NHK『ゲゲゲの女房』第127回

 実はほんのちょっとだけ、本当に少しだけ「まとめ記事もめんどくさくなってきな」と思った当方が、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の第127回めの放送を見ましたよ。

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「おかあちゃんの家出」

 貴司(星野源)から大きな荷物が届いた。藁で手作りした鬼太郎の家の模型だった。いつも鬼太郎の人形で遊んでいる喜子(松本春姫)は大喜びした。茂(向井理)によれば、喜子は想像力が豊かな子供である。想像力を働かせて人形遊びをしているし、おもちゃの電話で貴司にお礼を伝える芝居をしたりしている。
 幼稚園で描いた茂の似顔絵には、本来は生えていない髭が描きこまれていた。絵は自由に描くのが良いと考える茂は、褒めてやるのだった。

 一方で布美枝(松下奈緒)は、茂が忙しすぎて喜子とろくに顔を合わせないために、喜子が茂の顔を思い出せなくなっているのではないかと心配するのだった。

 喜子だけではなく、布美枝自身も茂とのすれ違い生活が顕著になってきていた。布美枝が夜食やお茶を仕事場に持って行こうとすると、出前の方が手軽だ、アシスタントが茶を準備するなどと言って茂は手伝いを断るようになっていた。水木プロダクションの役員に名を連ねている、茂の兄弟らが集まって何やら経営上の深刻な議論を行っているが、布美枝には何も教えてくれなかった。

 そんな時、元『ゼタ』の編集員で深沢(村上弘明)の秘書でもあった加納(桜田聖子)が、他誌の記者として茂の取材に来た。事情通の彼女から、布美枝は水木プロダクションの危機について教えてもらった。ある出版社が倒産し、滞納されていた原稿料を受け取れなくなったばかりか、漫画映画作成に投資していた資金も回収できないという。何も知らされていなかった布美枝は動揺するのだった。

 茂はますます仕事が忙しくなっており、周囲の人々に対しても余裕のない対応をし始めていた。
 鬼太郎のおもちゃに不具合が発生したのだが、購入者は製造元と連絡が取れないという。そのため、水木プロダクションに大量の手紙が届き始めている。しかし茂は、業者が勝手に作っているのだから、自分には関係無いことだと全く取り合わない。
 出版社倒産による損失のことについて、布美枝は茂に慰めの言葉を掛ける。しかし、茂は仕事の事に口出しをするなと頭ごなしに拒絶して、ぷいと出ていってしまった。

 話をする時間が全く取れないので、布美枝は手紙に自分の気持を記して茂の机に置いた。家族なのだから自分も仕事を手伝いたい。むしろ、そうできないことが寂しい。茂の過労が心配でならない。無理はしないで欲しい、など。

 しかし、茂はその手紙を一瞥すると、ゴミ箱に捨ててしまった。翌朝、仕事部屋の掃除に来た布美枝は無造作に捨てられた手紙を発見してしまった。

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喫茶工房まほろば のかき氷

 悲しいことに、当方宅にはクーラーがない。扇風機はある。京都府に住んで7年になるが、なんとなくクーラーを買いそびれてそのままになっている。
 家は高台にあるので夜はそれなりに涼しい(こともある)。平日の日中は会社のビルにいるので涼しい。問題は休日の昼間だ。

 今日は家にいてDVD見るなどしていたのだが、午後になってどうにも暑さに耐えきれなくなった。
 奈良町の樫舎まで豪華かき氷を食べに行こう(参考: 去年行った様子)と思った。しかし、残念なことに、樫舎は10人くらいの待ち行列ができていた。このクソ暑いのに、狭い店内で人と接近して待つ元気はない。もちろん、店の外で待つのでは太陽に灼かれる。
 別にムカついたわけではないが、いやにあっさりと樫舎のかき氷は諦めた。

