NHK『あまちゃん』第1回

エイプリールフールネタは明らかに失敗であり、妙に早朝に目が覚めてしまい、その恥ずかしさと情けなさを思い出してベッドの中でのたうち回ってしまった当方が、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の第1回目の放送を見ましたよ。

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第1週「おら、この海が好きだ!」

1984年(昭和59年)7月1日、松田聖子やチェッカーズの歌と並んで、吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」が流行していた。

その日、北三陸鉄道リアス線の開通式が行われていた。ここ岩手県北三陸市にはこれまで鉄道がなかった。地元の悲願がついに成就したのだ。市民が大勢集まって大賑わいだった。

ごった返す人々をかき分け、18歳の天野春子(有村架純)は始発電車に飛び乗った。ひとりで故郷を捨て、東京へ旅立つためだ。それから24年、春子は一度も北三陸市に帰ってくることがなかった。

2008年(平成20年)夏。
42歳となった春子(小泉今日子)に、母・夏(宮本信子)が危篤であるという連絡が入った。意識がなく、最悪の事態だという。その報せを受けて、春子は一人娘のアキ(能年玲奈)を連れて帰郷した。アキにとっては、母の故郷を尋ねるのも、親族に会うのも初めてのことであった。

母子が北三陸駅に到着すると、駅長の大向大吉(杉本哲太)が出迎えてくれた。春子に危篤の報せをしたのも大向である。

ところが、大向は病院に直行しようとはしなかった。待合室で列車を待つ地元市民に春子を見せたり、観光協会へ案内したり、海沿いの漁業組合に案内したりするばかりだ。春子は大向の行動に不信感を抱きつつも、他の交通手段がないので彼の運転する車で連れ回されるのに任せた。

漁業組合では、特に人々の言動がおかしかった。そこに集まる人々は夏と親しい者ばかりなのに、危篤であるはずの夏を心配する者は一人もいないのだ。むしろ、夏は風邪すらひくことのない健康体だと言って笑い飛ばすほどだった。

大向はやっとふたりを春子の実家に連れて行った。
家は無人だった。しかし、ついさっきまで誰かがいた様子が見て取れた。しかも、鍋を火にかけたままであった。住人が昼食の準備中に何かを思いついて、ちょっとだけ家を出たという感じであった。

それを見て、春子は全てを悟った。夏が危篤だというのは大向の狂言であると確信した。夏は病気などしていない。今だって、味噌汁に入れるワカメが切れているのに気づいて、海へ取りに行ったのだろうと予想した。春子はアキに海を見に行くよう命じた。

アキは道もわからないまま、海が見える方へ歩いて行った。春子の実家は漁業集落の中にあり、軒先で干されている魚や東北独特のリアス式海岸など、東京育ちのアキにとっては見るもの全てが物珍しかった。

やっと海にたどり着くと、アキは初めて本物の海女を見た。その海女は浮上するとアキの姿を見つけた。海女は採ってきたばかりのウニを食べろと言って放り投げてきた。
それがアキと夏の初めての出会いだった。

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『あまちゃん』の公式サイトを見た俺の独り言

映画『草原の椅子』

雨にも負けず、『草原の椅子』を観てきた。佐藤浩市が主演だが、その娘を黒木華が演じているからだ。
アニメでおおかみこどもの声をやっていると知れば有楽町の映画館へ行って耳を澄まし、大物俳優ふたりの助演をしたと知ればそのDVDを購入し、演劇で学生運動の活動家として主演すると知れば下北沢の劇場へ行ってじっと目を凝らし、深夜ドラマにゲスト出演すると知ればHDDレコーダーを新調して万全の録画体制を構築する、そういうものである私は当然『草原の椅子』を映画館に観に行ったわけである。
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DVD『たぶらかし ~代行女優業・マキ~』

実力派ブサカワ女優ナンバーワン、谷村美月主演で、2012年4月から6月に放送されたytv制作のドラマ『たぶらかし ~代行女優業・マキ~』のDVD vol.1を見た。販売されているのはBOXセットのみのようだが、僕はレンタルで1巻めを借りて見た次第。

先日、某所での飲み会において、某オッサンから「去年、深夜に放送していた谷村美月のドラマ見た?え、見てないの!?谷村美月好きを自称するならあれ見なきゃ。すごく面白かったよ。」などと挑発されたので、悔しくなって見たのである。

初めは、そんなドラマ聞いたことがなかったし、深夜枠ドラマなのだからクソつまらないドラマだろうと高をくくっていたのだが、実際に見てみると、なかなか。軽いミステリー風のドラマで、テンポの良い明快なストーリーで、気軽に見て楽しめた。1話30分くらい。
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フジ『北の国から』第24回(最終回)

毎日1時間のまとめ記事苦行が終わるのかと思うとほっとする反面、やはりこのドラマが終わるのは寂しいなと思う当方が、BSフジ『北の国から』の最終回を見ましたよ。

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令子(いしだあゆみ)が亡くなってから1週間が過ぎた。葬儀はひと通り終わった。雪子(竹下景子)は葬儀の礼状の準備に追われた。螢(中嶋朋子)は雪子を手伝った。

子供たちが寝ると、雪子は草太(岩城滉一)のことを思い出していた。清吉(大滝秀治)は、ふたりはボクシングの試合後は一度も会っていないと思っていた。しかし、本当は一度だけ会っていたのだ。
それは、試合の翌日、草太が富良野に帰ってきた時だった。人に会わないよう、夜遅くに隠れるように帰ってきた草太であったが、雪子が富良野駅で待っていた。草太は乗り気ではなかったが、雪子が喫茶店に誘った。雪子は、草太の試合に感動したと心からの気持ちを話した。

けれども、草太は元気の無いままだった。
草太は、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)が札幌のソープランドで働いていることを知ったのだという。そして、試合が終わった日の真夜中に彼女から電話がかかって来た。つららは二度と富良野に帰らないと告げ、自分のことはすっかり忘れるよう頼んだという。そして、草太には雪子と幸せになってほしいと言ったのだという。
つららの言葉で、草太は雪子に会わないことを決めたと話した。少なくとも、今から2年8ヶ月の間は雪子に会うつもりはないという。それは、草太とつららが交際していた時間に相当するのだ。その時、雪子が富良野にいれば交際したいと告げた。
雪子は明確な返事をしなかった。雪子は令子に、なぜ富良野にいるのかと聞かれ、答えに窮した経験を話した。続いて、過去に草太に投げかけられた言葉を引用した。東京の女は北海道に憧れるが、結婚の話が持ち上がるとよそよそしくなって逃げていくという話だ。当時の雪子は、そのような女達を軽蔑していたし、自分は違う種類の女だと思っていた。しかし、今になって考えると、そういう女達と同じかもしれないと思うのだ。

雪子は草太に手紙を書いた。純(吉岡秀隆)や螢は移住して1年で、すっかりと富良野の住人になった。それに比べると、自分は一時的な旅人に過ぎなかったと反省し、恥じた。次に富良野へ行くことがあれば、その時は住人になるつもりだと書いた。2年8ヶ月後、草太に会えれば良いのだが、と締めた。

純は内心がっかりしていることとがあった。東京で仲の良かった恵子(永浜三千子)に会えないからだ。恵子は令子の病院に見舞いに来てくれたこともあるし、家も近所だ。きっと弔問に来てくれると期待していたのに、一度も現れなかった。そこで、彼女の家へ様子を見に行くことにした。しかし、すでに恵子の家は取り壊されてなかった。
純がますますがっかりして歩いていると、以前の小学校の先生に出くわした。彼によれば、恵子は親の仕事の都合でアメリカへ引っ越したのだという。現地からしっかりした英語で書かれた手紙が届いたという。その他、純の元同級生たちは中学受験に向けて、予備校へ通ったり睡眠時間を削ったりして勉強しているという。純があまり勉強に打ち込んでいないと聞けば、もっとしっかりしろと発破をかけるのだった。令子が亡くなったことを聞くと、教育熱心でしっかりした母親だったのにと悔やんだ。
純は様々なことにショックを受けた。令子のことを言われたことや、恵子が突然いなくなったことも辛かったが、先生の態度が気に入らなかった。昔は大好きな先生だったのに、今は正反対の気持ちになっていた。彼が勉強のことばかり口にするからだ。しかし、純が考えるに、変わったのは先生の方ではなく、自分の方だった。
純は凉子先生(原田美枝子)に会いたいと思った。はじめの頃こそ、まともに勉強を教えない涼子のことを馬鹿にしていた。しかし、今は涼子のいる分校での経験が何ものにも変え難かったと思うのだ。涼子は子供たちと一緒に自然を不思議がり、共に学び、遊んだ。それが純にはとても楽しかったのだ。涼子が懐かしくて仕方なかった。

