15年前、僕は大学生だった。札幌市内の単身者向けマンションに住んでいた。
ポストには、裏ビデオの通販チラシがよく入っていた。価格は3本セットで1万円。当時はモザイク修正ありのエロビデオ正規版が1万円くらいだったので、ずいぶんお買い得だった。
ちなみに、DVDが一般に普及する数年前の話だ。
しかし、僕はいくつかの理由により買わなかった。
一つめの理由は、作品ラインナップは聞いたこともないような女優ばっかりだったことだ。飯島愛や憂木瞳、麻宮淳子、城あさみなどの作品があれば別だったろうが(即座に「ギルガメッシュないと」を思いついた人は名乗りでてください)。
二つめの理由は、この手の裏ビデオはアナログ・ビデオでダビングを繰り返したせいで映像が不鮮明だと噂されていた。モザイクがかかっていないはずはずなのに、映像がひどすぎて肝心な部分を判別できない、などと言われていた。何も見えないんじゃ、買う意味が無い。
さて、そんな感じの裏ビデオのチラシだが、販売元は「大阪書店」と明記されていた。住所も大阪市内だったし、電話の市外局番も06だった。ちゃんと「大阪」していた。
北海道に引きこもって暮らしていた僕は、以前から大阪に対してカオスでヤクザでアヤシイくて、不道徳であるという根拠のない印象をいだいていた。だから、こういうイカガワシイ商売の拠点として大阪が挙げられていると、とても納得したものだった。
「大阪」という文字列があるだけで、なんだか本当に裏ビデオを扱っていそうなイメージが湧いた。これが「室蘭書店」だったら、そんなことは思わなかっただろう。