NHK『カーネーション』第113回

糸子の初孫は「里恵」と名付けられたわけだが、その漢字の組み合わせには思わずビクッとなってしまう当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第113回目の放送を見ましたよ。

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第20週「あなたを守りたい」

1961年(昭和36年)5月。
服飾専門学校を卒業した直子(川崎亜沙美)は銀座の百貨店に自分の店を開いた。ところが、毎晩岸和田に電話をかけてくる。口ぶりは強がっているが、仕事のうまくいっていないことが想像された。心配になった千代(麻生祐未)は糸子(尾野真千子)に様子を見に行くよう勧めるのだった。

特急こだまで、東京までは7時間で行けるようになった。糸子は直子の店に直行した。
直子の店は派手に飾り立てられていた。ショーウィンドウには前衛的なオブジェが置かれていた。糸子にはそれらの飾りの意味がさっぱりわからなかったが、若者には通じる何かがあるのだろうと思って感心して眺めた。
糸子が店に入ろうとした矢先、百貨店の支配人(谷口高史)が飛び込んできた。糸子は遠慮して、店の外から様子を伺うことにした。

支配人は単刀直入にショーウィンドウのオブジェを片付けるように命じた。あまりに下品で汚らしく、百貨店の品位を下げているというのが理由だった。さらに、直子の岸和田弁も矯正させられた。直子の下で働く2人の若い女性店員も、バカにしたような態度で直子のことを見ていた。

気まずく思った糸子は、しばらく時間を潰してから店に戻った。すると、ショーウィンドウのオブジェはすっかり片付けられていた。直子は我を押し通せなかったことが察せられた。
糸子は遅れてきたことを適当にごまかし、立派な店構えであることを社交辞令のように褒めた。すると直子も気を良くし、糸子の前では強がって見せた。支配人から才能を認められており、何でも自分の好きなようにできるのだと豪語した。

その直後、女性客がものすごい剣幕でやって来た。直子の店で仕立てたパンタロンが不良品だから作り直せと言うのだった。見た目ばかりが派手で、着やすさ、歩きやすさは全く考慮されていなかったのだ。
作業場で、糸子は直子と共に問題のパンタロンを調べた。確かに、奇妙なところにポケットが付けられていて、縫製の仕方も常識はずれだった。一見して着にくいことがわかった。けれども直子は、このデザインこそ完成形なのだから修正するわけにはいかないと突っぱねた。
それに対して糸子は、服は買った人が気持ちよく着ることで初めて完成するものだと説いた。今回は、客が着れないと言っているのだから修正するしかないと言い聞かせるのだった。

その日の夜、直子の下宿には直子の同級生たち(斎藤:郭智博、吉村:ドヰタイジ、小沢:野田裕成)も集まった。糸子は千代が乗り移ったかのように、「若い子を飢えさせないようにするのがおばちゃんの努めだ」などといって、豪勢に寿司やうなぎを振舞った。彼らは気持ちのよい食欲を見せた。

直子の店の前衛的なオブジェは斎藤が作ったものだという。それは直子も斎藤も自信作だと思っていた。けれども、支配人に撤去を命じられたことをその場で打ち明けた。
糸子も支配人と同じく、あのオブジェは鉄くずにしか見えず、良さが全くわからなかったと話した。けれども、斎藤を貶すわけではなかった。糸子は直子や斎藤の感性を外国語になぞらえた。自分には外国語がわからなくても、外国人同士ではちゃんと言葉が通じている。話の内容はわからなくても、彼らが心を込めて本気で話しているかどうかは雰囲気から察せられる。それと同じように、斎藤の作ったオブジェは心を込めた本気の作品だと理解できたと言うのだ。
直子は少し不審に思った。糸子が店に姿を表したのはオブジェを撤去した後だから、それを見ていないはずである。そのことを問われても、糸子は知らんぷりをした。

話題を変えるために、糸子は若者たちの夢を聞いた。彼らは異口同音に世界中の人に自分のデザインした服を着てもらいたいと語った。プレタポルテの事業を始めれば、自分の既製服を世界中の人々に届けられるというのだ。
直子は、東京をパリのようなファッションの中心地にしたいと答えた。世界中のデザイナーを東京に呼んで、ファッション・コレクションを開きたいと夢を語った。

若者たちの夢は大きかった。糸子がこれまで想像もしたこともない、「世界」を相手にしようとしていることに良い驚きを覚えた。そして、彼らの話を聞いているだけで自然と元気が出てくることがわかった。
そしてまた、大きな夢ほど壊れやすいことも糸子は知っていた。自分にできることは、彼らを守り、後援してやることだと思った。そこで、今はとにかく、彼らに腹いっぱい食わせてやろうと思うのだった。

岸和田に帰った糸子は、ある日、聡子(安田美沙子)と共に北村(ほっしゃん。)に呼び出された。
北村はプレタポルテを始めるために専属デザイナーを探していた。けれども、一流のデザイナーはすでに他の会社と契約していたために1人も獲得できなかったという。逆転の発想で、若いデザイナーを自分の手で一流に育てて、売りだすというアイディアを得た。

