手ぬぐいは濡れるか?

朝倉かすみと俺。

出会いはいわゆる「知人の紹介」ってやつだ。最初は一方的に「好きだなー」と思うだけだったのだけれど、いつしかSNSで連絡を取り合うようになり、気づけば僕は彼女にゾッコンだった。主な経緯はこっちに書いてある

そんな彼女から、贈り物が届いた。

朝倉かすみ20冊記念手ぬぐい

朝倉かすみ20冊記念手ぬぐい


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NHK『おしん』第13-18回(第3週)

どうも自宅HDDレコーダーが不調でDVDに移すことができず、せっかく全話をDVDに保存しておこうと思ったのにそれができないとなるとすごく萎えてしまうだろう当方が、NHK連続テレビ小説アンコール『おしん』の第3週を見ましたよ。

* * *

(第13回)
おしん(小林綾子)は、つね (丸山裕子)の金を盗んだという濡れ衣を着せられた。どんなことがあっても春までの辛抱だと耐えていたはずなのに、我知らず緊張の糸が切れ、無断で奉公先を飛び出してしまった。実家に帰るつもりで山に入っていったが、激しい吹雪となり、おしんは行き倒れてしまった。

おしんが目を覚ますと、粗末な山小屋の藁布団の中で、知らない男と一緒に寝ていた。
男は俊作(中村雅俊)という猟師だった。松造(大久保正信)という老人とともに、山の中で暮らしているという。俊作は山の中で凍死寸前のおしんを見つけ、小屋まで運んで一晩中暖め続けたので。おかげでおしんは九死に一生を得た。

おしんは一晩で回復したので、松造はおしんを山の麓まで送って行こうとした。しかし、おしんは帰ることを拒否した。逃げ出してきた奉公先には戻りたくないし、実家に帰るわけにもいかない。どこにも行き場所がないと訴えた。その話を聞いて、俊作はしばらく預かってやることにした。おしんには深い事情があるのだろうと察したのに加え、いずれにせよこの深い雪では故郷に帰れるわけもないからだ。春まで置いてやることにした。

陰で、松造は俊作に小言を行った。自分たちは世間から隠れて山に暮らしているのに、よそ者と関わるろくな事にならないというのだ。後におしんが自分たちの居場所を漏らしてしまうと、命が危なくなる。隠れ家の場所を深く知る前に帰すのが得策だというのだ。しかし、俊作は聞き入れなかった。おしんも自分たちと同じように何かから逃げている。そのような人間を放ってはおけないというのだ。

その頃、おしんの奉公先では騒ぎになっていた。
つねの財布からなくなっていた50銭銀貨は、主人・軍次(平泉征/現・平泉成)が無断借用したと言うのだ。支払いをするときにちょうど銭がなかったので、そこにあった財布から借りたのだ。軍次はうっかりしていて言い忘れたと謝った。おしんの所持していた銀貨は彼女自身のものだったということが証明されたのだ。
しかし、主人の行いに対して、つねは何も抗議しなかった。その上、おしんに気の毒をしたと反省する色も見せなかった。おしんは自分が米1俵と引き換えに奉公に来たということをよく理解しており、その責任を果たすために、すぐに戻ってくるだろうと楽観的に考えるばかりだった。

おしんには、俊作と松造が何者かはわからなかった。しかし、一見怖い顔の俊作ではあるが、どことなく眼差しが優しいことに気づいていた。おしんは俊作に妙な安らぎを感じ取っていた。

(第14回)
俊作らは粗末な暮らしをしていた。猟で仕留めた獣や少ない野菜を煮込んだものを食べていた。動物の毛皮や山で作った炭を春になったら麓に売りに行き、他の必要な物を手に入れるのだという。それでも、おしんには目新しい生活が楽しくて仕方なかったし、毎度暖かい食事にありつけるのもありがたかった。

おしんは、奉公先を飛び出した経緯を話した。奉公が辛かったり、盗みの疑いをかけられたことを苦にして逃げたのではないと説明した。奪われた50銭銀貨は、自分がどんなに腹が減っても使わなかった金だ。同じように、祖母(大路三千緒)が食べるものを我慢して作ったへそくりだ。その金が奪われたことを悲観し、また、実家に繋がる川の流れを見ていると、我知らずに歩き出してしまっていたと話した。

俊作はおしんに同情した。おしんの名は「信」(信じる)、「心」(こころ)、「芯」(物事の中心)、「新」(新しい)、「真」(真実)、「辛」(辛抱)、「神」など、様々な意味を持ち、良い名であると褒めた。その名前に負けないように、強くい生きろと励ました。そして、これまでの辛かったことは全て忘れて、春までゆっくりとここで過ごせと言うのだった。

しかし、松造は俊作とは反対の立場だった。ここでの生活が他人に知られると身が危険であるばかりか、そもそも質素な生活であるところにおしんの食料まで負担が増えるというのだ。それにもかかわらず、俊作はおしんが満腹になるまで際限なく食事を与えた。
松造は、貧乏な農家の三男として生まれたという。幼い頃は村長の家で奉公し、年季が明けて実家に帰ったが相続する土地がなかった。仕方なく、山へ入り炭焼の仕事を始めた。貧乏なためになかなか結婚できなかったが、なんとか妻を娶り2人の息子も生まれた。ところが、そんな息子たちに残す財産などあるはずもなかった。息子はいずれも軍人になり、日露戦争の203高地(中国旅順)で2人とも戦死した。以後、ひょんなことから俊作と出会い、親子同然として暮らして今に至る。
松造は、おしんの前であることも忘れ、俊作に自分の命を大切にしろと説得するのだった。

それでも、おしんが俊作らと暮らし始めて20日ほどが過ぎた。俊作の猟について行ったり、松造の炭焼を見学したりと、全てが新鮮であった。実家のことも奉公先のことも、全ては遠い世界のおとぎ話のように思えてくるのだった。

その頃、つねは源助(小倉馨)を呼びつけていた。彼がおしんの奉公を世話したのだ。いなくなってから20日も経ったのだから、もう実家に帰っているに違いない。おしんは年季明けの前に帰ってしまったのだから、先払いした米1俵を取り返して来て欲しいというのだ。おしんは使い物にならないので、もう帰ってくる必要はないと告げた。
ただし、おしんから取り上げた50銭銀貨だけは源助に託し、本人に帰すよう頼んだ。

(第15回)
源助はおしんの実家に来て、力づくで米を奪っていった。
ふじ(泉ピン子)と作造(伊東四朗)はおしんが出奔したことなど初耳で、おしんも帰っていないと訴えるが源助は容赦がなかった。

作造は激怒した。今後おしんが帰ってきても、二度と敷居をまたがせないと息巻いた。
一方のふじはおしんがもう死んでいるものと思った。この雪深い中、子どもが一人で山に入ったら到底生きているはずがないからだ。せめて遺体だけでも探そうと飛び出したが、作造が押しとどめた。子どもはおしんだけではなく、先日生まれたばかりの赤ん坊も含め、他の家族もいる。それらの面倒も見ずに家をでることは許されないというのだ。ふじは悲しんだ。
源助が持ってきた銀貨は、祖母の手に戻った。最後の望みの現金すら持たずに飛び出すとは、おしんに何があったのか想像もつかなかった。

俊作の家で世話になっているおしんは、せめてもの償いにと、あれこれよく働いたし、あかるく健気だった。
ところが、俊作はおしんが必要以上に働くと、怒るような素振りを見せた。おしんには理由がわからなかったが、俊作は必要以上に情が移ったり、懐かれたりするのを避けようとしていたのだ。むしろ、そういった感情を抑えることがすでに難しくなっており、俊作はおしんを預かったことをすでに後悔し始めていた。

俊作は、複雑な思いを抱えながら、戸外でハーモニカを吹いていた。それは肌身離さず、いつも持っているハーモニカだった。ハーモニカを初めて見聞きするおしんは、それが珍しくて仕方がなかった。そばによってよく聞こうとするが、俊作は無言で立ち去ってしまった。
おしんは悲しくなった。ここでも自分は邪魔者扱いされているのだと思ったのだ。この世で自分に優しくしてくれるのは、実家の母と祖母しかいないと思った。

そんなある日、俊作が酷い熱を出して倒れた。服を脱がすと、腹に大きな傷跡があった。松造によれば、その古傷のせいで、俊作はよく高熱を出すのだという。203高地での戦闘の際に当たった銃弾が体内に残り、それが原因なのだという。
おしんは、寝ずに看病を行った。一晩中、何度も外に出ては雪を取ってきて、それを溶かした水で俊作を冷やしてやった。俊作が目を覚ますとおかゆを作ってやり、汗で汚れた衣類はすぐに外へ洗いに行ったし、着替える前の衣類は火で炙って暖めた。

(第16回)
おしんの献身的な看病が俊作の心を開いた。体調が回復すると俊作は字を教えた。おしんにとっては、字を習うことも嬉しかったが、それよりも俊作の優しさが何より嬉しかった。

俊作らの貧しい生活には、まともな文房具などなかった。そのため、木の皮や板切れに消し炭で字を書いた。豊かな現代に暮らすおしん(乙羽信子)はその時のことを覚えており、部下や家族が鉛筆やボールペンを粗末にすると今でも怒る。俊作との暮らしで学んだことは、物がなくても幸せになれるということだったという。
そして、もっと重要なことは、生きるとはどういうことなのか多くのことを学んだのだという。

俊作の小屋には何冊かの本があった。その中に、木の葉をしおりにしてある物(『明星』)があったので、おしんは手にとって読んでみた。それは、与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」であった。漢字にふりがながあったので、おしんは全て読むことができた。けれども、意味はさっぱりわからなかった。

それは俊作が一番好きな詩だという。俊作は意味を教えた。戦争に行った弟のことを悲しむ歌であり、弟は戦争に行くために生まれ育ったのではない、きっと生きて帰ってきて欲しい、そういう内容だと教えた。続けて、俊作は戦争がいかに馬鹿げていて非人道的なものであるかを話して聞かせた。戦争は相手の物をたくさん壊し、たくさん殺した方が勝つ。人を傷つけることは良くないことだと誰もが知っているのに、戦争の時だけは手柄だといわれる。こんなにおかしなことはないと言うのだ。
そして、将来、日本が戦争を始めようとしたら、全力で反対しろと説いた。一人ひとりの力は小さくても、団結すれば大きな力となって国家を変えられると説得した。おしんはまだ幼かったが、俊作の言わんとしていることはよくわかった。俊作は、その本をおしんにくれた。
俊作は、自分も軍隊で大勢の人を殺したと告白した。だから軍人を辞めたのだと説明した。

