東直己『札幌刑務所4泊5日』

著者は、大泉洋主演の映画『探偵はBARにいる』(2012年2月10日にBlu-Ray等が発売される; amazon)の原作者である東直己。札幌出身、在住。
本書は、著者が作家デビュー前に経験したことに基づき、1994年に出版されたもの。

当時、売れないフリー・ライターだった著者は、刑務所の体験ルポを書こうとしていた。
その矢先、偶然にも原チャリの18キロオーバーで捕まった。これ幸いと、反則金の支払いに応じなかった。裁判で罰金刑判決を受けるも、さらに支払いを無視。晴れて著者の思惑通り、刑務所で懲役刑を受けることになった。

ただし、刑期は5日間だった。18キロの速度超過の罰金は7,000円だったという。法律により、刑務所での労役は2,000円/日と定められているそうだ。そのため、著者は4日間の労役で刑期を終えてしまう(途中、労役のない日曜日があったため合計5日間入所したようだ)。
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スティーブン・ピンカーの『2001年宇宙の旅』への言及

クラークと監督のスタンリー・キューブリックは第三千年紀の生活のラディカルな像をつくりだしたが、それはいくつかの点で実現した。永続的な宇宙ステーションは建設中だし、ボイスメールやインターネットは日常生活の一部になっている。しかしクラークとキューブリックが、進歩について楽観的すぎた面もある。仮死状態も、木星へのミッションも、唇の動きを読んで反乱を企てるコンピュータもまだない。逆に、完全に乗り遅れてしまった面もある。彼らがつくった2001年の像では、人びとがタイプライターで言葉を記録している。クラークとキューブリックは、ワードプロセッサーやラップトップ・コンピュータの出現を予想していなかったのである。そして彼らが描いた新千年紀のアメリカ人女性は「アシスタントの女の子」―秘書や受付係や客室乗務員だった。

彼らのような先見の明をもつ人たちが、1970年代に起こった女性の地位の大変革を予想していなかったという事実は、社会のありかたがどれほど急速に変化するものであるかを、あらためて鋭く思い起こさせる。女性がむいているのは主婦や母親や性的パートナーだけだと見なされ、男性の場所を取ることになるからという理由で職業につくのを阻まれ、日常的に差別をうけたり見下されたり性的強要にあったりしていたのはそれほど昔のことではない。

(強調筆者)

この引用は、スティーブン・ピンカー(山下篤子訳)『人間の本性を考える(下)』p.108にある。第18章「ジェンダー: なぜ男はレイプするのか」の冒頭部であり、「女性の地位が向上した理由」という節に書かれている。

さっき、ふと思い出したのだが、内容はうろ覚えだった。それでちゃんと調べた。そして、調べたついでにここにメモしておく次第。

なお、映画『2001年宇宙の旅』は1968年に公開されたとは信じられないほど良くできた作品だ。ピンカーの『人間の本性を考える』も僕たちが人間自身を理解し、これからの社会をどう作っていくのかを考える上でたくさんの示唆にとんだ良書。

エッセイ・イントロクイズ

ふと
「あれはいつだっけ?」
と、当ブログの過去ログをあたったら、2009年7月末のことだった。

ちょうど2年前、小説イントロクイズというお遊びをやった。
小説のイントロ部分を抜書きして、みんなに当ててもらおうというお遊びだ。

2年ぶりに第2弾を行ってみよう。
今回は、僕の本棚から、適当にエッセイを15冊選んできた。その冒頭部分を抜き出したものを以下に列挙するので、著者名と書名を当ててもらいたい。答案はコメント欄に書いてください。適宜、当否をお返事します。締切は特に無し。

なお、引用の分量は任意です。
小説版に比べて難易度は高いかもしれません。

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山本文緒『アカペラ』

京都府に住んでいた頃、Junk Cafe という店によく通った(2007年に閉店)。
ヒップホップがガンガン流れていて、ガラの悪いアメリカの店のような内装のボロ屋で、ボリュームたっぷりなジャンクフーヅを出す店だった。

そんなアヤしい雰囲気とは裏腹に、店員さんたちはみんな親切だった(そして、♀店員さんは嘘みたいにみんな美人だった)。互いの素性や名前などを教えあったことは無いけれど、いつも僕を温かく迎えてくれた。入店すると、目配せだけで僕をカウンターのいつもの席に座らせてくれた。