螢は令子の本棚の中から、彼女の書きかけの手紙を見つけた。それは、令子が富良野で子供たちに会った(第17回)直後に書かれたものだった。そこには主に2つのことが書かれていた。一つは、純や螢とゆっくり話をする時間がなかったので、富良野での経験について手紙で詳しく知らせて欲しいということだった。もう一つは、富良野で見た雲がとてもきれいだったということだった。令子は雲についてもっと書きたいことがあったようだが、手紙は途中で切れていた。

そして、純と螢は1週間ぶりに富良野に帰ることになった。雪子は東京に残る。五郎が富良野駅まで車で迎えに行った。

五郎がロータリーに車を停めて待っていると、ひょっこりとこごみ(児島美ゆき)が現れた。彼女は知人を見送りに行く途中であり、五郎の車を見つけたので立ち寄ったのだ。ふたりが会うのは、令子が死んだ日()第22回)以来だった。五郎は東京から帰ってきても駒草には一度も顔を出していなかったのだ。
こごみは明るく振舞うが、どことなく態度に陰があった。こごみは、釧路に支店長で栄転する知人を見送りに来たのだと説明した。その知人は、大きな街に行くことではしゃいでいたのだという。こごみは、ウキウキと富良野を出て行こうとしている様子に頭が来ているという。見送りの時間になったと言って、こごみは駅に向かった。途中で引き返し、五郎に店に来るよう甘えた。五郎は会いに行くことを約束した。
こごみが去った後、五郎はこっそりと駅の様子を見に行った。改札の前では、真面目そうな中年の男が、同じように堅物な人々に囲まれていた。そして、その輪にこごみの姿はなかった。構内を見回すと、こごみは物陰からその男を盗み見ていた。目には涙を浮かべていた。五郎は複雑な思いだった。

それから、純と螢が汽車で帰ってきた。改札を抜けると親子は抱き合った。純と螢が東京にいる間に、新しい丸太小屋は完成していた。すでに五郎は住み始めており、ふたりを新しい家に連れて行った。見事な出来栄えに、子供たちは大喜びした。
一方で、寂しいニュースもあった。何年かぶりに富良野に台風が直撃し、この前まで住んでいた古い家の屋根が吹き飛ばされてしまったという。夜になり、3人は月明かりを手がかりに古い家を見に行った。自分たちが1年暮らした家が半壊した様子を見て、3人は寂しい思いがした。

螢が裏の畑の様子を見に言っている間、五郎と純は家の中を見て回った。
その時、五郎が純に話し始めた。五郎は参ってしまっているという。男は弱音を吐くべきではないと言いつつ、今の自分は打ちのめされていると告白した。とても辛いと言って涙を拭った。今だけは愚痴を言うのを許してくれと純に乞うのだった。純は弱った父親に何も声をかけることができなかった。

その時、家の裏で螢が叫んだ。以前に餌付けしたキタキツネが来ているというのだ。トラバサミのせいで(第11回)足が1本なくなっており、いつかのキツネに間違がなかった。そして、純が石を投げつけて寄り付かなくなったキツネ(第5回)でもあった。五郎に促され、純は手から餌を与えた。キツネがそれを食べた。純はとても嬉しかった。

その晩、純は初めて丸太小屋で寝た。夢を見た。令子が生きていて、彼女に手紙を書く夢だった。令子の注文どおり、この1年の経験を全て手紙に書いた。自分や螢がどれだけ成長したか、誇るように書いた。そして、富良野は洒落たものは何もないが、素晴らしい人々のいる町だと紹介した。自分たちはいつでもいるから、令子にも遊びに来て欲しいと書いた。
富良野は空がきれいだと書いた。令子が見た時のように、今日も雲がきれいだと書いた。いつも螢と一緒に、令子が見た雲を探していると記した。

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フジ『北の国から』第23回

本日、南太平洋のソロモン諸島沖でマグニチュード8の地震が発生し死者も出ているようで(CNNの報道)、被害にあった方々のことはとても気の毒に思う一方で、偽らざる気持ちを述べれば、今回のドラマシリーズの再放送は全てDVDに焼いて永久保存しようと思っていたのに、放送中に今日の津波注意報が画面の隅に表示されてしまったわけで、その状態で保存しなくてはならなくなったことを残念に思うわけであり、「デジタル化だなんだ言うんだったら、レコーダーに録画する時はこの手の注意報を表示しないような仕組みにしろよ、くそがっ」と悪態をつきながら視聴していたのだが、まさに津波注意報がピカピカ光る画面の中で清吉(大滝秀治)の言ったセリフに「天災は仕方がない、神様のしたことには諦めるしかない」という趣旨のものがあり、「そうだよなしかたねぇなぁ」と諦めることにし、もう一度被害にあった方への哀悼の意を表しようと思った当方が、BSフジ『北の国から』の第23回を見ましたよ。

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その日は、気持ちのいい秋晴れだった。寝室の壁の節穴から、柔からな秋の日差しが差し込んでいた。

純(吉岡秀隆)は朝早くに目を覚ました。雪子(竹下景子)はこんなに早くから弁当の準備を始めていた。五郎(田中邦衛)もすでに起きていた。しかし、おかしなことに五郎と雪子は一切話をしなかった。不審に思った螢(中嶋朋子)が聞いてみると、母・令子(いしだあゆみ)が昨夜死んだのだという。純は悪い冗談だと思ったが、雪子の泣き顔を見て本当のことだと思った。
ひとまず五郎は家に残り、雪子が純と螢を送り出した。昼には千歳空港に着き、午後のうちに令子の住んでいたアパートに到着した。

アパートには、令子側の親戚や令子の美容室の従業員を中心に、すでに大勢の手伝いが来ていた。吉野(伊丹十三)も来ていたが、彼は遺体の前に座り込み、放心してうなだれているだけだった。代わりに、吉野の親友だという小山(小野武彦)がてきぱきと働いていた。彼は葬式には手馴れているらしく、みんなに指示を出しながら、中心的役割を果たしていた。
純は、人々の働きに活気があるように思えた。人が死んだのに、ましてや自分の母の死だというのに、慣れた感じで次々と準備が整っていく様子を寂しく傍観していた。その上、吉野が遺体の前に居座っているので、部屋の隅で小さくなっていた。

そこへ、吉野の2人の息子が現れた。年は純たちと同じか、少し下のように思えた。彼らは純たちの方をチラチラと横目で見ることはするが、一切話しかけて来なかった。純たちから声をかけることもしなかった。
吉野は息子たちを呼び寄せると、「母さんにお別れをしなさい」と言った。純にはショックだった。その場にいたくなくなり、螢と一緒に夜の町へ出て行った。ふたりで道に腰を下ろし、しばらく時間を潰した。純は、吉野が令子のことをあの子たちの母だと言ったことがずっと気になっていた。
一方、螢は、五郎がなかなか姿を見せないことを気にしていた。自分たちを追ってすぐに行くと行ったはずなのに、一向に現れないのだ。

雪子は令子の死に納得がいかなかった。吉野の縁故のヤブ医者のせいで死期を早めたと考えている。その医者は、令子が痛みを訴えても神経性のものだと言って原因も追求せず、ろくな治療をしなかった。雪子の知人の医師に様子を見に行ってもらったところ、その医師もあまりにずさんな看護に呆れ果てていたという。それほど酷い医者なのに、吉野の立場が悪くなることを懸念して、他の医者には一切かかろうとしなかった。雪子はあの医者は信用できないと断じ、第三者に解剖してもらうべきだと訴えた。
吉野は、雪子の言うことは正しいと同意した。そして、自分のせいで令子を早死させてしまったと述べた。
一方、他の親戚たちは雪子の意見には反対だった。令子は自分の命と引き換えにしてまで、吉野の顔を立てることに徹した。だから、真相は明らかにせずに、令子の決断のまま死なせてやるのがよいと主張するのだった。
そこへ、最終の飛行機で北海道を発ったという清吉(大滝秀治)が現れた(彼は五郎のいとこにあたるので、離婚前の霊子とは義理のいとこだ)。それをきっかけに議論は終わり、解剖はされないことになってしまった。

翌日の23時ころになって手伝いの人々がみな引き上げた。ただし、清吉と吉野が家に残った。雪子は清吉のことは心強く思ったが、吉野には早く帰って欲しいと思っていた。しかし、彼は遺体の前を離れようとはしなかったのだ。

ところが、五郎はまだ姿を見せない。
純は、五郎よりも吉野に誠意を感じた。そして、五郎は令子のことを恨んでいるから会いたくないのではないかと考えるようになった。その上、すでに死んでしまったからのだから会う価値もないと思っているのではないかと考えた。雪子は、丸太小屋の建設の都合があるから遅れるのだろうと弁護した。今は農繁期だが、無理を押して仲間に手伝いに来てもらっている。おいそれと予定の変更はできないのだろうと言うのだ。しかし、純は納得しなかった。吉野だって仕事を休んで詰めているのだから、五郎も当然そうすべきだと思ったのだ。

