フジ『北の国から』第19回

「一日3本は胃にもたれるぜ、だけどそこまで頑張ってもあと1日分(昨日放送分)の録画が残っていてゲンナリしてしまうぜ」とひとりごちている当方が、BSフジ『北の国から』の第19回を見ましたよ。

* * *

筏下りの晩。涼子先生(原田美枝子)と一緒にUFOを見に行った螢(中嶋朋子)は、21時を過ぎても帰って来なかった。純(吉岡秀隆)は螢たちの行き先を知っていたが黙っていた。なぜなら、純は宇宙人が涼子に化けていると信じており、その秘密を漏らすと危険だと思ったからだ。しかし、螢が帰ってこないことも心配になったので、純は五郎(田中邦衛)に手がかりを教えた。ベベルイの山奥に行ったはずだと知らせた。五郎はすぐに探しに出かけた。

ところが、螢はなかなか見つからず、23時になっても五郎も帰って来なかった。初めは螢の身を案じていた純だが、だんだん螢に腹を立ててきた。純が行くべきではないと忠告したのにそれを無視して出かけた上、みんなに心配をかけている螢が許せなくなってきたのだ。

いつの間にか眠りに落ちていた純は、玄関の物音で目を覚ました。どうやら螢が見つかったらしい。しかし、中畑(地井武男)やクマ(南雲佑介/現・南雲勇助)たちに捜索を手伝ってもらっただけではなく、警察官も1名出動するまでの騒ぎになっていたようだ。中畑はみんなに今夜のことは黙っているようにと口止めした。警官にもそう伝えたなどと言っている。
五郎は純を呼んで、純にも口外しないよう注意した。今夜のことが公になると、涼子の責任が問われる。涼子は東京でスキャンダルを起こしたこともあり、ただでさえ彼女に批判的な風潮がある。その火に油を注がぬよう、絶対に人に喋ってはいけないと言われた。

寝室でふたりっきりになると、螢は純に心配をかけたことを謝った。しかし、殊勝だったのは初めだけで、すぐに自分が見てきたものを得意げに話し始めた。螢は巨大な葉巻型の母船を見たのだという。涼子が母船に向かって話しかけると、それに答えるように母船から空飛ぶ円盤が飛び出したという。涼子に促されて螢も交信を行うと、母船は同じように答えてくれたのだという。螢は興奮して話した。
純は螢の話を冷ややかな態度で聞いた。一切を信じず、以前に自分が見たUFOも目の錯覚だったと訂正した。そして、UFOを見たなどというと人から馬鹿にされるから、誰にも喋るなと命じた。螢は布団の中で泣き出してしまったが、純は放っておいた。
純は口で言うほどには、UFOを信じていないわけではない。ただ、螢がみんなに迷惑をかけたことをもう忘れ、得意げに話している姿に嫉妬してきつく言ってしまったのだ。

翌日、一家は新しい丸太小屋の建設予定地を見に行った。
純とふたりっきりになった隙に、五郎は螢のことで純をたしなめた。螢は純が信じてくれないと言ってショックを受けているという。螢が純に嘘をつく理由など無いのだから、彼女は見てきたものを正直に話しているはずだという。どうして螢を信じないのだとしかるのだった。
純は頭にきた。五郎がいつも螢の味方ばかりするからだ。

7月28-29日は富良野市街で北海へそ祭りが開催される。五郎は、中畑らと一緒に見物に行こうと言って張り切っていた。そこへ、草太(岩城滉一)が雪子と純に会いに来た。その日の晩、富良野のボクシングジムで草太が新聞の取材を受けるのだという。札幌で行われる草太のボクシングのデビュー戦についての取材だという。自分のいいところを雪子らに見せようと思って誘いに来たのだ。雪子たちは、へそ祭りの前に立ち寄ることを約束した。

しかし、取材は散々な結果に終わった。草太の記事のはずなのに、ジムの会長・成田(ガッツ石松)が一人でインタビューに答えたり、スパーリングで草太を叩きのめしてしまったのだ。雪子や五郎らは見ていられなくなって、へそ祭りの踊りの見物に行ってしまった。純だけはジムに残ってもう少し見学することにした。草太は自分が蔑ろにされていることについて文句を言った。すると今度は成田が怒りだして、ジムはますます混乱した。記者がふたりをとりなす間、カメラマンは退屈になって雑誌を読み始めた。
純は、カメラマンの見ている記事がUFOに関する記事であることに気づいた。純はそのカメラマンに軽い気持ちでUFOが実在すると思うか聞いてみた。するとカメラマンからは肯定的な答えが返ってきた。それを嬉しく思った純は、螢がUFOを見てきたことを話してしまった。純は自分のおしゃべりな性格を自覚しているが、一度話し始めると留めることができなかった。涼子が引率して迷子になったことまで含めて、昨夜の出来事を包み隠さず全て話してしまった。五郎は純のおしゃべりな性格ととても嫌っている。それだけで気が重いのに、何かとても悪いことが起きそうな予感がした。

へそ祭りを見物していた五郎は、踊りのグループの中にこごみ(児島美ゆき)がいるのを見つけた。五郎は我知らず、彼女の姿に見とれてしまった。五郎は街に用事があると言って、中畑に子供たちを家まで送り届けることを頼んだ。
街に残った五郎は、こごみの務めるスナック駒草を訪れた。

筏で一緒になった縁で、スナックのママ(羽島靖子)は五郎の来店をとても喜んだ。五郎と中畑が親友同士だと知ると、ママは中畑の話を始めた。中畑は冬によく来ていたが、最近はあまり来ないという。五郎に、中畑の下の子どもはどうしているかと尋ねるのだった。生まれつき腎臓が悪くて札幌の病院に入院しているという話だった。五郎には何のことだかわからなかった。

そこへ、こごみが五郎の横に座った。五郎が来たことを喜び、前触れもなく抱きついて頬にキスをした。
こごみも中畑の話を始めた。こごみは中畑のことを「悲劇さん」と呼んでいるらしい。いつも悲しい話ばかりするからだという。両親とは生き別れで行方が知れないし、子どもは重い病気で入院している。実の妹は身を持ち崩して札幌のソープランドで働いていると言うそうだ。ところが、こごみはそれらが全てホラであると見抜いていた。自分を悲劇の主人公にすることで女にもてる作戦なのだという。ただ、中畑の語り口が真に迫っているのでママはコロッと騙されているし、こごみも嘘だと知っていながらもらい泣きをしてしまったこともあるという。

さらに、こごみは中畑が語った妻の話も紹介した。中畑が東京にいた頃、妻はよそに男を作って出て行ってしまったという。2人の子どもを押し付けられ、中畑は富良野に帰ってきたと言ったそうだ。そして、前妻の妹が中畑を慕って追いかけてきて、その女性と再婚したのだという。五郎はそれがそっくり自分の話だと気づいた。五郎は、前妻の職業は美容師だったと指摘した。こごみは、中畑から同じ事を聞かされていた。中畑と五郎の話が一致したため、こごみは妻に関する話だけは本当だと信じてしまった。
その世、五郎は泥酔して中畑の家へ行った。深夜にもかかわらず玄関を激しく叩き、一家をたたき起こした。中畑の妻(清水まゆみ)がいるのも構わず、駒草で聞いてきた話をひと通り中畑にしゃべって聞かせるのだった。中畑は、慌てて五郎を追い払った。

それから2日ほどして、小学校の本校から2人の教師が螢を訪ねてきた。螢は涼子とUFOを見に行った日のことを詳しく聞かれたのだという。初めは黙っているつもりだったけれど、教師たちが真相を全て知っていることがわかったので、ごまかすことをやめて正直に答えたのだという。教師たちは、涼子は困った教師だなどと言い合いながら話を聞いていたという。
純は、自分が新聞記者にしゃべったことが広まっていることを悟った。UFOが実在するかどうかよりも、涼子が螢を連れて道に迷ったことが大きな問題になっていることを知った。五郎が口止めした理由が実感としてわかった。

その日帰ってきた五郎はとても暗い顔をしていた。螢や雪子が声をかけても上の空だった。純は辛くなった。五郎が自分に絶望したこと以外、彼の不機嫌の理由がわからなかったからだ。夕食の席で、純は五郎に謝った。涼子のことを新聞記者にしゃべったことを正直に打ち明けた。ところが、五郎はしゃべってしまったことは仕方ないと言うに留まった。そして、食事を切り上げ、表に出て丸太小屋の材料作りを始めた。

雪子が表に出て、五郎をとりなした。純は深く反省しているのでこれ以上怒らないで欲しいと頼み込んだ。
しかし、五郎は別の理由でふさぎこんでいると説明した。五郎は今日届いたという封書を雪子に差し出した。そこには、受理された離婚届のコピーが1枚入っているだけだった。五郎と令子(いしだあゆみ)の離婚が正式に成立したのだ。雪子とも書類上の親戚関係が途切れてしまったのだ。
五郎はそのまま街まで飲みに出かけた。

行き先は駒草だった。ふさぎこんでいる五郎を見て、こごみは明るい口調で奥さんとケンカをして逃げられたのだろうとからかった。五郎は雪子にしたのと同じように、封書をこごみに提示した。中身を見たこごみは言葉を失い、先ほどの軽口を謝った。五郎は気にしなかった。その代わり、中畑の妻の作り話は全て自分のことだと種明かしをした。ただし、妹のことだけはでたらめであると訂正した。

五郎は、こごみに問われるまま、令子との馴れ初めを話して聞かせた。キレイな女性であったこと、別れて寂しい思いをしていること、東京で互いの勤務先が隣同士だったことなどを話した。ある日、令子が五郎を彼女のアパートに招待してくれた。そこで令子はスパゲティ・バジリコを作ってくれた。それまでの五郎の人生では見たことも聞いたこともなかった食べ物だった。五郎は味よりも先に、ハイカラな名称や見た目に感動したと話した。五郎と似たような境遇で生まれ育ったこごみは、その話に共感した。

あまりにふたりが暗い雰囲気なので、ママがカラオケでも歌えを薦めてきた。そこでふたりは「銀座の恋の物語」をデュエットすることにした。マイクを向けられると、五郎はポツリポツリと付き合って歌った。
歌いながら五郎は、令子との結婚披露宴のことを思い出していた。その時も同じ歌を歌ったのだ。列席者から祝福され、五郎と令子も幸せの絶頂だった。その記憶が蘇り、五郎はつい目をうるませてしまった。その様子を見てこごみももらい泣きした。

こごみは五郎を部屋に誘った。スパゲティ・バジリコを作ることを約束した。
こごみの部屋には本がたくさんあった。読書が趣味なのだという。最近は開高健高中正義に凝っているのだという。五郎が高中正義という作家は知らないと答えると、こごみは笑った。高中正義はギタリストなのだ。最近読んだ本は何かと聞かれた五郎は、『じゃりン子チエ』だと答えた。その様子をかわいらしく思ったこごみは、「大好き」と言って五郎に抱きついた。男と女になった。明け方、五郎はそっと家路についた。

