NHK『あまちゃん』第143回

今夜22時からNHK総合で『秋の夜長のあまちゃんライブ: 大友良英と仲間たち大音楽祭』が放送されることをお忘れなきようアナウンスする当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第143回めの放送を見ましたよ。

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第24週「おら、やっぱりこの海が好きだ!」

袖が浜では、磯野(皆川猿時)や種市(福士蒼汰)が中心となって海中の瓦礫やヘドロの撤去作業が急ピッチで行われた。それと並行して、ウニの放流も行われた。袖が浜の再生は急ピッチで進められていた。

ある夜、アキ(能年玲奈)はスナック梨明日の営業を手伝った。店の客は少なかったが、そこには種市もいた。アキと種市をふたりきりにしてやろうと画策したユイは、下戸の大吉(杉本哲太)に大量のアルコールを飲ませて酔い潰し、ヒロシ(小池徹平)を連れて家に帰ってしまった。店に残った客は、琥珀磨きに熱中する勉(塩見三省)だけとなった。

そうしてアキと種市は、ふたりだけで話をする機会を得た。

種市は、久しぶりに海に潜って、北三陸の海の素晴らしさを再認識したと話した。そして、地元の人々がどんなに落ち込んでいるかと心配していたが、みんなが明るく笑っていることに驚いたという。みんなが笑っていられる理由は、中心にアキがいるからだと断定した。東京時代もそうだったが、アキの周りにはいつも人が集まり、楽しそうに笑うのだという。
アキとユイの違いもそこにあるという。ユイは、彼女の笑顔を見たくてみんなが集まる。一方のアキは、見ている側を笑顔にするのだ。それはまるで、太陽と月のようだという(はじめは勉が言った言葉)。太陽であるアキが、月であるユイを照らし、それぞれに独特の輝きがある。そしてその2つは最強の組み合わせだと言うのだった。

翌朝、アキはユイから首尾を聞かれた。しかし、アキが話をしただけだと報告すると、アキの消極的な態度に、ユイは呆れるとともに怒りだした。ユイによれば、女ざかりは短いのだから、もっと積極的に種市と付き合わなくてはならないと言うのだ。しかも、ユイはアイドルは諦めたけれど、「女」は諦めていないという。アキがうかうかしていると、自分が種市を奪うかもしれないと脅すのだった。

ユイと種市は以前に付き合っていたことがある。しかも、種市がユイに惚れていたのだ。種市が北三陸に帰ってきて、ユイと接近すると、ふたりが元の鞘に収まってしまうかもしれない。アキは戦慄するのだった。種市は瓦礫撤去作業が終わるまで残ることを決めたという。アキは嬉しい半面、ユイのことが気になって、種市を隔離したいと思った。種市に早く東京に帰れなどとめちゃくちゃなことを言うのだった。

そんな時、岩手こっちゃこいTVのディレクター・池田(野間口徹)が北三陸市を訪れた。彼は以前からユイとアキに注目していた人物であり、ユイが情報番組に出演するきっかけを作ったり、潮騒のメモリーズのお座敷列車を番組で取りあげたりしてきた。今回、復興ドキュメントの制作を企画しており『震災が変えた少女達の運命』というタイトルの下、アキやユイの取材をしたいのだという。池田は、アキからユイの出演を説得して欲しいと言う。ふたりの姿が放送されれば、全国から応援の声が届き、励まされるだろうと言うのだ。
しかし、アキは即座に取材を断った。アキが北三陸に帰ってきたのは、地元の復興のための自己犠牲の精神や全国の同情を誘うためではないというのだ。自分は海に潜りたいだけであり、そのために海の浄化をするという利己的な目的なのだという。海女カフェを再建するのも親しい人々の集いの場を作りたいだけであり、北三陸鉄道の復旧も自分の大好きな可愛らしい車両の走る姿をもう一度見たいだけなのだという。だから、全国からの応援はいらないというのだ。

それに、ドキュメンタリの企画書を見ると、アキだけが頑張っていて、アイドルの夢の破れたユイがスナックのママとなってくすぶっているように見える。ユイは表舞台に出ることを諦めたのではなく、辛い体験を乗り越えようと奮闘している最中だというのがアキの見立てだ。難しい時期のユイを無理に表舞台を立たせるようなことはしたくないというのがアキの意見だ。それでドキュメンタリ取材を断った。

その時、駅にいるユイから連絡が入った。全身黒のライダースーツに身を包んだ怪しい男が駅にいるという。どうやらアキの知り合いらしいというのだ。

それは無頼鮨の大将・梅頭(ピエール瀧)だった。

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NHK『あまちゃん』第142回

10月2日に発売される山瀬まみ『パーフェクト・ベスト』のジャケット写真をやっと見たわけだが、かわいいっちゃかわいいのだけれど、どうも彼女の真のかわゆさを反映していない写真に思えて仕方がなく、アルバム『Private Edition』のジャケ写を超える写真(下図、JR山瀬駅での記念撮影を参照)は未だに無いと信じている当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第142回めの放送を見ましたよ。

