NHK『純と愛』第6回

HDDレコーダーの引き取り手が見つからず、部屋が片付かないので誰かお願いしますよと懇願する当方が、NHK朝の連続テレビ小説『純と愛』の第6回めの放送を見ましたよ。

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第1週「まほうのくに」

米田(矢島健一)と露木(や乃えいじ)にスタンドプレイを叱責され、人格まで否定されたことに純は逆上した。感情に駆られ、ホテルを辞めると言ってしまった。
その瞬間、厨房洗い場の男(風間俊介)が皿を落として割った。
皆の注意がそちらに向かった瞬間を捉え、指導係の桐野(吉田羊)は一言二言でうまくその場を取り繕い、辞職宣言をうやむやにし、純を連れ出して事なきを得た。

ただし、桐野はもう一度純のことを厳しく叱った。
一つには、犬が飼い主を選べないのと同じように、従業員も上司を選べないのだから我慢しろとたしなめた。二つめには、ルール厳守を再度言い渡した。

自律性やその人なりのやり方、理想を認めてもらえないことに、純はまだ納得できなかった。そこで、桐野に仕事の理念や目標について聞いてみた。
しかし、桐野の反応は冷ややかだった。そのような質問自体が青臭いといって相手にしなかった。そして、自分の考えが正しいと信じ、それのみに固執する人間は成長をやめたのと同じだと手厳しく答えた。

ますます納得のいかなくなった純は、同僚の千香(黒木華)に相談した。面接の時の彼女は、ホテルで働くことへの大いなる憧れを語っていた。自分と同じ思いでいるに違いないと思えた。
しかし、彼女の反応は予想だにしないものだった。千香がオオサキプラザホテルに就職した本当の理由は、不景気で他に仕事が決まらなかったので仕方のないものだったという。面接の時に話した内容も、採用のための方便だったという。
そして、純に対する苛立ちをついに爆発させた。上司たちは個人ごとの評価ではなく、新入社員全員を一括りにして見る傾向がある。そのため、純の身勝手な行動で自分にも迷惑がかかるというのだ。今日一緒に行った深夜フロント研修でも、純が勝手にルームサービスを受けてしまったことで、自分の帰りまで遅くなってしまった。
それまでのおっとりとした雰囲気と打って変わって、千香はドスの利いた関西弁で一気にまくし立てた。

純は疲れきった。自分の来し方を思い返しては、昔から不器用な性格で、損な役回りばかりだったと落ち込むのだった。

やっと家に帰り着き、徹夜で疲れた体を休ませようとした矢先、実家の母(森下愛子)から電話がかかってきた。弟・剛(渡部秀)が真面目に予備校に通わないことを父・善行(武田鉄矢)がなじったことが引き金となり、剛が家を出ていく騒ぎになっているという。
純はイライラした。そもそも母が剛に甘い顔を見せるから彼がつけあがるのだと言って、母に責任を負わせた。ただでさえ、末っ子の家で騒動で動揺している母は純の言葉に深く傷ついた。純に対して、大阪に行った人間は宮古島の家族のことなど見捨てるつもりなのだなどと喚き散らして電話を切ってしまった。

純はますます腹がたって眠れなくなった。
大好きだった祖父(平良進)のことを思い出すばかりだった。祖父の思い出は、全て楽しく愉快であたたかいものだった。

ふと、祖父の言葉を思い出した。純が自我の強さで軋轢を生じさせたり、苦しい目に遭ったとしても、「ずっとそのままでいてよい」と応援してくれた。
その時初めて、それは例のストーカーが言ったのと同じ言葉だと思い至った。それで、彼のことがなんとなく心に引っかかるようになった。

仕事が終わる頃を見計らって、ホテルの厨房を覗きに行った。そこで例のストーカーを捕まえ、とっさに皿を落として、純の辞職を取り消してくれたことのお礼を告げた。
その時、名札を見て、彼の名が待田愛(まちだいとし)であることを知った。

それから、和やかに話をしようとしたのだが、愛がホテルの厨房で働き始めたきっかけを聞いて空恐ろしくなった。純がホテルの採用通知を受けたのは、愛の目の前であった。そこで愛も後を追って、このホテルで働き始めたのだという。
そう説明して、愛は純の顔をじっと見据えた。

純は後退りしながら、愛が「自分には人の本性が見える」と言っていたことについて説明を求めた。
愛によれば、人の顔を見るとその人の本当の顔がわかるのだという。強そうな人が怯えていたり、優しそうな人が冷たい顔をしているなどといったことがわかる。そのようなわけで、先日純が助けた老婆(川本美由紀)がスリ師であることもすぐに分かったのだという。

ただし、愛は人の本性を積極的に知りたいと思っているわけではなかった。そのため、人の顔を見ないようにいつもうつむいて歩いている。そのせいで、人にぶつかってばかりいるのだ。
けれども、純の顔だけは裏も表もなかった。愛にとって、そのような人物は初めてであった。だから、純にはいつまでも変わらず、裏表のない人物であって欲しかった。そのままでいて欲しいと懇願するのだった。