家に帰ると、雪子と螢がほぼ寝ないで待っていた。五郎は螢の出迎えを受け、彼女を抱きしめた。すると螢は、五郎の体からラベンダーの匂いがすると指摘した。

そして、その日の朝刊に草太の取材記事が載った。しかし、その扱いはとても小さかった。その代わり、涼子のことが大きく報じられていた。

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フジ『北の国から』第18回

昨夜は朝までカラオケ大会だたのだが、山瀬まみの歌を唄おうと思っても「メロンのためいき」、「スターライト・セレナーデ」、「ホワッツマイケルNo.1」、「ゴォ!」しか収録されておらず、「なんで『可愛いいひとよ』が無いんだよ!」とプリプリしつつも、アラサー女子に請われ♪ニャオニャオ♪などと「ホワッツマイケルNo.1」を歌ってしまった当方が、BSフジ『北の国から』の第18回を見ましたよ。

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空知川筏下りの2日前。大人たちはまるで子どものように筏造りに熱中していた。
五郎(田中邦衛)は吉本辰巳(塔崎健二)と組んで筏を造っていた。しかし、ふたりは筏の安全性よりも目立つことばかりを気にしていた。筏の真ん中に大きな旗を立てることを第一の目標にした。そんな様子を見ていた純(吉岡秀隆)と螢(中嶋朋子)は、五郎の筏に乗る気が失せた。中畑(地井武男)たちの作る、大きくて頑丈そうな筏に乗せてもらうよう頼んだ。中畑の筏に、雪子(竹下景子)らと共に乗り込むことが決まった。

本番前日の朝。
五郎はいじけた。誰も五郎の筏に乗ろうとしないからだ。雪子は大勢が乗るには中畑の筏のほうが適しているなどともっともらしい理屈を述べたが、五郎は納得しなかった。五郎の作る筏は危険だと思って乗らないことを見抜いていたのだ。雰囲気にのまれた螢は、五郎の筏に乗り換えると申し出た。しかし、完全にへそを曲げてしまった五郎はそれを断った。

草太(岩城滉一)は自分の筏の最終調整を行なっていた。彼の筏は水すましのような長い足の先に浮き輪を接続した、独特のデザインのものだった。全体に細身の造りで、バイクのようなタンデムシートの付いた二人乗りのものである。去年はつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)を乗せて出場したが、今年は一人で乗るつもりである。本当は雪子を乗せたいのだが、自分から誘うのは男がすたると思っているのだ。
草太の母・正子(今井和子)は、雪子のせいで草太が不機嫌であることを分かっていた。牧場の牛を増やす予定で人出が足りなくなる、そこで清吉(大滝秀治)と相談して雪子を再雇用したいなどと相談を持ちかけた。しかし、草太は両親がつららに肩入れして雪子を追い出したことを知っており、その申し入れを冷たくあしらうのだった。

その日の夜、凉子(原田美枝子)は分校にいた。分校は廃止になるが、涼子の転任先はまだ決まっていないのだ。決まるまでの間、今までどおりに分校の宿舎に寝泊まりしているのだ。そこへ五郎が訪ねてきた。純と螢が中畑の筏に乗るので、涼子も一緒に乗ってやって欲しいと頼むのだった。

そして、7月26日。空知川筏下り大会の開催日となった。
出発前、草太は中畑の筏の周りをウロウロした。何かと中畑の筏にケチを付けるのだ。子どもである純の目から見ても、いまだに草太が雪子を誘いたがっていることは明らかだった。しかも、見栄を張ってそれをしないでいることまで純にはお見通しだった。

いよいよ川下りが始まった。およそ8km先のゴールに向かう。スタートしてすぐに流れの急なところがあり、そこで衝突したり沈没したりする筏も少なくなかった。草太、中畑、五郎の3艘の筏は無事にそこを乗り越えた。難所を過ぎると川の流れはぐっと穏やかになり、のんびりとした道中となった。ただし、いつしかそれぞれの筏は離れ離れになった。

途中で、草太の筏は浮き輪にしていたタイヤチューブがパンクして動けなくなりリタイアした。

五郎と辰巳を乗せた筏は、スナック若駒の従業員たちの筏と並走していた。若駒の筏にはラジカセが載せられ、軽妙な音楽が大きな音で鳴らされていた。
筏の上では、こごみ(児島美ゆき)がくし切りにしたメロンにかぶりついていた。五郎は、彼女の若い肉体と、果汁で濡れた唇に目を奪われた。五郎と目が合うと、こごみはメロンを一切れ投げてよこした。お礼に、五郎は水に浸けて冷やしていた缶コーヒーを返した。言葉を交わしたわけではないが、親密な雰囲気に包まれた。
その直後、にわかに迫ってきた急流に飲み込まれ、五郎と辰巳は川に投げ出されてしまった。辰巳は岸に泳ぎ着けたが、五郎はいくらか流されてしまった。川から救い上げてくれたのは、駒草の筏だった。五郎はそれに乗ってゴールを目指すことになった。

五郎とこごみは、初めて口を利いた。ふたりとも富良野のあたりで生まれ、一時東京で暮らし、その後帰ってきたという共通点があった。しかも、東京での暮らしぶりを付きあわせてみると、五郎が務めていたガソリンスタンドとこごみが住んでいた下宿が目と鼻の先であったことがわかった。さらに、富良野に帰ってきたのが前年の10月頃だという点まで一致していた。ふたりは意気投合し、急に距離が縮まった。

純らを乗せた中畑の筏は順調だった。
純が川岸に視線を向けると、草むらの中につららがいるのを見つけた。大急ぎで雪子に報せ、雪子もつららの姿を認めた。一方のつららは、自分が見つかったと知るやいなや、草むらの奥に姿を消してしまった。
筏がゴールに着くやいなや、雪子は応援に来ていたつららの母・友子(今野照子)を捕まえ、つららが富良野に来ていることを報告した。友子と兄の辰巳、そして雪子は急いで家の様子を見に帰った。つららの姿はなかったが、彼女の置き手紙が残されていた。それはとても短いもので、元気だから心配はいらないと書かれているのみだった。つららは汽車で帰ると予想できたので、辰巳と雪子は駅に探しに行くことにした。

五郎や雪子とはぐれてしまった純と螢は、涼子先生と一緒に帰路についた。
涼子はUFOのことを話し始めた。涼子と宇宙人との関係に不審なものを感じる(第15回参照)純は涼子の話を警戒して聞き、螢にも目配せやジェスチャーで深入りしないように伝えた。しかし、螢は涼子の話に興味津々だった。涼子によれば、今夜あたりUFOが飛来しそうな予感がするという。少し離れた山に来るはずだから、そこへ案内すると提案した。純は断ったが、螢は一緒に行くことを決めた。

五郎の帰宅は少し遅れた。純は、川でつららを見たことを五郎に知らせた。さらに、置き手紙があり、雪子は辰巳と共に駅に行ったと報告した。すると、五郎もすぐに後を追うことにした。
螢は五郎に今夜のUFO観察の許可を求めた。慌てていた五郎は、螢の話をよく聞かずに許可を出してしまった。

駅に着いた辰巳、雪子、五郎は手分けをして駅の中を探した。しかし、つららの姿は見つからなかった。次の汽車までは時間があるので、一時駅を出て待つことにした。すると、草太が少し離れたところから駅の様子を見守っているのを発見した。辰巳からの連絡を受け、彼も駅に探しに来たのだ。ところが草太は、自分の姿が見つかったことに気づくと、逃げるように喫茶店へ入ってしまった。それを、五郎と雪子だけが追いかけた。

草太はずっとふてくされていた。そして、雪子を非難しはじめた。つららは雪子と顔を合わせたくないはずだから、雪子が駅にいては汽車に乗ろうにも乗れないと言うのだ。大卒のくせに人の気持がわからない女だとなじり、今夜は帰れと命じるのだった。雪子は反省し、彼の言葉に従うことにした。
しかし、横で聞いていた五郎は怒りを顕にした。元々は草太の無責任な態度が引き起こした騒動であるのに、草太が雪子に責任転嫁をしているように聞こえるからだ。草太は全ての非が自分にあることを認めた。それを認めた上で、混乱している苦しい心情を吐露した。自分はバカで単純な男だから、2つ以上のことは考えられないのだと言う。だから、つららか雪子かのいずれか一人のことしか考えられない。前年の秋に雪子が来てからというもの、毎日雪子のことだけしか考えていなかった。せめて今日だけは、雪子のことを頭から追い出して、つららのことだけを考えたいというのだ。

草太は、前年の筏下りの思い出話を話しだした。泳げないから嫌だというつららを説き伏せて、自分の筏に乗せたのだ。急流に差し掛かると怯え、泣きながら草太に抱きついたのだという。
そんな話を聞いて、五郎と雪子は家に帰ることにした。雪子は元気をなくしていた。帰りの車の中で、草太は素敵だ、と一言だけ五郎に漏らした。

草太と辰巳は駅でずっと待っていた。しかし、結局つららは見つからなかった。

そして、同時にもう一つの騒動が持ち上がりつつあった。UFOを見に行った螢と涼子が、21時を過ぎても一向に帰ってこないのだ。

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フジ『北の国から』第17回

昨夜は、過去に某水族館でイルカのトレーナーをしていたという珍しい経歴を持っている女の子(上玉)と食事をし、互いにテレビを見るのが好きだという点で大いに趣味が一致したのだが、『最高の離婚』を除いて見ている番組がひとつも合致せずにしょんぼりした当方が、BSフジ『北の国から』の第17回を見ましたよ。

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夏になった。五郎(田中邦衛)は夏の間に丸太小屋を完成させると張り切っていたが、作業は難航していた。丸太のかみ合わせ部分の細工が思っていた以上に難しく、コツがつかめないでいた。
そんなある日、雪子(竹下景子)が東京から戻って来た。純(吉岡秀隆)と螢(中嶋朋子)はとても喜んだ。

雪子は、五郎にだけ令子(いしだあゆみ)の様子を包み隠さず報告した。2週間前に退院し、今は自宅から通院している。職場の美容室にはたまに顔を出す程度で、本格復帰はしていない。
そして、令子は友人でもある弁護士・本田(宮本信子)を伴って富良野に来ているのだという。この期に、五郎との離婚の手続きを全て片付けてしまう目論見でいるという。雪子は予告していなかったことを詫びつつ、今夕彼女らの宿泊しているホテルで面会して欲しいと頼んだ。

五郎は、一人で約束のホテルのレストランに向かった。そこでは本田が一人で待っていた。令子が席を外している間に、事務的な話をふたりでまとめたいと言うのだ。五郎は応じた。
離婚についての令子側の条件は以下のとおりだった。令子はふたりの子の親権は放棄する。その代わり、令子側からの慰謝料の支払いはない。また、夫婦の財産であるアパートと乗用車の名義は五郎から令子へ移し替えることとする。五郎は特に異を唱えることもなく納得した。令子の署名が書かれた離婚届を受け取り、五郎は証人と共に署名することに同意した。

協議が終わると、令子が現れた。令子らは今夜と明日の2泊するという。令子は、子供たちと最後の別れをしたいと頼んだ。五郎はそれにも応じることにした。
一人で家に帰った五郎は、改まって純と螢に話を始めた。令子と正式に離婚することになったこと、両親の身勝手で子供たちに迷惑をかけたことを謝罪した。子供たちは五郎の下で暮らすことに決まったと告げる一方、子供たちが異議を申し立てるチャンスを与えた。ふたりは大人だから自分で判断しろ、どのような結論になろうと自分は口を挟まないと約束した。子供たちは即答を避けた。
そして、翌日は令子と面会することが決まったと告げた。五郎は外すので、母と3人でゆっくりしてこいと言うのだった。