そこで、聡子を預かりたいと言うのだ。糸子の娘なら十分に素質があるというのが北村の読みだった。聡子にとっても寝耳に水だったが、すぐに乗り気になった。
けれども、糸子が猛反対した。これまで洋裁には全く興味を示さず、デザイン画の1枚も描いたことのない聡子に務まるはずがないというのが理由だった。

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Almore Avenue

カナダのトロントに Almore Avenue があることを知った。


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僕はトロントには行ったことがないのだが、wikipedia で調べてみると、ざっと以下のようなことがわかった。

トロント(Tronto)はカナダ、オンタリオ州の州都であり、人口は約250万人。カナダの経済の中心であり、北米ではニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴに次ぐ都市だと言われている。
トロントはオンタリオ湖の北西に位置し、土砂が堆積してできた地形だと言われている。市内には川や森林が多く、ハイキングも楽しめるという。冬季には気温が-10度以下になることもあるが、カナダ国内でも南部に位置し、比較的過ごしやすい気候で四季もはっきりしている。
トロントは世界中でももっとも移民の多い都市として知られている。人口の約半数はヨーロッパ系の白人だが、アジア系、黒人など多くの民族が暮らす。利用される言語は英語が圧倒的に優勢であるが、日常生活では他の言語も広く使われている。救急サービスでは150以上の言語に対応できる仕組みが整えられているという。

トロント南部のダウンタウンには名門トロント大学がある。同大学には季節のイベントごとに肉を喰らい、大酒を飲み、ちょっと人にはお見せできないセクスィーなコスプレ写真を撮るのを趣味にしている日本人で、「木公さんラヴ」などと嬉しいことを言ってくれるカワイコちゃんのいることが知られている。

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NHK『カーネーション』第112回

2009年下半期に放送されたNHK朝ドラ『だんだん』では3年後(劇中では2011年)の様子として「サブプライムで大変な目にあったがオバマの『チェンジ!』でアメリカは救われた、その余波で日本の経済も上向いた」みたいな設定があったんだけれど(当時の当方のメモが残っている)、現実を見ると『だんだん』の脚本がいかに楽天的でノーテンキだったかと思わざるをえない当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第112回目の放送を見ましたよ。

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第20週「あなたを守りたい」

1960年(昭和35年)10月。
聡子(安田美沙子)はテニスでの活躍が認められ、秩父宮賞を与えられた。
しかし、糸子(尾野真千子)はそのことにほとんど興味を示さなかった。見かねた千代(麻生祐未)から小言を言われたので、申し訳程度に褒めてやった。聡子はそれがとても嬉しかったが、糸子の素っ気ない様子を目の当たりに、それ以上自分を売り込むことをしなかった。

糸子は組合事務所の女性経営者の会合に顔を出した。
今回から若い女性が加わった。彼女は糸子らの世代とは少々異なった考え方を持っていた。新しい時代の服を着ることが嬉しいのであって、自分に似合うかどうかは二の次だと言うのだ。それは糸子には思いもつかなかった考え方だった。
その後、北村(ほっしゃん。)が現れ、新しい時代の商売であるプレタポルテ(高級既製服)の講義を行った。洋服業界も変化しつつあり、オーダーメイドからプレタポルテに商売替えをしようとする人が最近では多いのだ。
しかし、着る人にピタリと似合う洋服をオーダーメイドすることにこだわる糸子は、そういった時代の流れをバカバカしく思い、途中で帰ってしまった。

帰り道、糸子は考え込んでいた。
昔の自分は時代の変化を待ち望んでいた。しかし、現在の自分は変化を恐れ、避けようとしている。現実の変化からも目を背けたかった。外国の品物が勝手に飛ぶように売れた時代は終わった。木之元(甲本雅裕)のアメリカ雑貨店は閑古鳥である。一方で、日本の伝統的な文化も失われつつある。木岡(上杉祥三)の和履物店はすでに閉店してしまっていた。
時代の変化の間で糸子は悩み始めていた。善作(小林薫)が呉服店を閉めて糸子に店を譲ったのが50歳の時だった。今、糸子は47歳になった。もうすぐその時の父と同じ年になる。

しばらくして、サエ(黒谷友香)が店にやってきた。現在の彼女は、心斎橋の高級クラブのママになっており、随分と羽振りもいい。若いホステスを連れて岸和田にやって来ては、糸子の店でドレスを仕立ててくれる。
優子(新山千春)が若いホステスのドレスを担当することとなった。優子は流行を取り入れた、トラペーズ・ラインのデザインを提案した。しかし、サエは即座にそれを却下した。サエは昔ながらのウェストの引き締まったデザインを強行に主張した。今も昔もそれが女を一番美しく見せるスタイルであり、男が一番喜ぶものだと主張した。

糸子はサエの潔さに惚れ惚れとした。年をとっても、自分が欲しいのは男だけだ、と言い切れる性根に感心した。
それに比べて、糸子は自分の優柔不断さに落ち込んだ。自分の信じるデザインの服を作りたいと思う一方で、商売のために流行に迎合した洋服を作らねばならない。一時的な流行に飛びつくのは嫌だと思いながらも、自分が時代遅れになることを何よりも恐れている。あれこれ悩むことを馬鹿馬鹿しいと思いながらも、考えずにいられなかった。
自分が本当に欲しいものは何なのか、ますますわからなくなった。