純には愛の話が信じられなかった。そして、恐ろしくて気味が悪くなった。愛を残して走って逃げた。

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NHK『純と愛』第5回

先日、会社で飯を食っていたら、金メダリストがメダルをかじるのは見苦しい(特に女子選手)という問題提起がなされ、あれは時代劇等で小判が純金かどうかを調べる時の仕草であり、メダルが金ではないと選手が疑っていることになる(いや、実際、オリンピックのメダルはメッキらしいけど)のだからケシカランという話になり、じゃあ一体どのようなパフォーマンスならばふさわしいのかという議論になり、「水を張ったバスタブに浸かった後『ユーレカ!ユーレカ!』と叫びながらハダカで走り回るのが良い。金の純度を調べるにあたって、口でかじるよりよっぽど知的であるし、ギリシャ繋がりなところがなお良い。特に女子選手にやって欲しい。」という結論になり、そういうオリンピックが見たい、早く4年経たないかと待ち望んでおり、ここまでの話とは一切関係ないが、昨日やっと夏菜の胸がわりとデカいということに気付いた当方が、NHK朝の連続テレビ小説『純と愛』の第5回めの放送を見ましたよ。

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第1週「まほうのくに」

純(夏菜)はエレベーターで社長の大先(舘ひろし)と乗り合わせた。
彼が入社式で純のことを「社長になりたいと言っている」と暴露したために、純はホテル中からからかわれる羽目になった。そのため、大先のことは内心腹を立てている。大先はそんなことには気づかないようだ。ホテル経営について話を聞きたいなどと方便を使いながら、純の電話番号を聞き出し、デート(デート?デートなのか!?)に誘う仕草を見せた。
純がためらっているうちに、目的の階について大先は降りていった。そこには若くて派手な女(松本奈摘)が待っていた。純は大先の女癖の悪さを軽蔑するのだった。

今日の純の仕事は、深夜フロント業務の研修である。指導係の桐野(吉田羊)からは、指示されたこと以外は絶対に行わないようにときつく釘を刺された。

深夜といえども、フロントは暇なわけではなかった。客の対応に追われ、先輩社員たちの手は全てふさがっていた。

その時、フロントの電話が鳴った。
純は、電話対応をしろという指示は受けていない。かといって、電話を待たせたり無視したりすることは、客に嫌な思いをさせることになる。板挟みになる純であったが、意を決して電話に出た。
それは、ルームサービスの注文であった。電話対応が初めてであった純は、しどろもどろになりながらもなんとか注文を受け付けることができた。

しかし、直後にフロント係の小野田(木内義一)に叱られてしまった。現在は0時5分である。ルームサービスは0時で終了する規定になっており、受付時間を過ぎているのだ。
規則を破ると、厨房にいい顔をされない。面倒を起こしたくない小野田は、純に客へ断ってくるよう言いつける。しかし、客へのサービスを優先したい純は、厨房にかけあってくると言って飛び出していった。

厨房では、見習い(杉森大祐)が後片付けを行なっており、今まさにコーヒーを捨てようとしていたところだった。見習いも上役に叱られることを恐れ、規則を守ってルームサービスの注文を断ろうとした。しかし、純に押し切られる形でコーヒーを渡してしまった。

純がコーヒーを運んでいくと、注文した山本(芝本正)はとても喜んだ。彼は就寝前にコーヒーを飲むことを習慣にしているのだが、今夜は注文の時間が遅れてしまったので飲めないのではないかと心配していたのだという。無事に飲むことができてよかったと、山本から満面の笑みでお礼を言われた。
翌朝、チェックアウトの際にも純に笑顔でお礼を言ってくれた。純が理想とする「宿泊客が笑顔で帰って行く魔法の国」が実現できたと思い、とても嬉しかった。純は有頂天になった。

しかし、深夜フロント研修が終わる際に、小野田からはルームサービスの件は純の一存でやったと言って責任を押し付けられた。そして、指導係の桐野に呼び止められ、宿泊部長の米田(矢島健一)と飲料部長の露木(や乃えいじ)の元へ連れて行かれた。
純は、自分の臨機応変な行動が褒められるのだと思って、ふたりの待つ厨房へ喜び勇んで向かった。

しかし、純はふたりから激しく叱責された。背後では、昨夜協力してくれた厨房見習いがうなだれている。ルームサービスの件が問題視されているのだ。
経費削減のためにルームサービスの24時間受付は廃止されたことを説明した上、例外を作ると歯止めが利かなくなると説教された。さらに、勝手な行動で食中毒などが発生した場合の責任の所在についても説かれた。各セクションにはその道のプロがおり、他の部署が勝手なことをすると迷惑をかけることになるのだとたたみかけられた。
終いには、桐野の指導が甘いのだといって、彼女にまで火の粉が降りかかった。

純は反発した。
彼らは自分たちの保身や業績評価だけを気にかけ、客のことをないがしろにしていると感じた。余計なことは言わないように自制しようとしたが、感情に駆られて我慢が難しくなった。宮古島の人間はもっと大らかであれなどと理不尽なことを言われ、ついに純は爆発した。