その夜、清吉は雪子をおでんの屋台に誘った。雪子は気が紛れるといって、素直に従った。清吉はつとめて令子以外の話をした。そのおかげで、雪子はますます助けられた。
清吉は、息子・草太(岩城滉一)の近況を話した。1ヶ月前のボクシングの試合以来、ふたりは一度も会っていないのだ。試合で負けて、草太はボクシングをきっぱりやめてしまったという。そして、一生を富良野の農家として暮らすと覚悟を決めたのだという。今回の令子の訃報に際しては、雪子が気の毒だといって泣いていたという。
それから清吉は、過去に雪子へ心ない言葉を浴びせたことを謝罪した。草太が雪子にうつつを抜かしてしまうから、もう家に出入りしないで欲しいと言ったことだ(第12回)。今ではその時のことを深く後悔しているという。清吉は、東京の女性に対する不信感を抱く経験があったという。跡継ぎになるはずだった長男が、出稼ぎに行った東京で女性と恋に落ちた。いったんはふたりで富良野に戻ってきて、一生懸命牧場で働いていたという。清吉が見る限り、その女性も明るく楽しそうにしていた。しかしある日、彼女が辛抱の限界に達したという置き手紙を残して、ふたりは東京に行ってしまったという。突然のことに清吉は呆然とし、それから東京の娘を信じることができなくなったのだという。そのことを雪子に謝った。
それからふたりは家に戻った。清吉は、令子の仏前と、吉野のためにおでんの土産を買ってやった。

翌朝8時。誰よりも早く純は目を覚ました。すると、五郎が台所に座り込んで、みすぼらしくカップ麺をすすっているのを見つけた。たった今到着して、腹が減ったので戸棚を漁ったのだという。純はひどくがっかりした。
10時頃になって、再び手伝いの人たちが集まった。五郎は、令子に一度手を合わせたきり、ずっと台所に篭って女達と一緒に料理を手伝った。女達から令子のそばにいるよう促されたり、迷惑がられたりしても、頑としてそこをどかなかった。
純はますます五郎のことを無様だと思った。遅れてきたからといって、いまさら働くポーズを見せても白けるばかりだと思った。ましてや、それだけ元気に働ける力があるなら、どうしてもっと早くこなかったのかと思うのだ。何かすることよりも、早く来ることが一番だと思った。

もしかしたら、吉野がそこにいたから、五郎は令子の前に行けなかったのかもしれない。しかし、ふと気づくと吉野の姿は消えていた。それにも関わらず、五郎は台所から離れようとしなかった。

純と螢は、公園でブラブラと時間を潰した。すると、そこに吉野がいることに気づいた。ふたりは目を合わせないようにしていたが、吉野に見つけられた。不快感に駆られ、螢はブランコへ逃げた。逃げ遅れた純は吉野に捕まってしまった。
吉野は、純ももうじき初恋をし、その先の人生で何度も女性を好きになるだろうと予言した。恋愛とはそういうものだと説明した。一方、吉野自身の恋愛は今回を限りに全て終わってしまったと話した。息子たちを生んだ妻は3年前に死んでしまったという。吉野は、自分が好きになった女性はみんな死ぬのだと寂しく話した。

ふと吉野は、純と螢があまりにくたびれた靴を履いていることに気づいた。吉野はふたりを強引に靴屋へ連れて行った。葬式で汚い靴を履いていたら令子が悲しむといって、上等な運動靴をふたりに買ってやった。新しい靴を履かせ、古くてボロボロになった靴は店員に捨てさせた。
純は、古い靴が捨てられることに一瞬躊躇した。それは、富良野に越した当初に買ってもらい、1年間(雪靴を除いて)ずっと履いていた運動靴だった。それを買う時、五郎はデザインや履き心地は一切無視して、店で一番安い靴を勝手に選んで買い与えた。そのことは気に入らなかったが、毎日何をするときにもその靴を履き続けた。糸が切れると、五郎が自ら直してくれた。それだけ愛着もあった。
しかし、吉野に捨てるよう言われると、なぜか抗うことができなかった。

葬儀が終わり、令子は焼かれて骨になった。葬儀は無事に終わった。
すると五郎は、翌朝一番で富良野に帰るという。雪子やおじの前田(梅野泰靖)が引き止めるが、五郎は自分の予定にこだわった。農繁期に人出を借りて丸太小屋を作っており、みんなに迷惑をかけられないというのが理由だった。
さすがに前田は呆れた。離婚したとはいえ、子供もいるのにあまりに薄情すぎるというのだ。五郎のあまりの頑なな態度に、五郎が令子を恨んでいることも疑った。死んだ人間をいつまでも恨んでも仕方ないだろうと諭すのだが、五郎は翻意しなかった。

彼らとの話を打ち切りたくなった五郎は、隣室で絵を描いている螢のところへ行った。
螢は涙を浮かべながら「怖かった夜」のことを覚えているかと五郎に訪ねた。五郎には「怖かった夜」が何かはわからなかったが、螢の説明から、令子の不倫を目撃したこと(第4回参照)だとわかった。螢は、嫌な出来事を一生懸命思い出そうとしているのだと説明した。良いことを思い出すと辛くなるから、嫌なことを思い出して辛くならないようにしているのだという。五郎は、令子はもう死んでしまったのだから、嫌なことは全て忘れてしまえ、許してやれと諭した。五郎自身は、令子の全てを許したと話した。逆に、令子は自分のことを許していなかっただろうから、彼女が生きている間に許してもらえることをすればよかったと言うのだった。

その晩、純がトイレに起きると、五郎が仏前で一人で泣いているのを見た。けれども、翌朝早く、五郎は予定通り帰っていった。

五郎が帰った後、親戚たちは五郎の陰口を言い合った。葬儀に遅れてきたこと、台所に入りっぱなしで元夫らしくなかったこと、令子も結婚中に「ゴキブリ亭主」などと悪口を言っていたことなどを面白おかしく話した。吉野に比べてあまりにもおざなりな態度であったことから、今でも令子のことを恨んでいるに違いないと口々に言うのだった。

それを聞いていた清吉は、彼らの見方を否定した。
清吉によれば、五郎もすぐに駆けつけたかったのだという。しかし、金がなくてできなかったと説明した。令子が亡くなった報せを受けた晩、五郎は清吉に金を借りに来た。しかし、清吉も十分な現金を持っていなかった。近所の農家を回ってやっと金をかき集めたが、大人1人と子供2人分にしかならなかった。それで雪子と2人の子供を朝一番で送り出したという。
銀行が開く時間になって、五郎の親友の中畑(地井武男)が必要な金を工面してくれた。しかし、五郎は受け取るのを渋った。飛行機代ではなく、汽車の料金だけを借りて、一昼夜かけて東京まで来たのだという。飛行機と汽車の料金は、1万円ほどしか違わない。しかし、貧しい農家や五郎にとって、その1万円は非常に大きな負担なのだという。それを稼ぐのに一体何日働かなければならないか、それを考えるとおいそれと金を借りたり使ったりできないのだと話した。
北海道の農家が、どんなに苦しい生活をしているか、清吉は話した。自然の厳しさは冬だけではない。今年の夏は水害によって壊滅的なダメージを受けたという。いつしか、北海道の貧しい農家は天災に対して諦める癖がついてしまったというのだ。神様のすることには抗ってもしかたないと思わざるをえないのだ。

夜、純と螢は家を出て靴屋に向かった。捨てた靴を取り戻そうとしたのだ。しかし、すでに店は閉店しており、無人だった。仕方なく、店の横のご見捨て場を漁り始めた。
すると、パトロール中の警官(平田満)に見つかってしまった。警官の厳しい問いかけに対して、純は震え上がってしまった。上手く事情を説明することができなかった。けれども警官は、純の発する「再婚、おじさん、母、死」などの言葉から尋常では無いものを感じ取った。それ以上は聞かずに、率先して靴探しを手伝ってくれた。
純は急に涙がこぼれた。しかし、自分が泣いている理由がわからなかった。

その晩、純は夢を見た。
古い運動靴が川に流されていた。純と螢はそれをどこまでも追いかけていた。みすぼらしくてボロボロの靴だったけれど、五郎が買ってくれた大切な靴である。それを取り戻すためにどこまでも追いかける夢だった。

夢と同様、現実の靴も二度と彼らの手には戻って来なかった。

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フジ『北の国から』第22回

村上春樹は『走ることについて語るときに僕の語ること』の冒頭で「真の紳士は、別れた女と、払った税金の話はしない」というでっち上げの金言を書いている(さらに、「健康法を語らない」と追加される)が、それはウソっぱちだと切り捨てるにはもったいない言葉だよなと思う当方が、BSフジ『北の国から』の第22回を見ましたよ。

