NHK『カーネーション』第63回

本日めでたくも、連載回数が『だんだん』の62回を超える当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第63回目の放送を見ましたよ。

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第11週「切なる願い」

糸子(尾野真千子)は、神戸の祖母・貞子(十朱幸代)のモンペに目を留めた。それは、高級な大島紬の着物をモンペに仕立て直したものだった。大胆な再利用に、糸子は驚いた。
貞子の言い分は、辛気臭い思いをしていると寿命の縮まる思いがする。辛気臭いモンペこそ、上等な生地で作って晴れやかな気分でいたいというものだった。

その言葉に、糸子は重苦しい雰囲気を一気に払拭することができた。忙しくて後回しになっていたのを反省し、自分の身だしなみを整えた。寝てばかりいる善作(小林薫)とハル(正司照枝)の寝室の空気を入れ替え、布団も干してやった。
冬の冷たい空気が入り込んで来るので、寝ているふたりは見を震わせたが、糸子はお構いなしだった。全身大やけどの善作は相変わらず寝ているほかできなかったが、それを契機にハルは元気を取り戻した。起き上がって台所の監督ができるようになった。

それから糸子は、店のテコ入れを始めた。衣料切符の制度が変わり、客足が遠のいているからだ。
縫い子の仕事量も減っているので、まずはりん(大谷澪)を子守専属にした。彼女は居眠りをして、もっとも暴れん坊の直子(心花)から目を離してしまうこともあったが、それでも糸子が子供に付きっきりになるよりは仕事がはかどった。

次に、着物をモンペに仕立て直す教室を始めることにした。貞子の言葉を受けて、女はお洒落をしてこそ輝くということを広めたいと思ったからだ。国はモンペを女性の正装だと決めてしまった。夫や息子の出征や、慶事にもモンペで出席しなくてはならない。そういう時にお洒落をしてこそ、女は元気を取り戻すことができると信じているのだ。

静子(柳生みゆ)や昌子(玄覺悠子)らと研究を重ね、着物からモンペへ、またはその逆を可能とする裁断法と縫い方を編み出した。早速、有料でモンペ教室を開いた。
階下から聞こえる女たちのにぎやかな声を、床に伏せる善作は嬉しそうに聞いていた。

モンペ教室の初回定員は8人だったが、生徒は5人しか集まらなかった。
しかし、そこに集まった5人はいずれも強者揃いだった。岸和田の中でも若くて元気いっぱいで、お洒落好きの女性たちが集まった。彼女らは負けん気も強く、持参した着物で互いに張り合った。互いをライバル視し、教室が始まる前からピリピリした雰囲気が漂っていた。
生徒の中には、糸子の親友のサエ(黒谷友香)もいた。

けれども、教室が始まると、生徒たちはみな熱心に耳を傾けた。肝っ玉の強い女たちばかりなので、高級な着物にも躊躇することなくハサミを入れていく。糸子はその姿を気持ちよく見ていた。
初めは互いに険悪だった生徒たちだったが、次第に作業を助けあうようになった。モンペが完成する頃には、全員が打ち解けて仲良くなった。帰りには、みんなで冗談を言い合いながら寄り道をするまでになった。

お洒落を通じて明るく元気になる女たちを見て、糸子は嬉しく思った。
日本の将来も明るいと心の底から思うのだった。

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NHK『カーネーション』第62回

某女の子と郵便番号についてメールでやり取りしている中で、「アメリカだと90210のように数字だけですが、カナダではアルファベットも使います」と書いてあったのをスルーしてしまったのだが、後になってやっと「あのアメリカの番号は『ビバリーヒルズ青春白書』だ!」と気づいた当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第62回目の放送を見ましたよ。

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第11週「切なる願い」

糸子(尾野真千子)は朝晩の区別も付かず、自分が何をしているのかも半分わからないような状態になった。家の中が大混乱でまともな認知能力を失ってしまっていたのだ。

母親として、生まれたばかりの三女の世話に多くの時間を取られる。他の娘たちの名前は善作(小林薫)に付けてもらっていたので、今回もそうする予定だ。しかし、善作は全身大やけどを負ってしまい、それどころではない。

その善作は、自宅療養中なのだが、体が痛いと言ってはすぐに癇癪を起こす。顔がひきつってしまい、うまく声を出すことができない。彼の言っていることを理解できるのは家族の中では糸子だけであり、彼女が通訳としていつも呼ばれた。千代(麻生祐未)が付きっきりで看病しているはずなのだが、彼女はどうしても善作の傷跡を直視することができない。そのため、包帯の交換は毎回糸子が行なっていた。

