フジ『北の国から』第24回(最終回)

毎日1時間のまとめ記事苦行が終わるのかと思うとほっとする反面、やはりこのドラマが終わるのは寂しいなと思う当方が、BSフジ『北の国から』の最終回を見ましたよ。

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令子(いしだあゆみ)が亡くなってから1週間が過ぎた。葬儀はひと通り終わった。雪子(竹下景子)は葬儀の礼状の準備に追われた。螢(中嶋朋子)は雪子を手伝った。

子供たちが寝ると、雪子は草太(岩城滉一)のことを思い出していた。清吉(大滝秀治)は、ふたりはボクシングの試合後は一度も会っていないと思っていた。しかし、本当は一度だけ会っていたのだ。
それは、試合の翌日、草太が富良野に帰ってきた時だった。人に会わないよう、夜遅くに隠れるように帰ってきた草太であったが、雪子が富良野駅で待っていた。草太は乗り気ではなかったが、雪子が喫茶店に誘った。雪子は、草太の試合に感動したと心からの気持ちを話した。

けれども、草太は元気の無いままだった。
草太は、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)が札幌のソープランドで働いていることを知ったのだという。そして、試合が終わった日の真夜中に彼女から電話がかかって来た。つららは二度と富良野に帰らないと告げ、自分のことはすっかり忘れるよう頼んだという。そして、草太には雪子と幸せになってほしいと言ったのだという。
つららの言葉で、草太は雪子に会わないことを決めたと話した。少なくとも、今から2年8ヶ月の間は雪子に会うつもりはないという。それは、草太とつららが交際していた時間に相当するのだ。その時、雪子が富良野にいれば交際したいと告げた。
雪子は明確な返事をしなかった。雪子は令子に、なぜ富良野にいるのかと聞かれ、答えに窮した経験を話した。続いて、過去に草太に投げかけられた言葉を引用した。東京の女は北海道に憧れるが、結婚の話が持ち上がるとよそよそしくなって逃げていくという話だ。当時の雪子は、そのような女達を軽蔑していたし、自分は違う種類の女だと思っていた。しかし、今になって考えると、そういう女達と同じかもしれないと思うのだ。

雪子は草太に手紙を書いた。純(吉岡秀隆)や螢は移住して1年で、すっかりと富良野の住人になった。それに比べると、自分は一時的な旅人に過ぎなかったと反省し、恥じた。次に富良野へ行くことがあれば、その時は住人になるつもりだと書いた。2年8ヶ月後、草太に会えれば良いのだが、と締めた。

純は内心がっかりしていることとがあった。東京で仲の良かった恵子(永浜三千子)に会えないからだ。恵子は令子の病院に見舞いに来てくれたこともあるし、家も近所だ。きっと弔問に来てくれると期待していたのに、一度も現れなかった。そこで、彼女の家へ様子を見に行くことにした。しかし、すでに恵子の家は取り壊されてなかった。
純がますますがっかりして歩いていると、以前の小学校の先生に出くわした。彼によれば、恵子は親の仕事の都合でアメリカへ引っ越したのだという。現地からしっかりした英語で書かれた手紙が届いたという。その他、純の元同級生たちは中学受験に向けて、予備校へ通ったり睡眠時間を削ったりして勉強しているという。純があまり勉強に打ち込んでいないと聞けば、もっとしっかりしろと発破をかけるのだった。令子が亡くなったことを聞くと、教育熱心でしっかりした母親だったのにと悔やんだ。
純は様々なことにショックを受けた。令子のことを言われたことや、恵子が突然いなくなったことも辛かったが、先生の態度が気に入らなかった。昔は大好きな先生だったのに、今は正反対の気持ちになっていた。彼が勉強のことばかり口にするからだ。しかし、純が考えるに、変わったのは先生の方ではなく、自分の方だった。
純は凉子先生(原田美枝子)に会いたいと思った。はじめの頃こそ、まともに勉強を教えない涼子のことを馬鹿にしていた。しかし、今は涼子のいる分校での経験が何ものにも変え難かったと思うのだ。涼子は子供たちと一緒に自然を不思議がり、共に学び、遊んだ。それが純にはとても楽しかったのだ。涼子が懐かしくて仕方なかった。

螢は令子の本棚の中から、彼女の書きかけの手紙を見つけた。それは、令子が富良野で子供たちに会った(第17回)直後に書かれたものだった。そこには主に2つのことが書かれていた。一つは、純や螢とゆっくり話をする時間がなかったので、富良野での経験について手紙で詳しく知らせて欲しいということだった。もう一つは、富良野で見た雲がとてもきれいだったということだった。令子は雲についてもっと書きたいことがあったようだが、手紙は途中で切れていた。

そして、純と螢は1週間ぶりに富良野に帰ることになった。雪子は東京に残る。五郎が富良野駅まで車で迎えに行った。

五郎がロータリーに車を停めて待っていると、ひょっこりとこごみ(児島美ゆき)が現れた。彼女は知人を見送りに行く途中であり、五郎の車を見つけたので立ち寄ったのだ。ふたりが会うのは、令子が死んだ日()第22回)以来だった。五郎は東京から帰ってきても駒草には一度も顔を出していなかったのだ。
こごみは明るく振舞うが、どことなく態度に陰があった。こごみは、釧路に支店長で栄転する知人を見送りに来たのだと説明した。その知人は、大きな街に行くことではしゃいでいたのだという。こごみは、ウキウキと富良野を出て行こうとしている様子に頭が来ているという。見送りの時間になったと言って、こごみは駅に向かった。途中で引き返し、五郎に店に来るよう甘えた。五郎は会いに行くことを約束した。
こごみが去った後、五郎はこっそりと駅の様子を見に行った。改札の前では、真面目そうな中年の男が、同じように堅物な人々に囲まれていた。そして、その輪にこごみの姿はなかった。構内を見回すと、こごみは物陰からその男を盗み見ていた。目には涙を浮かべていた。五郎は複雑な思いだった。

それから、純と螢が汽車で帰ってきた。改札を抜けると親子は抱き合った。純と螢が東京にいる間に、新しい丸太小屋は完成していた。すでに五郎は住み始めており、ふたりを新しい家に連れて行った。見事な出来栄えに、子供たちは大喜びした。
一方で、寂しいニュースもあった。何年かぶりに富良野に台風が直撃し、この前まで住んでいた古い家の屋根が吹き飛ばされてしまったという。夜になり、3人は月明かりを手がかりに古い家を見に行った。自分たちが1年暮らした家が半壊した様子を見て、3人は寂しい思いがした。

螢が裏の畑の様子を見に言っている間、五郎と純は家の中を見て回った。
その時、五郎が純に話し始めた。五郎は参ってしまっているという。男は弱音を吐くべきではないと言いつつ、今の自分は打ちのめされていると告白した。とても辛いと言って涙を拭った。今だけは愚痴を言うのを許してくれと純に乞うのだった。純は弱った父親に何も声をかけることができなかった。

その時、家の裏で螢が叫んだ。以前に餌付けしたキタキツネが来ているというのだ。トラバサミのせいで(第11回)足が1本なくなっており、いつかのキツネに間違がなかった。そして、純が石を投げつけて寄り付かなくなったキツネ(第5回)でもあった。五郎に促され、純は手から餌を与えた。キツネがそれを食べた。純はとても嬉しかった。

その晩、純は初めて丸太小屋で寝た。夢を見た。令子が生きていて、彼女に手紙を書く夢だった。令子の注文どおり、この1年の経験を全て手紙に書いた。自分や螢がどれだけ成長したか、誇るように書いた。そして、富良野は洒落たものは何もないが、素晴らしい人々のいる町だと紹介した。自分たちはいつでもいるから、令子にも遊びに来て欲しいと書いた。
富良野は空がきれいだと書いた。令子が見た時のように、今日も雲がきれいだと書いた。いつも螢と一緒に、令子が見た雲を探していると記した。

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フジ『北の国から』第23回

本日、南太平洋のソロモン諸島沖でマグニチュード8の地震が発生し死者も出ているようで(CNNの報道)、被害にあった方々のことはとても気の毒に思う一方で、偽らざる気持ちを述べれば、今回のドラマシリーズの再放送は全てDVDに焼いて永久保存しようと思っていたのに、放送中に今日の津波注意報が画面の隅に表示されてしまったわけで、その状態で保存しなくてはならなくなったことを残念に思うわけであり、「デジタル化だなんだ言うんだったら、レコーダーに録画する時はこの手の注意報を表示しないような仕組みにしろよ、くそがっ」と悪態をつきながら視聴していたのだが、まさに津波注意報がピカピカ光る画面の中で清吉(大滝秀治)の言ったセリフに「天災は仕方がない、神様のしたことには諦めるしかない」という趣旨のものがあり、「そうだよなしかたねぇなぁ」と諦めることにし、もう一度被害にあった方への哀悼の意を表しようと思った当方が、BSフジ『北の国から』の第23回を見ましたよ。

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その日は、気持ちのいい秋晴れだった。寝室の壁の節穴から、柔からな秋の日差しが差し込んでいた。

純(吉岡秀隆)は朝早くに目を覚ました。雪子(竹下景子)はこんなに早くから弁当の準備を始めていた。五郎(田中邦衛)もすでに起きていた。しかし、おかしなことに五郎と雪子は一切話をしなかった。不審に思った螢(中嶋朋子)が聞いてみると、母・令子(いしだあゆみ)が昨夜死んだのだという。純は悪い冗談だと思ったが、雪子の泣き顔を見て本当のことだと思った。
ひとまず五郎は家に残り、雪子が純と螢を送り出した。昼には千歳空港に着き、午後のうちに令子の住んでいたアパートに到着した。

アパートには、令子側の親戚や令子の美容室の従業員を中心に、すでに大勢の手伝いが来ていた。吉野(伊丹十三)も来ていたが、彼は遺体の前に座り込み、放心してうなだれているだけだった。代わりに、吉野の親友だという小山(小野武彦)がてきぱきと働いていた。彼は葬式には手馴れているらしく、みんなに指示を出しながら、中心的役割を果たしていた。
純は、人々の働きに活気があるように思えた。人が死んだのに、ましてや自分の母の死だというのに、慣れた感じで次々と準備が整っていく様子を寂しく傍観していた。その上、吉野が遺体の前に居座っているので、部屋の隅で小さくなっていた。

そこへ、吉野の2人の息子が現れた。年は純たちと同じか、少し下のように思えた。彼らは純たちの方をチラチラと横目で見ることはするが、一切話しかけて来なかった。純たちから声をかけることもしなかった。
吉野は息子たちを呼び寄せると、「母さんにお別れをしなさい」と言った。純にはショックだった。その場にいたくなくなり、螢と一緒に夜の町へ出て行った。ふたりで道に腰を下ろし、しばらく時間を潰した。純は、吉野が令子のことをあの子たちの母だと言ったことがずっと気になっていた。
一方、螢は、五郎がなかなか姿を見せないことを気にしていた。自分たちを追ってすぐに行くと行ったはずなのに、一向に現れないのだ。

雪子は令子の死に納得がいかなかった。吉野の縁故のヤブ医者のせいで死期を早めたと考えている。その医者は、令子が痛みを訴えても神経性のものだと言って原因も追求せず、ろくな治療をしなかった。雪子の知人の医師に様子を見に行ってもらったところ、その医師もあまりにずさんな看護に呆れ果てていたという。それほど酷い医者なのに、吉野の立場が悪くなることを懸念して、他の医者には一切かかろうとしなかった。雪子はあの医者は信用できないと断じ、第三者に解剖してもらうべきだと訴えた。
吉野は、雪子の言うことは正しいと同意した。そして、自分のせいで令子を早死させてしまったと述べた。
一方、他の親戚たちは雪子の意見には反対だった。令子は自分の命と引き換えにしてまで、吉野の顔を立てることに徹した。だから、真相は明らかにせずに、令子の決断のまま死なせてやるのがよいと主張するのだった。
そこへ、最終の飛行機で北海道を発ったという清吉(大滝秀治)が現れた(彼は五郎のいとこにあたるので、離婚前の霊子とは義理のいとこだ)。それをきっかけに議論は終わり、解剖はされないことになってしまった。

翌日の23時ころになって手伝いの人々がみな引き上げた。ただし、清吉と吉野が家に残った。雪子は清吉のことは心強く思ったが、吉野には早く帰って欲しいと思っていた。しかし、彼は遺体の前を離れようとはしなかったのだ。

ところが、五郎はまだ姿を見せない。
純は、五郎よりも吉野に誠意を感じた。そして、五郎は令子のことを恨んでいるから会いたくないのではないかと考えるようになった。その上、すでに死んでしまったからのだから会う価値もないと思っているのではないかと考えた。雪子は、丸太小屋の建設の都合があるから遅れるのだろうと弁護した。今は農繁期だが、無理を押して仲間に手伝いに来てもらっている。おいそれと予定の変更はできないのだろうと言うのだ。しかし、純は納得しなかった。吉野だって仕事を休んで詰めているのだから、五郎も当然そうすべきだと思ったのだ。