 このあたりは、奈良町と呼ばれる一帯で、近所にはのんびりしたカフェが多い。どっかそこら辺でかき氷にありつけるだろうと思ったからだ。

 はたして、樫舎から横断歩道を渡って南下すること数十メートル。
 喫茶工房まほろばという店にかき氷の幟が出ているのを発見したので、入ってみることにした。

喫茶工房まほろば

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伝説の山瀬写真: 『篠山紀信写真塾: 跳んでごらん!』

 @JLTKLLさんという人がいるのだが、僕は一度だけ会ったことがある。
 どういう経緯か僕もよーわからんのだが、彼がネット関係の人々と韓国料理屋OFFを開くこととなり、彼の知り合いかつ僕の知り合いという女性(2名)に誘われて、僕も参加した。初対面でどーしたものかと思ったが、韓国料理屋ってのは一度も行ったことがなかったので、興味本位で参加してみた。

 事前の情報は皆無で@JLTKLLさんに会ってみたのだが、(僕に比べれば)少々強面で、ヤクザかと思った。しかも、その日は彼の誕生日だと知った。自分の誕生日にOFF会を開くってどーいうことよ、と思った。
 まぁ、僕の知人には、妻ではなく、自分の誕生日に結婚式を挙行するという「自分大好きくん」がいるので(ヒント: 2月生まれの彼)、それに比べればマシかな、とは思うけど。

 で、初対面の@JLTKLLさんは見た目はおっかないのだけれど、知識の懐が深く、頭の回転の早い聡明な人で感服した。

 どのくらい知識の懐が深いかといえば、僕が山瀬まみのファンだと言えば、
篠山紀信がデビュー当時の山瀬まみを撮った写真を見たことありますか?あれはなかなか興味深い写真でしたよ。なに?見たことがない??ぜひ一度見て欲しいなぁ。
と、即座に言えるくらい懐が深かった。

 僕が山瀬まみのファンだと言えば、10人中8人までが「やばでばびでぶ~」(直訳: 山瀬まみです)と不愉快なモノマネを披露し、何かと当方をイラつかせる人々が多い中、彼の一言は非凡であった。
 ちなみに、残りの2人のうち1人は「あ、知り合いに山瀬まみに似ている女の子がいますよ」と言い(その後、当方が調査すると、松下奈緒よりは山瀬まみに似ているという程度であり、山瀬まみを20年以上見てきた当方に言わせれば、全く山瀬まみではない)、もう1人は「新婚さんいらっしゃ~い」などと桂三枝のモノマネなのか山瀬まみのモノマネなのか判断の付きかねる芸を披露する。
 いいかげんにしろ、お前ら。

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NHK『ゲゲゲの女房』第126回

 中高生の時によく遊んだTRPG『RuneQuest』最新版のPDFがダウンロード販売されていることを知って買おうと思ったが、誰と遊べばいいんだ?と考え込んでしまった当方が、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の第126回めの放送を見ましたよ。

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「戦争と楽園」

 藍子(菊池和澄)は元気に登校した。クラス内にはまだ少しだけシコリが残っていたが、藍子は祖母(竹下景子)の教え通りに気を強く持って立ち向かうのだった。

 布美枝(松下奈緒)は、絹代が藍子を励ましたと知って礼を言い、自分の至らなさを反省するのだった。絹代は、子供は自分の両親には悩みを言いにくいものだ。その代役として祖父母が一緒に暮らしているのだと冗談めかし、深刻に受け取らないようにした。

 『ゼタ』編集長の深沢深沢(村上弘明)が、珍しく自分で原稿を取りに来た。受け取った『近藤勇: 星をつかみそこねる男』のタイトルにあるように、深沢は自分も星をつかみ損ねていると自嘲するのだった。『ゼタ』の経営はまったく良い所がなく、茂(向井理)をはじめ、ほとんど全ての作家に原稿料を支払えない状態にあるという。自分のやり方は時代錯誤であり、そろそろ廃刊すべきだと考え始めていた。