ハル(正司照枝)も火事の衝撃から立ち直っておらず、毎日寝てばかりである。よほど恐ろしかったのか、夜中にうなされたりしている。その面倒も糸子が看ている。

次女・直子(心花)はますます手が付けられない。糸子が他の家族の世話でちょっと目を離した隙に、家の中をめちゃくちゃに荒らしてしまう。

千代とハルに代わって、妹の清子(坂口あずさ)と光子(杉岡詩織)が料理をするようになった。しかし、これまで一切料理をして来なかったふたりなので、いつも茹で野菜ばかり出てくる。食いしん坊の糸子は、それにも腹が立つのだった。

さらに悪いことに、近頃では商売もうまく行っていない。衣類購入に必要な切符の点数が増やされてしまったため、事実上の値上げとなった。そのため、客足も鈍っているのだ。八方塞がりでイライラとしているところへ婦人会の役員(三島ゆり子)がやって来て、さらなる質素倹約に協力しろ、客が来たら何も売らずに倹約するよう諭せなどと無茶な要求をするのだった。

あまりに忙しく、糸子は時間の感覚がなくなり、視界もぼやけてきた。

そんな時、神戸の祖父母である清三郎(宝田明)と貞子(十朱幸代)が見舞いに来てくれた。糸子の結婚の一件以来、すっかり清三郎と親密になった善作は清三郎の温かさに触れ、うれしさのあまり男泣きした。

本来は、糸子の娘に自分が名付けようと思っていたのだが、その権利を清三郎に譲った。そして、貞子が「さとこ」という音を考え、清三郎が「聡子」という漢字を決めた。

神戸の祖父母の見舞いで、家の中が明るくなった。糸子も眼の前のもやが晴れるようだった。

さらに糸子は、貞子が履いているモンペに目が留まった。それは、大胆にも最高級の大島紬の着物をモンペに仕立て直したものだった。

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NHK『カーネーション』第61回

カーネーションの絵葉書を数枚ゲットしたので、送り先を明記してメール(matuda@alm-ore.com)で申し込んでいただいた先着5名様に、直筆の微妙な何かを書いたり描いたりして送って差し上げるつもりの当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第61回目の放送を見ましたよ。

カーネーションのポストカード


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第11週「切なる願い」

油の瓶を火鉢に落下させてしまったせいで、炎が上がった。瞬く間に善作(小林薫)は火達磨になった。
金切り声をあげるばかりで立ちすくんでいる千代(麻生祐未)やハル(正司照枝)に代わって、身重の糸子(尾野真千子)が率先して消火活動に当たった。全身を水で濡らし、なんとか火を消し止めることができた。そのまま、休むことなく木岡(上杉祥三)と木之元(甲本雅裕)の力を借りて善作を病院に担ぎ込んだ。

対応が早かったため、善作は一命を取り留めた。ただし、1ヵ月は安静に過ごさなくてはならないという。

ほっと安堵した糸子は、自分が臨月の妊婦であることをやっと思い出した。濡れて体を冷やしたことが子供に影響を与えるかもしれない。妊婦が火事を見ると、生まれてくる子供の体にアザができると言い伝えられている。
医者(江口直彌)は糸子の活躍を褒めると共に、迷信を信じないよう注意するのだが、糸子は心配でならなかった。

一夜明けて、善作は全身を包帯で巻かれて帰宅した。二階の寝室に寝かされたが、善作は体を動かすことも、しゃべることもできないままだった。心労のため放心状態になっているハルも善作の隣に寝かされた。彼女も何も口が聞けずに寝るばかりだった。

火災の起きた一階の部屋は、急いで修理された。店を臨時休業にし、糸子が陣頭指揮をとった。修繕屋が次々にやってきて、その日のうちに家はほぼ元通りになった。

ところが、その修繕の最中に糸子の陣痛が激しくなった。すぐさま、善作の隣の部屋でお産の準備が始まった。
火事と家の修繕では気丈に働いていた糸子であったが、お産が始まると急に心細くなった。これまで、なんでも自分一人でこなしてきたと思っていたが、本当はそうではなかったということが身にしみたのだ。特に、勝(駿河太郎)と善作、ハルの3人には大きく依存していた。しかし、今、自分のお産に彼らは立ち会うことができない。それが糸子の不安をかきたてた。

それでも、3人目の娘が無事に生まれた。
すぐに、隣室に寝ている善作とハルに赤ん坊を見せた。寝てばかりだったハルは、知らせを聞いて飛び起きて元気になった。目玉しか動かすことのできない善作であったが、なんとか顔に笑みを浮かべようと、焼けた肌を引きつらせた。

