NHK『カーネーション』第104回

NHK『鶴瓶の家族に乾杯』の今週と来週のゲストは栗山千明様であり、ドラマのロケ地だった岡山県倉敷市を尋ねるというので絶対に見ようと思っている当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第104回目の放送を見ましたよ。

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第19週「自信」

1958年(昭和33年)、安岡美容室の制服は糸子(尾野真千子)によって一新された。糸子が新しい制服の様子を覗きに行くと、八重子(田丸麻紀)らの様子がおかしい。客を隠そうとしているのだ。そこでは、直子(川崎亜沙美)がパーマをあてようとしていた。

直子は上京するにあたり、田舎者だと馬鹿にされないように髪型を変えようとしていたのだ。自分で小遣いを貯めたのだから親に口出しされる筋合いは無いと突っぱねるが、糸子の猛反対によってパーマは中止されてしまった。直子はふてくされた。家に帰ってきても、東京で着るおしゃれな服がないと言っては拗ねてしまった。

糸子と八重子は、婦人雑誌でディオールの最新デザインの検討をした。若手デザイナー、イブ・サンローランが発表した洋服は「トラペーズ・ライン」と呼ばれるものだった。それはウエストラインが絞られておらず、肩からスカートに向けて緩やかに広がっていくシルエットであった。台形のようなシルエットが奇抜で、世界で流行の兆しを見せていた。
しかし、糸子にはその良さがさっぱりわからなかった。それはまるで、大正時代のアッパッパそっくりに思えたのだ。糸子は年若いイブ・サンローランのことを心底バカにした。

ある日、北村(ほっしゃん。)が家に訪ねてきた。糸子と組んで仕事をしたいという。流行しつつあるトラペーズ・ラインの既製服をいち早く発売するので手伝って欲しいというのだ。
しかし、糸子はきっぱりと断った。北村は業界にホラ話を吹聴する男だから信用できないのだ。それに加えて、トラペーズ・ラインの服など日本で売れるはずがないと決めてかかっている。外国人にしてみれば目新しくて良いかもしれないが、日本人が着ればアッパッパそっくりで垢抜けないと考えているからだ。
ただし、直子はトラペーズ・ラインを一目で気に入った。糸子は、北村と直子の見る目のなさに白けるばかりだった。

いよいよ、直子が服飾専門学校に入学するため、東京に旅立つ日となった。しかし、直子はまたしても朝からしょぼくれていた。東京に来て行く服がないと言ってしょげているのだ。糸子はイライラした。
ついに、直子はセーラー服を着ていくことにした。中途半端な格好をするくらいなら学校の制服を着た方がましだというのが直子の理屈だった。糸子は直子の極端な考え方に呆れてものが言えなくなった。

しかし、そんな直子でも、家からいなくなる寂しかった。糸子は直子のいなくなった机に向かって、しんみりとした時間を過ごした。
その寂しさを紛らわせるかのように、糸子はテレビを買った。聡子(安田美沙子)をはじめ、店の者や近所の人々も集まり、のど自慢番組を見ながら合唱した。愉快な時をすごした。

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NHK『カーネーション』第103回

某美人人妻からもらったカーネーション手ぬぐいは、大事にしまっておくつもりだったのに、彼女から「え~、え~?せっかくだから、じゃんじゃん使ってくださいよ~!ねぇ~、ねぇ~。」と甘く詰め寄られ(セリフ等はイメージです)、美人にそこまで言われたら無下にするもの野暮だなぁと思いつつ、かといって汗拭きなどに使って汚すのもモッタイナイなぁと思い、考えた挙句「そうだ、小洒落たブックカバーとして使おう!」(折り方: 参考1「永楽屋」参考2「伊兵衛日記」参考3「D&DEPARTMENT」)ということを決めた当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第103回目の放送を見ましたよ。

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第18週「ライバル」

東京の洋裁学校で優子(新山千春)を指導している原口(塚本晋也)が訪ねてきた。偶然そばまで来たので立ち寄ったという。
原口は、オハラ洋裁店に入るやいなや、店を褒めちぎった。その態度に糸子(尾野真千子)も気を良くして、一家全員で原口を歓迎した。

原口は気さくな人柄で、話題が豊富で面白かった。優子が原口に憧れる気持ちがよくわかったし、糸子たちも同じ気分になった。けれども、原口は一度話し始めると時間を忘れる癖があった。気づくと深夜2時になっており、そのまま小原家に泊まっていくことになった。