 茂は、自分の戦争体験を綴る『総員玉砕せよ!』の構想を話した。惨めで滑稽な兵隊の日常を描くことで、戦争のバカバカしさを浮かび上がらせたいという。それも戦争。土木作業中にケガで死ぬ、マラリアで死ぬ、川に落ちてワニに食われる。
 「もっと生きたい」という当然の欲求が満たされない状況は不条理である。その思いを全てぶつけて描くと力強く宣言した。

 茂の熱い思いに心打たれた深沢は、自分も『ゼタ』を継続することを宣言する。商業的には失敗し、いろいろな人に迷惑をかけている。しかし、茂のように全身全霊をかけ、骨太な漫画を描く人材がどこかに埋れているかもしれない。それを発掘するという自らの使命を改めて思い知ったのだ。

 『総員玉砕せよ!』は翌年出版され、大きな反響を呼んだ。

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『新幹線、国道1号を走る』読書感想文 by りん母

 りん母さんより、読書感想文大会への投稿がありました。
 【自由図書部門】 にエントリー、『新幹線、国道1号を走る: N700系陸送を支える男達の哲学』(梅原淳・東良美季)の読書感想文です。

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NHK『ゲゲゲの女房』第125回

 昨日は、とても刺激的な研究会に参加させていただき、関係者の皆様どうもありがとうございましたと、ここでこっそりお礼を述べる当方が、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の第125回めの放送を見ましたよ。

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「戦争と楽園」

 ラバウルの玉砕は大本営に報告され、国民の士気高揚の道具として喧伝された。玉砕命令に逆らった三井(辻萬長)らは山に篭ってゲリラ作戦を展開していたが、公式には生きているはずのない兵士と位置づけられる。後に他の守備隊に合流したが、辻褄を合わせるために次回の戦闘で真っ先に突撃して死ぬよう求められた。しかし、幸いなことに終戦まで大きな戦闘も発生せず、三井は生きて帰ってくることができた。

 茂が自分の部隊が全滅して逃げ帰った時も、敵前逃亡だとなじられ、戦って死ぬように命じられた。当時の日本軍は「生きていることが罪」という異常な状況にあったのだ。多くの仲間達はそれを素直に受け入れて死んでいったが、茂や三井は今でもそれを納得できないでいる。
 最近、茂は死んでいった戦友たちの夢を頻繁に見る。そして、彼らは決まって自分たちのことを漫画に描いて欲しいと訴えるのだという。

 藍子(菊池和澄)は祖母・絹代(竹下景子)に自分の悩みを打ち明けた。
 赤木(藤崎花音)を鬼太郎に登場させることはできないと告げると、彼女は「約束したはずだ」といって激しく怒りだした。藍子は「聞いてみる」と言ったにすぎず、約束はしていないと言い返すが、水掛け論になった。クラスメイトたちも赤木の味方をし、藍子は孤立してしまった。誕生会に行くこともできず、母から預かったプレゼントを捨ててしまおうとしていた時に、絹代に出くわしたのだという。

 絹代は、他人がなんと言おうと自分が間違っていなければそれでいい、と励ました。自分は戦時中にも、竹槍やバケツリレーの訓練には一度も参加しなかった。そんなもので戦争に勝てるはずがないのは自明で、バカバカしかったからだと体験談を話した。もちろん隣組の組長が怒鳴りこんできたが、自分の考えは間違っていないと言って追い返した。藍子もそのように振舞えと言うのだ。

 ただし、絹代はひとつだけ藍子の落ち度を指摘した。嘘をつくことは悪い。街で時間を潰し、プレゼントを捨てることで誕生会に行った振りをし、布美枝(松下奈緒)に嘘をつくことは許されることではない。布美枝に告白し、プレゼントを返すことが必要であると諭した。
 藍子は、祖母の言い分に納得し、元気も取り戻した。