その夜、清吉は雪子をおでんの屋台に誘った。雪子は気が紛れるといって、素直に従った。清吉はつとめて令子以外の話をした。そのおかげで、雪子はますます助けられた。
清吉は、息子・草太(岩城滉一)の近況を話した。1ヶ月前のボクシングの試合以来、ふたりは一度も会っていないのだ。試合で負けて、草太はボクシングをきっぱりやめてしまったという。そして、一生を富良野の農家として暮らすと覚悟を決めたのだという。今回の令子の訃報に際しては、雪子が気の毒だといって泣いていたという。
それから清吉は、過去に雪子へ心ない言葉を浴びせたことを謝罪した。草太が雪子にうつつを抜かしてしまうから、もう家に出入りしないで欲しいと言ったことだ(第12回)。今ではその時のことを深く後悔しているという。清吉は、東京の女性に対する不信感を抱く経験があったという。跡継ぎになるはずだった長男が、出稼ぎに行った東京で女性と恋に落ちた。いったんはふたりで富良野に戻ってきて、一生懸命牧場で働いていたという。清吉が見る限り、その女性も明るく楽しそうにしていた。しかしある日、彼女が辛抱の限界に達したという置き手紙を残して、ふたりは東京に行ってしまったという。突然のことに清吉は呆然とし、それから東京の娘を信じることができなくなったのだという。そのことを雪子に謝った。
それからふたりは家に戻った。清吉は、令子の仏前と、吉野のためにおでんの土産を買ってやった。

翌朝8時。誰よりも早く純は目を覚ました。すると、五郎が台所に座り込んで、みすぼらしくカップ麺をすすっているのを見つけた。たった今到着して、腹が減ったので戸棚を漁ったのだという。純はひどくがっかりした。
10時頃になって、再び手伝いの人たちが集まった。五郎は、令子に一度手を合わせたきり、ずっと台所に篭って女達と一緒に料理を手伝った。女達から令子のそばにいるよう促されたり、迷惑がられたりしても、頑としてそこをどかなかった。
純はますます五郎のことを無様だと思った。遅れてきたからといって、いまさら働くポーズを見せても白けるばかりだと思った。ましてや、それだけ元気に働ける力があるなら、どうしてもっと早くこなかったのかと思うのだ。何かすることよりも、早く来ることが一番だと思った。

もしかしたら、吉野がそこにいたから、五郎は令子の前に行けなかったのかもしれない。しかし、ふと気づくと吉野の姿は消えていた。それにも関わらず、五郎は台所から離れようとしなかった。

純と螢は、公園でブラブラと時間を潰した。すると、そこに吉野がいることに気づいた。ふたりは目を合わせないようにしていたが、吉野に見つけられた。不快感に駆られ、螢はブランコへ逃げた。逃げ遅れた純は吉野に捕まってしまった。
吉野は、純ももうじき初恋をし、その先の人生で何度も女性を好きになるだろうと予言した。恋愛とはそういうものだと説明した。一方、吉野自身の恋愛は今回を限りに全て終わってしまったと話した。息子たちを生んだ妻は3年前に死んでしまったという。吉野は、自分が好きになった女性はみんな死ぬのだと寂しく話した。

ふと吉野は、純と螢があまりにくたびれた靴を履いていることに気づいた。吉野はふたりを強引に靴屋へ連れて行った。葬式で汚い靴を履いていたら令子が悲しむといって、上等な運動靴をふたりに買ってやった。新しい靴を履かせ、古くてボロボロになった靴は店員に捨てさせた。
純は、古い靴が捨てられることに一瞬躊躇した。それは、富良野に越した当初に買ってもらい、1年間(雪靴を除いて)ずっと履いていた運動靴だった。それを買う時、五郎はデザインや履き心地は一切無視して、店で一番安い靴を勝手に選んで買い与えた。そのことは気に入らなかったが、毎日何をするときにもその靴を履き続けた。糸が切れると、五郎が自ら直してくれた。それだけ愛着もあった。
しかし、吉野に捨てるよう言われると、なぜか抗うことができなかった。

葬儀が終わり、令子は焼かれて骨になった。葬儀は無事に終わった。
すると五郎は、翌朝一番で富良野に帰るという。雪子やおじの前田(梅野泰靖)が引き止めるが、五郎は自分の予定にこだわった。農繁期に人出を借りて丸太小屋を作っており、みんなに迷惑をかけられないというのが理由だった。
さすがに前田は呆れた。離婚したとはいえ、子供もいるのにあまりに薄情すぎるというのだ。五郎のあまりの頑なな態度に、五郎が令子を恨んでいることも疑った。死んだ人間をいつまでも恨んでも仕方ないだろうと諭すのだが、五郎は翻意しなかった。

彼らとの話を打ち切りたくなった五郎は、隣室で絵を描いている螢のところへ行った。
螢は涙を浮かべながら「怖かった夜」のことを覚えているかと五郎に訪ねた。五郎には「怖かった夜」が何かはわからなかったが、螢の説明から、令子の不倫を目撃したこと(第4回参照)だとわかった。螢は、嫌な出来事を一生懸命思い出そうとしているのだと説明した。良いことを思い出すと辛くなるから、嫌なことを思い出して辛くならないようにしているのだという。五郎は、令子はもう死んでしまったのだから、嫌なことは全て忘れてしまえ、許してやれと諭した。五郎自身は、令子の全てを許したと話した。逆に、令子は自分のことを許していなかっただろうから、彼女が生きている間に許してもらえることをすればよかったと言うのだった。

その晩、純がトイレに起きると、五郎が仏前で一人で泣いているのを見た。けれども、翌朝早く、五郎は予定通り帰っていった。

五郎が帰った後、親戚たちは五郎の陰口を言い合った。葬儀に遅れてきたこと、台所に入りっぱなしで元夫らしくなかったこと、令子も結婚中に「ゴキブリ亭主」などと悪口を言っていたことなどを面白おかしく話した。吉野に比べてあまりにもおざなりな態度であったことから、今でも令子のことを恨んでいるに違いないと口々に言うのだった。

それを聞いていた清吉は、彼らの見方を否定した。
清吉によれば、五郎もすぐに駆けつけたかったのだという。しかし、金がなくてできなかったと説明した。令子が亡くなった報せを受けた晩、五郎は清吉に金を借りに来た。しかし、清吉も十分な現金を持っていなかった。近所の農家を回ってやっと金をかき集めたが、大人1人と子供2人分にしかならなかった。それで雪子と2人の子供を朝一番で送り出したという。
銀行が開く時間になって、五郎の親友の中畑(地井武男)が必要な金を工面してくれた。しかし、五郎は受け取るのを渋った。飛行機代ではなく、汽車の料金だけを借りて、一昼夜かけて東京まで来たのだという。飛行機と汽車の料金は、1万円ほどしか違わない。しかし、貧しい農家や五郎にとって、その1万円は非常に大きな負担なのだという。それを稼ぐのに一体何日働かなければならないか、それを考えるとおいそれと金を借りたり使ったりできないのだと話した。
北海道の農家が、どんなに苦しい生活をしているか、清吉は話した。自然の厳しさは冬だけではない。今年の夏は水害によって壊滅的なダメージを受けたという。いつしか、北海道の貧しい農家は天災に対して諦める癖がついてしまったというのだ。神様のすることには抗ってもしかたないと思わざるをえないのだ。

夜、純と螢は家を出て靴屋に向かった。捨てた靴を取り戻そうとしたのだ。しかし、すでに店は閉店しており、無人だった。仕方なく、店の横のご見捨て場を漁り始めた。
すると、パトロール中の警官(平田満)に見つかってしまった。警官の厳しい問いかけに対して、純は震え上がってしまった。上手く事情を説明することができなかった。けれども警官は、純の発する「再婚、おじさん、母、死」などの言葉から尋常では無いものを感じ取った。それ以上は聞かずに、率先して靴探しを手伝ってくれた。
純は急に涙がこぼれた。しかし、自分が泣いている理由がわからなかった。

その晩、純は夢を見た。
古い運動靴が川に流されていた。純と螢はそれをどこまでも追いかけていた。みすぼらしくてボロボロの靴だったけれど、五郎が買ってくれた大切な靴である。それを取り戻すためにどこまでも追いかける夢だった。

夢と同様、現実の靴も二度と彼らの手には戻って来なかった。

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フジ『北の国から』第22回

村上春樹は『走ることについて語るときに僕の語ること』の冒頭で「真の紳士は、別れた女と、払った税金の話はしない」というでっち上げの金言を書いている(さらに、「健康法を語らない」と追加される)が、それはウソっぱちだと切り捨てるにはもったいない言葉だよなと思う当方が、BSフジ『北の国から』の第22回を見ましたよ。

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8月のボクシングの試合後、草太(岩城滉一)は黒板家にめっきり姿を見せなくなった。雪子(竹下景子)の様子もどこかおかしかった。また、純(吉岡秀隆)は札幌でつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)に会ったことを食卓で話題にした。しかし、五郎(田中邦衛)と雪子は露骨に無視した。純は触れてはいけない話題なのだと思い、それから一切つららのことは話さなかった。

そして10月になった。五郎は中畑(地井武男)や彼の部下たちに手伝ってもらい、いよいよ丸太小屋の建築に取りかかった。純と螢(中嶋朋子)は学校が終わると建築現場に駆けつけた。雪子も炊事係として現場に詰めていた。作業は至って順調で、一週間と待たずにに屋根まで完成しそうな勢いだった。活気ある現場で、男たちも楽しそうに取り組んでいた。

純と螢は、現場をこっそりと抜け出し山奥に入っていった。実は、本人も忘れいてるが、数日後が五郎の誕生日なのだ。みんなでサプライズ・パーティーを開くことを計画していた。純と螢は翌年用のブドウ酒を贈るつもりだった。その材料となる山ブドウを採りに行ったのだ。

螢と純は、五郎の誕生日にこごみ(児島美ゆき)を呼ぶべきか話し合った。螢はこごみを呼ぶべきだと主張した。自分たちはピクニックの時にこごみに冷たい態度をとった(第20回)。しかも、その頃から五郎はこごみに会っていないようだ。螢は、五郎が自分たちに気兼ねしてこごみと会わないでいるように思われた。ゆえに、自分たちがこごみを誘ってやるべきだと考えているのだ。
一方の純は猛反対した。こごみの前でデレデレとしてだらしのない五郎を見たくはないからだ。しかし、その日は結論が出なかった。

翌日は日曜日だった。純と螢も朝から作業を手伝った。
螢が食料を持って家を出ようとすると、こごみが訪ねてきた。螢はこごみを建築現場に連れて行くことにした。道中、ふたりは親しくおしゃべりをした。螢はこごみを誕生会に招待した。こごみも喜んで参加すると答えた。

ところが、こごみが現場に着くと、場の雰囲気が一気に悪くなった。それまで楽しげに話していた男たちが、一切口を利かなくなった。五郎と目を合わせようとするものもいなかった。みんな、五郎と中畑がこごみと肉体関係のあったことを知っているのだ。もちろん、五郎と中畑も気まずい表情を浮かべていた。
そんな中、こごみは明るく快活な態度のまま、何も気にせず五郎の横に座った。そこで一緒に食事を摂り始めた。中畑にもわだかまりのない様子で挨拶をした。ふたりはほぼ一ヶ月ぶりの再会だった。

こごみと顔を合わせていたくない中畑は、純を誘って山の中へキノコ狩りへ向かった。すると、純は中畑に愚痴り始めた。純は、彼女が来ると五郎がだらしなくなるので、こごみのことは大嫌いだとぶちまけた。中畑は話の流れで、こごみが飲み屋に勤めていると言ってしまった。それを知った純は、ますますこごみのことを軽蔑するのだった。

一方、建築現場では、中畑の部下の中川(尾上和)がこごみに何かを耳打ちした。その直後、こごみは何も言わずに帰っていった。五郎はその場に立ち尽くし、こごみが帰っていくのを黙って見ているだけだった。螢はどうして急にこごみが帰ってしまったのかわからなかった。

夕方、五郎が帰宅すると、先に帰宅していた純の大騒ぎしている声が家の外まで聞こえてきた。純は誕生会にこごみを呼ぶのが嫌だと言い散らしていた。今日もこごみが現れた途端にみんなが白けたことを引き合いに出し、彼女はみんなに嫌われていると言うのだ。そして、飲み屋に務めている女は不潔だから来て欲しくないとまで言った。
外で全てを聞いてしまった五郎は、そのまま引き返し、中畑と一緒に飲みに出かけた。

中畑の目には、五郎がこごみのことで落ち込んでいるのが明らかだった。中畑は、こごみに深入りしないことを忠告した。五郎が誰かを好きになってしまうのは仕方ないが、子供たちのことを考えろというのだ。中畑は、純がこごみが飲み屋の女が出入りすることを嫌がっていることを伝えた。それから、ただでさえ五郎と令子(いしだあゆみ)の離婚で傷ついているところへ、別の女が現れることによる子供たちのショックは大きいはずだと説いた。子供たちに対して理想の父親であり続けることを最優先し、こごみとのことはせいぜい外での遊びに留めておけと助言した。
五郎は怒った。珍しく中畑を全否定した。自分は理想の父親ではないと否定した。それから、自分は女と遊びで付き合うほど器用でも無責任でもないと否定した。怒った五郎は店を飛び出して帰った。