娘たちの寝室を借りて寝ることになった原口であるが、部屋に入った途端、またしても大声で騒ぎ始めた。部屋に置いてある絵画を見て、その出来の良さに興奮してしまったのだ。
その絵は直子(川崎亜沙美)の作品で、新聞社のコンクールで大賞を獲得したものだ。原口に請われ、直子は自分の絵を次々と原口に披露した。そしてふたりは、夜通し絵について熱心に語り合った。

一家全員と親しくなった原口だが、千代(麻生祐未)だけは警戒心を解かなかった。彼女は、原口が優子との結婚の申し込みに来たと勘違いしていたのだ。中年の原口では優子と年齢が吊り合わないと考えている。
朝になって、原口は台所の壁にヒビが入っているのを見つけた。千代によれば小さな傷なのでわざわざ職人を呼ぶのも気げ引けて、そのままにしてあるという。原口はすぐに直子から美術道具を借りて、手早く修繕を始めた。その気軽な親切さに触れ、千代も原口のことが気に入った。

壁の修理をしながら直子とふたりっきりになった原口は、彼女の将来の希望について聞いてみた。
直子は美術大学に進学し、画家になる予定だと答えた。家業は優子が継ぐことで本人も周囲も納得しているから、自分は違う道に進むのだと告げるのだった。

しかし、原口は何かを見抜いていた。
本当に服よりも絵が好きなのかと聞くと、どうも直子の態度は煮え切らない。原口は壁に向かって作業の手を休めることはないが、真剣な口調で言った。優子が家を継ぐのであれば、直子は独立して店を持てばいい。それは格好のいいものだ、と。
直子は揺れた。自分が上京したら、原口は面倒を見てくれるかと尋ねた。原口は受け入れると即答した。
そこで話は終わって、原口は東京へ帰って行った。

その夜、直子があらたまった様子で糸子の前に現れた。
直子は、高校を卒業したら優子と同じ服飾専門学校に入学し、原口に師事したいと言い出した。床に頭を下げ、一心不乱に頼み込んだ。突然のことに驚く糸子は気圧されてしまい、深く考えずに思わず許可してしまった。

後日、直子から話を聞いた北村(ほっしゃん。)はひどく驚いた。以前は優子も直子も服飾の道に進むことをあれほど嫌がっていたのに、ふたりとも正反対の決断をしてしまったからだ。
そして北村は、決して楽な道ではないと助言した。同じ仕事をするということは、身内が身内ではなくなり、商売敵となる。それでもやっていく自信はあるか問いただした。もちろん直子はそのことを理解していた。むしろ、糸子や直子がライバルとなる方が面白いとまで言い出す始末だった。
一方、同席した聡子(村崎真彩)は甘い物を食べるのに一生懸命で、家族の分裂も自分の進路も何も興味がなさそうだった。

翌1958年(昭和33年)元日。
優子が里帰りした。直子が上京すること、さらには家賃節約のためにふたりで一緒に住むよう言われたことで優子は逆上した。浮かれて東京弁ばかり使っていた優子であったが、感情が爆発し、思わず岸和田弁で怒鳴った。

優子は直子の上京を猛反対した。画家になると言っていたのに、今さら洋裁を始めることは許せないと言うのだ。洋裁の道は自分だけのものであり、直子が闖入することを見逃すことはできないと、目に涙を浮かべて訴えた。洋裁は誰が始めても良いものだと言って糸子がなだめても、一切聞こうとしなかった。

優子が興奮すればするほど、直子は冷静になっていった。
そして、直子は悪魔の一言を述べた。優子は直子の才能を恐れているのだと、皆の前で言った。直子が洋裁を始めると、優子の居場所がなくなることを心配しているのだと悪意を込めて言った。図星をつかれた優子は泣いて飛び出した。

今の糸子には、常に反発しあう姉妹をどうすることもできなかった。

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NHK『カーネーション』第102回

あまりに寒くて「寒い・・・」以外にマクラの思いつかない当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第102回目の放送を見ましたよ。

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第18週「ライバル」

1957年(昭和32年)秋。優子(新山千春)が上京して2年が経った。

優子が里帰りした。彼女は東京弁を使うようになり、すっかりあか抜けていた。聡子(村崎真彩)は都会的な優子のセンスに憧れを持ったが、直子(川崎亜沙美)だけは東京かぶれの優子のことを軽蔑した。最近、直子は新聞社の絵画コンクールで大賞を獲得したという。優子も過去にそのコンクールに応募したことがあるが、彼女は佳作しか獲れなかった。直子は優子に嫌味を言うのだった。

また、優子は妹たちに向かって、自分が姉妹を代表して跡継ぎになることを引き受けた。だからふたりは家のことを心配せずに、好きな道を進めと言って聞かせた。聡子は素直にそれを聞き入れたが、直子は憮然とするばかりだった。

