最近、伊丹十三のエッセイ集である『ヨーロッパ退屈日記』やら『女たちよ!』やらを読んでいるわけだが、クールでダンディでちょっとガンコなんだけでユーモアのある著者の様子が本作の吉野によく重なるなぁと思う当方が、BSフジ『北の国から』の第14回を見ましたよ。
雪子は吉野(伊丹十三)とふたりだけで会いに行ったのだ。
雪子は、令子の病状が良くならないのは入院している病院に問題があると考えていた。その病院は吉野の縁故であり、令子が彼に気兼ねして転院したがらないことも知っていた。それで、まずは吉野を説得する必要があると考えたからだ。
吉野は院長と直接話してきた結果を伝えた。令子の病状については可能性を全て考慮して検査をしている。それでも病原が見つからないので、神経や精神の問題であると考えるのが妥当だという。病院側としても、令子の転院を妨害しているわけではないし、雪子と令子がどうしても希望するなら送り出すつもりではある。そういったことを、吉野は嫌味混じりに説明した。
吉野は話題を変え、純に言及した。翌日、純は北海道に帰ることになっている。純と別れることで、令子の病状が悪化するのではないかと詰め寄った。令子のためにも純を東京に引き止めておくようにと責めるのだった。しかし、雪子はそれには何も答えなかった。
純は病室でじっと令子の寝顔を見ていた。
令子が目を覚ました。純の姿を見つけると、今見ていた夢の話を始めた。夢の中にも純がいて、彼のお気に入りの5段変速ギア付きの自転車に乗っていたのだという。昔純がやっていたように、曲乗りばかりするので令子はハラハラと見ているという夢だったという。東京時代に純が乗っていたその自転車は、今でもアパートの物置にしまってあるという。そこまで喋ると、令子は再び眠りに落ちた。
令子が眠ってしまったので、純はアパートに戻った。そして、令子が話していた5段変速自転車を物置から引っ張りだした。半年放置されていただけで、自転車はすっかり錆びてみすぼらしくなっていた。しかし純は紙やすりで錆を落とし、油をさして、愛おしそうに整備した。アパートの前で作業を行なっていると、同級生だったタカシが迎えに来たので、ふたりで自転車に乗って出かけた。
以前のタカシは、純と同じように変速ギア付きのスポーツタイプの自転車に乗っていたはずなのに、今日はもっとモダンな自転車に乗っていた。聞けば、お年玉を貯めて新調したのだという。もう変速ギア付きの自転車は流行遅れだから乗らないのだという。タカシの家に行くと、純の知らないプラモデルがたくさんあった。例えば、スペースシャトルというものを見せられたが、純にはピンとこなかった。
それからタカシは、高校生の兄が隠し持っているというヌード写真集を見せた。純は初めて見る女性のヌード写真に驚き、罪悪感を抱いた。タカシは餞別だと言って強引に純に引き渡した。純は返そうとするが、タカシは力づくで押し付けてくるのだった。しばらく押し問答が続いたが、その騒ぎが誰かに見つかっては困ると思い、純は渋々もらって帰ることにした。
タカシの家を出る時、彼の古い自転車が打ち捨てられているのが見えた。タカシによればまだ使えるが、流行遅れだから乗らないのだという。
また、渡されたヌード写真集はカバンの底板の下に隠した。帰りの飛行機の手荷物検査場で見つかって叱られるのではないかと思うと、純は心配でならなかった。
アパートでヌード写真集をカバンに隠し終えると、純は令子の病室に戻った。令子は、翌日に純が帰ることをしきりに残念がっている。病気が治ったら北海道に遊びに行きたいなどと言うのだ。
それを聞いていた純は、令子が以前に麓郷へ来たこと(第9回)を指摘した。令子は隠していたつもりだろうが、純も螢も気づいていたと告げた。パジャマに令子の匂いがついていることに螢が気づいたのだと説明した。令子は涙ぐんだ。
純は、令子は純が東京に残る事を望んでいるか質問した。令子は肯定も否定もせず、純の方こそ東京に残る気があるのかと質問した。ところが、純がその答えを言う前に、雪子が病室に戻ってきて会話は打ち切りとなった。
病院を辞した純と雪子は、喫茶店で夕食を摂った。
純は、明日の飛行機には乗らないことを雪子に表明した。五郎(田中邦衛)は怒るだろうが、病気の令子を残しては行けないと言うのだ。また、令子に情が移り、五郎との間で板挟みになるくらいだったら、東京になど来るべきではなかったと後悔の念を表明した。
その時、雪子は冷淡だった。五郎は怒らないから、純の好きなようにすればいいと冷たく告げた。むしろ、五郎はそうなることを予期していたと言う。雪子の態度に怯えた純は、雪子に許しを請うた。けれども雪子は「私には関係ないわ」とさらに冷たく突き放すのみだった。
