NHK土曜ドラマ『55歳からのハローライフ』 第1話「キャンピングカー」

リリー・フランキーの3大傑作といえば『東京タワー』と『グラビアン魂』と『ロックン・オムレツ』(森高千里)のPVだと考える当方がNHK土曜ドラマ『55歳からのハローライフ』第1話「キャンピングカー」を見ましたよ。

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大手家具メーカーの敏腕営業マン・富裕太郎(リリー・フランキー)は早期退職制度を利用し、50代でリタイアした。彼は仕事一筋だった半生を振り返り、残りの人生は自分の夢と家族のために使おうと考えたのだ。
自宅のローンは完済済みだった。娘の美貴(市川実日子)と息子の(橋爪遼)はまだ独身で実家ぐらしだが、ふたりともすでに就職している。早期退職による特別加算金も貰えるため、当面経済的な心配がない。妻・凪子(戸田恵子)も太郎の早期退職に反対しなかった。

太郎の趣味は美味いコーヒーを飲むことだった。手動のミルで豆を挽き、ネルドリップで自ら淹れて飲むことを好んだ。退職後の夢は、キャンピングカーで悠々自適に全国を回り、先々でコーヒーを楽しむことだ。妻とふたりきりで旅に出ることを望んだ。
早期退職の特別加算金がちょうどキャンピングカーの価格と同等だったので、退職を決めるとともに手付金を支払っていた。ただし、家族を驚かせるためにそのことは秘密にしていた。

退職日の夕食で、太郎はキャンピングカーのことを家族に打ち明けた。家族は確かに驚いたが、歓迎よりも冷淡な雰囲気で迎え入れられた。反対を明言する者はいなかったが、太郎は微妙な空気に戸惑った。

同伴を指名された妻・凪子もいい顔をしなかった。夫婦仲が悪いわけではなく、むしろ関係は良好であったが、突然のことに困惑したのである。
いくら経済的に困窮していないとはいえ、キャンピングカーは決して安いものではない。今後、年金を受給するまでは収入が無い。ふたりの子どもたちの結婚資金も準備しておきたいと考えている。生活が心配になるもの当然であった。また、凪子は趣味で絵画をやっている。教室に通ったり、絵画仲間と写生旅行に出かけたりすることもある。長期旅行に出てしまうと、それらの活動に支障をきたすのだ。

太郎とふたりきりになった時、凪子はあくまで控えめに、上記の懸念を表明した。しかし、太郎にとってはそれが妻のわがままに聞こえてしまうのだった。

娘・美貴も反対だった。特に経済的理由から反対した。キャンピングカーを購入するなら再就職し、その収入を購入費に充てるよう提案した。

娘の言い分にも一理あると思った太郎は発奮し、就職活動を始めた。
家具メーカーの営業マン時代の人脈に片端から連絡をとり、自分を雇ってくれるよう頼んだ。しかし、業界の景気は悪く、太郎を雇い入れる余裕のある会社はなかった。そればかりか、太郎が昔の勤め先の威光をかざし、居丈高な態度でいることで反感を持たれる結果となった。太郎は自分を採用しない人々の陰口を叩くのだった。

人脈の伝手が途切れた太郎は、人材派遣会社に登録することとした。その待合室には覇気のない中高年が大勢おり、太郎は仄暗い気分になった。その上、面接担当者は自分よりずいぶんと若い者であった。昔ながらの営業手法しかしらない太郎は、パソコンや外国語、女性社員の扱い方など、現代の企業で必要とされるスキルを全く有していなかった。若い面接担当者に憐れむような態度で接しられ、太郎は落ち込むのだった。

その頃から、太郎は精神に不調をきたし始めた。
喉に違和感を感じ、咳が止まらなくなり、大好きなコーヒーも飲めなくなった。不眠に苦しめられたり、近所の犬の鳴き声に激しく苛立つようになった。

その上、現実と区別の付かない夢を見るようになった。
夢の中で太郎は、キャンピングカーを手に入れ、凪子とともに旅をしていた。凪子が草原にイーゼルを立てて写生しているのを、太郎はコーヒーを飲みながら眺めていた。

そこへ、阿立(長谷川博己)と名乗る男が近づいてきた。彼は黒いフードを被った不審な姿をしていたが、太郎の話を真摯に聞いてくれた。太郎は会社時代の自分のこと、早期退職を決めたきっかけ、キャンピングカーや妻とのふたり旅に対する憧れなどを話した。

それから阿立が道連れとなったが、しばらくすると彼の姿が消えた。
ところが、太郎と凪子が人気のない露天風呂に入っていると、どこからともなく阿立が現れ、ふたりの入浴姿を眺めていた。妻の裸を覗かれたことに怒った太郎は、阿立を追いかけた。
すると、阿立はキャンピングカーを盗んで走り去った。