優子は、糸子(尾野真千子)の仕事にまで口出しするようになった。これからは洋裁師の地位は向上し、芸術家と同じにみなされる時代になると語った。だから、客に頭を下げたり媚びたりしなくてよいと言って、糸子の商売哲学を否定した。
もちろん、そんなことを言われて受け入れる糸子ではなかった。しかも、優子の言っていることは自分自身の確固とした意見ではなく、東京で師事している原口先生の受け売りに過ぎなかったのだ。糸子は、優子の生意気な態度に腹を立て、不快感を隠すこともしなかった。

あまり優子が原口先生のことばかり口にするので、千代(麻生祐未)は心配になった。優子と原口先生が男女の仲になっているのではないかと疑っているのだ。しかし、糸子はそれに関してはありえないと否定した。千代は祖母として優子のことを贔屓目に見ているが、客観的に見れば優子は女として魅力的ではないというのが糸子の意見だった。千代は若い頃から美人だったのでもてたかもしれないが、糸子や優子はその器量を受け継いでいないと言うのだ。
それに、優子は小さい頃から権威に影響されやすい所がある。例えば、戦時中は軍事教練に熱中したことがある(第70回)。今も、東京で指導を受けて、それを過剰に受け入れているだけだろうといって、あまり真剣に取り合わなかった。

そうして、優子はまた東京へ戻っていった。最後の最後まで、原口先生のことばかり喋りながら帰って行った。糸子はすっかり呆れてしまった。

11月頃、糸子は泉州繊維商業組合の会合に出席した。
周防(綾野剛)本人は来ていなかったが、三浦組合長(近藤正臣)と彼のことについて噂話をした。三浦によれば、紳士服経営者の会合に周防が久しぶりに顔を出し、元気で順調な様子を確認できたという。糸子も同じ情報を掴んでいた。というのも、周防の所へは松田(六角精児)を集金に派遣しており、彼から様子を聞いていたからである。そこまで話して、周防のことは打ち切りになった。

近頃、繊維業界への女性進出が著しい。糸子は自分の仲間ができたことを心から喜んだ。組合事務所での会合の他にも、外で頻繁に会っては意見や情報の交換をした。糸子の志と同じく、女手で店を切り盛りしようと奮闘する仲間とはよく気があった。彼女らと会うことは糸子にとって楽しいことだった。「男は妙な意地やプライドがあるから客と対立することがままある。しかし、自分たち女にはそういった変なこだわりがない。だからうまくやれるのだ」などと言っては盛り上がった。

そんなある日、木之元(甲本雅裕)のアメリカ商会を見知らぬ男が覗き込んでいた。木之元が話しかけると、彼は素っ頓狂な様子で商品をべた褒めした。その様子に感激した木之元はすっかり彼と意気投合してしまった。その男は別の用事があって岸和田に来たのだが、そんなことなど忘れてしまったかのように話し込んだ。

その男こそ、優子が師事している原口(塚本晋也)だった。

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東直己『札幌刑務所4泊5日』

著者は、大泉洋主演の映画『探偵はBARにいる』(2012年2月10日にBlu-Ray等が発売される; amazon)の原作者である東直己。札幌出身、在住。
本書は、著者が作家デビュー前に経験したことに基づき、1994年に出版されたもの。

当時、売れないフリー・ライターだった著者は、刑務所の体験ルポを書こうとしていた。
その矢先、偶然にも原チャリの18キロオーバーで捕まった。これ幸いと、反則金の支払いに応じなかった。裁判で罰金刑判決を受けるも、さらに支払いを無視。晴れて著者の思惑通り、刑務所で懲役刑を受けることになった。

ただし、刑期は5日間だった。18キロの速度超過の罰金は7,000円だったという。法律により、刑務所での労役は2,000円/日と定められているそうだ。そのため、著者は4日間の労役で刑期を終えてしまう(途中、労役のない日曜日があったため合計5日間入所したようだ)。
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NHK『カーネーション』第101回

某美人人妻からカーネーション手ぬぐいを贈ってもらったのだが、「うわっ。もしかして彼女は俺に気があるんじゃないの?糸子みたいに『最後に言わして下さい。好きでした』とか言われたらどうしよう。俺は周防のように禁断の恋に走っちゃうのかっ!そんでもって、三浦に『はずれても、踏みとどまっても、人の道』などと言われてしまうの!?」と考えをめぐらせ、ムラムラしたり(性的に興奮している様子)、ヤマヤマしたり(やましいことを考えている様子)、アヤアヤしたり(慌てふためいている様子)している当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第101回目の放送を見ましたよ。