「ホテルで一番大事なことは、ホテルの都合ではなく、客の都合である」という、祖父(平良進)の言葉であり、自分の信念をまくし立てた。そして、宮古島の人間にも自分のように激しい気性の持ち主がいるのだと言い返した。

そこまでいうと、純は泣きべそをかいてしまった。
そして、これ以上オオサキプラザホテルで働くことに我慢ならなくなった。

「やめてやる!」
そう言うのと同時に、背後で皿の割れる音がした。
そちらを見ると、先日のストーカー(風間俊介)が皿洗いとして働いていた。

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NHK『純と愛』第4回

「俺の理想の朝ドラはこれだっ!」と下の図を作って鼻息を荒くしている当方が、NHK朝の連続テレビ小説『純と愛』の第4回めの放送を見ましたよ。

朝の連続テレビ小説『じゅんと愛』: サブカル×ベビーフェイスは当方の大好物。


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第1週「まほうのくに」
翌年の春。
オオサキプラザホテルに就職の決まった純(夏菜)の初出社だ。オオサキプラザホテルを自分の理想の「魔法の国」にしようと意気込んで家を出た。

入社式では田辺千春(黒木華)と隣り合わせた。彼女とは最終面接で一緒になり、面接官のケータイやくしゃみで萎縮してしまった彼女を純が弁護してやったことがある。千春はその時のことを純に感謝し、ふたりは打ち解けた。

大先社長(舘ひろし)のスピーチが始まった。純は彼のことを面接会場で見ていたが、まさか社長だとは思っていなかった。第一印象でいい加減な男だと思っていたので、彼が社長であることにいささか驚いた。

大先は面接の時のエピソードを話し始めた。面接で「社長になりたい」と豪語した志望者がいたと言い、本人はこの場で立てと命じた。
純は自分のことだとすぐに分かったが、恥ずかしくて、ためらいながら静かに立ち上がった。

大先は純をじっと見据え、気持ちに変わりはないかと訪ねた。すると純は度胸満点で力強く頷いた。
大先だけはにこやかにしていたが、参列している重役や他の新入社員たちからは一斉に冷ややかな目で見られてしまった。

入社式が終わると、早速研修が始まった。
はじめは、会議室で接客マナーの研修だった。しかし、純にはそれが空々しく嘘っぽい演技に思えた。バカバカしくて少しも身が入らなかった。早く現場に出て、実際に客に接したいと願うのだった。

次の研修は、ベッドメイキングや荷物の運搬など、接客はしないが現場での実地訓練だった。現場の先輩たちから直接指導を受けた。
ところが、純が「社長になりたい」と宣言したことはすでにホテル中の噂になっていた。「社長」というあだ名を付けられ、行く先々で皆にからかわれた。

やっと初日の勤務が終わった。
振り返ってみると、社長になるという自分の目標がみんなからバカにされたことしか思い出されない。そのような目標を持つことは許されないのだろうかと、純は思い悩みながら帰路についた。

あくる日以降も、純はホテルの従業員全員からからかわれ続けた。
そんな中、コンシェルジュの水野(城田優)だけは純を励ましてくれた。自分も純と同じ気持だといい、目標を高く持つのは当然だと言って励ましてくれた。
水野は優しくいい人であるばかりか、ロビーでの働きぶりも様になっていた。その上、ハンサムであった。純は水野への軽く小さなあこがれを抱いた。

いよいよ、純は客の前で研修をすることになった。といっても、レストランに控えて、客に水を汲むだけの役割だった。
それでも、純は前向きに、自分なりの工夫をした。よくフロアを見回し、水を一気に飲み干した客(小松健悦)を見つけるやいなや、素早くコップに水を注いだ。そのタイムリーな給仕に、客は大いに満足した。
さらに純は、その客のためにレストランで肩を揉んでやった。ちょうど疲れの溜まっていたその客は、ますます喜ぶのだった。

しかし、その行動が後に問題視された。
指導役の桐野(吉田羊)は、新入社員全員がいる場で純のことを叱責した。レストランの給仕係が勝手にマッサージを行うと、本職のマッサージ師の仕事がなくなり迷惑をかけるというのだ。しかも、従業員が行うサービスは全てホテルが決めるものであり、従業員は指示された行動のみをとるべきであり、ルールを順守せよというのだ。
他の新入社員たちも冷ややかで、純の味方をするものは一人もいなかった。

純は落ち込んだ。自分が正しいと思ったことを行ったのに、それが認められなかった。ルールにのみ従えということは、自分自身の考えやその場で客が本当に望んでいることを無視しろということに他ならない。それは純の理想とは程遠かった。

ふと、純につきまとう男(風間俊介)のことを思い出した。
彼は純に対して「そのままでいてください」と何度も言った。彼の本意が何なのか未だ分からないが、その言葉だけはずっと心のなかで繰り返された。

