『ニシノユキヒコの恋と冒険』川上弘美

タイトルが示すとおり、ニシノヒキヒコという男性の一生をとりあげ、彼にはどんな女性遍歴があり、彼の生い立ちのトラウマが何かということが語られる小説。
ただし、10の小編に分かれていて、それぞれ狂言回しが異なっている。各物語には、ニシノ氏と付き合った別々の女性が登場し、彼女らの視点からニシノ氏がどんな人物であったかが語られるというスタイルになっている。

このニシノユキヒコという人物、僕には結局つかみ所がなくて、なんだかよくわからない男だった。
しかし、「つかみ所がない」というのは多分間違った印象ではなくて、彼と交際のあった女性たちにとってもニシノ氏はとてもつかみ所のない男であったようだ。
けれども、そのつかみ所のなさが、女の子のハートをがっちりと掴んで離さないみたいだけれど。さらに、彼女らの独白によれば、ニシノ氏はハンサムで優しい紳士で、仕事もできるエリートっぽい落ち着いた男性らしい。これだけでずいぶんと女心をくすぐるんだろうけれど、女性の懐に入る甘え上手な上に、セックスも上手いらしいよ。その反面、どこか幸薄そうな影をたたえていて、そのミステリアスさが一層女の子を虜にするらしい。
もう非の打ち所がないですな。僕もあやかりたいくらいだ。

しかし、その完璧さが、女性にとってはちょっと重荷に思えてしまうことがあるらしい。
そんなわけで、ニシノ氏はいつも女性から一方的に捨てられるという悲しい目にあう。
#実際には、そのタネを自分でまいている(浮気性)ということも、コミカルに書かれてるけど。

ここまでニシノ氏をちょっと美化して書いたけれど、見る人が見れば、”だめんず” 何だと思う。
あんな男が世の中にいて、女性を独占していたら悔しいから、僕もニシノ氏をとりあえず「プレイボーイのダメ男」となじっておくことにする。

ただ、こんなことを書いてしまっては、女性の皆さんから抗議の声が上がるかもしれないけれど、女の子だってダメ男に惹かれてしまう気持ちってどこかにあるよね。
ちょっとキケンな臭いのする男に惹かれる気持ち。

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『ホルモー六景』(万城目学)を買った

「鹿男あをによし」が来年1月に連続ドラマ化されることで、押せ押せムードの流れている作家・万城目学の最新作が出た。
まだきちんと読んでいないのだが、彼の処女作『鴨川ホルモー』の続編であるようだ。
表紙の「ローマの休日」風(本書の2章のタイトルは「ローマ風の休日」だけどね)のイラストは、前作に登場した主人公の安倍とヒロインの凡ちゃんこと楠木さんっぽいし。

ちらちらと眺めたところ、前作の登場人物も出てくるし、それ以外の登場人物も出るみたいです。
同志社大学の京田辺キャンパスが出てきたりとか、京都市内も飛び出してるっぽいです。

これからじっくり読みます。

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「墨東綺譚」永井荷風

「墨」の字は,本当は「シ墨」という字.

この文字列を始めてみたのは,中学校からの帰宅途中に電信柱に張られた映画の宣伝ポスターだったと思う.
言葉の意味は全然わかんなかったけれど,なんとなく綺麗な言葉だなぁと,子供ながらに思った.
しかし,映画は見なかった.ポスターを見ると,なんか艶かしいおねぇちゃんと古めかしいオッサンが写っており,退屈そうに思ったから.あと,裕福な中学生ではなかったので,お小遣いの使い道には慎重で,海のものとも山のものともわからない映画にお金を払う気はさらさらなかった.

