『ニシノユキヒコの恋と冒険』川上弘美

タイトルが示すとおり、ニシノヒキヒコという男性の一生をとりあげ、彼にはどんな女性遍歴があり、彼の生い立ちのトラウマが何かということが語られる小説。
ただし、10の小編に分かれていて、それぞれ狂言回しが異なっている。各物語には、ニシノ氏と付き合った別々の女性が登場し、彼女らの視点からニシノ氏がどんな人物であったかが語られるというスタイルになっている。

このニシノユキヒコという人物、僕には結局つかみ所がなくて、なんだかよくわからない男だった。
しかし、「つかみ所がない」というのは多分間違った印象ではなくて、彼と交際のあった女性たちにとってもニシノ氏はとてもつかみ所のない男であったようだ。
けれども、そのつかみ所のなさが、女の子のハートをがっちりと掴んで離さないみたいだけれど。さらに、彼女らの独白によれば、ニシノ氏はハンサムで優しい紳士で、仕事もできるエリートっぽい落ち着いた男性らしい。これだけでずいぶんと女心をくすぐるんだろうけれど、女性の懐に入る甘え上手な上に、セックスも上手いらしいよ。その反面、どこか幸薄そうな影をたたえていて、そのミステリアスさが一層女の子を虜にするらしい。
もう非の打ち所がないですな。僕もあやかりたいくらいだ。

しかし、その完璧さが、女性にとってはちょっと重荷に思えてしまうことがあるらしい。
そんなわけで、ニシノ氏はいつも女性から一方的に捨てられるという悲しい目にあう。
#実際には、そのタネを自分でまいている(浮気性)ということも、コミカルに書かれてるけど。

ここまでニシノ氏をちょっと美化して書いたけれど、見る人が見れば、”だめんず” 何だと思う。
あんな男が世の中にいて、女性を独占していたら悔しいから、僕もニシノ氏をとりあえず「プレイボーイのダメ男」となじっておくことにする。

ただ、こんなことを書いてしまっては、女性の皆さんから抗議の声が上がるかもしれないけれど、女の子だってダメ男に惹かれてしまう気持ちってどこかにあるよね。
ちょっとキケンな臭いのする男に惹かれる気持ち。

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『古道具 中野商店』川上弘美

当blogでもずいぶんとたくさん読書感想文を書き散らしてきたけれど、川上弘美の『センセイの鞄』は印象に残っている小説のひとつであるし、その感想文を書いたときのこともよく覚えているし、実はその時の記事にまつわる後日談も僕にとっては忘れがたいものなのである。

そんなわけで、川上弘美は当方が無条件に追いかける作家の一人である。
無条件に追いかけているだけあって、たまにハズレもある。
『パレード』とか。大好きな『センセイの鞄』のプチ続編という位置づけなのだが、そのシマリのなさに僕はちょっとガッカリした。
むしろ、最近は、「もう川上弘美と決別しようかなぁ」とか思っていた次第。

そんな中、試金石として『古道具 中野商店』を読んでみた。
これを読んで、つまらなかったら、もう川上弘美を買うのはやめよう、と。

結論を言えば、『古道具 中野商店』は面白かった。かなり僕好みのお話だった。
これからも川上弘美を追いかけようと思う。
#実際、今日は本屋で『ニシノユキヒコの恋と冒険』を買ってきた。

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下村泰山にサインをもらった

下村泰山『MAGICSPICE: 魂の旅、アジア、医食同源そしてNYへ』本日14時半頃、かなり遅い朝食兼ちょっと遅い昼食兼ずいぶん早い夕食をとるために、マジスパ(なにわ店)に出かけた。
ものすごく半端な時間にもかかわらず、それなりにお客さんは入ってる。

しかし、客席は半分くらい空いていて、好きなところを選んで座れるほど。
僕は1階の階段の隣であり、スタッフ控えの横である、ボックス席がお気に入りだ。
そこに座ろうと思ったら、先客がいるし・・・。