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NHK『純と愛』第3回

オバQ的なものといえば、『のび太の人類補完計画』第8話のラストにクソ笑った当方が、NHK朝の連続テレビ小説『純と愛』の第3回めの放送を見ましたよ。

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第1週「まほうのくに」

純(夏菜)はビジネスホテルのベッドで目を覚ました。オオサキプラザホテルの採用面接で失敗したことにショックを受け、リクルートスーツのまま倒れるように眠りこけていた。
採用ならば今日までに電話がかかってくることになっている。しかし、一向に電話は鳴らず、望みが薄いことに落ち込んでいる。
客室の窓を開けると、大阪城の淀んだ堀が目の前に見えた。宮古島の青い海を思い出し、ホームシックにかかるのだった。

携帯電話が鳴った。
喜び勇んで出てみたが、それは実家の母(森下愛子)からだった。面接の首尾を聞かれ、純は強がりを言い、成功したと答えた。しかし、失敗したことはすぐに母に見抜かれた。電話口で父(武田鉄矢)は宮古島に帰ってきても一切面倒は見ないと喚いている。純も、絶対に父の世話になどならないと喧嘩腰で答えるのだった。

他にすることもない純は、有り金を全てつぎ込んでオオサキプラザホテルに宿泊してみることにした。就職活動の記念という意味合いもあったが、失礼な面接官に対する八つ当たりの意味の方が強かった。
ドアボーイの接客態度や客室設備、サービスの終了時刻、ホテル内の案内掲示など、少しの間に多くのアラが見つかった。純の理想とするホテルとは程遠く、いらだちはますます高まった。

そうやってホテルの中をうろついていると、客室フロアで怪しい男(風間俊介)に出くわした。昨日、純につきまとった不気味な男である。
男は、このホテルに滞在していれば純に再会できると思い、そうしていたという。恐ろしくなった純は一目散に逃げ出すが、男は執拗に追いかけてきた。

やっとのことで男をまいた純。ほっと一息つくと、階段を登るのに難儀している老婆(川本美由紀)に気がついた。声をかけてみると、結婚式場に行きたいのだが迷ってしまったのだという。純は足の悪いという彼女を背中に負い、式場まで親切に案内してやった。

やっとのことで結婚式場に到着すると、どこからともなく例の怪しい男が表れた。
男は乱暴に老婆の腕を掴むと、財布を返せと凄むのだった。
その老婆はスリ師だったのだ。正体がばれるや否や、信じられないスピードで走って逃げた。リュックに財布のないことを確認した純は、慌てて追いかけたが中々追いつかない。しまいには、純は登り階段で躓いて転げ落ちてしまった。
逃げきれると安心した老スリ師は、そこで純の財布の中身を確認した。金のほとんど入っていないことを知ると、バカにしたように財布を投げて返し、そのまま姿をくらました。

純は腹立たしさと悔しさと悲しさでいっぱいだった。
内定通知はまだ来ない。せっかく親切にしたのに騙されて財布をスられた。挙句に、転んで足を捻挫した。

例の怪しい男が、捻挫の手当をしてくれた。意気消沈し、足まで挫いてしまったので彼から逃げることもできず、されるがままにしていた。
ふと、この怪しい男に、優しかった亡き祖父(平良進)の姿が重なった。どうしてそう思ったのか、純にもわからなかった。

純は、彼がスリを見抜いた理由を尋ねてみた。
男は困ったような表情をし、言いにくそうにしていた。純が待っていると、彼はポツリポツリと話し始めた。

彼には人の本性が見えるのだという。見ただけで、その人が隠している裏の顔までが見えるのだという。
先の老スリ師は、純に背負われた途端、目が釣り上がり、下品な顔で舌なめずりしたのだという。それでスリ師の本性を見抜いたのだという。さらに、彼女が若い頃にひどい目に遭ってきたという過去までわかってしまったという。

純には、彼の言っていることがにわかには信じがたかった。

もっと詳しく話を聞こうとした矢先、オオサキプラザホテルの人事部から電話がかかってきた。純の採用が決まった。

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NHK『純と愛』第2回

昨日のまとめ記事で「宝塚のオバQ」と言った際、頭に浮かんでいたのは『機動戦士のんちゃん』(YouTubeで見る)に出てくるQちゃんのことであって、藤子不二雄のオリジナルではなかったことに思い至った当方が、NHK朝の連続テレビ小説『純と愛』の第2回めの放送を見ましたよ。

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第1週「まほうのくに」

純(夏菜)は大阪のオオサキプラザホテルの前にいた。これまでの就職活動はことごとく失敗し、もうこのホテル以外に望みはなかった。今日の最終面接にかける気合は十分であった。

面接会場であるオオサキプラザホテルに入ろうとした時、人ごみの中をよそ見しながら歩いてくる男(風間俊介)とぶつかり、純は転んでしまった。
男は純の顔をじっと見た。勝気な純は睨み返してたしなめるが、男は目をそらそうとはしなかった。
「初めてだったから、つい・・・」
などと不可解なことを言うばかりであった。
やっと男は去って行ったが、少し離れた所に立ち止まり、再び純のことを凝視した。薄気味悪くなった純は足早に離れてホテルへ向かった。