翌日、純と螢は学校を早退した。五郎はふたりをホテルまで送り届けると、令子に会わずにそのまま去った。親子水入らずだと思っていたのに、本田もついてくることが分かってがっかりした。4人で花畑へ出かけた。ちょうどラベンダーが満開の時期だった。令子はとても楽しそうにしていた。
純の心は少しも晴れなかった。今日を限りに母と縁が切れ、別の苗字になると思うと気が滅入った。一方で、純は密かに決意を固めていた。もし令子が一緒に行こうと言ってくれたら、何の未練もなく母に付いて行くつもりだった。しかし、結局、そのようなことは一言も令子の口からは発せられなかった。
螢は不機嫌な様子を隠そうともしなかった。令子に話しかけても一切口を利かなかったし、手を繋がれても振りほどいて逃げるほどだった。純はこっそりと螢の冷たさを叱った。けれども彼女は全く態度を改めなかった。ついには、予定よりも早く家に帰りたがった。仕方なく、純もそれに従って帰宅した。

その日の夜、五郎は中畑(地井武男)に離婚証人の署名をしてもらった。すると、中畑の家に五郎宛の電話がかかってきた。令子が急に体調を崩し、富良野の病院に運ばれたというのだ。五郎は即座に病院へ駆けつけた。医師の診察によれば、令子は大きな病院で精密検査を受けるべきだという。病状が回復して退院したとは言っているが、医師には病状が良くなっているようには見えないのだという。
病室に入った五郎は、帰京の予定を延期してゆっくり休んでいくことを提案した。しかし、令子は翌日に帰るといって聞かなかった。そればかりか、明日は汽車に乗る前に、黒板家の墓参りに行きたいと言い出した。体調を考慮して思いとどまらせようとするが、令子に子どもと一緒にいれて楽しかったと嬉しそうに言われると、令子の願いを無碍にできなくなってしまった。

翌朝。螢はどうしても同行しようとしなかった。熱が出て具合が悪いと言いはって、毛布をかぶったまま寝床から出てこない。純や五郎は、令子の気持ちを考えろと言って叱るが、螢は言うことを聞かなかった。腹を立てた五郎は、自分が帰ってきたら病院に連れて行くからずっと寝ていろと命じ、怒りながら出かけていった。

墓は村のはずれにあった。純は去年の秋に越してきて以来、2度めの墓参りだった。墓地では雪子が気を利かせて純を引き止め、五郎と令子にふたりだけの時間を作った。
五郎は、螢は熱を出し、自分が家で寝ているよう命じたと弁解した。令子は、螢を悪者にしないための五郎の優しい嘘だとすぐに見抜いた。続いて五郎は、令子に別の病院ですぐにしっかりと検査してもらうよう言った。令子が元気であることが子どものためであると強調した。そして、体のことに関しては、恋人への義理立て(通院している病院は、令子の恋人の縁故)よりもよほど重要なことだと説くのだった。令子は、その場では素直に承諾した。
最後に五郎は、令子が子供たちに会いたくなったらいつでも応じる気持ちでいると伝えた。さらに、自分の方から相談を持ちかけることもあるだろうと予告した。離婚しても、子供たちは永久にふたりの問題だと言うのだ。

その後、駅で令子を見送った。令子は純の手を握り、螢のことをしっかり頼むと言うのだった。純は目で答えた。
時刻通りに汽車は出発した。令子は沈痛は気分で車窓を眺めていた。駅を出てすぐに、空知川の美しい景色が見えた。するとその岸辺に螢の姿が見えた。令子は窓から身を乗り出し、大きく手を振って螢の名を叫んだ。螢は目に涙を浮かべ、全速力で汽車を追いかけた。

五郎と純は、家に帰ると即座に丸太小屋建築の作業を始めた。するとそこへ螢が帰ってきた。五郎は低い声で、螢が勝手に家を留守にしていたことを咎めた。螢はそれには答えず、寝室で毛布に包まってさめざめと泣いた。五郎は作業の手を休めることはなかった。

その日の夜、草太(岩城滉一)が家へやって来た。7月26日に行われる空知川筏下り大会への出場を誘いに来たのだ。玄関から声をかけるが、寝室の螢は返事をしなかった。代わりに、雪子が答えた。草太は、彼女が麓郷に戻ってきたことを知らなかった。突然の再会に驚き、草太は慌てて家を飛び出してしまった。
草太は、表に飛び出したところで五郎の姿を見つけた。どうして雪子のことを教えてくれなかったのかと食って掛かった。五郎にすれば、草太は雪子のことを諦めたと思っていた(第15回)ので何も言わなかったのだ。草太は雪子のことを諦めたわけではないと言い始めた。雪子への気持ちは変わらないでいるが、彼女が何も言わずに帰京したことについて自分がコケにされたと思っているのだ。草太は男の意地や見栄に関わるので、いきなり態度を軟化させるわけにはいかないのだ等という理屈を述べた。

ここに来て、五郎は草太が来訪した理由を訪ねた。草太は、螢が沈み込んでいてかわいそうに思ったので、筏下り大会に誘って元気づけてやろうと思ったと訳を話した。その日の昼、草太は螢に頼まれて、彼女を汽車が見えるところまで連れて行ってやったのだ。そこで螢と令子が川越しに最後の別れをした一部始終を話して聞かせた。螢は泣き続け、自分たちよりも五郎が一番かわいそうだと言っていたなどと報告した。そこまで話して、草太は自分が口止めされていたことを思い出した。しかし、後の祭りだった。
けれども、五郎は螢の気持ちをその時はっきりと知ったのだ。

草太と別れて家に戻ると、純は母を思い出し半べそをかいていた。螢がどうしているか尋ねると、すでに眠ってしまったと不機嫌に答えた。五郎は純に静かに話した。人はみな悲しい思いをするが、その表し方は人それぞれである。泣く人もいれば、涙を決して見せない人もいる。螢も同じで、もしかしたら自分たちよりもずっと辛い思いをしているのかもしれない。その気持ちを送りにいかないという行動で表現したのかもしれない。そう純に言い聞かせるのだった。
その時、螢は令子と一緒に行った花畑で積んできたラベンダーを抱えて寝ていた。顔は涙で濡れていた。

次の日曜日、純と螢の通う分校の廃校式が行われた。2学期から、彼らは市街にある本校へ通うことになる。廃校式には在校生とその父兄だけではなく、卒業生も参列した。五郎や中畑も卒業生として参列した。しかし、多くの卒業生は札幌や東京などに出て行ってしまっており、全体の3分の1ほどしか集まらなかったということだ。

夏休みに入り、すぐに空知川筏下り大会だ。数日前から、人々は張り切って筏の準備を始めた。純と螢は、中畑木材の作る筏に乗せてもらう予定となった。

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フジ『北の国から』第16回

「『おしん』の方はまとめ記事を書くどころか、録画を消化する余裕もありません」と弱音を吐くと同時に、「このドラマは俺の青春時代とかぶるから捨ててはおけないんだよ!」と強く主張する当方が、BSフジ『北の国から』の第16回を見ましたよ。

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杵次(大友柳太朗)が橋から転落死した。
孫の正吉(中澤佳仁)以外の親族はみな麓郷を離れ、札幌や旭川に暮らしている。集落の者達が総出で葬式の準備を手伝った。

正吉以外の子供たちはいつものように登校し、通常の授業が行われた。ただし、純(吉岡秀隆)は勉強が手につかず、杵次のことばかり思い出していた。昨日の杵次は一日中酔っていた。泥酔したまま父兄参観に現れ、夜に純の家にふらりと現れた時もかなり酔っていた。18年間飼っていた馬を手放したことが杵次にはかなり堪えたのだろうと想像できた。

放課後、純や螢(中嶋朋子)、凉子(原田美枝子)は正吉の家に行った。すると、しばらく前から正吉の姿が見えないと言って騒ぎになっていた。大人たちは葬儀の準備があるため、正吉を探してばかりもいられない。純と螢、涼子が探しに行くことになった。
手がかりは全くなかったが、螢には心当たりがあった。螢について行くと、森の奥に大きな木があり、その上に小屋が備え付けられていた。その中で正吉がうずくまっているのが見えた。涼子が登り、男の子なのだからしっかりしろと厳しく声をかけるのだった。

通夜の間、純と螢は家で留守番をしていた。
純は、木の上の小屋を螢が知っていた理由を問い詰めた。すると、純が東京に行っている間に杵次に連れてきてもらったことがあるのだという。寂しくなったら、ここで一人で泣くといいと言って教えてくれたのだ。それで、正吉がいると思ったのだという。ただし、杵次から秘密にしておくよう命じられていたので、今まで純には教えなかったのだという。

通夜は杵次の家で行われた。久しぶりに麓郷へ帰ってきた杵次の息子たちは、通夜というよりは同窓会にでも来たかのように、古い知り合い達と愉快に酒を酌み交わしていた。草太(岩城滉一)のボクシングの試合日程が決まったと聞くと、みなで応援し盛り上がった。会場の隅にいる草太の父・清吉(大滝秀治)に対しても、自慢の息子で羨ましいなどと声をかけるのだった。

しかし、清吉はその場の雰囲気に溶け込めず、居心地が悪かった。そっと母屋を抜けだして、馬小屋を見に行った。昨日の朝まで使われていた馬小屋には、売られた馬の痕跡があちらこちらに残っていた。五郎(田中邦衛)も馬小屋に現れ、前夜の杵次の様子を話した。そして、酔った杵次を自転車で一人で帰してしまったことを悔いた。
清吉は杵次の馬について話した。あの馬が最後に活躍したのは、遭難した純と雪子(竹下景子)の乗用車を見つけた事件だ(第10回)。家畜馬は機械や車に活躍の場を奪われたというのに、その車を助けることが最後の仕事だったとは皮肉なことだとつぶやくのだった。

そこへ、やっとみどり(林美智子)が帰ってきた。馬小屋にいた五郎と清吉が出迎えた。
みどりは、息子の正吉を杵次に預け、自分は旭川の飲み屋で働いているのだ。しばしばアパートに帰らないことがあり、居場所が掴めないことも多い。あいにくこの日もなかなか連絡がつかず、杵次の訃報を知らせるのが遅れたのだ。
みどりはサバサバした表情で、「いつかこうなると思っていた」と五郎に一言漏らすのだった。

翌日、杵次は焼かれた。杵次の家ではごちそうが振舞われ、弔問客が集まった。
純は生まれて初めて葬式に参列した。しかし、想像していた葬式とは全く様子が違うので面食らった。泣いている人はおらず、祭りの晩のように誰もが楽しそうに騒いでいるのだ。
純は正吉を話した。正吉によれば、杵次は五郎のことを良い奴だと言って褒めていたのだという。また、樹上の小屋は、みどりが家を出て行った時に杵次が作ってくれたということを教えてくれた。正吉が寂しがって泣くと、よく杵次が連れて行ってくれたのだという。

母屋では、杵次の息子たちが父の悪口を言い合っていた。杵次がみなに嫌われていたせいで、自分たちも散々苦労したというのだ。しかも、最近は土地の境界をごまかしたといって、裁判にもなっていた。大胆に奪うならまだしも、ほんの1尺(約30cm)ずつ杭を動かして徐々に侵食するというケチな盗み方だったという。みなでバカにして笑い合っていた。