火災騒ぎから一日、やっと一家に笑顔が戻ってきた。糸子は、新しい赤ん坊は一生分の手柄を立てたと思うのだった。
赤ん坊の体にアザもなかった。

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NHK『カーネーション』第60回

昨日、今日とぐっと冷え込んだのでZippoのオイル・カイロの出番だと思ったのだが見つからず、「あれ?そういえば、寒がりの女の子にあげちゃったんだっけ?」と記憶を掘り起こすのに必死な当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第60回目の放送を見ましたよ。

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第10週「秘密」

昭和17年(1942年)12月大晦日。
糸子(尾野真千子)は、客から代金のかわりにもらって大量に集まった食料品を近所にお歳暮として配った。

木之元(甲本雅裕)の電器店は品物を仕入れることができず、開店休業状態だった。食料だけではなく金属も不足し始めたため、電気製品もまともに作られなくなっているのだ。
食料品を分けてもらって木之元夫婦は喜んだが、糸子へ返すものがなかった。木之元の妻(西村亜矢子)は申し訳なさそうにカイロをひとつ差し出した。それが精一杯のお返しだった。事情を察する糸子は、何も言わずに喜んでそれを受け取った。
もらったカイロは善作(小林薫)の手に渡った。善作は、カイロに油を注いで使い方を優子(花田優里音)の前で実演した。ただし、油は危険だと注意し、彼女の手の届かない所に片付けた。

絶交状態にある安岡家ではあるが、糸子は彼らのことが心配だった。自分が食料を届けるわけには行かないので、縫い子のりん(大谷澪)を使いにやった。彼女は新顔なので過去の事情は知らず、もっとも穏便にことが運ぶと思ったのだ。
りんによれば、八重子(田丸麻紀)が出てきて、喜んで受け取ってくれたという。しかし、玉枝(濱田マリ)の顔は見たものの、彼女は一言も口を開かなかったという。勘助(尾上寛之)の姿は一切見なかった。
報告を聞いた糸子は、贈り物を受け取ってくれただけでもありがたいと思った。そして、安岡一家もそれらしい正月を迎えることができるだろうと思い、安心した。

その他、善作は馬場の駐屯地に出向いた。ところが、勝(駿河太郎)への面会を求めたが応じてもらえなかったという。善作は、軍隊は薄情だとブツブツ言っている。
年が明け、豊かな食卓を囲んで楽しい元日を迎えた。その場においても、善作は勝のことをまっ先に思い出した。軍隊ではうまいものも食べられず、苦労していることだろうと思いやるのだった。

年明け以後、生活への規制はますます厳しくなった。電気やガスの使用にも制限が加えられた。それにともなって、善作と千代(麻生祐未)が糸子の家で一緒に住むことになった。光熱費の無駄を減らすと共に、子守りもしてもらえるので糸子は大歓迎だった。

ある日、勝が中国大陸に渡ったという噂を木之元が持ってきた。

それまでは勝のことなど頭になかった糸子だが、ついに日本を離れたと思うと気になりはじめるのだった。しかし、それは複雑な思いでもあった。
浮気をしていた憎い夫である一方で、自分の仕事に理解のある優しい夫。いや、妻が仕事ばかりするので遊ぶのに都合が良いと考えていたに違いない。いやいや、勝はそこまで腹黒い人間ではないはずだ・・・。考えは堂々巡りをするばかりだった。

そこへ、婦人会の役員たちがやって来た。勝の出征に伴い、彼が使っていたミシンは不要になったはずだ。だから、金属供出しろと言うのだ。出征した者は、死んで国の役に立つことこそ本望だ。勝が帰国して仕事を再開するはずはない。だから、ミシンを供出しろと説得するのだった。

勝が生きて帰ってこないと決めつけられたことで、糸子は激怒した。婦人会の役員らを怒鳴りつけて追い返した。
その夜、糸子は悔しくて眠れなかった。戦争の不条理さ、国民の死を強要する理不尽さに腹がたって仕方がなかった。糸子は、自分の布団の横に勝の眠る姿を想像した。彼のたくましい体を思い浮かべ、空想の勝を愛おしく撫でた。彼の立派な肉体を、どうしてわざわざ骨にしなくてはならないのかと大きな疑問を抱くのだった。

しかし、彼の浮気はどうしても許せなかった。無理矢理に勝のことを頭から追いだそうとするのだった。

その夜は、なぜか善作も寝付けなかった。夜遅くまで起きて、取り留めもなく店の帳面などを見ていた。
タバコを吸おうと小さな戸棚の引き出しを開けようとした。しかし、引っかかってなかなか開かない。力を込めて引いていると、戸棚全体が揺れた。