(第17回)
正月が近づいた。

ふじは、家から米を1升持ちだして寺へ行った。すでに死んだであろうおしんに戒名を付けてもらうためである。それでも、一番安い戒名しかもらえなかった。その行為に、作造は激怒した。持ち出した米が数日分の食料に匹敵するからだ。それを何の腹の足しにもならないものに変えてきたのが腹立たしいのだ。米がなくなったことの腹いせに、今年の餅つきは中止することにした。人が死んだ家では正月行事を自粛するというのが言い分だった。
ところが、作造の胸には別の思いもあった。まだ、おしんが死んだとは信じたくなかったのだ。おしんが生きていると信じているからこそ、戒名をつけるという縁起の悪い行為が許せなかった。

俊作の小屋では餅つきを行うことになった。これまで餅つきなどやったことはなかったが、今年はおしんがいるので特別だという。この日のためにこっそりと準備しておいたもち米と、松造が手作りした杵と臼が用いられた。それに加えて、おしんの毛皮の羽織を新しく作ってくれた。それまでは俊作のブカブカの毛皮をまとっていたのだが、今度のはおしんの体に合わせて作ってあった。おしんは幸福感に満ち足りた。
本当は、雪が溶けたら麓まで売りに行くはずだった毛皮をおしんのために使った。当初は反対していた松造だが、今ではおしんのことが実の孫のようにかわいく思えてきたのだ。

ある日、九九を覚えたおしんに、俊作は話しかけた。
生きていれば、辛いことや苦しいことに加え、嫌な人間に会うこともある。しかし、恨んだり憎んだりしてはいけない。人を憎んだり、傷つけたりすると、それは結局自分に跳ね返ってくる。その代わりに、相手の気持ちになり、その人がそうする理由を考えろと言うのだ。その時、自分に落ち度があることに気づいたら、そこを直して成長すべきだ。万が一、相手の攻撃に理由がない場合には、その人のことを憐れむのが良い。心が貧しい、気の毒な人間であると憐れむべきだ。
おしんには、人を許せる人間になってほしい。いくら勉学を身につけても、心が豊かでなければそれらを活かすことができない。人を愛することが出来れば、人からも愛してもらえる。そうすれば、心豊かに生きていける。

以上が俊作の教えだった。残念なことに、おしんには「愛」とはなんなのかわからなかった。しかし、俊作が戦争で人を殺したことを悔いていることはよくわかった。そして、愛をまだ知らないが、人を愛する人になろうと決意した。

(第18回)
春が近づいてきた。まだ雪は残っているが、おしんでも歩けるほどまで溶けてきた。

いよいよおしんが去る日が来た。翌朝早く、松造がおしんを送って行くことになった。俊作は逃亡兵として追われる身なので、人里に近づくわけにはいかないのだ。ところが、松造は足を滑らせて捻挫してしまった。しばらくの間、山道を歩くことができない。おしんは、自分の旅立ちが延期されると思い喜んだ。しかし、俊作は予定通り出発すべきだと主張した。帰る日が長引くほど、おしんも帰りにくくなるだろうから、早い方が良いというのだ。俊作が注意深く、麓の村の近くまで送ると言って聞かなかった。

出発の前、おしんはもう一度ハーモニカを聞きたいとせがんだ。ひと通り吹き終えると、俊作はハーモニカをおしんに譲った。今後、おしんには辛いことや悲しいことがあるだろうが、それを吹けば慰めになるというのだ。また、俊作も過去の自分と決別したいと思っていた。そのハーモニカは出征前に購入し、戦場でも肌身離さず持っていた。ハーモニカとともに、戦争の記憶も忘れてしまいたいというのだ。俊作はおしんにハーモニカの手ほどきをした。

そうして、俊作とおしんは出発した。
やっと麓の村が見えてきた時、前方から数人の憲兵隊がやって来るのが見えた。とっさに身を隠したが、俊作はすぐに見つかってしまった。自分は一介の猟師であり、妹を親戚に預けて学校に通わせるのだ、不審なところは無いなどと言い逃れようとしたが、彼らには通用しなかった。抵抗して逃げようとした俊作は、その場で射殺されてしまった。

俊作の最期の言葉は、おしんは後悔のない生き方をしろと言うものだった。

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フジ『北の国から』第10回

昨夜はかわいこちゃん2人(およびその他)とカラオケに行っていたために本まとめ記事を書けなかったわけだが、今朝『純と愛』を見ていて、昨夜のかわいこちゃんのうち1名が高橋メアリージュンに似てるかもしれないと思いついて、なんとなくテンションの上がった当方が、BSフジ『北の国から』の第10回を見ましたよ。

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純(吉岡秀隆)は自らのおしゃべりのせいで、またしても困ったことになっていた。
正吉(中澤佳仁)の家に遊びに行った時、五郎(田中邦衛)が進めている風力による自家発電のことを話したのだ。すると、正吉の祖父・杵次(大友柳太朗)がそれを聞いており、北海道電力の知り合いにかけあって電気を引いてやると言い出したのだ。人のいい五郎だが、彼は杵次のことだけは嫌っている。純は五郎と杵次の間で板挟みになってしまったのだ。

そんなある日、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)の母・友子(今野照子)が訪ねてきた。五郎が注文していた発電機用の部品が入荷したと、友子の家に電話で連絡があったのだ。ちょうど五郎は留守だったので、雪子(竹下景子)が純と一緒に受け取りに行くことにした。内緒で部品を取ってきて、五郎を驚かせることを画策したのだ。友子の家でライトバンを借り、ふたりは麓郷の街へ向かった。
出発する時は抜けるような青空だった。しかし、天気予報や地元の人々は、午後から天気が崩れて吹雪になると予想していた。けれども、空を見上げた純には、そんな予想が当たるようにはちっとも思えなかった。

その頃五郎は、街中にある中畑(地井武男)の家へ向かう途中だった。そこで正吉とみどり(林美智子)の姿を見つけた。年越しのために帰省していたみどりが、正吉を残して、勤め先の飲み屋のある旭川に帰るところだった。
みどりは、杵次とけんかしたことをポツリと話しだした。原因は家で飼っている馬だという。みどりの言い分は、馬は餌代ばかりがかかって役に立たないのだから売れと言うのだ。自分が旭川で好きでもない男相手に愛想を尽くして仕送りしている金が馬の餌になるかと思うとやるせないと言うのだ。しかし、杵次にとって馬は家族同然で、今の馬とは18年の付き合いだと言う。すでに老馬なので、売ったとしてもすぐに食用肉にされてしまう。みどりは、杵次の気持ちも理解しつつ、ついかっとなって言い争いになってしまうのだといって自嘲した。

みどりらと別れた五郎は、中畑の家へ行った。中畑も杵次の馬のことは知っていた。中畑が聞いた噂では、杵次は馬の引き取り手を探していた時期もあったらしい。ところが、品質からいって10万円もしないような馬なのに、杵次は30万円で売ろうとしたのだという。そのせいで、買い手は見つからなかったのだという。それに、現代では馬はほとんど役に立たないというのだった。

13時頃、発電機の部品を受け取った雪子と純は寄り道をして帰ることにした。突然、純が草太(岩城滉一)の所に寄ろうと言い出したのだ。表向きの理由はスキーに行った時の写真をもらうという事だったが、ませている純は雪子と草太を会わせてやろうと画策したのだ。そのことを告げると、雪子もまんざらではない表情を見せた。それで、山中にある草太の家へ行くことになった。

空が急に曇りだし、純たちが街を出る時に少し雪が降りだした。ただし、いつも見慣れている程度の雪だった。
ところが、山道に入った途端、突如としてひどい吹雪になった。少し行っただけで、視界がほぼ真っ白になった。道路の境目もわからないほどだった。雪子は車の速度を十分に落とし、注意深く運転した。30分ばかり走った。いつもならとっくに草太の家に着く頃なのだが、速度が遅いのでまだ着かない。それどころか、視界が悪くて家の入口すら見えないため、家がまだ先にあるのか、もう通り過ぎてしまったのかすらわからなくなってしまった。

そして、最悪なことに車は雪の吹き溜まりに突っ込んでしまい、スリップして動かなくなった。慌てて雪をはね除けて脱出しようと試みたが、どんどん降り積もる雪の前には埒が明かなかった。手を尽くしたふたりは、車内で吹雪をやり過ごす他に方法がなくなった。

螢(中嶋朋子)が一人で留守番をしていると、杵次が訪ねてきた。螢は杵次とは初対面だったが、正吉の祖父だということは知っていたので家にあげた。すると杵次は、自分が幼かった時の昔話を螢に聞かせた。螢は楽しそうにそれを聞いた。杵次が吹雪の中を馬ソリに乗って来たと聞くと、外まで馬を見に行ったりした。

そこへ、五郎が帰宅した。
杵次の用件は電線の敷設についてだった。杵次は五郎の家まで電気を引き、工事代金も破格にするよう、北海道電力の者に依頼したと告げた。担当者はかなり渋ったが怒鳴りつけて従わせたなどと、自分の手柄を誇った。五郎の計画している風力発電など子どものおもちゃみたいなものだと言い捨てた。それを聞いた五郎は、下手に出つつもきっぱりと断った。
すると杵次は気分を害した。水道の時も役場に掛け合って引かせる杵次の申し出を五郎は断ったことを蒸し返した。そして、五郎が現代文明をわざわざ利用しないでいることを批判した。昔、村には電気が来ていなかった。その時、杵次や五郎の父、中畑の父、その他大勢で運動を行い、やっとの思いで電力供給を実現したのだという。先人たちの努力の結晶と遺産を受け取らない五郎のことが気に喰わないのだという。昔を懐かしがって礼賛するばかりでなく、二度と戻りたくない過去もあることを忘れるなと忠告して帰って行った。

18時になった。
純と雪子が帰ってこないことが心配になった五郎は探しに出かけた。まず、つららの家へ行き、電話を借りて心当たりにかけて見ることにした。ところが、つららの家は停電していた。どうやら、吹雪のせいで送電線が切れてしまったらしく、富良野全体が停電してしまっているようだった。
電話で各方面に連絡を取ったところ、ふたりは13時ころに街を出たこと、草太の家には来ていないことがわかり、結局行方は掴めなかった。さらに、どこの家も停電で大騒ぎであった。最近では、暖房や水道の運転に電力を使用する家が多くなった。それらが全く動かないのだ。また、牛舎を持つ草太の家や豚舎のある中畑の家では、畜舎を新式の電力暖房に取り替えていた。代替手段の確保のためにみんなが出払っており、純と雪子の捜索に割ける人員もなかった。

五郎は、車で回れる範囲はほぼ探し尽くした。けれども依然として見つけられない。残る可能性は、草太の家へ繋がる山道だけだったが、そこは除雪車すら引き返すほどの猛吹雪となっていた。到底、五郎ひとりの力では探しに行けなかった。
電話で中畑と相談していると、彼が馬ソリなら除雪されていない道でも入っていけるのではないかと提案した。五郎は早速、杵次に頭を下げに行った。