最終面接は、志望者5人の集団面接だった。面接官はホテルの重役らしい5人であった。
それまで順調に面接は進んでいたが、純の前の志望者(黒木華)が話している時に、いきなり面接官・米田(矢島健一)の携帯電話がけたたましく鳴った。さらに別の面接官・露木(や乃えいじ)が遠慮のない大きなくしゃみをした。そのせいで彼女は動揺してしまい、言いたいことがほとんど言えずに終わってしまった。純は彼女のことを少々気の毒に思ったが、この場では情けをかけるわけにはいかなかった。

続いて、純の番である。
志望動機を聞かれるや否や、単刀直入に
「社長になりたいから」
と高らかに言い放った。その一言に場が凍りついた。

しかし、そんな純に興味を持った者が一人だけいた。
その男(舘ひろし)は面接官の後ろに控えて座っていた。彼は社長になってどうするつもりかと尋ねた。
純の答えは「魔法の国」を作りたいというものだった。宿泊客が笑顔になって帰るホテルを作りたいというのだ。そのための秘訣は、経営者の愛が溢れていることであり、自分がそうしたいというのだ。

純は自分の祖父(平良進)が作ったホテルのことを話した。元々は自動車整備工場を経営していたのだが、祖母が不治の病にかかった時にホテルを作った。それまでは仕事が忙しくてろくに旅行に連れ出すこともできなかった反省から、そこにいるだけで世界中を旅している気分になれるようなホテルを作りたかったのだという。
そこには、祖父の祖母に対する愛が溢れていたのだという。それが純の理想なのだ。

その時、再び米田の携帯電話が鳴った。遠慮することなくメールを読んではニヤニヤしている。露木も二度目の大くしゃみをした。まったく悪びれるところがなかった。
純は腸が煮えくり返った。しかし、他に就職できるあてがないので我慢しようとした。

しかし、できなかった。
携帯電話やくしゃみのことを純は激しい口調で避難した。そのせいでペースを乱された別の志望者のことを弁護した。司会役の面接官・中津(志賀廣太郎)にやんわりとたしなめられるが、純の勢いは止まらなかった。
中津が「時間がないので穏便に」と言ったその一言でますます激昂した。

志望者側は、この短い時間に自分の一生をかけている。その瞬間を良い物にしたいと願っている。それを台無しにしたのは、面接官側であると食ってかかった。
そもそも、ホテルの理念は短い滞在期間で客を満足させるというものだ。相手との短い時間の交流を大事にしないことは、ホテルで働く者として失格である。重役がこのような体たらくでは、このホテルは遅かれ早かれ潰れてしまう。
そう啖呵を切った。

面接は終わった。もうオオサキプラザホテルへの就職は叶いそうにない。

広場で落ち込んでいると、面接前にぶつかった男がまだそこにいた。そして、じっと純のことを見つめている。気味悪く思った純は慌てて立ち去るが、男はずっと追いかけてきた。慣れないヒールで転んだ拍子に男に追いつかれてしまった。

男は、純の顔をまじまじと見つめ、
「どうしてももう一度確かめたくて。でも、それがなんなのか、説明してもわかってもらえないと思う。」
などと、意味不明なことを言うばかりであった。

純の怒りは頂点に達した。
失礼な面接官に対する怒り、面接で自重することのできなかった自分自身への怒り。そこへ、この不気味な男への怒りが加わった。
今にも暴れだしそうだと言って、男に警告した。しかし、彼はなかなか立ち去ろうとしない。

焦れた純は自ら立ち去った。
純の背中に対して、男は
「あなたはそのままでいてください。ずっと、そのままでいてください。お願いします」
などと、ますます意味不明なことを言うのであった。

純は混乱した。

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NHK『純と愛』第1回

彼女に恨みは全くないのだけれど「げっそり痩せたオバケのQ太郎が宝塚歌劇の男役として登場したような感じだ」などといきなりdisってしまう当方が、NHK朝の連続テレビ小説『純と愛』の第1回めの放送を見ましたよ。

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第1週「まほうのくに」

那覇に住む大学3年生の狩野純(夏菜)は、久しぶりに実家のある宮古島(Google mapsで場所を確認)に帰ってきた。
就職活動シーズンが始まる前に、純は自分の進路についてある決意をしていた。彼女は、自分の実家のホテルを継ごうと思っているのだ。

実家のホテル・サザンアイランドは、母方の祖父・真栄田弘治(平良進)が開いたホテルだ。10年前、大阪で仕事を失った父・善行(武田鉄矢)は逃げるように宮古島にやって来て、母・晴海(森下愛子)の実家に一家で世話になることになったのだ。
当時幼かった純(安養寺可蓮)は、初めてホテルを見た時のことをよく覚えている。まるで「魔法の国」だと思ったのだ。一歩建物に入ると、全てのものが輝いて見えた。どんなにふさぎ込んでやって来た宿泊客であっても、祖父のもてなしを受け、帰る頃には満面の笑みになっていた。それがまるで魔法のようで、純は大いなる憧れを抱いていたのだ。
ロビーの中央には昔ながらのジュークボックスがあり、それがひときわ光り輝いていた。

