NHK『あまちゃん』第4回

故・伊丹十三宮本信子にベタ惚れだったようだけれど、彼女はそんなに美人でもないしどこがそんなに良かったんだろうかと常々思っていたわけだが、よく考えたら僕も死後に「木公は山瀬まみにベタ惚れだったようだけれど、彼女はそんなに美人でもない」などと言われてはかなわないので、この話はほどほどにしておこうと思った当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第4回目の放送を見ましたよ。

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第1週「おら、この海が好きだ!」
東京に帰ると言いつつ、グズグズと北三陸市に残っていた春子(小泉今日子)は行くあてもなく実家の方へ来てしまった。袖ヶ浜の漁港に足を向けると、停泊した船の上で娘・アキ(能年玲奈)と母・夏(宮本信子)が話しているのを見つけた。

その瞬間、春子の脳裏に忌まわしい記憶が蘇った。昔、夏は幼い春子(田附未衣愛)を船に乗せ、無理やり海に落として潜りの特訓をさせたのだ。

その時と全く同じように、夏はアキを海に突き落とした。春子は悲鳴を上げた。

しかし、当のアキは海の意外な気持ちよさを知った。海に浮かびながら満面の笑みを浮かべた。

夏も一緒に笑っている。夏によれば、海に入るときにはあれこれ考えてもどうせ思い通りにならない。それならば、何も考えずに飛び込むのが一番だと話した。水が冷たいことや、足がつかないことを心配しても始まらない。先のことを案じても仕方ないのだ。アキはやはり自分の孫だと言って高笑いした。

春子が駆けつけてきた。夏に対して、アキに変なことを教えないでほしいと食ってかかった。海が好きになったアキに対しても、自分が嫌いなものばかり好きにならないでほしいと吐き捨てた。そして、春子は怒って立ち去った。

アキは体を乾かすために漁協事務所へ行った。そこには海女たち(渡辺えり木野花美保純片桐はいり)が集まっていた。

アキは、春子は海が嫌いなのではないか、だから海女にならずに東京に行ったのではないかと疑問をぶつけた。しかし、古くから春子を知る海女たちの意見は必ずしもそうではなかった。もっと複雑な事情があるが、一言で言えば反抗期だったと言うのだ。髪にパーマをあてるなど、当時の春子はグレていたと言うのだ。

では、そうまでして故郷を捨てた春子なのに、今回はなかなか東京へ帰らないのはなぜなのかという疑問が持ち上がった。夏は、春子の夫婦仲がうまくいってないのではないかと、ズケズケと言った。一方、アキは自分のせいではないかと打ち明けた。アキは春子から、地味で暗くて向上心も協調性も個性も華もないパッとしない娘だと言われている。そのような子のいる家庭に帰りたくないのではないかと言うのだった。

春子は東京に帰るでもなく、まだ街中をぶらぶらしていた。パチンコ店に入り、隣に座った見ず知らずの男・ヒロシ(小池徹平)に「居場所がない」などと脈絡もなく愚痴る程だった。ついに行き場所がなくなり、幼馴染で駅長の大向(杉本哲太)に家まで送ってもらうことにした。

車中でふたりは昔の話をした。大向は街の活性化をライフワークにしている。市民の足である北三陸鉄道の運営に尽力しているし、観光客を誘致することに躍起になっている。

春子は、過去に大向が言っていた言葉を思い出した。1984年の北三陸鉄道リアス線の開業日、家出する春子(有村架純)に向かって大向(東出昌大)は、これからは地方の時代だと豪語した。鉄道によって人々の移動が活発化し、北三陸市も活性化すると予言したのだ。しかし、その目論見は失敗に終わり、未だに街はくすぶったままである。

春子は、大向には東京や仙台など活気のある街へ出て働くことも可能だったと指摘した。そうせずに、なぜ寂れた田舎にとどまり続けるのか、皮肉交じりに訪ねた。すると大向は真剣な表情を浮かべて、春子が帰ってくるのを待っていたのだと、告白まがいのセリフを吐いた。しかし、その時、列車車庫の横に車を停めて話していたふたりのそばへ、列車が迫ってきた。ぶつかることはないけれど、巨大な列車が迫ってくる様子に春子は驚いてしまった。それで話は有耶無耶になった。

その夜、結局春子は実家に泊まることになった。夏は東京に帰れない理由でもあるのかなどと皮肉を言うのだった。また、春子が大きな荷物を持って街中をウロウロし、パチンコ店に入り浸っているなどと噂になっていて恥ずかしい思いをしているなどときつく言うのだった。

それを口火に、春子と夏の口げんかが始まった。夏は、春子が結婚や出産を一切知らせなかったことを指摘し、もう娘でもなんでもないと言うのだった。対する春子は、父・忠兵衛(蟹江敬三)が死んだことについて何も言わないし、帰ってきても歓迎もされない。親ではないと罵った。

アキは喧嘩するふたりをオロオロと見ることしかできなかった。ついには、春子は家を飛び出した。春子は港の灯台へ向かった。そこは、昔から隠れ家にしていたところだ。少女時代、パーマをあて聖子ちゃんカットにしたことを夏に叱られた。その時も逃げてきた。当時書いた落書きが今でも残っていた。「海死ね 東京 原宿 表参道」などと、東京へ憧れを抱いていた10代の自分を思い出すのだった。その日は夜中にこっそりと家に帰って眠った。

翌日。今日は夏は海に潜らない。その代わり、大量にウニを仕入れ、それをウニ丼にして売ることにした。アキに手伝わせ、いつもよりも多く売ろうという魂胆だ。売り子にしては声の小さいアキは夏に注意された。それで頑張って大声を張った。

車内販売をしていると、列車は畑野駅に着いた。そこから一人の美少女・ユイ(橋本愛)が乗り込んできた。アキは彼女の雰囲気にただならぬものを感じた。

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NHK『あまちゃん』第3回

アイドル時代の小泉今日子は僕の頭では処理しきれないほど美人だったのでむしろ嫌いだったのだけれど、彼女が結婚→離婚していい感じに枯れてきてからはとても好ましく思うようになり、これが「わびさびってことか」などと勝手に納得している当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第3回目の放送を見ましたよ。