すると、戸棚の上に載せていた油の瓶が火鉢の中に落下して割れた。
瞬く間に火が上がり、善作に燃え移った。

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NHK『カーネーション』第59回

昨夜の展開予測が当たっているかどうか楽しみにしている当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第59回目の放送を見ましたよ。

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第10週「秘密」

糸子(尾野真千子)と善作(小林薫)は、勝(駿河太郎)の背広から1枚の写真を見つけた。そこには勝と芸妓・菊乃(赤松悠実)が親しげに写っていた。

糸子は、難波の歌舞伎場で菊乃に一度だけ会ったことを思い出した。彼女は勝と不自然に挨拶を交わし、歌舞伎も見ずに帰ってしまった。
善作もその写真に驚き、声をあげた。しかも、糸子が教えたわけではないのに、菊乃の名や働いている店まで知っていた。ところが、糸子が菊乃のことを詳しく聞き出そうとすると、善作は困ったように逃げた。

一人残された糸子は、考えを巡らせた。すると、勝の不審な行為が次々に思い浮かんだ。
勝が歌舞伎に誘ってくれたのは、菊乃の代理だったのかもしれない。当日になって、菊乃の用事が急になくなり、彼女は元の約束通り歌舞伎場に来た。しかし、糸子の姿を見て身を引いたのだと想像できた。
勝は歌舞伎を見慣れていた。弁当を買い揃えたり、役者への声のかけ方も上手だった。菊乃と何度も足を運んだに違いない。

心斎橋百貨店での買い物も堂々としていた。勝には男兄弟しかおらず、仕事でも男性客しか相手にしないはずなのに、女の買い物への付き合いがとても良かった。率先してショールの試着を勧めたのは勝だし、包まずにそのまま着て帰るよう言ったのも勝だった。
さらに考えていくと、百貨店の帰りに勝が追加の包みを持っていたように思えてきた。自分をモデルにショールの吟味し、菊乃への贈り物を密かに購入したに違いないと思った。

菊乃は自分と違って美人だ。美人が好きなら、どうして自分のよう器量の悪い女と結婚したのだろうか?
糸子の出した結論は、勝の目的はカネだということだ。糸子が稼いだ金で、外で自由に遊んでいるのだと考えた。確かに勝は、糸子との結婚の理由として、仕事をする姿に惚れたと行っていた。

糸子は腹が立った。怒りを全て仕事に振り向けることにした。

その矢先、善作と木之元(甲本雅裕)が勝に関する知らせを持って現れた。勝はまだ大阪の駐屯地に滞在しているらしいという。一度面会に行ってみてはどうかという提案だった。

糸子は、善作の脳天気な態度にも腹を立てた。勝の浮気写真を一緒に見たのに、面会に行かせようという心境が理解できなかった。本来なら、父親として勝を叱責する立場にあるはずなのに、そうしないからだ。
しかも善作は、ついうっかりと「男の浮気ぐらいでうるさいことを言うな」と店頭で大声を出してしまった。そのせいで、店中に勝の浮気が知れ渡ってしまった。

糸子の怒りは頂点に達した。
勝や善作だけではなく、糸子は男たち全員を敵視した。男たちが結託して浮気を正当化しているように思えたからだ。男たちが互いに助けあい、浮気を認めさせようとしているようにしか見えないのだ。

店を飛び出して、行き場のなくなった糸子は奈津(栗山千明)を訪ねた。彼女となら、女同士、意見が合うと思ったからだ。

奈津は糸子の突然の訪問に驚いた。そして、糸子が自分をバカにするためにやってきたのだと思い、問わず語りしてしまった。実は、奈津の夫・康夫(真鍋拓)が芸妓と一緒に逃げてしまったと言うのだ。

奈津の話を先に聞いてしまったことで、糸子はずいぶんと落ち着いた。冷静になって自分に起きたことを話した。菊乃は奈津も知っており、美人で有名な芸妓だという。
ところが、奈津は糸子の話を真面目にとり合わなかった。勝のような冴えない男が菊乃を落とせたとは信じられないし、出征してそばにいない夫のことをグチグチ考えても仕方がないと笑い飛ばすのだった。
自分と同じように、夫を奪われた奈津にそう言われると、糸子も妙に納得できるのだった。女同士、悩みを共有できたことでずいぶんと気が晴れた。