しかし、祖父が亡くなった後、父が跡を継ぐやホテルはすっかり様変わりしてしまった。
建物の中は薄暗く、辛気臭い。宿泊客はどこか憮然とした表情で帰って行く。それを送り出す父もまったくやる気がない。
その現状を知っている純であったが、目のあたりにすると、ますますやり切れない思いになった。憧れの「魔法の国」はもう存在していなかった。ジュークボックスはもう壊れて動かない。

純は祖父の言葉を思い出していた。
「人の運命なんて最初から決まっていない。人生の一つ一つの選択が運命になる。」
その言葉を胸に秘め、純は父に直談判するのだった。

純はホテルを継ぎたいと申し出た。「ホテル・サザンアイランド再生計画」という手書きのノートを携え、自分なりの経営方針を披露した。しかし、父・善行はノートを数ページめくっただけで、それを放り投げてしまった。
そもそも純と折り合いの悪い善行は、ホテルの経営がうまくいかないのは自分のせいではないと責任転嫁した。地元の連中が観光客へのもてなし方やインフラの整備を進めないのが原因であって、自分はそのわりを食っているだけだと言い訳した。今のやり方を変えるつもりは全くない様子だった。その上、ホテルは長男の正(速水もこみち)に継がせるつもりであり、純がその下で指示に従うなら雇ってやってもいいと居丈高に言った。

父と純のやり取りを、他の家族は聞こえないふりをするばかりだった。跡取りとして指名された兄・正は、積極的な意思は見せなかったが、他にすることもないので受け入れるという風だった。大学を2浪中の弟・剛(渡部秀)は自分の飯を食うのに熱心で、やり取りを全く聞いていなかった。
母は心配して成り行きを見守っていたが、表立って純を援助する立場にはなかった。

ついに純は喧嘩腰になった。
祖父の遺したホテルがダメになるのを見ていられない、やる気のない善行が全てをダメにしているのだとはっきりと言ってしまった。
その言葉に善行は激昂した。二度と家の敷居を跨ぐなと言い捨て、純を追い出してしまった。
失望した純は父に見切りをつけた。
「うちよりデカいホテルの社長になってやる」
と啖呵を切り、家を出ていった。

外まで追いかけてきた母・晴海(森下愛子)であったが、純を引き止めることはしなかった。そのかわり、自分の気持ちを代弁してくれたと感謝した。晴海も祖父の作り上げた「魔法の国」が消滅したことを苦々しく思っていたのだ。
母が同じ気持ちでいることがわかって安心したものの、純は悔しくてならなかった。半べそをかきながら、一度も振り返ることなく家を去った。そして、二度と宮古島には帰ってこないことを決意した。

そして半年が経った。
本格的に就職活動が始まり、純は大阪にいた。オオサキプラザホテルという大阪でも一二を争う大きなホテルの就職面接を受けに来たのだ。

会場に入ろうとした時、人ごみの中でよそ見をしながら歩いている男(風間俊介)とぶつかって、純は転んでしまった。

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NHK朝ドラ関連ネタ3つ

【『おひさま』10月より再放送開始】
2012年10月のBSプレミアム番組表(PDF)を見たところ、『おひさま』の再放送が始まるようです。
現在(2012年4月-9月)は『ゲゲゲの女房』が再放送されている7:15-7:30の枠です。

しかも驚くべきことに、『おひさま』は7:15に加えて、19:00からも放送されるという。なんと1日2回。
名作と呼ばれる『ゲゲゲの女房』ですら1日1回だけだったのに、2回もやるとは。

2012年10月BSプレミアム番組表の一部

ていうか、『おひさま』は(以下自粛)。

なお、昨日、『おひさま』の舞台である長野県安曇野市までドライブしてきた当方ですが、その時は再放送のことを知りませんでした。


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NHK『梅ちゃん先生』第1回

習慣とは面白いもので、『カーネーション』が終わったのだから少し起床時間を遅くして朝はゆったりと準備して出勤する生活に戻ろうと思っていたのに、適当な時間になれば目が覚めるし、自然にBSプレミアムにチャンネルを合わせるし、気づけばテキストエディタも起動していた当方が、NHK朝の連続テレビ小説『梅ちゃん先生』の第1回目を見ましたよ。

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第1週「あたらしい朝が来た」

1945年(昭和20年)8月15日朝。
東京・蒲田に住む16歳の女学生・下村梅子(堀北真希)は夢を見ていた。軍事工場で勤労奉仕を行う自分が旋盤機を壊してしまい、みんなに迷惑をかけてしまうという夢だ。しかし、そんな酷い夢を見ても、目をさますことはなかった。
梅子はいつものように朝寝坊をした。梅子の家族も、梅子の寝坊の癖はもう直らないと諦めており、あまり真剣に起こそうともしない。梅子は朝食を抜いて出かけざるを得なくなった。これもいつものことである。