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第1週「おら、この海が好きだ!」
春子(小泉今日子)は、自分が騙されて帰省させられたことや母・夏(宮本信子)とのわだかまりが残っていることに腹を立て、東京へ帰ることにした。

しかし、アキ(能年玲奈)は帰りたくないと言って座り込んでしまった。一刻も早く立ち去りたい春子は、アキを残して一人で駅へ向かった。夏は、春子の気性が昔を変わってないことに呆れるのだった。

その場にいた大向(杉本哲太)がすぐに春子を追いかけた。高速バスで帰ろうとしている春子を捕まえ、鉄道に乗るべきだと強引に荷物を掴み去った。そして列車の時間まで駅の喫茶店で時間を潰した。

春子は大向にアキのことを話した。アキは中学から私立の進学校に入ったが、勉強に付いて行くのがやっとなのだという。それで学校が嫌いになり、東京に帰りたくないと言っているのに違いないのだ。その上、アキは性格が暗い。家族と一緒に居間にいても、一言も喋らずケータイでゲームばかりしている。春子の夫・正宗(尾美としのり)も読書ばかりしていて喋らない、暗い性格だ。アキは彼の性格を受け継いだというのが春子の意見だ。

その喫茶店リアスにいた海女の弥生(渡辺えり)や美寿々(美保純)は春子の話がにわかには信じられなかった。彼女らが会ったアキは美味しそうにうにを食べ、よく笑う快活な少女だったからだ。

喫茶店リアスは小さな店で、カウンターが数席あるのみだ。地元の常連客でいっぱいである。経営も緩やかで、手の空いているものが交代で店番をしている。今日は海女の美寿々と副駅長の吉田(荒川良々)が担当している。

するとそこへ、夏がカウンターに姿を現した。そもそもここは、夏の店だったのだ。家での仕事を終えた夏がやって来たのだ。

春子が話に夢中になっている間に最終列車が出発してしまった。今日はもう東京へ帰る手段がない。しかも、夏が喫茶店にやって来たものだから、居心地が悪くなった。夏の家に世話になる気はこれっぽっちもない春子は、ビジネスホテルに泊まると言って店を出た。

そんな春子を大向が慌てて追いかけてきた。そして、ビジネスホテルにチェックインする前に、春子をスナックに案内した。ところが、確かにさっきとは違うドアをくぐったのに、そのスナックはさっきの喫茶店と同じ店だった。なんと、その店には入口が2つあり、内部が可動式パーティションで区切られていたのだ。昼はカウンターのみの喫茶店なのだが、19時半からはパーティションを開放してスナック営業を始めるのだった。春子は頭を抱えた。

夜が明けて7月1日となった。袖が浜海岸の海女漁解禁である。アキが目を覚ますと、夏はすでに準備万端整えていた。アキは伝統的な絣半纏の海女装を身につけた夏の格好の良さにますます惚れ込んだ。見物客も集まり、盛大に海開きが行われた。アキは夏が潜る姿を夢中で見ていた。

その日の漁が終わった。アキは夏に海女漁を行う理由を聞いた。夏の第一の理由は、面白いからというものだった。しかも、海に沈むウニが金に見えてくるという。他人に拾われる前に自分が拾わなくてはならないと思い、夢中になるのだという。アキは笑顔で楽しそうに話を聞いていた。

夏はアキにも海に潜ることを勧めた。しかし、引っ込み思案なアキは、自分には無理だと言って強く否定した。
その時、夏がアキの背中を強く押した。海に突き落とされたのである。アキは落ちながら
「なにすんだ、このババア」
と思っていた。

その一部始終は、どういうわけかまだ東京に帰る気にならず、辺りをぶらぶらしていた春子が目撃していた。

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NHK『あまちゃん』第2回

どこかで「能年玲奈には『機動警察パトレイバー』の主人公・泉野明を演じて欲しい(参考: PATLABOR実写版プロジェクト)」というコメントを見て「それいいね!」と思ったりした、泉野明と同郷(北海道苫小牧市)の当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第2回目の放送を見ましたよ。

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第1週「おら、この海が好きだ!」
初めて海女・夏(宮本信子)を見たアキ(能年玲奈)は、彼女がとてもかっこよく見え、大感激した。獲りたてのウニをその場で割って食べさせてくれた。その美味さにも感激した。

そこへ海女(渡辺えり木野花美保純)たちが集まってきた。さっき、漁協で会った女たちだった。彼女たちの紹介で、アキと夏は互いに孫と祖母だということを知った。初めての対面ではあったが、アキはウニを食べるのに夢中で感動の出会いという様子ではなかった。矢継早に8個ものウニを平らげてしまった。夏の孫であるという事実を抜きにして、その食べっぷりでアキは海女たちにすっかり気に入られてしまった。

その頃、夏の家では、春子(小泉今日子)が、駅長・大向(杉本哲太)と漁協職員・安部(片桐はいり)から経緯の説明を受けていた。

北三陸市の主な産業は遠洋漁業だ。男たちは1年の大半を船に乗ったままで過ごす。留守を守るのは女たちであり、素潜りで海産物の採集を行なっている。特に、北三陸の海女は世界的に見てもっとも北方の海女であり「北の海女」として観光資源にもなっている。その中のリーダー格が夏である。夏は獲りたてのウニで丼を作り、それを北三陸鉄道の車内で販売もしている。海女漁の見学、鉄道から見る風景、そして夏のうに丼が観光の目玉なのだ。

しかし、海女は深刻な後継者不足に陥っており、夏を含めて5人しかいない。その上、高齢化問題も切実だ。夏は64歳、一番若い海女の安部ですら42歳である。最近、夏は高齢を理由に引退をほのめかしているという。さらに悪いことには、夏を慕う海女たちは、安倍を除いて、全員それに同調して引退しようとしているのだという。

このままでは重要な観光資源が失われてしまう。そこで大向と安倍は、夏の娘であり、街でも評判の美人だった春子を呼び戻して海女にしようとしている。夏が危篤だと嘘をついてまで、春子を北三陸に来させたのだ。ふたりは土間に土下座をして海女になってくれるよう頼み込んだ。