「ちっ」と軽く舌打ちをしつつ、どこの客だよまったく・・・とガンを飛ばしてみると・・・

ありゃ、某美人妻とその夫じゃありませんか。
即座に合流して、一緒にお食事したり。
ていうか、旦那とは3日前に奈良で一緒にランチをしたばっかりじゃねーか。

そんなこんなで、楽しい食事をし、店を出た。
すると、店の前に黄色いスポーツカーが乗りつけた。

うわっ、マジスパのマスターの下村泰山だ。

そんなわけで、彼の著書『MAGICSPICE: 魂の旅、アジア、医食同源そしてNYへ』を店頭で買い求め、その場でサインをしてもらった。

サインをする泰山氏

気さくにサインに応じてくれたばかりか、自ら筆ペンを探しに行ったりしてくれた。
最初、普通のサインペンをお店のスタッフが用意してくれたんだけれど、「それじゃ、アレだし」ってことでわざわざ筆ペンを取りに行って書いてくれた。
ちょっと感激。

「一辛入魂」としたためてくださいました。
本はまだ読んでないけど。

一辛入魂

『進化と人間行動』を借りた

以前に当blogのコメント欄で、まさか、未読?」とバカにされてしまった『進化と人間行動』を職場の同僚に貸してもらった。

進化と人間行動

そこまで疑り深い人はいないと思うけれど、「前に恥をかいたもんだから、借りたフリをしているだけで、実は入手していない」と思われる可能性もあるから、ちゃんと今日の日付とサインもつけた。
#紙片は、一部で有名なあのメモパッド。

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『おたんこナース』を読む。鼻水をたらしながら。

大型連休も今日で終わり。
ブルーだねぇ。

何がブルーかって、ここ数日風邪をひいている。
4-5日前に喉がイガラっぽくなってきて、「こりゃ、やばいな。連休中に治さなきゃ」とは思っていたのだけれど、普段からの不摂生かつ不規則かつ自堕落な生活のせいで、風邪は悪化の一途。
今日は、ついに朝からエンドレスの鼻水とくしゃみ。

風邪をひいたときはマジスパと相場を決めている当方なので、今日はキツいのを一発いくつもりで “虚空” を食べる。
“虚空” というのは、一番辛いヤツ。いつもは、それよりも1段下の “天空” を食べてるわけだが。

でも、鼻が詰まってるせいか、あんまり味がわからない。あんまり辛い気もしない。鼻水はズルズルと出て、喉も渇いたけれど、汗はあんまり出ない感じ。
体調がおかしいのですな。

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ポタリング: 自転車で散歩する意

吉田戦車の『吉田自転車』を読んでいて知ったのだが、「ポタリング(pottering)」という言葉があるらしい。

goo辞書の記述にによれば:

〔potter・putter(ぶらつくなどの意)から〕
自転車で散歩すること。目的地を定めたり走行計画を立てたりすることなく,気分や体調に合わせて気の向くままに走ることをいう。

とはいえ、某知人夫婦も使っている「ちゃりんぽ」という表現がかわゆくて好きなのだが。

『これも経済学だ!』中島隆信

日常的で身近な例をミクロ経済学の視点(特に、インセンティブの概念を強調する)から説明する本が、近頃たくさんでいているし、僕もたくさん読んだ。
『ヤバい経済学』だの、『まっとうな経済学』だの、『こんなに使える経済学』だの。

最近、中島隆信の『これも経済学だ!』というのを見つけた。
「どんだけ雨後の筍なんだろう。柳の下にはそんなにたくさんのドジョウがいるだろうか。ていうか、もう食傷気味じゃね?」
などと思いつつ、まぁとりあえず、比較検討の意味でも読んでみることにした。