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8月のボクシングの試合後、草太(岩城滉一)は黒板家にめっきり姿を見せなくなった。雪子(竹下景子)の様子もどこかおかしかった。また、純(吉岡秀隆)は札幌でつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)に会ったことを食卓で話題にした。しかし、五郎(田中邦衛)と雪子は露骨に無視した。純は触れてはいけない話題なのだと思い、それから一切つららのことは話さなかった。

そして10月になった。五郎は中畑(地井武男)や彼の部下たちに手伝ってもらい、いよいよ丸太小屋の建築に取りかかった。純と螢(中嶋朋子)は学校が終わると建築現場に駆けつけた。雪子も炊事係として現場に詰めていた。作業は至って順調で、一週間と待たずにに屋根まで完成しそうな勢いだった。活気ある現場で、男たちも楽しそうに取り組んでいた。

純と螢は、現場をこっそりと抜け出し山奥に入っていった。実は、本人も忘れいてるが、数日後が五郎の誕生日なのだ。みんなでサプライズ・パーティーを開くことを計画していた。純と螢は翌年用のブドウ酒を贈るつもりだった。その材料となる山ブドウを採りに行ったのだ。

螢と純は、五郎の誕生日にこごみ(児島美ゆき)を呼ぶべきか話し合った。螢はこごみを呼ぶべきだと主張した。自分たちはピクニックの時にこごみに冷たい態度をとった(第20回)。しかも、その頃から五郎はこごみに会っていないようだ。螢は、五郎が自分たちに気兼ねしてこごみと会わないでいるように思われた。ゆえに、自分たちがこごみを誘ってやるべきだと考えているのだ。
一方の純は猛反対した。こごみの前でデレデレとしてだらしのない五郎を見たくはないからだ。しかし、その日は結論が出なかった。

翌日は日曜日だった。純と螢も朝から作業を手伝った。
螢が食料を持って家を出ようとすると、こごみが訪ねてきた。螢はこごみを建築現場に連れて行くことにした。道中、ふたりは親しくおしゃべりをした。螢はこごみを誕生会に招待した。こごみも喜んで参加すると答えた。

ところが、こごみが現場に着くと、場の雰囲気が一気に悪くなった。それまで楽しげに話していた男たちが、一切口を利かなくなった。五郎と目を合わせようとするものもいなかった。みんな、五郎と中畑がこごみと肉体関係のあったことを知っているのだ。もちろん、五郎と中畑も気まずい表情を浮かべていた。
そんな中、こごみは明るく快活な態度のまま、何も気にせず五郎の横に座った。そこで一緒に食事を摂り始めた。中畑にもわだかまりのない様子で挨拶をした。ふたりはほぼ一ヶ月ぶりの再会だった。

こごみと顔を合わせていたくない中畑は、純を誘って山の中へキノコ狩りへ向かった。すると、純は中畑に愚痴り始めた。純は、彼女が来ると五郎がだらしなくなるので、こごみのことは大嫌いだとぶちまけた。中畑は話の流れで、こごみが飲み屋に勤めていると言ってしまった。それを知った純は、ますますこごみのことを軽蔑するのだった。

一方、建築現場では、中畑の部下の中川(尾上和)がこごみに何かを耳打ちした。その直後、こごみは何も言わずに帰っていった。五郎はその場に立ち尽くし、こごみが帰っていくのを黙って見ているだけだった。螢はどうして急にこごみが帰ってしまったのかわからなかった。

夕方、五郎が帰宅すると、先に帰宅していた純の大騒ぎしている声が家の外まで聞こえてきた。純は誕生会にこごみを呼ぶのが嫌だと言い散らしていた。今日もこごみが現れた途端にみんなが白けたことを引き合いに出し、彼女はみんなに嫌われていると言うのだ。そして、飲み屋に務めている女は不潔だから来て欲しくないとまで言った。
外で全てを聞いてしまった五郎は、そのまま引き返し、中畑と一緒に飲みに出かけた。

中畑の目には、五郎がこごみのことで落ち込んでいるのが明らかだった。中畑は、こごみに深入りしないことを忠告した。五郎が誰かを好きになってしまうのは仕方ないが、子供たちのことを考えろというのだ。中畑は、純がこごみが飲み屋の女が出入りすることを嫌がっていることを伝えた。それから、ただでさえ五郎と令子(いしだあゆみ)の離婚で傷ついているところへ、別の女が現れることによる子供たちのショックは大きいはずだと説いた。子供たちに対して理想の父親であり続けることを最優先し、こごみとのことはせいぜい外での遊びに留めておけと助言した。
五郎は怒った。珍しく中畑を全否定した。自分は理想の父親ではないと否定した。それから、自分は女と遊びで付き合うほど器用でも無責任でもないと否定した。怒った五郎は店を飛び出して帰った。

家に帰ると、五郎はすぐに純に声をかけた。自分の誕生会を計画してくれていることと、純がこごみを呼びたくないと思っていることは知っていると話した。純が、こごみのことを飲み屋の女だから嫌いだと言っている事は許せないと厳しく伝えた。人にはそれぞれの生き方があり、各自が一生懸命生きている。純が人や職業に格付けをしていることが絶対に許さないと言うのだ。
純がこごみを呼びたくないから、五郎が代わりに断りに行ってやるとすごんだ。そのかわり、誕生会もキャンセルだと宣言して家を飛び出した。

雪子は慌てて五郎を追いかけた。ただし、雪子が五郎を追いかけた真意は、純のことをかばうのではなく、雪子に届いた手紙を五郎に見せるためだった。それは令子からの手紙だった。
令子は五郎に手紙を書くつもりだったが、それができないので雪子に宛てたという。内容を雪子から五郎に伝えることを期待していた。手紙には、すでに令子が吉野(伊丹十三)と一緒に暮らしているという事が書かれていた。五郎と正式に離婚して2ヶ月ほどしか経っていないのでまだ再婚はできないが、事実婚を始めているというのだ。子供たちに知らせるかどうかは五郎に一任するとあった。
それから令子は、自分の心境を綴っていた。離婚してからは2ヶ月しか経っていないが、吉野との関係が始まってからは2年半経っている。その間、令子は一人きりであるかのように感じていた。一人でいる時間は、家族と共にすごす時間の何倍にも感じるのだという。だからもう、一刻も一人ではいられない。だから、すぐに吉野と一緒になるのだと書いてあった。
それを読んだ五郎は、「良かった」という感想を述べた。雪子は「恥ずかしい」と言って、手紙を回収することもなく家へ駆け込んだ。五郎は手紙とともに富良野の街へ向かった。

五郎が駒草に顔を出すのも久しぶりだ。
五郎は、昼にこごみが急に帰った理由を問うた。こごみは急用を思い出したとにこやかに答えるのだった。
こごみは、五郎と会えない一ヶ月の間、取り乱すことなく待っていた自分を誇った。五郎は忙しかったためだと答えた。こごみはそれが嘘だと分かっていたが、追求しなかった。
続いて五郎は、誕生会が開催できなくなったと告げた。自分の忙しさのために開催できないのだと言い訳した。こごみも、店を休めそうにないので断るつもりだったと、再び笑顔で答えた。それ以上高いに踏み込まなかった。
さらに五郎は、こごみと中畑の関係を遠回しに聞いてみた。五郎が知ってしまったこと察したこごみは、巧妙にはぐらかした。五郎はそれ以上自分からは聞かなかった。

中畑との関係を答えるかわりに、こごみは、五郎が噂や過去にこだわるタイプかを聞いた。五郎はいったん否定した。しかし、すぐにそれを取り消した。
五郎は、自分の経験を話し始めた。妻・令子の浮気現場を目撃し、そのことにこだわり続けたと話した。令子がどんなに謝っても許さなかったというのだ。最終的には、子供たちを巻き込んだ騒動となった。人を許すことのできない自分の傲慢さを自嘲した。
そして、令子から再婚を知らせる手紙が来たことを話した。ホッとしたという正直な心境を語った。

そこへ、中畑の部下の中川とクマ(南雲佑介/現・南雲勇助)が駒草にやって来た。どういうわけか、五郎を店の外に呼び出して話をしようとしている。五郎は不審に思いつつ店の外に出た。

こごみは、五郎が席を外したことで緊張が解けた。大きく深い息をついた。

直後に五郎が戻ってきた時、顔面は蒼白だった。タバコをつかもうとする手は震えていた。会計をして帰ろうとする。
前妻・令子が死んだらしいというのだ。2ヶ月前に退院し、富良野まで旅行に来た令子が、以前に入院していた病院で死んだというのだ。