それを隅で聞いていた清吉が口を挟んだ。
息子たちは杵次の気持ちを少しも分かっていないと言い、食って掛かった。杵次はこの辺りの土地の開墾を行った立役者だった。しかも、現代のような機械やエネルギーも無い時代にそれを行ったのだ。大きな石や木の根に阻まれ、ほんの少しの土地を拓くのにも多大な時間がかかった。そういう苦労をした人間の土地に対する執着心や大切さを分からない人間が軽々しい口を聞くなと言うのだ。
場がしらけた。

息子たちは話題を変えた。馬の話になった。いつまでも手元に置いて売りどきを逃したから、安く買い叩かれたに違いないなどと言って、またしても杵次をバカにした。
清吉はもちろん黙っていなかった。昔の杵次は「仏の杵次」と呼ばれるほど尊敬される人物だった。それが、晩年はケチでズルいと悪評ばかりになってしまった。その理由は、家族や集落の住人たちが杵次の多大な苦労や功績を忘れてしまい、尊重することをしなくなったからだと主張した。人はみな杵次の苦労を忘れたのに、馬だけは分かち合った苦労を忘れていなかった。そんな無二の相棒である馬を手放した杵次の気持ちを考えろ。そこまで言うと、清吉は涙を流し、言葉に詰まってしまった。
場は完全に冷えきってしまった。いたたまれなくなった草太は、清吉を抱えて家に帰ってしまった。

純と螢は五郎を残して先に帰った。純は、その晩ずっと清吉の言葉が脳裏に焼き付いていた。馬を手放した時の杵次の心情を思うと胸が苦しかった。

いつしか眠りについた順だったが、夜中に目を覚ました。2階の寝室から1階を覗くと五郎が帰宅していた。そして、純の隠し持っていたヌード写真集をストーブの火で焼いているのが見えた。純は自分の隠し事が全てバレてしまったことを悟った。
純は降りて行き、五郎に向き合った。そして自分が病気になったと告白した。女性が気になり、胸や足、尻などから目を話すことができなくなった。頭が狂う病気になったと真剣に話した。女性のことを考えたり、朝起きた時に陰茎が勃起しているという症状も訴えた。
五郎は一瞬驚き、次に微笑ましく思った。しかし、すぐに真剣な表情を浮かべ、純によく話して聞かせた。純の訴える症状は全て正常なことで、大人の男なら誰でもそうなると説明した。ついに純が一人前の男になったといって祝福した。そして、これからは純を一人前の男として扱うし、純も一人前の男として恥ずかしくない振る舞いや働きをしろと説いた。純は納得し、自分の成長を嬉しく思った。

五郎は、これまで純に秘密にしていた計画を打ち明けた。まず、畑を作って作物を作ることを説明した。純は手伝うことを約束した。
続いて、丸太小屋を自分たちで作ると話した。純には、荒唐無稽な話のように思えた。大工でもない自分たちに家など作れるはずがないと思うのだ。しかし、五郎は自信満々だった。その意気に圧され、純もその気になってきた。翌朝、螢にも話してやった。螢も大喜びした。

その日から、早速3人は畑作りを始めた。作業をしていると、夕方にみどりと正吉が食材を持って訪ねてきた。他の親族たちは帰ってしまい、ふたりで寂しいから一緒に夕食を食べようというのだ。楽しい団欒を終え、子供たちは連れ立って外に遊びに出かけた。残った五郎とみどりはふたりで酒を酌み交わした。

みどりと五郎、そして中畑(地井武男)は幼馴染みである。みどりは幼馴染みの存在は良いものだとしみじみ話した。中畑は葬式の準備から後片付けまで、親身になって手伝ってくれたのだという。材木店を営む中畑は、杵次が家に蓄えていた古ぼけた木材も全て買い取ってくれたのだという。みどりはそれにも随分と助けられたという。
五郎は、自分がその木材を譲り受け、丸太小屋を作る計画があると打ち明けた。みどりは、自分の実家にあった材料を使い、幼馴染みが自宅を作ると聞いて、心が暖かくなった。幼馴染みはありがたいと、改めて話すのだった。

みどりは、五郎の別れた妻・令子(いしだあゆみ)のことを聞いた。五郎は嫌がることなく、令子の現状を端的に説明した。原因不明の激しい腹痛で入院していること、五郎以外の恋人がすでにいること、その恋人の縁故の病院に入院しており、そこの評判は悪いのだが、恋人の立場が悪くなることを懸念して転院を断っていることまでを話した。
みどりは、令子のことをいい女だと評した。自分が苦しくても男を立てるいい女だという意味だ。そして、それだけのいい女なら五郎が惚れるのも当然だと付け加えた。

そこまで話すと、みどりは急に立ち上がり、何の前触れもなく帰ると言い出した。正吉を連れ、一目散に帰って行った。

翌日以降、喪中の正吉は学校を休んだ。葬式の後片付けで大変だからといって、純は正吉の家に遊びに行くことも禁じられた。純は素直に言いつけに従った。
そんなある日、涼子先生が正吉は転校したと発表した。前夜遅くに、遠くの町に向けて発ったのだという。涼子は、別れを言わずに去ることを謝るという正吉の伝言を皆に伝えた。
純は強いショックを受けた。慌てて螢と共に正吉の家へ向かったが、すでに戸には板が打ち付けられ、家は無人になっていた。馬小屋には清吉が様子を見に来ていた。清吉は、麓郷にまたひとつ廃屋が増えたと嘆いていた。

その晩、純は夢を見た。正吉と樹上の小屋で楽しく遊んでいる夢だった。夢は楽しいのに、目を覚ますと純の目は涙でいっぱいだった。

5月26日。畑に撒いた大根の種が一斉に芽を出した。8月には収穫できるという。純はとてもワクワクした。麓郷に来てから初めて感じるような高揚感だった。
夜には、中畑らの仲間が集まり、五郎の丸太小屋の計画を話し合った。誰も丸太小屋建築の経験はないが、外国の書物を取り寄せ、図を自分たちで解釈して組み立て方を議論した。大人たちは工作用の木材で模型を作りながら組み方を研究した。出来上がった模型はとても小さかったが、順や螢には夢の様な家に思えた。

* * *

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フジ『北の国から』第15回

今日は思わず頬が緩むようなちょっと嬉しいことが何件かあったのだけれど、それと同じくらいの量だけ眉をひそめるような嫌な出来事もあったので、結局のところ気持ちをどこらへんに落ち着けていいのかわからなくなってしまった当方が、BSフジ『北の国から』の第15回を見ましたよ。

* * *

純(吉岡秀隆)、螢(中嶋朋子)、正吉(中澤佳仁)の3人はUFOを目撃した。さらに、UFOが飛び去ったところから担任の凉子先生(原田美枝子)が現れるのを見た。3人は、宇宙人が涼子に化けたのだと考察した。自分たちに危険が及ぶのを避けるため、この事件は3人の秘密とした。同時に、学校での涼子の動きをよく観察することに決めた。

ところが翌日、本校(純たちが通うのは分校だ)から立石という男性の代理教員が来た。涼子は急用で旭川に行ったのだという。立石先生は、次の月曜日に臨時の父兄参観と懇談会を行うと発表した。本校から校長が来て、父兄に説明したいことがあると言うのだ。
3人は涼子が休んだことを不審に思った。本物の涼子は宇宙人の手ですでに殺されたか、連れ去られたのだろうと思った。

中畑(地井武男)は五郎(田中邦衛)を自宅に招き、五郎宛の封書を手渡した。それは匿名の怪文書であり、涼子先生を糾弾するものだった。中畑の娘(塩月徳子)も同じ学校に通っているため、中畑も同じ内容の手紙を受け取っていた。そこには、2年前の涼子に関する新聞記事が同封されていた。受け持ちの小学5年生が、涼子からの体罰を苦にして飛び降り自殺したという内容だ。消印は東京であった。涼子の転任先を調べ、そこの父兄名簿まで入手して送りつけるという執念深さにふたりは驚くのだった。
中畑は初耳だったが、五郎は本人から直接話を聞いていた(第3回)と打ち明けた。そして、過去がどうであれ、今の涼子は良い教師だと言って擁護した。さらに、匿名の送り主の卑怯さに怒り、怪文書を破り捨てた。中畑も同意し、倣った。

放課後、純たちが川で遊んでいると、森家の新妻の姿を見かけた。それは、正吉が森家からの不思議な声(泣いているような、笑っているような声)を聞いて陰茎が勃起したと言っていた新妻である。彼女はズボンをまくって、川の中で足を洗っていた。純は、彼女の白い足に見とれた。不思議と動悸が激しくなった。見てはいけないと思いながら、どうしても足から目を話すことができなくなった。
その後、純は五郎に連れられて富良野の街へ出かけた。その道中もずっと新妻の足のことが気になっていた。街に着くと大勢の女性がいた。すると今度は、彼女らの胸ばかりが気になって、視線が釘付けになった。女性の事を考えてはいけないと思えば思うほど、気になって仕方がなかった。ついに、成人映画館のポスターのヌードを見てのぼせ上がってしまった。

その日の夜、正吉の祖父・杵次(大友柳太朗)の発案で、分校に子どもを通わせる4家族(五郎、中畑夫婦、杵次、小学1年生の娘の両親)の会合が開かれた。全員のところに怪文書が届いていたし、その日涼子が旭川の教育委員会に呼び出されたことも知っていた。初めから杵次は酒にひどく酔い、荒れていた。開口一番、涼子は教師失格だとがなりたてるのだ。五郎が済んだことだととりなしても、「隠していたことが気に入らない」などと言って、結論ありきの揚げ足取りばかりした。1年生の母親も、問題のある教師が派遣されたことは問題だと主張し杵次に同調した。話し合いは荒れ、お開きとなった。
中畑は五郎に杵次の噂話をした。最近、土地を巡る裁判で負けて荒れているのだという。大切にしていた馬(第10回では純らの命も救った)も手放すことになったのだという。

五郎は精神的に疲れて帰宅した。すでに眠っている子供たちの顔を見ることが癒しだった。
五郎は、純のボストンバッグがなんとなく気になった。手にとって調べてみると、中にヌード写真集が隠してあるのを見つけた。突然のことに、五郎はどうしていいかわからず、ひどく困惑した。

その頃、学校では旭川から戻ってきた涼子と立石が話し合いをしていた。立石によれば本校では涼子に同情的であり、事件のことは気に病むことはないと慰めるのだった。ただし、子供たちと深い関係になり過ぎないようにと優しく忠告するのだった。近年、放課後や休日の課外活動に教師が関わることですら問題視する風潮があることを引き合いに出し、涼子も気をつけるよう諭すのだった。涼子は黙って聞いていた。

次の日、涼子は復帰した。しかし、UFOを目撃した3人は警戒を解かなかった。涼子の一挙手一投足をよく観察し、不審な点が無いか調べた。真剣に取り組む螢や正吉とは違い、純は気が散ってしかたなかった。というよりも、涼子の胸ばかりが気になって仕方なかった。涼子のことを変な目で見ることを心の中で謝りつつ、純は自分が妙な病気になってしまったと心配するのだった。

五郎の方も、純がヌード写真を隠し持っていたことにショックを受けていた。しかし、どのように対応していいかさっぱりわからなかった。草太(岩城滉一)の母・正子(今井和子)なら数人の息子を育てた経験を話してくれるだろうと思い、相談に行った。しかし、五郎はそのことを話すのが恥ずかしくて、モジモジしてしまった。モジモジしている間に、正子は話も聞かずに去ってしまった。それどころか、正子はどこか機嫌が悪いように思えた。