山瀬駅に山瀬まみ

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第24週「おら、やっぱりこの海が好きだ!」

安部(片桐はいり)と種市(福士蒼汰)が北三陸に帰って来た。ユイ(橋本愛)も昔のように明るくなり、ヒロシ(小池徹平)と他愛のない兄弟げんかを繰り広げる。町の大人たちも下世話な話で盛り上がっている。アキ(能年玲奈)には昔の北三陸が戻ってきたようにで嬉しくてたまらなくなった。一方で、もうこれ以上の幸せはないのではないかと不安にも思うのだった。

観光協会では、磯野(皆川猿時)が袖が浜の環境調査結果を報告した。津波で大量のウニが浜に打ち上げられたのに加え、海底に瓦礫が散乱していることで餌となるワカメなども減少しているという。このままウニ漁を続ければ、袖が浜のウニは絶滅すると言うのだ。ウニが繁殖し、元の数に戻るまで3-4年を要すると考えられる。瓦礫の存在自体も危険なため、海女が海に潜ることも自粛するよう勧告した。瓦礫の撤去には今年いっぱいかかると見積もられるという。

しかし、海女たちはそれを受け入れることができなかった。明治以来の伝統的漁を途絶えさせるわけにはいかないし、他の仕事もないというのだ。

種市から、他の海域から産卵用のウニを買い付けて放流するというアイディアが出された。漁協長・長内(でんでん)が、付き合いの深い八戸の漁協などに連絡を取り、早速ウニの買い付けの手はずを整えた。

それでも海女漁に反対する磯野に、夏(宮本信子)は早急に海底に瓦礫撤去をするよう命じた。お盆まで休漁することを受け入れるので、それまでに急ピッチで作業を行なえと言うのだった。夏は、危機的状況だからこそ本気で頑張らなくてはならないと主張した。いつまでも被災地だと言われ続けることに甘んじるわけにはいかないというのが夏の考えだ。

夏の前向きな発言に、磯野をはじめ、みんなが心を動かされた。磯野は早急な瓦礫撤去を約束し、人手不足を補うために種市にも海底作業を手伝うよう要請した。もちろん種市は快く応じた。それだけではなく、町の青年部にも夏の言葉が伝わり、多くの若者たちが作業を手伝った。その間、海女たちは、他の地域から材料を仕入れ、ウニ丼を増産した。

北鉄が復興祈願列車を運行し、その車中でアキがウニ丼を販売した。アイドルオタクたちが大勢やって来て、ウニ丼は飛ぶように売れた。運休している線路の上を歩く「レールウォーク北鉄」も実施された。ついこの前まで東京でアイドル活動をしていたアキは、オタクたちの心を掴むのが上手かった。イベントにも大勢のファンが集まった。イベントには合計で1133人が集まり、大成功だった。

吉田(荒川良々)はイベントが成功したことを喜んだ一方で、ミス北鉄であるユイが参加してくれればもっと多くの人が集まるだろうと惜しんだ。しかし、ユイは手伝うつもりは毛頭ないと答えた。スナックでアルバイトをする自分が身の丈に合っており、そんな自分が好きなのだという。みんなからチヤホヤされない代わりに、陰口を言われることもなくなった。それで満足なのだという。

アキは、ユイと一緒に歌いたいと密かに願っていた。しかし、ユイの決意が固いことを改めて知り、途方に暮れるのだった。

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NHK『あまちゃん』第141回

公式サイトのアキ(能年玲奈)の画像の右腕に、新たに網で作ったミサンガの加わったことを確認した当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第141回めの放送を見ましたよ。

アキの右腕にミサンガが増えた。2013年9月10日閲覧。

アキの右腕にミサンガが増えた。2013年9月10日閲覧。


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第24週「おら、やっぱりこの海が好きだ!」

鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)と荒巻(古田新太)は、1989年にふたりで芸能事務所を立ち上げ、それと同時期に内縁の夫婦関係となり現在に至る。しかし、大震災を経験したことで、互いをかけがえのない存在だと再認識し、正式に結婚することを決めた。

これまでも結婚を発表しようと思ったことはあったのだが、根っからのプロデューサー気質である荒巻は、派手な結婚式を挙げ、マスコミも巻き込んでテレビで大々的に中継することを目論んでいた。2002年には式場を予約し準備も整えたのだが、裏番組でアントニオ猪木がスカイダイビングを行うことがわかった。それに視聴者を奪われることを懸念した荒巻は、結婚式を中止してしまったことがあるのだ。それが今回、ついに結婚を発表することを決意した。

春子(小泉今日子)は複雑な思いをした。ふたりが付き合い始めたのは、ちょうど春子が歌手を諦め、正宗(尾美としのり)と付き合い始めた頃だ。春子は鈴鹿と荒巻のせいで、自分が歌手になれなかったと恨んでいた。歌手になるはずだった自分の将来は鈴鹿に奪われてしまった。その代わり、妻となり母となるという平凡だが幸せな女の人生を手に入れたと思って優越感に浸っていた。それは、国民的女優として成功するために、鈴鹿が諦めた将来だからだ。けれども、鈴鹿が結婚するということは、彼女が春子と同じ幸せをも手にすることになるのだ。

春子は鈴鹿の結婚に反対するわけでも、妬むわけでもなかった。祝福したい気持ちに偽りはなかった。しかし、自分と鈴鹿の人生を対比し、彼女に対して鬱屈した優越感を持っていたことに気付き、複雑な思いをしたのだった。