もちろん、そのような頼みに応じる春子ではなかった。そもそも24年前に家出したのも、田舎で海女になるのが嫌だったからだ。それから実家とは絶縁状態である。仏壇に飾られた父・忠兵衛(蟹江敬三)の遺影を見て、今日初めて父が亡くなったらしいことを知ったほどである。北三陸に帰って来て、母・夏の跡を継ぐなど、春子には考えられないことだった。

そこへ、夏とアキが帰ってきた。24年ぶりの母子の再会であるが、ふたりは睨み合うだけで言葉を交わそうとはしなかった。夏に付いて来た海女たちは、その険悪な雰囲気に恐れをなして逃げていってしまった。アキは事情がわからずきょとんとしていた。大向がふたりを仲裁したが無駄だった。

大向は、引退する夏の代わりに春子に海女になってもらうという計画を話した。それを聞いた夏は、自分は引退しないと言い切った。自分の食い扶持は自分で稼ぐつもりであるし、ましてや絶対に春子の世話にはなるつもりはないと言うのだった。

売り言葉に買い言葉で、春子も腹を立てて東京へ帰ると言い出した。荷物を持って家を出ようとするが、アキが付いてこない。

アキは座り込んで
「帰りたくない」
と動かなくなった。

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NHK『あまちゃん』第1回

エイプリールフールネタは明らかに失敗であり、妙に早朝に目が覚めてしまい、その恥ずかしさと情けなさを思い出してベッドの中でのたうち回ってしまった当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第1回目の放送を見ましたよ。

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第1週「おら、この海が好きだ!」

1984年(昭和59年)7月1日、松田聖子やチェッカーズの歌と並んで、吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」が流行していた。

その日、北三陸鉄道リアス線の開通式が行われていた。ここ岩手県北三陸市にはこれまで鉄道がなかった。地元の悲願がついに成就したのだ。市民が大勢集まって大賑わいだった。

ごった返す人々をかき分け、18歳の天野春子(有村架純)は始発電車に飛び乗った。ひとりで故郷を捨て、東京へ旅立つためだ。それから24年、春子は一度も北三陸市に帰ってくることがなかった。

2008年(平成20年)夏。
42歳となった春子(小泉今日子)に、母・夏(宮本信子)が危篤であるという連絡が入った。意識がなく、最悪の事態だという。その報せを受けて、春子は一人娘のアキ(能年玲奈)を連れて帰郷した。アキにとっては、母の故郷を尋ねるのも、親族に会うのも初めてのことであった。

母子が北三陸駅に到着すると、駅長の大向大吉(杉本哲太)が出迎えてくれた。春子に危篤の報せをしたのも大向である。

ところが、大向は病院に直行しようとはしなかった。待合室で列車を待つ地元市民に春子を見せたり、観光協会へ案内したり、海沿いの漁業組合に案内したりするばかりだ。春子は大向の行動に不信感を抱きつつも、他の交通手段がないので彼の運転する車で連れ回されるのに任せた。

漁業組合では、特に人々の言動がおかしかった。そこに集まる人々は夏と親しい者ばかりなのに、危篤であるはずの夏を心配する者は一人もいないのだ。むしろ、夏は風邪すらひくことのない健康体だと言って笑い飛ばすほどだった。

大向はやっとふたりを春子の実家に連れて行った。
家は無人だった。しかし、ついさっきまで誰かがいた様子が見て取れた。しかも、鍋を火にかけたままであった。住人が昼食の準備中に何かを思いついて、ちょっとだけ家を出たという感じであった。

それを見て、春子は全てを悟った。夏が危篤だというのは大向の狂言であると確信した。夏は病気などしていない。今だって、味噌汁に入れるワカメが切れているのに気づいて、海へ取りに行ったのだろうと予想した。春子はアキに海を見に行くよう命じた。

アキは道もわからないまま、海が見える方へ歩いて行った。春子の実家は漁業集落の中にあり、軒先で干されている魚や東北独特のリアス式海岸など、東京育ちのアキにとっては見るもの全てが物珍しかった。

やっと海にたどり着くと、アキは初めて本物の海女を見た。その海女は浮上するとアキの姿を見つけた。海女は採ってきたばかりのウニを食べろと言って放り投げてきた。
それがアキと夏の初めての出会いだった。

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『あまちゃん』の公式サイトを見た俺の独り言

連続テレビ小説『あまちゃん』のサイトはこちら

【第一印象】
ピンクでキラキラ

【第二印象】
いいコスプレ

【第三印象】
アニメーション: 鉄拳」って!

【まとめ】
純と愛』よりははるかに面白そう。

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映画『草原の椅子』

雨にも負けず、『草原の椅子』を観てきた。佐藤浩市が主演だが、その娘を黒木華が演じているからだ。
アニメでおおかみこどもの声をやっていると知れば有楽町の映画館へ行って耳を澄まし、大物俳優ふたりの助演をしたと知ればそのDVDを購入し、演劇で学生運動の活動家として主演すると知れば下北沢の劇場へ行ってじっと目を凝らし、深夜ドラマにゲスト出演すると知ればHDDレコーダーを新調して万全の録画体制を構築する、そういうものである私は当然『草原の椅子』を映画館に観に行ったわけである。
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DVD『たぶらかし ~代行女優業・マキ~』

実力派ブサカワ女優ナンバーワン、谷村美月主演で、2012年4月から6月に放送されたytv制作のドラマ『たぶらかし ~代行女優業・マキ~』のDVD vol.1を見た。販売されているのはBOXセットのみのようだが、僕はレンタルで1巻めを借りて見た次第。

先日、某所での飲み会において、某オッサンから「去年、深夜に放送していた谷村美月のドラマ見た?え、見てないの!?谷村美月好きを自称するならあれ見なきゃ。すごく面白かったよ。」などと挑発されたので、悔しくなって見たのである。

初めは、そんなドラマ聞いたことがなかったし、深夜枠ドラマなのだからクソつまらないドラマだろうと高をくくっていたのだが、実際に見てみると、なかなか。軽いミステリー風のドラマで、テンポの良い明快なストーリーで、気軽に見て楽しめた。1話30分くらい。
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フジ『北の国から』第24回(最終回)