直後に、夫である清吉(大滝秀治)が近寄ってきた。五郎に相談があるので、夜に富良野の店で会いたいという。しかも、ふたりで会うことには内緒にして欲しいと言うのだ。内容も今は話せないという。五郎は少し不思議に思ったが、自分も純のことを相談できると思い約束した。
はたして、清吉の相談というのは、草太と仲違いしたということだった。雪子(竹下景子)が東京へ突如帰ってしまったことが問題なのだという。姉・令子(いしだあゆみ)の看病のために帰京したというのが真実であるのに、草太は清吉が暗躍して追い返したと思い込んでいるのだ。このままでは、跡継ぎの草太が家を出て行ってしまうかもしれないと心配している。そもそもは、正子が雪子を鼻白んで清吉になんとかするように頼んだにもかかわらず、正子まで草太の味方についてしまい、清吉は家の中で孤立しているというのだ。なんとか、五郎に誤解を解いて欲しいというのが願いだった。
五郎は、純のヌード写真集のことを相談した。自分のことで頭がいっぱいの清吉は、的確な助言ができなかった。小さい頃の五郎の早熟さに比べれば、純は遅いなどとからかうばかりだった。五郎の悩みは解決しなかった。

その足で五郎は、草太の通っているボクシングジムを訪ねた。草太は五郎の顔を見ても機嫌が悪いままだった。五郎は、雪子は看病のために帰っただけで他意の無いことを丁寧に説明した。しかし、草太は頑なな態度を崩さず、「大人は信用しない」と言って五郎を切り捨てた。五郎は清吉と結託していると信じて疑わないのだ。
草太は8月に初めてボクシングの試合に出場するという。4回戦という低い地位の試合だが、自分が人に認めてもらうにはそれしか無いのだという。試合に出て、少しでも有名になれば、周りの女達も自分を見くびったりしないだろうと言うのだ。草太は、雪子が黙って東京に行ったまま、音信不通であることを根に持っているのだ。草太が世話をした牧場の仕事を辞める時も、何の相談も挨拶もなかったと言うのだ。
黙って聞いていた五郎だったが、堪忍袋の緒が切れた。五郎は草太に掴みかかり、彼がつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)に対して行った非道な仕打ちを指摘した。それに対しては、草太も弁解の余地がなかった。反省している態度を見せた。しかし、それを償うにはボクシングに撃ちこむしか無いと言うのだった。

そして、父兄参観の日になった。授業は滞り無く、平穏に進んでいた。父兄も落ち着いて参観していた。
ただし、正吉の家族だけは誰も来ていなかった。同居家族は祖父の杵次だけなのだが、彼が姿を見せないのだ。純が正吉に尋ねると、今朝杵次は馬を売り、そのまま飲んだくれているというのだ。そんなやり取りをしていると、杵次が学校に姿を現した。手には一升瓶をぶら下げ、足元もおぼつかないほど泥酔していた。
授業が終わると、涼子に替わって立石が子供たちと父兄に向かって伝達事項を話し始めた。本校の校長が来るはずだったのだが急用で来れなくなったと断った。続いて、学校の統廃合について説明しようとした。今の分校は9月に廃校になり、本校に吸収されるというのだ。

突然、杵次が怒鳴り始めた。例の怪文書をちらつかせ、声を出して読めと言って涼子に付きつけた。立石が笑顔で割って入り仲裁しようとしたが、杵次の勢いは止まらなかった。子供たちが聞いているのにも配慮せず、涼子が児童を殺したというのは本当か、と問い詰めるのだった。

混乱を収集させるために、涼子は怪文書の内容は真実だと認め、全てを説明しはじめた。
2年前、新人教師だった涼子は東京都世田谷区の小学校で5年生を受け持っていた。そのクラスには成績優秀で学級委員で人気者の児童がいた。ただし、そんな彼にも問題があり、クラス中を味方につけて、成績の悪い子どもをみなで馬鹿にするようになったのだ。涼子はそれをやめさせるために、みんなの前でその子を叱った。しかし、それが彼の自尊心を傷つけ、涼子に対して強く反抗するようになった。涼子の小さなミスをあげつらったり、クラス中をけしかけて涼子をバカにしたりした。児童の親とも話し合ったが理解を得られなかった。ついに、涼子は我慢の限界に達し、授業中に彼を殴ってしまった。その夕方、その子は涼子に抗議する遺書を残し飛び降り自殺したのだ。

五郎は声を上げて涼子の話を止めた。中畑とふたりで杵次を教室から外へ追い出した。教室は大混乱だった。子供たちは校庭に出され、大人たちだけで話し合いの場が設けられた。校庭の子供たちは、涼子がかわいそうだと同情した。
純も同じ意見だった。しかし、純は別のことでも心を痛めていた。杵次は父兄会に参加せず帰った。酔った杵次に肩を貸し、正吉もすでに帰っていた。先ほどの騒ぎの最中、正吉はずっと目に涙を浮かべていたのだ。純はそんな正吉がとてもかわいそうだと思った。

その日は、夕方から雨になった。学校から帰ってきてからというもの、五郎は何もしゃべらなかった。夕食が終わり、21時ころになっても家の雰囲気は暗く沈んでいた。

そんな中、ふらりと杵次が訪ねてきた。傘をささない代わりに、またしても一升瓶を抱えて泥酔していた。雨の中、自転車で来たのだという。自転車で来た理由は、馬を今朝売ってしまったからだと説明した。
杵次は、あの馬は今頃は肉にされているだろうと話し始めた。昨晩、最後の晩餐としてごちそうを食べさせてやった。いつもと違う行動に、馬は自分の運命を悟っていたのだという。今朝馬小屋から出すと、急に立ち止まって動かなくなった。杵次の肩に何度も首を擦りつけ、目に涙を浮かべていたのを見た。馬は存分に別れを惜しむと、今度は自分から歩き出してトラックの荷台に収まったのだという。
杵次にとって、あの馬は女房同然だったという。18年間苦労を共にした仲だ。それなのに用がなくなったといって、杵次の勝手で売ってしまった。馬は杵次のことを信じていただろうに、裏切られた馬の気持ちを考えるとやるせないのだという。
そこまで言うと、杵次は再び雨の中を自転車で帰って行った。五郎が車で送ると提案しても無言のままだった。純と螢も暗い気持ちになった。

翌朝、雨は上がっていた。
純と螢が通学路の橋へ差し掛かると、大人たちが集まって騒然としていた。杵次が自転車ごと川に転落していた。すでに息をしていなかった。純と螢は走って家へ帰った。

* * *

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フジ『北の国から』第14回

最近、伊丹十三のエッセイ集である『ヨーロッパ退屈日記』やら『女たちよ!』やらを読んでいるわけだが、クールでダンディでちょっとガンコなんだけでユーモアのある著者の様子が本作の吉野によく重なるなぁと思う当方が、BSフジ『北の国から』の第14回を見ましたよ。

* * *

純(吉岡秀隆)と雪子(竹下景子)が東京の令子(いしだあゆみ)を見舞って4日目。ふたりが病院に行くと、令子は薬で眠ったままだった。雪子は純を残して、病室を後にした。

雪子は吉野(伊丹十三)とふたりだけで会いに行ったのだ。
雪子は、令子の病状が良くならないのは入院している病院に問題があると考えていた。その病院は吉野の縁故であり、令子が彼に気兼ねして転院したがらないことも知っていた。それで、まずは吉野を説得する必要があると考えたからだ。
吉野は院長と直接話してきた結果を伝えた。令子の病状については可能性を全て考慮して検査をしている。それでも病原が見つからないので、神経や精神の問題であると考えるのが妥当だという。病院側としても、令子の転院を妨害しているわけではないし、雪子と令子がどうしても希望するなら送り出すつもりではある。そういったことを、吉野は嫌味混じりに説明した。
吉野は話題を変え、純に言及した。翌日、純は北海道に帰ることになっている。純と別れることで、令子の病状が悪化するのではないかと詰め寄った。令子のためにも純を東京に引き止めておくようにと責めるのだった。しかし、雪子はそれには何も答えなかった。

純は病室でじっと令子の寝顔を見ていた。
令子が目を覚ました。純の姿を見つけると、今見ていた夢の話を始めた。夢の中にも純がいて、彼のお気に入りの5段変速ギア付きの自転車に乗っていたのだという。昔純がやっていたように、曲乗りばかりするので令子はハラハラと見ているという夢だったという。東京時代に純が乗っていたその自転車は、今でもアパートの物置にしまってあるという。そこまで喋ると、令子は再び眠りに落ちた。

令子が眠ってしまったので、純はアパートに戻った。そして、令子が話していた5段変速自転車を物置から引っ張りだした。半年放置されていただけで、自転車はすっかり錆びてみすぼらしくなっていた。しかし純は紙やすりで錆を落とし、油をさして、愛おしそうに整備した。アパートの前で作業を行なっていると、同級生だったタカシが迎えに来たので、ふたりで自転車に乗って出かけた。

以前のタカシは、純と同じように変速ギア付きのスポーツタイプの自転車に乗っていたはずなのに、今日はもっとモダンな自転車に乗っていた。聞けば、お年玉を貯めて新調したのだという。もう変速ギア付きの自転車は流行遅れだから乗らないのだという。タカシの家に行くと、純の知らないプラモデルがたくさんあった。例えば、スペースシャトルというものを見せられたが、純にはピンとこなかった。
それからタカシは、高校生の兄が隠し持っているというヌード写真集を見せた。純は初めて見る女性のヌード写真に驚き、罪悪感を抱いた。タカシは餞別だと言って強引に純に引き渡した。純は返そうとするが、タカシは力づくで押し付けてくるのだった。しばらく押し問答が続いたが、その騒ぎが誰かに見つかっては困ると思い、純は渋々もらって帰ることにした。
タカシの家を出る時、彼の古い自転車が打ち捨てられているのが見えた。タカシによればまだ使えるが、流行遅れだから乗らないのだという。
また、渡されたヌード写真集はカバンの底板の下に隠した。帰りの飛行機の手荷物検査場で見つかって叱られるのではないかと思うと、純は心配でならなかった。

アパートでヌード写真集をカバンに隠し終えると、純は令子の病室に戻った。令子は、翌日に純が帰ることをしきりに残念がっている。病気が治ったら北海道に遊びに行きたいなどと言うのだ。
それを聞いていた純は、令子が以前に麓郷へ来たこと(第9回)を指摘した。令子は隠していたつもりだろうが、純も螢も気づいていたと告げた。パジャマに令子の匂いがついていることに螢が気づいたのだと説明した。令子は涙ぐんだ。
純は、令子は純が東京に残る事を望んでいるか質問した。令子は肯定も否定もせず、純の方こそ東京に残る気があるのかと質問した。ところが、純がその答えを言う前に、雪子が病室に戻ってきて会話は打ち切りとなった。

病院を辞した純と雪子は、喫茶店で夕食を摂った。
純は、明日の飛行機には乗らないことを雪子に表明した。五郎(田中邦衛)は怒るだろうが、病気の令子を残しては行けないと言うのだ。また、令子に情が移り、五郎との間で板挟みになるくらいだったら、東京になど来るべきではなかったと後悔の念を表明した。
その時、雪子は冷淡だった。五郎は怒らないから、純の好きなようにすればいいと冷たく告げた。むしろ、五郎はそうなることを予期していたと言う。雪子の態度に怯えた純は、雪子に許しを請うた。けれども雪子は「私には関係ないわ」とさらに冷たく突き放すのみだった。

