第1回「彼だけはやめて」
41歳の星野友美(永作博美)は幸せな毎日をすごす主婦である。
都市計画に関わるエリートで優しくてハンサムな夫・洋介(藤木直人)、および天真爛漫な5歳の息子・健人(高橋來)と3人で穏やかに暮らしている。
息子の出産以来、夫とセックスレスであることが唯一の欠陥ではあったが、それすらも些細な事だと思えるほどであった。
息子・健人を寝かしつけるのも友美の役目であった。息子は友美の髪を掴んだまま寝入ってしまう癖があった。息子を起こさないよう、そっと彼の手を解いて髪を抜く一瞬に友美は幸せを噛みしめるのだった。
ある日、同窓会が開かれることとなり、友美は出席することとした。
友美が通っていたのは女子校であったが、特に仲の良い親友がいた。彼女に久し振りに会うのが楽しみで仕方なかった。
彼女の名は早川薫(石田ゆり子)という。
友美と薫は、性格も育った環境も正反対だった。大人しくて優等生タイプの友美に対して、薫は快活で気っ風のよい性格だった。友美が大学卒業後早くに結婚して家庭に入ったのとは逆に、薫は映画プロデューサーとして第一線で働いている。多数の男性部下たちに向かって、歯に衣着せぬ物言いでバリバリと仕事をしている。自由奔放に生き、今でも独身である。
友美が薫に会うのは久しぶりのことであった。子持ちの主婦とキャリアウーマンでは生活習慣が異なり、なかなか会う機会が設けられないからだ。しばらくぶりの再会で、話に花が咲いた。
ところが、ふと薫が気になることを言った。友美は、息子が自分の髪を掴んだまま眠ることを誰にも言ったことはなかった。なぜかそれを薫が知っていたのである。
友美が問い詰めると、薫は以前に友美から聞いたと言い張るのみだった。
ふたりの仲が険悪になりかけると、もう一人の友人・三浦春子(佐藤仁美)が場を和ませた。昔から、ふたりが言い争いそうになると春子が緩衝材になるのが常だった。少女時代から全く変わらない友人関係を懐かしく思い、その場は収まった。
しかし、帰宅後もう一度思い返してみると、やはり友美には納得がいかなかった。息子が友美の髪を握りながら寝るという事実は、自分を除けば夫・洋介しか知らないはずである。夫がどこかで薫に話したのではないかと疑い始めた。
ある夕、洋介から友美へメールが届き、帰りが遅くなるという。疑いを抱いた友美は、薫のマンションの前で張り込みをした。
自分の思い過ごしであることを祈る友美であったが、そこへ洋介が実際に現れた。そして、薫のマンションへと入っていくのだった。友美は激しいショックを受けた。
ある日、友美は薫を神社の境内へ呼び出した。
そこは参道に長い石段のある神社で、人気が少ない。少女時代によくふたりで秘密の話をした場所である。
友美は、遠回しかつ辛辣に話を切り出した。
友美から見れば、薫は自分に嫉妬しているように思えるのだという。幸せな結婚と出産を経て女性の幸せを謳歌している自分に対して、薫は劣等感を感じているのだろうと指摘した。だから、友美の夫を奪うことで復讐しているのだろうと言うのだ。
薫はもちろん、一方的に言われるがままにするような性格ではない。
友美の人を見下したような態度が昔から気に入らないと反撃した。そして、友美から洋介を奪うために交際しているのではなく、一人の男として愛していると述べた。ましてや、友美の夫だと知ったのは付き合い始めた後であると述べた。
それに加えて、はじめにアプローチしてきたのは洋介の方からだったという。自分から洋介のことを好きになるなどということは、友美の後塵を拝することを意味するので、知っていれば関係は持つつもりはなかったと付け加えた。
さらにダメ押しで、薫は友美たちがセックスレスであることを嘲笑した。自分と洋介はいつも楽しくセックスしていると言って嗤うのだった。
ついに友美は逆上し、薫に掴みかかった。もみ合ううちに、ふたりは石段から転げ落ちた。
しばらく気を失い、目を覚ました時にふたりの心は入れ替わっていた。友美の精神が薫の体に収まり、逆もまた同じだった。
しばし呆然とするふたりであったが、ひとまず、それぞれの体で相手の生活を継続させることとした。つまり、薫の体を持った友美が一人暮らしをはじめ、友美の体を持った薫が夫と息子の家へ帰るのである。
友美(本物)は、薫と会う前に知人宅へ息子を預けていた。友美(入れ替わり)が息子を迎えに行く様子を、友美(体は薫)は物陰から観察していた。
友美(心は薫)がぎこちないながらも息子を迎え入れると、何も気づかない息子は普段通りに接していた。その姿を見ながら、友美(姿は薫)は息子の名を呼びながら崩れ落ちるのだった。
友美(心は薫)が帰宅すると、夫の洋介はまだ帰っていなかった。ばかりか、帰りが遅くなるとメールが届いた。薫(姿は友美)は洋介と逢引する約束だったことを思い出したが、今の姿ではどうすることもできなかった。
息子・健人を寝かしつけると、何も知らない健人はいつものように母の髪を掴んで眠りにつくのだった。
薫(姿は友美)は、複雑な思いに涙を浮かべた。
その頃、友美(姿は薫)は、薫の家で一人塞ぎこんでいた。
そこへ、洋介が訪ねてきた。躊躇する友美(姿は薫)であったが、洋介がなかなか帰ろうとしないので、仕方なくドアを開けた。玄関に入るやいなや、洋介は情熱的に薫(心は友美)を抱きすくめ、熱烈なキスをした。
抗う友美(姿は薫)であったが、洋介の勢いは止まらなかった。服に手をかけられ、拒絶したい心と受け入れたい心とが葛藤した。
そして、ついに体を許すのだった。