太郎はますます怒り狂った。自分の全てをつぎ込んだキャンピングカーを盗まれ、もう自分には何も残っていないと思ったからだ。自分の何よりも大切な物が盗まれたと声をあげて嘆いた。

その叫び声を聞いていた凪子は冷淡に言った。太郎はモノやスタイルを大切にするばかりで、妻である自分を顧みないと言うのだ。結局太郎は、家族や妻を自分の理想のライフスタイルの一部としか見ていなかったと批判したのだ。
夢の中で。

悪夢ばかり見て、気分が塞ぎこむばかりの太郎は、自ら心療内科を受診した。カウンセリングを担当した医師は、身なりこそ異なったが、夢に出てくる阿立と同じ顔をしていた。
太郎から話を聞いた阿立は、「誰でもが、自分だけの時間を持っている」ということを諭した。太郎が自分の夢を実現したいと思い、そのために自分の時間を使うのと同様に、凪子も自己実現のために自由に使う時間を持っていることを確認した。そして、太郎がそのことに気付き始めていると指摘した。自分と他人がそれぞれ固有の時間を持っているという事実を知ることは脅威である。太郎はそれに気づくとともに、その事実を拒否しようとしている。だから精神的に不安定になっているのだと説明した。それを受け入れることが今の太郎には必要だと言うのだ。

ある夕、太郎はコーヒーを保温瓶に準備した。それを携え、丘で写生している凪子を迎えに行った。
太郎の姿を見つけると、凪子は帰り支度を始めた。精神的に不安定な夫を心配するのはもちろん、長年の主婦生活の習慣から、家事に戻る時刻だと思ったからだ。夫を支えることが自分の義務だと考えているのだ。

そんな凪子を、太郎は押しとどめた。もう少し絵を続けて良いと言うのだ。そして、家から持ってきたコーヒーを差し出した。

太郎は、こうして時々コーヒーを持ってきたいと言うのだった。少しずつ始めていって、ずっと先にふたりで共通の夢が持てたら嬉しいと話すのだった。

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福生駅の切符買って、リリーさんの壁画見って♪

東京都の西部に福生市がある。読みは「ふっさ」である。自衛隊およびアメリカ空軍の横田基地がある街だ。

昨日、知人らと昼酒を飲んでいた時にウルフルズ「大阪ストラット」の話になった。

その時、当方が自慢げに「『大阪ストラット』の作曲者は大滝詠一であり、彼の『福生ストラット(パートII)』のカバーである」旨を説明した。

当方は自慢気だったのだが、周囲の反応は8へぇ~くらいだった。
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リリー・フランキー『美女と野球』

リリー・フランキーが1990年代に雑誌連載していたエッセイをまとめた物。

リリー・フランキーの代表作といえば、『東京タワー: オカンとボクと、時々、オトン』だろう。
同作は、リリー・フランキーの自伝小説であり、最愛の実母との死別をテーマにしている。苫小牧一の親不孝と言われている当方ですら、思わず泣かされてしまった(前に読んだ時の記事)。

同作は、一貫して、冷静でしっとりとした文体で書かれている。激しい感情は胸の内に深くしまいこんであった。なんて美しい文章を書く人なんだろうと感心させられた覚えがある。

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「東京タワー: オカンとボクと、時々、オトン」 / リリー・フランキー

I
五月にある人は言った。
それを眺めながら、淋しそうだと言った。
ただ、ポツンと昼を彩り、夜を照らし、その姿が淋しそうだと言った。

II
五月にある人は言った。
どれだけ仕事で成功することよりも、ちゃんとした家庭を持って、家族を幸せにすることの方が数段難しいのだと、言った。

III
五月にある人は言った。
東京に住んでいると、そういうわかりきっていることが、時々、わからなくなるのだと、その人は言った。

IV
五月にある人は言った。
たとえ、姿かたちはなくなっても、その人の想いや魂は消えることはないのです。あなたが、手を合わせて、その声を聞きたいと願えば、すぐに聞こえるはずです、と言った。

V
五月にある人は言った。
「東京は、そんなに楽しいところですか?」

VI
五月にある人は言った。
あなたの好きなことをしなさい。でも、これからが大変なのだと、言った。

VII
五月にある人は言った。
東京でも田舎町でも、どこでも一緒よ。結局は、誰と一緒におるのか、それが大切なことやけん。

VIII
五月にある人は言った。
どれだけ親孝行をしてあげたとしても、いずれ、きっと後悔することでしょう。あぁ、あれも、これも、してあげてばよかったと。

IX
オカンが死んだ年の五月にある人は言った。
「東京タワーの上から東京を眺めるとね、気が付くことがあるのよ。地上にいる時にはあまり気が付かないことなんだけれど、東京にはお墓がいっぱいあるんだなぁって」

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