奈津のところからの帰り道、ずいぶん久しぶりに泰蔵(須賀貴匡)とすれ違った。安岡家と仲違いしたままだったため、互いに会釈はしたものの、言葉をかわさずに別れた。

見上げると雪が降っていた。

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NHK『カーネーション』第58回

のぞみ56号の車内(少なくとも2名の知り合いが乗っていた)でNHKオンデマンドを有料利用した当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第58回目の放送を見ましたよ。

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第10週「秘密」

勝(駿河太郎)に召集令状が届いた。出征まで4日しか猶予がなく、勝はすぐに実家や親戚への挨拶のために泊まりがけで出かけた。帰ってくるのは、出征の前日ということになった。

糸子(尾野真千子)も衝撃を受けたが、家族や雇い人たちの前では弱気を見せず、気丈に振舞った。むしろ、店が繁盛しているおかげで、余計なことを考えずに済むことに感謝するほどだった。

勝が戻って来ると、糸子はバリカンで勝の髪を刈ってやった。出征前にふたりで過ごした時間はその散髪の間だけであった。

夜には、家族と雇い人だけでささやかな壮行会が開かれた。食糧事情は悪くなっていたが、糸子の客が代金の代わりに食料品を持ってきてくれるおかげで、食卓には豪勢にもカツレツが並んだ。糸子は久しぶりのご馳走を勝に腹いっぱい食べさせるつもりだった。しかし、いつものように上機嫌で人のよい勝は、みんなに気前よく分け与えるのだった。

壮行会に来るはずだった善作(小林薫)がなかなか姿を表さない。心配になった糸子と勝が家の前で待っていると、やっと善作が現れた。
善作の姿が見えるやいなや、勝が近づき、「すいません」と何度も繰り返しては深く頭を下げた。そしてそのまま、嗚咽を漏らしつつ泣き出してしまった。善作もなんと声をかけて良いか分からず、苦り切った表情のまま硬直していた。
ふたりの姿を見た糸子も、ついに感情が爆発してしまった。ただし、悲しんでいる姿を勝に見せないために、裏庭に駆けて行って一人でさめざめと泣くのだった。

その晩、善作と勝はふたりっきりで一晩中、静かに酒を酌み交わした。
翌朝、近所の人々に見送られて、勝はいつものように笑顔で出征していった。
勝を送り出すと、糸子はますます仕事に精を出した。

しばらくして、勝が出征時の荷物を送り返してきた。勝の洋服を手に取り、たった数日なのに勝のことがひどく懐かしくなる糸子だった。
荷物に手紙が添えられていたが、それはとても簡素で、ほとんど内容ないものだった。

その様子を見た善作は、手紙は誰に見られるか分からないから当り障りのないことを書いてある、きっとどこかに本当の便りが隠してあるに違いないと言う。
そこで糸子が洋服をよく調べてみると、背広のポケットから1枚の写真が出てきた。

それは、勝と菊乃(赤松悠実)の写真だった。ふたりっきりで浴衣姿で写っていた。

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NHK『カーネーション』第57回

明日の朝は移動の予定で、リアルタイムに放送を見ることができないため、まとめ記事の投稿が遅れることをアナウンスする当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第57回目の放送を見ましたよ。

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第10週「秘密」

勝(駿河太郎)が突然、糸子(尾野真千子)を歌舞伎に誘った。
しかし、糸子は全く乗り気がしなかった。まず、仕事を休みたくはなかった。どうせ仕事を休むなら、出かけるよりも寝ている方がよほどマシだ。都会に出かけるのにふさわしい着物を持っていないのも気詰まりだ。大嫌いな歌舞伎役者・春太郎(小泉孝太郎)の顔を見るのもおぞましい。
けれども、結婚してから一度も夫婦らしいことをしたことがないという勝の説得に圧される形で、しぶしぶながら出かけることにした。

糸子が一切化粧をしていないことをハル(正司照枝)に咎められた。自分のためにするのではなく、勝に見てもらうために化粧をするのだとハルに言い含められ、静子(柳生みゆ)が大事にしている口紅を塗ってから出かけた。

電車に乗ってもつまらなそうにしていた糸子であったが、難波の街に一歩足を踏み出すと、急にウキウキとしはじめた。難波には戦争の暗さはほとんどなく、行き交う人々はみなお洒落に着飾っていた。華やかな雰囲気に気分も高揚し、大嫌いだった春太郎にすら寛大な気持ちを持つことができた。

歌舞伎場のホールで、菊乃(赤松悠実)という芸妓が勝に声をかけてきた。彼女は二言三言社交辞令を言うと、歌舞伎の見物もせずに帰ってしまった。
糸子は、勝の意外な顔の広さと、歌舞伎場まで来て何も見ずに帰ってしまった菊乃の行動を不思議に思った。けれども、勝が平然としているのでそれ以上は何も聞かず、歌舞伎に熱中した。