12月になり、直子(川崎亜沙美)が帰省した。翌春に専門学校を卒業したら、そのまま自分の店を出すという。百貨店に乞われ、オーダーメイドの店をやるのだという。そこで名前を売り、将来的には自分のブランドによるプレタポルテ店を持つ計画だという。
糸子は、名前ばかり全面に出て、タグを付けただけで大量に売りさばくという商売の方法にあまり良い顔をしなかった。北村の偽タグの詐欺事件も頭をよぎり、ますます印象が悪くなっていたのだ。

寝室では直子と聡子が久しぶりにふたりっきりで話をした。
直子は聡子に、将来はテニスの選手になるよう勧めた。直子が受賞した装麗賞に比べれば、聡子の秩父宮賞の方がよほど格上である。将来は約束されたも同然だと言うのだ。
しかし、聡子は乗り気ではなかった。理由を聞くと、糸子があまり喜ばないからだという。直子の装麗賞の時は大騒ぎして喜んだのに、聡子の受賞ではとても素っ気なかったのが気になっているのだ。
直子は母のことなど気にするなと励ましたが、聡子はつまらなさそうにしていた。

年が開けて、1961年(昭和36年)1月。
木之元のアメリカ紹介はついに閉店してしまった。これまで様々な商売を行なってきた木之元だが、これを限りに自ら販売店を行うことはやめるという。
しかし、近所の喫茶店のオーナーに見込まれ、その喫茶店の店長を引き継ぐこととなった。人と話をするのが大好きな木之元にとって、それは適した仕事だと思われた。本人もやる気に満ちあふれていた。少し明るい話題だった。

そして、糸子にとってもっとも明るい話題は、孫が生まれたことである。優子に長女・里恵が生まれたのである。
自分が本当に欲しいものは何なのかわからなかった糸子だが、これこそが宝物だと思った。とても素晴らしい宝物を手に入れたと喜んだ。

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NHK『カーネーション』第111回

文藝春秋2012年3月号(amazon)には尾野真千子の「『カーネーション』と私」という記事(冒頭だけ読める)があると知って即座に購入した(同じ号には芥川賞受賞作2本も載ってるよ)当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第111回目の放送を見ましたよ。

朝ドラ・ヒロインが語る「『カーネーション』と私」(尾野真千子)

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第20週「あなたを守りたい」

1954年(昭和34年)6月12日、東京の直子(川崎亜沙美)から電話があった。店で受けたのは松田(六角精児)だった。直子は優子(新山千春)に伝言があるという。松田が電話を替わろうとしても、直子はそれを断った。
直子は一生に一度の発言だと断った上で、優子への屈折した声援を送った。小さな頃から自分の目の前には優子がいた。優子に追いつき、追い越そうと努力してきたことで今の自分がある。優子にはいつまでも卑屈になっていないで、また自分を追い越し、目標とする人物になって欲しいと言うのだった。

しかし、その話は松田の耳に入らなかった。最終的にその伝言が優子に伝えられることもなかった。なぜなら、その時、店は野次馬も大勢集まるほどの騒ぎになっていて、それどころではなかったのだ。

2日前、北村(ほっしゃん。)が詐欺の容疑で警察に逮捕された。大量に売れ残った洋服に、捏造したディオールのタグを付けて販売していたのだ。しかも、そのタグは粗末なものだったため、すぐに事件が発覚したという。
この事件の取り調べのため、刑事が店にやってきたのだ。糸子(尾野真千子)は事情を聞かれた上、北村のためのデザイン画などが押収された。

糸子は自信の潔白を主張した。しかし、以前から何度か悪い評判の立った糸子なので(戦時中は闇商売をしていると言われ、戦後には北村に詐欺を働いたというホラ話や、周防(綾野剛)との情事など)、身内にも簡単には信じてもらえなかった。そこで、これ以上噂が立たないように、商業組合の三浦(近藤正臣)に相談へ行った。

すでに組合事務所にも刑事は来たという。しかし、三浦は北村に同情的だった。
北村は威勢だけはいいが、実績や人脈もなく、商売人としてはまだまだ半端者だ。大きな投資をした商売が失敗して焦っていた気持ちもわかると言うのだった。
糸子は衝撃を受けた。自分は商売人として成功していたので、北村の心境を思いやれなかったことを反省した。そして、彼の事業が失敗したのは、自分が強硬に採用させたデザインのせいであると落ち込んだ。
三浦は、糸子を慰めつつ、むしろ北村は幸運だったと評した。ここでバレなければ、北村は次々に悪事に手を染めたことだろう。初犯で捕まって反省することが何よりだと言うのだ。それには糸子も納得した。