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フジ『北の国から』第21回

1982年に放送された本作では当たり前のように「トルコ(風呂)」という呼称が使われているわけだが、本まとめ記事においては1984年の改名運動(wikipediaで調べる)の流れを受け「ソープランド」と言い換えているのだけれども、それはさておき、「ダッチワイフ」を「ラブドール」と呼ぶ風潮にもやっと慣れてきたと思ったら、本日iroha (designed by TENGA)を見ていて「セルフプレジャー」という言葉を新たに知って軽くのぼせた当方が、BSフジ『北の国から』の第21回を見ましたよ。

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富良野の飲み屋街では、すすきののソープランドで働く女の噂が流れていた。本名は分からないが、麓郷にいた若い娘が「雪子」という源氏名で働いているというのだ。富良野の男がソープランドで出くわしたと言って、あちこちでしゃべっているのだ。

その噂は、駒草に入り浸っている五郎(田中邦衛)の耳にも届いた。そして、すぐにつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)ではないかと疑った。五郎は駒草のママ(羽島靖子)に協力してもらい、噂の発信源の男に会うことができた。彼から話を聞き、つららであるという確信を強め、働いている店も特定した。男にはこれ以上騒ぎを大きくしないように頼んだ。
五郎はこのことを誰にも話さなかったが、清吉(大滝秀治)にだけは全てを知らせた。清吉も強いショックを受けつつ、自分に知らせてくれたことを感謝するのだった。

雪子(竹下景子)は中畑(地井武男)の製材所で働かせてもらっている。そのため、中畑の妻・みずえ(清水まゆみ)は雪子の生活について知るとはなく知ってしまうことがある。どうやら雪子が部屋探しを始めていて、五郎の家を出る気でいるらしいことに感づいた。みずえは夫に自分の推測を話した。五郎に好きな女性ができ、それに気兼ねした雪子が家を出ようとしているのではないかと話すのだった。
その推測を聞いた中畑は、五郎に話を聞くことにした。ふたりは親友だということもあり、中畑は単刀直入に好きな女ができたのかと訪ねた。こごみ(児島美ゆき)と密かに交際している五郎はドキリとしたが、中畑の前では肯定も否定もせず、表情でごまかした。五郎が恋愛に疎いと見ている中畑は、雪子が五郎に惚れている可能性を指摘した。それについては、五郎は即座に否定した。

その夜、五郎はいつものように駒草で飲んだ。つららに関する噂が真実であったことをこごみに報告した。すると、こごみも五郎と同じようにつららに同情した。
一方でこごみは、他人が思うほどには、つらら本人は惨めな思いをしていないかもしれないと語り出した。実は、こごみも東京で付き合っていた男に騙されて、体を売る寸前まで行ったことがあるのだという。その時のこごみは、全てに諦めてしまい、少しも悲しく思わなかったのだという。他人から見れば同情されるべき状況であっても、本人は意外と深刻に考えていないこともあるのだと話した。

五郎とこごみは親密になる一方だったが、純(吉岡秀隆)はこごみのことが嫌いだった。彼女のせいで五郎がだらしなくなってしまったことが気に食わないのだ。草太(岩城滉一)に人が傷つく言葉を教えてくれと頼んだ。その言葉をこごみに投げかけて、彼女が二度と自分たちに近寄らないようにしようというのだ。
ところが、草太はそれには応じなかった。男は時に寂しくなるものであり、五郎の気持ちも分かってやれと諭した。一部始終を聞いていた雪子も純をたしなめた。体の傷はすぐに癒えるが、言葉の傷はなかなか治らないものだと言って聞かせた。その上、汚い言葉は後で自分が傷つく結果になると説くのだった。純はそれ以上何も言えなくなった。

そんなある日、中畑の下で働く中川(尾上和)は、五郎がこごみの家に入っていくのを目撃した。翌日、中川は即座に中畑に報告した。実は、一時、中畑とこごみは男女の仲になっており、そのことは中川も知っていたのだ。
夜になり、中畑は五郎を呼び出した。そこで、自分とこごみの関係を打ち明けた。前年の暮れから2月頃にかけて、付き合っていたというのだ。しかし、妻・みずえに関係がばれてしまい、それを機にきれいに別れたという。中畑によれば、こごみは情が深く、気立ての良い、いい女だという。ただし、それが仇となり、哀れな男を見ると放っておけなくなるのだという。世話をやくだけではなく、誰にでも体を開くのだ。中畑は、自分たち以外にもこごみと寝た男が複数いると話した。
五郎は落ち込んだ。中畑の話を黙って聞くより他できなかった。

五郎が家に帰ると、清吉がよそ行きの服で待っていた。清吉と五郎は家の外でふたりだけで話した。清吉は札幌へ行き、つららのことを調べてきたという。物陰からつららの働いているという店を見張っていたという。午前3時ころ、本当につららが店から出てきた。麓郷にいた時とは打って変わってきれいで清潔で上品に見えたという。店で果物を買い、タクシーに乗り込んで去っていく姿は、まるで良家の令嬢のように思えたほどだ。清吉は声をかけることもできず、足がすくんで立っているのがやっとだったという。今思い出しても、ソープランドに務めている娘が、どうしてあのように堂々としていられるのかわからないと話した。

草太のボクシングの試合が近づいてきた。純と雪子はふたりで札幌まで応援に行くことになっていた。
草太は最終調整に打ち込み、精悍な顔つきになってきた。黒板家に油を売りに来ることもなくなったし、軽薄なところもなくなり、声をかけてもほとんど返事をしなくなった。純からは、別人のよう見え、とても素敵に思えた。

ランニング中に雪子と出くわした草太は、試合の前日に札幌に来て欲しいと頼んだ。草太は試合の前の日に雪子とともに札幌の街を歩きたいのだという。もし試合に負けたら、惨めな気持ちになり、たとえ雪子であっても会いたくなくなる。だから、前日に会いたいと言うのだ。
もちろん、草太は負ける気がしなかった。むしろ、勝つ以外に自分の生きる道は無いと考えていた。そして、試合に勝ったあかつきには、雪子に大事な告白をするから本気で聞いてくれと頼むのだった。それを言うと、草太はランニングに戻った。

いよいよ試合の前日。雪子は純を連れて、約束通り札幌に到着した。純は初めて見る札幌に興奮した。想像していたよりもずっと都会だったからだ。
純と雪子は、草太が用意してくれた宿で彼からの連絡を待っていた。しかし、なかなか連絡がなかった。すると、草太の代わりにコーチの成田(ガッツ石松)から電話がかかってきた。彼が夕食を共にするという。そして、草太は姿を表さなかった。

成田は、草太を叱ったという。試合の前に人に会うなどという、草太の甘えた態度に怒ったのだ。成田の考えによれば、ボクシングの試合は生きるか死ぬかの事態なのである。試合の前日は卵1個食べれればいい方で、あとは布団に包まって朝が来るのを待つものだという。成田は自分の現役時代の話を始めた。成田の実家は貧しい農家であったという。自分も含め家族全員が地面に這いつくばって朝から晩まで働いた。働いても暮らしは楽にならない。成田は、そんな暮らしから抜け出すためにボクシングに賭けた。土に這いつくばる苦しさを思えば、どんなことも我慢できたのだという。
それから、負けた選手の惨めさを説明した。それまで選手を甲斐甲斐しく世話してくれていたセコンドたちは、選手が負けるとそそくさと帰ってしまうのだという。ボクサーの手はグローブで包まれ手の自由が聞かないのに、グローブの紐すらほどいてくれないのだという。控え室に一人ぼっちになり、傷の痛さと負けた悔しさで涙が出そうになるのを我慢しつつ、後片付けをすることほど惨めなことはないと言うのだ。

食事を終えると、成田がふたりをホテルまで送った。純を先に部屋に帰らせると、成田は雪子にだけ別の話をした。草太を怒鳴ったことには、実は別の理由があったのだという。草太が「雪子のために勝つ」と言ったことに激怒したのだ。色恋のためにボクシングをするのは映画や小説の絵空事だと言うのが成田の意見だ。
それに加えて、草太がつららではなく雪子のことを念頭に置いていることがどうにも許せないのだという。つららを差し置いて雪子と札幌でデートしようとする行為に我慢がならないのだ。成田は、つららがソープランドで働いていることを雪子に話した。そのことを今夜、草太にも教えたのだという。寝耳に水だった草太は泣き崩れてしまったという。成田は草太に泣く代わりに怒れと炊きつけた。自分の不甲斐なさを自身への怒りに変え、その勢いで勝てと発破をかけた。そして、つららのために勝てと伝えたのだという。