21時になった。
取り残された車の中で、雪子と純は凍えていた。車は完全に雪に埋もれてしまい、ドアが開かないことはもちろん、窓を開けても雪の壁に阻まれている。体力を消耗したふたりは眠りに落ちてしまった。
純は夢を見ていた。令子(いしだあゆみ)を含めた家族4人が花畑で愉快に仲良く遊んでいる夢だった。暖かい春で一面に花が咲き誇っていた。五郎と令子も手を取り合って走り回っていた。

ふと、雪子はどこかから鈴の音が聞こえてくるのに気づいた。慌てて純を起こし、ふたりで大声をあげた。鈴の音はだんだんと大きくなり、ふいに止んだ。
それは馬ソリの鈴だった。馬ソリで捜索していた五郎と杵次はついに純と雪子を発見した。というよりも、五郎たちには何も見えなかったが、車の埋まっていた場所で馬が勝手に足を止めたのだという。おかげで無事に救助することができた。

吹雪はそれから2日間も続いた。ふたりが生還できたことは奇跡に他ならなかった。
吹雪が続く間、純と雪子は疲れて眠ってばかりいた。五郎はほとんど口を聞かず、ぼんやりと酒ばかり飲んでいた。それでも、黒板家の生活は日常通りだった。他の家では停電のせいで日常生活がままならなかった。ところが、黒板家には元々電気がないので、停電にも吹雪にもほとんど影響を受けなかったのだ。

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フジ『北の国から』第9回

心理学専攻だったくせに随分大きくなるまで「理性」と「感情」の違いが実感としてわかっておらず、20代半ばに異性関係で揉めた時に生まれて初めて自分が非合理な言動をしていることを自覚し、「あー、これが感情に駆られるという状態かー」と妙に感心したという経験のある当方が、BSフジ『北の国から』の第9回を見ましたよ。

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1981年(昭和56年)正月。
純(吉岡秀隆)は同級生の正吉(中澤佳仁)の家へ遊びに行った。純は初めて正吉の母・みどり(林美智子)と話した。みどりは五郎(田中邦衛)とは古い顔見知りのようで、純のことを五郎には似ていないと評した。純にはそれがなんとなく嬉しかった。みどりは五郎に会いたいと懐かしそうに話すのだった。

草太(岩城滉一)とつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)、そして雪子(竹下景子)が三角関係になっていることは正吉にすら知られていた。ふたりはマセた言葉を交わし、彼らの愛憎劇を面白おかしく見ていた。

その頃、つららが五郎を訪ねていた。
つららは、草太が自分にプロポーズしてくれたことを打ち明けた。しかし、雪子が帰ってきた途端に態度が豹変したと訴えるのだった。つららは物分かりのいい女になりたいと願っている。けれども、自分がどんどん嫌な女になっていることを自覚しているなどと一方的に話し続けた。
つららは、草太と雪子の仲がどの程度進展しているのか五郎に尋ねた。しかし、五郎は自分は恋愛については疎いなどと言い訳して答えようとしなかった。ところが、無器用な五郎の表情は真実を雄弁に語ってしまっていた。つららは、五郎はいい人だと評し、寂しそうに帰って行った。

1月5日、草太は雪子、純、螢、そして正吉をつれて大雪山へスキーに出かけた。
まさにその日、令子(いしだあゆみ)が麓郷に突如現れた。中畑(地井武男)の家を訪れ、五郎の家の場所を教えて欲しいと頼んだ。五郎は郵便物を中畑の家で受け取るよう手配していたので、令子は中畑の住所は知っていたが、五郎の家の住所までは知らなかったのだ。
中畑は令子を案内してやることにした。無視したとしても、令子は手をつくしてどっちみち五郎の家を見つけることだろう。それに中畑は、純と螢が留守にしていることを知っていた。今なら連れて行っても大丈夫だと判断したのだ。

突然の令子の登場に、五郎はひどくうろたえた。しかし、無下に追い返すわけにもいかず、家へ招き入れた。
令子は水道や電気といった公共設備のない住宅に驚いた。子供たちの寝ている部屋が、もともとは馬小屋だったところであり、2階に上がるにも粗末な梯子しかないことに眉をひそめた。それでも、子供たちの寝室を見ているだけで嬉しくて胸がいっぱいになるのだった。蛍のパジャマを長い間抱きしめていた。

令子は子供たちに会いたいとせがんだ。五郎が立ち会ってでも良いので、ふたりに会いたいと頼み込んだ。
しかし、五郎は、今はそれはできないと言って断った。五郎は、自分の一存で母親と子供たちを引き離すことは許されるべきではないと理解している。子供たちも令子に会いたがっているだろうと想像できる。けれども、まだ合わせるタイミングではないと説明するのだった。子供たちは3ヶ月経って、やっと麓郷での生活に慣れはじめた。強くたくましくなり、大きく成長しようとしているところである。そんな矢先に令子に会ってしまうと一気に里心が付き、これまでの成長が水泡に帰してしまうおそれがあるというのだ。1年か2年して、ふたりが十分に成長しきったら令子に会わせると約束した。そして、その時に、子供たちに好きな生き方を選ばせようと提案した。
令子はそれを受け入れた。

その代わりに五郎は、令子が遠くから子供たちの姿を見ることを許した。翌日の昼ころに子供たちを外に出し、中畑の車の中から見えるように手配するというのだ。令子はそれで納得した。
五郎は外で待っていた中畑を呼び寄せ、子供たちが帰ってくる前に令子を彼の車で帰らせた。

純と螢、雪子が帰宅した。
螢は家の雰囲気が違うことを察知し、来客があったのか五郎に尋ねた。しかし、五郎は中畑以外に誰も来ていないと嘘で答えた。
続いて、純は戸棚の上にデパートの包装紙で包まれた箱があるのに気づいた。それは五郎にとっても不意打ちだった。五郎は慌てて包みを奪うと、無造作に中身を取り出した。中からは、電池で動くカセット・ラジオが出てきた。五郎は純と螢へのお年玉だと嘘をついて手渡した。文明的な贈り物に純はたいそう喜んだ。

その隙に、五郎はデパートの包み紙やラジオの箱をまとめ、外に出て迷うことなく焼いた。様子がおかしいことに気づいて追ってきた雪子に、五郎は令子が来たことをこっそり打ち明けた。次の日に車の中から子供たちを見させる予定であることも告げた。五郎は自分は残酷なことをしているかと雪子に尋ねるが、雪子は何も答えなかった。

そんなふたりの様子を見ていた螢は、ますます不審に思うのだった。
夜中に、螢は隣で寝ている雪子を揺り起こした。寝室がなぜかきれいになっている上、自分のパジャマに令子の匂いが付いていると指摘し、令子が来たのではないかと聞いた。雪子は蛍のパジャマを嗅いで見せ、気のせいだと言ってごまかした。しかし、螢は納得がいかなかった。

翌日、五郎は風力発電機を作る計画を発表した。これまでせっせと描きためた設計図を披露し、今日は木を切ってプロペラを作ると宣言した。一同は外に出て作業を始めた。五郎がのこぎりを持ち、純と螢には木を抑える役割を与えた。
そこへ、中畑の車がやって来て、少し離れた所に停まった。純と螢はそっちへ迎えに行こうとしたが、五郎は木から手を離すなといって止めた。中畑が一人で近づいてきたので、五郎はのこぎりを純に任せ、中畑と立ち話を始めた。
その見せ場を、令子は言いつけ通りに中畑の車の中からじっと覗いていた。

間の悪いことに、草太が車でやって来た。中畑の車の横に自分の車を停めた。そして、家の方へ歩いてくる途中で、中畑の車に見知らぬ美女が乗り込んでいることに気づいた。草太は中畑をからかうように、遠くからこの女は誰だなどと叫ぶのだった。
雪子は慌てて草太の方へ走っていった。草太の腕を取ると、彼の車の方へ押し戻した。中畑の車にさり気なく近づいて、令子に姿を隠すよう指示した。そして、草太を車に押しこめ、自分も乗り込んで発進させた。
大人たちの奇妙な様子に、純は中畑の車が気になった。目を凝らして車の中の人物を確認しようとしたところ、螢が手を休めるなと叱咤した。言われるままに、純は木を切り続けた。

中畑は頃合いだと見て取り、用事があると言って帰って行った。令子は走る車の中から、ずっと子供たちの方を振り返ってみているのだった。そして、そのまま旭川空港から飛行機で帰京した。
令子が去ったのを確認すると、五郎は作業の終了を宣言した。純と螢を連れ出してソリ遊びに興じた。3人とも心の底から楽しんだ。

その頃、雪子は草太に事情を話していた。話を聞いた草太は怒りに駆られた。螢がうすうす勘づいていると聞いて、ますます腹を立てた。すぐに会える所にいる母子を会わせないでいること、しかも螢の気持ちまで踏みにじる五郎の所業をあまりに残酷だと言って怒り震えるのだった。

五郎は、子供たちを雪山に残し、先に帰宅した。物思いにふけながら、令子の置いていったラジオを手にとった。
そこへ、正吉の母・みどりが訪ねてきた。ふたりは幼馴染みで、20年ぶりの再会であった。会うやいなや、互いに配偶者と別れたことを報告し合い、それがおかしくて笑いあった。片親で子どもを育てる苦労について、互いに同情し合った。
みどりは、離婚に際して子供だけは絶対に手放さなかったことを話した。女にとって子どもは、腹を痛めて生んだのであり、自分の体の一部を切り取ったものだから、何よりもかわいいと言うのだった。みどりは旭川で働いているので正吉とは離れて暮らしているが、彼に会えることが何よりも嬉しいのだと話すのだった。五郎は複雑な表情でそれを聞いていた。

そこへ草太が怒鳴りこんできた。みどりがいるのも構わず、五郎が母と子供たちを会わせなかったことを激しい口調で糾弾した。普段は雪子にデレデレしている草太であるが、今日ばかりは雪子の静止にも取り合わなかった。五郎はうなだれて言われるがままであった。

その時、みどりも口を挟んだ。ただし、草太を加勢するかわりに、草太のことをどやしつけた。人にはそれぞれ、その人にしかわからない、理屈では説明できないような気持ちがある。それをわからないような若造が、他人の心の中にズケズケと入り込むのではないと、草太を撃退した。

場が鎮まり、一同は周りを見渡した。気づくと、ソリ遊びから帰ってきた純と螢が戸口に立っていた。どうやらふたりは話を聞いてしまったようだった。

夕食の時間になった。五郎と雪子は気まずそうに俯いていた。一方の純と螢は、どんなにスキーが楽しいか、目を輝かせてしゃべり続けていた。
頃合いを見て、五郎は令子がラジオを持ってきたことを告白した。

けれども、純と螢は即座に話題を変えた。風力発電装置が完成したらテレビが見られるどころか、電気代もタダだと言って大はしゃぎした。沢から自力で引いてきた水道もタダだし、素晴らしい生活だと言うのだ。純は今は令子のことに触れるべきではないと考えていた。申し合わせたわけでもないのに、螢も同じ気持でいるらしいことがよくわかった。

