第4週『若奥さんの底力』
新政府は全国統一の新しい貨幣を発行した。そのため、大坂で流通していた銀貨は価値がなくなった。
加野屋に銀貨を預けていた大坂町人たちが退去してやって来た。預け入れの手形を掲げ、金に替えて返せと乱暴に迫った。本来なら正吉(近藤正臣)が対応するはずだが、彼は腰を痛めて動けない。
正吉に代わって新次郎(玉木宏)が応対するのが筋であるが、商売の分からない彼は恐れをなして逃げ回った。それどころか、あさ(波瑠)に役割を押し付けてしまった。
あさは毅然とした態度で債権者と対峙した。
あさは金をすぐに返すつもりはなかった。加野屋が他所に貸している金も返ってきておらず、新政府からは莫大な戦費を負担しろと命令されている。ここで町人に返金すれば、加野屋の現金は底をついてしまう。
まずは興奮する人々を落ち着かせようとした。
ところが、債権者たちの勢いは少しも収まらなかった。
商売が成り立たなくなると嘆く商人や、赤ん坊を抱えて路頭に迷うと訴える母親の様子を見ているうちに情にほだされてしまった。
あさは決意を曲げ、金を返すことにした。
その決定に、新次郎(玉木宏)や番頭・雁助(山内圭哉)は猛反対した。加野屋の台所事情を考えれば当然である。あさとの間で揉めた。
すると騒ぎを聞きつけて、正吉が姿を現した。正吉はあさの味方をした。彼の鶴の一声で返金が決まった。
あさは、債権者ひとりひとりから事情を聞き、個別に返金するかどうか決めることにした。しかし、彼らの窮状を聞くと放っておくことができなくなり、結局ほぼ全ての人に金を返してしまった。
そのせいで、加野屋の蔵はほとんど空になった。
そんな中、正吉はひとつだけ金を借りるあてがあると話しだした。
奈良に、寺社仏閣の修繕で一代で財をなした者がいる。正吉は過去にその人物に金を貸して助けてやったことがある。その義理できっと金を貸してくれるのではないかと言うのだ。
あさは目を輝かせて、その人から金を借りられるよう手を尽くすことを決め、準備に取り掛かった。
あさが席を外すと、正吉は新次郎に向き直った。
正吉は、新次郎の人を見る目を褒めると共に感謝した。元々、あさは山王寺屋に嫁ぎ、姉・はつが嫁に来るはずだった。しかし、あさのおてんばぶりに愛想を尽かした山王寺屋が許嫁の交換を申し込んできたのだ。正吉は断るつもりだったが、新次郎があさのことを好きだというので応じた。その結果、あさという素晴らしい嫁を手に入れることができたのだ。それが新次郎の最大の貢献だという。
さらに正吉は、あさは「金の卵」だという。卵は正しく温めないと孵らない。彼女を守って助けることが新次郎の役目だと言いつけ、しっかりあさを支えるよう命じた。
偶然途中からその話を耳に挟んだあさは感激した。ふたりの前で、家のためにできることは何でもしたいと宣言するのだった。
その頃、はつ(宮﨑あおい)も山王寺屋のために何かがしたいと思っていた。
倒幕の混乱は山王寺屋にも影を落とし、加野屋よりも状況は悪かった。使用人を雇う余裕がなくなり、ほとんどの者に暇を出した。店や家は荒れ放題になっている。はつは少しでも何か手伝いたいと思っていたのだ。
そのことを義母・菊(萬田久子)に打ち明けたが、感謝されるどころか冷たくあしらわれた。
菊は、はつは琴を弾くことしか取り柄がなく、そんなものは今の状況では何の役にも立たないと皮肉を込めて言うのだった。さらには、はつの付き人のふゆ(清原果耶)にも辞めてもらうことにしたと告げた。
はつは、ふゆの姿を求めて家の中を探したが、見つけられなかった。何もかもが嫌になり、中庭に座り込んでしまった。
ふと気づくと、目の前に井戸があった。その井戸は、以前にふゆがあさから預かった手紙を誤って落としたと言っていたところである。
はつが中を覗くと、涸れ井戸になっており、底に手ぬぐいが落ちているのが見えた。
はつは棒きれを握り、手ぬぐいを取ろうと奮闘した。もう少しで棒が届きそうになり、もう少しだけ腕を伸ばした拍子に、あさは井戸の中に転落してしまった。
ふゆは家を出る支度をしていたのだが、その悲鳴を聞いて駆けつけてきた。しかし、彼女一人ではどうすることもできず、人を探しに行った。
井戸の底に落ちたはつだが、幸いひとつも怪我はなかった。
はつは手ぬぐいを拾って眺めた。そこには、あさの手で描かれたへのへのもへじと「わろてね(笑ってね)」の文字しか書かれていなかった。
あさから秘密裏に託された手紙だと聞いていたので、どんなに良いことが書いてあるのかと期待していたのだが、予想に反するバカバカしさに呆れてしまった。はつは思わず声を立てて笑った。
笑った瞬間、はつははっとした。この家に来てから声を出して笑ったのは初めてのことだと気付いたからだ。
そうしているうちに、井戸の上から惣兵衛(柄本佑)の声が聞こえてきた。彼は縄を準備し、それを使って自ら井戸の底へ降りてきた。先に笑っていたせいで、はつはとても呑気な様子で惣兵衛と対面した。
一方の惣兵衛は大慌てだった。「何してんのや!」と怒鳴った。直後、声を落として「よかった。死んだかと思った」と弱音を吐きながら、はつを強く抱きしめた。
しばらくして我に返った惣兵衛は、きまり悪そうに腕をほどいた。
はつはにやにやと笑っていた。
そして、はつはあさの描いたへのへのもへじを見せた。それが惣兵衛にそっくりだと言って、また声を立てて笑った。
はつは、あさのおかげで笑えたことを感謝した。
それからしばらくして、1968年9月。元号が明治に変わった。
あさは正吉の代理として、奈良へ借金の申し込みに向かった。
一方、はつと惣兵衛は、菊から京都へ行けと命じられた。
はつの実家の今井家は明治政府の御用達になって羽振りがよさそうだという。そこで、はつと惣兵衛が出向いて金を借りてこいというのだ。家の商売にとって役立たずのふたりにできることは、それしか無いなどと菊は冷たく言い放つのだった。
惣兵衛にとっては屈辱だった。