家に帰ると、五郎はすぐに純に声をかけた。自分の誕生会を計画してくれていることと、純がこごみを呼びたくないと思っていることは知っていると話した。純が、こごみのことを飲み屋の女だから嫌いだと言っている事は許せないと厳しく伝えた。人にはそれぞれの生き方があり、各自が一生懸命生きている。純が人や職業に格付けをしていることが絶対に許さないと言うのだ。
純がこごみを呼びたくないから、五郎が代わりに断りに行ってやるとすごんだ。そのかわり、誕生会もキャンセルだと宣言して家を飛び出した。

雪子は慌てて五郎を追いかけた。ただし、雪子が五郎を追いかけた真意は、純のことをかばうのではなく、雪子に届いた手紙を五郎に見せるためだった。それは令子からの手紙だった。
令子は五郎に手紙を書くつもりだったが、それができないので雪子に宛てたという。内容を雪子から五郎に伝えることを期待していた。手紙には、すでに令子が吉野(伊丹十三)と一緒に暮らしているという事が書かれていた。五郎と正式に離婚して2ヶ月ほどしか経っていないのでまだ再婚はできないが、事実婚を始めているというのだ。子供たちに知らせるかどうかは五郎に一任するとあった。
それから令子は、自分の心境を綴っていた。離婚してからは2ヶ月しか経っていないが、吉野との関係が始まってからは2年半経っている。その間、令子は一人きりであるかのように感じていた。一人でいる時間は、家族と共にすごす時間の何倍にも感じるのだという。だからもう、一刻も一人ではいられない。だから、すぐに吉野と一緒になるのだと書いてあった。
それを読んだ五郎は、「良かった」という感想を述べた。雪子は「恥ずかしい」と言って、手紙を回収することもなく家へ駆け込んだ。五郎は手紙とともに富良野の街へ向かった。

五郎が駒草に顔を出すのも久しぶりだ。
五郎は、昼にこごみが急に帰った理由を問うた。こごみは急用を思い出したとにこやかに答えるのだった。
こごみは、五郎と会えない一ヶ月の間、取り乱すことなく待っていた自分を誇った。五郎は忙しかったためだと答えた。こごみはそれが嘘だと分かっていたが、追求しなかった。
続いて五郎は、誕生会が開催できなくなったと告げた。自分の忙しさのために開催できないのだと言い訳した。こごみも、店を休めそうにないので断るつもりだったと、再び笑顔で答えた。それ以上高いに踏み込まなかった。
さらに五郎は、こごみと中畑の関係を遠回しに聞いてみた。五郎が知ってしまったこと察したこごみは、巧妙にはぐらかした。五郎はそれ以上自分からは聞かなかった。

中畑との関係を答えるかわりに、こごみは、五郎が噂や過去にこだわるタイプかを聞いた。五郎はいったん否定した。しかし、すぐにそれを取り消した。
五郎は、自分の経験を話し始めた。妻・令子の浮気現場を目撃し、そのことにこだわり続けたと話した。令子がどんなに謝っても許さなかったというのだ。最終的には、子供たちを巻き込んだ騒動となった。人を許すことのできない自分の傲慢さを自嘲した。
そして、令子から再婚を知らせる手紙が来たことを話した。ホッとしたという正直な心境を語った。

そこへ、中畑の部下の中川とクマ(南雲佑介/現・南雲勇助)が駒草にやって来た。どういうわけか、五郎を店の外に呼び出して話をしようとしている。五郎は不審に思いつつ店の外に出た。

こごみは、五郎が席を外したことで緊張が解けた。大きく深い息をついた。

直後に五郎が戻ってきた時、顔面は蒼白だった。タバコをつかもうとする手は震えていた。会計をして帰ろうとする。
前妻・令子が死んだらしいというのだ。2ヶ月前に退院し、富良野まで旅行に来た令子が、以前に入院していた病院で死んだというのだ。

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フジ『北の国から』第21回

1982年に放送された本作では当たり前のように「トルコ(風呂)」という呼称が使われているわけだが、本まとめ記事においては1984年の改名運動(wikipediaで調べる)の流れを受け「ソープランド」と言い換えているのだけれども、それはさておき、「ダッチワイフ」を「ラブドール」と呼ぶ風潮にもやっと慣れてきたと思ったら、本日iroha (designed by TENGA)を見ていて「セルフプレジャー」という言葉を新たに知って軽くのぼせた当方が、BSフジ『北の国から』の第21回を見ましたよ。

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富良野の飲み屋街では、すすきののソープランドで働く女の噂が流れていた。本名は分からないが、麓郷にいた若い娘が「雪子」という源氏名で働いているというのだ。富良野の男がソープランドで出くわしたと言って、あちこちでしゃべっているのだ。

その噂は、駒草に入り浸っている五郎(田中邦衛)の耳にも届いた。そして、すぐにつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)ではないかと疑った。五郎は駒草のママ(羽島靖子)に協力してもらい、噂の発信源の男に会うことができた。彼から話を聞き、つららであるという確信を強め、働いている店も特定した。男にはこれ以上騒ぎを大きくしないように頼んだ。
五郎はこのことを誰にも話さなかったが、清吉(大滝秀治)にだけは全てを知らせた。清吉も強いショックを受けつつ、自分に知らせてくれたことを感謝するのだった。

雪子(竹下景子)は中畑(地井武男)の製材所で働かせてもらっている。そのため、中畑の妻・みずえ(清水まゆみ)は雪子の生活について知るとはなく知ってしまうことがある。どうやら雪子が部屋探しを始めていて、五郎の家を出る気でいるらしいことに感づいた。みずえは夫に自分の推測を話した。五郎に好きな女性ができ、それに気兼ねした雪子が家を出ようとしているのではないかと話すのだった。
その推測を聞いた中畑は、五郎に話を聞くことにした。ふたりは親友だということもあり、中畑は単刀直入に好きな女ができたのかと訪ねた。こごみ(児島美ゆき)と密かに交際している五郎はドキリとしたが、中畑の前では肯定も否定もせず、表情でごまかした。五郎が恋愛に疎いと見ている中畑は、雪子が五郎に惚れている可能性を指摘した。それについては、五郎は即座に否定した。

その夜、五郎はいつものように駒草で飲んだ。つららに関する噂が真実であったことをこごみに報告した。すると、こごみも五郎と同じようにつららに同情した。
一方でこごみは、他人が思うほどには、つらら本人は惨めな思いをしていないかもしれないと語り出した。実は、こごみも東京で付き合っていた男に騙されて、体を売る寸前まで行ったことがあるのだという。その時のこごみは、全てに諦めてしまい、少しも悲しく思わなかったのだという。他人から見れば同情されるべき状況であっても、本人は意外と深刻に考えていないこともあるのだと話した。

五郎とこごみは親密になる一方だったが、純(吉岡秀隆)はこごみのことが嫌いだった。彼女のせいで五郎がだらしなくなってしまったことが気に食わないのだ。草太(岩城滉一)に人が傷つく言葉を教えてくれと頼んだ。その言葉をこごみに投げかけて、彼女が二度と自分たちに近寄らないようにしようというのだ。
ところが、草太はそれには応じなかった。男は時に寂しくなるものであり、五郎の気持ちも分かってやれと諭した。一部始終を聞いていた雪子も純をたしなめた。体の傷はすぐに癒えるが、言葉の傷はなかなか治らないものだと言って聞かせた。その上、汚い言葉は後で自分が傷つく結果になると説くのだった。純はそれ以上何も言えなくなった。

そんなある日、中畑の下で働く中川(尾上和)は、五郎がこごみの家に入っていくのを目撃した。翌日、中川は即座に中畑に報告した。実は、一時、中畑とこごみは男女の仲になっており、そのことは中川も知っていたのだ。
夜になり、中畑は五郎を呼び出した。そこで、自分とこごみの関係を打ち明けた。前年の暮れから2月頃にかけて、付き合っていたというのだ。しかし、妻・みずえに関係がばれてしまい、それを機にきれいに別れたという。中畑によれば、こごみは情が深く、気立ての良い、いい女だという。ただし、それが仇となり、哀れな男を見ると放っておけなくなるのだという。世話をやくだけではなく、誰にでも体を開くのだ。中畑は、自分たち以外にもこごみと寝た男が複数いると話した。
五郎は落ち込んだ。中畑の話を黙って聞くより他できなかった。

五郎が家に帰ると、清吉がよそ行きの服で待っていた。清吉と五郎は家の外でふたりだけで話した。清吉は札幌へ行き、つららのことを調べてきたという。物陰からつららの働いているという店を見張っていたという。午前3時ころ、本当につららが店から出てきた。麓郷にいた時とは打って変わってきれいで清潔で上品に見えたという。店で果物を買い、タクシーに乗り込んで去っていく姿は、まるで良家の令嬢のように思えたほどだ。清吉は声をかけることもできず、足がすくんで立っているのがやっとだったという。今思い出しても、ソープランドに務めている娘が、どうしてあのように堂々としていられるのかわからないと話した。

草太のボクシングの試合が近づいてきた。純と雪子はふたりで札幌まで応援に行くことになっていた。
草太は最終調整に打ち込み、精悍な顔つきになってきた。黒板家に油を売りに来ることもなくなったし、軽薄なところもなくなり、声をかけてもほとんど返事をしなくなった。純からは、別人のよう見え、とても素敵に思えた。

ランニング中に雪子と出くわした草太は、試合の前日に札幌に来て欲しいと頼んだ。草太は試合の前の日に雪子とともに札幌の街を歩きたいのだという。もし試合に負けたら、惨めな気持ちになり、たとえ雪子であっても会いたくなくなる。だから、前日に会いたいと言うのだ。
もちろん、草太は負ける気がしなかった。むしろ、勝つ以外に自分の生きる道は無いと考えていた。そして、試合に勝ったあかつきには、雪子に大事な告白をするから本気で聞いてくれと頼むのだった。それを言うと、草太はランニングに戻った。

いよいよ試合の前日。雪子は純を連れて、約束通り札幌に到着した。純は初めて見る札幌に興奮した。想像していたよりもずっと都会だったからだ。
純と雪子は、草太が用意してくれた宿で彼からの連絡を待っていた。しかし、なかなか連絡がなかった。すると、草太の代わりにコーチの成田(ガッツ石松)から電話がかかってきた。彼が夕食を共にするという。そして、草太は姿を表さなかった。

成田は、草太を叱ったという。試合の前に人に会うなどという、草太の甘えた態度に怒ったのだ。成田の考えによれば、ボクシングの試合は生きるか死ぬかの事態なのである。試合の前日は卵1個食べれればいい方で、あとは布団に包まって朝が来るのを待つものだという。成田は自分の現役時代の話を始めた。成田の実家は貧しい農家であったという。自分も含め家族全員が地面に這いつくばって朝から晩まで働いた。働いても暮らしは楽にならない。成田は、そんな暮らしから抜け出すためにボクシングに賭けた。土に這いつくばる苦しさを思えば、どんなことも我慢できたのだという。
それから、負けた選手の惨めさを説明した。それまで選手を甲斐甲斐しく世話してくれていたセコンドたちは、選手が負けるとそそくさと帰ってしまうのだという。ボクサーの手はグローブで包まれ手の自由が聞かないのに、グローブの紐すらほどいてくれないのだという。控え室に一人ぼっちになり、傷の痛さと負けた悔しさで涙が出そうになるのを我慢しつつ、後片付けをすることほど惨めなことはないと言うのだ。

食事を終えると、成田がふたりをホテルまで送った。純を先に部屋に帰らせると、成田は雪子にだけ別の話をした。草太を怒鳴ったことには、実は別の理由があったのだという。草太が「雪子のために勝つ」と言ったことに激怒したのだ。色恋のためにボクシングをするのは映画や小説の絵空事だと言うのが成田の意見だ。
それに加えて、草太がつららではなく雪子のことを念頭に置いていることがどうにも許せないのだという。つららを差し置いて雪子と札幌でデートしようとする行為に我慢がならないのだ。成田は、つららがソープランドで働いていることを雪子に話した。そのことを今夜、草太にも教えたのだという。寝耳に水だった草太は泣き崩れてしまったという。成田は草太に泣く代わりに怒れと炊きつけた。自分の不甲斐なさを自身への怒りに変え、その勢いで勝てと発破をかけた。そして、つららのために勝てと伝えたのだという。

翌日16時に草太の試合が始まった。しかし、草太にはほとんどいいところはなかった。2ラウンド1分40秒でノックアウトされて負けた。草太は意識を失い、担架で運び出されてしまった。

意気消沈した純と雪子は出口へ向かった。するとそこへつららが現れ、ふたりを喫茶店に誘った。
純は、明るく綺麗になり垢抜けたつららに驚いた。筏下りの日に富良野に来ていたこと(第18回)を言おうか迷ったが、なんとなく言いそびれて黙っていた。代わりにつららの札幌での仕事を訪ねた。すると、つららは「ファッション関係」と即答した。純はつららが美しくなったことに合点がいった。

