本日、南太平洋のソロモン諸島沖でマグニチュード8の地震が発生し死者も出ているようで(CNNの報道)、被害にあった方々のことはとても気の毒に思う一方で、偽らざる気持ちを述べれば、今回のドラマシリーズの再放送は全てDVDに焼いて永久保存しようと思っていたのに、放送中に今日の津波注意報が画面の隅に表示されてしまったわけで、その状態で保存しなくてはならなくなったことを残念に思うわけであり、「デジタル化だなんだ言うんだったら、レコーダーに録画する時はこの手の注意報を表示しないような仕組みにしろよ、くそがっ」と悪態をつきながら視聴していたのだが、まさに津波注意報がピカピカ光る画面の中で清吉(大滝秀治)の言ったセリフに「天災は仕方がない、神様のしたことには諦めるしかない」という趣旨のものがあり、「そうだよなしかたねぇなぁ」と諦めることにし、もう一度被害にあった方への哀悼の意を表しようと思った当方が、BSフジ『北の国から』の第23回を見ましたよ。
純(吉岡秀隆)は朝早くに目を覚ました。雪子(竹下景子)はこんなに早くから弁当の準備を始めていた。五郎(田中邦衛)もすでに起きていた。しかし、おかしなことに五郎と雪子は一切話をしなかった。不審に思った螢(中嶋朋子)が聞いてみると、母・令子(いしだあゆみ)が昨夜死んだのだという。純は悪い冗談だと思ったが、雪子の泣き顔を見て本当のことだと思った。
ひとまず五郎は家に残り、雪子が純と螢を送り出した。昼には千歳空港に着き、午後のうちに令子の住んでいたアパートに到着した。
アパートには、令子側の親戚や令子の美容室の従業員を中心に、すでに大勢の手伝いが来ていた。吉野(伊丹十三)も来ていたが、彼は遺体の前に座り込み、放心してうなだれているだけだった。代わりに、吉野の親友だという小山(小野武彦)がてきぱきと働いていた。彼は葬式には手馴れているらしく、みんなに指示を出しながら、中心的役割を果たしていた。
純は、人々の働きに活気があるように思えた。人が死んだのに、ましてや自分の母の死だというのに、慣れた感じで次々と準備が整っていく様子を寂しく傍観していた。その上、吉野が遺体の前に居座っているので、部屋の隅で小さくなっていた。
そこへ、吉野の2人の息子が現れた。年は純たちと同じか、少し下のように思えた。彼らは純たちの方をチラチラと横目で見ることはするが、一切話しかけて来なかった。純たちから声をかけることもしなかった。
吉野は息子たちを呼び寄せると、「母さんにお別れをしなさい」と言った。純にはショックだった。その場にいたくなくなり、螢と一緒に夜の町へ出て行った。ふたりで道に腰を下ろし、しばらく時間を潰した。純は、吉野が令子のことをあの子たちの母だと言ったことがずっと気になっていた。
一方、螢は、五郎がなかなか姿を見せないことを気にしていた。自分たちを追ってすぐに行くと行ったはずなのに、一向に現れないのだ。
雪子は令子の死に納得がいかなかった。吉野の縁故のヤブ医者のせいで死期を早めたと考えている。その医者は、令子が痛みを訴えても神経性のものだと言って原因も追求せず、ろくな治療をしなかった。雪子の知人の医師に様子を見に行ってもらったところ、その医師もあまりにずさんな看護に呆れ果てていたという。それほど酷い医者なのに、吉野の立場が悪くなることを懸念して、他の医者には一切かかろうとしなかった。雪子はあの医者は信用できないと断じ、第三者に解剖してもらうべきだと訴えた。
吉野は、雪子の言うことは正しいと同意した。そして、自分のせいで令子を早死させてしまったと述べた。
一方、他の親戚たちは雪子の意見には反対だった。令子は自分の命と引き換えにしてまで、吉野の顔を立てることに徹した。だから、真相は明らかにせずに、令子の決断のまま死なせてやるのがよいと主張するのだった。
そこへ、最終の飛行機で北海道を発ったという清吉(大滝秀治)が現れた(彼は五郎のいとこにあたるので、離婚前の霊子とは義理のいとこだ)。それをきっかけに議論は終わり、解剖はされないことになってしまった。
翌日の23時ころになって手伝いの人々がみな引き上げた。ただし、清吉と吉野が家に残った。雪子は清吉のことは心強く思ったが、吉野には早く帰って欲しいと思っていた。しかし、彼は遺体の前を離れようとはしなかったのだ。
ところが、五郎はまだ姿を見せない。