家に帰ってくると、優子と聡子(安田美沙子)、そして千代(麻生祐未)までが店の前で爆竹遊びをしていた。糸子は腹を立てるが、彼女らはそれが気晴らしだというのだ。刑事が来てからふさぎ込んでいた雰囲気が、爆竹の音で一気に晴れると言う。とても楽しそうだった。

他の二人が家に引っ込むと、優子と糸子だけが残された。
優子は満面の笑みを浮かべ、心を入れ替えたと告白した。明日から再び店で接客をさせて欲しいと言うのだ。オハラ洋装店は優子が生まれた時から存在している。だから優子は、何もしなくても店は存在し続けるのだと甘えていたところがあった。ところが、それは間違った考えだと悟ったのだという。糸子が必死になって守ってきたからこそ今の店がある。明日からは自分も一緒になって店を守っていきたいという決意を表明した。
優子は活き活きとした表情を浮かべ、先に家に入った。

残された糸子は、呆然と彼女の後ろ姿を見送った。
ここで自分もニカッと笑い、「嬉しい」と言えれば良かっただろうにと反省した。しかし、それは糸子にはできない芸当であり、一生無理なことのように思えた。なぜなら自分は、いつも仏頂面だった善作(小林薫)の血を濃く受け継いでいるからだ。
・・・その時、あの世から「ちゃう!」という声が聞こえた。

1959年(昭和34年)10月。
直子の同級生の斎藤(郭智博)が、直子と同じく装麗賞を獲得した。感極まって涙ぐむ斎藤を、直子は自分のことのように大喜びで祝福した。

それからしばらくして、直子は岸和田に帰省した。優子の結婚式に出席するためである。
ところが、直子は結婚式には相応しくないド派手なドレスを着ていた。その姿に、優子は激怒した。相手の親族が見たらビックリ仰天するに違いない、式がぶち壊しになるというのだ。ところが、そんな事に応じる直子ではない。へそを曲げて家を飛び出した。

直子が外へ出ると、店の前に北村がいた。詐欺事件は初犯だったこともあり、すぐに釈放されたのだ。そして、優子から結婚式に招待された。けれども、自分のような前科者が出席しては結婚式を台無しにするのではないかと思い、紋付袴まで着用したのに顔を合わせづらいのだ。
詐欺事件のことを一切知らされていなかった直子は、北村の腕を引いて家に入れようとした。しかし、躊躇する北村は動こうとせず、引っ張り合いになった。

ついには騒ぎを聞きつけた優子が表に出てきた。
北村のことが大好きな優子は、彼が式に出てくれないと嫌だと言って涙ぐんだ。優子を祝福したくても自分は汚れていると思う北村も大声で泣き出した。ふたりは道の真ん中でおいおい泣きながら抱き合った。
糸子は呆れた。これはみんなの同情を引こうとする、北村のいつもの手だと見抜いていたからだ。

結局、直子は普通の振袖に着替えさせられた。まだ隅っこのほうで拗ねている北村は、直子と聡子に両脇を抱えられて式場へ向かった。
その後を、糸子は半分白けながらついていった。

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NHK『カーネーション』第110回

マンガに出てくる料理を全力で再現するブログ『マンガ食堂』が書籍化(amazon)されたと知り、「どーせ、ブログでタダで見れる内容を単にまとめて転載しただけでしょ」と冷たく突き放そうと思ったのだが、目次を見たら半分以上が新作書きおろしであり、「こりゃ買うしかない!『夜行』四百円の駅弁、チョー食いてぇ」と色めき立った当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第110回目の放送を見ましたよ。

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第20週「あなたを守りたい」

1954年(昭和34年)。
優子(新山千春)は仕事で大失敗をした。妊婦(榎園実穂)に無理な試着をさせたために、客が店で倒れてしまったのだ。幸い、優しい客だったのでそれ以上の揉め事にはならなかったが、優子はひどく落ち込んだ。
周囲に慰められ、やっと優子は平常心を取り戻しかけた。

その事件の当日、直子(川崎亜沙美)から電話があった。若手デザイナーの登竜門である装麗賞を直子が史上最年少で受賞したという連絡だった。直子からの電話だけではその重大さはわからなかったが、優子の説明によれば、それはこれ以上ないほどの名誉であり、直子の将来は約束されたも同然であるとのことだ。

実は、優子も東京で勉強しながら装麗賞を目指していた。けれども、優子には叶わなかったのだ。それからというもの、優子はふさぎ込みがちになった。

6月になり、直子の快挙はあちこちで報道されるようになった。糸子(尾野真千子)のところにも新聞記者の取材があったり、直子の洋服について店への問い合わせも多くなった。小原一家の周囲はにわかに騒がしくなった。

周りが賑やかになればなるほど、優子は沈み込んでいった。けれどもまだ、みんなの前では普通にしているよう努力した。
ある日、店に電話があった。優子が出ると相手は直子だった。受賞以来、ふたりが話をするのはこれが最初だった。優子は直子のことを明るく祝福した。将来は約束されたも同然だから、デザイナーとして東京で華々しく活躍するよう言った。自分は地味ながら岸和田の店を守っていくから、故郷のことは気にするなと告げるのだった。