雪子から、草太に会わないのかと聞かれると、つららは会わないと答えた。見に来ることも知らせていないという。草太とのことはすでに過去のことであり、麓郷のことは忘れたと答えた。同じく雪子から、都会での仕事は大変だろうと気遣われると、むしろ楽すぎて困ると答えた。自分には元々都会での暮らしがあっていたのだろうなどと答えた。
続けてつららは、アパートの隣の住人の話を始めた。その人はベランダでかぼちゃを大切に育てているのだという。つららにしてみれば、スーパーで金を払えば簡単に手に入るものをわざわざ育てることが不思議だったという。つららがその隣人を見ていて思ったことは、農業は人の本能なのかもしれないということだ。農家は金にならないのに、1年中天気の心配をし、汗水流して地べたに這いつくばっている。自分はもう農家の暮らしに戻るつもりはないが、農家の暮らしはもしかしたら素敵なことなのかもしれないと考えるようになったと話した。

その話を聞きながら、雪子は涙ぐんでいた。純には雪子の涙の理由がわからなかった。きっと、試合に負けた草太のことを思って泣いているのだろうと想像した。あとから聞いた所によれば、草太は控え室に運び込まれてすぐに意識を取り戻したという。しかし、俯いたきり誰とも口を利こうとしなかったらしい。
それでも純は、草太がとても素敵だと思った。彼の戦う姿に感動を覚えていた。

麓郷では、五郎と共に螢(中嶋朋子)が留守番をしていた。螢はボクシングが恐ろしくて、観戦する気になれなかったのだ。
螢は、最近五郎が富良野に出かけないことを指摘した。一人で留守番できるので、五郎が出かけても良いと言った。そして、五郎に好きな人ができても自分は平気だと付け加えるのだった。

8月20日になり、小学校の夏休みは終わった。純と螢は本校へ通い始めた。富良野はもう秋が始まりかけていた。

* * *

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フジ『北の国から』第20回

じゃがいもと玉ねぎとベーコンのスパゲティ(参考: 日清製粉のレシピ)をたまに思い出してはしんみりしてしまう当方が、BSフジ『北の国から』の第20回を見ましたよ。

* * *

UFOを観察すると言って凉子(原田美枝子)が螢(中嶋朋子)を連れ回し、山で遭難したことが新聞で報道された。口止めされていたにも関わらず、純(吉岡秀隆)が新聞記者にペラペラとしゃべってしまったせいだ。純はひどく落ち込んだ。五郎(田中邦衛)は純が傷つかないように、その話題には触れないようにしていた。純は五郎らの配慮に気付き、そのように気を使われている立場にいること自体にますます傷つくのだった。

寝室で螢が純に話しかけてきた。近頃、五郎が毎晩富良野に行っていることが気にかかるというのだ。ある日など、朝帰りした時にラベンダーの石鹸の匂いがしたという。それは家で使っているものとは明らかに違うものだったという。五郎に女友達ができたとみて間違いないと螢は言うのだ。純は、五郎は再婚について考えを巡らせた。そして、なにもラベンダーの石鹸の女などではなく、雪子(竹下景子)と結婚すればいいのにと思うのだった。
純は、五郎は雪子のことを好いていると予想していた。しかし、螢の考えは、雪子は草太(岩城滉一)のことを好きなのだから、五郎と結婚することはないというものだった。ふたりで話していても埒が明かないので、雪子の気持ちを確かめることにした。じゃんけんの結果、純が雪子から聞き出すことになった。

純が雪子から話を聞きだすと、雪子はここで一生を過ごす予定であり、結婚もこちらでするつもりでいることがわかった。ただし、相手は特に決まっていないといって言葉を濁した。純は黒板家でずっと暮らすことを提案した。その流れで、いっそのこと五郎と結婚すればいいと言った。雪子は口に出して否定はしなかったが、態度でそれを拒絶した。
そして雪子は、五郎が建築中の丸太小屋が完成したら家を出ると告げた。近くに部屋を借りて一人で住む予定だという。突然の告白に、純は驚いた。雪子はまだ五郎にも話していないという。しかし、五郎もそのつもりでいるらしいというのだ。なぜなら、五郎の作った丸太小屋の模型には雪子の個室がないからだ。指摘されて、純も模型にはベッドが3つしかないことを不思議に思っていたことを思い出した。

その晩、五郎はやはり夜遅くに帰ってきた。家に入る前、体の匂いを確認することを怠らなかった。
五郎はすぐに寝床に入ったが、ランプを付けて開高健の本を読み始めた。純は、五郎の雪子に対する気持ちを聞いてみたかった。しかし、なんとなくそれを聞ける雰囲気ではなかった。逆に、五郎に対して何か良くない感情が浮かんできた。漫画すら満足に読めない五郎が、急に活字ばかりの本を読み始めたことがなんだか気に入らないのだ。ランプを付ける油がもったいななどと、五郎に対して憎まれ口を叩くのだった。

次の日は日曜であった。仕事が休みの五郎は、一人で丸太小屋の建築現場へ出かけた。
その日は螢が昼食を作った。それを弁当箱に詰めて、螢が五郎に届けることにした。五郎を驚かせようとワクワクして出かけた螢であった。しかし、そばまで来てみると、五郎が螢の知らない女・こごみ(児島美ゆき)と楽しそうに弁当を食べているのを目撃してしまった。螢は踵を返して駆け出した。途中の川で弁当を廃棄し、何くわぬ顔で家に帰り、誰にも何も言わなかった。

その翌日、東京からテレビ局の職員が訪ねてきた。バラエティーショーの制作スタッフで、UFOを目撃した螢のことを取材したいというのだ。純は興奮した。そのバラエティーショーは全国放送で、令子(いしだあゆみ)もよく見ていたものだ。テレビに映れば、令子に元気な姿を見せてやれると期待したのだ。螢に出演するよう迫った。しかし、螢はひどく嫌がった。収録は翌日である。五郎は螢が一晩よく考えて、明日までに結論を出せばいいと言って、肯定も否定もしなかった。

純は螢の出演を強い口調で説得した。頭を小突いて脅すのだ。しかし、螢はテレビへの出演よりも、五郎のことを気にしていた。前日、五郎が知らない女と弁当を食べていたことを純に報告した。その時の五郎の様子がどんなに楽しそうだったかということを純に話すのだった。
深夜、螢は雪子の布団に潜り込んで相談した。雪子は、螢が嫌ならば止めるのが良いと助言した。螢はテレビに出たくないという思いと、令子に姿を見せてやりたいという思いの間のジレンマを打ち明けた。それから螢は話題を変えた。令子や五郎は近いうちに再婚するのだろうか、と雪子に聞くのだった。そして、急に雪子に抱きついて泣くのだった。雪子はわけが分からず困惑した。

翌日、螢はテレビのインタビューを受けることを承諾した。レポーターにマイクを向けられ、UFOを見た時の様子を事細かく説明した。その様子は、3日後の昼のバラエティーショーで放送された。中畑(地井武男)の家にみんなで集まって視聴した。螢はかわいらしく映っており、本人も出来栄えに満足した。
インタビュー映像が終わると、スタジオのコメンテーターたちが話し始めた。彼らの話は、涼子と螢を侮辱する内容だった。レポーターはふたりが遭難したことを口頭で説明し、担任教諭であった涼子に至っては取材拒否したと面白おかしく語った。コメンテーターは、教師がUFOなどという非科学的なことを教え子に信じさせるとは言語道断だと切り捨てた。それから、螢は催眠術のようなものにかけられ、妄想を真実のように語っているだけだと断じた。特に、螢のようにかわいい女の子は、周囲の注目を集めておくために、虚言を真実だと思い込んで吹聴する癖もあると言うのだった。
螢は悲しくなって部屋を飛び出した。純は悔しくて仕方なかった。令子も見ているかもしれない番組で、全国に向かって螢が侮辱されたことにひどい怒りを覚えた。

その晩、五郎は富良野には行かず、早くに帰宅した。中畑の豚舎から分けてもらった豚肉で、豪勢な鍋料理を食べた。みんなが明るく振る舞う中、螢だけは相変わらず落ち込んでいた。五郎は螢を慰めた。誰がなんと言おうと、螢は自分の見たものを信じればいいと諭した。五郎や純をはじめ、螢を知っている人々はみな螢のことを信じている。そういう人々がいるから何も心配することはないと言って励ますのだった。
それから五郎は、翌日はピクニックに行くという計画を発表した。五郎の見つけた秘密の場所があるので、そこに出かけるというのだ。富良野の知り合いに昼食の準備も頼んであるから、楽しい小旅行になると言うのだ。純はとても喜んだ。しかし、雪子は仕事があるので参加できないということだった。

翌8月5日の朝。雪子が仕事に出かけると、五郎は急に上機嫌になり始めた。未だかつて無かったほどに丁寧に身だしなみを整え、鼻歌などを歌っている。純と螢のことを上品ぶって君付けで呼んだりした。
8時過ぎに、こごみが家までやって来た。そしてピクニックに出発した。五郎は終始、こごみの手を引いて山道を登った。その様子は子どもから見ても仲睦まじかった。純は、こごみのことをまあまあ気に入った。五郎の再婚相手として悪くはないと評価した。しかし、螢は不機嫌な様子だった。
昼食は、こごみがスパゲティ・ボンゴレを作ってくれた。五郎はますます上機嫌になってそれを食べ、よくしゃべり、よく笑った。純にはその態度がとても軽薄なものに思えた。自分の父親として恥ずかしい姿だった。しかし、五郎がそれだけこごみのことを気に入っているという証拠でもあった。

螢は、食が進まなかった。こごみの作ったスパゲティを持て余し、魚の餌にするといって川に投げ入れ始めた。五郎は、スパゲティは人の食べ物であって、魚の餌ではないとたしなめる。しかし、螢はやめなかった。ついに、雪子は料理が上手で毎日おいしいものを作ってくれるなどと捨て台詞を吐き、ザリガニを探すといって早々に場を離れた。純もそれを追いかけた。純には螢の気持ちが想像できた。螢はこの場にはいない雪子のことを考えているのだろうと想像した。
帰り道に夕立にあった。周囲は晴れているのに、純たち一行のところだけを狙ったようないやらしい夕立だった。

8月7日になった。北海道ではこの日に七夕祭りをする風習がある。子供たちは空き缶で提灯を作り、それを持って家を回り、お菓子をもらう。日中、純と螢が準備をしていると、同級生の中畑すみえ(塩月徳子)が大慌てでやって来た。涼子の転勤先が決まり、本校ではなく遠い学校へ行くことになったのだという。遭難事件の責任を取らされたことは明らかだった。
涼子が寝泊まりしている分校の後者へ行ってみたがすでに無人で、きつく施錠されていた。純は自分の責任を重く感じた。

夜になって、純と螢は街の子供たちと一緒に七夕祭りに参加した。
ふと、街角に涼子が佇んで見物しているのを見つけた。純と螢、さらにすみえが駆け寄って話しかけた。しかし、涼子は列を離れるのは良くないと言って、子供たちを戻らせた。それでも純だけは涼子のところに留まり謝罪した。自分がUFOや遭難事件のことを第三者に漏らしてしまったことで騒ぎが大きくなったからだ。そのせいで全国の笑い者にされた螢は傷つき、涼子は転勤する羽目になってしまった。
それから純は、自分は螢や涼子のことを信じていると打ち明けた。そして、自分にもUFOを見せて欲しいと頼んだ。今度は絶対に秘密を守るし、涼子に迷惑もかけないと誓った。すると涼子は、翌日の15時に山の登山口に来るよう指示した。UFOは時間に関係なく、信じる人の所に必ず表れるというのだ。純は約束した。

その晩、運の悪いことに純は風邪を引いて熱が出て頭が痛んだ。翌朝には熱が引いたが、大事を取って午前中は薬を飲んで寝ていた。純は夢を見ていた。東京で仲の良かった女の子・恵子(永浜三千子)がスパゲティ・ボンゴレを食べさせようと純と螢を追いかける夢だった。奇妙な夢だったが、純には楽しい夢だった。
雷鳴を聞いて目を覚ますと、15時20分だった。純は完全に寝坊してしまった。螢が止めるのも聞かず、走って待ち合わせ場所に向かった。

約束の登山口に着いたのは16時近かった。約束の1時間後だ。すでに涼子の姿はなかった。
涼子は怒って一人でUFOに会いに行ったと予想された。純は後を追うように、山の中へ入っていった。途中で激しい雨がふりだした。それにも構わず純は山を進んだ。
するとどこかから、涼子が「365歩のマーチ」を歌っている声が聞こえてきた。そちらに進んでみると、雨に濡れるのにも構わず、涼子が木の上に登っていた。上空には巨大な葉巻型宇宙船が滞空しており、涼子に向かって一筋の光を伸ばした。純は、涼子がその光に吸い込まれるように消えていくのを確かに見た。

純はその後の記憶が曖昧になった。どうやって家に帰ってきたのかすら覚えていなかった。家の者に言わせると、嵐の中をびしょ濡れで幽霊のように帰ってきたのだという。その日の晩からひどい熱を出し、5日間起き上がることができなかった。
ようやく元気を取り戻したのは、UFOと涼子を見てから1週間後だった。分校の様子を見に行くと、扉や窓には板が打ち付けられていて、完全な廃校となっていた。学校の後片付けをしていたおじさんに話を聞くと、涼子はちょうど1週間前の嵐の日に転勤して出て行ったのだという。
純は、涼子は宇宙船に乗ってどこかへ去ったのだと確信した。人に話しても誰も信じない話だろう。しかし、純はそれを実際に見たし、信じる。ただし、誰にも話さないことを決めた。