鈴鹿と荒巻の結婚はスポーツ新聞の一面を飾るなどし、震災後の明るい話題として世間を大きく騒がせた。

8月になり、安部(片桐はいり)が袖が浜に帰ってきた。「まめぶ大使」として旅立って以来、3年ぶりの帰郷であった。まめぶを100万食売るという目標(実際にはそばやうどんも含む)を達成したので、晴れてまめぶ大使の仕事を終了するというのだ。

長く北三陸市を離れていた安部は、アキ(能年玲奈)の作った海女カフェを一度も見たことがなかった。写真や話を見聞きするにつれ、海女カフェが津波で流されてしまったことをますます残念に思うのだった。

そんな安部の様子を見ていたアキは、みんなの前で海女カフェを再建すると宣言した。海女カフェを安部に見せることはもちろん、ユイ(橋本愛)や夏(宮本信子)の笑顔を取り戻したいと思ったからだ。しかし、再建への道筋は険しくも思えた。海女カフェを営業するためには、客が集まらなくてはならない。しかし、津波の影響でウニが減ってしまったため、観光海女を見に来る観光客も激減した。観光客を集めるためには、袖が浜の海を再生しなくてはならない。アキには途方も無い道のりに思えた。

そんなある日、種市(福士蒼汰)が北三陸に帰ってきた。本当は盆に帰省する予定だったのだが、地元の事が気になる種市は少し早めに帰ってきた。そして種市は、北三陸駅の駅舎で、誰よりも先にユイと出くわすのだった。

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NHK『あまちゃん』第140回

2013年の新語・流行語大賞は本ドラマの大ヒットを受けて「じぇじぇじぇ(‘ jjj ’)/」が受賞することはまず間違いないと思うのだが、劇中でも幼児向け番組『じぇじぇじぇのぎょぎょぎょ』が子どもたちの間で大人気になったということにして「2011年新語・流行語大賞を受賞した」というフィクション(現実の受賞はこちら。「なでしこジャパン」や「ラブ注入」など)を作り上げれば、現実と虚構でのダブル受賞という面白いことになるんじゃないかと夢想した当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第140回めの放送を見ましたよ。

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第24週「おら、やっぱりこの海が好きだ!」

アキ(能年玲奈)は、改めて地震と津波の被害を見て回った。それらは直接被害に遭わなかったアキですら震え上がるほど凄惨なものだっだ。

ユイ(橋本愛)が北鉄に閉じ込められたトンネルも見に行った。車両が止まったほんの先は、津波による瓦礫が散乱し、レールも寸断されていた。一歩間違えば大変なことになっていただろうことが容易に想像できた。当日ユイが見た光景はもっと酷かったのだろうと思うと、心が傷んだ。
袖が浜の漁港には船が一艘もない。陸上にはひっくり返った乗用車が残されている。あちこちに底引き網が片付けられずに放置されている。漁師にとって網は神聖なものであり、捨てるに捨てられないのだという。

ユイだけではなく、地元の人々はみな多くのものを失ったはずだ。それでも明るく笑って暮らしている姿にいたたまれない気持ちになった。

その時、アキは使い物にならなくなった網を材料にミサンガを作ることを提案した。以前から普通の糸を使ってミサンガを販売していたが、材料費もバカにならないので最近は作成を自粛していると聞いていたからだ。放置されている網を使えば、材料費を節約できるというのだ。

漁協長・長内(でんでん)らは反対した。神聖なものである網を切り刻んでアクセサリーの材料にすることは不適切だというのだ。しかし、夏(宮本信子)だけはアキのアイディアに賛成した。漁師たちも常に網を身につけていれば、一日も早く漁を再開しようという励みになるだろうからだ。それに、ミサンガの売り上げで新しい網を購入することもできる。網で作ったミサンガが復興の足がかりになるというのだ。そのように説得され、人々は網でミサンガを作ることに同意した。

網で作ったミサンガはなかなかの出来だった。ヒロシ(小池徹平)はアキの出演する宣伝ビデオを撮影した。アキはユイも一緒に出演することを願ったが、震災後表舞台に出ることを避けているユイは頑なに断った。アキはそれをしかたなく思った。

アキは新しく作ったミサンガを東京の種市(福士蒼汰)にも送った。南部ダイバーたちは、海底調査に駆り出され猫の手も借りたいほど忙しいのだという。アキは、種市にも帰郷して作業を手伝って欲しいという声のあることを彼に伝えた。しかし種市は、自分は南部潜りを辞めて時間が経っているし、今は寿司職人の修行中だと言って断ってしまった。その代わり、お盆には帰省すると電話で約束するのだった。

アキは夏のことが心配になった。夏は高齢であり、昨年は心臓を悪くして倒れた。春子(小泉今日子)は東京におり、地元の人々も震災復興に手がいっぱいである。夏が再び倒れたとしても、まともに面倒を見れる人がいない。津波で恐ろしい目に遭って、心に傷を負っていないかも心配になった。それで、海女漁を辞め、よその土地で暮らすことを打診した。