高校生になった時,なんとはなしにテレビを見ていたら,オッサンと若いおねぇさんの濡れ場(懐かしい言葉だなぁ)を延々と写す映画をやっていた.
そこは,若い男の子だったし,ついつい見てしまった.^^;
確かに,エッチはエッチな映画だったんだけれど,女優さんの裸の白い肌がすごく綺麗だと思った.見ているうちに,美術館にある裸婦画を眺めているような気分になってきて,エッチな気分はどっかに置き忘れてしまった.
タイトルもわからずに見てたんだけれど,放映終了後の解説で「墨東綺譚」だと知った.
奇妙な形で,中学生の時に見たポスターの作品に再開したわけだ.

墨東綺譚大学生になった時,きっかけは忘れたけれど,映画「墨東綺譚」のことを思い出した.
あまりメジャーな作品でもないので,レンタルビデオ屋で探すのに苦労した.
なんとか発見して,レンタルしてみたんだけれど,なんだかつまんなかった.
ヒロイン,スミ子役の墨田ユキの演技はなんだかイモっぽいし.
「俺,高校生の時,何をあんなに感動してみていたんだろう?」と,ちょっと落ち込んだり.

でもって,今日調べたら,一応DVDで「墨東綺譚」は出てるみたい.

いや,映画の話をしたいんじゃなくて.^^;
本当は,「今日は,永井荷風の原作の方を読みました」って話が書きたかったわけで.
もちろん,Junk Cafe で,いつものごとく飯食いながら読んでたんだけど.

どうもこの小説は,私小説っぽいよね.
主人公にはなにやら名前がついていたけれど,どうやら永井荷風自身の体験が元になってるようで.
中年で,それなりに資産があって独り者の文筆家が,毎夜売春宿に出かけていって,そこの女性とおしゃべりして帰ってくるっつーような話.
主人公は,「隣の家のラジオがうるさくて,仕事になんねーんだよ.夜が更けて,ラジオが静まるまで時間をつぶして,その後仕事すんだよ.文句あるかよ?」ともっともらしい自己弁護をして通っているわけだけれど.
でも,要するにアンタ,なんとなく人恋しくなっちゃって,通ってたんでしょ?素直にそう言えばいいのに,と思いながら読んでた.

ちなみに,主人公が色々考え込んじゃって,数日間通うのをやめるシーンがある.
辛抱たまらなくなって,もう一回通い始めるんだけれど,その時,売春宿の女性に
「いつも来ている人が急にこなくなると,すごく心配になる」
と文句を言われちゃったりする.

今日,Junk Cafe で飯食ってた時,「俺も Junk Cafe で,そろそろこれくらいの常連になれただろうか?」とちょっと考えてみたり.

で,話は唐突に,Junk Cafe でのできごとに.
なんか,今日はいつもよりも混んでいた.入店すると,満席だったり.
どうせ本を読むつもりだったから,多少待たされても全然苦じゃなかったんだけれど,Junk Cafe ナンバーワンの女の子が接客に付いたので,どうせなら少しおしゃべりしちゃえ!と思って「うーん,ずいぶん待つの?」,「いいえ,団体さんがそろそろ出ると思いますから,わりとすぐだと思いますよ」,「どーすっかなぁ・・・(彼女の目を見る)」,「すぐですよ(にっこり)」,「待ちます」みたいな,些細かつ楽しい刹那を過ごしたり.

帰りも帰りとて,レジで支払いをしていると,わざわざ厨房からおにぃちゃんが出てきてくれて「今日は,お待たせしてすんませんでした」と言ってくれたり.
レジのおねぇちゃん(入店の時に話した女の子じゃない方.いつもお店で会う方)も「また来てくださいね(にっこり)」と言ってくれちゃったり.
僕が常連だと思ってこう言ってくれたのか,待たせたお客さんには全員に対して言っているのかは定かではないけれど,悪い気はしなかった.
Junk Cafe への高感度,激しくアップ.

『センセイの鞄』川上弘美

世の中には2つのタイプの人間しかいない.○○と××だ

カッコつけ野郎が,よく使うフレーズですな.