8月の半ばなのに、その日から急に涼しくなった。もう秋風が吹き出した。

そして、富良野の夜の街ではひとつの噂が流れ始めた。
以前に富良野の農協のスーパーで働いていた女が、札幌すすきののソープランドで働いているのだという。会った男によると、互いに名前は知らないが見知った顔であり、双方驚いて顔を見合わせてしまったというのだ。本名は依然として知れないが、源氏名は「雪子」であったという。
駒草で飲んでいた五郎は、そばで話している男たちの話を耳にした。

* * *

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フジ『北の国から』第19回

「一日3本は胃にもたれるぜ、だけどそこまで頑張ってもあと1日分(昨日放送分)の録画が残っていてゲンナリしてしまうぜ」とひとりごちている当方が、BSフジ『北の国から』の第19回を見ましたよ。

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筏下りの晩。涼子先生(原田美枝子)と一緒にUFOを見に行った螢(中嶋朋子)は、21時を過ぎても帰って来なかった。純(吉岡秀隆)は螢たちの行き先を知っていたが黙っていた。なぜなら、純は宇宙人が涼子に化けていると信じており、その秘密を漏らすと危険だと思ったからだ。しかし、螢が帰ってこないことも心配になったので、純は五郎(田中邦衛)に手がかりを教えた。ベベルイの山奥に行ったはずだと知らせた。五郎はすぐに探しに出かけた。

ところが、螢はなかなか見つからず、23時になっても五郎も帰って来なかった。初めは螢の身を案じていた純だが、だんだん螢に腹を立ててきた。純が行くべきではないと忠告したのにそれを無視して出かけた上、みんなに心配をかけている螢が許せなくなってきたのだ。

いつの間にか眠りに落ちていた純は、玄関の物音で目を覚ました。どうやら螢が見つかったらしい。しかし、中畑(地井武男)やクマ(南雲佑介/現・南雲勇助)たちに捜索を手伝ってもらっただけではなく、警察官も1名出動するまでの騒ぎになっていたようだ。中畑はみんなに今夜のことは黙っているようにと口止めした。警官にもそう伝えたなどと言っている。
五郎は純を呼んで、純にも口外しないよう注意した。今夜のことが公になると、涼子の責任が問われる。涼子は東京でスキャンダルを起こしたこともあり、ただでさえ彼女に批判的な風潮がある。その火に油を注がぬよう、絶対に人に喋ってはいけないと言われた。

寝室でふたりっきりになると、螢は純に心配をかけたことを謝った。しかし、殊勝だったのは初めだけで、すぐに自分が見てきたものを得意げに話し始めた。螢は巨大な葉巻型の母船を見たのだという。涼子が母船に向かって話しかけると、それに答えるように母船から空飛ぶ円盤が飛び出したという。涼子に促されて螢も交信を行うと、母船は同じように答えてくれたのだという。螢は興奮して話した。
純は螢の話を冷ややかな態度で聞いた。一切を信じず、以前に自分が見たUFOも目の錯覚だったと訂正した。そして、UFOを見たなどというと人から馬鹿にされるから、誰にも喋るなと命じた。螢は布団の中で泣き出してしまったが、純は放っておいた。
純は口で言うほどには、UFOを信じていないわけではない。ただ、螢がみんなに迷惑をかけたことをもう忘れ、得意げに話している姿に嫉妬してきつく言ってしまったのだ。

翌日、一家は新しい丸太小屋の建設予定地を見に行った。
純とふたりっきりになった隙に、五郎は螢のことで純をたしなめた。螢は純が信じてくれないと言ってショックを受けているという。螢が純に嘘をつく理由など無いのだから、彼女は見てきたものを正直に話しているはずだという。どうして螢を信じないのだとしかるのだった。
純は頭にきた。五郎がいつも螢の味方ばかりするからだ。

7月28-29日は富良野市街で北海へそ祭りが開催される。五郎は、中畑らと一緒に見物に行こうと言って張り切っていた。そこへ、草太(岩城滉一)が雪子と純に会いに来た。その日の晩、富良野のボクシングジムで草太が新聞の取材を受けるのだという。札幌で行われる草太のボクシングのデビュー戦についての取材だという。自分のいいところを雪子らに見せようと思って誘いに来たのだ。雪子たちは、へそ祭りの前に立ち寄ることを約束した。

しかし、取材は散々な結果に終わった。草太の記事のはずなのに、ジムの会長・成田(ガッツ石松)が一人でインタビューに答えたり、スパーリングで草太を叩きのめしてしまったのだ。雪子や五郎らは見ていられなくなって、へそ祭りの踊りの見物に行ってしまった。純だけはジムに残ってもう少し見学することにした。草太は自分が蔑ろにされていることについて文句を言った。すると今度は成田が怒りだして、ジムはますます混乱した。記者がふたりをとりなす間、カメラマンは退屈になって雑誌を読み始めた。
純は、カメラマンの見ている記事がUFOに関する記事であることに気づいた。純はそのカメラマンに軽い気持ちでUFOが実在すると思うか聞いてみた。するとカメラマンからは肯定的な答えが返ってきた。それを嬉しく思った純は、螢がUFOを見てきたことを話してしまった。純は自分のおしゃべりな性格を自覚しているが、一度話し始めると留めることができなかった。涼子が引率して迷子になったことまで含めて、昨夜の出来事を包み隠さず全て話してしまった。五郎は純のおしゃべりな性格ととても嫌っている。それだけで気が重いのに、何かとても悪いことが起きそうな予感がした。

へそ祭りを見物していた五郎は、踊りのグループの中にこごみ(児島美ゆき)がいるのを見つけた。五郎は我知らず、彼女の姿に見とれてしまった。五郎は街に用事があると言って、中畑に子供たちを家まで送り届けることを頼んだ。
街に残った五郎は、こごみの務めるスナック駒草を訪れた。

筏で一緒になった縁で、スナックのママ(羽島靖子)は五郎の来店をとても喜んだ。五郎と中畑が親友同士だと知ると、ママは中畑の話を始めた。中畑は冬によく来ていたが、最近はあまり来ないという。五郎に、中畑の下の子どもはどうしているかと尋ねるのだった。生まれつき腎臓が悪くて札幌の病院に入院しているという話だった。五郎には何のことだかわからなかった。

そこへ、こごみが五郎の横に座った。五郎が来たことを喜び、前触れもなく抱きついて頬にキスをした。
こごみも中畑の話を始めた。こごみは中畑のことを「悲劇さん」と呼んでいるらしい。いつも悲しい話ばかりするからだという。両親とは生き別れで行方が知れないし、子どもは重い病気で入院している。実の妹は身を持ち崩して札幌のソープランドで働いていると言うそうだ。ところが、こごみはそれらが全てホラであると見抜いていた。自分を悲劇の主人公にすることで女にもてる作戦なのだという。ただ、中畑の語り口が真に迫っているのでママはコロッと騙されているし、こごみも嘘だと知っていながらもらい泣きをしてしまったこともあるという。

さらに、こごみは中畑が語った妻の話も紹介した。中畑が東京にいた頃、妻はよそに男を作って出て行ってしまったという。2人の子どもを押し付けられ、中畑は富良野に帰ってきたと言ったそうだ。そして、前妻の妹が中畑を慕って追いかけてきて、その女性と再婚したのだという。五郎はそれがそっくり自分の話だと気づいた。五郎は、前妻の職業は美容師だったと指摘した。こごみは、中畑から同じ事を聞かされていた。中畑と五郎の話が一致したため、こごみは妻に関する話だけは本当だと信じてしまった。
その世、五郎は泥酔して中畑の家へ行った。深夜にもかかわらず玄関を激しく叩き、一家をたたき起こした。中畑の妻(清水まゆみ)がいるのも構わず、駒草で聞いてきた話をひと通り中畑にしゃべって聞かせるのだった。中畑は、慌てて五郎を追い払った。

それから2日ほどして、小学校の本校から2人の教師が螢を訪ねてきた。螢は涼子とUFOを見に行った日のことを詳しく聞かれたのだという。初めは黙っているつもりだったけれど、教師たちが真相を全て知っていることがわかったので、ごまかすことをやめて正直に答えたのだという。教師たちは、涼子は困った教師だなどと言い合いながら話を聞いていたという。
純は、自分が新聞記者にしゃべったことが広まっていることを悟った。UFOが実在するかどうかよりも、涼子が螢を連れて道に迷ったことが大きな問題になっていることを知った。五郎が口止めした理由が実感としてわかった。

その日帰ってきた五郎はとても暗い顔をしていた。螢や雪子が声をかけても上の空だった。純は辛くなった。五郎が自分に絶望したこと以外、彼の不機嫌の理由がわからなかったからだ。夕食の席で、純は五郎に謝った。涼子のことを新聞記者にしゃべったことを正直に打ち明けた。ところが、五郎はしゃべってしまったことは仕方ないと言うに留まった。そして、食事を切り上げ、表に出て丸太小屋の材料作りを始めた。

雪子が表に出て、五郎をとりなした。純は深く反省しているのでこれ以上怒らないで欲しいと頼み込んだ。
しかし、五郎は別の理由でふさぎこんでいると説明した。五郎は今日届いたという封書を雪子に差し出した。そこには、受理された離婚届のコピーが1枚入っているだけだった。五郎と令子(いしだあゆみ)の離婚が正式に成立したのだ。雪子とも書類上の親戚関係が途切れてしまったのだ。
五郎はそのまま街まで飲みに出かけた。

行き先は駒草だった。ふさぎこんでいる五郎を見て、こごみは明るい口調で奥さんとケンカをして逃げられたのだろうとからかった。五郎は雪子にしたのと同じように、封書をこごみに提示した。中身を見たこごみは言葉を失い、先ほどの軽口を謝った。五郎は気にしなかった。その代わり、中畑の妻の作り話は全て自分のことだと種明かしをした。ただし、妹のことだけはでたらめであると訂正した。

五郎は、こごみに問われるまま、令子との馴れ初めを話して聞かせた。キレイな女性であったこと、別れて寂しい思いをしていること、東京で互いの勤務先が隣同士だったことなどを話した。ある日、令子が五郎を彼女のアパートに招待してくれた。そこで令子はスパゲティ・バジリコを作ってくれた。それまでの五郎の人生では見たことも聞いたこともなかった食べ物だった。五郎は味よりも先に、ハイカラな名称や見た目に感動したと話した。五郎と似たような境遇で生まれ育ったこごみは、その話に共感した。

あまりにふたりが暗い雰囲気なので、ママがカラオケでも歌えを薦めてきた。そこでふたりは「銀座の恋の物語」をデュエットすることにした。マイクを向けられると、五郎はポツリポツリと付き合って歌った。
歌いながら五郎は、令子との結婚披露宴のことを思い出していた。その時も同じ歌を歌ったのだ。列席者から祝福され、五郎と令子も幸せの絶頂だった。その記憶が蘇り、五郎はつい目をうるませてしまった。その様子を見てこごみももらい泣きした。

こごみは五郎を部屋に誘った。スパゲティ・バジリコを作ることを約束した。
こごみの部屋には本がたくさんあった。読書が趣味なのだという。最近は開高健高中正義に凝っているのだという。五郎が高中正義という作家は知らないと答えると、こごみは笑った。高中正義はギタリストなのだ。最近読んだ本は何かと聞かれた五郎は、『じゃりン子チエ』だと答えた。その様子をかわいらしく思ったこごみは、「大好き」と言って五郎に抱きついた。男と女になった。明け方、五郎はそっと家路についた。

家に帰ると、雪子と螢がほぼ寝ないで待っていた。五郎は螢の出迎えを受け、彼女を抱きしめた。すると螢は、五郎の体からラベンダーの匂いがすると指摘した。

そして、その日の朝刊に草太の取材記事が載った。しかし、その扱いはとても小さかった。その代わり、涼子のことが大きく報じられていた。

* * *

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フジ『北の国から』第18回

昨夜は朝までカラオケ大会だたのだが、山瀬まみの歌を唄おうと思っても「メロンのためいき」、「スターライト・セレナーデ」、「ホワッツマイケルNo.1」、「ゴォ!」しか収録されておらず、「なんで『可愛いいひとよ』が無いんだよ!」とプリプリしつつも、アラサー女子に請われ♪ニャオニャオ♪などと「ホワッツマイケルNo.1」を歌ってしまった当方が、BSフジ『北の国から』の第18回を見ましたよ。

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空知川筏下りの2日前。大人たちはまるで子どものように筏造りに熱中していた。
五郎(田中邦衛)は吉本辰巳(塔崎健二)と組んで筏を造っていた。しかし、ふたりは筏の安全性よりも目立つことばかりを気にしていた。筏の真ん中に大きな旗を立てることを第一の目標にした。そんな様子を見ていた純(吉岡秀隆)と螢(中嶋朋子)は、五郎の筏に乗る気が失せた。中畑(地井武男)たちの作る、大きくて頑丈そうな筏に乗せてもらうよう頼んだ。中畑の筏に、雪子(竹下景子)らと共に乗り込むことが決まった。