歌舞伎が終わると、心斎橋百貨店に向かった。
ここは、以前に糸子が制服を作った店なのだが、今では旧態然とした和装の制服に戻ってしまっていた。勝に自分の仕事を見せたかったのだが、それがかなわずにがっかりした。

用事がすんだので帰ろうとする糸子を引き止め、勝は百貨店で糸子のためにショールを買ってくれた。何枚か肩に当てて試しているうちに、糸子はますます楽しくなってきた。勝が自分に優しくしてくれることも心地よかった。
ショールを試着しながら鏡を見ると、自分の口紅が取れかかっていることに気づいた。自分が口紅すら持ち歩いていないこと、および、化粧の崩れた姿を勝に見せることに少々恥ずかしい思いがした。

それでも、その日は糸子にとって良い日になった。
ふたりが初めて夫婦らしくなったと思い、とても嬉しかった。これまで、仕事と子供たちのことばかり考え、勝のことは単に仕事に都合の良い同居人くらいにしか思っていなかった。
けれども、この日を境に、勝のことをとても愛おしく思うようになった。糸子は、勝のために毎日口紅を塗るようになった。勝が出かけるときには、姿が見えなくなるまで手を振って見送るようになった。
夫の勝のことを絶対に失いたくないと思うのだった。

ところが昭和17年(1942年) 12月1日、ついに勝に召集令状が届いた。

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NHK『カーネーション』第56回

対談記事が読みたくてわざわざ週刊アスキー12月6日号を2週間前に買っていたのだが、昨日「大槻ケンヂ×みうらじゅん “スティーブ・ジョブズ”をガチで語る!」にその掲載内容はもちろん、紙面ではカットされた秘密部分まで全て公開されているのを見つけ、「すげえや!太っ腹!!」と叫んだ当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第56回目の放送を見ましたよ。

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第10週「秘密」

糸子(尾野真千子)のお節介のせいで、勘助(尾上寛之)は完全に神経が参ってしまった。彼の母・玉枝(濱田マリ)は糸子のせいだと責め立て、ついには糸子の商売繁盛を妬んだり、人格を否定する発言をした。その時、糸子は何も反論をしなかった。

翌朝、糸子が店の雨戸を開けると、勘助の義理の姉・八重子(田丸麻紀)が立っていた。八重子は玉枝の無礼を詫びた。家業の美容院の経営が苦しい上に、勘助の調子も悪くなったことで、玉枝は心労が絶えなかったのだ。近頃では家族にもつらく当たることが多い。根の優しい玉枝のことだから、しばらくすれば元に戻る。どうか許して欲しいと言うのだった。

ところが、糸子はその謝罪を受け入れなかった。
自分は安岡の家族ではないので、そもそも我慢したり仲良くしたりする筋合いはない。元々自分は他前から目障りに思われていたに違いない。店は繁盛しているし、勘助を弟のように構っていた。それらが玉枝には気に入らないのだろうと断定した。
もう二度と安岡家には近づかないと言い放ち、八重子にもよそよそしく接し、彼女を追い返した。

しかし、糸子も苦しかった。本当は安岡家と仲良くしていきたかった。けれども、その態度を素直に表すことができなかった。気持ちとは裏腹に、八重子に八つ当たりしてしまったことに自己嫌悪した。
人恋しくなった糸子は、娘の直子(心花)をきつく抱きしめた。ところが、その無遠慮な行動は直子にまで嫌がられた。自分を受け入れてくれる人は誰もいないと思い、ますます落ち込んだ。
ついに、仕事も放り出して、二階でふてくされて寝てしまった。

糸子の事情には関係なく、店には客が殺到していた。もうすぐ衣料品の配給制度が始まるので、その前に気に入った洋服を手に入れようとする客が多いのだ。
縫い子のリーダー格の昌子(玄覺悠子)に叱られても、糸子は全く仕事をする気がなかった。自分が稼ぐと、その分よその誰かの稼ぎが減り、貧乏な人を苦しめることになる。だから、自分は仕事をしない方が良いなどと屁理屈を言うようになった。

怒った昌子と揉み合いになり、ふたりは絡みあったまま階段を転げ落ちた。それが刺激となり、糸子は自分を取り戻した。
自分には大切な家族のほか、生活の面倒を見ている7人の縫い子、さらに自分を待ってくれている大勢の客がいる。誰から嫌われようとも、自分の大切な人たちを守るために自分が頑張らねばならないと思い出した。戦争にも貧困にも負けず、自分は自分らしくやっていくのだと決意した。