カーネーション手ぬぐい

カーネーション手ぬぐい(左、および下に敷いてある)。右は当方秘蔵の『ちりとてちん』ミニ風呂敷(DVD-BOX2の初回特典)。

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第18週「ライバル」

1955年(昭和30年)9月。
優子(新山千春)は大阪の洋裁専門学校へ熱心に通っている。朝は妹たちよりも早く起き、機嫌よく身支度を整えて出かけていく。周囲の人々はみな、優子をオハラ洋裁店の跡取りだと認めチヤホヤしている。
ただし、糸子(尾野真千子)だけは優子にその気があるのか半信半疑だったが、表面上は強く後押ししていた。優子が学校の課題について糸子に相談すると、糸子も親身に対応してやるのだった。

周囲がそろって優子をもてはやす様子を、直子(川崎亜沙美)だけは苦々しく眺めていた。

9月14日、だんじり祭が開催された。
戦争が終わって10年経ち、男たちも街に戻ってきた。そのおかげで、祭りも往年の勇壮さを取り戻していた。女性でもだんじりを曳くことができるようになったので、直子と聡子(村崎真彩)は装束に身を包み朝早くから出かけていった。糸子も楽しげにふたりを見送った。

夜は小原家で宴会が催された。
人々が盛り上がる中、優子が糸子の前に進みでた。そして、みんなが聞いている中で、東京へ勉強に行きたいと言い出した。洋裁学校の先生が優子の才能を認め、東京の有名な先生を紹介してくれたという。先生にスタイル画を送ったところ大いに評価され、ぜひとも上京しろと招かれたのだ。
優子は自分の描いたスタイル画を披露した。それは糸子も息を呑むほどの出来栄えだった。糸子は優子の眼差しの中に、これまでにはなかった輝きを見た。本気で自分の人生を切り拓こうとし、熱心に頼み込む優子の姿を、ついに糸子は認めた。糸子は無言で頷き、それで優子の東京行きが決まった。

その出来事で、宴会はますます盛り上がった。人々は優子のことを祝福した。優子も泣いて喜んだ。
しかし、その騒ぎとは裏腹に、直子だけは少しも面白くなかった。

優子が出発する日の朝、彼女はふたりの妹に別れを告げていた。ふたりで力をあわせて母を助けることを言って聞かせた。また、将来の跡継ぎは自分が引き受けるから、妹たちは自由に自分の人生を歩めと励ますのだった。
聡子は、自分の大好きなテニスに打ち込むことを約束し、姉の優しさに感謝した。
一方、直子は優子の話を聞き流して、絵ばかり描いていた。

いよいよ出発という段になって、優子は母に買ってもらったバッグを東京行きの荷物の中にしまい込んでしまったことに気づいた。他に鞄を持っていないために難儀してしまった。
すると、

バッグを送る荷物に入れてしまった。
松田(六角精児)が、居間に放り投げられていた赤いバッグを見つけてきた。それは、糸子が直子の中学卒業祝いとして贈ったものだった。
居間に落ちていたということで、直子がそのバッグに興味を失っているだろうことは誰の目にも明らかだった。そこで、優子はそれを持って出かけることにした。

ところが、自分のバッグを無断で持ち出されたことに気づいた直子は、道を追いかけて優子に組みかかった。優子を地面に押し倒し、バッグを力づくで奪おうとした。それを返すまいとする優子との間で揉み合いになった。糸子が止めに入っても、なかなか収まらなかった。
結局、バッグを直子に返し、優子は昌子(玄覺悠子)が店の奥から見つけてきた古臭い手提げ鞄を持って旅立つことになった。

優子が去っていくのを、直子だけは見送らなかった。部屋で赤いバッグを抱きしめて泣いていた。
周囲の者は誰一人として、糸子も含めて、直子の悔しい気持ちには全く気付こうともしなかった。

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NHK『カーネーション』第100回

節目だからといって特に面白いマクラが思いつくわけでもないけれど、残り3分の1もどうぞよろしくお付き合い下さいとお願い申し上げる当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第100回目の放送を見ましたよ。

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第18週「ライバル」

1955年(昭和30年)2月。
優子(新山千春)は、妹たちよりも一足早く高校を卒業した。しかし、卒業式を終えても冴えない顔をしていた。東京の美大に進学する予定だったのに、糸子(尾野真千子)が急にそれを禁じてしまったからだ。
近所の人々は、ずっとふさぎこんだままの優子のことを心配したが、直子(川崎亜沙美)だけは優子の態度に反発した。優子は昔から甘やかされて育ったので、暗い顔さえしていればみんなから同情されると思って、芝居をしているだけだと切って捨てた。

