研究会の懇親会で、「この人の1日は朝ドラで始まり、お料理で終わります。そしてそれ以外のことは何もしていません」などと紹介されてムカついたものの、それを否定するだけの材料も持ち合わせていなかった不名誉な当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第91回目の放送を見ましたよ。
北村商会の開店は4月15日と決まった。
北村(ほっしゃん。)の店は薄利多売の方針だ。そのためには開店までに大量の在庫を準備し、開店後も絶対に品切れを起こさないこととが重要だ。腕のいい縫い子を5人ほど雇い、フル稼働で既製婦人服の生産が始まった。
糸子(尾野真千子)は、とにかく生地を大量に集めておくことが重要だと北村に伝えた。以前は何かと糸子に食い下がる北村だったが、糸子の家に行って以来、素直に糸子の意見を聞いてくれるようになった。そして、周防(綾野剛)と共に毎晩工場に泊まりこんで仕事を続けていた。
そんな二人を見て、糸子は自分も精一杯協力することを決めた。この事業を絶対に失敗させるわけにはいかないと強く思った。
そんな忙しい日々であったが、泉州繊維商業組合の月会合には3人揃って出かけた。
組合長の三浦(近藤正臣)は北村商会に大いに期待を寄せた。北村商会こそ新しい時代の象徴だというのだ。戦争で焼けてしまったものは取り戻せないが、新しいものはいくらでも作り出すことができる。北村商会にその先陣を切って欲しいというのだ。
その言葉に北村は男泣きした。
糸子は思った。
北村の家には女が一人もいなかったという。戦争で何があったのか?
周防は長崎から大阪に逃げてきたという。戦争で何があったのか?
三浦は大切な物が焼かれてしまったという。戦争で何があったのか?
彼らが心に何を抱えているのか、糸子には何もわからなかった。しかし、彼らの心の裡を思いやるうちに、自分の心の中にも何か変化が起きていることに気づいた。
暗い家路で、糸子は自分の心の変化が何なのかはっきりと分かった。
糸子は恋しいのだ。
父・善作(小林薫)が好きだった。しかし、戦争中に死んだ。
幼なじみの勘助(尾上寛之)をかわいく思っていた。しかし、戦争で死んだ。
年上の泰蔵(須賀貴匡)に憧れていた。やはり、戦争で死んだ。
夫の勝(駿河太郎)を大事に思っていた。しかし。
大切な人々をなくし、糸子の心には穴が開いていた。その穴に、すっと周防が入り込んできたのだ。だから周防が恋しいのだ。恋しくてたまらないのだ。糸子は夜空を見上げて黙って涙を流した。
けれども糸子は、北村商会の開店までは自分の恋心をしまっておくことにした。周防のことを考えずに、仕事に集中することにした。
その代わり、北村商会が無事に開店したら、自分にひとつだけ褒美をやることにしようと決めた。悔いが残らないよう、自分の気持に決着を付けることとした。
それからは決めた通り、がむしゃらに働いた。
そして、開店の日の朝を迎えた。
糸子は北村商会の服を身につけ、かつてなかったほど入念に化粧をした。
工場に行くと、周防が一人で寝ていた。
途中で手折った桜の花を開店祝いとして周防に差し出した
周防は、糸子の洋服姿を褒めてくれた。
店が始まると、もう糸子が工場に来ることもない。
糸子は最後の別れの挨拶をした。
その言葉は、周防のことが好きだったという愛の告白だった。
それだけ告げると、糸子は工場を飛び出した。
しかし、糸子が出ていくよりも早く、周防がその腕を掴んだ。
糸子を引き寄せ、周防は糸子を抱きしめた。
そして、自分もずっと好きだったと返答した。
工場の外では、北村がその声を聞いていた。
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