「やっぱり、これを見ないことには区切りがつかないよな、もしくはボーナストラックと考えてもらってもいいよ」とひとりごちている当方が、映画『ゲゲゲの女房』を見ましたよ。
茂は布枝よりさらに10歳も年上で未婚、戦争で左腕を失ってしまったという。最良の条件とは言えなかったが、貸本漫画家として東京で活躍しているという話であった。
見合いをしてから5日で結婚し、すぐに東京で夫婦生活を始めた。
しかし、茂の暮らし向きはお世辞にも良いとは言えず、布枝は驚く。茂を問い詰めたところ、見合いを成功させるために仕事が順調だとウソをついたことをあっさりと認めた。その上、少しも悪びれるところがなかった。
家には1粒も米がないどころか、米屋への支払いもずいぶんと滞ったままだった。家屋はボロ屋である上に、新婚家庭の2階には布枝の知らない男が間借りしていた。茂は傷痍軍人恩給をもらう資格があったが、受取人は実家の両親になっており、茂には一銭も入ってこないという。
茂は布枝を連れて帰って来るや、ろくに話もしないうちに仕事部屋に一人で篭ってしまった。布枝は途方にくれてしまった。
生活を始めるも、茂は仕事ばかりで、少しも布枝に心を開こうとしない。しかも、貸本漫画業界の景気も悪く、原稿料は値切られるばかりだ。布枝は、ついに野草を採ってきて料理をしなければならないところまで落ちぶれた。
ふと、居間の振り子時計のゼンマイが巻かれていないことに気づいた。毎日ゼンマイを巻くときだけ、布枝は自分が人間らしく生きていることを実感するかのようであった。
しかし、生活に困ってしまい、その振り子時計も質入されてしまった。
人手が足りなくなった茂は、布枝に原稿作成を手伝うよう命じた。持ち前の器用さでアシスタントを立派に務める布枝であったが、いまだ茂の漫画の内容は理解できずにいた。
子供も生まれ、ますます生活は逼迫する一方だった。ついに爆発した布枝は、茂が大切にしていた漫画用資料を古本屋に売却するよう迫る。漫画では食っていけないので、転職するよう訴えたのだ。
しかしその直後、茂の個性的な作品は週刊少年マガジンの編集部の目に留まり、破格の条件で同誌へ執筆することを依頼された。
作品を書き上げた茂は、意気揚々と編集部へ作品を届けに出かけた。
布枝は留守番をしながら、畳に横たわり伸びをした。
やっと運が向いてきたことに気が軽くなったのだ。
質受けすることのできた振り子時計のゼンマイをそっと巻く布枝であった。