その日の夕、安岡家の前におすそ分けの野菜をこっそりと置き、それを餞別として彼ら一家のことを頭から追いやった。もう玉枝や勘助のことで悩むことはしなかった。

昭和17年(1942年)9月。
衣料品の配給制度が始まった。衣料品の欲しい人は衣料切符と共に購入しなくてはならない。店側は、回収した切符を配給所に提出し、売れた分だけしか生地を仕入れることを許されなかった。仕入れに難儀するかと思われたが、偶然にも勝(駿河太郎)が配給係に任命されたので、何かと融通が効いて助かっていた。

配給制度が始まっても、オハラ洋装店は順調だった。他の勤め先を解雇された妹の清子(坂口あずさ)と光子(杉岡詩織)を縫い子として働かせることができるほどだった。その上、衣料切符の整理係として善作(小林薫)を使うほど、人手が足りなかった。

そして、糸子は3人目を身ごもっていた。

また、最近、勝が夜遊びをするようになった。
本人は夜釣りに誘われたなどと言って健全な遊びであるかのように振る舞うのだが、昌子が言うには悪い遊びに違いないという。けれども、糸子はまったく頓着しなかった。糸子は仕事や子供たちのこと、戦争の行く末など他にたくさん考えるべきことがあった。勝がひとりで機嫌よくしている分には、糸子にとって何の問題もなかった。だから放っておくことにした。

11月のある夕。
店じまいの時間になると、勝が珍しく歌舞伎に誘ってくれた。

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NHK『カーネーション』第55回

本作の善作や、ドラマ『深夜食堂』のマスター役などで小林薫のことを好ましく思っていたのだが、映画『秘密』で僕たちの憧れの広末涼子とイチャイチャしているのを見て敵視していたことを思い出した当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第55回目の放送を見ましたよ。

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第10週「秘密」

昭和16年(1941年)12月8日。
日本軍はアメリカ軍と交戦状態になり、大東亜戦争が始まった。人々はそれを喜び、熱狂しだした。
一方で糸子(尾野真千子)は、また戦争が始まったことを苦々しく思うのだった。思うように商売がしたいので、勝っても負けても良いから早く戦争が終われと密かに願うのだった。

国民への規制も強化されていった。
女性はモンペ着用が半ば強制された。洋装店主の矜持として、糸子はモンペなど絶対に履かないと心に決めていた。あまりのブサイクさに我慢がならないのだ。
しかし、強く勧められて試しに履いてみると、意外に着やすく動きやすかったのでいっぺんに気に入ってしまった。戦争中は戦争中のお洒落として、モンペを活かすファッションを考えようと燃え始めるのだった。

また、鉄製品の供出も少しずつ始まっていた。ただし、糸子のミシンやアイロンは、国民服やモンペの縫製によって国に奉仕できるということで供出を免れていた。
ところが、八重子(田丸麻紀)のパーマ機は危機的な状況だった。今のところ取り上げられてはいないが、見つからないようにひっそりと隠していた。それに、女のお洒落は戦争にとって一番無駄なものだと言われ、パーマへの風当たりも強い。パーマ機の購入代金の月賦も終わっていないのに、それで商売ができなくなってしまっていたのだ。

髪結いの玉枝(濱田マリ)ともども、生活が苦しくなり始めていた。戦争から帰ってきたものの、精神を病んでしまった勘助(尾上寛之)も抱え、彼女らの家は火が消えたようにひっそりとしていた。
唯一の明るいニュースは、勘助がなんとか和菓子屋で働けるところまで回復したという話だった。
糸子は早速、和菓子屋を覗きに行った。まだバリバリと仕事をするわけでもなく、ぼんやりと店頭に座っているだけだったが、その姿を垣間見て糸子は嬉しくなった。

糸子は勘助をもっと喜ばせてやろうと思い、仕事帰りに喫茶店に誘った。そして、勘助の初恋の相手であるサエ(黒谷友香)も呼び出して、引き会わせてやった。サエのダンスホールはとっくに閉鎖され、今は軍需工場で働いているという。

ところが、サエの姿を見るやいなや、勘助は様子がおかしくなった。体が震えだし、吐きそうになった。すぐに走って店を飛び出してしまった。その後、河原の草むらにうずくまり、大きな声で泣き叫んでいた。
糸子のお節介が完全に裏目に出てしまった。