たとえば
世の中には2つのタイプの人間しかいない.努力するヤツと努力しないヤツだ
とか
世の中には2つのタイプの人間しかいない.女に貢がせるオトコと女に貢ぐオトコだ
とか
世の中には2つのタイプの人間しかいない.ニュータイプとオールドタイプだ.私,シャア・アズナブルは,人類の革新を信じている
などなど.

そのノリで,ちょっと唱えておこう.
世の中には2つのタイプの人間しかいない.自身に満ち溢れたヤツ自信のないヤツ

皆さん,ご自身はどちらですか?

当方,前者でございます.
最近「モテて,モテて,困っております.体が持ちません」な状態です.
今日も今日とて,東京某所で某女の子とお茶したり.お茶の席で,このせりふをぶっこいてみたり.
しかし,それに対する某女の子の返事が,
へぇ~,そうなんですか.腰がガクガクでまともに立っていられないとか,そういう状態ですか?
とのこと.
おいおい,それは,夕方のオフィス街の喫茶店で,かわいい女の子が言うせりふですか?こっちの方が恥ずかしくなってしまいました・・・.

つーか,声を大にして言うけれど,
腰なんて使ってねーし!
もし使ってたら,アナタも今頃は無事じゃすまねーっつーの!

まったく,「木公と書いて紳士と読む」と一部で噂されているような,自分で勝手に思い込んでいるような,かわいい子羊の俺様を捕まえて・・・.

つーか,ごめんなさい.
本当は,当方「自身のないヤツ」です.
正直に言うと,お茶に誘うまではいいけど,「じゃあ,しっぽりとホテルにでもしけこみますか?」と言いたくても,絶対に応じてもらえるわけがないと思ってしまい,そのせいで嫌われちゃったらいやだなぁと自信がなくて,そういうことが言えない訳で.チキン野郎なわけで.ハイ.
そんな人生です,僕の人生なんて.

それは,まぁ,どーでもよくて.
センセイの鞄今日は,川上弘美著「センセイの鞄」を読んでみました.

いきさつは,某女の子が読書感想文を書いていたからです.
「いつも,ビジネス系のおカタイお話ばっかり書いてるのに,どないしてん?つーか,そんな雰囲気のblogにわざわざ書いたくらいだから,よっぽど面白かったんだろうなぁ」
と思って,読み始めたわけです.

まぁ,なんつーか,ほんとーに色気のねー話っつーか,年増女と偏屈じじぃの恋愛話.
センセイ(じじぃの方)は,もと教え子の年増女に言い寄られるんだけれど,知らん振りをしたり,はぐらかしたり,ずーっとそんな展開.
あー,もー,じれったい!
俺が許可する,ジジィでもいいから,やっちゃえっつーの!
そんなことを心の中で叫ばずにいられません.

しかし,イライラさせられながらも,グイグイと引き込まれて,途中で止めるに止められなくなるお話でした.

つーか,要するに,このジジィ「自信のないヤツ」なんだな.
自分の老い先短いことを悟っているし,一度結婚生活に失敗していることを気に病んでいるようだし,生物学的な「男」としてきちんと恋愛ができないのではないかと心配しているし.
そんなもんで,もと教え子と男女の仲になることに踏み出せないでいるんだな.

そういう自信のなさっつーのがあって,「紳士的」に接することが最大の愛情だと彼は思ってたんだろうな,きっと.
そういうの,俺的に「アリ」
えー話やないか.

ちなみに,一番印象に残っているのは,ある小島に二人っきりで旅行に行くところ.
現地で,亡くなった妻の墓参りだということがわかって,女性は憤慨するわけだ.まったく,センセイは女心がわかっていない,と思った.
しかし,そうすることでケジメを付けようとしたこと,そしてそのことを相手に理解して欲しかったというセンセイの気持ちは,僕的には「よくわかる」
いいじゃないですか.

当方,初老の男性にはほど遠い年齢ですが,こんな感想を抱きました.