東直己『札幌刑務所4泊5日』

著者は、大泉洋主演の映画『探偵はBARにいる』(2012年2月10日にBlu-Ray等が発売される; amazon)の原作者である東直己。札幌出身、在住。
本書は、著者が作家デビュー前に経験したことに基づき、1994年に出版されたもの。

当時、売れないフリー・ライターだった著者は、刑務所の体験ルポを書こうとしていた。
その矢先、偶然にも原チャリの18キロオーバーで捕まった。これ幸いと、反則金の支払いに応じなかった。裁判で罰金刑判決を受けるも、さらに支払いを無視。晴れて著者の思惑通り、刑務所で懲役刑を受けることになった。

ただし、刑期は5日間だった。18キロの速度超過の罰金は7,000円だったという。法律により、刑務所での労役は2,000円/日と定められているそうだ。そのため、著者は4日間の労役で刑期を終えてしまう(途中、労役のない日曜日があったため合計5日間入所したようだ)。
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映画『探偵はBARにいる』を見た

大泉洋が、札幌ススキノの便利屋<俺>を演じる映画『探偵はBARにいる』を見てきた。

原作は東直己『バーにかかってきた電話』。2011年現在、11作ほど出ている<俺>シリーズの2作目だ。
僕はこのシリーズが大好きでほとんど読んでいる(文庫で追いかけているので、単行本で出ている最新作だけは読んでいない)。僕は札幌の街が大好きだから、そこが舞台になっているシリーズも自然に気に入る。著者も札幌在住で、文中に出てくる流暢で正確な北海道弁にも好感が持てる。ススキノを根城にする主人公は、ニヒルな伊達者なのだが、たまに抜けているところもある。なかなか味わい深いキャラクターだ。

大好きなシリーズの映画化とあっては、当然楽しみになる。主人公を演じるのが、今や北海道を象徴する俳優の大泉洋であるということでも期待は高まる。そして、今回の映画の原作になっている『バーにかかってきた電話』はシリーズの中でもお気に入りの一つだ。

原作が大好きなだけに、映像化に対しては少々警戒もしていた。
しかし、先週の公開以来、ネット上の評判をいくつか拾い読みしたところ、いずれも上々の評価だった。
だから、期待に胸ふくらませて見に行った。

僕が見たのTOHOシネマズ海老名で、水曜日の昼の回だった。スクリーン1というかなり大きなスクリーンだったのだが、観客は半分以上は入っていたようだ。なかなかの入りだと思う。ただ、毎月14日はTOHOシネマズのサービスデイで、料金が一律1000円である。そのせいで通常よりも混んでいた可能性もあるが、それを差し引いても人気なのではないかと思う。

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『バーにかかってきた電話』を拾い読みしながらキャストに思いを馳せる

映画化されるってんで、また読み返していますよ。

『バーにかかってきた電話』 pp.7-9

「はい、お電話替わりました」
 と俺が言うと、ちょっとかすれたような女の声が聞こえた。
「もしもし、私、コンドウキョウコですけど」
 十分の一秒ほど、俺の頭は空白になった。
 コンドウキョウコ。全然知らない名前だ。
 次の十分の一秒ほど、俺は自分の頭の中の引き出しをがさがさと手当たり次第片っ端からかきまわした。
 コンドウキョウコ。全然思い当たらない。そこで、とりあえず俺は当たり障りのない返事をした。
「いよーっ!どうしてる?元気?今、どこにいるの?こっち来ない?」
 とたんに受話器の向こうからとっても深い溜息が聞こえてきた。それで、俺は自分が間違ったことを言ったということがわかった。
「……ええと、あの、もしもし、どちらのコンドウキョウコさんでしょうか。失礼ですけど」
「ツウチョウ、まだ見てないんですか?」
「ツウチョウ?ああ、銀行の?はい、あの、うん、ええ、今日はまだ」
「今日はまだって、あのねぇ、今、午後十一時ですよ」
「あ、そうなんですか」
思わず間抜けな返事をしちまった。
「ホントに……だらしない人だとは聞いていたし、見た時もそんな感じがしたけど……せめて、毎日記帳するくらいの心がけがあってもいいんじゃないですか?」
 俺はムカッときた。確かにそれはそうかもしれないが、俺の人生だ。顔も知らないコンドウキョウコにどうのこうの言われる筋合いはない。
 とは言うものの、この女の声はなんと言えばいいか、「美人」という連想を強力に従えていたので、俺は、つい、自信のない口調になってしまったのだった。
「はぁ、そうかもしれませんね」
 大規模な溜息が再び聞こえてきた。
「とにかく、明日、必ず通帳に記帳してもらってください。明日の晩、またそちらに電話しますから」
 そして、そのかすれたような、「美人」を連想させる女の声は、いきなりプープーという間抜けな音に変わってしまった。というか、もちろんその変化の瞬間には、ガッシャンという、機械的・破壊的な音が聞こえたわけだが。