糸子は娘たちの通知簿を見ていた。
小学生の聡子(村崎真彩)は体育だけが5で、あとはほとんど1ばかりだった。中学生の直子はそれよりは多少ましだったけれど、ほぼ似たようなものだ。糸子は彼女らをしかるでもなく、むしろデキの悪さを見て他人ごとのようにバカ笑いするのだった。

一方、優子はどの教科も成績優秀だった。糸子も優子の成績には一目置いた。
しかし、美大進学を簡単に許す気はなかった。優子が自分で覚悟を決めるまで、わざと反対し続ける決意でいた。糸子も本心では優子の進学を願っていたし、早く悪者役を降りたいと思っていた。けれども、優子の成長のために心を鬼にしているのだ。彼女が反対を押し切って我を通した時には、喜んで応援してやるつもりでいた。

優子の美大受験はいよいよ明後日に迫った。明日には上京しなければならない。しかし、まだ糸子の許しは出ていなかった。
夜遅く、布団を抜けだした優子は店に降りていった。まだ仕事をしていた糸子に、泣きながら訴えた。糸子が理不尽にも態度を急変させたため、自分は混乱した。どうしていいか分からないと喚き出した。
しかし、そんな優子の態度にも糸子は動じなかった。親に甘えるのではなく、自分でどうすれば良いか考えろといって突き放した。

優子は布団に戻ったが一睡もできないまま夜が明けた。
すると、千代(麻生祐未)が旅支度を持って寝室に現れた。ヒソヒソと話しながら優子に東京へ行って受験するよう勧めた。悔いが残るのは良くないし、糸子のことは自分に任せておけと言って安心させた。そうして、優子を送り出した。
その一部始終は、直子が聞いていた。直子は優子のことを敵視しながらも、動向が心配でいるのだ。

同じく、隣室で寝ている糸子もその物音を聞いていた。しかし知らんぷりをした。優子が受験に向かって、糸子も安心したのだ。優子が合格したら、もう一度彼女の覚悟を確かめるための芝居をうたなければならないと思うと気が重かったが、その時はその時だろうと楽観できた。

ところが、優子は東京行きの汽車には乗らなかった。一日中大阪駅でブラブラして、他に行くところがなくなって北村(ほっしゃん。)を訪ねた。北村は機嫌よく優子を迎えてくれた。

北村に懐いている優子は、彼には本心を全て明かすことができた。
優子は、糸子の言う通り、自分に覚悟の無いことを自覚している。だから糸子を説得することができないし、糸子も自分のことを許してくれない。むしろ、糸子が本音では美大行きを応援してくれていることも理解していた。けれども、その期待に応えられない自分を不甲斐なく思った。

実際、優子は画家になりたいわけではなかった。糸子に褒めてもらいたいと思っているだけなのだ。
戦争中、物資が不足する中、優子は糸子に色鉛筆を買ってもらった。そして、それで綺麗なものをいっぱい描け、綺麗なものを知らない妹たちのために絵を描いて喜ばせてやれと言われた(第70回)。その通りにすると、糸子は褒めてくれた。それが嬉しかったというのだ。
美大に行けば、ますます優子のことを認めてくれて、褒めてくれると思っていた。それが美大行きの動機だというのだ。

北村は、洋裁屋を継げば大いに褒めてくれるはずだと助言した。しかし、優子は洋裁屋にだけはなりたくないと言う。自分は親孝行をしたいのではなく、単に褒めてもらえればそれでいいのだという。北村には、親孝行と褒められることとの違いがわからなかった。もうこれ以上は付き合いきれないとさじを投げた。
優子は優子で、打ち明け話をしてすっかり気が晴れた。

その日の夜遅く、優子は北村に連れられて帰宅した。糸子はイライラしながら仕事をするだけで、優子に対して特に小言を言うでもなかった。優子も思いつめて、眠れぬ夜を過ごした。
そして結局、優子は4月から大阪の洋裁専門学校へ通うことが決まった。

小中高とそれぞれ学校を卒業する娘たちのために、糸子は贈り物を用意した。
運動だけが取り柄の聡子には、真っ赤なスニーカーをプレゼントした。お洒落に目覚め始めている直子には真っ赤で派手なハンドバッグが与えられた。ふたりは大喜びした。

続いて糸子は、2階の部屋に一人でいる優子にもプレゼントを持っていった。自分たちへの贈り物よりも大きな紙袋であることが気になった直子は、こっそりと覗きに行った。
優子へのプレゼントは、落ち着いて上品な、見るからに上等なバッグだった。