梅子ら下村家の隣には、旋盤職人の安岡家が住んでいる。朝も早くから、梅子の幼馴染で息子の伸郎(松坂桃李)と父の幸吉(片岡鶴太郎)が怒鳴り合いの喧嘩をしている。伸郎が仮病を使って仕事を休もうとしているので、幸吉が激怒しているのだ。幸吉に追い掛け回され、伸郎は下村家の中に逃げ込んだ。
ふたりが喧嘩をするのはいつものことで、下村家の者たちは特に気にしない。唯一、梅子の父で大学の医学部教授である建造(高橋克実)だけは、念のため医師の診察を受けることを勧めた。医学者として、万が一の事場合を心配するからだ。一方、昔ながらの職人である幸吉は病気など気合で治ると考え、診察の時間がもったいないと答える。そのような時間があったら、国のために働くべきだという考えた。建造と幸吉は隣同士だが、あまりウマが合うようには見えなかった。

梅子の兄・竹夫(小出恵介)は医学生である。本来なら徴兵されて戦地に行ってもおかしくない年頃であるが、医学生として徴兵免除されているのだ。竹夫は少し悩んでいた。国民が一丸となって敵国と戦っている中、自分だけ徴兵や勤労奉仕を免れ、勉強だけしていていいのかと呵責の念があるのだ。
そんな竹夫に対して、建造は医学の勉強こそ国への奉仕だと諭した。立派に医術を身につけ、人々の役に立つ人物となることが医学生の奉仕だと話すのだった。

梅子の母・芳子(南果歩)と祖母・正枝(倍賞美津子)は、梅子におにぎりとさつまいもを弁当として持たせてくれた。それを持って、梅子は軍事工場へ出かけた。その工場では姉・松子(ミムラ)も同じく勤労奉仕している。

寝坊した梅子だったが、朝食の時間を省略することで、工場には遅刻せずに着いた。しかし、根っからの不器用さと空腹のせいか、またしても失敗してしまった。縫製に使う手縫針を折ってしまったのだ。今日の夢で見たように、いつも失敗ばかりの梅子は工場の監督官(徳井優)に目を付けられており、失敗がすぐに露呈した。監督官にこっぴどく怒鳴られ、梅子は小さく縮こまってばかりだった。

そうしているうちに、昼になった。今日は正午に、ラジオで天皇陛下から特別のお言葉あるということで、女学生たちは広場に整列した。腹の減ってしかたのない梅子は、外に出る前にこっそりとおにぎりを頬張った。急いで食べたつもりだったが、他の女学生たちよりも大きく遅れてしまった。一人だけ遅れて出てきたせいで、またしても監督官に見とがめられ、怒鳴られた。
恐縮して小走りになった梅子は、ラジオのコードに足を引っ掛けてしまった。そのせいでコードが切れてラジオが壊れてしまった。予備のラジオを持ってきて事無きを得たが、梅子は監督官にひどく叱られた。

放送が始まった。梅子たち女学生は、言葉の意味がわからなかった。しかし、監督官が日本が戦争に負けたのだと説明したのを聞いて、みなその場で崩れ落ちるように泣いた。

そんな中、姉の松子が列を飛び出して建物の陰に隠れた。その姿を見た梅子は、すぐに後を追った。
他の女学生たちが泣き悲しむ中、松子だけは静かに喜んでいた。戦争が終われば、松子の婚約者のサトシが帰ってくるというのだ。サトシは父・建造の教え子で、軍医として従軍しているのだ。松子は戦争が終わって嬉しいのだ。

梅子は、戦争が終わったことの意味を考えた。梅子には、喜んでいい事なのか、悲しむべきことなのかわからなかったのだ。梅子は竹槍の軍事教練やバケツリレーによる消火訓練が苦手で、いつも失敗ばかりだった。それをしなくて済むようになったのは嬉しいことかもしれない。姉も婚約者の帰国を待ち望んでいる。一方、周りの人々を見ると、どの顔も皆、悲しみに沈んでいる。
ますます、自分と周囲と、どちらの感情が普通なのかわからなくなるのだった。

3月に行われた東京の大空襲で、梅子の住む蒲田も焼け野原となっている。あちこちに瓦礫が散乱し、土砂が山盛りになっている。
帰路に着いた梅子は、今朝仮病で騒いでいた伸郎が土を掘り返しているのを見つけた。土砂から大きな時計が覗いているのを見つけたので、それを掘り出して売るのだという。勝手にそんなことをしてはいけないと思った梅子は、やめるように言った。しかし、伸郎は耳を貸さない。

かわりに伸郎は
「新しい時代を掘る」
などとうそぶいた。

その言葉に何かを感じた梅子は、伸郎を手伝って一緒に掘った。
しばらくして土を取り除くことができたが、それは本物の時計ではなく、単なる看板に書かれた絵だった。ふたりの苦労は水泡に帰した。

けれども、伸郎はめげなかった。すぐに別の場所を掘り返し始めた。

梅子は「新しい時代を掘る」という言葉を胸のうちで反芻した。その言葉に誘われるかのように、自分も手近な場所を掘り始めた。

戦争がやっと終わった。しかし、梅子の「人生」という新しい戦いが今始まろうとしていた。

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NHK『カーネーション』最終回(第151回)