その卑屈な態度に直子は腹を立てた。けれども、優子に対しては何も言わなかった。電話が糸子に代わると、腹立たしさを糸子にぶつけた。電話では明るく振舞っていた優子だが、毎日泣いてばかりいることは想像がつくのだという。優子を甘えさせず、活を入れてくれとだけ言うと、他の用事は何も言わずに直子は電話を切った。

糸子も直子の意見と同じだった。変に慰めたり、直子のことを持ちだしたりするのではなく、優子に対しては普通に接しようとした。
その矢先、北村(ほっしゃん。)が上機嫌で店にやってきた。直子を祝福する花束を持参し、店に飾るよう優子に手渡した。そして、直子に負けないように頑張れと優子に声をかけた。その一言で、これまで抑えていた優子の感情が爆発した。持っていた花束を北村に投げつけ、店を飛び出してしまった。

糸子は北村を喫茶店に連れて行った。
北村は心ない言葉を言ってしまったことを反省していた。しかし、もちろん糸子はそれを咎めることをしなかった。むしろ、周囲が気を使うのではなく、優子が自分自身で乗り越えるのを待つしかない、気を使うのはやめようと話すのだった。

一方、北村は訪問の本当の理由を切り出した。
前年、糸子がデザインして大失敗した既製服がついに全て売れたという報せを持ってきたのだ。糸子の取り分を全て現金で持ってきた。時代遅れの洋服が急に全て売れたという話を糸子は理解しがたかった。不安に思うものの、北村の上機嫌に押されてしまい、それ以上は詳しい話を聞くことができなかった。

北村の前で感情を爆発させてから、優子は完全に不抜けてしまった。落ち込んでいるのを隠そうともせず、接客すらまともにできなくなってしまった。
先の妊婦の母(川上律美)が店にやってきた。事件のことは全く気にしていないどころか、優子の作った洋服が良かったので自分も仕立てたいと言って訪ねてきてくれたのだ。しかし、優子はぼんやりとしているばかりで、先日の謝罪や再訪の礼を言うことはもちろん、注文を聞くことすらできなかった。

見かねた糸子は優子を裏に呼んで説教をした。そして、もう店に立たなくてよいと告げてしまった。

ふてくされた優子は、居間に顔を出した。すると、松田(六角精児)が一人でテレビを見ていた。歌舞伎役者・中村冬蔵(小泉孝太郎)の大ファンである松田は、冬蔵がテレビやラジオに出る時は糸子に特別に許可をもらって、いつもこうして見ているのだ。
優子は、生前の善作(小林薫)と一緒によく歌舞伎を見に行っていたので、冬蔵(当時、春太郎)のことを知っていた。松田とふたりでテレビを見て大騒ぎをした。

それを聞きつけて糸子がやって来た。そして優子を怒鳴りつけた。店に出るなとは言ったが、仕事をサボれと言ったわけではないからだ。
優子はつい口答えをしてしまった。自分は仕事のできる人間ではないのだから、テレビを見る以外に能がないなどと卑屈な返事をした。
糸子は頭に来て、優子の頬を張った。恩師の原口(塚本晋也)が才能を見ぬいて東京に呼んでくれたこと、優子の初仕事である妊婦の洋服を見てその母親が訪ねてきてくれたことなど、どうして自分の能力に自信を持つことができないのかと言って叱った。
それでも優子は聞く耳を持たなかった。取っ組み合いの喧嘩になった。

周囲に止められて、一応騒ぎは収まったが、店の中は暗い雰囲気が漂っていた。

そんな夕方、店に刑事がやって来た。
一昨日、北村を詐欺の疑いで逮捕したという。その件に関して、糸子から話を聞きたいというのだった。

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NHK『カーネーション』第109回

本ドラマのおかげで戦後の女性ファッション史について知識が増えたのはいいのだが、「そういえば、ブラジャーとかっていつ頃から普及したのだろうか?糸子はブラしてるの、ノーブラなの?」とか「悪ガキの間でスカートめくりが流行りだすのはいつ頃?ドラマで取り上げてくれないかな?めくるシーンを放送してくれ!」などといったことばかり考えるようになった下品な当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第109回目の放送を見ましたよ。

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第19週「自信」

風邪で倒れていた直子(川崎亜沙美)は、上京した千代(麻生祐未)の手厚い看病のおかげですっかり回復した。
直子は服飾専門学校の同級生(斎藤:郭智博、吉村:ドヰタイジ、小沢:野田裕成)と一緒に撮った写真を見せながら話をしていた。入学前の直子は、自分自身を天才だと信じて疑わなかった。しかし、同級生に出会って、その考えを改めさせられたという。同級生の3人は、それぞれに豊かな才能を持っており、自分だけが突出しているわけではないことを思い知らされたという。しかし、それは嬉しい発見でもあった。将来、彼らが作る洋服はどんな素敵なものになるだろうかと、ワクワクするのだという。
そうして、千代は岸和田に帰って行った。

優子(新山千春)がオハラ洋装店を手伝うようになって1ヶ月、彼女の仕事ぶりも随分と様になってきた。特に、若い客は優子の方が打ち解けやすいようだった。未だ大事な仕事を任される機会はなかったが、自然と優子の接客の機会も増えていた。