ついさっきまで魅力的だった自分の赤いバッグが、急にみすぼらしく、つまらない物に思える直子であった。

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NHK『カーネーション』第99回

ラサール石井が32歳年下の女性と結婚するという話(デイリースポーツ)を知り、「おいおいおい!劇中でも若い(と言っても三十代半ばという設定)の奈津(栗山千明さま)と結婚した(第95回)のに、私生活でもか!?」と言わずにおれなかった当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第99回目の放送を見ましたよ。

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第18週「ライバル」

1954年(昭和29年)12月。
学校への出かけ際、優子(新山千春)は糸子(尾野真千子)に念押しをした。優子に絵を教えている芳川(久野麻子)が洋服を作りに来るので、失礼のないようにして欲しいと言うのだ。糸子は多くの仕事を抱えていて、その予約のこともうろ覚えだった。優子はよく言い聞かせて家を出た。

午後、芳川がオハラ洋裁店にやってきた。ひと通り作業が終わると、糸子と芳川は優子の進路について話をした。
糸子の考えは、優子の好きにさせようというものだった。娘たちには家を継ぎたくないとはっきり言われており、それは仕方のないことだと諦めている。それだったら、彼女らの好きにさせてやろうというのだ。
芳川も優子の才能を大いに認めていた。ただし、画家として生計を立てることは生やさしいものではないと言うのだった。優子にそれだけの覚悟があるかどうか、芳川にも疑問だという。優子が美大進学を強く志望していることはわかるが、その先の生活について真剣に考えているかどうかはわからないというのが芳川の見立てだった。

その話を聞いて、糸子は優子の覚悟を確かめる必要があると考えた。優子が帰宅するやいなや、ふたりっきりで問いただしてみた。
ところが優子は、糸子が納得するだけの言葉を即答することができなかった。漠然と絵が好きで得意だということ以外に、美術大学へ進学する理由を挙げられなかった。駆け出しの画家は極貧に耐えなくてはいけないことや、一生芽が出ないかもしれないリスクなどについて何も考慮していないことが明らかだった。
糸子は優子を怒鳴りつけ、美大への進学を一方的に禁じた。

優子は一人でいつまでも泣き続けた。これまで自分の進路について放任主義だった糸子が、突然口出しするようになった理由がわからずに混乱した。急に自分の将来を否定されて、どうしていいのかわからなかった。妹たち(川崎亜沙美村崎真彩)も関わり合いにならないように、めそめそする優子から距離をおいた。
そんな中、千代(麻生祐未)は優子の味方だった。夕食も摂らずに泣き続ける優子におにぎりを作って持ってきてくれた。そして、糸子がなんと言おうと千代だけは優子の味方だと慰めた。千代が面倒を見るから、美術大学を受験すればよいと後押しするのだった。それで、優子の気も晴れた。

ただし、その日から優子は糸子と口を利かなくなった。その上、あちこちで糸子の理不尽さを吹聴して回った。糸子は近所でちょっとした悪者扱いされるようになり、少々困っていた。もちろん、そんな事でめげたり、考えを変えたりする糸子ではなかったが。

ついに優子は、糸子に向かって、死んでも糸子の跡を継がないと罵るようになった。
その言葉は、糸子にとって屁の河童だった。もともと糸子は、優子に跡を継いで欲しいとは思っていないからだ。それに、優子が「母は跡を継がせたくて美大行きを禁じた」と勘違いしているようではまだまだだと思った。
加えて糸子は、優子が親の言いつけなど守らずに、勝手に受験するくらいの気概を見せることを期待して待っているのだ。

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NHK『カーネーション』第98回

『カーネーション・ドラマガイド part2』(amazon)には第20週までのあらすじが掲載されており、読むべきかどうか散々迷った挙句、結局読んでしまった当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第98回目の放送を見ましたよ。

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第18週「ライバル」

1954年(昭和29年)、ある秋の日曜日。戦争が終わり、あっという間に10年が過ぎた。生活も街も、そこで暮らす人々もずいぶんと変わった。

以前は電気店を営んでいた木之元(甲本雅裕)は、輸入雑貨品を扱う「アメリカ商会」を新たに始めた。木之元に言わせれば、最近の電気製品は見ていても売っていてもつまらない。角張ったデザインで、色も画一的だというのだ。店を半分息子(城土井大智)に任せ、木之元は気ままに暮らしている。
木岡(上杉祥三)は頑なに和履物専門店をやっているが、客も少なく、本人も年を取り、もっぱら盆栽いじりに精を出している。隣のオハラ洋裁店で何やらにぎやかな催しを行なっているが、我関せずといった感じである。