その日の夜、雨に濡れながら玉枝が怒りの形相で糸子を訪ねてきた。
勘助は家の2階から飛び降りようとしたという。全ては糸子のせいだと責め立て、もう二度と家に来て欲しくないし、勘助にも会わないようにと言いつけた。
糸子は心が強く、商売も成功し、家族にも恵まれている。そういう人間には、逆の立場の人間の気持ちなどわかるはずがない。勘助の家族がどれだけ神経をすり減らして彼の回復を願い、手を尽くしたかが糸子にわかるはずがない。わからないどころか、糸子は勘助の一家にとって毒であると言い放った。
去っていく玉枝を、糸子は何も言えず呆然と見つめるだけだった。

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NHK『カーネーション』第54回

札幌には「大通公園」があり、名古屋には「久屋大通公園」のあることまでは知っていたが、横浜の関内には「大通り公園」がある(参考: 横浜の公園発達史)と知って驚きつつ、今日は関内で女の子とジンギスカン・デート(デート?デートなのか!?)する予定の当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第54回目の放送を見ましたよ。

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第9週「いつも想う」

昭和16年(1941年)。
戦争の影響で、国民の生活にはさらなる変化が表れていた。軍需景気で儲かる商売と、ぜいたく禁止令で経営が難しくなる商売とに分かれてきていた。

ついに背広の売買が禁じられることとなったため、勝(駿河太郎)の仕事はほとんど無くなった。ポツポツと国民服の注文があるのみで、暇な時間は商店街の旦那連中と飲んで遊ぶばかりだった。

隣の履物屋・木岡(上杉祥三)の弟(多々納斉)は小さいながらも縫製工場を持っており、軍から制服の注文を受けたため、時局に乗って大儲けしているという。彼は羽振りよく商店街の旦那連中を招待して宴会を開いた。勝も喜んでそれに出かけるのだった。

奈津(栗山千明)が女将を務める吉田屋も、そういった宴会需要が多くて景気が良かった。また、本土で羽目を外したい軍人たちからも重宝され、奈津は大忙しだった。
一方で、奈津の夫・康夫(真鍋拓)は店の手伝いもせず、商店街の旦那連中に合流して自分の店で飲んだくれる始末だった。婿養子の立場でこれまでは奈津の言いなりになるばかりだったが、周りの男達にはやし立てられたことと酒のせいで気が大きくなり、奈津に口答えして追い返した。奈津は腹を立てるのだった。

糸子(尾野真千子)の婦人服については、今のところ目立った変化はなかった。
ぜいたく禁止令によって、豪華な衣類の売買は禁じられていたが、糸子の巧妙な工夫でそれを回避することができていた。また、女性たちのお洒落心もそう簡単に収まるものではなく、客の方も相変わらずだった。

ところが、同じように女性を相手にする商売である、美容師の八重子(田丸麻紀)は少々事情が違っていた。
パーマネントを求める客の数に変化はなかったが、八重子の心境に変化が表れていた。パーマネントは明示的に禁止されたわけではないが、お洒落は非国民のすることだと言って自粛すべきだという風潮になっているのだ。特に、八重子の息子たちがパーマネントのせいでいじめられるようになってきたことに心を痛めた。しかし玉枝(濱田マリ)は、何事にも良い時と悪い時がある、少々辛いからといって挫けるべきではないと励ますのだった。

そんな矢先、玉枝へ電報が届けられた。戦争に行っていた勘助(尾上寛之)が帰ってくるという。久しぶりの明るい話題に玉枝らは喜んだ。すぐに糸子にも伝えられた。顔見知りだけを集めた、小じんまりとして温かい宴会を糸子の家で開くこととなった。

しかし、主賓の勘助がなかなか現れなかった。
遅れて、兄夫婦の泰蔵(須賀貴匡)と八重子がやってきて、勘助は腹を壊して出席できなくなったという。その日は、主賓抜きであったが明るい夜を過ごした。

ところがおかしなことに、何日経っても勘助は皆の前に姿を現すことがなかった。人に会えないような大怪我でもしているのではないかと心配になった糸子は、勘助の家を訪ねた。
勘助は五体満足であったものの、心神喪失状態で自室に閉じこもっていた。糸子に会うと、無表情のまま「心を失くした」と言って涙を流すのみだった。勘助の変わり果てた姿にショックを受けた糸子は、早々に勘助の元を辞した。

後で、糸子の家に八重子が説明に来た。
戦争でよほど酷い目に遭ったせいだろうということだった。八重子は、懐かしい我が家でゆっくりとさせてやることが何よりの治療法だと言った。必ず良くなると信じて待つのだという。

糸子はやりようのない怒りに震えた。勘助が元通りになると強く願い、信じると共に、彼を変えてしまった戦争を憎むのであった。

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