しかし、夏は袖ケ浜を離れて暮らす気は毛頭ないと言う。夏が大津波を経験したのは生涯で2度めだというのだ。50年前のチリ地震でも津波があった。海は時折、大きな牙をむく。それでも海から離れて暮らす気にはなれないと言う。
長内とかつ枝(木野花)は一人息子を海の事故でなくしている。その上、今回の津波で亡き息子の遺影や遺品が全て流されてしまった。それにも関わらず、彼らは海のそばを離れずに笑って暮らしている。
夏が夫・忠兵衛(蟹江敬三)と出会ったのも袖ケ浜の海である。自分の食い扶持も全て海の恵みである。そんな海が一度や二度荒れたからといって、よそで暮らす気には一切なれないと夏は言うのだった。

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NHK『あまちゃん』第139回

先週、飲み会の席で某美人大学院生に「無人島に持っていくとならどの漫画?」と聞いてみたところ『課長 島耕作』という渋い答えが返ってきて魂の震えた当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第139回めの放送を見ましたよ。

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第24週「おら、やっぱりこの海が好きだ!」

袖が浜の海開きが行われたが、課題が山積していた。

大津波のせいで、ウニが激減していたのだ。例年の漁獲高の80%にもあたる大量のウニが陸に打ち上げられ、そのまま死んでしまった。海に潜ったアキ(能年玲奈)はさっぱりウニを獲ることができなかった。

北三陸鉄道の全線復旧には80億円かかると見積もられた。国からの補助なしには到底準備できそうもない。しかし、東日本大震災の被害は甚大であり、北三陸鉄道のみに税金をつぎ込むわけにもいかない。復興予算は他の用途に使うべきだという声も多い。

しかし、大吉(杉本哲太)をはじめ、北三陸の人々は北三陸鉄道の復旧を目標として掲げた。大地震の中、津波の被害を逃れ無傷だった車両は「奇跡の車両」と呼ばれ復興のシンボルとなっている。地元の人々の心の拠り所になるとともに、全国の鉄道ファンからの応援も多数寄せられている。それらの期待に応えるため、採算を無視してでも走らせたいと言うのだった。

けれども、莫大な復旧予算のことが頭痛の種だった。金の話になると、みんなは黙りこんでしまうのだった。アキは津波を被災した海女カフェの復旧を提唱するつもりでいたが、予算配分の優先順位を考えると何も言えなくなってしまった。

復興予算の配分にあたっては、県議会議員の足立功(平泉成)に期待が集まった。しかし、功は議員を辞職してしまったのだという。町の人々はがっかりするのだが、功には目的があった。翌年の北三陸市長選挙に出馬するというのだ。北三陸鉄道の全線開通を目標の一つに掲げ、地元に密着した復興計画の見直しと立案・実行をする目論見だという。その決断に町の人々は大いなる期待を寄せた。

アキとユイ(橋本愛)はふたりきりで話をした。町の人々は、アキとユイの潮騒のメモリーズの再結成に期待を寄せている。しかし、ユイはやりたくないという本音を打ち明けた。地元の復興のために協力を惜しむつもりはないが、歌ったり踊ったりすることは、今の自分がすべきことではないと言うのだった。

アキはユイの言い分を黙って聞いているしかなかった。3月11日、ユイは北鉄の車中で大地震にあった。危機一髪で津波の難を逃れ、無事だった。ユイは多くを語らないが、アキの想像を絶するような体験をしたのだろうと思われた。ユイの心境を思うと、アキはそれ以上何も言うことができないのだった。

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NHK『あまちゃん』第138回

昨日、一見すると草食系男子だけれど、中身は肉食系男子を表す「ロールキャベツ系男子」という言葉を覚えた当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第138回めの放送を見ましたよ。

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第23週「おら、みんなに会いでぇ!」

アキ(能年玲奈)はみんなと一緒に海女カフェの様子を見に行った。海女カフェは、アキが中心となって開設したものであり、北三陸でのアキの大きな思い出の一つなのだ。海のそばに建てられていた海女カフェは、大津波の被害をまともに受けていた。建物内部は流されてきた瓦礫で埋め尽くされており、壊滅状態だった。みんなは営業再開はほぼ不可能だと肩を落としている。

夏(宮本信子)はアキに話しかけた。海女カフェが破壊されてしまったのは誰のせいでもない、自然のせいなのだと諭した。人間は、普段から自然の良いところばかり利用するが、自然の恐ろしさからは目を背けている。それは傲慢なことだと言うのだ。

夏はアキに諦めさせるために話したつもりだった。しかし、アキは逆の意味に受け取った。自然には敵わないのだから、起きてしまったことをクヨクヨと悩んでも仕方がないのだと解釈した。それで、海女カフェの復活を目指すことを宣言した。他の人々は反対したが、そんなことに屈するアキではなかった。夏はアキのことを頼もしく思った。不敵に笑うと、何も言わず好きにさせることにした。

東日本大震災以降、アキは自分の無力さを思い悩んでいた。地元の復興に対してどんな貢献ができるかわからず、鬱屈していた。東京でニュースを見聞きしていると、つらいことばかり伝えられ、良い話はほとんど耳に入ってこない。しかし、実際に被災地に来てみると、人々は意外にも元気に笑っている。その笑顔を一層輝かせるためにも、海女カフェの再建が必要だと思った。そして、自らが作った海女カフェだからこそ、その中心になるのは自分しかいないと思うのだった。