その晩、純は五郎へ手紙を書いた。まずは、その日起きた当たり障りの無い内容を綴った。友達のタカシとキャッチボールをしたり、自転車を乗り回したりしたことの報告だ。

手紙を書きながら、純は一家で東京に住んでいた時の事を思い出した。
当時、純の友達の間で変速ギア付きの自転車が流行っていた。ところが、純は自転車を持っておらず疎外感を抱いていた。令子に相談し、買ってもらう約束を取り付けた。ところが、その話を聞いていた五郎が、ゴミ捨て場からみすぼらしい自転車を拾ってきた。自分で修理してペンキを塗り直し、それを純に与えた。純は大いに不満だったが、自転車が無いよりはマシだと思い、それに乗って仲間の輪に入った。
ところがある日、警察官が家に訪ねてきた。自転車の元の所有者から訴えがあったので、回収するという。事を穏便に済ませたい令子は即座に謝って差し出した。しかし、五郎は納得がいかなかった。1ヶ月以上もゴミ捨て場に放置されており、そのままでは到底使用できない自転車だったのに、今頃他人が所有権を主張するのはおかしいと言って警官に食ってかかった。さらに、流行遅れだからといって、まだ使えるものをすぐに捨ててしまう風潮も気に入らないなどと自説を打った。警官は怒りだすが、令子が必死に謝ってその場はなんとか収まった。そして、それから何日かして、令子が真新しい5段変速ギア付き自転車を買ってくれた。

その時の純は、五郎は物事の分からない田舎者で、話が分かるのは都会的な令子の方だと思った。
しかし、不思議なことに、今では五郎の気持ちがわからないでもなかった。それというのも、麓郷での半年間の生活を経験したからだ。その生活は、全ての必需品を自分たちで作り出し、様々な工夫を凝らして営んでいるものだ。水道や電気まで自給自足している。純自身はそんな生活に不満が多いし、ほとんど何も手伝いはしなかった。それでも、五郎の行き方のわずか一部でも理解し始めていることを自覚した。

純は、五郎に宛てて書いていた手紙を反故にした。そして、当初の予定通り北海道へ戻ることを決めた。
純は自分で自分の気持ちがわからなかった。五郎との約束はそれほど重要なわけではないし、東京での暮らしが性に合っているのは間違いないし、病気の母のそばにもいたい。しかし、なぜだか無性に麓郷へ帰らなくてはならない気がした。
令子に会えば決意が揺らぐ。それが分かっていたので、純は翌日母には会わず、直接空港へ向かった。令子に、吉野のことが嫌いではないと伝えられなかったことだけが心残りだった。

麓郷に帰って1週間ほどで、純は元の生活に戻った。令子のこともほぼ気にならなくなった。純の留守中、螢と五郎はUFOを見たという。純はあまりにバカバカしくて、まじめに取り合わなかった。

純は、東京から持ち帰ったヌード写真集を正吉(中澤佳仁)とふたりで閲覧した。ふたりは、女性の裸を見ると陰茎が勃起することについて話し合った。その現象については気づいていたが、どうしてそうなるのかふたりにはわからなかった。正吉が杵次(大友柳太朗)に質問したところ、「フキノトウが春に大きくなるのと同じ事だ」という返事があったという。純と正吉には意味がさっぱりわからなかった。
さらに正吉は、自分の経験談を話し始めた。最近結婚した夫婦の家のそばを通りがかった時、中から新婦の笑い声と泣き声の混じったような声が聞こえてきたのだという。それを聞いた時、正吉の陰茎が勃起したのだという。純にはそれがどういうことか想像できなかった。そこで、その日の夜、ふたりで声を聞きに行くことにした。

夜になって、純は星の観察に行くと嘘をついて家を出ようとした。しかし、螢も星を見たいといって付いてきてしまった。純と正吉は走って振り切ろうとするが、螢は足が早くて逃げきれなかった。走り疲れた3人は、野原の上に倒れ込んだ。
その時、夜空に大きな光が見えた。それは色が変わったり、ジグザグに動いたりしていた。3人はUFOに違いないと思い、追いかけた。しばらく追いかけると、森の上に停止して、まるで誰かと会話をするように色が変わり、柔らかく光った。呆然と眺めていると、UFOは突如舞い上がって消えてしまった。

あっけにとられていると、UFOがいたあたりから誰かが歩いてくるのが見えた。3人は慌てて物陰に隠れ、様子を伺った。すると、担任の凉子先生(原田美枝子)が朗らかに「365歩のマーチ」の鼻歌を口ずさみながら歩き去った。涼子は宇宙人と親しい間柄なのかもしれないし、そもそも宇宙人が涼子に化けているのかもしれないと思われた。
自分たちが秘密を見てしまったことを宇宙人に知れると危険が及ぶように思われた。だから、今夜のことは3人の秘密にした。

* * *

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フジ『北の国から』第13回

留守にしていたせいで放送に4日ほど遅れをとってしまい本作についてはもう追いつく見込みはなくてしょんぼりしているし、『おしん』の方に関してはもう全く余裕が無いので諦めようかとまで思いつめた当方が、BSフジ『北の国から』の第13回を見ましたよ。

* * *

1981年(昭和56年)5月。
螢(中嶋朋子)は山でフキノトウを採り、野鳥やキツネ、満開の桜の様子などを見て春の到来を感じた。

一方、その日の朝、純(吉岡秀隆)は雪子(竹下景子)と共に東京へ旅だった。令子(いしだあゆみ)が病気で入院したというので、見舞いに行くことにしたのだ。螢は学校があると言って来なかった。純は金曜日に東京に来て、翌火曜日に帰る予定であった。

令子は、純が突然現れたことに驚きつつも、大いに喜んだ。純の滞在が短いと聞きつつも、相好を崩した。

一方の雪子は、令子の入院している病院の雰囲気を訝しんだ。あまり大きくはない病院だからだ。その上、令子は胆石で入院したはずなのに、レントゲン検査してみると何も写らなかったのだという。令子は、神経性のもので心配はないと笑って答えるのだった。

美容室の従業員が、入院中の令子の身の回りの世話をしていた。彼女は雪子にこっそりと事情を話した。
令子の病気の原因は分からないが、ひどい痛みを伴っているという。苦しむとモルヒネを投与するという対処療法しか行われておらず、入院してからもひどくなる一方なのだという。もっと大きな病院で精密検査を受けた方が良いと勧める人もいるが、令子は聞く耳を持たないのだ。それというのも、令子の恋人・吉野(伊丹十三)が紹介した所だから。吉野の上司の親戚の病院であり、彼の立場が悪くなるのを懸念して転院しないらしいのだ。
雪子は、令子に転院を勧めた。しかし、やはり令子は何かと別の理由を述べて、ごまかすのだった。すると、薬の切れた令子は痛みに苦しみ始めた。すぐに医師が呼ばれ、注射を打たれると眠ってしまった。純は、そんな母の様子にショックを受けた。

その夜、雪子は東京の友人を訪ねた。彼女は元看護師で、夫は勤務医である。彼女に令子の状況を相談したところ、やはり転院を勧められた。砂のように小さい胆石は発見が難しいので、大きな病院できちんと検査した方が良いという意見だった。彼女の働いていた病院でも、似たようなケースがあり、その患者は痛みに苦しみながら死んでいったのだという。彼女の夫は、令子の受け入れ体制を整えてくれた。
令子の件が落着すると、話は雪子の恋人の方へ向かった。雪子が北海道で暮らし始めた理由は、現地に新しい恋人ができたせいであろうとカマをかけられた。雪子は何も答えなかったが、脳裏は草太(岩城滉一)のことでいっぱいになった。

純と雪子は、令子のアパートに滞在することとなった。そのアパートは、黒板家が以前に住んでいた場所から近かった。
雪子が知人を尋ねて留守の間、純は東京時代の同級生・恵子(永浜三千子)に会いに行った。彼女は英語塾に通っているというので、それが終わるまで教室を覗くことにした。ところが純は、恵子の姿が見れた喜びよりも、自分が取り残されてしまったショックに苦しめられた。以前、純よりも出来の悪かった友達が、今では見違えるようにスラスラと英語で受け答えしていた。たった半年の間で、自分がひどく遅れてしまったと思った。辛くなり、その日は恵子に会わずに帰ってしまった。

翌日の土曜日の朝、純は登校途中の恵子を待ちぶせた。恵子は純の姿を見るなり、再会を喜んでくれた。それが純には嬉しかった。放課後、恵子の他、懐かしい友だちが数人集まった。
けれども、純は彼らの話の輪に入れなかった。彼らは最新のテレビや音楽の話で盛り上がっているのだが、それらの情報から隔離されている純には何もわからないのだ。隅で一人でヘッドフォンをつけて音楽を聞かせてもらっていた。不意に、北海道の野生動物の話を聞かれた。純は、ここぞとばかりに、ホラを吹いた。リスやキツネはもちろん、クマを間近で見ることも日常茶飯事だなどと言ってしまったのだ。東京の友達たちは感心して聞いてくれたが、純は終始傷ついていた。自分がすでに東京の人間ではなくなってしまっていることが悲しかったのだ。

その後、純は令子の病室に向かった。そこでは雪子と令子が言い争いをしていた。勝手に転院の準備を進めた雪子に対して、令子が腹を立てているのだ。令子は決して承諾しなかったし、吉野に話したら許さないと声を荒げた。
その時、ちょうど吉野が見舞いに現れた。令子は、純に対しては吉野のことを高校時代の友人だと紹介するに止めた。吉野は気さくに馴れ馴れしく、純に話しかけた。純は、吉野のことが気に食わなかった。特に、自分の母のことを名前で呼び捨てにしていることが特に気に入らなかった。

翌日曜日。
病院に行こうとしていたら、アパートへ電話がかかって来た。吉野が純を映画に連れて行ってくれるという。純は吉野と一緒に出かけることなどごめんだと思ったが、子どもなりに気を使って大げさに喜んでみせた。純は渋々出かけていった。映画は『宇宙戦艦ヤマト』だった。昨日、東京の友達たちが見たいと言っていた映画だ。彼らより先に見れることで鼻が高い思いがした。ところが、アニメ映画に退屈した吉野は眠りに落ちてしまい、大きないびきをかきはじめた。いくら揺すっても起きないし、周囲の観客からは白い目で見られるので、純はいたたまれなくなり映画の途中で席を立ってしまった。

その後は、遊園地に連れて行ってもらった。吉野は、ジェットコースターなどに付き合って乗ってくれた。
遊園地には、パンチングマシンがあった。拳で殴りつけると、その威力に応じた評価がなされる遊具だ。純が挑戦するも、ほとんど最低の評価しか得られなかった。不良たちがやって来て、純をバカにして見せつけるように殴りつけた。すると、かなりの好成績が得られた。純は感心した。
その様子を見ていた吉野が、自分も挑戦しようと進み出た。不良たちからは、「おじさんがやっても怪我をするだけだ」などとバカにされるが、吉野は無言で挑んだ。すると、不良たちの成績を越えたのはもちろん、パンチングマシンの最高評価を獲得した。不良たちは目の色を変えて吉野を称えた。