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フジ『北の国から』第8回

中学生の時、同級生女子から手編みの手袋を貰ったのだけれども、それがあまりに酷い出来で正直迷惑だったのだけれど、せっかく作ってくれたのだからと思って毎日それを履いて通学した「紳士で優しい(自称)」当方が、BSフジ『北の国から』の第8回を見ましたよ。

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1980年12月29日。
五郎(田中邦衛)は仲間たち数人の力を借りて、水道を作る工事をしていた。これまでは森の奥にある沢まで毎日徒歩で水汲みに行かねばならなかった。雪の降る前は純(吉岡秀隆)と螢(中嶋朋子)の役目だったが、根雪になってからは子供の足では無理になった。大人の五郎でさえ、雪に足を取られて水を全てこぼしてしまうなど、不便でならなかった。そこで、森の中を1kmばかりパイプを渡し、家まで水を引こうというのだ。ところが、作業は難航した。どうやら、パイプの中に溜まっていた水が凍って詰まってしまったようだった。何日か前に敷設したパイプはすでに雪に埋もれており、凍結箇所を見つけることが容易ではないのだ。
楽しみにしていた水道が開通できないとわかり、純は不貞腐れた。素人がやるには無理があるので、役場の水道課に頼んで工事してもらった方が良いに決まっていると愚痴を言った。面白くなくなって、純は街まで年賀状の投函に行くことにした。

麓郷の街はいつもより賑やかだった。街を離れて働きに出ていた人々が、年越しのために次々と帰ってきているからだ。バス停では家族を出迎える人々でいっぱいだった。
純は、そんな人々の中に同級生・正吉(中澤佳仁)の姿を見つけた。彼の母・みどり(林美智子)は旭川で働いており、彼女も帰ってくるはずだった。しかし、バスが到着してもみどりは乗っていなかった。正吉は諦めて家に帰ることにしたが、純の姿を見つけると家に誘った。

正吉は祖父・杵次(大友柳太朗)とふたり暮らしである。杵次は街の嫌われ者で、人のよい五郎ですら杵次を避けるほどだ(第5回参照)。ところが、その日は留守にしていた。正吉は隠しておいた酒瓶を取り出してきて、純に勧めた。大人の口ぶりを真似た年末の挨拶をしながら、湯のみに酒を注ぎ、一気に煽った。酒を飲んだことのない純は躊躇したものの、正吉の手前口を付けないわけにもいかなかった。意を決して啜ってみると、ほとんど水だった。正吉がいうには、ほんのちょっとだけ残っていた酒に水を足したものだという。純も大人が酒を呑む真似をした。
正吉は純の家にテレビが無いことを知っているので、大晦日に紅白歌合戦を家まで見に来るよう誘った。正吉は八代亜紀の『雨の慕情』のものまねをしてみせるのだった。その流行歌のことを知らない純は、自分が遅れていることを恥ずかしく思った。だからどうしても紅白歌合戦を見に来たいと思った。しかし、五郎がそれを許さないだろうと思い、返事を濁した。
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12月30日。
純が目を覚ますと、五郎はすでに森に入ってパイプの凍結場所を探していた。けれども、結局場所を特定することはできなかった。
五郎が作業をしていると、杵次がふらりと現れた。杵次は役場に顔が利くので水道工事を頼んでやると申し出た。しかし、杵次の世話になりたくない五郎は素っ気なく断った。続けて杵次は、五郎の家に電器やテレビのないことを指摘し、大晦日に子供たちを自分の家に寄こすよう言った。これに対しても、五郎は気のない返事をした。杵次はそれ以上は食い下がらず去っていった。ただし、去り際に、人の好意は素直に受け取れと忠告するのだった。

その頃、麓郷では雪子(竹下景子)のことがちょっとした噂の種になっていた。10日ほどで麓郷に戻ってくると言っていたのに、もう1ヶ月近くも東京に行ったままだったからだ。草太(岩城滉一)が毎日駅で雪子の帰りを待っていることもみんなに知られており、ちょっとした笑い者になっている。

東京の雪子は、二度と来ないと誓っていた(第6回参照)下北沢に来ていた。年末の買い物客でごった返す商店街の中に、雪子は元愛人の井関(村井国夫)の姿を見つけた。井関は妻子と共に買い物に来ていた。井関も雪子を見つけ、ふたりは人垣を介してしばし見つめ合った。
雪子は自分の立っていた場所に紙袋を置いて立ち去った。井関は妻子の目を盗んで近づき、それを拾い上げた。中には手編みのマフラーが入っていた。メモには「気に入らなかったら捨てて下さい。北海道に帰ります」とあった。井関はマフラーを袋に入れ、元あった場所に戻した。そして、家族と一緒に立ち去った。雪子は物陰からその一部始終を見ていた。

そんなことを知るはずもない草太は、今日も布部駅で雪子の帰りを待っていた。汽車は到着したが、やはり雪子は乗っていなかった。諦めて駅を出ると、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)が待っていた。草太は彼女を無視して立ち去ろうとしたが、つららは話があると言って誘った。
つららは、麓郷を出て旭川で暮らすと言い出した。遠回しに、キャバレーなどの水商売で働くことをほのめかした。聞いていた草太は、ぶっきらぼうにうちの嫁になると思っていて父(大滝秀治)と母(今井和子)もそのつもりで楽しみにしていると答えた。しかし、その言葉はつららの決意を変えさせなかった。草太は両親の意思を伝えただけで、草太自身の意思を言わなかったからだ。つららは、草太が自分に愛情がないことを知っており、雪子に完全に心を奪われたことを知っている。
草太は、もう雪子のことは諦めたと応じた。そもそも、田舎者の自分と、都会の洗練された女性である雪子とでは釣り合いが取れないというのだ。まるで、五郎と令子(いしだあゆみ)のように失敗することが目に見えていると話した。
草太は、ぼそりと「一緒になるべ」とつぶやいた。つららは、その言葉は草太の本心ではないと分かっていた。それでも、そう言ってくれたことが嬉しかった。

12月31日。
五郎はやっとパイプの凍結箇所を見つけた。そこを溶かし、ついに手作りの水道が開通した。五郎と純、螢は抱き合って大喜びした。さっそく米を研いだり、顔を洗ったりした。冬の川から引いた水はとても冷たかった。しかし、その冷たさが一向に苦にならないほど嬉しいことだった。

夜、五郎はとても機嫌が良くなった。純と螢が正吉の家にテレビを見に行くことを自ら許可した。ふたりを車で送って行き、中畑の家で時間を潰した後、紅白歌合戦が終わる頃に迎えに行くという算段を整えた。

正吉の家に着いた純と螢は、大喜びで家に近づいていった。しかし、家に入ることが躊躇われた。外から覗くと、正吉の母・みどりが帰ってきており、正吉とじゃれ合いながら水入らずの様子が見えたのだ。しばし絶句し立ちすくみ、ふたりは歩いて家へ帰って行った。

中畑の家に着いた五郎も同様だった。中畑の家に家族や親戚が集まって愉快にしている様子が外からわかった。五郎はそれを邪魔する気になれなかった。一人で家に帰り、年賀状の続きを書くことにした。
五郎は、令子への年賀状を書き始めた。子供たちが元気であることを書いた。令子の様子を尋ねる一文を書いた。その後、しばし迷った挙句、五郎自身の近況報告を書こうとした。その時、子供たちが帰ってきた。五郎は手を止めて、書きかけの年賀状を隠した。
五郎は予定よりも早く帰ってきた理由を尋ねたが、ふたりは黙ったまま答えなかった。そこで、3人で富良野の夜景を見に出かけることにした。

富良野の街の灯は美しかった。
五郎は子供たちに優しく語りかけた。家の灯りひとつひとつに、それぞれの大晦日がある。我が家では紅白歌合戦は見れないが、自分たちだけの大晦日はある。純と螢のこの1年の頑張りに感謝しており、それを一生忘れないと告げるのだった。
それに加えて、五郎は凉子先生(原田美枝子)に言われた言葉を思い出した。五郎と純が互いによそよそしい敬語で話すのが奇妙だというのだ。そこで五郎は、今を限りに、純によそよそしい話し方をするのをやめると約束した。純にも同じ約束をさせた。
そして3人で、富良野の街に向かって「さようなら、1980年!」と叫んだ。

家に帰ると、なぜか家に灯りがついていた。雪子が突然帰ってきていたのだ。皆、大いに喜んだ。
そこへ、草太とつららがご機嫌で初詣に誘いに来た。ところが雪子の姿を見た途端、ふたりの態度は正反対となった。草太は有頂天になって喜んだ。一方のつららは能面のような沈み込んだ表情になった。

その頃、令子は、新年の準備をする客の対応で遅くまで仕事をしていた。長い一日が終わり、無人になった美容室で孤独にタバコを吸うのだった。

草太とつららは去り、黒板家では五郎、雪子、純、蛍の4人が大はしゃぎしていた。

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フジ『北の国から』第7回

今週、週刊現代フライデーを購入し、両誌ともにエロい袋とじがついていたのだが、どうにもそれを開いて見る気が起きず「俺のアッチ方面は枯れてしまったんだなぁ・・・」と切なくなった当方が、BSフジ『北の国から』の第7回を見ましたよ。

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12月も半ばを過ぎ、クリスマスが近づいてきた。純(吉岡秀隆)は東京の華やかなクリスマスの雰囲気に憧れた。麓郷では毎日雪かきばかりやらされ、サンタがやって来る気配はどこにもなかった。

五郎(田中邦衛)は中畑(地井武男)の仕事を手伝い、毎日山で仕事をしている。おばの雪子(竹下景子)は東京に行ってしまった。日中は家に誰も居ないので、放課後の純と螢(中嶋朋子)は中畑の家で過ごした。中畑の娘・すみえ(塩月徳子)は純と同級生であり、一緒に勉強をするためだ。しかし実際には、純と螢は中畑の家にあるテレビに夢中になっていた。また、夕食も中畑の家で食べていた。中畑の妻・みずえ(清水まゆみ)は料理が上手だった。純は、みずえの料理を食べると、無性に母・令子(いしだあゆみ)のことを思い出すのだった。

中畑の家の電話が鳴った。東京に住む親戚の家に子供が生まれたのだという。電話で楽しそうに話している中畑らを見ていると、純は電話が気になってしかたがなくなった。以前、東京から来た弁護士(宮本信子)が令子に電話をかけてくれたのに、それに出ずに逃げてきたことを思い出したのだ(第4回)。逃げた日の夜、夢に令子が出てきて電話で話がしたかったなどと言っていたことも思い出された。