冒頭のシーン。
主人公の<俺>は便利屋。行きつけのバーのマッチを持ち歩き、それを名刺がわりにしている。彼に用事のある人間は、そのバーに電話をかけてコンタクトするのだ。聞き覚えのない女から電話がかかってくるところから物語が始まる。

僕はこの物語の主人公は大泉洋がぴったりだと信じているのだが、それは先の引用を読めば共感してもらえるのではないだろうか。C調で間抜けなところなんてそっくりだと思うのだがどうだろう。

あと、著者・東直己の文章で面白いのは、主人公が理解できない言葉は毎回カタカナで書かれている。意味を理解すると漢字になる。
先の引用では、前後の脈絡なく相手から「通帳」と言われてまごついているのだ。そこがカタカナになっている。銀行の通帳だとわかって漢字に直る。
もちろん、コンドウキョウコにも心当たりがないからカタカナだ。物語が進めば、彼女の漢字表記も明らかになる。

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東直己『探偵はBARにいる』の映画化を東映が正式発表

東映株式会社のwebページに、映画『探偵はBARにいる』の情報がアップされている。
まだほとんど何も書かれていないが、大泉洋が主演だという噂も聞く。

謎の女との接触が呼び寄せた三つの殺人事件-。不可解な事件の真相は?謎の女の正体は?全てが終わる時、探偵を待つものは?日本推理作家協会賞受賞の東直己の人気シリーズ<ススキノ探偵シリーズ>が遂に映画化!原作はシリーズ第二作目の『バーにかかってきた電話』。2011年、新たなるエンターテインメントが誕生する!!

2011年9月公開予定とのこと。

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役に立たないものに役立たない価値を見出す少年

ここ数日のモヤモヤした気ぜわしさは、このエッセイに出てくる少年の利発さによって昇華させられた。

東直己『腹の虫 第247回』「スマート」(2010年2月18日)

素敵な物、役に立つ物、立派な物を贈るつもりはなかった。なんの役にも立たない物をプレゼントしてやりたい、全く詰まらないものを贈呈して、一緒に大笑いしたい、と思っていた。で、店に入ったら、小学校低学年くらいの子供が、レジのところの椅子に座って、ドラえもんだかなんだかのマンガ本を読んでいた。

続きは、web サイトで。
ただし、寿郎社のサイトは意地悪で、リンクを貼ってもトップページにリダイレクトされてしまう。やれやれ。
右のほうにある「東直己 腹の虫」というバナーをクリックして、第247回を読んで欲しい。・・・めんどくさくて、読まないで済ます人がいつもより多そうだけど。

『探偵はバーにいる』東直己

札幌すすきのを舞台にした探偵小説。
当方のような道産子のノスタルジーをくすぐるだけの陳腐な地方賛美小説だろうと思って読み始めたのだが、いい意味で期待はずれの大ヒット。
シリーズ1作目を読み終わり、すぐに本屋で2作目、3作目を購入(しかも、札幌ステラプレイスの三省堂書店で)。超ハマり中。

当方が札幌に縁のない人間だったら、たぶん絶対に読まなかった本だと思う。けれども、読んでみたらきっと今と同じようにお気に入りになっていた自信がある。
確かにすすきのローカルネタが多かったり、登場人物は流暢な北海道弁をしゃべるなどの特徴があるが、物語のプロットはしっかりしているハードボイルド系ミステリー。北海道に縁がなくても、楽しめる小説だろう。
親の遺言で「すすきのを舞台にした小説だけは読むな」などと言われているのでなければ、一読をお勧めする。

ちなみに、第1作『探偵はバーにいる』はラブホテルに出入りする売春婦とか、他人の唇の痕の残ったグラスが出てくる汚いスナックとかが出てくるので、潔癖系の人にはちょっと読むのがつらいかもしれない。
そんな向きには2作目『バーにかかってきた電話』をお勧めする。もちろん”汚い描写”は多々あるけれどトーンは控えめだし、殉愛・人情ものという仕上がりで読後感は悪くない。
実際、ネットの評判を見ていても、1作目よりも2作目の方がウケがいいみたいだし。僕も、両作は甲乙つけがたいと思う。

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