ある日、若い妊婦(榎園実穂)が来店した。妊娠4ヶ月だが、翌月に友人の結婚式に出席するという。それに着ていくサックドレスを希望した。そこまで話を聞いて、優子は糸子(尾野真千子)に取り付いだ。少し話を聞いた後、糸子は優子に全てを任せてみる気になった。優子も力強く、自信満々で仕事をやりたいと答え、そうすることが決まった。
早速、優子が採寸を始めた。夜も遅くまでかかってデザイン画を描いた。途中、糸子が様子を見ようとしても、優子は完璧に描き上がるまでは見せたくないと言う。
優子が悩んでいたのは、妊婦の出産後の体型の変化だった。お腹が大きくても、小さくなっても、どちらでも似合うデザインにしたいと思っていた。しかし、それは難題だった。糸子は、結婚式さえ綺麗に着飾れればいいのであって、その後のことは考えるな、出産した頃には流行が変わっているかもしれないと無視するよう指示した。しかし、完璧主義者の優子は承服しかねた。

デザインが決まり、仮縫いも済んだ。その段階で妊婦を呼び出して調整することとなった。
しかし、その妊婦は酷いつわりのせいで痩せてしまっていた。急遽サイズを詰めなければ、彼女の体調のことを考えると、かなり手早く行う必要がある。糸子は少し心配したが、他の仕事に忙殺されて優子の面倒を見てやれなかった。

やはり、優子の完璧主義の性格が仇となった。立ったまま1時間以上も調整を行なってしまった。やっと仮縫い作業が終わった時、妊婦は気分が悪くなって倒れてしまった。
店の奥の布団で客を休ませた。優子は泣きながら謝り続けた。

しかし、客は優子を責めるではなく、むしろ優しい言葉をかけてくれた。「倒れたのはうちの勝手や。丁寧にやってくれたから時間がかかっただけやろ?」と、優子の仕事ぶりを褒めてくれた。おかげで、それ以上大事にはならなかった。
糸子も気が抜けてほっとした。しかし、それが優子にとって本当に良かったのかどうかは、糸子には疑問だった。むしろ厳しい客にあたってこっぴどく叱られた方がいい薬になったのではないかと思うのだった。

その日、東京の直子から電話があった。
何やらすごい賞を獲ったという。

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NHK『カーネーション』第108回

面識はないけれど、いつもtwitterでカワユイ女優さんの情報交換などバカ話ばかりしている@ichipoohmtという人が、研究者の憧れであり狭き門である科研費基盤Sに採択されているということを知り(研究者をテレビ俳優にたとえれば大河ドラマの主役を務めるようなものであり、朝ドラでセリフのない通行人を演じているような当方とは格が違う)、もうこれからは彼が多部未華子のことを「多部美華子」と書き間違えても容赦のないツッコミは控え(ここではあくまで彼とのやり取りの代表例として多部未華子の件を取り上げただけであり、僕は多部未華子のことを特にカワユイ女優だと思っているわけではない)、謙虚に尊敬をもって遠慮がちに僭越ながらご意見申し上げさせていただくに留めようと思ったのだけれど、やっぱりやめた当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第108回目の放送を見ましたよ。

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第19週「自信」
1959年(昭和34年)。
東京の服飾専門学校を卒業した優子(新山千春)が岸和田に帰ってきた。主席で卒業するほど成績優秀だったため、学校に残って講師になるよう乞われた。しかし、優子は糸子(尾野真千子)に約束した通り、家を継ぐことにした。

優子には、梶村(内田滋)という恋人がいた。ふたりは結婚することを誓い合っていた。そこで優子は、早速梶村を呼び寄せ、家族に紹介した。身なりがよく、ハンサムで優しそうな梶村は、すぐに家族に気に入られた。

しかし、糸子だけはどうにも梶村のことが気に入らなかった。糸子から見ると、ナヨナヨして頼りなく見えたのだ。
梶村は東京にいるが、優子と結婚するために岸和田に住んでもよいと言っている。オハラ洋裁店を継ぐ優子のために、婿入りしてもよいとまで考えている。その代わり、糸子に大阪での仕事の世話をして欲しいと頼んだ。
その態度が糸子には気に入らなかったのだ。成人した男が、自分で苦労して職探ししようともせず、ハナから婚約者の親に仕事を世話してもらうつもりでいるなど言語道断だと切り捨てた。まずは自分で仕事を見つけてくるよう告げるのだった。

糸子もふたりの結婚を妨害する気はなかった。本人同士が好き合っているなら、自分が口を挟まずに結婚させてやろうと思った。しかし、ふたりが障害を乗り越えようとして、互いに絆を深め合う時間や試練が必要だと考えていたのだった。

もちろん優子は面白くなかった。本当は梶村に泊まっていってもらうつもりだったのに、気まずくなったので彼はホテルに宿泊することになった。これでまたしばらく、優子は梶村に会えないのだ。
優子は糸子に対する苛立ちを隠そうともしなかった。優子の気持ちもわかっていて、糸子はあえて厳しくあたった。店に出て、きちんと仕事をするよう命じた。