 話しを聞いた布美枝は、自分がもっと親身になって藍子の気持ちに耳を傾ければ良かったと反省するのであった。藍子は誕生会の朝にプレゼントを用意しておらず、それは誕生会には行かないというサインだったのだ。強引にプレゼントを持たせて送り出したのは布美枝だった。
 一方の藍子も、自分の歯切れの悪さを反省した。赤木を鬼太郎に出演させるなど、無理なことは分かっていたのだから、始めからはっきりと断れば良かった。また、布美枝に嘘をつく寸前であったことも謝った。

 それに加えて、学校でからかわれても言い返す度胸がないことを反省した。布美枝はそういうところは自分と一緒だと言って、娘の負担を少しだけ軽くしてやろうとした。布美枝は小さい頃から背が高く、「電信柱」とからかわれるがままだったのだ。

 さらに布美枝は、茂から聞いた話をそのまま藍子に伝えた。
 茂は戦争で左腕をなくしたが、そのおかげで後方部隊に配属され、生きて帰ってこれた。腕をなくしたことを悲観しても生きていけない。弱みは誰にでもあるが、工夫して人並み以上に仕事ができるようにしている。
 くよくよせずに前に進むことが重要だという茂の言葉でもって、藍子を励ました。

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NHK『ゲゲゲの女房』第124回

 いまだに、ふと気を抜くと「♪ 口笛吹いて~ 空き地へ行った~ 知らない子がやって来て~ 遊ばないかと笑って言った~」などと歌ってしまう当方が、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の第124回めの放送を見ましたよ。

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「戦争と楽園」

 今日の放課後は、藍子(菊池和澄)の友達・赤木(藤崎花音)の誕生会が開かれる。藍子は、彼女から宿題を見せてもらった見返りに、赤木をテレビの鬼太郎に出演させるよう茂(向井理)に頼むよう言われている。茂に仕事の口出しをしてはいけないことになっており、藍子は茂と赤木の板挟みに悩んでいた。

 布美枝(松下奈緒)は、またしても藍子の気持ちを分かってやれない。藍子が学校のない南の島で暮らしたいと入ったことを、彼女流の冗談だと受け取った。誕生会に行きたくないと言うのは、プレゼントとして編んでいたリリヤンが間に合わなかったからだと、勝手に解釈する。
 布美枝は、密かに作っておいた端布の巾着袋をきれいに包装し、誕生日プレゼントとして藍子に持たせた。

 学校が終わったが、藍子は誕生会に行かないつもりだった。母に渡されたプレゼントを家に持って帰るわけにもいかず、商店街のゴミ置き場にこっそり捨てようとした。偶然、祖母の絹代(竹下景子)が通りがかり、声をかけた。藍子は緊張の糸が切れ、商店街の真ん中であることも顧みず、絹代に抱きついて泣き出すのだった。

 村井家には、茂の戦友だった三井(辻萬長)が、笹岡(井之上隆志)を伴ってやって来た。笹岡は、病気と負傷で弱っていた茂を熱心に看てくれた軍医である。終戦以来会っていなかったが、笹岡は『敗走記』を読んだときに、水木しげるの正体に気づいていたという。笹岡も茂も、飄々として型にはまらない落ちこぼれ軍人同士で、昔から気が合ったという。

 楽しい思い出話は、「楽園」の話題になった。「楽園」とは南方の傷病兵収容所のそばにあった、現地民の村である。茂は笑顔というノンバーバル・コミュニケーションだけで、そこの住民達と仲良くなった。彼らの親切な態度や、自然の中でゆったりと暮らしている様子に大きな憧れを抱いたという。それに対して、日本軍の上官は、茂が勝手に現地民と交流していることに激怒した。あやうく営倉に入れられそうになったところを、軍医の笹岡が必死の思いでとりなしてくれた。笹岡に感謝しつつも、茂はしゃちほこばった日本社会の生き方よりも、現地民の人間らしい生き方への憧憬を深める結果となった。
 そのエピソードを聞いて、布美枝は気持ちが少し分かった。