翌日16時に草太の試合が始まった。しかし、草太にはほとんどいいところはなかった。2ラウンド1分40秒でノックアウトされて負けた。草太は意識を失い、担架で運び出されてしまった。

意気消沈した純と雪子は出口へ向かった。するとそこへつららが現れ、ふたりを喫茶店に誘った。
純は、明るく綺麗になり垢抜けたつららに驚いた。筏下りの日に富良野に来ていたこと(第18回)を言おうか迷ったが、なんとなく言いそびれて黙っていた。代わりにつららの札幌での仕事を訪ねた。すると、つららは「ファッション関係」と即答した。純はつららが美しくなったことに合点がいった。

雪子から、草太に会わないのかと聞かれると、つららは会わないと答えた。見に来ることも知らせていないという。草太とのことはすでに過去のことであり、麓郷のことは忘れたと答えた。同じく雪子から、都会での仕事は大変だろうと気遣われると、むしろ楽すぎて困ると答えた。自分には元々都会での暮らしがあっていたのだろうなどと答えた。
続けてつららは、アパートの隣の住人の話を始めた。その人はベランダでかぼちゃを大切に育てているのだという。つららにしてみれば、スーパーで金を払えば簡単に手に入るものをわざわざ育てることが不思議だったという。つららがその隣人を見ていて思ったことは、農業は人の本能なのかもしれないということだ。農家は金にならないのに、1年中天気の心配をし、汗水流して地べたに這いつくばっている。自分はもう農家の暮らしに戻るつもりはないが、農家の暮らしはもしかしたら素敵なことなのかもしれないと考えるようになったと話した。

その話を聞きながら、雪子は涙ぐんでいた。純には雪子の涙の理由がわからなかった。きっと、試合に負けた草太のことを思って泣いているのだろうと想像した。あとから聞いた所によれば、草太は控え室に運び込まれてすぐに意識を取り戻したという。しかし、俯いたきり誰とも口を利こうとしなかったらしい。
それでも純は、草太がとても素敵だと思った。彼の戦う姿に感動を覚えていた。

麓郷では、五郎と共に螢(中嶋朋子)が留守番をしていた。螢はボクシングが恐ろしくて、観戦する気になれなかったのだ。
螢は、最近五郎が富良野に出かけないことを指摘した。一人で留守番できるので、五郎が出かけても良いと言った。そして、五郎に好きな人ができても自分は平気だと付け加えるのだった。

8月20日になり、小学校の夏休みは終わった。純と螢は本校へ通い始めた。富良野はもう秋が始まりかけていた。

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フジ『北の国から』第20回

じゃがいもと玉ねぎとベーコンのスパゲティ(参考: 日清製粉のレシピ)をたまに思い出してはしんみりしてしまう当方が、BSフジ『北の国から』の第20回を見ましたよ。

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UFOを観察すると言って凉子(原田美枝子)が螢(中嶋朋子)を連れ回し、山で遭難したことが新聞で報道された。口止めされていたにも関わらず、純(吉岡秀隆)が新聞記者にペラペラとしゃべってしまったせいだ。純はひどく落ち込んだ。五郎(田中邦衛)は純が傷つかないように、その話題には触れないようにしていた。純は五郎らの配慮に気付き、そのように気を使われている立場にいること自体にますます傷つくのだった。

寝室で螢が純に話しかけてきた。近頃、五郎が毎晩富良野に行っていることが気にかかるというのだ。ある日など、朝帰りした時にラベンダーの石鹸の匂いがしたという。それは家で使っているものとは明らかに違うものだったという。五郎に女友達ができたとみて間違いないと螢は言うのだ。純は、五郎は再婚について考えを巡らせた。そして、なにもラベンダーの石鹸の女などではなく、雪子(竹下景子)と結婚すればいいのにと思うのだった。
純は、五郎は雪子のことを好いていると予想していた。しかし、螢の考えは、雪子は草太(岩城滉一)のことを好きなのだから、五郎と結婚することはないというものだった。ふたりで話していても埒が明かないので、雪子の気持ちを確かめることにした。じゃんけんの結果、純が雪子から聞き出すことになった。

純が雪子から話を聞きだすと、雪子はここで一生を過ごす予定であり、結婚もこちらでするつもりでいることがわかった。ただし、相手は特に決まっていないといって言葉を濁した。純は黒板家でずっと暮らすことを提案した。その流れで、いっそのこと五郎と結婚すればいいと言った。雪子は口に出して否定はしなかったが、態度でそれを拒絶した。
そして雪子は、五郎が建築中の丸太小屋が完成したら家を出ると告げた。近くに部屋を借りて一人で住む予定だという。突然の告白に、純は驚いた。雪子はまだ五郎にも話していないという。しかし、五郎もそのつもりでいるらしいというのだ。なぜなら、五郎の作った丸太小屋の模型には雪子の個室がないからだ。指摘されて、純も模型にはベッドが3つしかないことを不思議に思っていたことを思い出した。

その晩、五郎はやはり夜遅くに帰ってきた。家に入る前、体の匂いを確認することを怠らなかった。
五郎はすぐに寝床に入ったが、ランプを付けて開高健の本を読み始めた。純は、五郎の雪子に対する気持ちを聞いてみたかった。しかし、なんとなくそれを聞ける雰囲気ではなかった。逆に、五郎に対して何か良くない感情が浮かんできた。漫画すら満足に読めない五郎が、急に活字ばかりの本を読み始めたことがなんだか気に入らないのだ。ランプを付ける油がもったいななどと、五郎に対して憎まれ口を叩くのだった。

次の日は日曜であった。仕事が休みの五郎は、一人で丸太小屋の建築現場へ出かけた。
その日は螢が昼食を作った。それを弁当箱に詰めて、螢が五郎に届けることにした。五郎を驚かせようとワクワクして出かけた螢であった。しかし、そばまで来てみると、五郎が螢の知らない女・こごみ(児島美ゆき)と楽しそうに弁当を食べているのを目撃してしまった。螢は踵を返して駆け出した。途中の川で弁当を廃棄し、何くわぬ顔で家に帰り、誰にも何も言わなかった。

その翌日、東京からテレビ局の職員が訪ねてきた。バラエティーショーの制作スタッフで、UFOを目撃した螢のことを取材したいというのだ。純は興奮した。そのバラエティーショーは全国放送で、令子(いしだあゆみ)もよく見ていたものだ。テレビに映れば、令子に元気な姿を見せてやれると期待したのだ。螢に出演するよう迫った。しかし、螢はひどく嫌がった。収録は翌日である。五郎は螢が一晩よく考えて、明日までに結論を出せばいいと言って、肯定も否定もしなかった。

純は螢の出演を強い口調で説得した。頭を小突いて脅すのだ。しかし、螢はテレビへの出演よりも、五郎のことを気にしていた。前日、五郎が知らない女と弁当を食べていたことを純に報告した。その時の五郎の様子がどんなに楽しそうだったかということを純に話すのだった。
深夜、螢は雪子の布団に潜り込んで相談した。雪子は、螢が嫌ならば止めるのが良いと助言した。螢はテレビに出たくないという思いと、令子に姿を見せてやりたいという思いの間のジレンマを打ち明けた。それから螢は話題を変えた。令子や五郎は近いうちに再婚するのだろうか、と雪子に聞くのだった。そして、急に雪子に抱きついて泣くのだった。雪子はわけが分からず困惑した。

翌日、螢はテレビのインタビューを受けることを承諾した。レポーターにマイクを向けられ、UFOを見た時の様子を事細かく説明した。その様子は、3日後の昼のバラエティーショーで放送された。中畑(地井武男)の家にみんなで集まって視聴した。螢はかわいらしく映っており、本人も出来栄えに満足した。
インタビュー映像が終わると、スタジオのコメンテーターたちが話し始めた。彼らの話は、涼子と螢を侮辱する内容だった。レポーターはふたりが遭難したことを口頭で説明し、担任教諭であった涼子に至っては取材拒否したと面白おかしく語った。コメンテーターは、教師がUFOなどという非科学的なことを教え子に信じさせるとは言語道断だと切り捨てた。それから、螢は催眠術のようなものにかけられ、妄想を真実のように語っているだけだと断じた。特に、螢のようにかわいい女の子は、周囲の注目を集めておくために、虚言を真実だと思い込んで吹聴する癖もあると言うのだった。
螢は悲しくなって部屋を飛び出した。純は悔しくて仕方なかった。令子も見ているかもしれない番組で、全国に向かって螢が侮辱されたことにひどい怒りを覚えた。