毎日1時間のまとめ記事苦行が終わるのかと思うとほっとする反面、やはりこのドラマが終わるのは寂しいなと思う当方が、BSフジ『北の国から』の最終回を見ましたよ。

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令子(いしだあゆみ)が亡くなってから1週間が過ぎた。葬儀はひと通り終わった。雪子(竹下景子)は葬儀の礼状の準備に追われた。螢(中嶋朋子)は雪子を手伝った。

子供たちが寝ると、雪子は草太(岩城滉一)のことを思い出していた。清吉(大滝秀治)は、ふたりはボクシングの試合後は一度も会っていないと思っていた。しかし、本当は一度だけ会っていたのだ。
それは、試合の翌日、草太が富良野に帰ってきた時だった。人に会わないよう、夜遅くに隠れるように帰ってきた草太であったが、雪子が富良野駅で待っていた。草太は乗り気ではなかったが、雪子が喫茶店に誘った。雪子は、草太の試合に感動したと心からの気持ちを話した。

けれども、草太は元気の無いままだった。
草太は、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)が札幌のソープランドで働いていることを知ったのだという。そして、試合が終わった日の真夜中に彼女から電話がかかって来た。つららは二度と富良野に帰らないと告げ、自分のことはすっかり忘れるよう頼んだという。そして、草太には雪子と幸せになってほしいと言ったのだという。
つららの言葉で、草太は雪子に会わないことを決めたと話した。少なくとも、今から2年8ヶ月の間は雪子に会うつもりはないという。それは、草太とつららが交際していた時間に相当するのだ。その時、雪子が富良野にいれば交際したいと告げた。
雪子は明確な返事をしなかった。雪子は令子に、なぜ富良野にいるのかと聞かれ、答えに窮した経験を話した。続いて、過去に草太に投げかけられた言葉を引用した。東京の女は北海道に憧れるが、結婚の話が持ち上がるとよそよそしくなって逃げていくという話だ。当時の雪子は、そのような女達を軽蔑していたし、自分は違う種類の女だと思っていた。しかし、今になって考えると、そういう女達と同じかもしれないと思うのだ。

雪子は草太に手紙を書いた。純(吉岡秀隆)や螢は移住して1年で、すっかりと富良野の住人になった。それに比べると、自分は一時的な旅人に過ぎなかったと反省し、恥じた。次に富良野へ行くことがあれば、その時は住人になるつもりだと書いた。2年8ヶ月後、草太に会えれば良いのだが、と締めた。

純は内心がっかりしていることとがあった。東京で仲の良かった恵子(永浜三千子)に会えないからだ。恵子は令子の病院に見舞いに来てくれたこともあるし、家も近所だ。きっと弔問に来てくれると期待していたのに、一度も現れなかった。そこで、彼女の家へ様子を見に行くことにした。しかし、すでに恵子の家は取り壊されてなかった。
純がますますがっかりして歩いていると、以前の小学校の先生に出くわした。彼によれば、恵子は親の仕事の都合でアメリカへ引っ越したのだという。現地からしっかりした英語で書かれた手紙が届いたという。その他、純の元同級生たちは中学受験に向けて、予備校へ通ったり睡眠時間を削ったりして勉強しているという。純があまり勉強に打ち込んでいないと聞けば、もっとしっかりしろと発破をかけるのだった。令子が亡くなったことを聞くと、教育熱心でしっかりした母親だったのにと悔やんだ。
純は様々なことにショックを受けた。令子のことを言われたことや、恵子が突然いなくなったことも辛かったが、先生の態度が気に入らなかった。昔は大好きな先生だったのに、今は正反対の気持ちになっていた。彼が勉強のことばかり口にするからだ。しかし、純が考えるに、変わったのは先生の方ではなく、自分の方だった。
純は凉子先生(原田美枝子)に会いたいと思った。はじめの頃こそ、まともに勉強を教えない涼子のことを馬鹿にしていた。しかし、今は涼子のいる分校での経験が何ものにも変え難かったと思うのだ。涼子は子供たちと一緒に自然を不思議がり、共に学び、遊んだ。それが純にはとても楽しかったのだ。涼子が懐かしくて仕方なかった。

螢は令子の本棚の中から、彼女の書きかけの手紙を見つけた。それは、令子が富良野で子供たちに会った(第17回)直後に書かれたものだった。そこには主に2つのことが書かれていた。一つは、純や螢とゆっくり話をする時間がなかったので、富良野での経験について手紙で詳しく知らせて欲しいということだった。もう一つは、富良野で見た雲がとてもきれいだったということだった。令子は雲についてもっと書きたいことがあったようだが、手紙は途中で切れていた。

そして、純と螢は1週間ぶりに富良野に帰ることになった。雪子は東京に残る。五郎が富良野駅まで車で迎えに行った。

五郎がロータリーに車を停めて待っていると、ひょっこりとこごみ(児島美ゆき)が現れた。彼女は知人を見送りに行く途中であり、五郎の車を見つけたので立ち寄ったのだ。ふたりが会うのは、令子が死んだ日()第22回)以来だった。五郎は東京から帰ってきても駒草には一度も顔を出していなかったのだ。
こごみは明るく振舞うが、どことなく態度に陰があった。こごみは、釧路に支店長で栄転する知人を見送りに来たのだと説明した。その知人は、大きな街に行くことではしゃいでいたのだという。こごみは、ウキウキと富良野を出て行こうとしている様子に頭が来ているという。見送りの時間になったと言って、こごみは駅に向かった。途中で引き返し、五郎に店に来るよう甘えた。五郎は会いに行くことを約束した。
こごみが去った後、五郎はこっそりと駅の様子を見に行った。改札の前では、真面目そうな中年の男が、同じように堅物な人々に囲まれていた。そして、その輪にこごみの姿はなかった。構内を見回すと、こごみは物陰からその男を盗み見ていた。目には涙を浮かべていた。五郎は複雑な思いだった。