 もちろん、戦地での暮らしは楽しいことだけではなかった。茂らの所属していた部隊は、敵軍に包囲され、終戦の4ヶ月前に玉砕した。新しく赴任してきた隊長は、若く血気盛んな人物で、潔く散ることこそ帝国軍人の美学だと信じていたのだ。村井家に集まった戦友達は、当時の人々の考え方のバカバカしさを改めて認識するのだった。

 茂は、大怪我を負っていたことで後方部隊に配属され、難を逃れた。人生では何が幸いするかわからないということも、改めて思うのであった。

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NHK『ゲゲゲの女房』第123回

 「イトーさん、どうもお世話になっております。あれはいい仕事ですね。」と突然挨拶をする当方が、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の第123回めの放送を見ましたよ。

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「戦争と楽園」

 布美枝(松下奈緒)は、『敗走記』を初めて読んだ。それは、茂(向井理)が2年前に雑誌に発表したもので、自身の戦争体験に基づくものだ。見せながら、茂はラバウル島で経験した悲惨な体験を話して聞かせる。

 本隊から100km離れてた前線に、茂らは10人の小隊で送り込まれた。早朝、茂が歩哨に立っている時に突如敵に襲われ、味方は全滅した。茂は装備を全て捨て、生きるか死ぬかの逃避行を始めた。
 途中、崖にぶら下がって、敵をやり過ごすことがあった。手もしびれ、死を覚悟し、心のなかで両親に別れの言葉を送った。その夜、母・絹代(竹下景子)は茂が敵から逃げて崖にぶら下がっている夢を見た。茂の窮地だと知った絹代は、あの世に行ってしまわないように、夫(風間杜夫)と一緒に寝室から大声で茂の名を呼び続けた。その声は茂にも届き、力が蘇って、窮地を脱することができた。とても不思議な出来事であるが、復員後、双方の話を突き合わせると、間違いなくそのようなことがあったのだ。

 その後、何日もジャングルの中を抜けて、やっと本隊にまで帰ることができた。しかし、本隊では茂の帰還は歓迎されなかった。命より大切な銃を捨て、敵前逃亡をしたことは恥ずるべき行為だというのだ。次の戦闘では、戦闘で突撃するよう命じられた。あまりの理不尽さと疲労により、茂はその場で倒れてしまった。
 そして、ジャングルで大量の蚊に刺されたこともあってか、マラリアにかかって寝こんでしまった。高熱で寝ているときに空襲に遭い、流れ弾で茂は左腕を失うこととなった。

 一通り、自分の体験を話して聞かせると、茂は引き出しから未発表の漫画作品を取り出して、布美枝に見せた。それは、復員直後にどこに発表するわけでもなく、茂自身の記録として描いた戦争体験漫画であった。
 貸本漫画時代に、茂は戦争活劇漫画を描いていた。しかし、いつかは自分の体験に基づいた「本物の戦争」を漫画にしたいと考えている。先日、ラバウル島を再訪したのもそのための取材の一環だったと打ち明ける。松川(杉本有美)から『敗走記』を大急ぎで仕上げて欲しいと言われたのを断ったのは、全身全霊をかけて描くためには十分な余裕が必要だからである。今は、他の仕事が忙しくて、自分の納得する『敗走記』が描けないのだ。

 ある朝、布美枝は家に客を迎える準備に忙しかった。茂の戦友の三井(辻萬長)が尋ねてくるのだ。彼は宝塚の遊園地の関係者で、1年前に茂が仕事で行った際にばったり再会した。その後、一緒にラバウルに行くなど、親しく付き合っている。ただし、調布の村井家に来るのは初めてのことである。

 ラバウルの話が出たことで、藍子(菊池和澄)は自分もそこで暮らしたいと言い始めた。学校も試験もない生活はきっと素晴らしいものだろうと言うのだ。藍子の心境の変化を布美枝は不思議に思うのだった。

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