はやし立てる不良たちを尻目に、吉野はほぼ無言で立ち去った。唯一、ボクシング経験があるのかと問われ、「真似だけな」と答えるに留まった。純は、吉野のその一言に惚れた。実力者なのに、クールに謙遜する態度がとてもかっこよく見えたのだ。たとえば、同じくボクシングの練習をしている草太なら、軽薄な表情で聞かれもしないことまでベラベラと話すことだろうと想像された。それとは全く違う吉野の様子が素敵に思えた。

それでも、純は自分が吉野のことを気に入り始めたことを表に出すことははばかられた。
食事をしながら、令子や純自身の今後の事を聞かれたが、素っ気ない喧嘩腰の口調で答えた。自分は数日のうちに北海道に帰るので、あとは吉野にすべて任せると言うのだった。
ところが吉野は引き下がらなかった。男が一人でいることと、女が一人でいることはそもそも意味合いが違う。そうであるにもかかわらず、黒板家では令子だけを一人ぼっちにして、父がふたりの子どもを連れて行ってしまった。それは不公平だと言い、純が東京で令子と共に暮らすべきだと説得した。
純は、母には吉野がいると指摘した。純は、令子と吉野の交際については知らんぷりをするつもりでいたが、つい勢いで口走ってしまった。吉野がもう二度と令子に会わないと約束するなら、自分は母と一緒に暮らすと言い加えた。吉野は、それについてはどうなるかわからないと答えた。わからないことについては約束できないと、理路整然と答えた。
純は、大人相手にすごい話をしていると思った。吉野が令子と結婚する気でいることもわかった。一方で、もう吉野のことは嫌いではなかった。

その後、純は一人で令子の病室に来た。吉野のことを聞かれ、純は楽しかったし、良い人だったと答えた。令子は純のためにガンダムのプラモデル(1/60; 当時2,500円)を用意しており、純は大喜びした。ただ、それと引き換えのように、令子は純が本当に北海道へ帰るつもりかと聞くのだった。純はプラモデルに熱中するふりをして何も答えなかった。

直後、恵子が見舞いに来てくれた。ふたりで外に遊びに出かけた。
恵子も純が北海道に帰ることを残念がった。一人ぼっちになる令子もかわいそうだと付け加えた。恵子と彼女の母は、純が自宅に下宿してもいいと相談していると打ち明けた。父は外国に単身赴任しているし、兄も大阪に下宿している。母子2人きりで寂しいので、純の居候は大歓迎なのだという。なんなら、令子が退院したら一緒に住んでも良いと言うのだ。令子は美容室の仕事で忙しいから、家事の負担が減るのは嬉しいはずだと述べた。

純は北海道に帰ることを迷い始めた。
夜、雪子に正直に相談した。母のことが心配になってきたこと、吉野に父だけが子どもを引き取ることは不公平だと言われたことなどだ。そして、自分は答えを保留しておきたいのだが、一度北海道に戻って五郎(田中邦衛)の管轄下に入ってしまうと、他の選択肢は全て奪われてしまうのではないかと心配しているのだ。もちろん、五郎や螢と話し合う必要はあることも理解しており、純一人ではどうしていいのかわからなくなってしまったのだ。
結局、雪子に思いを打ち明けても、結論は出なかった。

その頃、麓郷では中畑(地井武男)が五郎を訪ねてきていた。中畑は、東京に言った純のことを案じていた。母や東京に未練のある純のことだから、令子に東京に残ってくれと泣きつかれたら帰ってこないだろうと言うのだ。それに対して五郎は、その時は仕方ないと一言寂しそうに答えるだけだった。

道端で花を摘み、学校から機嫌よく帰ってきた螢は、戸外からふたりの話を盗み聞いてしまった。螢は楽しい気分がいっぺんで台無しになってしまった。

* * *

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メイジ ミュージカライヴ『宇宙少女マミ』

宇宙少女マミ

宇宙少女マミ

1990年にキングレコードから発売された、山瀬まみ主演のVHSソフト。「ミュージカライヴ」とは、ミュージカル&ライヴのことだそうだ。僕の記憶が確かなら、これは当時大阪府で開催された国際花と緑の博覧会(花博)で行われたイベントを撮影したもの。

山瀬まみの生い立ち(花博とは全く関係がない)に始まり、会場に向かう道中の山瀬まみへのインタビュー(花博とは全く関係のない話)、ミュージカライヴ、山瀬まみが出演している明治のCMなどが収録されている。全57分。

ミュージカル部分には一応ストーリーがある。山瀬まみと相手役の真矢武は遠い星からやって来た宇宙人。彼女らの星は環境破壊が激化し居住が困難になってしまった。移住先の調査のためにふたりは地球にやって来た。地球の環境の素晴らしさに感動したふたりだが、地球でも環境破壊が進みつつあることに懸念を表明する。そして、調査を終えて母星へ帰っていくという内容。
環境がどうのこうの言うあたり、花博向けってことらしい。たぶん。
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フジ『北の国から』第12回

本日、女性をデート(デート?デートなのか!?)に誘うメールを書くにあたり、別の女性に文面を添削してもらうというただでさえ無様な状況に陥ったわけだが、その文案に一発でOKが出てしまい、本業の論文では不採録ばかりなのに、こういう文章ばかり修正なしで採択されるというとても無様な自分に情けなくなった当方が、BSフジ『北の国から』の第12回を見ましたよ。

* * *

つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)が家出して2日が経った。しかし、彼女の行方は知れないままだった。純(吉岡秀隆)が五郎(田中邦衛)につららの事を聞くと、五郎はその話をするなと言ったきり、二度とその話題に触れなかった。

螢(中嶋朋子)が餌付けしていたキタキツネがトラバサミの罠にはまったのも2日前だ。そのキツ目もトラバサミをぶら下げたまま姿を消し、二度と表れなかった。
山歩きをしていたクマ(南雲佑介/現・南雲勇助)が、トラバサミの罠をいくつか見つけた。全て解除し、そのうちの一つを持ち帰り五郎や中畑(地井武男)に見せた。クマによれば、罠は雪を使って巧妙に隠されていたという。トラバサミ猟は免許が必要であり、今回仕掛けた人物もかなりの手練だろうと予想された。1月下旬に禁猟になるため、駆け込みで猟をしているらしかった。

1月20日、小学校が再開された。
中畑の娘であるすみえ(塩月徳子)が、螢のキツネが罠にかかったことをみんなに知らせた。それをきっかけに、涼子先生(原田美枝子)は子供たちに野生動物との付き合い方について議論させた。純をはじめ、ほとんどの子どもは動物を狩ることは残酷だと主張した。特に、螢がかわいがっていたキツネならなおさらだという論調だった。

そんな中、正吉(中澤佳仁)だけは堂々と反対意見を述べた。キタキツネは家畜や畑を荒らす悪い動物なのだから、狩られて当然だと言いはった。そもそも螢が餌付けしたことで人里に近寄るようになったのであり、人の生活圏にやって来ていつ悪さをするかわからないし、早く仕留めてよかったなどと主張した。
涼子先生は正吉の話を引き継いだ。キツネは野生動物であり、自力で獲物を飼って生きている。人が餌付けすると、餌の獲り方を忘れてしまい、自然の中で自活できなくなってしまうかもしれない。それは自然の摂理に反すると言うのだった。正吉は得意になったが、他の子供達は納得がいかなかった。議論は平行線のままだった。

放課後、正吉は一人で涼子先生を訪ねた。
正吉は、自分の祖父・杵次(大友柳太朗)がトラバサミを仕掛けていることを知っていた。そのことを打ち明けに来たのだ。杵次は若い頃から冬には必ず動物を狩っているという。正吉は、キツネの毛皮で暖かいチョッキを作ってもらったこともあるという。けれども、まさか螢のキツネが罠にかかるとは思ってもいなかったと、苦しい胸の内を明かした。特に、杵次が集落でも鼻つまみ者であることを知っているだけに、正吉はますます不安になるのだった。
涼子は、正吉に他言しないよう助言した。杵次が長年続けてきた生活を誰にも非難する権利はない。だから、正吉は何も気にすることはないと言って慰めるのだった。
帰宅した正吉は、杵次にもう二度とキツネを取らないように頼んだ。チョッキはいらないので、狩りはしないでくれと言うのだった。

その日の夜。
螢は自責の念にかられていた。正吉の言うように、自分が餌付けしたせいでキツネを不幸な目に合わせたのではないかと後悔していた。寝室でそのことを純に話した。
しかし、純は螢の話をさっぱり聞いていなかった。純は五郎と雪子の関係が気になって仕方がなかった。正吉が言ったように、五郎と雪子が男女の仲になっているというのは、もしかしたら真実かもしれないと疑う気持ちがあるからだ。

そして、五郎と雪子は居間で並んで仕事をしていた。雪子は五郎にポツリポツリと話しかけた。草太(岩城滉一)は多くを語らないが、どうもつららを探しに回っているという。どうも旭川のあたりにいるらしいことがわかったという。それを聞いても、五郎は何も答えなかった。
さらに雪子は、草太の家の牧場を手伝いに行っているが、自分が歓迎されてない気がすると打ち明けた。どうも、自分を雇うことは草太が独断で決めたことで、草太の父・清吉(大滝秀治)らとは相談していないようだと言うのだ。清吉は雪子と口を利こうともしないのだ。五郎は雪子の懸念を否定した。清吉は元来無口な性格なので、気にすることではないと言って慰めた。

翌日の放課後、涼子先生は純と螢を職員室に呼び出した。
涼子は、トラバサミを仕掛けた人物を恨んではならないと諭した。たとえばネズミは倉庫の野菜をかじるし、鹿は畑を荒らして人を困らせる。それと同じように、キツネも害をなすのだ。麓郷に住む人々は決して裕福ではなく、大変な苦労をしながら生きている。害獣を始末したり、その肉や毛皮を利用する人がいるのも仕方ないと説いた。そういう習慣を長く続けてきた人々がいることを理解し、彼らの生き方や思いを理解し、決して憎むなと言い聞かせた。
純は、涼子の言うことはもっともだと思った。しかし一方で、どうしても納得いかない気持ちもあった。

純と螢が家に帰ると、ちょうど自家風力発電装置が完成するところだった。家の中の電灯を光らせることに成功した。一同は大喜びした。その日は雪子の誕生日だった。電気の開通と雪子を祝うパーティーを行うことを計画した。

その頃、草太の牧場で働いていた雪子は、清吉に呼び出された。清吉は、単刀直入に雪子に働いて欲しくないと告げた。
まずは、経営上の問題がある。彼らの牧場は3軒の家庭で共同経営している。ところが、その3軒を養うのも難しいほど経営が苦しい。雪子を雇う余裕などそもそもなかったのだ。
続いて、草太に関する問題がある。雪子の雇用は草太が勝手に決めたことで、清吉には何の相談もなかった。それに、草太はつららと結婚して家を継ぐはずだった。草太が勝手に鞍替えしたこととはいえ、雪子の登場で予定が狂ってしまった。百歩譲って、雪子が牧場の嫁となって家を助ける覚悟なら問題はない。しかし、都会に帰るつもりなら、二度と出入りしないで欲しいと言うのだ。草太が後に引けなくなって、雪子を追って家を出ると困るのだ。
それに関して、清吉の仲間の問題がある。本音を言えば、清吉は自分の代で麓郷の生活は終えてもいいと思っている。4人の息子たちはすでに麓郷を出たし、5人目の息子である草太がそうするのも仕方ないと思っている。けれども、この集落の開墾で苦楽を共にした仲間を裏切ることはできないと考えている。その仲間の一人がというのが、つららの兄である吉本辰巳(塔崎健二)だ。草太はつららと結婚する約束をしていて、両家もそのつもりだった。草太がつららを捨てたことは、全て草太の悪行であり、雪子は巻き込まれただけであり濡れ衣だ。それでも、辰巳への義理として、雪子を置いておくわけには行かないと言うのだ。

