第10週『気象予報は誰のため?』
2016年4月、百音(清原果耶)は東京にやって来た。
百音は、祖父・龍己(藤竜也)の伝手で築地にあるシェアハウスに住むことになった。急に上京することになったので住まいの下見をする暇もなかったからである。それでも、気象会社まで徒歩15分で利便性はよかったし、漁師の家にそだったので「築地」という地名に馴染みがあった。
そして何よりも、家賃の安いことが良かった。
勢いで東京に来たものの、百音はまだ就職が決まったわけではない。気象会社の面接は翌日であり、しかもそれはアルバイト採用である。百音は少しでも節約せねばならなかった。
住む予定のシェアハウスの住所に来てみれば、その建物は銭湯だった。煙突や番台が残っている
おそるおそる覗くと、井上菜津(マイコ)が出迎えてくれた。
菜津によれば、銭湯は赤字続きであったため、改装してシェアハウスにしたのだという。女湯は風呂として残し、男湯はとてもきれいな食堂になっていた。ところが、こざっぱりしていたのはそこまでだった。2階の居住スペースはオンボロのままだった。部屋もまだ余っているようで、百音は好きな個室を選ぶことができるありさまだった。
それでも百音はそこを気に入った。昔ながらの建物は実家を思い出させ、百音にとっては安心できる場所だった。
菜津も百音のことを気に入った。オンボロなシェアハウスにも感激してくれたり、まだ仕事も決まっていないのに上京した無鉄砲さを面白がったのだ。
無事に住まいが決まると、翌日の面接試験に備えるため、百音は気象会社の下見に向かった。気象会社 Weather Experts はおしゃれで立派なビルだった。1階ロビーにはデモ展示もあり、百音はそれらを興味深く見学した。ガラス張りの社員用スペースからピースサインを向けてくる変なおじさんもいたが、それはそれで愉快だった。
そこへ、社員の内田(清水尋也)と野坂(森田望智)が通りがかかった。ふたりは登米でフィールドワークをしたことがあり、百音とは顔見知りであった。
野坂は挨拶もそこそこに、百音に一緒に着いてきて欲しいと言い出した。さっき、そばから百音にピースサインを送ってきたおじさんは社長の安西(井上順)だという。野坂が彼に許可を求めると、安西は軽妙な様子で同意した。
そうして、百音は事情もわからないままテレビ局に連れて行かれた。
テレビ局の報道スタッフルームの中には気象予報班の場所もあった。そこに到着すると朝岡(西島秀俊)が入れ替わりに帰ろうとしていたところだった。
朝岡は講演会に呼ばれていて、今すぐにでも出発しなければならないという。そのため、夜の報道番組の気象コーナーに出演することができない。そればかりか、テレビ局との契約で、番組には必ず4人の気象予報士が関与しなければならないと定められていた。
レポーター初挑戦だという神野マリアンナ莉子(今田美桜)、たった今駆けつけた内田と野坂、そして百音を加えればちょうど4人の気象予報士が揃うのだという。ほとんど全員が報道番組の経験はなかったが、朝岡はすでに原稿を書き上げているので心配ないと考えていた。
ところが、当然報道デスクの高村(高岡早紀)は難癖をつけた。経験も人気もある朝岡が出演しないのは困るというのだ。しかも、朝岡が留守のまま、神野が初めてレポーターをやると言うのだ。本人は自信満々であるが、高村には不安しかなかった。さらに、百音などは気象予報士の資格はあるものの、なんの仕事もしたこともなくオドオドとしている。高村にとって何も良い点が見つからなかった。
それでも朝岡は強硬に講演会へ出かけることを主張した。将来のために若手に経験を積ませる必要があると言うのだ。そして何よりも、今日の講演会は高村本人が仲介しているものである。講演会を中止しては高村デスクの顔を潰すことになってしまう。
そこまで言われたら高村デスクも認めざるを得なくなった。