その晩、五郎は富良野には行かず、早くに帰宅した。中畑の豚舎から分けてもらった豚肉で、豪勢な鍋料理を食べた。みんなが明るく振る舞う中、螢だけは相変わらず落ち込んでいた。五郎は螢を慰めた。誰がなんと言おうと、螢は自分の見たものを信じればいいと諭した。五郎や純をはじめ、螢を知っている人々はみな螢のことを信じている。そういう人々がいるから何も心配することはないと言って励ますのだった。
それから五郎は、翌日はピクニックに行くという計画を発表した。五郎の見つけた秘密の場所があるので、そこに出かけるというのだ。富良野の知り合いに昼食の準備も頼んであるから、楽しい小旅行になると言うのだ。純はとても喜んだ。しかし、雪子は仕事があるので参加できないということだった。

翌8月5日の朝。雪子が仕事に出かけると、五郎は急に上機嫌になり始めた。未だかつて無かったほどに丁寧に身だしなみを整え、鼻歌などを歌っている。純と螢のことを上品ぶって君付けで呼んだりした。
8時過ぎに、こごみが家までやって来た。そしてピクニックに出発した。五郎は終始、こごみの手を引いて山道を登った。その様子は子どもから見ても仲睦まじかった。純は、こごみのことをまあまあ気に入った。五郎の再婚相手として悪くはないと評価した。しかし、螢は不機嫌な様子だった。
昼食は、こごみがスパゲティ・ボンゴレを作ってくれた。五郎はますます上機嫌になってそれを食べ、よくしゃべり、よく笑った。純にはその態度がとても軽薄なものに思えた。自分の父親として恥ずかしい姿だった。しかし、五郎がそれだけこごみのことを気に入っているという証拠でもあった。

螢は、食が進まなかった。こごみの作ったスパゲティを持て余し、魚の餌にするといって川に投げ入れ始めた。五郎は、スパゲティは人の食べ物であって、魚の餌ではないとたしなめる。しかし、螢はやめなかった。ついに、雪子は料理が上手で毎日おいしいものを作ってくれるなどと捨て台詞を吐き、ザリガニを探すといって早々に場を離れた。純もそれを追いかけた。純には螢の気持ちが想像できた。螢はこの場にはいない雪子のことを考えているのだろうと想像した。
帰り道に夕立にあった。周囲は晴れているのに、純たち一行のところだけを狙ったようないやらしい夕立だった。

8月7日になった。北海道ではこの日に七夕祭りをする風習がある。子供たちは空き缶で提灯を作り、それを持って家を回り、お菓子をもらう。日中、純と螢が準備をしていると、同級生の中畑すみえ(塩月徳子)が大慌てでやって来た。涼子の転勤先が決まり、本校ではなく遠い学校へ行くことになったのだという。遭難事件の責任を取らされたことは明らかだった。
涼子が寝泊まりしている分校の後者へ行ってみたがすでに無人で、きつく施錠されていた。純は自分の責任を重く感じた。

夜になって、純と螢は街の子供たちと一緒に七夕祭りに参加した。
ふと、街角に涼子が佇んで見物しているのを見つけた。純と螢、さらにすみえが駆け寄って話しかけた。しかし、涼子は列を離れるのは良くないと言って、子供たちを戻らせた。それでも純だけは涼子のところに留まり謝罪した。自分がUFOや遭難事件のことを第三者に漏らしてしまったことで騒ぎが大きくなったからだ。そのせいで全国の笑い者にされた螢は傷つき、涼子は転勤する羽目になってしまった。
それから純は、自分は螢や涼子のことを信じていると打ち明けた。そして、自分にもUFOを見せて欲しいと頼んだ。今度は絶対に秘密を守るし、涼子に迷惑もかけないと誓った。すると涼子は、翌日の15時に山の登山口に来るよう指示した。UFOは時間に関係なく、信じる人の所に必ず表れるというのだ。純は約束した。

その晩、運の悪いことに純は風邪を引いて熱が出て頭が痛んだ。翌朝には熱が引いたが、大事を取って午前中は薬を飲んで寝ていた。純は夢を見ていた。東京で仲の良かった女の子・恵子(永浜三千子)がスパゲティ・ボンゴレを食べさせようと純と螢を追いかける夢だった。奇妙な夢だったが、純には楽しい夢だった。
雷鳴を聞いて目を覚ますと、15時20分だった。純は完全に寝坊してしまった。螢が止めるのも聞かず、走って待ち合わせ場所に向かった。

約束の登山口に着いたのは16時近かった。約束の1時間後だ。すでに涼子の姿はなかった。
涼子は怒って一人でUFOに会いに行ったと予想された。純は後を追うように、山の中へ入っていった。途中で激しい雨がふりだした。それにも構わず純は山を進んだ。
するとどこかから、涼子が「365歩のマーチ」を歌っている声が聞こえてきた。そちらに進んでみると、雨に濡れるのにも構わず、涼子が木の上に登っていた。上空には巨大な葉巻型宇宙船が滞空しており、涼子に向かって一筋の光を伸ばした。純は、涼子がその光に吸い込まれるように消えていくのを確かに見た。

純はその後の記憶が曖昧になった。どうやって家に帰ってきたのかすら覚えていなかった。家の者に言わせると、嵐の中をびしょ濡れで幽霊のように帰ってきたのだという。その日の晩からひどい熱を出し、5日間起き上がることができなかった。
ようやく元気を取り戻したのは、UFOと涼子を見てから1週間後だった。分校の様子を見に行くと、扉や窓には板が打ち付けられていて、完全な廃校となっていた。学校の後片付けをしていたおじさんに話を聞くと、涼子はちょうど1週間前の嵐の日に転勤して出て行ったのだという。
純は、涼子は宇宙船に乗ってどこかへ去ったのだと確信した。人に話しても誰も信じない話だろう。しかし、純はそれを実際に見たし、信じる。ただし、誰にも話さないことを決めた。

8月の半ばなのに、その日から急に涼しくなった。もう秋風が吹き出した。

そして、富良野の夜の街ではひとつの噂が流れ始めた。
以前に富良野の農協のスーパーで働いていた女が、札幌すすきののソープランドで働いているのだという。会った男によると、互いに名前は知らないが見知った顔であり、双方驚いて顔を見合わせてしまったというのだ。本名は依然として知れないが、源氏名は「雪子」であったという。
駒草で飲んでいた五郎は、そばで話している男たちの話を耳にした。

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フジ『北の国から』第19回

「一日3本は胃にもたれるぜ、だけどそこまで頑張ってもあと1日分(昨日放送分)の録画が残っていてゲンナリしてしまうぜ」とひとりごちている当方が、BSフジ『北の国から』の第19回を見ましたよ。

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筏下りの晩。涼子先生(原田美枝子)と一緒にUFOを見に行った螢(中嶋朋子)は、21時を過ぎても帰って来なかった。純(吉岡秀隆)は螢たちの行き先を知っていたが黙っていた。なぜなら、純は宇宙人が涼子に化けていると信じており、その秘密を漏らすと危険だと思ったからだ。しかし、螢が帰ってこないことも心配になったので、純は五郎(田中邦衛)に手がかりを教えた。ベベルイの山奥に行ったはずだと知らせた。五郎はすぐに探しに出かけた。

ところが、螢はなかなか見つからず、23時になっても五郎も帰って来なかった。初めは螢の身を案じていた純だが、だんだん螢に腹を立ててきた。純が行くべきではないと忠告したのにそれを無視して出かけた上、みんなに心配をかけている螢が許せなくなってきたのだ。

いつの間にか眠りに落ちていた純は、玄関の物音で目を覚ました。どうやら螢が見つかったらしい。しかし、中畑(地井武男)やクマ(南雲佑介/現・南雲勇助)たちに捜索を手伝ってもらっただけではなく、警察官も1名出動するまでの騒ぎになっていたようだ。中畑はみんなに今夜のことは黙っているようにと口止めした。警官にもそう伝えたなどと言っている。
五郎は純を呼んで、純にも口外しないよう注意した。今夜のことが公になると、涼子の責任が問われる。涼子は東京でスキャンダルを起こしたこともあり、ただでさえ彼女に批判的な風潮がある。その火に油を注がぬよう、絶対に人に喋ってはいけないと言われた。

寝室でふたりっきりになると、螢は純に心配をかけたことを謝った。しかし、殊勝だったのは初めだけで、すぐに自分が見てきたものを得意げに話し始めた。螢は巨大な葉巻型の母船を見たのだという。涼子が母船に向かって話しかけると、それに答えるように母船から空飛ぶ円盤が飛び出したという。涼子に促されて螢も交信を行うと、母船は同じように答えてくれたのだという。螢は興奮して話した。
純は螢の話を冷ややかな態度で聞いた。一切を信じず、以前に自分が見たUFOも目の錯覚だったと訂正した。そして、UFOを見たなどというと人から馬鹿にされるから、誰にも喋るなと命じた。螢は布団の中で泣き出してしまったが、純は放っておいた。
純は口で言うほどには、UFOを信じていないわけではない。ただ、螢がみんなに迷惑をかけたことをもう忘れ、得意げに話している姿に嫉妬してきつく言ってしまったのだ。