本番前日の朝。
五郎はいじけた。誰も五郎の筏に乗ろうとしないからだ。雪子は大勢が乗るには中畑の筏のほうが適しているなどともっともらしい理屈を述べたが、五郎は納得しなかった。五郎の作る筏は危険だと思って乗らないことを見抜いていたのだ。雰囲気にのまれた螢は、五郎の筏に乗り換えると申し出た。しかし、完全にへそを曲げてしまった五郎はそれを断った。

草太(岩城滉一)は自分の筏の最終調整を行なっていた。彼の筏は水すましのような長い足の先に浮き輪を接続した、独特のデザインのものだった。全体に細身の造りで、バイクのようなタンデムシートの付いた二人乗りのものである。去年はつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)を乗せて出場したが、今年は一人で乗るつもりである。本当は雪子を乗せたいのだが、自分から誘うのは男がすたると思っているのだ。
草太の母・正子(今井和子)は、雪子のせいで草太が不機嫌であることを分かっていた。牧場の牛を増やす予定で人出が足りなくなる、そこで清吉(大滝秀治)と相談して雪子を再雇用したいなどと相談を持ちかけた。しかし、草太は両親がつららに肩入れして雪子を追い出したことを知っており、その申し入れを冷たくあしらうのだった。

その日の夜、凉子(原田美枝子)は分校にいた。分校は廃止になるが、涼子の転任先はまだ決まっていないのだ。決まるまでの間、今までどおりに分校の宿舎に寝泊まりしているのだ。そこへ五郎が訪ねてきた。純と螢が中畑の筏に乗るので、涼子も一緒に乗ってやって欲しいと頼むのだった。

そして、7月26日。空知川筏下り大会の開催日となった。
出発前、草太は中畑の筏の周りをウロウロした。何かと中畑の筏にケチを付けるのだ。子どもである純の目から見ても、いまだに草太が雪子を誘いたがっていることは明らかだった。しかも、見栄を張ってそれをしないでいることまで純にはお見通しだった。

いよいよ川下りが始まった。およそ8km先のゴールに向かう。スタートしてすぐに流れの急なところがあり、そこで衝突したり沈没したりする筏も少なくなかった。草太、中畑、五郎の3艘の筏は無事にそこを乗り越えた。難所を過ぎると川の流れはぐっと穏やかになり、のんびりとした道中となった。ただし、いつしかそれぞれの筏は離れ離れになった。

途中で、草太の筏は浮き輪にしていたタイヤチューブがパンクして動けなくなりリタイアした。

五郎と辰巳を乗せた筏は、スナック若駒の従業員たちの筏と並走していた。若駒の筏にはラジカセが載せられ、軽妙な音楽が大きな音で鳴らされていた。
筏の上では、こごみ(児島美ゆき)がくし切りにしたメロンにかぶりついていた。五郎は、彼女の若い肉体と、果汁で濡れた唇に目を奪われた。五郎と目が合うと、こごみはメロンを一切れ投げてよこした。お礼に、五郎は水に浸けて冷やしていた缶コーヒーを返した。言葉を交わしたわけではないが、親密な雰囲気に包まれた。
その直後、にわかに迫ってきた急流に飲み込まれ、五郎と辰巳は川に投げ出されてしまった。辰巳は岸に泳ぎ着けたが、五郎はいくらか流されてしまった。川から救い上げてくれたのは、駒草の筏だった。五郎はそれに乗ってゴールを目指すことになった。

五郎とこごみは、初めて口を利いた。ふたりとも富良野のあたりで生まれ、一時東京で暮らし、その後帰ってきたという共通点があった。しかも、東京での暮らしぶりを付きあわせてみると、五郎が務めていたガソリンスタンドとこごみが住んでいた下宿が目と鼻の先であったことがわかった。さらに、富良野に帰ってきたのが前年の10月頃だという点まで一致していた。ふたりは意気投合し、急に距離が縮まった。

純らを乗せた中畑の筏は順調だった。
純が川岸に視線を向けると、草むらの中につららがいるのを見つけた。大急ぎで雪子に報せ、雪子もつららの姿を認めた。一方のつららは、自分が見つかったと知るやいなや、草むらの奥に姿を消してしまった。
筏がゴールに着くやいなや、雪子は応援に来ていたつららの母・友子(今野照子)を捕まえ、つららが富良野に来ていることを報告した。友子と兄の辰巳、そして雪子は急いで家の様子を見に帰った。つららの姿はなかったが、彼女の置き手紙が残されていた。それはとても短いもので、元気だから心配はいらないと書かれているのみだった。つららは汽車で帰ると予想できたので、辰巳と雪子は駅に探しに行くことにした。

五郎や雪子とはぐれてしまった純と螢は、涼子先生と一緒に帰路についた。
涼子はUFOのことを話し始めた。涼子と宇宙人との関係に不審なものを感じる(第15回参照)純は涼子の話を警戒して聞き、螢にも目配せやジェスチャーで深入りしないように伝えた。しかし、螢は涼子の話に興味津々だった。涼子によれば、今夜あたりUFOが飛来しそうな予感がするという。少し離れた山に来るはずだから、そこへ案内すると提案した。純は断ったが、螢は一緒に行くことを決めた。

五郎の帰宅は少し遅れた。純は、川でつららを見たことを五郎に知らせた。さらに、置き手紙があり、雪子は辰巳と共に駅に行ったと報告した。すると、五郎もすぐに後を追うことにした。
螢は五郎に今夜のUFO観察の許可を求めた。慌てていた五郎は、螢の話をよく聞かずに許可を出してしまった。

駅に着いた辰巳、雪子、五郎は手分けをして駅の中を探した。しかし、つららの姿は見つからなかった。次の汽車までは時間があるので、一時駅を出て待つことにした。すると、草太が少し離れたところから駅の様子を見守っているのを発見した。辰巳からの連絡を受け、彼も駅に探しに来たのだ。ところが草太は、自分の姿が見つかったことに気づくと、逃げるように喫茶店へ入ってしまった。それを、五郎と雪子だけが追いかけた。

草太はずっとふてくされていた。そして、雪子を非難しはじめた。つららは雪子と顔を合わせたくないはずだから、雪子が駅にいては汽車に乗ろうにも乗れないと言うのだ。大卒のくせに人の気持がわからない女だとなじり、今夜は帰れと命じるのだった。雪子は反省し、彼の言葉に従うことにした。
しかし、横で聞いていた五郎は怒りを顕にした。元々は草太の無責任な態度が引き起こした騒動であるのに、草太が雪子に責任転嫁をしているように聞こえるからだ。草太は全ての非が自分にあることを認めた。それを認めた上で、混乱している苦しい心情を吐露した。自分はバカで単純な男だから、2つ以上のことは考えられないのだと言う。だから、つららか雪子かのいずれか一人のことしか考えられない。前年の秋に雪子が来てからというもの、毎日雪子のことだけしか考えていなかった。せめて今日だけは、雪子のことを頭から追い出して、つららのことだけを考えたいというのだ。

草太は、前年の筏下りの思い出話を話しだした。泳げないから嫌だというつららを説き伏せて、自分の筏に乗せたのだ。急流に差し掛かると怯え、泣きながら草太に抱きついたのだという。
そんな話を聞いて、五郎と雪子は家に帰ることにした。雪子は元気をなくしていた。帰りの車の中で、草太は素敵だ、と一言だけ五郎に漏らした。

草太と辰巳は駅でずっと待っていた。しかし、結局つららは見つからなかった。

そして、同時にもう一つの騒動が持ち上がりつつあった。UFOを見に行った螢と涼子が、21時を過ぎても一向に帰ってこないのだ。

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フジ『北の国から』第17回

昨夜は、過去に某水族館でイルカのトレーナーをしていたという珍しい経歴を持っている女の子(上玉)と食事をし、互いにテレビを見るのが好きだという点で大いに趣味が一致したのだが、『最高の離婚』を除いて見ている番組がひとつも合致せずにしょんぼりした当方が、BSフジ『北の国から』の第17回を見ましたよ。

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夏になった。五郎(田中邦衛)は夏の間に丸太小屋を完成させると張り切っていたが、作業は難航していた。丸太のかみ合わせ部分の細工が思っていた以上に難しく、コツがつかめないでいた。
そんなある日、雪子(竹下景子)が東京から戻って来た。純(吉岡秀隆)と螢(中嶋朋子)はとても喜んだ。

雪子は、五郎にだけ令子(いしだあゆみ)の様子を包み隠さず報告した。2週間前に退院し、今は自宅から通院している。職場の美容室にはたまに顔を出す程度で、本格復帰はしていない。
そして、令子は友人でもある弁護士・本田(宮本信子)を伴って富良野に来ているのだという。この期に、五郎との離婚の手続きを全て片付けてしまう目論見でいるという。雪子は予告していなかったことを詫びつつ、今夕彼女らの宿泊しているホテルで面会して欲しいと頼んだ。

五郎は、一人で約束のホテルのレストランに向かった。そこでは本田が一人で待っていた。令子が席を外している間に、事務的な話をふたりでまとめたいと言うのだ。五郎は応じた。
離婚についての令子側の条件は以下のとおりだった。令子はふたりの子の親権は放棄する。その代わり、令子側からの慰謝料の支払いはない。また、夫婦の財産であるアパートと乗用車の名義は五郎から令子へ移し替えることとする。五郎は特に異を唱えることもなく納得した。令子の署名が書かれた離婚届を受け取り、五郎は証人と共に署名することに同意した。

協議が終わると、令子が現れた。令子らは今夜と明日の2泊するという。令子は、子供たちと最後の別れをしたいと頼んだ。五郎はそれにも応じることにした。
一人で家に帰った五郎は、改まって純と螢に話を始めた。令子と正式に離婚することになったこと、両親の身勝手で子供たちに迷惑をかけたことを謝罪した。子供たちは五郎の下で暮らすことに決まったと告げる一方、子供たちが異議を申し立てるチャンスを与えた。ふたりは大人だから自分で判断しろ、どのような結論になろうと自分は口を挟まないと約束した。子供たちは即答を避けた。
そして、翌日は令子と面会することが決まったと告げた。五郎は外すので、母と3人でゆっくりしてこいと言うのだった。

翌日、純と螢は学校を早退した。五郎はふたりをホテルまで送り届けると、令子に会わずにそのまま去った。親子水入らずだと思っていたのに、本田もついてくることが分かってがっかりした。4人で花畑へ出かけた。ちょうどラベンダーが満開の時期だった。令子はとても楽しそうにしていた。
純の心は少しも晴れなかった。今日を限りに母と縁が切れ、別の苗字になると思うと気が滅入った。一方で、純は密かに決意を固めていた。もし令子が一緒に行こうと言ってくれたら、何の未練もなく母に付いて行くつもりだった。しかし、結局、そのようなことは一言も令子の口からは発せられなかった。
螢は不機嫌な様子を隠そうともしなかった。令子に話しかけても一切口を利かなかったし、手を繋がれても振りほどいて逃げるほどだった。純はこっそりと螢の冷たさを叱った。けれども彼女は全く態度を改めなかった。ついには、予定よりも早く家に帰りたがった。仕方なく、純もそれに従って帰宅した。

その日の夜、五郎は中畑(地井武男)に離婚証人の署名をしてもらった。すると、中畑の家に五郎宛の電話がかかってきた。令子が急に体調を崩し、富良野の病院に運ばれたというのだ。五郎は即座に病院へ駆けつけた。医師の診察によれば、令子は大きな病院で精密検査を受けるべきだという。病状が回復して退院したとは言っているが、医師には病状が良くなっているようには見えないのだという。
病室に入った五郎は、帰京の予定を延期してゆっくり休んでいくことを提案した。しかし、令子は翌日に帰るといって聞かなかった。そればかりか、明日は汽車に乗る前に、黒板家の墓参りに行きたいと言い出した。体調を考慮して思いとどまらせようとするが、令子に子どもと一緒にいれて楽しかったと嬉しそうに言われると、令子の願いを無碍にできなくなってしまった。

翌朝。螢はどうしても同行しようとしなかった。熱が出て具合が悪いと言いはって、毛布をかぶったまま寝床から出てこない。純や五郎は、令子の気持ちを考えろと言って叱るが、螢は言うことを聞かなかった。腹を立てた五郎は、自分が帰ってきたら病院に連れて行くからずっと寝ていろと命じ、怒りながら出かけていった。

墓は村のはずれにあった。純は去年の秋に越してきて以来、2度めの墓参りだった。墓地では雪子が気を利かせて純を引き止め、五郎と令子にふたりだけの時間を作った。
五郎は、螢は熱を出し、自分が家で寝ているよう命じたと弁解した。令子は、螢を悪者にしないための五郎の優しい嘘だとすぐに見抜いた。続いて五郎は、令子に別の病院ですぐにしっかりと検査してもらうよう言った。令子が元気であることが子どものためであると強調した。そして、体のことに関しては、恋人への義理立て(通院している病院は、令子の恋人の縁故)よりもよほど重要なことだと説くのだった。令子は、その場では素直に承諾した。
最後に五郎は、令子が子供たちに会いたくなったらいつでも応じる気持ちでいると伝えた。さらに、自分の方から相談を持ちかけることもあるだろうと予告した。離婚しても、子供たちは永久にふたりの問題だと言うのだ。

