第3週『うちのやりたいことて、なんやろ』
千代(杉咲花)は歌舞伎役者・早川延四郎(片岡松十郎)から、女将・シズ(篠原涼子)へ手紙を届けるよう頼まれた。ふたりの仲が道頓堀で悪い噂になり、岡安の商売に影響が出ている。当初、千代はきっぱりと断った。延四郎も諦めざるを得なかった。
しかし、延四郎としばらく話しているうちに情が移ってしまった千代は考えを改め、自ら手紙を引き受けた。
千代は手紙を差し出したが、シズは頑として受け取ろうとしなかった。押し問答の末、シズは手紙を受け取らない理由を説明した。
若い頃のシズは女将修行がうまくいかず、跡継ぎを諦めようとしていた。そんな時、延四郎に「どんくさい子が一生懸命努力し、一人前になっていく姿を見ていると自分の励みにもなる」と言って応援されたという。彼の励ましがなければ、今の自分はなかったと思うほどの恩人である。そのような人物の手紙を読めば会いたくなるに違いない。会いに行けば、岡安も家族も破綻してしまう。だから会いに行かないし、手紙も読まないと述べた。
シズは話を切り上げるため、千代の年季明けの身の振り方に水を向けた。自分の将来すら考えていない千代が、他人の心配などする筋合いはないと叱った。
ぐうの音も出なくなった千代は、ヤケになって手紙をシズの机に置いて立ち去った。物陰から盗み見すると、シズは即座にその手紙を破り捨ててしまった。
いよいよ、延四郎の引退公演の千秋楽の日を迎えた。
その日は別の理由で岡安も大忙しだった。翌日に重要な団体客を迎え入れる準備があったのだ。いつもはのんびりしている夫・宗助(名倉潤)ですら仕事に集中しなければならなかった。娘・みつえ(東野絢香)の舞の稽古にはいつも宗助が付き添っていたが、それもできず、千代が付き添うことになった。
みつえは母の跡を継ぐことを心に決めている。加えて、父から甘やかされたお嬢様育ちであるため勝ち気である。同い年の千代にもきつく当たる。
みつえの気性の激しさは、外の人間にも同様である。ライバル茶屋・福富の一人息子であり幼馴染でもある福助(井上拓哉)の姿を見つけるや否や、シズの悪評を流したことで食ってかかった。また、彼が跡継ぎ修行をせずに下手くそなトランペットで生計を立てようとしていることをバカにした。
福助は、家業の跡継ぎをしたくないのには理由があると話しはじめた。道頓堀での芝居興行は減少傾向にあるという。以前は一日中芝居が行われていたが、今では昼と夜の2回しかない。客の性質も変わり、芝居だけを見て、茶屋に寄らずにサッと帰る人が増えているという。実際、この10年間で多くの芝居茶屋が廃業した。福助から見れば、芝居茶屋に将来性はないのだ。
一方のみつえは、岡安を引き継いでもり立てることを夢見ており、福助の話は気に入らなかった。怒って、福助のトランペットを川に投げ捨てた。
千代にとっては、初めて聞く話で少なからず驚いた。
みつえの稽古の送迎を終えて戻ると、団体客対応の大詰めで岡安はさらに騒がしかった。店の要であるシズはてんてこ舞いである。
そんな中、千代はシズに向かって、団体客のことは自分たちに任せて延四郎に会いに行ってほしいと言い出した。それは、団体客の対応を全て放棄するのと同じことだった。
千代は自分の身の振り方に関してシズから言われた言葉を引用した。曰く、自分がどうしたいかよく考え、それに従って行動しなければ後悔するというものである。千代は、その言葉は千代に向けたのと同時に、シズが自分自身に向けた言葉ではないかと指摘した。会いに行かないことで、シズに後悔してほしくないと言うのである。
千代は、芝居茶屋の将来が暗いという話を聞いて考えたと話した。確かに自分は芝居が好きだし、岡安のことも好きである。だからここにいたい。
しかし、それよりも自分がもっとも優先したいことは、シズに恩返しすることだと述べた。実家が夜逃げして、自分には行き先がなくなった。そんな時に助けてくれたのはシズである。シズがいなければ、今の自分はいなかったに違いない。
自分にとってシズが恩人であることを思えば、シズにとっての恩人である延四郎のことをどう思うかは容易に想像できる。会いに行かなければどれほどの後悔をするかわかると述べた。
話を聞いていた女中連中も千代に同意した。先代女将・ハナ(宮田圭子)も承諾した。夫・宗助は、妻が昔の男に会いに行くなど承知し難かったが、それでは格好がつかないので平静を装って承諾した。
こうして翌朝、シズは延四郎との待ち合わせ場所へ向かった。
その頃、延四郎は興行主の大山鶴蔵(中村雁治郎)と別れの挨拶をしていた。延四郎が妙に早く出発するので訝しく思う大山であったが、気持ちよく送り出そうとした。
その矢先、延四郎が突然倒れた。