その晩、純は五郎へ手紙を書いた。まずは、その日起きた当たり障りの無い内容を綴った。友達のタカシとキャッチボールをしたり、自転車を乗り回したりしたことの報告だ。
手紙を書きながら、純は一家で東京に住んでいた時の事を思い出した。
当時、純の友達の間で変速ギア付きの自転車が流行っていた。ところが、純は自転車を持っておらず疎外感を抱いていた。令子に相談し、買ってもらう約束を取り付けた。ところが、その話を聞いていた五郎が、ゴミ捨て場からみすぼらしい自転車を拾ってきた。自分で修理してペンキを塗り直し、それを純に与えた。純は大いに不満だったが、自転車が無いよりはマシだと思い、それに乗って仲間の輪に入った。
ところがある日、警察官が家に訪ねてきた。自転車の元の所有者から訴えがあったので、回収するという。事を穏便に済ませたい令子は即座に謝って差し出した。しかし、五郎は納得がいかなかった。1ヶ月以上もゴミ捨て場に放置されており、そのままでは到底使用できない自転車だったのに、今頃他人が所有権を主張するのはおかしいと言って警官に食ってかかった。さらに、流行遅れだからといって、まだ使えるものをすぐに捨ててしまう風潮も気に入らないなどと自説を打った。警官は怒りだすが、令子が必死に謝ってその場はなんとか収まった。そして、それから何日かして、令子が真新しい5段変速ギア付き自転車を買ってくれた。
その時の純は、五郎は物事の分からない田舎者で、話が分かるのは都会的な令子の方だと思った。
しかし、不思議なことに、今では五郎の気持ちがわからないでもなかった。それというのも、麓郷での半年間の生活を経験したからだ。その生活は、全ての必需品を自分たちで作り出し、様々な工夫を凝らして営んでいるものだ。水道や電気まで自給自足している。純自身はそんな生活に不満が多いし、ほとんど何も手伝いはしなかった。それでも、五郎の行き方のわずか一部でも理解し始めていることを自覚した。
純は、五郎に宛てて書いていた手紙を反故にした。そして、当初の予定通り北海道へ戻ることを決めた。
純は自分で自分の気持ちがわからなかった。五郎との約束はそれほど重要なわけではないし、東京での暮らしが性に合っているのは間違いないし、病気の母のそばにもいたい。しかし、なぜだか無性に麓郷へ帰らなくてはならない気がした。
令子に会えば決意が揺らぐ。それが分かっていたので、純は翌日母には会わず、直接空港へ向かった。令子に、吉野のことが嫌いではないと伝えられなかったことだけが心残りだった。
麓郷に帰って1週間ほどで、純は元の生活に戻った。令子のこともほぼ気にならなくなった。純の留守中、螢と五郎はUFOを見たという。純はあまりにバカバカしくて、まじめに取り合わなかった。
純は、東京から持ち帰ったヌード写真集を正吉(中澤佳仁)とふたりで閲覧した。ふたりは、女性の裸を見ると陰茎が勃起することについて話し合った。その現象については気づいていたが、どうしてそうなるのかふたりにはわからなかった。正吉が杵次(大友柳太朗)に質問したところ、「フキノトウが春に大きくなるのと同じ事だ」という返事があったという。純と正吉には意味がさっぱりわからなかった。
さらに正吉は、自分の経験談を話し始めた。最近結婚した夫婦の家のそばを通りがかった時、中から新婦の笑い声と泣き声の混じったような声が聞こえてきたのだという。それを聞いた時、正吉の陰茎が勃起したのだという。純にはそれがどういうことか想像できなかった。そこで、その日の夜、ふたりで声を聞きに行くことにした。
夜になって、純は星の観察に行くと嘘をついて家を出ようとした。しかし、螢も星を見たいといって付いてきてしまった。純と正吉は走って振り切ろうとするが、螢は足が早くて逃げきれなかった。走り疲れた3人は、野原の上に倒れ込んだ。
その時、夜空に大きな光が見えた。それは色が変わったり、ジグザグに動いたりしていた。3人はUFOに違いないと思い、追いかけた。しばらく追いかけると、森の上に停止して、まるで誰かと会話をするように色が変わり、柔らかく光った。呆然と眺めていると、UFOは突如舞い上がって消えてしまった。
あっけにとられていると、UFOがいたあたりから誰かが歩いてくるのが見えた。3人は慌てて物陰に隠れ、様子を伺った。すると、担任の凉子先生(原田美枝子)が朗らかに「365歩のマーチ」の鼻歌を口ずさみながら歩き去った。涼子は宇宙人と親しい間柄なのかもしれないし、そもそも宇宙人が涼子に化けているのかもしれないと思われた。
自分たちが秘密を見てしまったことを宇宙人に知れると危険が及ぶように思われた。だから、今夜のことは3人の秘密にした。
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