ある日、家の者が全員お使いに出かけるなどして、偶然に純が中畑家で一人で留守番することになった。その隙に純は東京の令子に電話をかけた。ところが、純は令子が電話に出ても無言のままで、何もしゃべらずに電話を切ってしまった。なぜか話すことができなかったのだ。

別の日、中畑の材木店の1年の仕事が終わった。中畑の家に従業員やその家族が招待されて慰労会が開かれた。五郎たちも招かれた。純は、みんなが宴会で盛り上がっているのを見計らい、中畑の家と棟続きの事務所に忍び込んだ。そこから再度、令子に電話をかけた。電話に出た令子は、純からの電話であると勘付いていた。またしても黙り込んでいる純であったが、令子から何度も名前を呼ばれて、ついに返事をした。純から電話がかかって来たことを喜んだ令子は涙を流しながら純にあれこれと話しかけた。しかし、いつ人に見咎められるかと思うと、純は気が気ではなかった。人が来るからと言って、ろくに話さずに電話を切ってしまった。

翌日から五郎は自宅裏の森に入って何かの作業を始めた。純と螢は、五郎が手伝ってほしそうにしている様子には気づいていたし、五郎が一緒にいるので中畑の家に行く必要もなかったのだが、中畑の家に入り浸った。五郎には勉強するためだと言い訳をした。けれども、純は力仕事が大嫌いだったし、中畑の家でクリスマスパーティーの準備をするのが楽しみだったのが本当の理由だった。

それに加えて、純はもう一つの秘密の計画があった。令子に電話をかけて、螢と話をさせてやろうと思っていたのだ。事前に螢に話すと、彼女は五郎に義理立てして断るので、ギリギリまで秘密にしていた。またしても中畑家の人がいなくなり、純と螢だけが残された。純は事務所に忍び込んで電話をかけると、螢を呼びつけた。そして、螢に受話器を手渡した。
何も疑わない螢は、受話器を耳に当てた。すると、令子の声が聞こえた。螢は放心し、電話を切ってその場を逃げ出した。
螢は怒った。五郎に告げ口しないと約束してくれたが、それから純とは口を利かなくなった。

12月24日になった。学校は今日で終わり、1月20日まで長い冬休みが始まる。
五郎は学校までふたりを迎えに来た。そのついでに、凉子先生(原田美枝子)に挨拶をした。すると、涼子から螢の不審な行動について聞かされた。前日、涼子が目を離した隙に螢が職員室に忍び込んで、どうやら令子に電話をかけていたようであると言うのだ。涼子はそれに気づいたが隠れていたという。しばらくして、螢は何事もなかったかのように裏口から帰って行ったという。
五郎は驚いた。そして、純ではなく、確かに螢だったかと確認した。涼子が螢だったと答えると、五郎は複雑な表情を浮かべた。

話を終えた五郎は、子供たちと合流した。純は中畑の家のクリスマスパーティーに行く許可を求め、五郎は許した。螢は行きたがらなかったが、五郎が行くように命じた。ふたりと別れ、五郎は一人で家へ帰って行った。

中畑の家で、純と螢はクリスマス・イブを楽しんだ。しかし、これからいよいよ食事だという段になって、中畑がふたりを家まで送って行くと言い出した。料理は箱に詰めたから、自分の家でパーティーをやれと言うのだ。螢は素直に従ったが、純は不貞腐れながら帰路についた。
家に着くと、中畑は純に説いた。中畑は、五郎の寂しい思いを察しろと言うのだ。令子と別れて純は寂しい思いをしているだろうが、五郎はそれ以上に寂しい思いをしていると言うのだ。なぜなら、純が生まれるずっと前から、五郎は令子と一緒にいたのだ。それに、五郎は子供たちのために一生懸命努力していると言う。たとえば、寝ている子供たちが凍えないように、夜中に何度も起きてストーブの火が消えないようにしていることを教えた。純はそれを初めて知った。
さらに中畑は、純の態度を責めた。純は怠け者で、妹の螢よりも家の手伝いをしていない。麓郷での生活はただでさえ厳しいのに、東京のように人に頼ることもできない。自分の面倒は自分で看る必要がある。特に純は、一家の長男としていつでも家を支えられるようにならなくてはならない。それが一切できていないと、中畑は優しくも手厳しくたしなめるのだった。
純は中畑の言葉に打ちのめされた。ことごとく、中畑の言うとおりだった。自分は男なのにいつも女々しく、力仕事をサボってばかりで、ずる賢くて口ばかりだと反省した。

家に帰ると、純と螢へのクリスマスプレゼントとしてスキーが置いてあった。クリスマスプレゼントは靴下に入れてあるものだと思った五郎は、スキーを靴下に入れようとしたようだ。しかし、当然入らないので、スキーの先に靴下がはめてあるのみだった。純はそれが可笑しくも、嬉しかった。

その晩、親子3人は1階のストーブのそばで並んで寝た。螢は、内緒で令子に電話をかけたことを五郎に自ら打ち明けて謝った。五郎は、令子は喜んでいたことだろうと言い、螢とどんな話をしたのか優しく問うのだった。

純も、内緒で電話をかけたことを白状しようとした。しかし、なんとなくタイミングを外してしまい、言い出せなくなった。
その晩、純は夢を見た。森の奥からキャンドルを手にした行列が歩いてきた。列の先頭には、五郎と令子、螢がいた。純は脇からそれを見ており、呼びかけるのだが誰にも気づいてもらえなかった。純は疎外感を感じ、泣きながら涙を流した。

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フジ『北の国から』第6回

今日、関東地方は雪が降って大変だったわけだが、神奈川県内でも相模川を挟んで北側(座間市や相模原市)は大雪だったけれど、南側(厚木市)はぜんぜんたいしたことがなく、「川1本で気候がぜんぜん違うのだなぁ」と神奈川県民経験値がまた少し上がった当方が、BSフジ『北の国から』の第6回を見ましたよ。

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麓郷は根雪が深くなった。純(吉岡秀隆)は厳しい冬に辟易した。

雪子(竹下景子)がマフラーを編み始めた。螢(中嶋朋子)は、雪子から草太(岩城滉一)へのクリスマス・プレゼントだと予想した。その考えを純に話したところ、まるでメロドラマのようだと言って純は興奮した。ふたりは、雪子は草太のことが好きなのだろうと考えた。

その予想はふたりだけの秘密だったはずなのに、純は調子に乗って草太にすっかり話してしまった。
以来、草太はすっかり様子がおかしくなった。急ぎの用もないのに夜遅くまで牛舎に入り浸って仕事に没頭したかと思えば、夜はなかなか寝付けなくなり、自分は不眠症になったと周りに言いふらしはじめた。

草太は友人の川島(小松政夫)に相談した。川島の答えは、モジモジしないで、さっさと口説けというものだった。小細工をせずに、押さえこんでキスをすれば、どんな女も喜ぶというものだった。

そんな矢先、螢は重大なことに気づいた。雪子の編んでいるマフラーには「T I」というイニシャルが編み込まれていた。それは、北村草太とは明らかに違うものなのだ。純は、草太に誤った期待を持たせてしまったことで大いに慌てた。

その頃、雪子と草太は車の中でふたりっきりだった。草太が雪子を呼び出したのだ。しかし、草太の態度は終始落ち着かなかった。雪子が不審がりはじめたころ、草太は雪子を抱き寄せ、強引にキスをした。
純は、その日を境に雪子と草太の様子がおかしいことに気づいた。草太が雪子のことを呼び捨てにするようになったのだ。明らかに距離が近づいているように見えた。

それから何日かして、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)が訪ねてきた。つららはふさぎこんでいる様子で、雪子とふたりっきりで話をした。
つららは、雪子のような都会暮らしに慣れた女は北海道の農村に永住することは不可能だと告げた。いくら好きな人ができたからといって、並大抵の努力では農家の嫁になることはできないと言う。そして、つららは自分が草太の嫁になって、彼の農場を一生手伝っていく決意をすでに固めていると話した。けれども、草太が雪子に惚れ込んでしまった。雪子に農家の嫁になる覚悟がないのなら、すぐに麓郷を出て行って欲しいというのがつららの願いだった。
冷静に聞いていた雪子は、つららの立場に同情した。けれども、つららに反対した。誰かが誰かを好きになってしまったら、それはそれで仕方のないことだというのが雪子の意見だった。続けて、現在の自分は草太に対して特別な感情は抱いていないと言い切った。その上で、自分がどこで暮らそうと、人に指図される言われはないと言って、つららの要求を拒絶した。
その後、つららは黙って帰って行った。雪子は彼女を見送ろうともしなかった。2階の寝室から盗み聞きしていた純は、雪子の冷たい一面を初めて見て、軽い衝撃を受けていた。

つららが帰った後、雪子は風呂焚きを始めた。一人で作業していると、昔の出来事が思い出された。
下北沢の喫茶店で、かつての愛人・井関(村井国夫)から別れ話を切り出された時の様子だ。井関は、いつか偶然再会した時に和やかな関係が作れるよう、握手して別れようと提案した。けれども雪子はきっぱりと拒絶した。本当に別れるなら、いつか再会する可能性など考える必要がないと言うのだ。そして、別れた後は井関の住む下北沢には二度と来ないので会う可能性はないと告げた。相手と出くわすような場所には絶対に足を向けない、人と人が別れるとはそういうことだと雪子は説くのだった。
回想から意識を戻した雪子は、タバコに火をつけた。その時のマッチは、かつての下北沢の喫茶店の最後のマッチだった。

その晩、五郎(田中邦衛)は草太の父である清吉(大滝秀治)に呼び出されていた。
清吉の質問は、雪子は草太に気があるのかという事だった。五郎は笑いながら否定するが、清吉はなおも食い下がった。草太自身が、雪子と相思相愛だと言っているのだという。清吉は、若者同士の恋愛は応援したい一方で、跡継ぎである草太が家を出て行くことを心配しているのだ。元々、草太は都会で仕事をしたがっていた。それを何とか説得して、牧場の跡継ぎとさせることができた。雪子はいずれ麓郷を出て行くと思われる。その時に、草太が後を追うことを心配しているのだ。
清吉は、雪子に永住する意思があるのかどうか、確かめて欲しいと五郎に頼むのだった。

家に帰ってきたが、五郎は雪子に話を聞くことができなかった。
すると雪子が、突然、一度東京に戻ると話し始めた。姉・令子(いしだあゆみ)に預けている荷物の整理のために、10日ばかり帰京すると言うのだ。それを口火に、五郎は清吉に頼まれた質問を雪子にぶつけた。しかし、雪子の返事は煮え切らなかった。それについては、東京でゆっくり考えたいと言うのだ。五郎は、今日のところはそれで納得した。

翌々日、雪子は東京へ旅立った。純と螢は、母・令子に「元気にしています」とだけ言付けた。雪子はすぐに帰ってくると約束したが、その他は口数が少なかった。純と螢は、雪子がもう帰ってこない気がした。
雪子が帰った日の夜、何もしらない草太が家に遊びに来た。五郎から雪子の帰京を聞かされて、草太は激しいショックを受けているようだった。