純は、五郎よりも吉野に誠意を感じた。そして、五郎は令子のことを恨んでいるから会いたくないのではないかと考えるようになった。その上、すでに死んでしまったからのだから会う価値もないと思っているのではないかと考えた。雪子は、丸太小屋の建設の都合があるから遅れるのだろうと弁護した。今は農繁期だが、無理を押して仲間に手伝いに来てもらっている。おいそれと予定の変更はできないのだろうと言うのだ。しかし、純は納得しなかった。吉野だって仕事を休んで詰めているのだから、五郎も当然そうすべきだと思ったのだ。
その夜、清吉は雪子をおでんの屋台に誘った。雪子は気が紛れるといって、素直に従った。清吉はつとめて令子以外の話をした。そのおかげで、雪子はますます助けられた。
清吉は、息子・草太(岩城滉一)の近況を話した。1ヶ月前のボクシングの試合以来、ふたりは一度も会っていないのだ。試合で負けて、草太はボクシングをきっぱりやめてしまったという。そして、一生を富良野の農家として暮らすと覚悟を決めたのだという。今回の令子の訃報に際しては、雪子が気の毒だといって泣いていたという。
それから清吉は、過去に雪子へ心ない言葉を浴びせたことを謝罪した。草太が雪子にうつつを抜かしてしまうから、もう家に出入りしないで欲しいと言ったことだ(第12回)。今ではその時のことを深く後悔しているという。清吉は、東京の女性に対する不信感を抱く経験があったという。跡継ぎになるはずだった長男が、出稼ぎに行った東京で女性と恋に落ちた。いったんはふたりで富良野に戻ってきて、一生懸命牧場で働いていたという。清吉が見る限り、その女性も明るく楽しそうにしていた。しかしある日、彼女が辛抱の限界に達したという置き手紙を残して、ふたりは東京に行ってしまったという。突然のことに清吉は呆然とし、それから東京の娘を信じることができなくなったのだという。そのことを雪子に謝った。
それからふたりは家に戻った。清吉は、令子の仏前と、吉野のためにおでんの土産を買ってやった。
翌朝8時。誰よりも早く純は目を覚ました。すると、五郎が台所に座り込んで、みすぼらしくカップ麺をすすっているのを見つけた。たった今到着して、腹が減ったので戸棚を漁ったのだという。純はひどくがっかりした。
10時頃になって、再び手伝いの人たちが集まった。五郎は、令子に一度手を合わせたきり、ずっと台所に篭って女達と一緒に料理を手伝った。女達から令子のそばにいるよう促されたり、迷惑がられたりしても、頑としてそこをどかなかった。
純はますます五郎のことを無様だと思った。遅れてきたからといって、いまさら働くポーズを見せても白けるばかりだと思った。ましてや、それだけ元気に働ける力があるなら、どうしてもっと早くこなかったのかと思うのだ。何かすることよりも、早く来ることが一番だと思った。
もしかしたら、吉野がそこにいたから、五郎は令子の前に行けなかったのかもしれない。しかし、ふと気づくと吉野の姿は消えていた。それにも関わらず、五郎は台所から離れようとしなかった。
純と螢は、公園でブラブラと時間を潰した。すると、そこに吉野がいることに気づいた。ふたりは目を合わせないようにしていたが、吉野に見つけられた。不快感に駆られ、螢はブランコへ逃げた。逃げ遅れた純は吉野に捕まってしまった。
吉野は、純ももうじき初恋をし、その先の人生で何度も女性を好きになるだろうと予言した。恋愛とはそういうものだと説明した。一方、吉野自身の恋愛は今回を限りに全て終わってしまったと話した。息子たちを生んだ妻は3年前に死んでしまったという。吉野は、自分が好きになった女性はみんな死ぬのだと寂しく話した。
ふと吉野は、純と螢があまりにくたびれた靴を履いていることに気づいた。吉野はふたりを強引に靴屋へ連れて行った。葬式で汚い靴を履いていたら令子が悲しむといって、上等な運動靴をふたりに買ってやった。新しい靴を履かせ、古くてボロボロになった靴は店員に捨てさせた。
純は、古い靴が捨てられることに一瞬躊躇した。それは、富良野に越した当初に買ってもらい、1年間(雪靴を除いて)ずっと履いていた運動靴だった。それを買う時、五郎はデザインや履き心地は一切無視して、店で一番安い靴を勝手に選んで買い与えた。そのことは気に入らなかったが、毎日何をするときにもその靴を履き続けた。糸が切れると、五郎が自ら直してくれた。それだけ愛着もあった。
