だったり.
つーか,「生身のおねーちゃんだけじゃなく,女性作家にまで節操もなくお熱になっちゃうのね」という心の声が聞こえてきたような,こないような.

おめでとう昨日は,「おめでとう」を本屋で購入.本日読む.
「天上大風」という話が面白かった.
主人公の女性のすっとぼけぶりが,ツボにはまりまくり.こういう,世間ずれした思考パターンの人いいよね.
元夫に「別れてくれ」って言われて,まぁ,言いなりになって別れちゃうんだけれど,後々になって「『別れてくれ』の”くれ”という言い方の,命令調かつ懇願調で,しかも親愛がこもっている様に腹が立ってきた」みたいな感じで.そこなんですか?アナタが気に入らないのは?^^;
若いツバメに預金通帳とハンコを持ち逃げされて,2万数千円で給料日まで20日を過ごすことになっても「返すって言ってたから,気にしてない」みたいにノーテンキだし.

なんだか,川上弘美の書く女性って,好きだな.ほわぁんとしていて頭のネジが吹っ飛んでそうなんだけれど,根は頑固でしっかりしているようなところ.

そうそう,彼女の記述する女性が魅力的なだけではなくて,いろいろ出てくる擬態語が勉強になる,国語が苦手だった当方としては.勉強になる上,ひじょうにやわらかい感じで情景が目に浮かんでくる.
(例示しようと思ったけれど,該当箇所を探すのが面倒だからやめた)

蛇を踏むハマったついでに,今日は図書館で「蛇を踏む」を借りてきちゃいました.
今週はJunk Cafeで,コーヒーをすすりながら川上弘美を読みふける木公が観察できるかと.

『センセイの鞄』川上弘美

世の中には2つのタイプの人間しかいない.○○と××だ

カッコつけ野郎が,よく使うフレーズですな.

たとえば
世の中には2つのタイプの人間しかいない.努力するヤツと努力しないヤツだ
とか
世の中には2つのタイプの人間しかいない.女に貢がせるオトコと女に貢ぐオトコだ
とか
世の中には2つのタイプの人間しかいない.ニュータイプとオールドタイプだ.私,シャア・アズナブルは,人類の革新を信じている
などなど.

そのノリで,ちょっと唱えておこう.
世の中には2つのタイプの人間しかいない.自身に満ち溢れたヤツ自信のないヤツ

皆さん,ご自身はどちらですか?

当方,前者でございます.
最近「モテて,モテて,困っております.体が持ちません」な状態です.
今日も今日とて,東京某所で某女の子とお茶したり.お茶の席で,このせりふをぶっこいてみたり.
しかし,それに対する某女の子の返事が,
へぇ~,そうなんですか.腰がガクガクでまともに立っていられないとか,そういう状態ですか?
とのこと.
おいおい,それは,夕方のオフィス街の喫茶店で,かわいい女の子が言うせりふですか?こっちの方が恥ずかしくなってしまいました・・・.

つーか,声を大にして言うけれど,
腰なんて使ってねーし!
もし使ってたら,アナタも今頃は無事じゃすまねーっつーの!

まったく,「木公と書いて紳士と読む」と一部で噂されているような,自分で勝手に思い込んでいるような,かわいい子羊の俺様を捕まえて・・・.

つーか,ごめんなさい.
本当は,当方「自身のないヤツ」です.
正直に言うと,お茶に誘うまではいいけど,「じゃあ,しっぽりとホテルにでもしけこみますか?」と言いたくても,絶対に応じてもらえるわけがないと思ってしまい,そのせいで嫌われちゃったらいやだなぁと自信がなくて,そういうことが言えない訳で.チキン野郎なわけで.ハイ.
そんな人生です,僕の人生なんて.

それは,まぁ,どーでもよくて.
センセイの鞄今日は,川上弘美著「センセイの鞄」を読んでみました.

いきさつは,某女の子が読書感想文を書いていたからです.
「いつも,ビジネス系のおカタイお話ばっかり書いてるのに,どないしてん?つーか,そんな雰囲気のblogにわざわざ書いたくらいだから,よっぽど面白かったんだろうなぁ」
と思って,読み始めたわけです.

まぁ,なんつーか,ほんとーに色気のねー話っつーか,年増女と偏屈じじぃの恋愛話.
センセイ(じじぃの方)は,もと教え子の年増女に言い寄られるんだけれど,知らん振りをしたり,はぐらかしたり,ずーっとそんな展開.
あー,もー,じれったい!
俺が許可する,ジジィでもいいから,やっちゃえっつーの!
そんなことを心の中で叫ばずにいられません.

しかし,イライラさせられながらも,グイグイと引き込まれて,途中で止めるに止められなくなるお話でした.

つーか,要するに,このジジィ「自信のないヤツ」なんだな.
自分の老い先短いことを悟っているし,一度結婚生活に失敗していることを気に病んでいるようだし,生物学的な「男」としてきちんと恋愛ができないのではないかと心配しているし.
そんなもんで,もと教え子と男女の仲になることに踏み出せないでいるんだな.

そういう自信のなさっつーのがあって,「紳士的」に接することが最大の愛情だと彼は思ってたんだろうな,きっと.
そういうの,俺的に「アリ」
えー話やないか.

ちなみに,一番印象に残っているのは,ある小島に二人っきりで旅行に行くところ.
現地で,亡くなった妻の墓参りだということがわかって,女性は憤慨するわけだ.まったく,センセイは女心がわかっていない,と思った.
しかし,そうすることでケジメを付けようとしたこと,そしてそのことを相手に理解して欲しかったというセンセイの気持ちは,僕的には「よくわかる」
いいじゃないですか.

当方,初老の男性にはほど遠い年齢ですが,こんな感想を抱きました.