その後、駅で令子を見送った。令子は純の手を握り、螢のことをしっかり頼むと言うのだった。純は目で答えた。
時刻通りに汽車は出発した。令子は沈痛は気分で車窓を眺めていた。駅を出てすぐに、空知川の美しい景色が見えた。するとその岸辺に螢の姿が見えた。令子は窓から身を乗り出し、大きく手を振って螢の名を叫んだ。螢は目に涙を浮かべ、全速力で汽車を追いかけた。

五郎と純は、家に帰ると即座に丸太小屋建築の作業を始めた。するとそこへ螢が帰ってきた。五郎は低い声で、螢が勝手に家を留守にしていたことを咎めた。螢はそれには答えず、寝室で毛布に包まってさめざめと泣いた。五郎は作業の手を休めることはなかった。

その日の夜、草太(岩城滉一)が家へやって来た。7月26日に行われる空知川筏下り大会への出場を誘いに来たのだ。玄関から声をかけるが、寝室の螢は返事をしなかった。代わりに、雪子が答えた。草太は、彼女が麓郷に戻ってきたことを知らなかった。突然の再会に驚き、草太は慌てて家を飛び出してしまった。
草太は、表に飛び出したところで五郎の姿を見つけた。どうして雪子のことを教えてくれなかったのかと食って掛かった。五郎にすれば、草太は雪子のことを諦めたと思っていた(第15回)ので何も言わなかったのだ。草太は雪子のことを諦めたわけではないと言い始めた。雪子への気持ちは変わらないでいるが、彼女が何も言わずに帰京したことについて自分がコケにされたと思っているのだ。草太は男の意地や見栄に関わるので、いきなり態度を軟化させるわけにはいかないのだ等という理屈を述べた。

ここに来て、五郎は草太が来訪した理由を訪ねた。草太は、螢が沈み込んでいてかわいそうに思ったので、筏下り大会に誘って元気づけてやろうと思ったと訳を話した。その日の昼、草太は螢に頼まれて、彼女を汽車が見えるところまで連れて行ってやったのだ。そこで螢と令子が川越しに最後の別れをした一部始終を話して聞かせた。螢は泣き続け、自分たちよりも五郎が一番かわいそうだと言っていたなどと報告した。そこまで話して、草太は自分が口止めされていたことを思い出した。しかし、後の祭りだった。
けれども、五郎は螢の気持ちをその時はっきりと知ったのだ。

草太と別れて家に戻ると、純は母を思い出し半べそをかいていた。螢がどうしているか尋ねると、すでに眠ってしまったと不機嫌に答えた。五郎は純に静かに話した。人はみな悲しい思いをするが、その表し方は人それぞれである。泣く人もいれば、涙を決して見せない人もいる。螢も同じで、もしかしたら自分たちよりもずっと辛い思いをしているのかもしれない。その気持ちを送りにいかないという行動で表現したのかもしれない。そう純に言い聞かせるのだった。
その時、螢は令子と一緒に行った花畑で積んできたラベンダーを抱えて寝ていた。顔は涙で濡れていた。

次の日曜日、純と螢の通う分校の廃校式が行われた。2学期から、彼らは市街にある本校へ通うことになる。廃校式には在校生とその父兄だけではなく、卒業生も参列した。五郎や中畑も卒業生として参列した。しかし、多くの卒業生は札幌や東京などに出て行ってしまっており、全体の3分の1ほどしか集まらなかったということだ。

夏休みに入り、すぐに空知川筏下り大会だ。数日前から、人々は張り切って筏の準備を始めた。純と螢は、中畑木材の作る筏に乗せてもらう予定となった。

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フジ『北の国から』第16回

「『おしん』の方はまとめ記事を書くどころか、録画を消化する余裕もありません」と弱音を吐くと同時に、「このドラマは俺の青春時代とかぶるから捨ててはおけないんだよ!」と強く主張する当方が、BSフジ『北の国から』の第16回を見ましたよ。

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杵次(大友柳太朗)が橋から転落死した。
孫の正吉(中澤佳仁)以外の親族はみな麓郷を離れ、札幌や旭川に暮らしている。集落の者達が総出で葬式の準備を手伝った。

正吉以外の子供たちはいつものように登校し、通常の授業が行われた。ただし、純(吉岡秀隆)は勉強が手につかず、杵次のことばかり思い出していた。昨日の杵次は一日中酔っていた。泥酔したまま父兄参観に現れ、夜に純の家にふらりと現れた時もかなり酔っていた。18年間飼っていた馬を手放したことが杵次にはかなり堪えたのだろうと想像できた。

放課後、純や螢(中嶋朋子)、凉子(原田美枝子)は正吉の家に行った。すると、しばらく前から正吉の姿が見えないと言って騒ぎになっていた。大人たちは葬儀の準備があるため、正吉を探してばかりもいられない。純と螢、涼子が探しに行くことになった。
手がかりは全くなかったが、螢には心当たりがあった。螢について行くと、森の奥に大きな木があり、その上に小屋が備え付けられていた。その中で正吉がうずくまっているのが見えた。涼子が登り、男の子なのだからしっかりしろと厳しく声をかけるのだった。

通夜の間、純と螢は家で留守番をしていた。
純は、木の上の小屋を螢が知っていた理由を問い詰めた。すると、純が東京に行っている間に杵次に連れてきてもらったことがあるのだという。寂しくなったら、ここで一人で泣くといいと言って教えてくれたのだ。それで、正吉がいると思ったのだという。ただし、杵次から秘密にしておくよう命じられていたので、今まで純には教えなかったのだという。

通夜は杵次の家で行われた。久しぶりに麓郷へ帰ってきた杵次の息子たちは、通夜というよりは同窓会にでも来たかのように、古い知り合い達と愉快に酒を酌み交わしていた。草太(岩城滉一)のボクシングの試合日程が決まったと聞くと、みなで応援し盛り上がった。会場の隅にいる草太の父・清吉(大滝秀治)に対しても、自慢の息子で羨ましいなどと声をかけるのだった。

しかし、清吉はその場の雰囲気に溶け込めず、居心地が悪かった。そっと母屋を抜けだして、馬小屋を見に行った。昨日の朝まで使われていた馬小屋には、売られた馬の痕跡があちらこちらに残っていた。五郎(田中邦衛)も馬小屋に現れ、前夜の杵次の様子を話した。そして、酔った杵次を自転車で一人で帰してしまったことを悔いた。
清吉は杵次の馬について話した。あの馬が最後に活躍したのは、遭難した純と雪子(竹下景子)の乗用車を見つけた事件だ(第10回)。家畜馬は機械や車に活躍の場を奪われたというのに、その車を助けることが最後の仕事だったとは皮肉なことだとつぶやくのだった。

そこへ、やっとみどり(林美智子)が帰ってきた。馬小屋にいた五郎と清吉が出迎えた。
みどりは、息子の正吉を杵次に預け、自分は旭川の飲み屋で働いているのだ。しばしばアパートに帰らないことがあり、居場所が掴めないことも多い。あいにくこの日もなかなか連絡がつかず、杵次の訃報を知らせるのが遅れたのだ。
みどりはサバサバした表情で、「いつかこうなると思っていた」と五郎に一言漏らすのだった。

翌日、杵次は焼かれた。杵次の家ではごちそうが振舞われ、弔問客が集まった。
純は生まれて初めて葬式に参列した。しかし、想像していた葬式とは全く様子が違うので面食らった。泣いている人はおらず、祭りの晩のように誰もが楽しそうに騒いでいるのだ。
純は正吉を話した。正吉によれば、杵次は五郎のことを良い奴だと言って褒めていたのだという。また、樹上の小屋は、みどりが家を出て行った時に杵次が作ってくれたということを教えてくれた。正吉が寂しがって泣くと、よく杵次が連れて行ってくれたのだという。

母屋では、杵次の息子たちが父の悪口を言い合っていた。杵次がみなに嫌われていたせいで、自分たちも散々苦労したというのだ。しかも、最近は土地の境界をごまかしたといって、裁判にもなっていた。大胆に奪うならまだしも、ほんの1尺(約30cm)ずつ杭を動かして徐々に侵食するというケチな盗み方だったという。みなでバカにして笑い合っていた。

それを隅で聞いていた清吉が口を挟んだ。
息子たちは杵次の気持ちを少しも分かっていないと言い、食って掛かった。杵次はこの辺りの土地の開墾を行った立役者だった。しかも、現代のような機械やエネルギーも無い時代にそれを行ったのだ。大きな石や木の根に阻まれ、ほんの少しの土地を拓くのにも多大な時間がかかった。そういう苦労をした人間の土地に対する執着心や大切さを分からない人間が軽々しい口を聞くなと言うのだ。
場がしらけた。

息子たちは話題を変えた。馬の話になった。いつまでも手元に置いて売りどきを逃したから、安く買い叩かれたに違いないなどと言って、またしても杵次をバカにした。
清吉はもちろん黙っていなかった。昔の杵次は「仏の杵次」と呼ばれるほど尊敬される人物だった。それが、晩年はケチでズルいと悪評ばかりになってしまった。その理由は、家族や集落の住人たちが杵次の多大な苦労や功績を忘れてしまい、尊重することをしなくなったからだと主張した。人はみな杵次の苦労を忘れたのに、馬だけは分かち合った苦労を忘れていなかった。そんな無二の相棒である馬を手放した杵次の気持ちを考えろ。そこまで言うと、清吉は涙を流し、言葉に詰まってしまった。
場は完全に冷えきってしまった。いたたまれなくなった草太は、清吉を抱えて家に帰ってしまった。

純と螢は五郎を残して先に帰った。純は、その晩ずっと清吉の言葉が脳裏に焼き付いていた。馬を手放した時の杵次の心情を思うと胸が苦しかった。

いつしか眠りについた順だったが、夜中に目を覚ました。2階の寝室から1階を覗くと五郎が帰宅していた。そして、純の隠し持っていたヌード写真集をストーブの火で焼いているのが見えた。純は自分の隠し事が全てバレてしまったことを悟った。
純は降りて行き、五郎に向き合った。そして自分が病気になったと告白した。女性が気になり、胸や足、尻などから目を話すことができなくなった。頭が狂う病気になったと真剣に話した。女性のことを考えたり、朝起きた時に陰茎が勃起しているという症状も訴えた。
五郎は一瞬驚き、次に微笑ましく思った。しかし、すぐに真剣な表情を浮かべ、純によく話して聞かせた。純の訴える症状は全て正常なことで、大人の男なら誰でもそうなると説明した。ついに純が一人前の男になったといって祝福した。そして、これからは純を一人前の男として扱うし、純も一人前の男として恥ずかしくない振る舞いや働きをしろと説いた。純は納得し、自分の成長を嬉しく思った。

五郎は、これまで純に秘密にしていた計画を打ち明けた。まず、畑を作って作物を作ることを説明した。純は手伝うことを約束した。
続いて、丸太小屋を自分たちで作ると話した。純には、荒唐無稽な話のように思えた。大工でもない自分たちに家など作れるはずがないと思うのだ。しかし、五郎は自信満々だった。その意気に圧され、純もその気になってきた。翌朝、螢にも話してやった。螢も大喜びした。

その日から、早速3人は畑作りを始めた。作業をしていると、夕方にみどりと正吉が食材を持って訪ねてきた。他の親族たちは帰ってしまい、ふたりで寂しいから一緒に夕食を食べようというのだ。楽しい団欒を終え、子供たちは連れ立って外に遊びに出かけた。残った五郎とみどりはふたりで酒を酌み交わした。

みどりと五郎、そして中畑(地井武男)は幼馴染みである。みどりは幼馴染みの存在は良いものだとしみじみ話した。中畑は葬式の準備から後片付けまで、親身になって手伝ってくれたのだという。材木店を営む中畑は、杵次が家に蓄えていた古ぼけた木材も全て買い取ってくれたのだという。みどりはそれにも随分と助けられたという。
五郎は、自分がその木材を譲り受け、丸太小屋を作る計画があると打ち明けた。みどりは、自分の実家にあった材料を使い、幼馴染みが自宅を作ると聞いて、心が暖かくなった。幼馴染みはありがたいと、改めて話すのだった。

みどりは、五郎の別れた妻・令子(いしだあゆみ)のことを聞いた。五郎は嫌がることなく、令子の現状を端的に説明した。原因不明の激しい腹痛で入院していること、五郎以外の恋人がすでにいること、その恋人の縁故の病院に入院しており、そこの評判は悪いのだが、恋人の立場が悪くなることを懸念して転院を断っていることまでを話した。
みどりは、令子のことをいい女だと評した。自分が苦しくても男を立てるいい女だという意味だ。そして、それだけのいい女なら五郎が惚れるのも当然だと付け加えた。