しかし、吉野に捨てるよう言われると、なぜか抗うことができなかった。
葬儀が終わり、令子は焼かれて骨になった。葬儀は無事に終わった。
すると五郎は、翌朝一番で富良野に帰るという。雪子やおじの前田(梅野泰靖)が引き止めるが、五郎は自分の予定にこだわった。農繁期に人出を借りて丸太小屋を作っており、みんなに迷惑をかけられないというのが理由だった。
さすがに前田は呆れた。離婚したとはいえ、子供もいるのにあまりに薄情すぎるというのだ。五郎のあまりの頑なな態度に、五郎が令子を恨んでいることも疑った。死んだ人間をいつまでも恨んでも仕方ないだろうと諭すのだが、五郎は翻意しなかった。
彼らとの話を打ち切りたくなった五郎は、隣室で絵を描いている螢のところへ行った。
螢は涙を浮かべながら「怖かった夜」のことを覚えているかと五郎に訪ねた。五郎には「怖かった夜」が何かはわからなかったが、螢の説明から、令子の不倫を目撃したこと(第4回参照)だとわかった。螢は、嫌な出来事を一生懸命思い出そうとしているのだと説明した。良いことを思い出すと辛くなるから、嫌なことを思い出して辛くならないようにしているのだという。五郎は、令子はもう死んでしまったのだから、嫌なことは全て忘れてしまえ、許してやれと諭した。五郎自身は、令子の全てを許したと話した。逆に、令子は自分のことを許していなかっただろうから、彼女が生きている間に許してもらえることをすればよかったと言うのだった。
その晩、純がトイレに起きると、五郎が仏前で一人で泣いているのを見た。けれども、翌朝早く、五郎は予定通り帰っていった。
五郎が帰った後、親戚たちは五郎の陰口を言い合った。葬儀に遅れてきたこと、台所に入りっぱなしで元夫らしくなかったこと、令子も結婚中に「ゴキブリ亭主」などと悪口を言っていたことなどを面白おかしく話した。吉野に比べてあまりにもおざなりな態度であったことから、今でも令子のことを恨んでいるに違いないと口々に言うのだった。
それを聞いていた清吉は、彼らの見方を否定した。
清吉によれば、五郎もすぐに駆けつけたかったのだという。しかし、金がなくてできなかったと説明した。令子が亡くなった報せを受けた晩、五郎は清吉に金を借りに来た。しかし、清吉も十分な現金を持っていなかった。近所の農家を回ってやっと金をかき集めたが、大人1人と子供2人分にしかならなかった。それで雪子と2人の子供を朝一番で送り出したという。
銀行が開く時間になって、五郎の親友の中畑(地井武男)が必要な金を工面してくれた。しかし、五郎は受け取るのを渋った。飛行機代ではなく、汽車の料金だけを借りて、一昼夜かけて東京まで来たのだという。飛行機と汽車の料金は、1万円ほどしか違わない。しかし、貧しい農家や五郎にとって、その1万円は非常に大きな負担なのだという。それを稼ぐのに一体何日働かなければならないか、それを考えるとおいそれと金を借りたり使ったりできないのだと話した。
北海道の農家が、どんなに苦しい生活をしているか、清吉は話した。自然の厳しさは冬だけではない。今年の夏は水害によって壊滅的なダメージを受けたという。いつしか、北海道の貧しい農家は天災に対して諦める癖がついてしまったというのだ。神様のすることには抗ってもしかたないと思わざるをえないのだ。
夜、純と螢は家を出て靴屋に向かった。捨てた靴を取り戻そうとしたのだ。しかし、すでに店は閉店しており、無人だった。仕方なく、店の横のご見捨て場を漁り始めた。
すると、パトロール中の警官(平田満)に見つかってしまった。警官の厳しい問いかけに対して、純は震え上がってしまった。上手く事情を説明することができなかった。けれども警官は、純の発する「再婚、おじさん、母、死」などの言葉から尋常では無いものを感じ取った。それ以上は聞かずに、率先して靴探しを手伝ってくれた。
純は急に涙がこぼれた。しかし、自分が泣いている理由がわからなかった。
その晩、純は夢を見た。
古い運動靴が川に流されていた。純と螢はそれをどこまでも追いかけていた。みすぼらしくてボロボロの靴だったけれど、五郎が買ってくれた大切な靴である。それを取り戻すためにどこまでも追いかける夢だった。
夢と同様、現実の靴も二度と彼らの手には戻って来なかった。
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