そこへ、11歳になった三女・聡子(村崎真彩)がテニスクラブの練習を終えて帰ってきた。聡子も店の騒ぎに気づいたが、特に興味もなく、勝手口から入って2階に上がった。

その日、オハラ洋裁店ではファッションショーが行われていた。モデルは店の常連客が務めた。初めての試みで、素人くさいところも多々あったが、たいへんな盛り上がりだった。特に、チューリップラインやHラインなど、ディオールが発表するデザインを真似た洋服が人気だった。

裏方として、次女・直子(川崎亜沙美)が手伝わされていた。15歳になった直子であったが、店のことやファッションショーにはあまり興味がなかった。音楽係としてレコードを操作するよう命じられていたが、いい加減にこなすばかりで、お菓子を食べながら鉛筆デッサンに熱中していた。彼女の絵の腕前はなかなかのものだった。

17歳の長女・優子(新山千春)は、より一層ファッションショーには興味がなかった。2階の部屋で、油絵制作をしていた。彼女は東京の美術大学への進学を希望しており、その受験勉強の一貫として絵の練習に明け暮れているのだ。

ファッションショーには、北村(ほっしゃん。)も様子を覗きに来た。彼は、過去にウソの噂を業界に流したため、一時はオハラ洋裁店との関係が悪くなっていたが、今では悪びれることもなく顔を出す。むしろ、小原一家の女たちとは仲がよすぎるほどである。
北村が甘い物をご馳走すると言えば、3人の娘たちは喜んでついて行った。

ホットケーキを食べながら、北村は娘たちの将来の夢について聞いてみた。
優子は、プロの絵かきになるかどうかはわからないという。その道が厳しいことを知っているからだ。しかし、絵の勉強は続けたいので、東京の美術大学に行きたいという。
一方、直子は、プロの画家になるという強い希望を持っている。直子は自分の腕前に自信があるのと同時に、姉に対して常に対抗意識を燃やしているのだ。姉が画家になることは難しいと言えば、自分は絶対になってやると応えるのだ。
まだ幼い聡子は、将来の夢も特になく、甘い物を食べるのに夢中だった。

ことごとく意見の対立する優子と直子だが、親の仕事を継ぐ気が全くないという点では一致していた。盆も正月も休みなく働き続ける母親の姿を見て、あのような一生は送りたくないと異口同音に言うのだった。

その日は、北村も小原一家の夕食に加わった。実は、北村は3ヶ月に一度は顔を出し、遠慮するフリをしながら食事していくのが恒例になっていたのだ。千代(麻生祐未)も北村のことを気に入っており、いつも楽しそうにもてなした。

他の者達と違って、糸子(尾野真千子)だけは北村に冷たかった。
糸子は、北村が業界にウソを言いふらし、周防や自分を苦しめたことを恨んでいるのだ。北村は過去のことだといってごまかすが、糸子は一生忘れないと言ってやり返した。
それでも、糸子は北村が頻繁にやってくることを受け入れていたし、家族と仲良くすることにも悪い気はしていなかった。むしろ、手応えのある喧嘩相手として歓迎しているフシもあった。北村が来るとついつい飲み過ぎてしまい、食卓で寝てしまうほどだった。

北村が帰っていく物音で、糸子は目を覚ました。
すると、糸子は起きだしてミシンの前に座った。夜も遅くなったが、これからもう一仕事しようというのだ。

糸子は41歳になっていた。しかし、まだまだこれからだと、自分を奮い立たせるのだった。

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NHK『カーネーション』第97回

あんまり用事がないけれど、電車に乗って大阪へ行って来ようと思う当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第97回目の放送を見ましたよ。

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第17週「隠しきれない恋」

1948年(昭和23年)12月。
結局、糸子(尾野真千子)が我を押し通し、周防(綾野剛)は糸子の下で働き続けていた。糸子の娘たち(野田琴乃二宮星、杉本湖凛)も周防によくなついていた。

ただし、他の従業員との関係や世間体があるので、隣町に紳士服専門店を作り、そこを周防ひとりに任せることを予定した。出店資金は糸子が全て用意した。糸子は自分の甲斐性を自画自賛した。

その一方で、糸子と従業員との関係は冷え切っていた。外出した糸子が土産に団子を買ってきても、全員から無視された。いつも糸子の味方だった八重子(田丸麻紀)ですら、はっきりと言うことは避けているものの、周防との関係についてあまり良い顔はしなかった。