そこまで話すと、みどりは急に立ち上がり、何の前触れもなく帰ると言い出した。正吉を連れ、一目散に帰って行った。

翌日以降、喪中の正吉は学校を休んだ。葬式の後片付けで大変だからといって、純は正吉の家に遊びに行くことも禁じられた。純は素直に言いつけに従った。
そんなある日、涼子先生が正吉は転校したと発表した。前夜遅くに、遠くの町に向けて発ったのだという。涼子は、別れを言わずに去ることを謝るという正吉の伝言を皆に伝えた。
純は強いショックを受けた。慌てて螢と共に正吉の家へ向かったが、すでに戸には板が打ち付けられ、家は無人になっていた。馬小屋には清吉が様子を見に来ていた。清吉は、麓郷にまたひとつ廃屋が増えたと嘆いていた。

その晩、純は夢を見た。正吉と樹上の小屋で楽しく遊んでいる夢だった。夢は楽しいのに、目を覚ますと純の目は涙でいっぱいだった。

5月26日。畑に撒いた大根の種が一斉に芽を出した。8月には収穫できるという。純はとてもワクワクした。麓郷に来てから初めて感じるような高揚感だった。
夜には、中畑らの仲間が集まり、五郎の丸太小屋の計画を話し合った。誰も丸太小屋建築の経験はないが、外国の書物を取り寄せ、図を自分たちで解釈して組み立て方を議論した。大人たちは工作用の木材で模型を作りながら組み方を研究した。出来上がった模型はとても小さかったが、順や螢には夢の様な家に思えた。

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フジ『北の国から』第15回

今日は思わず頬が緩むようなちょっと嬉しいことが何件かあったのだけれど、それと同じくらいの量だけ眉をひそめるような嫌な出来事もあったので、結局のところ気持ちをどこらへんに落ち着けていいのかわからなくなってしまった当方が、BSフジ『北の国から』の第15回を見ましたよ。

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純(吉岡秀隆)、螢(中嶋朋子)、正吉(中澤佳仁)の3人はUFOを目撃した。さらに、UFOが飛び去ったところから担任の凉子先生(原田美枝子)が現れるのを見た。3人は、宇宙人が涼子に化けたのだと考察した。自分たちに危険が及ぶのを避けるため、この事件は3人の秘密とした。同時に、学校での涼子の動きをよく観察することに決めた。

ところが翌日、本校(純たちが通うのは分校だ)から立石という男性の代理教員が来た。涼子は急用で旭川に行ったのだという。立石先生は、次の月曜日に臨時の父兄参観と懇談会を行うと発表した。本校から校長が来て、父兄に説明したいことがあると言うのだ。
3人は涼子が休んだことを不審に思った。本物の涼子は宇宙人の手ですでに殺されたか、連れ去られたのだろうと思った。

中畑(地井武男)は五郎(田中邦衛)を自宅に招き、五郎宛の封書を手渡した。それは匿名の怪文書であり、涼子先生を糾弾するものだった。中畑の娘(塩月徳子)も同じ学校に通っているため、中畑も同じ内容の手紙を受け取っていた。そこには、2年前の涼子に関する新聞記事が同封されていた。受け持ちの小学5年生が、涼子からの体罰を苦にして飛び降り自殺したという内容だ。消印は東京であった。涼子の転任先を調べ、そこの父兄名簿まで入手して送りつけるという執念深さにふたりは驚くのだった。
中畑は初耳だったが、五郎は本人から直接話を聞いていた(第3回)と打ち明けた。そして、過去がどうであれ、今の涼子は良い教師だと言って擁護した。さらに、匿名の送り主の卑怯さに怒り、怪文書を破り捨てた。中畑も同意し、倣った。

放課後、純たちが川で遊んでいると、森家の新妻の姿を見かけた。それは、正吉が森家からの不思議な声(泣いているような、笑っているような声)を聞いて陰茎が勃起したと言っていた新妻である。彼女はズボンをまくって、川の中で足を洗っていた。純は、彼女の白い足に見とれた。不思議と動悸が激しくなった。見てはいけないと思いながら、どうしても足から目を話すことができなくなった。
その後、純は五郎に連れられて富良野の街へ出かけた。その道中もずっと新妻の足のことが気になっていた。街に着くと大勢の女性がいた。すると今度は、彼女らの胸ばかりが気になって、視線が釘付けになった。女性の事を考えてはいけないと思えば思うほど、気になって仕方がなかった。ついに、成人映画館のポスターのヌードを見てのぼせ上がってしまった。

その日の夜、正吉の祖父・杵次(大友柳太朗)の発案で、分校に子どもを通わせる4家族(五郎、中畑夫婦、杵次、小学1年生の娘の両親)の会合が開かれた。全員のところに怪文書が届いていたし、その日涼子が旭川の教育委員会に呼び出されたことも知っていた。初めから杵次は酒にひどく酔い、荒れていた。開口一番、涼子は教師失格だとがなりたてるのだ。五郎が済んだことだととりなしても、「隠していたことが気に入らない」などと言って、結論ありきの揚げ足取りばかりした。1年生の母親も、問題のある教師が派遣されたことは問題だと主張し杵次に同調した。話し合いは荒れ、お開きとなった。
中畑は五郎に杵次の噂話をした。最近、土地を巡る裁判で負けて荒れているのだという。大切にしていた馬(第10回では純らの命も救った)も手放すことになったのだという。

五郎は精神的に疲れて帰宅した。すでに眠っている子供たちの顔を見ることが癒しだった。
五郎は、純のボストンバッグがなんとなく気になった。手にとって調べてみると、中にヌード写真集が隠してあるのを見つけた。突然のことに、五郎はどうしていいかわからず、ひどく困惑した。

その頃、学校では旭川から戻ってきた涼子と立石が話し合いをしていた。立石によれば本校では涼子に同情的であり、事件のことは気に病むことはないと慰めるのだった。ただし、子供たちと深い関係になり過ぎないようにと優しく忠告するのだった。近年、放課後や休日の課外活動に教師が関わることですら問題視する風潮があることを引き合いに出し、涼子も気をつけるよう諭すのだった。涼子は黙って聞いていた。

次の日、涼子は復帰した。しかし、UFOを目撃した3人は警戒を解かなかった。涼子の一挙手一投足をよく観察し、不審な点が無いか調べた。真剣に取り組む螢や正吉とは違い、純は気が散ってしかたなかった。というよりも、涼子の胸ばかりが気になって仕方なかった。涼子のことを変な目で見ることを心の中で謝りつつ、純は自分が妙な病気になってしまったと心配するのだった。

五郎の方も、純がヌード写真を隠し持っていたことにショックを受けていた。しかし、どのように対応していいかさっぱりわからなかった。草太(岩城滉一)の母・正子(今井和子)なら数人の息子を育てた経験を話してくれるだろうと思い、相談に行った。しかし、五郎はそのことを話すのが恥ずかしくて、モジモジしてしまった。モジモジしている間に、正子は話も聞かずに去ってしまった。それどころか、正子はどこか機嫌が悪いように思えた。

直後に、夫である清吉(大滝秀治)が近寄ってきた。五郎に相談があるので、夜に富良野の店で会いたいという。しかも、ふたりで会うことには内緒にして欲しいと言うのだ。内容も今は話せないという。五郎は少し不思議に思ったが、自分も純のことを相談できると思い約束した。
はたして、清吉の相談というのは、草太と仲違いしたということだった。雪子(竹下景子)が東京へ突如帰ってしまったことが問題なのだという。姉・令子(いしだあゆみ)の看病のために帰京したというのが真実であるのに、草太は清吉が暗躍して追い返したと思い込んでいるのだ。このままでは、跡継ぎの草太が家を出て行ってしまうかもしれないと心配している。そもそもは、正子が雪子を鼻白んで清吉になんとかするように頼んだにもかかわらず、正子まで草太の味方についてしまい、清吉は家の中で孤立しているというのだ。なんとか、五郎に誤解を解いて欲しいというのが願いだった。
五郎は、純のヌード写真集のことを相談した。自分のことで頭がいっぱいの清吉は、的確な助言ができなかった。小さい頃の五郎の早熟さに比べれば、純は遅いなどとからかうばかりだった。五郎の悩みは解決しなかった。

その足で五郎は、草太の通っているボクシングジムを訪ねた。草太は五郎の顔を見ても機嫌が悪いままだった。五郎は、雪子は看病のために帰っただけで他意の無いことを丁寧に説明した。しかし、草太は頑なな態度を崩さず、「大人は信用しない」と言って五郎を切り捨てた。五郎は清吉と結託していると信じて疑わないのだ。
草太は8月に初めてボクシングの試合に出場するという。4回戦という低い地位の試合だが、自分が人に認めてもらうにはそれしか無いのだという。試合に出て、少しでも有名になれば、周りの女達も自分を見くびったりしないだろうと言うのだ。草太は、雪子が黙って東京に行ったまま、音信不通であることを根に持っているのだ。草太が世話をした牧場の仕事を辞める時も、何の相談も挨拶もなかったと言うのだ。
黙って聞いていた五郎だったが、堪忍袋の緒が切れた。五郎は草太に掴みかかり、彼がつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)に対して行った非道な仕打ちを指摘した。それに対しては、草太も弁解の余地がなかった。反省している態度を見せた。しかし、それを償うにはボクシングに撃ちこむしか無いと言うのだった。

そして、父兄参観の日になった。授業は滞り無く、平穏に進んでいた。父兄も落ち着いて参観していた。
ただし、正吉の家族だけは誰も来ていなかった。同居家族は祖父の杵次だけなのだが、彼が姿を見せないのだ。純が正吉に尋ねると、今朝杵次は馬を売り、そのまま飲んだくれているというのだ。そんなやり取りをしていると、杵次が学校に姿を現した。手には一升瓶をぶら下げ、足元もおぼつかないほど泥酔していた。
授業が終わると、涼子に替わって立石が子供たちと父兄に向かって伝達事項を話し始めた。本校の校長が来るはずだったのだが急用で来れなくなったと断った。続いて、学校の統廃合について説明しようとした。今の分校は9月に廃校になり、本校に吸収されるというのだ。

突然、杵次が怒鳴り始めた。例の怪文書をちらつかせ、声を出して読めと言って涼子に付きつけた。立石が笑顔で割って入り仲裁しようとしたが、杵次の勢いは止まらなかった。子供たちが聞いているのにも配慮せず、涼子が児童を殺したというのは本当か、と問い詰めるのだった。

混乱を収集させるために、涼子は怪文書の内容は真実だと認め、全てを説明しはじめた。
2年前、新人教師だった涼子は東京都世田谷区の小学校で5年生を受け持っていた。そのクラスには成績優秀で学級委員で人気者の児童がいた。ただし、そんな彼にも問題があり、クラス中を味方につけて、成績の悪い子どもをみなで馬鹿にするようになったのだ。涼子はそれをやめさせるために、みんなの前でその子を叱った。しかし、それが彼の自尊心を傷つけ、涼子に対して強く反抗するようになった。涼子の小さなミスをあげつらったり、クラス中をけしかけて涼子をバカにしたりした。児童の親とも話し合ったが理解を得られなかった。ついに、涼子は我慢の限界に達し、授業中に彼を殴ってしまった。その夕方、その子は涼子に抗議する遺書を残し飛び降り自殺したのだ。

五郎は声を上げて涼子の話を止めた。中畑とふたりで杵次を教室から外へ追い出した。教室は大混乱だった。子供たちは校庭に出され、大人たちだけで話し合いの場が設けられた。校庭の子供たちは、涼子がかわいそうだと同情した。
純も同じ意見だった。しかし、純は別のことでも心を痛めていた。杵次は父兄会に参加せず帰った。酔った杵次に肩を貸し、正吉もすでに帰っていた。先ほどの騒ぎの最中、正吉はずっと目に涙を浮かべていたのだ。純はそんな正吉がとてもかわいそうだと思った。

その日は、夕方から雨になった。学校から帰ってきてからというもの、五郎は何もしゃべらなかった。夕食が終わり、21時ころになっても家の雰囲気は暗く沈んでいた。

そんな中、ふらりと杵次が訪ねてきた。傘をささない代わりに、またしても一升瓶を抱えて泥酔していた。雨の中、自転車で来たのだという。自転車で来た理由は、馬を今朝売ってしまったからだと説明した。
杵次は、あの馬は今頃は肉にされているだろうと話し始めた。昨晩、最後の晩餐としてごちそうを食べさせてやった。いつもと違う行動に、馬は自分の運命を悟っていたのだという。今朝馬小屋から出すと、急に立ち止まって動かなくなった。杵次の肩に何度も首を擦りつけ、目に涙を浮かべていたのを見た。馬は存分に別れを惜しむと、今度は自分から歩き出してトラックの荷台に収まったのだという。
杵次にとって、あの馬は女房同然だったという。18年間苦労を共にした仲だ。それなのに用がなくなったといって、杵次の勝手で売ってしまった。馬は杵次のことを信じていただろうに、裏切られた馬の気持ちを考えるとやるせないのだという。
そこまで言うと、杵次は再び雨の中を自転車で帰って行った。五郎が車で送ると提案しても無言のままだった。純と螢も暗い気持ちになった。

翌朝、雨は上がっていた。
純と螢が通学路の橋へ差し掛かると、大人たちが集まって騒然としていた。杵次が自転車ごと川に転落していた。すでに息をしていなかった。純と螢は走って家へ帰った。

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