ところが、最初のネガティブな印象とは裏腹に、読んでみたらフツーに面白い。

取り上げられている “日常的で身近な例” は主に3つの分野。
1. 伝統文化 (大相撲、将棋、落語などなど)
2. 宗教 (檀家制度と新興宗教の適応戦略の違いなど)
3. 弱者救済 (特に、身体障害者)

基本的な視点は、競争市場と独占市場との対比で世の中を見る視点。

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『あしながおじさん』(谷川俊太郎訳)

有名な『あしながおじさん』をはじめて読んだ。
こりゃ面白い。

小中学校の女子が読む、子供向けおとぎ話だろうと勝手に思い込んでいた自分を叱りたい。
抑圧された社会に生きていた少女が、女性の権利も尊重すべきだという近代社会の中で自我を形成し自立していく物語だと思って読めば、そのテーマは現代でも通じる(通じるってことは、今の世の中が女性にとって理想的ではないということなのだが)。
もしくは、そんなに小難しいことを考えなくても、少女のカワユいプチ・ロマンスものとして、ホンワカと読める。

この作品のスタイルも特徴的で面白い。
主人公の女の子が、あしながおじさんに書いた手紙という形式になっている。大学入学から卒業までの、およそ4年間にわたる手紙によって全てのストーリーが語られている。

そもそも、主人公が手紙を書くことになった理由は、あしながおじさんにそう言われたからだ。
孤児院で育った主人公は、とある篤志家に文章の才能を認められる。そこで、その篤志家は、学費を全て負担して彼女を大学に行かせることにする。ただし、奨学金の条件として、主人公は篤志家に対して、毎月の様子を手紙で報告する必要がある。
その手紙が、小説『あしながおじさん』そのものになっているというわけだ。

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やらなくてもいいチャレンジ: セックスはなぜ楽しいか

ジャレド・ダイアモンドの『セックスはなぜ楽しいか』という本がある。
ヒトの性行動の謎について、進化生物学の観点から至極マジメにアプローチする本。
マジメなんだけれど、随所にジョークが散りばめていて退屈しない文章。
翻訳もこなれていて、すごく読みやすい。

翻訳は、長谷川寿一
あるとき、僕は長谷川先生の集中講義を受けていたのだが、彼はこの本についてこんなことを言っていた。
この本は “長谷川のピンク本” と呼ばれています。私は、自分で書いた本は全て親にプレゼントしているのですが・・・、さすがにこの本だけは躊躇しました

翻訳者本人が揶揄するこの本。もう何年も前に入手していたのだが、そのタイトルのどぎつさに僕もなんとなく敬遠していた。中身がマトモなことはわかっていたのだけれど。

ほとんどの生物は繁殖期にしか交尾しないのに、なんで人間は年がら年中セックスしたがるのか。
ほとんどの生物は死ぬまで子供を生むことができるのに、なんで人間の女性は閉経してしまうのか。
ほとんどの哺乳類のオスは乳腺や乳首を持っていて、条件さえそろえば授乳することができるはず(ヒトも同様)なのに、なんでメスしか授乳しないのか。

などなど、言われて気づく、性にまつわる不思議な話の謎解きをする、楽しい本。
もっと早く読めばよかった。

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『イン・ザ・プール』 奥田英朗

松村邦洋沢尻エリカを使って連続ドラマを作れといわれたら、どうするか?

『精神科医・伊良部一郎』がぴったりではないかと思う。

第1話「イン・ザ・プール」はゲスト出演として筧俊夫を起用しよう。
主婦向け月刊誌の編集者である和夫(筧俊夫)は、原因不明の体調不良で伊良部総合病院にかかっていた。
内科の医師は様々な検査をするも、原因は分からない。
若い医師はついに、精神科での診察を勧める。

和夫は人気のない階段を下りて地階に向かう。
そこには「精神科」と書かれた古ぼけたドアがある。
おそるおそるドアをノックすると、中から
いらっしゃ~い
と甲高い声が聞こえてきた。

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