それから、純と螢が汽車で帰ってきた。改札を抜けると親子は抱き合った。純と螢が東京にいる間に、新しい丸太小屋は完成していた。すでに五郎は住み始めており、ふたりを新しい家に連れて行った。見事な出来栄えに、子供たちは大喜びした。
一方で、寂しいニュースもあった。何年かぶりに富良野に台風が直撃し、この前まで住んでいた古い家の屋根が吹き飛ばされてしまったという。夜になり、3人は月明かりを手がかりに古い家を見に行った。自分たちが1年暮らした家が半壊した様子を見て、3人は寂しい思いがした。

螢が裏の畑の様子を見に言っている間、五郎と純は家の中を見て回った。
その時、五郎が純に話し始めた。五郎は参ってしまっているという。男は弱音を吐くべきではないと言いつつ、今の自分は打ちのめされていると告白した。とても辛いと言って涙を拭った。今だけは愚痴を言うのを許してくれと純に乞うのだった。純は弱った父親に何も声をかけることができなかった。

その時、家の裏で螢が叫んだ。以前に餌付けしたキタキツネが来ているというのだ。トラバサミのせいで(第11回)足が1本なくなっており、いつかのキツネに間違がなかった。そして、純が石を投げつけて寄り付かなくなったキツネ(第5回)でもあった。五郎に促され、純は手から餌を与えた。キツネがそれを食べた。純はとても嬉しかった。

その晩、純は初めて丸太小屋で寝た。夢を見た。令子が生きていて、彼女に手紙を書く夢だった。令子の注文どおり、この1年の経験を全て手紙に書いた。自分や螢がどれだけ成長したか、誇るように書いた。そして、富良野は洒落たものは何もないが、素晴らしい人々のいる町だと紹介した。自分たちはいつでもいるから、令子にも遊びに来て欲しいと書いた。
富良野は空がきれいだと書いた。令子が見た時のように、今日も雲がきれいだと書いた。いつも螢と一緒に、令子が見た雲を探していると記した。

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フジ『北の国から』第23回

本日、南太平洋のソロモン諸島沖でマグニチュード8の地震が発生し死者も出ているようで(CNNの報道)、被害にあった方々のことはとても気の毒に思う一方で、偽らざる気持ちを述べれば、今回のドラマシリーズの再放送は全てDVDに焼いて永久保存しようと思っていたのに、放送中に今日の津波注意報が画面の隅に表示されてしまったわけで、その状態で保存しなくてはならなくなったことを残念に思うわけであり、「デジタル化だなんだ言うんだったら、レコーダーに録画する時はこの手の注意報を表示しないような仕組みにしろよ、くそがっ」と悪態をつきながら視聴していたのだが、まさに津波注意報がピカピカ光る画面の中で清吉(大滝秀治)の言ったセリフに「天災は仕方がない、神様のしたことには諦めるしかない」という趣旨のものがあり、「そうだよなしかたねぇなぁ」と諦めることにし、もう一度被害にあった方への哀悼の意を表しようと思った当方が、BSフジ『北の国から』の第23回を見ましたよ。

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その日は、気持ちのいい秋晴れだった。寝室の壁の節穴から、柔からな秋の日差しが差し込んでいた。

純(吉岡秀隆)は朝早くに目を覚ました。雪子(竹下景子)はこんなに早くから弁当の準備を始めていた。五郎(田中邦衛)もすでに起きていた。しかし、おかしなことに五郎と雪子は一切話をしなかった。不審に思った螢(中嶋朋子)が聞いてみると、母・令子(いしだあゆみ)が昨夜死んだのだという。純は悪い冗談だと思ったが、雪子の泣き顔を見て本当のことだと思った。
ひとまず五郎は家に残り、雪子が純と螢を送り出した。昼には千歳空港に着き、午後のうちに令子の住んでいたアパートに到着した。

アパートには、令子側の親戚や令子の美容室の従業員を中心に、すでに大勢の手伝いが来ていた。吉野(伊丹十三)も来ていたが、彼は遺体の前に座り込み、放心してうなだれているだけだった。代わりに、吉野の親友だという小山(小野武彦)がてきぱきと働いていた。彼は葬式には手馴れているらしく、みんなに指示を出しながら、中心的役割を果たしていた。
純は、人々の働きに活気があるように思えた。人が死んだのに、ましてや自分の母の死だというのに、慣れた感じで次々と準備が整っていく様子を寂しく傍観していた。その上、吉野が遺体の前に居座っているので、部屋の隅で小さくなっていた。

そこへ、吉野の2人の息子が現れた。年は純たちと同じか、少し下のように思えた。彼らは純たちの方をチラチラと横目で見ることはするが、一切話しかけて来なかった。純たちから声をかけることもしなかった。
吉野は息子たちを呼び寄せると、「母さんにお別れをしなさい」と言った。純にはショックだった。その場にいたくなくなり、螢と一緒に夜の町へ出て行った。ふたりで道に腰を下ろし、しばらく時間を潰した。純は、吉野が令子のことをあの子たちの母だと言ったことがずっと気になっていた。
一方、螢は、五郎がなかなか姿を見せないことを気にしていた。自分たちを追ってすぐに行くと行ったはずなのに、一向に現れないのだ。

雪子は令子の死に納得がいかなかった。吉野の縁故のヤブ医者のせいで死期を早めたと考えている。その医者は、令子が痛みを訴えても神経性のものだと言って原因も追求せず、ろくな治療をしなかった。雪子の知人の医師に様子を見に行ってもらったところ、その医師もあまりにずさんな看護に呆れ果てていたという。それほど酷い医者なのに、吉野の立場が悪くなることを懸念して、他の医者には一切かかろうとしなかった。雪子はあの医者は信用できないと断じ、第三者に解剖してもらうべきだと訴えた。
吉野は、雪子の言うことは正しいと同意した。そして、自分のせいで令子を早死させてしまったと述べた。
一方、他の親戚たちは雪子の意見には反対だった。令子は自分の命と引き換えにしてまで、吉野の顔を立てることに徹した。だから、真相は明らかにせずに、令子の決断のまま死なせてやるのがよいと主張するのだった。
そこへ、最終の飛行機で北海道を発ったという清吉(大滝秀治)が現れた(彼は五郎のいとこにあたるので、離婚前の霊子とは義理のいとこだ)。それをきっかけに議論は終わり、解剖はされないことになってしまった。