その晩からまた雪が降りだした。

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NHK『おしん』第7-12回(第2週)

このドラマのまとめ記事はもうやめようかと思ったんだけれど、当ブログを読んだ人から「おしんって、子供時代から始まるんじゃなくて、老婆の回想という構成なんだね。知らなかった!」と言われ、ちょっと役に立ったなと思うと嬉しくなり、もう少しがんばろうという気になった当方が、NHK連続テレビ小説アンコール『おしん』の第2週を見ましたよ。

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(第7回)
明治40年。
山形の寒村の小作農の娘として生まれたおしん(小林綾子)は、口減らしのために奉公に出されることになった。おしんの年季は1年で、その対価として米1俵が先払いされた。

明日、おしんは旅立つ。母・ふじ(泉ピン子)は、おしんの旅立ちのために白米をたっぷりと炊き、家族全員で食べた。父・作造(伊東四朗)は貴重な米を無駄に使うなと怒るが、ふじは聞く耳を持たなかった。ふじは、おしんの奉公おかげで良い米が食べられると感謝すると共に、辛い思いをするだろうから今のうちにたっぷりと食っておけというのだった。

その夜、おしんが目を覚ますとふじが縫い物をしていた。ふじは、自分が嫁入りの時に持ってきた着物をおしんのために仕立て直していた。貧乏のために多くの嫁入り道具を売り払ってしまったが、その着物だけは手放さずに残していたのだという。ふじはいつも野良仕事に忙しく、おしんをかまってやれなかった。そのことを心から謝るのだった。それでも、これまでは一緒に暮らしてきて、助け合うことができた。けれども、これからは誰も頼れないので、一人で生きていく覚悟を決めろというのだ。
ただし、どうしても辛抱できなくなった時にはいつでも帰って来いと優しく声をかけるのだった。

翌朝、奉公先の中川材木店の見習い・定次 (光石研)がおしんを迎えに来た。彼は、山で切り出した材木を筏に組み、川下の店まで運ぶ役を担っていた。その筏におしんを乗せて連れて行くのだ。
ふじは猛反発した。通常の船に比べて、筏は危険だし、雪解け水で冷たい川のしぶきがおしんにかかることを心配したのだ。しかし、父・作造はそれで良いと言う。船で送ることになると、自分たちが船賃を負担しなければならない。筏に便乗するだけなら無料だから、文句を言えないというのだった。そう言われると、誰も反対できなくなった。

祖母・なか(大路三千緒)は、おしんにこっそりと50銭銀貨を手渡した。それは、祖母が苦しい生活の中で一生懸命ためたへそくりの全額だった。おしんは祖母の愛情を感じ取り、それを大事にすると誓った。

いよいよ、おしんが家を出た。
母・ふじは川までおしんを見送りに来た。しかし、父・作造は仕事が忙しいといって見送りに行かないと言いはった。むしろ、仕事もせずに見送りに行くというふじに対して悪態をついた。
いよいよ、おしんを乗せた筏が出発した。おしんは、声を限りに母に声をかけ続けた。
母の姿が見えなくなった頃、不意に岸の上に作造の姿を見つけた。その姿を見て、おしんは察した。作造も決して喜んでおしんを奉公に出したわけではなかったのだ。彼も辛い思いをしていたのだ。ただし、家族の前では弱みを見せるわけには行かず、冷たい態度を装っていただけだったのだろうと。

おしんはやっと奉公先の中川材木店に着いた。しかし、筏に酔ってしまい、フラフラになっていた。
出迎えた女将(今出川西紀)や指導係のつね (丸山裕子)のおしんに対する第一印象は最悪なものとなった。思っていた以上に体が小さく、弱そうで、頼り甲斐がないと思われてしまった。

(8回)
おしんは川下りの疲れから眠りこんでしまった。目を覚ますと、薄暗くて狭い物置のような部屋に寝かされていた。そこがおしんの個室となった。おしんは、知らない家で心細くなり、生まれて初めて一人ぼっちの気分を味わった。

目を覚ますと、指導係のつねに連れられて、主人(平泉征/現・平泉成)や女将と面会した。おしんの仕事は、赤ん坊(高階則明)の子守りだった。女将はおしんが7つだと聞いて驚いた。9つの娘が来ると聞いていたのに、騙されたと言うのだ。約束が違うし、おしんは体も小さく幼いので送り返すべきだと主張した。
しかし、おしんは家に帰されると困るといってたてついた。家では下のきょうだいの子守りをしていた経験があるから大丈夫だと胸を張った。主人は、一度来てしまったものは仕方ないし、おしんの芯の強さや面構えが気に入ったといって、雇い入れることにした。女将も渋々従うしかなかった。
ただし、指導係のつねは9つの子が来たと思って扱うと、始めから厳しかった。

その日の夜、おしんは食事が与えられなかった。船に酔った後は何も食べない方がいいと、つねが言い張ったのだ。おしんは何も言えず、それに従うしかなかった。ただし、その日は母が持たせてくれた白米の握り飯があったので飢えを凌ぐことができた。

翌朝。おしんは朝5時に起きることになっていた。炊事と掃除の手伝いを行い、店が始まったら女将の代わりに閉店まで赤ん坊の子守をする約束になっていた。けれども、初日からおしんは寝坊をして、つねにこっぴどく叱られた。
大きな店なので当然白米を食べられると思っていたのに、ここでも大根飯だった。つねが言うには、若い衆を5人も雇っているので、白米だけを出していては持たないというのだ。しかも、おしんはみんなと一緒に朝食を食べさせてはもらえなかった。皆が食事をしている間に掃除をしろと言うのだ。言われるがままに行い、やっと朝食にありつけると思ったら、茶碗1杯分と一切の漬物しか与えられなかった。

そして、子守りの1日目が始まった。乳を与える必要があるから、家からあまり離れるなと命じられた。そして、乳の時間にはオシメの洗濯もやらされた。洗濯は川でやるよう指示されたのだが、雪解け水はまだ冷たかった。
また、おしんにとって赤ん坊はとても重かった。しかも、この赤ん坊はおしんが腰を下ろすとすぐに泣いた。ゆえに、おしんは一日中立っていなければならず、足が棒のようになるのだった。

おしんは、近所の子供らが学校に行く様子を見て憧れた。
見習いの定次は、自分たちのような奉公人は学校へ行っても何の役にも立たないと言うのだった。それよりも、奉公仕事を一人前にする方が先だというのだ。定次も学校には行っていないが、筏の組み方や材木の目利きを覚えた。おしんもつねに一人前に仕込んでもらった方が良いと助言するのだった。

(9回)
実家では、母・ふじがおしんの身を案じていた。何の連絡も来ていないが、便りのないのは良い知らせだと信じるしかなかった。ふじは、自分が字を知っていれば手紙の一つでも書いてやれるのにと悔しがるのだった。おしんにもせめて読み書きだけは身につけさせてやれればよかったと悔やむのだった。

春になった。奉公の辛さは、おしんの想像をはるかに超えていた。それでも、赤ん坊を背負っている時だけは気が休まった。誰にも怒鳴られることなく、比較的自由に過ごすことができたからだ。

ある日、近所の子供たちの後を追って、小学校に行った。窓から教室を覗き、字の読み方をこっそり学んでいた。すると教師(三上寛)に見つかってしまい、おしんは慌てて身を隠した。さらにおしんは学校にとどまり、校庭で遊ぶ子供たちの様子を眺めていた。するとさっきの教師がやって来て、年齢と奉公先を聞かれ、答えた。少し話をしたが、おしんは乳の時間であることを思い出して、慌てて帰った。

その間、中川材木店ではおしんがいないことで大騒ぎになっていた。定次や女将は無事に帰ってきたからと大目に見たが、つねだけはひどい剣幕だった。おしんを張り倒した。つねはおしんを厳しく躾ける必要があると考えていた。おしんの奉公は1年間だけだが、その間に出来る限りの仕事や作法を教えておきたいと思っていたのだ。そのことを周囲に説き、おしんには厳しく当たる必要があると力説した。おしんも、自分の軽率な行動を心から詫びた。

その日の夕方、小学校の教師が中川材木店に訪ねてきた。おしんは、学校に無断侵入したことを厳重注意されるのだと思い震え上がるのだった。

(10回)
教師は主人と女将の前で、義務教育のことを話した。たとえどんな子供であっても教育を受ける権利があるし、保護者にはそうする義務があるというのだ。それは、おしんにも適用されると説得した。しかも、おしんには強い向学心のあることがわかったと言う。どうしても小学校に通わせて欲しいと頼んだ。
女将は反対した。奉公人を学校に通わせるという話は聞いたことがないし、子守りの仕事も大事だというのだ。しかし、主人は賛成する立場だった。どうせ子守りの間は時間があるのだから勉強しても良いし、預かった子供を大切に扱う必要があるというのだ。子守りをしながら通うことを学校が認めるなら、行かせてもいいと言うのだ。それは教師が受け入れた。

すぐにおしんが呼ばれ、本人の意思を確認することになった。おしんは大いに喜び、学校に通えることが決まった。教科書や学業道具は、教師が上級生のお古をかき集めてくれることになった。
それでも、つねは猛反対した。奉公人の分を超えているというのだ。学校に行くなら、罰として昼食を抜くという。それでもおしんは学校に通いたいと言い張った。おしんの決意はそれほど強かった。

翌日、おしんは意気揚々と学校に出かけた。教師は、教室にオシメを替えるための場所とゴザまで準備してくれた。放課後には、おしんのためだけに補講までやってくれた。おしんはカタカナを全て覚えた。

しかし、昼食抜きはさすがに辛かった。学校の帰りに駄菓子屋の前を通りがかり、祖母からもらった50銭で買い食いをしようかと思った。けれども、祖母が大切に貯めた金を使うとバチが当たると思い、踏みとどまった。

(11回)
おしんが学校に通い始めて1ヶ月経った。
つねは、昼飯抜きにすればおしんはすぐに音を上げて、子守りだけに集中するだろうと思っていたのに、そのあてがはずれた。女将は、奉公人に食事を与えないことが噂になると困ると言ってたしなめるが、つねは「奉公人を学校に活かせる方がよほど笑いものだ」と言って、聞く耳を持たなかった。

おしんは、つねの冷たさに耐えていた。それが耐えられるのも、教師の優しさがあったからだ。彼は、おしんのために芋などを持ってきてくれた。それで飢えをしのいでいたのだ。川でオシメの洗濯をしながら、おしんはこっそりと差し入れを食べた。彼にも家族がいるだろうに、やりくりをして自分に食べ物を持ってきてくれることを何より感謝した。