雪子は反論もできず、泣きながら家へ帰った。途中で草太と出くわしたが、雪子は口も聞かずに、雪道を歩いて家路についた。

雪子が家に着くと、家は真っ暗だった。落ち込んだ気分のまま家に入ると、突然部屋が明るくなった。中畑の家族やクマらまで集まっていて、みんながバースデー・ソングを歌ってくれた。電気が開通したことも知らなかったし、まさか自分の誕生日を祝ってくれるとも思っていなかった。雪子はみんなの前で涙ぐんだ。それでも、みんなで明るく楽しいパーティーとなった。

薪がなくなったので、五郎と純、螢は外に取りに出た。すると、杵次が立っているのを見つけた。五郎は家の中へ誘うが、杵次は固辞した。杵次は風力発電に成功したことを複雑な思いで見ていた。それから杵次は、五郎に馬を買うことを持ちかけた。五郎は返事を保留した。それに構わず、杵次は一人で静かに話し続けた。今の馬は20年買い続けて、多少情も移っている。けれども、名前をつけてやらなかったと後悔を表明した。
そもそも、このあたりでは馬に名前をつける習慣は無かったという。名前をつけると情が移り、手放すときに辛くなるからだ。それというもの、このあたりの農家はとても貧しい。夏に一生懸命働いても、冬を越すだけの蓄えができない。そこで、冬になると決まって馬を売って金に変えたのだという。そして、春になると農作業用の馬を新たに買う。いちいち名前をつけてかわいがる暇はないのだ。
冬に馬を売り、春に購入するためには、金を準備する必要がある。そのため、冬の間に動物を狩って毛皮を売っていたのだという。杵次にとって、それが当たり前の生活なのだ。この冬は正吉のために毛皮のチョッキを作ってやるつもりだったと語った。そして、キツネがやられたトラバサミは自分が仕掛けたものだと告白した。ただし、正吉は何も知らないことだから、彼を恨まないでくれと頼み込んだ。純と螢は受け入れた。
そこまで話すと、杵次は家へ帰って行った。

それから時が流れ、4月になった。黒板家が麓郷に住み始めてから半年が過ぎた。純と螢はすっかりここでの生活に慣れ親しんだ。雪が溶け始め、一部では土も見えてきた。春がもう目の前だった。純と螢は山で大量にふきのとうの若芽を摘んだ。

* * *

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フジ『北の国から』第11回

朝ドラ『カーネーション』で三浦組合長(近藤正臣)が「はずれても、踏みとどまっても、人の道」と言っていたなぁと思い出した当方が、BSフジ『北の国から』の第11回を見ましたよ。

* * *

純(吉岡秀隆)と雪子(竹下景子)の遭難騒ぎを引き起こした吹雪がやっと去った。麓郷に青空が戻った。
螢(中嶋朋子)は真新しい雪の上にキタキツネの足あとを見つけた。純がむしゃくしゃして石を投げつけて以来(第5回)、姿を見せなかったキツネが戻ってきたようだ。螢とともに、純も喜んだ。

五郎(田中邦衛)は杵次(大友柳太朗)を訪ねた。純と雪子は、杵次の馬のおかげで命が救われたのだ。その礼として、日本酒の1升瓶と現金1万円を携えてきた。貧乏な五郎にとっては、それが精一杯だった。ところが杵次は、酒は貰うが現金はいらないと言い出した。額が少ないとケチをつけた。家族の命の代償としては安すぎる、最低でも10万円は持って来いと言うのだった。五郎は食い下がったが、どうしても金を渡すことはできなかった。
困った五郎は、つい軽い気持ちで中畑(地井武男)や クマ(南雲佑介/現・南雲勇助)らに顛末を話してしまった。中畑らは、ケチでずる賢い杵次の言いそうなことだと言って、口々にバカにした。そして、そのことをあちこちで面白おかしく言いふらすようになった。

吹雪で停電の間、草太(岩城滉一)は自宅の牛舎の管理に奔走していた。そのため、雪子らが遭難して九死に一生を得たことを知らなかった。話を聞くやいなや、雪子の家まで会いに来た。風邪気味だという雪子の熱を測るために、草太は自分の額を雪子の額にくっつけた。そのどさくさに紛れて、草太は雪子にキスをした。雪子は子供たちに見られるのを気にして抵抗する素振りを見せたが、まんざらではない様子でもあった。
また、草太は、雪子が自分の牧場で働けるように手配したと告げた。仕事を探していた雪子は、早速翌日から働きに出ることになった。毎朝、草太がわざわざ雪子を迎えに来た。牧場でも、草太は鼻の下を伸ばしながら、雪子につきっきりで仕事を教えた。

それからというもの、純はつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)に付きまとわられた。つららは純に話があるといって追いかけてくるのだ。純には、草太と雪子の関係がどうなっているか聞かれるのだろうと予想できた。純にも詳しいことはわからないし、面倒なことに巻き込まれたくないので、純は逃げまわってばかりいた。そもそも、二股をかけた草太が悪いのだと腹をたてるのだった。

そんなある日、正吉(中澤佳仁)が見知らぬ男子中学生と共に純を物陰に呼び出した。そして、ふたりで純を小突き回した。正吉の言い分は、祖父の杵次が馬の出動料として10万円を請求し、そのことを五郎と純が言いふらしたために街中で物笑いの種になっているというものだった。純にとっては寝耳に水だったが、正吉は聞く耳を持たなかった。さらにふたりは、五郎と雪子が男女の仲だという噂が流れていると言い、五郎を侮辱した。さらに、純が同級生の中畑すみえ(塩月徳子)と仲良くしていることを引き合いに出し、親子揃ってスケベだと言ってバカにした。純は根も葉もない噂だと否定したが、自分から手を出すことはできず、ふたりの暴力になされるがままだった。

草太の牧場に、友人の川島(小松政夫)が訪ねてきた。話があるから夜に時間を作ってくれというのだ。草太は気乗りしなかったが、しつこく頼まれるので承諾した。その時、川島は牧場で働く雪子を初めて見て、一目惚れしてしまった。

その夜、草太は約束通り居酒屋にやって来た。川島は会うやいなや、雪子は高嶺の花なので草太がものにするのは無理だと告げた。その代わり、つららと添い遂げろと言うのだった。つららは草太と結婚するつもりでこれまで付き合っていたのだし、草太の両親(大滝秀治今井和子)も彼女のことを気に入っている。草太もそのことは理解していたはずだ。それにもかかわらず、つららを捨てて雪子に乗り換えることは人の道を外れることだと川島は説いた。
川島は、つららに泣きながら相談されたという。それで川島もつららの味方になることにしたのだ。近所の喫茶店につららを待たせているから、今すぐに会いに行けと草太に告げた。

草太は指定された喫茶店へ向かった。離れた場所から覗くと、窓際につららの座っているのが見えた。草太はしばらくつららのことを見ていた。そして、喫茶店へは入らず、そのまま帰ってしまった。雪子に会いたくなって黒板家に立ち寄ったが、そこにはすでに川島が来ていた。ふたりは気まずそうに睨み合うのだった。

あくる日、純は草太に会いに来た。そして、ケンカのやり方を教えて欲しいと頼んだ。草太はまじめに取り合わなかったが、正吉が雪子と五郎ができていると吹聴したことがケンカの原因だと知ると、俄然純の味方をする気になった。草太が立会人となって、純と正吉が果し合いをすることになった。純は、草太から教えられた通り正吉の睾丸を握って苦しめ、ケンカに勝った。そして、そもそもが子どものケンカなので、それでふたりは仲直りした。
一方の草太は、雪子を侮辱されたことが未だ許せず、彼女を馬鹿にすると純以上の力で睾丸を握りつぶすといって脅かすのだった。

その晩、草太は父・清吉から説教された。前の晩につららが会いに来たのだという。清吉もつららの味方だった。むしろ、雪子のような都会の女は北海道の農家に嫁に来るわけがないと、初めから決めてかかっていた。今までに、北海道での暮らしに憧れてやって来た若い娘たちはたくさんいたが、いずれも生活の厳しさにへこたれて逃げ帰ってしまったのだ。
一方的に言われ、草太は頭にきた。自分もこの土地を出て行きたいののに、仕方なく残ってやっているのだなどと捨て台詞を吐き、家を飛び出してしまった。

富良野の街で、草太は酒をあおった。そんな草太を見つけた街の若い者は、草太との関係を知った上で雪子のことを侮辱した。曰く、雪子は五郎の先妻の妹だが、五郎と雪子が一線を越えて男女の仲になったから先妻が離縁状を叩きつけたというのだ。ただでさえむしゃくしゃしていた草太は、店内で大立ち回りをした。ボクシングのトレーニングをしている草太がケンカを始めると、誰にも止められなかった。すぐに警察が呼ばれ、草太は交番に連れて行かれた。

交番に着く頃には、草太はすっかり落ち着いて、おとなしくしていた。草太の取り調べにあたった刑事(蟹江敬三)は、高校時代によく張り合った他校の生徒であることがわかった。昔のよしみで、ふたりは世間話を始めた。その時、刑事の元に家出人捜索願の情報が入った。刑事はその書類を草太に見せた。
なんと、つららが失踪したというのだ。家に置き手紙が残されており、金や通帳がなくなっていた。ただし、行き先は一切記されていなかった。

開放され、行き先のなくなった草太は黒板家に向かった。すると、つららの兄・辰巳(塔崎健二)が捜索用に借りた五郎の車を返しに来た。そこで、草太と辰巳は顔を合わせた。辰巳は無言のまま草太に近づくと、草太を殴り倒した。草太は無言のまま無抵抗だった。五郎が辰巳を押しとどめると、辰巳は草太に唾を吐きかけて帰って行った。草太はいつまでも雪の上に倒れていた。五郎は草太を1度だけ優しく撫でると、やはり無言のまま家に入っていった。

その一部始終を見ていた純は、辛抱たまらずに2階の寝室に駆け上がった。そこでは、雪子が寝袋に包まって寝ていた。風邪で熱があり、頭もいたいと訴えている。純は雪子を許せなかった。つららが家出をしたと乱暴に言い捨てると寝室を出て行った。

居間では、五郎は何事もなかったかのように、風力発電用のプロペラを磨きあげていた。螢は食後の後片付けをしていた。全員、何事もなかったことを装っているかのようだった。

その時、家の外からキツネの鳴き声が聞こえた。螢は例のキタキツネが帰ってきたのだと思い、餌を持って外へ飛び出した。しかし、キツネの様子はおかしかった。目を凝らして見てみると、足に不審な金具がついていた。五郎は、トラバサミの罠にかかったのだと教えた。螢は泣きながらキツネに走りより助けようとしたが、キツネはすでに遠くまで去っていた。五郎と純は悲しみながらその様子を見ていた。

トラバサミに挟まれたキツネの足跡は、いつもと違って、雪の上でジグザグに伸びていた。五郎は、翌日明るくなったら足あとを追ってキツネを探しに行くと約束した。
しかし、その日の晩から雪になった。翌朝には足あとは全て消えてしまっていることだろう。

* * *

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