翌日の23時ころになって手伝いの人々がみな引き上げた。ただし、清吉と吉野が家に残った。雪子は清吉のことは心強く思ったが、吉野には早く帰って欲しいと思っていた。しかし、彼は遺体の前を離れようとはしなかったのだ。

ところが、五郎はまだ姿を見せない。
純は、五郎よりも吉野に誠意を感じた。そして、五郎は令子のことを恨んでいるから会いたくないのではないかと考えるようになった。その上、すでに死んでしまったからのだから会う価値もないと思っているのではないかと考えた。雪子は、丸太小屋の建設の都合があるから遅れるのだろうと弁護した。今は農繁期だが、無理を押して仲間に手伝いに来てもらっている。おいそれと予定の変更はできないのだろうと言うのだ。しかし、純は納得しなかった。吉野だって仕事を休んで詰めているのだから、五郎も当然そうすべきだと思ったのだ。

その夜、清吉は雪子をおでんの屋台に誘った。雪子は気が紛れるといって、素直に従った。清吉はつとめて令子以外の話をした。そのおかげで、雪子はますます助けられた。
清吉は、息子・草太(岩城滉一)の近況を話した。1ヶ月前のボクシングの試合以来、ふたりは一度も会っていないのだ。試合で負けて、草太はボクシングをきっぱりやめてしまったという。そして、一生を富良野の農家として暮らすと覚悟を決めたのだという。今回の令子の訃報に際しては、雪子が気の毒だといって泣いていたという。
それから清吉は、過去に雪子へ心ない言葉を浴びせたことを謝罪した。草太が雪子にうつつを抜かしてしまうから、もう家に出入りしないで欲しいと言ったことだ(第12回)。今ではその時のことを深く後悔しているという。清吉は、東京の女性に対する不信感を抱く経験があったという。跡継ぎになるはずだった長男が、出稼ぎに行った東京で女性と恋に落ちた。いったんはふたりで富良野に戻ってきて、一生懸命牧場で働いていたという。清吉が見る限り、その女性も明るく楽しそうにしていた。しかしある日、彼女が辛抱の限界に達したという置き手紙を残して、ふたりは東京に行ってしまったという。突然のことに清吉は呆然とし、それから東京の娘を信じることができなくなったのだという。そのことを雪子に謝った。
それからふたりは家に戻った。清吉は、令子の仏前と、吉野のためにおでんの土産を買ってやった。

翌朝8時。誰よりも早く純は目を覚ました。すると、五郎が台所に座り込んで、みすぼらしくカップ麺をすすっているのを見つけた。たった今到着して、腹が減ったので戸棚を漁ったのだという。純はひどくがっかりした。
10時頃になって、再び手伝いの人たちが集まった。五郎は、令子に一度手を合わせたきり、ずっと台所に篭って女達と一緒に料理を手伝った。女達から令子のそばにいるよう促されたり、迷惑がられたりしても、頑としてそこをどかなかった。
純はますます五郎のことを無様だと思った。遅れてきたからといって、いまさら働くポーズを見せても白けるばかりだと思った。ましてや、それだけ元気に働ける力があるなら、どうしてもっと早くこなかったのかと思うのだ。何かすることよりも、早く来ることが一番だと思った。

もしかしたら、吉野がそこにいたから、五郎は令子の前に行けなかったのかもしれない。しかし、ふと気づくと吉野の姿は消えていた。それにも関わらず、五郎は台所から離れようとしなかった。

純と螢は、公園でブラブラと時間を潰した。すると、そこに吉野がいることに気づいた。ふたりは目を合わせないようにしていたが、吉野に見つけられた。不快感に駆られ、螢はブランコへ逃げた。逃げ遅れた純は吉野に捕まってしまった。
吉野は、純ももうじき初恋をし、その先の人生で何度も女性を好きになるだろうと予言した。恋愛とはそういうものだと説明した。一方、吉野自身の恋愛は今回を限りに全て終わってしまったと話した。息子たちを生んだ妻は3年前に死んでしまったという。吉野は、自分が好きになった女性はみんな死ぬのだと寂しく話した。

ふと吉野は、純と螢があまりにくたびれた靴を履いていることに気づいた。吉野はふたりを強引に靴屋へ連れて行った。葬式で汚い靴を履いていたら令子が悲しむといって、上等な運動靴をふたりに買ってやった。新しい靴を履かせ、古くてボロボロになった靴は店員に捨てさせた。
純は、古い靴が捨てられることに一瞬躊躇した。それは、富良野に越した当初に買ってもらい、1年間(雪靴を除いて)ずっと履いていた運動靴だった。それを買う時、五郎はデザインや履き心地は一切無視して、店で一番安い靴を勝手に選んで買い与えた。そのことは気に入らなかったが、毎日何をするときにもその靴を履き続けた。糸が切れると、五郎が自ら直してくれた。それだけ愛着もあった。
しかし、吉野に捨てるよう言われると、なぜか抗うことができなかった。

葬儀が終わり、令子は焼かれて骨になった。葬儀は無事に終わった。
すると五郎は、翌朝一番で富良野に帰るという。雪子やおじの前田(梅野泰靖)が引き止めるが、五郎は自分の予定にこだわった。農繁期に人出を借りて丸太小屋を作っており、みんなに迷惑をかけられないというのが理由だった。
さすがに前田は呆れた。離婚したとはいえ、子供もいるのにあまりに薄情すぎるというのだ。五郎のあまりの頑なな態度に、五郎が令子を恨んでいることも疑った。死んだ人間をいつまでも恨んでも仕方ないだろうと諭すのだが、五郎は翻意しなかった。

彼らとの話を打ち切りたくなった五郎は、隣室で絵を描いている螢のところへ行った。
螢は涙を浮かべながら「怖かった夜」のことを覚えているかと五郎に訪ねた。五郎には「怖かった夜」が何かはわからなかったが、螢の説明から、令子の不倫を目撃したこと(第4回参照)だとわかった。螢は、嫌な出来事を一生懸命思い出そうとしているのだと説明した。良いことを思い出すと辛くなるから、嫌なことを思い出して辛くならないようにしているのだという。五郎は、令子はもう死んでしまったのだから、嫌なことは全て忘れてしまえ、許してやれと諭した。五郎自身は、令子の全てを許したと話した。逆に、令子は自分のことを許していなかっただろうから、彼女が生きている間に許してもらえることをすればよかったと言うのだった。