しかし、ユイ(橋本愛)は冷ややかだった。アキが出演する番組『じぇじぇじぇのぎょぎょぎょ』ならば映像を逆回転させることで、壊れたものを簡単に直すことができる。しかし、現実の世界は逆回転できないのだと指摘した。

アキとユイは、久しぶりにふたりきりで話をした。ユイは新しい恋人ができたと打ち明けた。ハゼとジミ・ヘンドリックスを足して2で割ったような外見で良くはないが、とても優しい男性だという。スナック梨明日での仕事も再開し、今は落ち着いて暮らしているという。昔は大嫌いだった北三陸だけれど、今は少しずつ好きになり始めていた。

ユイは、アキに帰ってきた理由を訪ねた。アキは、震災で心細くなったユイから会いに来て欲しいと言われたことも帰郷の理由だと位置づけていた。しかし、ユイは自分の言葉を忘れている日のようだった。アキは少しがっかりした。

それでもアキは明るく答えた。東京へ行ったことがなく、ほとんど地元しか知らないユイのために、北三陸が世界で一番良い場所だと教えるために帰ってきたと話した。だから、ユイは北三陸で暮らせば良いと肯定した。それを聞いたユイも、満面の笑みを浮かべた。大好きなアキが嘘を言うはずがなく、その言葉を信じると言うのだ。ユイは、東京でアイドルになることは完全に諦めたと言った。自分がファンの待つ東京に行くのではなく、ファンの方が北三陸まで会いに来ればいいのだと言う。
ユイはアキが帰ってきたことを心から感謝した。アキも胸のつかえが取れ、満面の笑みを浮かべるのだった。

7月1日、海開きが行われた。今年の海開きは、復興祈願を兼ねたイベントと位置付けられた。地元の新聞やタウン誌の取材の他、大勢のアイドルおたく達も駆けつけた。

アキも絣半纏の海女装束を身につけ、海女として復帰した。

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NHK『あまちゃん』第137回

仕事をサボってネットサーフィンしている時に、ふと『地元に帰ろう』の替え歌を思いついてしまい(歌詞は文末)、後ろめたい気分になってしまった当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第137回めの放送を見ましたよ。

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第23週「おら、みんなに会いでぇ!」

2011年6月24日、アキ(能年玲奈)は高速バスで北三陸駅前に降り立った。実に1年半ぶりの帰郷だった。

2008年に初めて北三陸市に来たときも人気が少ないと感じたが、今はそれ以上に閑散としていた。町のあちこちに地震と津波の爪痕が残っている。大震災の津波は川をさかのぼって北三陸市街を襲ったという。ただし、川が二股に分かれていたおかげで勢いが弱まり、さほど大きな被害には至らなかった。それでも沿岸部では流された家屋や自動車も少なくなかった。覚悟してやって来たアキだったが、その光景にショックを受けた。

駅前ビルの観光協会を最初に訪ねてみたが無人だった。室内には支援物資や人々の安否情報が無造作に置かれていて、一層寂寥感を高めているのだった。観光協会長・菅原(吹越満)やヒロシ(小池徹平)が丹念に作っていた町の観光ジオラマも潰れており、アキは悲しい思いをした。もっと早くに帰って来るべきだったと後悔した。

袖が浜の夏(宮本信子)の家までは北三陸鉄道で向かうことにした。駅舎に入ると中は薄暗く、他の乗客の姿は一切見えなかった。駅員の大吉(杉本哲太)や吉田(荒川良々)もいない。線路の復旧は進んでおらず、今でも北三陸駅と袖が浜駅の1区間だけしか運行されていない。復興支援の運賃無料サービスは5月いっぱいで終了していた。アキは料金100円を無人の窓口に置いてホームに向かった。

車中でアキは、北三陸で暮らした日々のことを思い出した。この列車にはユイとの思い出がたくさんある。彼女と出会ったのも北鉄の車中であったし、ふたりで海女の装束を着てウニ丼の車内販売を行った。通学も一緒だったが、種市(福士蒼汰)を巡る三角関係の時にはアキはユイを車内で無視した。お座敷列車イベントではふたりで歌い踊った。たった3年以内の出来事であるにも関わらず、アキにはそれらが全て遠い過去の出来事のように思われた。あの楽しかった日々は二度と帰らないのではないかと思われ、ますます寂しい思いが掻き立てられた。

車両が袖が浜駅に近づくと、外から歓声が聞こえてきた。そして、それまで乗務員室に隠れていた吉田が姿を現した。吉田が窓を開けると歓声はますます大きくなった。アキが身を乗り出して見ると、袖が浜駅のホームには懐かしい人々が集まっていた。旗を振り、プラカードを持ち、アキの帰郷を盛大に歓迎していた。安部(片桐はいり)からアキの帰郷を知らされていた町の人々は、みんなでアキを驚かせようと待ち構えていたのだ。

アキがひとりひとりの顔を見ると、全員笑っていた。みんなの元気な姿にアキも大きな笑顔で応えた。アキは、みんなが以前にも増してよく笑っていると感じた。強さと明るさが増し、笑っていられること自体が嬉しくてたまらないのだろうと思うのだった。