翌日、一家は新しい丸太小屋の建設予定地を見に行った。
純とふたりっきりになった隙に、五郎は螢のことで純をたしなめた。螢は純が信じてくれないと言ってショックを受けているという。螢が純に嘘をつく理由など無いのだから、彼女は見てきたものを正直に話しているはずだという。どうして螢を信じないのだとしかるのだった。
純は頭にきた。五郎がいつも螢の味方ばかりするからだ。

7月28-29日は富良野市街で北海へそ祭りが開催される。五郎は、中畑らと一緒に見物に行こうと言って張り切っていた。そこへ、草太(岩城滉一)が雪子と純に会いに来た。その日の晩、富良野のボクシングジムで草太が新聞の取材を受けるのだという。札幌で行われる草太のボクシングのデビュー戦についての取材だという。自分のいいところを雪子らに見せようと思って誘いに来たのだ。雪子たちは、へそ祭りの前に立ち寄ることを約束した。

しかし、取材は散々な結果に終わった。草太の記事のはずなのに、ジムの会長・成田(ガッツ石松)が一人でインタビューに答えたり、スパーリングで草太を叩きのめしてしまったのだ。雪子や五郎らは見ていられなくなって、へそ祭りの踊りの見物に行ってしまった。純だけはジムに残ってもう少し見学することにした。草太は自分が蔑ろにされていることについて文句を言った。すると今度は成田が怒りだして、ジムはますます混乱した。記者がふたりをとりなす間、カメラマンは退屈になって雑誌を読み始めた。
純は、カメラマンの見ている記事がUFOに関する記事であることに気づいた。純はそのカメラマンに軽い気持ちでUFOが実在すると思うか聞いてみた。するとカメラマンからは肯定的な答えが返ってきた。それを嬉しく思った純は、螢がUFOを見てきたことを話してしまった。純は自分のおしゃべりな性格を自覚しているが、一度話し始めると留めることができなかった。涼子が引率して迷子になったことまで含めて、昨夜の出来事を包み隠さず全て話してしまった。五郎は純のおしゃべりな性格ととても嫌っている。それだけで気が重いのに、何かとても悪いことが起きそうな予感がした。

へそ祭りを見物していた五郎は、踊りのグループの中にこごみ(児島美ゆき)がいるのを見つけた。五郎は我知らず、彼女の姿に見とれてしまった。五郎は街に用事があると言って、中畑に子供たちを家まで送り届けることを頼んだ。
街に残った五郎は、こごみの務めるスナック駒草を訪れた。

筏で一緒になった縁で、スナックのママ(羽島靖子)は五郎の来店をとても喜んだ。五郎と中畑が親友同士だと知ると、ママは中畑の話を始めた。中畑は冬によく来ていたが、最近はあまり来ないという。五郎に、中畑の下の子どもはどうしているかと尋ねるのだった。生まれつき腎臓が悪くて札幌の病院に入院しているという話だった。五郎には何のことだかわからなかった。

そこへ、こごみが五郎の横に座った。五郎が来たことを喜び、前触れもなく抱きついて頬にキスをした。
こごみも中畑の話を始めた。こごみは中畑のことを「悲劇さん」と呼んでいるらしい。いつも悲しい話ばかりするからだという。両親とは生き別れで行方が知れないし、子どもは重い病気で入院している。実の妹は身を持ち崩して札幌のソープランドで働いていると言うそうだ。ところが、こごみはそれらが全てホラであると見抜いていた。自分を悲劇の主人公にすることで女にもてる作戦なのだという。ただ、中畑の語り口が真に迫っているのでママはコロッと騙されているし、こごみも嘘だと知っていながらもらい泣きをしてしまったこともあるという。

さらに、こごみは中畑が語った妻の話も紹介した。中畑が東京にいた頃、妻はよそに男を作って出て行ってしまったという。2人の子どもを押し付けられ、中畑は富良野に帰ってきたと言ったそうだ。そして、前妻の妹が中畑を慕って追いかけてきて、その女性と再婚したのだという。五郎はそれがそっくり自分の話だと気づいた。五郎は、前妻の職業は美容師だったと指摘した。こごみは、中畑から同じ事を聞かされていた。中畑と五郎の話が一致したため、こごみは妻に関する話だけは本当だと信じてしまった。
その世、五郎は泥酔して中畑の家へ行った。深夜にもかかわらず玄関を激しく叩き、一家をたたき起こした。中畑の妻(清水まゆみ)がいるのも構わず、駒草で聞いてきた話をひと通り中畑にしゃべって聞かせるのだった。中畑は、慌てて五郎を追い払った。

それから2日ほどして、小学校の本校から2人の教師が螢を訪ねてきた。螢は涼子とUFOを見に行った日のことを詳しく聞かれたのだという。初めは黙っているつもりだったけれど、教師たちが真相を全て知っていることがわかったので、ごまかすことをやめて正直に答えたのだという。教師たちは、涼子は困った教師だなどと言い合いながら話を聞いていたという。
純は、自分が新聞記者にしゃべったことが広まっていることを悟った。UFOが実在するかどうかよりも、涼子が螢を連れて道に迷ったことが大きな問題になっていることを知った。五郎が口止めした理由が実感としてわかった。

その日帰ってきた五郎はとても暗い顔をしていた。螢や雪子が声をかけても上の空だった。純は辛くなった。五郎が自分に絶望したこと以外、彼の不機嫌の理由がわからなかったからだ。夕食の席で、純は五郎に謝った。涼子のことを新聞記者にしゃべったことを正直に打ち明けた。ところが、五郎はしゃべってしまったことは仕方ないと言うに留まった。そして、食事を切り上げ、表に出て丸太小屋の材料作りを始めた。

雪子が表に出て、五郎をとりなした。純は深く反省しているのでこれ以上怒らないで欲しいと頼み込んだ。
しかし、五郎は別の理由でふさぎこんでいると説明した。五郎は今日届いたという封書を雪子に差し出した。そこには、受理された離婚届のコピーが1枚入っているだけだった。五郎と令子(いしだあゆみ)の離婚が正式に成立したのだ。雪子とも書類上の親戚関係が途切れてしまったのだ。
五郎はそのまま街まで飲みに出かけた。

行き先は駒草だった。ふさぎこんでいる五郎を見て、こごみは明るい口調で奥さんとケンカをして逃げられたのだろうとからかった。五郎は雪子にしたのと同じように、封書をこごみに提示した。中身を見たこごみは言葉を失い、先ほどの軽口を謝った。五郎は気にしなかった。その代わり、中畑の妻の作り話は全て自分のことだと種明かしをした。ただし、妹のことだけはでたらめであると訂正した。

五郎は、こごみに問われるまま、令子との馴れ初めを話して聞かせた。キレイな女性であったこと、別れて寂しい思いをしていること、東京で互いの勤務先が隣同士だったことなどを話した。ある日、令子が五郎を彼女のアパートに招待してくれた。そこで令子はスパゲティ・バジリコを作ってくれた。それまでの五郎の人生では見たことも聞いたこともなかった食べ物だった。五郎は味よりも先に、ハイカラな名称や見た目に感動したと話した。五郎と似たような境遇で生まれ育ったこごみは、その話に共感した。

あまりにふたりが暗い雰囲気なので、ママがカラオケでも歌えを薦めてきた。そこでふたりは「銀座の恋の物語」をデュエットすることにした。マイクを向けられると、五郎はポツリポツリと付き合って歌った。
歌いながら五郎は、令子との結婚披露宴のことを思い出していた。その時も同じ歌を歌ったのだ。列席者から祝福され、五郎と令子も幸せの絶頂だった。その記憶が蘇り、五郎はつい目をうるませてしまった。その様子を見てこごみももらい泣きした。

こごみは五郎を部屋に誘った。スパゲティ・バジリコを作ることを約束した。
こごみの部屋には本がたくさんあった。読書が趣味なのだという。最近は開高健高中正義に凝っているのだという。五郎が高中正義という作家は知らないと答えると、こごみは笑った。高中正義はギタリストなのだ。最近読んだ本は何かと聞かれた五郎は、『じゃりン子チエ』だと答えた。その様子をかわいらしく思ったこごみは、「大好き」と言って五郎に抱きついた。男と女になった。明け方、五郎はそっと家路についた。

家に帰ると、雪子と螢がほぼ寝ないで待っていた。五郎は螢の出迎えを受け、彼女を抱きしめた。すると螢は、五郎の体からラベンダーの匂いがすると指摘した。

そして、その日の朝刊に草太の取材記事が載った。しかし、その扱いはとても小さかった。その代わり、涼子のことが大きく報じられていた。

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