学校の帰り道、おしんは同級生の金太(長谷川幹樹)らに捕まった。教室で赤ん坊が泣き出したのに対して、金太が怒鳴ったのだ。それに対して、教師は金太を叱った。そのことを逆恨みしたのだ。しかも、教師から食べ物までもらって贔屓されているというのだ。おしんを木の棒で打ち付け、二度と学校に来るなと脅した。誰かに告げ口したら、赤ん坊を殴り殺すとまで言うのだった。

そのせいで、おしんは家に帰るのが遅れた。つねにはまたしても叱られるが、女将がおしんの様子のおかしいことに気づいた。手や足から血が出ているのが見えたのだ。おしんは道で転んだと嘘をついた。
その上で、明日から学校に行くのはやめると打ち明けた。女将は誰かに意地悪をされたのかと聞くが、おしんは答えようとしなかった。つねはやっと自分の思い通りになったといって大喜びした。

おしんは、学校に忍び込み、教師から貸してもらった教科書などを机に置いて返した。誰にも理由は告げなかった。翌日、心配した教師が家まで様子を見に来たが、本当の理由は一切答えなかった。勉強が難しくてついていけないから学校を辞めたいという一点張りだった。そして、優しくしてもらったことは忘れないと付け足すのだった。

そうして、夏になった。おしんはもう学校に通っていない。
ある日、定次が声をかけた。山に入り、材木を筏に組んで流す仕事をすることになったという。そのついでに、おしんの実家に寄ることができるから、伝言を請け負うというのだ。おしんは手紙を書くことにした。カタカナばかりであったが、生まれて初めてのことで、徹夜になってしまった。また、何を聞かれても「手紙に書いてある」と答えるだけで、定次はおしんの様子について一切しゃべらないことを頼んだ。

(12回)
朝早く、定次はおしんの実家についた。おしんが学校に行かせてもらい、覚えた字で手紙を書いたのを持ってきたと言うと、母・ふじはたいそう喜んだ。仕事に行くのをやめ、祖母・なかを起こして一緒に手紙を見るのだった。父・作造だけは定次を無視して畑へ出てしまった。

ただし、ふじもなかも字を読むことができなかった。カタカナだけは知っている定次が代読した。
ところが、手紙には嘘ばかり書いてあった。食事を腹いっぱい食べ、家の人は全員優しく、与えられた仕事も楽だと書いてある。定次はおしんとの約束を守り、書いてあること以外は何もしゃべらなかった。それを嘘だと知らないふじとなかは涙を流して喜んだ。定次は複雑な思いだった。

材木店に帰ってきた定次は、嘘ばかり書いてある手紙を読むのが辛かったと話した。それに対しておしんは、どうせ今の様子を直接見られることはないし、帰って会うこともできないのだから嘘でいいのだと答えた。
切なくなった定次は、おしんに嘘を教えた。家でほぼ寝たきりの祖母・なかを見たのに、彼女は病気が治ってみんなと一緒に働いていると話した。母・ふじはお腹が大きくなったと真実とは違うことを話し、おしんの年季が明けて帰る頃には元気な子供が生まれているだろうと言うのだった。

秋祭りが開催された。周りの子供たちは楽しげに駄菓子屋で買い食いをしている。おしんも駄菓子が買いたかった。しかし、祖母からもらった50銭を使う訳にはいかないと思いとどまった。
そうしてすぐに冬になり、根雪となった。この雪が解ければ、おしんの年季が明け、実家に帰れる。もうひと踏ん張りだと、おしんは自分を奮い立たせた。

ある朝、つねが大騒ぎしていた。彼女の財布から50銭が消えたというのだ。食料品の支払いに対応し、炊事場に財布を置いてちょっと目を離した隙に消えていたという。おしんは竈の火を熾していたのだが、金を取って知らんぷりするだけの時間があったという。だから、おしんが盗んだというのだ。

女将はおしんを信用していたが、つねは収まりがつかなかった。おしんを呼んで、裸にして持ち物を調べた。すると、お守り袋の中から50銭銀貨が出てきた。おしんは祖母から貰ったものだと訴えるが、つねは聞く耳を持たなかった。7つの子供を奉公に出すような小作農がそんな餞別を持たせるわけがないと言うのだ。銀貨は取り上げられてしまった。

おしんはオシメの洗濯を命じられて川に向かった。
おしんはその川を下って奉公に来た。その川が自分と実家を繋ぐ糸のように思えた。川に向かって、祖母の大事な金を取られたことを謝った。そして泣いた。

その時、おしんは我慢の限界に達した。もう奉公先には帰らないと決めた。川を上って家に帰ろうと決意し、歩き出した。冬の夕暮れは早く、そして吹雪になった。

* * *

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フジ『北の国から』第5回

今日初めて字幕を表示させたところ、黒板家の娘は蛍ではなく「螢」であることを知った当方が、BSフジ『北の国から』の第5回を見ましたよ。

* * *

五郎(田中邦衛)らの住んでいる麓郷は、元々は東大の演習林だった。その管理を請け負うことで入植を許されたという経緯がある。その請負関係は今でも続いており、森林の伐採を行う際には集落の男たちが大勢駆り出される。無論、五郎もその手伝いに出かけることになった。

その前日、クマ(南雲佑介/現・南雲勇助)が道具の準備や段取りのために五郎の家にやって来た。クマは笠松杵次(大友柳太朗)に気をつけろと注意を促した。杵次は、五郎の父の親友だった老人だ。五郎はもちろん過去に杵次と面識もあったが、忙しさにかまけて挨拶が後回しになっていた。クマは杵次のことについて言葉を濁したまま帰って行った。
純(吉岡秀隆)は杵次に会ったことはなかったが、噂だけは聞いていた。同級生の正吉(中澤佳仁)の祖父であるが、ケチでズルい人間だと悪評が立っていた。純はそのことを家族の前で面白おかしく吹聴した。

すると五郎は、会ったこともない人物の悪口を言うなと純を叱りつけた。
純は、五郎の自分への態度が冷たいと思った。本田(宮本信子)が訪ねてきてから態度が変わったように思った。確かに純は令子(いしだあゆみ)のことを思い出し、未練がましかった。けれども、五郎に情が移り、令子との電話のチャンスを自ら放棄して帰ってきた。それにもかかわらず、五郎が自分に冷たいことを不服に思っていた。螢(中嶋朋子)への態度と比べると、その差は歴然としていた。

翌日、純は五郎が演習林での仕事から帰ってくるまでに風呂を沸かしておくように命じられていた。しかし、純は火を熾すことが苦手だった。マッチの火を白樺の皮に移し、そこから種火を作らなくてはならない。けれども、何度やっても白樺の皮から先がうまくいかない。マッチや皮を無駄にしてばかりだった。
苦戦しているところへ五郎が帰宅した。五郎は無言で道具を奪うと、あっという間に火を熾した。ヘタなら早くから初めて間に合わせろ、などと冷たく言い放ち家に入ってしまった。

食事中も五郎はむっつりしていた。純が学校での出来事を大騒ぎしながら話していると、うるさいと言って叱った。早々に食事を終えると、螢だけを誘って外へキツネを見に出かけた。
純は、ますます自分が五郎に嫌われているように思った。雪子(竹下景子)に相談してみたが、彼女は気休めしか言ってくれなかった。

外に出た五郎は、仕事場で杵次に言われたことを思い出していた。
杵次は、五郎らの住んでいる土地は自分のものだと主張した。五郎に住む権利はないというのだ。五郎の親は、五郎が東京へ家出した後に苦労した。その時に杵次が資金援助し、借金のカタに土地を譲り受けたのだという。五郎には寝耳に水で、激しい衝撃を受けた。五郎はそのことで思い悩んでいた。

その翌日、純と雪子は草太(岩城滉一)に連れられて富良野の街へ出かけた。雪子は美容院へ、純は草太のボクシングジムを見学した。ボクシングの練習をする草太は、いつもの軽薄な様子と違って男前に見えた。
練習後、雪子を待つ間、純と草太は喫茶店に入った。草太は雪子に恋人がいるかどうか、純に尋ねた。草太はかなり雪子に惚れ込んでいた。純はそんな草太をからかうように、かつ、ませた態度で答えた。雪子は恋人と別れたばかりらしいということが伝えられ、草太にもチャンスがあると焚きつけるのだった。

その夜、五郎は杵次を居酒屋に誘い、もう一度詳しく話を聞いた。
しかし、杵次の話は眉唾ものであった。まず、土地の登記はされておらず、土地の譲渡は口約束のみだった。50万円貸したというが借用書もないという。杵次は証人を立てたというが、その人物は3年前に他界している。杵次の主張を裏付けるものは何もなかった。けれども、五郎は父の親友だったという遠慮もあり、強く反論することができなかった。
五郎は、幼馴染みであり、林業の請負もしている中畑(地井武男)に相談した。中畑が間に入ってくれることになった。

中畑の仲裁結果を待つことなく、五郎は家に帰った。
帰宅すると、火は熾っていたが、焚き付け用の白樺の皮があたりに散乱していた。それを見た五郎は激怒し、純を怒鳴りつけた。普通の人なら1週間は使える材料を、純は1晩で浪費する。それにもかかわらず、材料を大事にすることもしないと言っては当たり散らした。見かねた雪子が、自分がやったのだと言って純をかばってくれた。
寝室で、純は雪子に自分は五郎から嫌われているのではないかと相談した。雪子は軽く笑い飛ばして否定したが、雪子にも五郎の態度が気になっていた。

さらに翌日。
杵次は演習林の作業場に姿を現さなかった。中畑の話によれば、五郎の土地の事を問いただしたら、杵次はブツブツと言うだけで、到底本当の事を言っているようには聞こえなかったという。彼の様子を見て、中畑は杵次が嘘をついていると断定した。五郎には気にするなと言って励ました。仕事に来ないのは中畑が断ったのではなく、杵次が勝手にしていることだと付け足した。

その頃、杵次は五郎の家に来ていた。
ちょうど純が家の前で火を熾す練習をしていた。杵次は少々酒臭かったが、親切に優しく火の熾し方を教えてくれた。手ほどきの通りにやると、純にも簡単に火が着けられた。
杵次は昔話を話して聞かせた。このあたりは鬱蒼とした森だったという。熊もたくさん住んでいたし、樹齢500年を越える立派な樹木もあった。そこへ人間がやって来て土地を切り開いた。もちろん、このあたりを切り拓いた入植者の一人が杵次である。粗末な道具や馬しか利用できず、その苦労は並大抵ではなかった。野生生物や大自然を犠牲にもした。それにもかかわらず、若い者たちはこの土地を捨てて出ていく。なんと身勝手なことか、と嘆くのだった。そこまで話すと、静かに帰って行った。
後から聞くと、昔の杵次は「仏の杵さん」と呼ばれていたことがあるという。それが今ではすっかり人が変わったのだという。