吉田としおり(安藤玉恵)の夫婦には女の子が生まれた。余震と停電の続く中、急に産気づいたのだという。それでも元気な赤ちゃんが生まれ、ふたりはとても嬉しそうだった。シングルマザーで2人の子どもを育てる花巻(伊勢志摩)はパートに忙殺されているという。少しだけ仕事を抜け出してきたと言い、アキを出迎えるとすぐに仕事に戻っていった。かつ枝(木野花)と長内(でんでん)の暮らしていた集落(ふたりは離婚したまま一緒に住んでいる)は津波で全壊したという。今は親戚の家で世話になりつつ、仮設住宅の申込中だという。

それぞれ、大震災で生活が様変わりした。それでも落ち込むことなく、前向きに楽しげに生きている。笑っている。それにつられて、アキも元気をとりもどすのだった。

ただし、その場に夏の姿だけがなかった。一同と共に天野家に向かったが、やはり夏の姿だけはなかった。アキは漁港へ行ってみることにした。港には大量の瓦礫が残っており、津波から3ヶ月以上経った現在でも撤去作業が続けられていた。アキは大津波がどんなに恐ろしいものだったろうかと想像した。海の恐ろしさを見せつけられた以上、海女たちも仕事を続けることは無理だろうと思った。実際、夏に今年の海女漁のことをメールで訪ねても、まともな返事は一切返ってこないのだ。

アキが海のそばに立って放心していると、誰かにウニをぶつけられた。驚いてウニの来た方を見ると、夏が海から顔を出していた。体調不良や震災を乗り越えて、夏は海女漁の現場に復帰していたのだった。夏は、海女ほど面白いものはなく、そう簡単にやめられはしないと高笑いするのだった。そうしていると、他の海女たちも準備を整えて集まってきた。彼女らも夏と思いは一緒だった。

アキは、夏がメールへの返事をよこさないことを責めた。すると夏は何かを思い出したように懐をまさぐった。そこから出てきたのは携帯電話だった。夏はポケットに携帯電話を入れたまま海に潜る癖がついてしまったという。当然、携帯電話は故障していた。これで4回目だという。だから返事ができなかったのだ。

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NHK『あまちゃん』第136回

昨日の放送は完全に蛇口(松田龍平)のターンであり、またしても女性ファンの心をガッチリ鷲掴みにしたかと思うと敵意がメラメラと燃え上がって来たので、蛇口から放水される場面を晒して溜飲を下げようとしている当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第136回めの放送を見ましたよ。

「それ、めちゃめちゃ帰りたがってるよ!」

「それ、めちゃめちゃ帰りたがってるよ!」


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第23週「おら、みんなに会いでぇ!」

これまで本心を隠していたアキ(能年玲奈)だったが、ついに春子(小泉今日子)の前で北三陸に帰りたいと明言した。

春子は呆れて怒りだした。アキがそれまでの生活を中途半端なまま捨て、新しい世界に飛び込みたいと突然わがままを言うのがこれで4回目だからだ(1:海女になること、2:南部潜りを始めること、3:アイドルになること、4:北三陸へ戻ること)。春子は、アイドルとしてのアキは今が踏ん張りどころであり、ここで活動をやめるとB級アイドルのままで一生を終えることになると説得した。

しかしアキは、今は芝居や歌よりも、北三陸市の人々のことが気になって仕方ないのだと力説した。アキが一度言い出したら聞かないことを知っている春子は、諦めざるを得なかった。アキの好きにさせることにした。

そして、春子も一緒に北三陸へ帰る素振りを見せた。するとアキは、即座にそれを留めた。春子は正宗(尾美としのり)と寄りが戻りつつあるのだから、東京で一緒に暮らすべきだと主張した。この1年半、親子3人で楽しく暮らしたことをアキは喜んでいる。春子と正宗がこのまま仲良くしていることを望むのだ。それから、スリーJプロダクションに移籍した鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)のことも気にかかった。彼女は震災で大きなショックを受け、被災者に対して何もしてやれない自分を思い悩んでいる。スランプに陥った鈴鹿を立ち直させることを春子に託すのだった。

アキは居住まいを正し、春子に「社長」と呼びかけた。自分が去ることへの謝罪と春子の使命への期待を込めて、深く頭を下げた。春子はアキに背中を向けて目を潤ませた。正宗とやり直すこと、娘に託したアイドルの夢が挫折すること、子どもだと思っていたアキが一人前の口を聞くようになったこと、アキと別れてしまうことなど、相容れない多くの思いが去来したからだ。

一方のアキは、震災以降で初めて心からの笑顔を見せた。

それからアキは、東京の人々へ別れの挨拶回りを始めた。

水口(松田龍平)は喫茶アイドルで繰り広げられたアキと春子のやりとりの一部始終を聞いていたが、カウンターに座ったまま一切口を挟まなかった。アキから「お世話になりました」と頭を下げられたときも、背中で聞くばかりで何も話さなかった。

翌日、アキは撮影中の鈴鹿を訪ねた。仕事に身の入らない鈴鹿はアキとの別れを惜しみ、自分も一緒に行きたがった。しかし、事務所社員として水口がそれを押し留めた。アキは、鈴鹿から贈られた言葉を引用し、それを生涯忘れないと約束した。その言葉とは、「向いてないのに続けるのも才能だ」というものだ。自分で言ったことをすっかり忘れていた鈴鹿は、それに感銘を受け勇気づけられた。女優の仕事を続けることに悩んでいたことが馬鹿らしくなり、鈴鹿は完全にやる気を取り戻した。鈴鹿は快活にアキの背中を押して送り出すのだった。