ついに、糸子の話相手は周防しかいなくなった。
ところが、土産の団子を差し出しても、周防は手をつけようとはしない。実は周防は、店で出されたおやつをこっそりと持ち帰り、自分の子供達に食べさせていたのだ。そのことに勘付いている糸子は、周防の子供の分は別に買ってあると言って包を差し出した。
ふたりの間に少々気まずい空気が流れた。それでも、ふたりは互いの優しさに感じ入り、優しく寄り添うあうのだった。

店の内部の雰囲気が悪化しているのとは無関係に、店はむしろ大繁盛していた。莫大な利益が出ているので、昌子(玄覺悠子)も松田(六角精児)も、糸子のすることを表立って批判することができなくなっていた。糸子はそれを鼻にかけ、ますます増長するのだった。

ある日の夕、優子がお稽古に出かけようとしたら、見知らぬ子供が自分の家の中を覗いているのに気づいた。その弟は周防にそっくりな方言で「父ちゃんを返せ!」と言って優子を突き飛ばした。そして、姉と一緒に逃げて行ってしまった。
優子は、そのふたりがどの家の子供なのか、そして何の目的で来たのかを悟った。しかし、その事件を誰にも話すことができなかった。

その年の12月30日。隣町の紳士服店の準備が全て整った。年明けには開店の予定である。糸子は、初めて周防をその店へ案内した。

その店はオハラ洋装店以上に立派な店構えだった。糸子は高価な調度品を自慢気に見せた。周防と再会したときに、手巻き式時計のネジを壊してしまったことを引き合いに出し、電気式の時計を購入したのでもう安心だなどとおどけてみせた。

けれども、周防はニコリともしなかった。
その様子を見て、糸子は不安になった。周防は本当は紳士服店など持ちたくなかったのではないか、自分の一人相撲だったのではないかと思うと辛くなった。周防は自分の店を持つことは昔からの夢だった、それがかなったと言って慰めてくれたが、糸子はその場にいられないほど悲しくなった。
周防を残して店を飛び出してしまった。

糸子は店の前に立ち尽くし、「テーラー周防」の看板を見上げた。
糸子は自分の店を初めて持った時のことを思い出した。「小原洋裁店」の看板を初めて見上げた時のとても嬉しかった思い出が浮かび上がった。人は誰しも、自分の名前を冠した店を持ったら嬉しいはずだ。なのに、周防は嬉しそうにしていない。
糸子には何が違うのか、さっぱりわからなかった。何もわからないことで、ますます悲しくなった。

糸子を追って、周防が外に出てきた。ふたりで看板を見上げた。
その時、糸子は悟った。自分は周防の夢を叶えてやったつもりでいたが、むしろ周防の夢を奪ってしまったのだと。周防は自分の金ではなく、女の金で店を持たせてもらったことを卑屈に考えているに違いないのだ。

周防は、糸子に優しい笑顔を向けた。それは、糸子の推測を肯定する意味を持っていた。やはり周防は、他人の金で作った店などは欲しくなかったのだ。けれども、糸子には深い感謝の意を表した。
その時、周防は初めて「糸子さん」と呼びかけた。

糸子はさらに悟った。自分の力では、周防を心の底から満足させ、幸せにさせることはできないのだと。そう口に出し、糸子は泣き出した。周防は糸子を抱き寄せて、優しく慰めた。そして、自分も同じく糸子を幸せにできる人間ではないと告げるのだった。

その夜、糸子は初めて無断外泊をした。ふたりでテーラー周防に泊まりこんだ。
そして、ふたりで初めて迎えた朝、糸子と周防は契約を交わした。それは周防が糸子から店を買い取るという契約だった。月賦による支払いであったが、毎月の支払額は小原洋装店の月の利益の10%ほどに相当した。

ふたりは晴ればれとした表情だった。
異口同音に「さよなら。お元気で。」そう言って、糸子は帰宅した。

糸子は寝室で寝ている娘たちの間に横たわった。
自分はまた前へ進むのだ。そう思うと内面から力が湧いてきた。

* * *

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獅子は我が子を千尋の谷に突き落とし、あるむは飼い主を失意のどん底に突き落とす

今日は久しぶりに生き別れの愛猫・あるにゃんの面会に行ってきた。

しかし、彼女は僕の顔を見るなり逃げ出した。棚の奥に隠れて出てこようとしない。
美味しそうな魚の干物を持って誘いに行ったのだが、牙をむいて唸り声をあげるばかりで、完全に僕の事を敵視している。
僕は悲しい。悲しかった。

怯えながら威嚇するあるにゃん

怯えながら威嚇するあるにゃん

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