その日の夜は、五郎は妙に機嫌が良かった。友人たちも集まって、家で宴会が始まった。酒がどんどん進んだ。
純は、ふと、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)が窓から覗いているのに気づいた。外に出て声をかけると、中にいる草太を呼んできて欲しいと言うのだ。純は家に戻って声をかけるが、草太は面倒くさがって外に出ようとしない。ついには、家に入ってこいと大声で呼びつけた。つららは、来ていることをみんなには秘密にしたかったのだ。声をかけられて恥ずかしくなり、雪の中を走り去ってしまった。

純はつららに同情した。つららが草太に避けられているのと同じように、純も五郎に避けられている。五郎は先日、純が杵次の悪口を言ったことを激しく叱責した。それにも関わらず、今夜は酒を飲んで五郎はみんなと一緒になって杵次の悪口を言っている。明らかな矛盾である。それに、純には杵次が悪人に見えなかった。そう思うと、純は杵次にも同情した。杵次も自分やつららと同じように、みんなから避けられるタイプの人間なのだ。

純は家の中で激しい疎外感を感じた。一人で外に出た。
するとそこへ、螢が餌付けしたキツネがやって来た。純は石を拾ってキツネに投げつけた。ちょうどキツネの様子を見にでてきた五郎と螢がその瞬間を目撃した。キツネは一目散に逃げていった。
怒りに駆られた五郎は、純を張り倒した。合計2発殴った。純は立ち上がると、そのまま森の中に姿を消した。螢は泣き崩れ、五郎はその場に呆然と立ち尽くした。草太が純を追いかけた。

草太は追いつき、純が落ち着くのを待って話を聞いた。純は、五郎は螢だけをかわいがり、自分は嫌われているのだという悩みを打ち明けた。すると草太は不快感を顕にした。草太の見立てによれば、五郎は純が強い男になるようにあえて冷たくしているのだという。五郎は無器用な人間なので冷酷な態度に見えてしまうが、心の底では純を大切に思っていると説得した。
純は草太の言っていることは、詭弁だと思った。しかし、今夜は反論する気になれなかった。草太の口調が男の優しさを湛えていたからだ。

家に帰ると五郎は泥酔していた。
純が寝室に上がると、螢は自分が使っていた湯たんぽを純に差し出した。螢が言うには、五郎は雪子にこっぴどく叱られたのだという。ついには反省し、純のことが好きだと言っていたと教えてくれた。
螢はキツネのことは怒っていないとも話した。キツネはまた来ると信じていると言うのだ。

しかし、キツネはそれきり来なかった。

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フジ『北の国から』第4回

DVD『ボディ』せっかくマドンナ(当時アラサー)主演のエロ映画『ボディ』のDVDがあるというのにそれを見るひまがないよとボヤきつつも、毎日の放送を楽しみにしている当方が、BSフジ『北の国から』の第4回を見ましたよ。

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12月、五郎(田中邦衛)たちが麓郷に住み始めて1ヶ月強が過ぎた。
気温がぐんと下がってきた。黒板家のあばら屋では1階に五郎、2階の屋根裏部屋で純(吉岡秀隆)と蛍(中嶋朋子)、そして雪子(竹下景子)が寝泊まりしていた。就寝中の寒さに音を上げた純は、五郎に何とかして欲しいと訴えた。しかし、五郎は純が自分で何とかしろと突き放すのだった。2階は純たちのテリトリーであり、その中でも男である純が解決するのが筋だというのだ。

五郎は幼馴染みである中畑(地井武男)に仕事を世話してもらった。彼の事業を手伝うのだ。今日は彼の自宅敷地内にある養豚場で作業していた。そこへ本田(宮本信子)と名乗る弁護士が現れた。彼女は令子(いしだあゆみ)の代理人として東京から来たのだ。
本田の使命は、子供たちを令子の手に取り戻すことだった。まず、令子が離婚を望んでいないことを伝えたが、五郎の意志は変わらなかった。続いて、客観的な事実として、以前は五郎が全ての子育てを令子に任せていたこと、子供たちもかなり令子に懐いていたこと、周囲の人々もそう見立てていたことなどを指摘した。その上で、子供たち自身に富良野で暮らすことの同意を取り付けているのかと五郎を詰問した。五郎は黙っている他には何もできなかった。

五郎が黙ってばかりいるので、本田は質問を変えた。この約1ヶ月の間に、令子は3度も子供たちに手紙を送っているのに返事がない事を問うた。返信用の封筒を同封しているのに返事がないので、令子が不審がっているというのだ。中畑家気付けで送れば黒板家に届くはずなのに、何かトラブルでもあったのかと問いただした。
確かに五郎に手紙は渡されていた。ところが五郎が処分していたのだ。五郎は、本田に対しては子供たちに手渡しているし、彼らも読んでいるはずだと嘘をついてごまかした。
五郎は令子との話し合いを思い出していた。令子は五郎に恨まれてもいいし、財産もいらないかわりに、子供だけは手放したくないと強く言っていたのだ。

家に帰ると、蛍が一人で2階の寝室の壁にビニールを張り付けていた。それですきま風を防ごうとしているのだ。一方の純は、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)の家にテレビを見に行ったので留守だった。五郎は蛍のことが愛おしくなり、頭を抱きしめて撫でた。そして、蛍を手伝ってやるのだった。
その直後、純が帰宅した。蛍に仕事を任せっきりにして遊びに行ったことがばれたので、純は気まずそうにした。対する五郎も、複雑な表情をして何も言わなかった。純の頭に軽く手をのせると、釘を打ち付けるための金槌を純に手渡して部屋を降りていってしまった。

翌日の学校帰り、純と蛍は本田に声をかけられた。見知らぬ人間が自分たちの名前を知っていることで、ふたりはひどく怯え、警戒した。本田は純の腕を掴み、令子からの手紙を見たかと尋ねた。純は黙って逃げようとするものの、困惑した表情を浮かべた。それで全てを悟った本田は、令子から預かってきた手紙を純に渡した。しかし、純と蛍はそれを投げ捨てて逃げ帰った。

それでも純は、本田の言ったことが気にかかった。中畑の家で確認したら、令子からの手紙が来ていたことは事実だった。中畑が五郎に引き渡したことも間違いなかった。五郎が手紙を隠していることが判明した。
その日の夕食。五郎は仕事からまだ帰らなかった。雪子にモーションをかけている草太(岩城滉一)が来て食事をしていた。純は素知らぬふりをして、令子から一つも頼りがないのはおかしい、もしかしたら五郎が隠しているのではないかと問うてみた。しかし、雪子も草太も、五郎がそのようなケチなことはしないはずだと言って笑い飛ばした。

ちょうどその時、五郎が家にたどり着いた。家の外から純たちの話し声が全て聞こえてしまった。
家に入ると、五郎は純に手紙を渡した。日中、本田にもう一度会い、託されたのだ。そして、明日本田の宿泊しているホテルに連れて行くので、そこで本田と話せと命じた。
そして五郎は、令子からの手紙を全て焼いたことを白状した。中畑にも雪子にも知られないよう全て自分一人で行ったと告白し、彼らの濡れ衣を晴らした。そして、自分は軽蔑されて当然だと言うのだった。

純は2階の寝室で、一人で一心不乱に母からの手紙を読んだ。一方の蛍は、全く興味がなかった。一人外に出て、キタキツネを餌付けしようとしていた。

五郎は東京での出来事を思い出していた。
その日、急に予定が変わり、五郎の夜勤がキャンセルになった。そこで、五郎は蛍と連れ立って、令子の美容室まで彼女を迎えに行った。店はすでに閉店しており、入り口も閉まっていた。しかし、店の中からレコードの音が聞こえてくる。そこで五郎と蛍は裏口に回った。五郎は令子を驚かせようとし、そっとドアを開けて静かに入って行くよう蛍に命じた。
蛍がドアを開けると、下着姿の令子が見えた。陰にもう一人いるようで、その人物の吐き出すタバコの煙が見えた。自分もタバコを吸おうと手を伸ばした令子は、視線の先に蛍と五郎を見つけた。五郎は蛍を抱えて、走り去った。

翌日、五郎は純をホテルに連れて行き、本田に引き合わせた。蛍は来なかった。純がどんなに誘っても彼女は頑なに拒否したのだ。理由は一切しゃべらなかった。

本田によれば、令子は子供たちに会いたくて毎日泣いてばかりいるという。それから、五郎が手紙を無断で破棄したことをなじった。続いて、純は五郎と令子のどちらが好きかと尋ねた。純はもじもじして答えなかった。本田は質問を変え、東京と北海道のどちらに住みたいかを聞いた。これにも純は答えなかった。

純は、本田の話を上の空で聞いていた。純は、本田の吸っているタバコがずっと気になっていた。話に夢中になっている本田は、灰が落ちそうになるのに気づいていない。純はそのたびに灰皿を差し出すのだった。
純は東京の家に住んでいた時のことを思い出していた。当時の令子はハイ・ファイ・セットに凝っていて、五郎が夜勤の日は彼らのレコードばかり聞いていた。その日の夜、純がトイレに起きると、令子がリビングでレコードを聞きながらどこかに電話している様子が垣間見えた。その時初めて令子が喫煙する姿を見た。その日の令子は別人のようだった。令子は電話に気を取られていて、タバコの灰が落ちそうになっているのに気づいていない。五郎はよくタバコの灰で絨毯を焦がし、玲子に叱られてばかりいた。今まさに、玲子が絨毯を焦がしそうになっている。純は部屋に飛び込んで行って灰が落ちると指摘したかった。しかし、どうしてもそれができなかった。後日、玲子が五郎を叱っていた。絨毯にまた焼け焦げを作ったというのだ。しかし、それは明らかに玲子のタバコで焼かれたものだった。ところが、五郎も自分が知らないうちにやったのだと思って疑わず、言われるままに修繕していた。純は真実を知っていたけれど黙っていた。
それから半年ほどで、玲子が急に家を出ていった。

純が追憶から意識を戻すと、本田は相変わらず五郎の悪口を言い続けていた。そして、また灰が落ちそうになったので灰皿を差し出した。
純は耐えられなくなった。母のことは大好きだし彼女に会いたい、東京で暮らしたい、五郎の態度は腹に据えかねる。本田の言うことはいちいちもっともだ。しかし、赤の他人が自分の父の悪口を言うことには我慢ならなかった。

本田は玲子に電話をかけ、通じると受話器を純に差し出した。しかし、純はそれを受け取らなかった。それどころか、走って逃げ出した。自分でも何に突き動かされて逃げているのかわからなかった。駐車場で待つ五郎の元へ一目散に走った。

家に帰ったが、純はその日のことを一切蛍には話さなかった。蛍も何も聞かなかった。

その夜、純は令子の夢を見た。背後では母の好きな音楽がなっていた。そして、電話がどんなにありがたいものか、それを一方的に純に語りかけるのだった。目を覚ました純は、それは夢ではなく、東京で母が本当にそう言っているのだと思った。

* * *

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