いくら東京の学校で成績が良かったといっても、岸和田の商店街の洋裁店では勝手が違った。そのことが優子に戸惑いを与えた。たとえば、自分の東京風の言葉遣いひとつとっても、岸和田弁しか知らない地元常連客に気味悪がられるのだ。
糸子には、優子が仕事の面でも躓きそうなのを見て取った。しかし、それも優子の勉強だと思い、介入はしなかった。

その頃、東京で一人で暮らすようになった直子(川崎亜沙美)はひどく体調を崩していた。1週間も熱が下がらず、布団から起き上がることができなくなった。
斎藤(郭智博)から連絡を受け、千代(麻生祐未)が看病のために上京した。そのおかげで、やっと直子は小康状態となった。

優子がいなくなり、直子は自分好みに部屋を改装していた。派手な飾り付けがされていて、千代は目がチカチカした。しかし、直子の揃えた品々を見ていると、千代は亡くなった母・貞子(十朱幸代)のことを思い出した。貞子は自分や糸子たちに珍しい品物を贈るのが好きだった。それらは派手なだけで使い道の分からない物だったが、千代たちは喜んだものだった。
貞子が生きていれば、直子にもいろいろ贈り物をくれただろうに、としみじみするのだった。

直子にとっては、曾祖母にあたる貞子よりも、千代の方が大事だった。
ふたりで布団を並べながら、直子は千代に長生きしてくれと頼むのだった。千代もそれを請け負った。ふたりは涙ぐみながら夜を過ごした。

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40年最終講義40番勝負 (2011年度版) 33番勝負

  1. 北海道大学文学研究科・山岸俊男「ミクロとマクロの40年」link
  2. 山口大学・青島均「私の研究と生命科学の40年 」link
  3. 放送大学・スチュアート ヘンリ「北方に魅せられて40年:イヌイト、アリュート、そしてアイヌ」 link
  4. 東北大学・高橋研「愚直40年 磁性 材料研究・開発 -バルクから薄膜,更にナノ粒子へ-」link
  5. いわき明星大学・清水信行「あれから40年」link
  6. 神戸大学海事科学研究科・北村晃「粒子ビームと40年」link
  7. 神戸大学大学院理学研究科・林文夫「生臭いものに魅了された40年」link
  8. 京都大学理学研究科・小畑正明「岩石を見続けて40年:何を探求してきたか」 link
  9. 慶応義塾大学大学理工学研究科・谷温之「ながれ -流体方程式と40年-」link
  10. 慶応義塾大学理工学研究科・松村秀一「グリーンケミストリーとともに40年」link
  11. 岐阜大学工学部・若井和憲「『考えさせる教育』から始めた40年」link
  12. 広島大学・松尾彰「鐵の上にも40年・・・建築鉄骨とともに」link
  13. 鳥取大学工学研究科・西守克巳「初心を忘れずに・・・研究40年間を振り返って」link
  14. 西南学院法学部・河島幸夫「西南よ、ありがとう、さようなら 研究と教育の40年」link
  15. 九州産業大学工学部・西田勝「学生と歩んだ40年」link
  16. 大阪大学工学研究科・西本和俊「溶接研究四十年」link
  17. 大阪大学工学研究科・出口一郎「漂砂の行方ー波のまにまに海浜変形を見つめて40年ー」link
  18. 大阪大学基礎工学研究科・白旗慎吾「ノンパラメトリックス40年」link
  19. 大阪大学蛋白質研究所・相本三郎「ペプチド化学とともに歩んだ40年」link
  20. 保健センター・太田妙子「箕面学舎の春秋-卒後40年を振り返って」link
  21. 九州大学システム情報科学研究院・和田清「頂は見えたか?: システム同定理論と40年」link
  22. 九州大学応用力学研究所・YOON JONG HWAN「海洋物理研究40年を振り返って」link
  23. 東北大学工学研究科・髙橋研「愚直40年 磁性 材料研究・開発-バルクから薄膜,更にナノ粒子へ-」link
  24. 北海道工業大学空間創造学部・下村憲一「環境と境界をデザインする建築-ものづくり40年を振りかえる-」link
  25. 名古屋大学大学院工学研究科・井上順一郎「応物40年」link
  26. 静岡県立大学食品栄養科学部・酒井坦「酵素との40年」link
  27. 北海道大学工学研究院・井口学「夢と現と ― 材料プロセスと40年」link
  28. 北海道大学工学研究院・加賀屋 誠一「政策システム工学の道を歩きながら考えた40年」link
  29. 名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科・加藤 宏一「顕微鏡を覗いて40年」link
  30. 東洋大学総合情報学部・鳥谷部達「40年をふりかえって」link
  31. 京都大学先端材料機能学研究室・落合庄治郎「出会い そして 複合材料 - 感謝とわくわく研究の40年」link
  32. 東北大学大学院理学研究科・鈴木三男「植物と時を刻んで40年」 link
  33. 静岡県立大学薬学部・宮城島惇夫「私の 40 年の歩み」link
  34. 和光大学・井上輝子「女性学と私-40年の歩みから」link
  35. 東北大学大学院環境科学研究科・松木浩二「岩石力学とともに40年」link
  36. 東京大学大学院農学生命科学研究科・西田睦「水圏生物多様性の進化を探る:分子からのアプローチ40年」link
  37. 東京大学生物生産工学研究センター・山根久和「植物生理活性物質研究40年を振り返って」link
  38. 鳥取大学大学院工学研究科・水本洋「ピコメートルをめざして -超精密位置決め研究40年-」link
  39. 女子栄養大学・佐久間慶子「常に新しい時代に出会えた40年でした」link
  40. 京都大学大学院工学研究科・禰津家久「開水路流れの乱流力学に関する研究-40年間にわたる研究教育活動を回想して-」link