「ついにこの日です。長いと思ったけれど、あっという間でした。最後は一部グダグダなところもありましたが、思い返せば総じて楽しい思い出です。本当にありがとうございました。」とひとりごちている当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の最終回(第151回)を見ましたよ。

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最終週(第26週)「あなたの愛は生きています」

2010年(平成22年)9月。
今年も岸和田ではだんじり祭が行われている。
糸子が2階に作ったサロンには大勢の客が集まった。どの顔も笑顔で、明るく賑やかな雰囲気に包まれた。

サロンには糸子(夏木マリ)の肖像写真が飾られている。優しい笑顔をたたえた糸子は、まるでそこにいて、大勢の客をもてなしているかのようだった。

その喧騒の中、優子(新山千春)が直子(川崎亜沙美)と聡子(安田美沙子)を部屋の隅に呼びつけた。
テレビ局の職員が挨拶に来て、糸子のことを朝ドラにしたいと申し込んできたのだという。直子と聡子は大喜びした。糸子は朝ドラが大好きだったので、自分が主人公になることはとても喜ぶだろうというのだ。しかし、優子は、当然自分達も登場することになり、全国に恥を晒すのではないかと不安になるのだった。

糸子は死んだが、魂はまだこの世にあった。この世にあって、娘や親しい人達をいつも見守っている。
娘たちが朝ドラについて相談しているときにもそばにいた。彼女らに声は聞こえないが、糸子はしきりにオファーを受けろと説得するのだった。

2011年(平成23年)10月3日8時1分。
ある病院の待合室で、車椅子に乗った高齢の老婆がテレビを見ていた。彼女は以前からこの日を楽しみにしていたという。黙って画面に見入った。

尾野真千子という女優と、二宮星という子役が歌を歌っていた。


時は大正、岸和田に、生まれた一人の女の子。
名前を小原糸子と申します。
着物の時代にドレスに出会い、夢見て、愛して、駆け抜けた。
これはそのお話。

第1回に続く)

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NHK『カーネーション』第150回

英詞の意味がさっぱりわからなかった中坊の頃から、とにかく the Beatles の “Golden Slumbers; Carry That Weight; The End” のメドレー(アルバム”Abbey Road”に収録) が大好きで、かつ、いつ聞いてもしんみりしてしまう当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第150回目の放送を見ましたよ。

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最終週(第26週)「あなたの愛は生きています」

糸子(夏木マリ)の入院生活は明るかった。多くの見舞い客が訪れ、彼らの持ってくる花で病室内がいっぱいになった。糸子は人が来るのを何よりも楽しみにし、いつも化粧をして綺麗に装った。看護師長・相川(山田スミ子)に顔色がわからなくなるから化粧はやめろといわれても、糸子には馬の耳に念仏だった。

入院する前よりも若返って見える糸子について、吉岡(茂山逸平)は恋をしているようだと軽口を叩いた。糸子は静かに笑うだけで何も答えなかったが、それを図星だと思った。

ただし、糸子は特定の誰かに恋をしたのではない。世の中の全てのものが美しく綺麗に見えるのだ。
意識を取り戻した朝、糸子に変化が訪れた。カーテンの隙間から漏れる陽の光、外から聞こえてくる小鳥のさえずり、横で穏やかに眠っている娘たち。それらが綺麗に思えてしかたがなくなった。それからというもの、何もかもが綺麗に思えるようになったのだ。

糸子は穏やかな入院生活を送った。綺麗なものを愛で、周囲の人々のどんな小さなことにも感謝するばかりだった。

2006年(平成18年)3月26日。
糸子は息を引き取った。

奇しくもその日は、イギリスにおける母の日だった。聡子(安田美沙子)のパートナーのミッキー(エリオット・クロプトン)はカーネーションのブーケを買ってきて、楽しげにしている。まさにその時、聡子は糸子の訃報を知った。

日本では、遺族が糸子の家に帰ってきた。
孝枝(竹内都子)は、優子(新山千春)と直子(川崎亜沙美)を2階のサロンへ案内した。2人がそこを見るのはこれが初めてだった。
2人はサロンを見て歓声を上げた。酒がたくさん収蔵されており、家の前を通るだんじりがよく見えるような作りになっていた。糸子の好きなものが全て揃ったサロンなのだと感心した。

直子は、壁に作り棚があるのを見つけた。その棚の前にはテーブルが置いてある。今はどちらも空いているのだが、直子はそこに糸子の意図を感じ取った。自分が死んだ後は、そこに自分の大きな写真と花を飾って欲しいという意味なのだ。無言の遺言を伝えた糸子の手腕に、優子と直子は自分達はまだまだ敵わないと舌を巻くのだった。

翌日、聡子が帰国した。イギリスから持参したカーネーションのブーケを棺に収め、糸子の亡くなった日はイギリスの母の日だったと話しかけた。そして、見送ることができなかったことを深く謝るのだった。

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