それから、ハートフルの荒巻(古田新太)や河島(マギー)に挨拶をし、無頼鮨でGMTメンバーや梅頭(ピエール瀧)に別れを告げた。その場には、東京に残ることにした(片桐はいり)も駆けつけた。
ただし、種市(福士蒼汰)だけは厨房で真剣に玉子焼きを焼いており、客席に一切顔を出さなかった。アキはその背中を見つめるだけだった。

アキは、人にはそれぞれの生活や目標、立場のあることを理解していた。地元へ帰る者(今の自分)、東京に残る者(震災直後の自分)、逆に、東京が地元なのに地方へ行く者(初めて北三陸へ行った自分)。アキにはそれぞれの気持ちがよく分かるのだった。

岩手行きのバスに乗る直前、種市が駆けつけ。自分で焼いた卵焼きをアキに持たせた。種市は、今は東京で修行を積み、一人前になったら北三陸へ帰ると約束した。それまでは遠距離恋愛を頑張ろうと爽やかに送り出した。

アキと種市は、南部ダイバーを歌いながら別れた。バスで一人になったアキは、種市の玉子焼きを涙ながらに頬張った。

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NHK『あまちゃん』第135回

車の中では『あまちゃん 歌のアルバム』をヘビロテ中の当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第135回めの放送を見ましたよ。

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第23週「おら、みんなに会いでぇ!」

春子(小泉今日子)はアキ(能年玲奈)の様子のおかしいことが気にかかった。アキは何も言わないが、北三陸市に帰りたがっているように思えるのだ。そのことを水口(松田龍平)に相談した。そんなことを少しも想像していなかった水口は動揺してしまった。

5月20日、アキは雑誌のインタビューを受けていた。現場に立ち会った水口は、確かにアキの表情が硬いことを認めた。特に、話題が北三陸市の被災状況に及ぶと、アキは如実に顔を曇らせるのだ。

それでも東京に残り、健気に頑張るアキの様子を見ていると、水口は辛くなった。アキが北三陸に帰りたがっているなら、それを叶えてやるべきではないかと思うのだ。一方で水口は、ここでアキを北三陸に帰してしまうと、売れ始めたアキの芽を摘んでしまう結果になることを心配した。これまでの苦労が全て水の泡となるのだ。水口は、アキを北三陸に帰してやりたいという考えと、東京でアイドルの仕事をさせたいという考えが葛藤しはじめた。

その頃、GMTが岩手県大船渡市で被災地応援イベントを開いたというニュースがテレビで流れていた。「地元に帰ろう」の歌詞が時流に合い、被災地の人々も大いに盛り上がったという内容だった。アキと水口は、それを複雑な思いで見ていた。
一方、アキの主演映画『潮騒のメモリー: 母娘の島』やその主題歌は大津波を連想されるとして、上映や演奏が自粛されていた。

6月1日、水口がアキの新しい仕事を取ってきた。『私らの音楽』へ、GMTと共に出演して『地元に帰ろう』を歌うという依頼だった。水口の説明によれば、そもそもGMTの出演のみが決まっていたのだが、荒巻(古田新太)やGMTからアキと共演したいという強い要望があったのだという。3月12日に開催されるはずだったアキとGMTのコンサートは結局中止になってしまった。その埋め合わせとして是非共演したいとオファーがあったと言うのだ。アキは喜び、即座に出演を決めた。

ただし、GMT側が希望したという水口の説明は嘘だった。本当は水口が荒巻に持ち込んだ企画だったのだ。荒巻は水口に恩を売るため、渋々ながら希望を叶えてやることにしたのだ。

水口は、アキを東京に留めておきたかった。そのため、なりふり構わぬ手段に出始めていた。荒巻に企画を持ち込んだのもその一環だ。ついには、種市(福士蒼汰)にも協力を仰ぐのだった。アキを東京に繋ぎ止めるためには、種市との恋愛も必要だと決断した。種市に会い、アキと積極的に恋愛関係を進めるよう告げた。予備校との広告契約でアキの恋愛は禁じられていたが、それを破ることを認めるのだった。そうでもしないと、アキは北三陸に帰ってしまうと思われたのだ。

そして、番組『私らの音楽』の収録が行われた。アキとGMTは『地元に帰ろう』を熱唱した。その模様を見ていた水口は感極まってしまった。席を外し、陰でひっそりと泣くのだった。

収録が終わってしばらくしてから、アキは春子と正宗(尾美としのり)の前で岩手に帰りたいと宣言した。

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NHK『あまちゃん』第134回

昨日の放送の最後でアキ(能年玲奈)のミサンガが1本切れたのに合わせて、公式サイトのアキの写真からもミサンガが1本消えたことを確認した当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第134回めの放送を見ましたよ。

公式サイトのトップ画像。2013年9月2日閲覧。

公式サイトのトップ画像。2013年9月2日閲覧。


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第23週「おら、みんなに会いでぇ!」

3月11日夜。
アキ(能年玲奈)はやっとユイ(橋本愛)と電話で話すことができた。ユイは緊急停止した車両から出て、線路を歩いて避難の途中だという。アキは延期されたコンサートをぜひ見に来て欲しいと励ましたが、ユイはもう東京には行くことができないと言う。北三陸の惨状を伝え、東京に行く手段は絶たれたと言うのだ。しかも、あまりに恐ろしくて仕方がないと言う。自分が東京に行くのではなく、アキに北三陸へ来て欲しいと言うのだ。そこまで話すと、ユイは一方的に電話を切った。