その晩、純がトイレに起きると、五郎が仏前で一人で泣いているのを見た。けれども、翌朝早く、五郎は予定通り帰っていった。

五郎が帰った後、親戚たちは五郎の陰口を言い合った。葬儀に遅れてきたこと、台所に入りっぱなしで元夫らしくなかったこと、令子も結婚中に「ゴキブリ亭主」などと悪口を言っていたことなどを面白おかしく話した。吉野に比べてあまりにもおざなりな態度であったことから、今でも令子のことを恨んでいるに違いないと口々に言うのだった。

それを聞いていた清吉は、彼らの見方を否定した。
清吉によれば、五郎もすぐに駆けつけたかったのだという。しかし、金がなくてできなかったと説明した。令子が亡くなった報せを受けた晩、五郎は清吉に金を借りに来た。しかし、清吉も十分な現金を持っていなかった。近所の農家を回ってやっと金をかき集めたが、大人1人と子供2人分にしかならなかった。それで雪子と2人の子供を朝一番で送り出したという。
銀行が開く時間になって、五郎の親友の中畑(地井武男)が必要な金を工面してくれた。しかし、五郎は受け取るのを渋った。飛行機代ではなく、汽車の料金だけを借りて、一昼夜かけて東京まで来たのだという。飛行機と汽車の料金は、1万円ほどしか違わない。しかし、貧しい農家や五郎にとって、その1万円は非常に大きな負担なのだという。それを稼ぐのに一体何日働かなければならないか、それを考えるとおいそれと金を借りたり使ったりできないのだと話した。
北海道の農家が、どんなに苦しい生活をしているか、清吉は話した。自然の厳しさは冬だけではない。今年の夏は水害によって壊滅的なダメージを受けたという。いつしか、北海道の貧しい農家は天災に対して諦める癖がついてしまったというのだ。神様のすることには抗ってもしかたないと思わざるをえないのだ。

夜、純と螢は家を出て靴屋に向かった。捨てた靴を取り戻そうとしたのだ。しかし、すでに店は閉店しており、無人だった。仕方なく、店の横のご見捨て場を漁り始めた。
すると、パトロール中の警官(平田満)に見つかってしまった。警官の厳しい問いかけに対して、純は震え上がってしまった。上手く事情を説明することができなかった。けれども警官は、純の発する「再婚、おじさん、母、死」などの言葉から尋常では無いものを感じ取った。それ以上は聞かずに、率先して靴探しを手伝ってくれた。
純は急に涙がこぼれた。しかし、自分が泣いている理由がわからなかった。

その晩、純は夢を見た。
古い運動靴が川に流されていた。純と螢はそれをどこまでも追いかけていた。みすぼらしくてボロボロの靴だったけれど、五郎が買ってくれた大切な靴である。それを取り戻すためにどこまでも追いかける夢だった。

夢と同様、現実の靴も二度と彼らの手には戻って来なかった。

* * *

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フジ『北の国から』第22回

村上春樹は『走ることについて語るときに僕の語ること』の冒頭で「真の紳士は、別れた女と、払った税金の話はしない」というでっち上げの金言を書いている(さらに、「健康法を語らない」と追加される)が、それはウソっぱちだと切り捨てるにはもったいない言葉だよなと思う当方が、BSフジ『北の国から』の第22回を見ましたよ。

* * *

8月のボクシングの試合後、草太(岩城滉一)は黒板家にめっきり姿を見せなくなった。雪子(竹下景子)の様子もどこかおかしかった。また、純(吉岡秀隆)は札幌でつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)に会ったことを食卓で話題にした。しかし、五郎(田中邦衛)と雪子は露骨に無視した。純は触れてはいけない話題なのだと思い、それから一切つららのことは話さなかった。

そして10月になった。五郎は中畑(地井武男)や彼の部下たちに手伝ってもらい、いよいよ丸太小屋の建築に取りかかった。純と螢(中嶋朋子)は学校が終わると建築現場に駆けつけた。雪子も炊事係として現場に詰めていた。作業は至って順調で、一週間と待たずにに屋根まで完成しそうな勢いだった。活気ある現場で、男たちも楽しそうに取り組んでいた。

純と螢は、現場をこっそりと抜け出し山奥に入っていった。実は、本人も忘れいてるが、数日後が五郎の誕生日なのだ。みんなでサプライズ・パーティーを開くことを計画していた。純と螢は翌年用のブドウ酒を贈るつもりだった。その材料となる山ブドウを採りに行ったのだ。

螢と純は、五郎の誕生日にこごみ(児島美ゆき)を呼ぶべきか話し合った。螢はこごみを呼ぶべきだと主張した。自分たちはピクニックの時にこごみに冷たい態度をとった(第20回)。しかも、その頃から五郎はこごみに会っていないようだ。螢は、五郎が自分たちに気兼ねしてこごみと会わないでいるように思われた。ゆえに、自分たちがこごみを誘ってやるべきだと考えているのだ。
一方の純は猛反対した。こごみの前でデレデレとしてだらしのない五郎を見たくはないからだ。しかし、その日は結論が出なかった。

翌日は日曜日だった。純と螢も朝から作業を手伝った。
螢が食料を持って家を出ようとすると、こごみが訪ねてきた。螢はこごみを建築現場に連れて行くことにした。道中、ふたりは親しくおしゃべりをした。螢はこごみを誕生会に招待した。こごみも喜んで参加すると答えた。

ところが、こごみが現場に着くと、場の雰囲気が一気に悪くなった。それまで楽しげに話していた男たちが、一切口を利かなくなった。五郎と目を合わせようとするものもいなかった。みんな、五郎と中畑がこごみと肉体関係のあったことを知っているのだ。もちろん、五郎と中畑も気まずい表情を浮かべていた。
そんな中、こごみは明るく快活な態度のまま、何も気にせず五郎の横に座った。そこで一緒に食事を摂り始めた。中畑にもわだかまりのない様子で挨拶をした。ふたりはほぼ一ヶ月ぶりの再会だった。