【21:33追記】
記事を最初に投稿したときは33個しかなかったのですが、ラブリーあさりんがクソ意地を発揮し、34-39番を見つけてきてくれました。ありがとうございます!

【21:44追記】
ラブリーハニー♪あさりんが引くに引けなくなり、つりに40個全てのコンプリートを達成してくれました。ありがとう、おめでとう!

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NHK『カーネーション』第107回

明日(10日金曜日)のNHK『あさイチ』のプレミアムトークのゲストは尾野真千子であることをお知らせし、さすがにそっちのまとめ記事までは手が回らないので、各自に録画を推奨する当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第107回目の放送を見ましたよ。

* * *

第19週「自信」
糸子(尾野真千子)の自信は揺らいでいた。

糸子は自分のデザイン・センスが優れていると思い込んでいた。ウェストが締まっていて、スカートがフワリと広がるデザインこそ女性を一番美しく見せる型だと信じて疑わなかった。北村(ほっしゃん。)との共同事業でも、そのデザインの既製服を売ることを強行に主張した。結果、すでに大量の製品を作った。

しかし、糸子の思惑とは異なり、すでに岸和田にも新しい流行の波が押し寄せていた。
近頃では、オハラ洋裁店に来る客のほとんどがサック・ドレス(筒状で、腰のくびれがないデザイン。「袋」の意)を注文するようになった。みな、流行に乗り遅れないようにと、雑誌の切り抜きを持参してやってくる。糸子は客の注文には愛想よく応じるが、内心では完全に打ちのめされていた。

ある日、いつものように北村が夕食を食べに来た。
普段は自慢げに商売の話を吹聴する北村が、今日に限っては関係のない話ばかりしていた。糸子のデザインした洋服が冗談にもできないほど売れていない様子が伝わった。糸子はますます塞ぎこんでしまった。
食後、北村とふたりっきりになって、やっと仕事の話になった。北村によれば、幾つもの問屋を回ったが、流行遅れのデザインを引き取ってくれる所はほとんどなかったという。すでに作ってしまった洋服は丸損だという。糸子は自分の責任を感じ、全て買い取ることを申し出た。しかし、北村も男らしさを見せようとそれには応じなかった。糸子は生地代を負担していることもあるし、今回は互いの痛み分けにしようと言って断った。

糸子が辛かったことは、服が売れなくて経済的損失を受けたことではなかった。サック・ドレスの良さがわからないことが辛いのであり、流行に鈍感になっている自分をひどく恥じた。一から勉強して出直すから許してくれと言って、北村に対して深く頭を下げた。
いつもとは様子の違う糸子に北村も戸惑った。後は、ふたりとも無言で酒を飲み続けた。

夏休みになって、直子(川崎亜沙美)が帰省することになった。その時に、同級生の男の子3人(斎藤: 郭智博、吉村: ドヰタイジ、小沢: 野田裕成)を同伴すると連絡があった。良い意味で若い男が大好きな小原一家では、総出で歓迎の準備が始まった。特に千代(麻生祐未)が猛烈に張り切り、到底食べ切れなさそうな量の料理を作った。
到着した3人はいずれも好青年で、糸子をはじめ小原家一同に大歓迎された。

しかし、家族を驚かせたのは直子の豹変ぶりだった。
緑色のシャツに紫色のパンツを履き、顔には真っ赤な口紅と真っ黒なアイラインを引いたケバケバしいド派手なメイクをしていた。糸子にも一瞬誰だかわからなかったほどだ。食事する様子も、まるでお化けの食事といった風情だった。
あまりの奇抜さに、誰も直子の格好について口を挟むことができなかった。

男の子たちの話によれば、学校で最新技術として立体裁断を習っているという。立体裁断とは、人体に直接布を当てて採寸しながら裁断する方法であり、ピエール・カルダンなどパリのデザイナーの間では主流の手法だという。一方、日本ではほとんど誰も取り入れていないという。そういった情勢も言葉も知らない糸子が、我流で立体裁断を身に付けたと聞いて、彼らはそれを習いたいという。
自分の技術を褒められて、糸子はいい気分になった。すぐに実演してみせた。男の子たちは熱心にメモを取りながら見学した。

その時、直子だけは少し距離を起き、複雑な表情で母の様子を眺めていた。

* * *

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