それからアキは、上野から世田谷の自宅まで徒歩で帰路についた。交通機関は麻痺し、自分と同じように歩いて帰る人々で街はごった返していた。アキは東北の悲劇やユイの心境を思うと、自分も暗くふさぎこんでしまった。

深夜に自宅へたどり着くと、春子(小泉今日子)と正宗(尾美としのり)は寝ずに待っていた。アキが自宅に連絡をしなかったので、ふたりはアキのことを心配して待っていたのだ。アキの無事を確認すると、ふたりは安堵した。

春子は夏(宮本信子)と連絡がとれないと言って心配していた。ところが、夏はアキにだけはメールを送っていた。20時ころに届いたメールには「御すんぱいなく」とだけ記されていた。アキがそれを春子に見せると、やっと春子は落ち着いた。

翌12日。
北三陸市では、早くも人々が総出で復旧作業が開始された。

大吉(杉本哲太)は早急な鉄道の運行再開を決意した。袖が浜付近のレールはほとんど損傷がなかった。安全さえ確認されれば運行に問題はないというのだ。津波によって多くの自動車が流され、道路も瓦礫で壊滅している。そんな中、鉄道こそが交通の要となることは間違いない。しかも大吉は、北三陸鉄道が走っている事実こそ重要なのだと力説した。北鉄が走っているのを見るだけで人々が勇気づけられるに違いないと言うのだ。それを復興のシンボルにしたいという強い意思を持っていた。

それから5日後の3月16日、運行を再開することができた。ただし、1日3便のみ、北三陸駅-袖が浜駅間だけを時速20kmで走行するという限定されたものだった。その代わり、大吉は運賃を無料とした。北鉄の再開が人々を勇気づけるという大吉の思惑は当たった。北鉄が走りだすと、町の人々は復興作業の手を休め、線路脇から笑顔で手を振った。体を壊してからは仕事を減らしていた夏も、販売用のウニ丼を張り切って作り、駆けつけた。

震災から1ヶ月半ほど経過し、4月29日になった。
日本中がすっかり様変わりしてしまった。「節電」「デモ」「風評被害」「自粛」などといった暗いキーワードが巷にあふれた。一方で、その日から東北新幹線の運行が再開されたり、「絆」という言葉が人々にもてはやされていた。

アキの初主演映画『潮騒のメモリー: 母娘の島』は3月5日の公開後、1周間で打ち切られてしまった。アキの歌う主題歌CDの販売は継続されていたが、宣伝は自粛していた。「寄せては返す波のように 激しく」という歌詞が津波を連想させて不謹慎だからという理由だ。アキの人気幼児向け番組『見つけてこわそう』は辛うじて打ち切りを免れたが、タイトルが『じぇじぇじぇのぎょぎょぎょ』に変えられてしまった。

東京に暮らす芸能関係者たちは、自らの仕事に疑問を持たざるを得なかった。人が生きていくためには、水や食料、電気が必須である。一方で、映画や歌などの娯楽は生命維持に必ずしも必要ではない。自分たちのやっている事が無駄なのではないかと思うようになったのだ。スリーJプロダクションに移籍した鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)に仕事のオファーは幾つもあったが、東北の人に申し訳ない気持ちになってやる気が出ず、全て断ってしまっていた。荒巻(古田新太)は所属タレントを使って東北での食糧支援を行ったが、それが単なる売名行為ではないかと自問自答して苦悩していた。

アキも、すっかり落ち込んでいた。世の中がすっかり変わってしまい、震災前の暮らしや芸能活動がどんなものだったのか思い出せないほどだった。これから自分がどうすればよいかもわからなかった。

アキは種市(福士蒼汰)に会い、自分の悩みを打ち明けた。ニュースで被災地の状況を見聞きすると、自分も駆けつけたいとは思う。しかし、自分が行っても何もできることがないし、却って迷惑をかけるとしか思えないと言うのだった。
アキは北三陸で1年ほど暮らした。そこでたくさんの人と出会い、楽しい思い出がたくさんできた。しかし、近頃ではそれらの記憶が失われたり、悲しいニュースで上書きされるようになってきており、それが辛いと話した。彼らのことを忘れないように、アキは頻繁に北三陸の人々の笑顔を思い出すようにしているという。ただし、ユイの笑顔だけはなぜか思い出せないという。アキはユイに会いたいという切実な思いを種市に話した。

その後、帰宅したアキは、何も言わずに春子のそばに座り、彼女に甘えた。アキは何かを話したそうにしていたが、春子に問われると、何も言わずに寝室に引きこもった。

寝室からアキは、夏にメールを送った。「今年の夏は潜らないよね?」という短いメッセージを送ったところ、夏からは「お構いねぐ」と一言だけ返ってきた。

それからアキは、北三陸の人々の笑顔を再び思い返した。種市と話している時から気になっていたのだが、誰か一人だけ忘れているような気がする。それが誰なのか、アキには思い出せなかった。

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