こごみと顔を合わせていたくない中畑は、純を誘って山の中へキノコ狩りへ向かった。すると、純は中畑に愚痴り始めた。純は、彼女が来ると五郎がだらしなくなるので、こごみのことは大嫌いだとぶちまけた。中畑は話の流れで、こごみが飲み屋に勤めていると言ってしまった。それを知った純は、ますますこごみのことを軽蔑するのだった。

一方、建築現場では、中畑の部下の中川(尾上和)がこごみに何かを耳打ちした。その直後、こごみは何も言わずに帰っていった。五郎はその場に立ち尽くし、こごみが帰っていくのを黙って見ているだけだった。螢はどうして急にこごみが帰ってしまったのかわからなかった。

夕方、五郎が帰宅すると、先に帰宅していた純の大騒ぎしている声が家の外まで聞こえてきた。純は誕生会にこごみを呼ぶのが嫌だと言い散らしていた。今日もこごみが現れた途端にみんなが白けたことを引き合いに出し、彼女はみんなに嫌われていると言うのだ。そして、飲み屋に務めている女は不潔だから来て欲しくないとまで言った。
外で全てを聞いてしまった五郎は、そのまま引き返し、中畑と一緒に飲みに出かけた。

中畑の目には、五郎がこごみのことで落ち込んでいるのが明らかだった。中畑は、こごみに深入りしないことを忠告した。五郎が誰かを好きになってしまうのは仕方ないが、子供たちのことを考えろというのだ。中畑は、純がこごみが飲み屋の女が出入りすることを嫌がっていることを伝えた。それから、ただでさえ五郎と令子(いしだあゆみ)の離婚で傷ついているところへ、別の女が現れることによる子供たちのショックは大きいはずだと説いた。子供たちに対して理想の父親であり続けることを最優先し、こごみとのことはせいぜい外での遊びに留めておけと助言した。
五郎は怒った。珍しく中畑を全否定した。自分は理想の父親ではないと否定した。それから、自分は女と遊びで付き合うほど器用でも無責任でもないと否定した。怒った五郎は店を飛び出して帰った。

家に帰ると、五郎はすぐに純に声をかけた。自分の誕生会を計画してくれていることと、純がこごみを呼びたくないと思っていることは知っていると話した。純が、こごみのことを飲み屋の女だから嫌いだと言っている事は許せないと厳しく伝えた。人にはそれぞれの生き方があり、各自が一生懸命生きている。純が人や職業に格付けをしていることが絶対に許さないと言うのだ。
純がこごみを呼びたくないから、五郎が代わりに断りに行ってやるとすごんだ。そのかわり、誕生会もキャンセルだと宣言して家を飛び出した。

雪子は慌てて五郎を追いかけた。ただし、雪子が五郎を追いかけた真意は、純のことをかばうのではなく、雪子に届いた手紙を五郎に見せるためだった。それは令子からの手紙だった。
令子は五郎に手紙を書くつもりだったが、それができないので雪子に宛てたという。内容を雪子から五郎に伝えることを期待していた。手紙には、すでに令子が吉野(伊丹十三)と一緒に暮らしているという事が書かれていた。五郎と正式に離婚して2ヶ月ほどしか経っていないのでまだ再婚はできないが、事実婚を始めているというのだ。子供たちに知らせるかどうかは五郎に一任するとあった。
それから令子は、自分の心境を綴っていた。離婚してからは2ヶ月しか経っていないが、吉野との関係が始まってからは2年半経っている。その間、令子は一人きりであるかのように感じていた。一人でいる時間は、家族と共にすごす時間の何倍にも感じるのだという。だからもう、一刻も一人ではいられない。だから、すぐに吉野と一緒になるのだと書いてあった。
それを読んだ五郎は、「良かった」という感想を述べた。雪子は「恥ずかしい」と言って、手紙を回収することもなく家へ駆け込んだ。五郎は手紙とともに富良野の街へ向かった。

五郎が駒草に顔を出すのも久しぶりだ。
五郎は、昼にこごみが急に帰った理由を問うた。こごみは急用を思い出したとにこやかに答えるのだった。
こごみは、五郎と会えない一ヶ月の間、取り乱すことなく待っていた自分を誇った。五郎は忙しかったためだと答えた。こごみはそれが嘘だと分かっていたが、追求しなかった。
続いて五郎は、誕生会が開催できなくなったと告げた。自分の忙しさのために開催できないのだと言い訳した。こごみも、店を休めそうにないので断るつもりだったと、再び笑顔で答えた。それ以上高いに踏み込まなかった。
さらに五郎は、こごみと中畑の関係を遠回しに聞いてみた。五郎が知ってしまったこと察したこごみは、巧妙にはぐらかした。五郎はそれ以上自分からは聞かなかった。

中畑との関係を答えるかわりに、こごみは、五郎が噂や過去にこだわるタイプかを聞いた。五郎はいったん否定した。しかし、すぐにそれを取り消した。
五郎は、自分の経験を話し始めた。妻・令子の浮気現場を目撃し、そのことにこだわり続けたと話した。令子がどんなに謝っても許さなかったというのだ。最終的には、子供たちを巻き込んだ騒動となった。人を許すことのできない自分の傲慢さを自嘲した。
そして、令子から再婚を知らせる手紙が来たことを話した。ホッとしたという正直な心境を語った。

そこへ、中畑の部下の中川とクマ(南雲佑介/現・南雲勇助)が駒草にやって来た。どういうわけか、五郎を店の外に呼び出して話をしようとしている。五郎は不審に思いつつ店の外に出た。

こごみは、五郎が席を外したことで緊張が解けた。大きく深い息をついた。

直後に五郎が戻ってきた時、顔面は蒼白だった。タバコをつかもうとする手は震えていた。会計をして帰ろうとする。
前妻・令子が死んだらしいというのだ。2ヶ月前に退院し、富良野まで旅行に来た令子が、以前に入院していた病院で死んだというのだ。

* * *

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