現在ドラマの中では1970年なので、ついに山瀬まみ(1969年生)のいる時代が描かれ始めたのだなと感慨深く思っている当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第123回目の放送を見ましたよ。
葬式帰りで酔っ払った北村(ほっしゃん。)が誰かの死を伝えに来た。しかし、糸子(尾野真千子)がいくら聞いても誰が死んだのかは話さずに帰ってしまった。
おそらく泉州繊維商業組合の関係者の誰かだろうと思った糸子は、組合長の三浦(近藤正臣)に聞いてみた。三浦によれば、死んだのは周防(綾野剛)の妻だという。三浦は、北村が自分で糸子に伝えたいと言っていたので任せたという。まさか北村がきちんと報告していなかったとは想像していなかったが、三浦は北村の糸子に対する恋心を思えばその行為にも合点が行った。
糸子自身は、北村の秘めた思いよりも、周防のことで頭がいっぱいになった。
周防との出会いと別れからすでに20年近い年月が経っていた。糸子が周防に月賦で売った店(第97回)の支払いは2年前に完済しており、それからは直接的にも間接的にも関係はなくなっていた。周防自身や彼の家族がどうしているか、糸子には何もわからなくなっていた。
その夜、糸子は眠れなくなった。目をつぶれば瞼には周防の姿ばかりが映った。思い返せば、周防と一緒に過ごした時間よりも、彼のことを思い出す日々の方がずっと長くなってしまっていたのだ。
オハラ洋装店では、聡子(安田美沙子)が若い女性客らと良好な関係を築いていた。購入を迷っている客も、聡子がうまく勧めると納得し、喜んで買っていった。
糸子は、再び自分の引退の時期について考え始めた。
しかし、昌子(玄覺悠子)や松田(六角精児)は、今の聡子に店を譲ることには反対だった。彼女はまだまだ経営者の器ではないどころか、半人前もいいところだというのだ。松田の見立てでは、一番商売が上手いのは優子(新山千春)だという。彼女の手腕は糸子をも凌ぐという。彼女に大きく水を開けられて糸子と直子(川崎亜沙美)が位置し、そのふたりよりもさらにずっと経営者として劣るのが聡子だという。糸子は頭を抱えた。
糸子と昌子は、聡子に婿を取ろうと意気投合した。事務や経理に明るい(そして男前な)夫を取り、店を任せようと考えた。考えてみれば、聡子は男友達が多く、いろんな青年を家に連れてくる。彼らの中から選べば良いかもしれない。
しかし、よくよく考えなおせば、聡子の友達には碌なのがおらず、店を任せられそうにない。あほの聡子の周りはあほばかりだといって、その計画も棚上げになった。糸子が引退できるのはまだまだ先になりそうだった。
八重子(田丸麻紀)が深刻な様子で訪ねてきた。玉枝(濱田マリ)の体調がすぐれないので病院で検査したところ、余命が半年ほどだと宣告されたという。そのまま入院することになったという。
その話を聞いてから、糸子は2日に1度の割で玉枝を見舞った。
いつも家の夕食のおかずを重箱に詰めて持参し、つとめて明るい話ばかりをした。玉枝も糸子の見舞いをたいそう喜んだ。ふたりはいつでも穏やかで幸せな時間を共有した。
ところがある日、糸子が病室に入ると玉枝は体を起こそうともせず、厳しい表情で天井を睨んでいた。玉枝は待合室のテレビで戦争の事実を伝える番組を見たのだという。そこでは、日本軍が戦地で行った悪行について取り上げられていた。
これまで玉枝は、戦地へ行った息子・勘助(尾上寛之)の気がふれてしまったのは、彼が戦地でひどい目に合わされたせいだと信じていた。ところが、テレビを見てそれは反対だと知ったのだ。勘助ら日本軍の方こそが加害者だったのだ。
玉枝は自分の信念が誤りであったこと、他人に対して優しかった勘助が戦地でどんなことをしたのか、その結果どんな苦しみを受けたのかと思うと悲しくてならなかった。それは糸子も同じだった。ぐっとこらえる玉枝の前で、糸子は嗚咽を漏らした。
玉枝は糸子の頭を優しくいつまでも撫で続けた。
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