なぜ Junk Cafe のことを思い出したかというと、久しぶりに山本文緒を読んだからだ。Junk Cafe に通い始めた頃、山本文緒の小説にハマっていた。だから、なんとなく 山本文緒 = Junk Cafe なのである。

そしてまた、山本文緒の作品には「喪失感」をテーマにしたものが多い。

僕にとって、Junk Cafe を失ったショックは大きかった。詳しい事情は知らないのだが、店主が不慮の事故で亡くなったという。ある日出かけてみると、素っ気ない張り紙がしてあって、もう Junk Cafe のドアを開けることはできなかった。
あんなに仲良くしてくれた店員さんたちとは、それから二度と会うことはできなくなった。今思い出しても、ちと目が潤む。

Junk Cafe の喪失感も相まって、僕の中ではますます山本文緒と Junk Cafe の結びつきが強くなっている。

今月出版された山本文緒の文庫『アカペラ』には3本の中編小説が収録されている。
1つは2002年に発表されたもので、残り2つは2007年と2008年である。
5年間のブランクがあるのは、その間、著者がうつ病で休業状態にあったからだという。

僕が Junk Cafe で楽しい読書をしていた頃、彼女は仕事を休んでいた。
彼女が復帰した時、Junk Cafe が消えた。
とても暗示的な気がするし、些細な偶然に過ぎない気もする。

それがどうであれ、とにかく、『アカペラ』に収録された3本は僕の心を揺さぶり、思い出さんでもいいような記憶を呼び起こし、書かんでもいいような文章を記述させ、公にせんでもいい独白を発表させるだけの何かを僕に植えつけた。

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会田薫『梅鴬撩乱―長州幕末狂騒曲―』 タイトルと作者が判明

昨年の7月、以下のような問いかけを発した。

「タイトルも作者もわからない漫画」

以下の情報だけで、それがなんという漫画なのかわかる人はいるだろうか?

(1) 時代劇漫画(幕末物である可能性が高い)
(2) 作者は女性である
(3) 最近(少なくとも 2010年)、この作家初となる単行本が出た
(4) この作品は1巻で完結ではないらしい
(5) 講談社か集英社(もしくは小学館かも)あたりの大手からの出版らしい

その答えがわかった。

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北杜夫の選ぶ阪神ベストナイン

作家の北杜夫は、戦後一貫して阪神タイガースの大ファンだそうだ。

そんな彼が、2003年時点での阪神タイガースの歴代全選手の中からベストナインを選び出している(『マンボウ阪神狂時代』文庫版 p.286)。
#括弧内は控え選手。リンクは全て wikipedia。

監督・星野仙一
投手・村山実小山正明ジーン・バッキー江夏豊井川慶山本和行
捕手・田淵幸一矢野燿大
一塁・藤村富美男ランディ・バース
二塁・岡田彰布今岡誠
三塁・掛布雅之三宅秀史
遊撃・吉田義男藤田平
左翼・真弓明信金本知憲
中堅・新庄剛志赤星憲広
右翼・別当薫景浦將

当blogの読者には熱狂的なタイガースファンが多いわけですが、あなたなら2011年時点でのベストナインをどう考えますか?

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『バーにかかってきた電話』を拾い読みしながらキャストに思いを馳せる

映画化されるってんで、また読み返していますよ。

『バーにかかってきた電話』 pp.7-9

「はい、お電話替わりました」
 と俺が言うと、ちょっとかすれたような女の声が聞こえた。
「もしもし、私、コンドウキョウコですけど」
 十分の一秒ほど、俺の頭は空白になった。
 コンドウキョウコ。全然知らない名前だ。
 次の十分の一秒ほど、俺は自分の頭の中の引き出しをがさがさと手当たり次第片っ端からかきまわした。
 コンドウキョウコ。全然思い当たらない。そこで、とりあえず俺は当たり障りのない返事をした。
「いよーっ!どうしてる?元気?今、どこにいるの?こっち来ない?」
 とたんに受話器の向こうからとっても深い溜息が聞こえてきた。それで、俺は自分が間違ったことを言ったということがわかった。
「……ええと、あの、もしもし、どちらのコンドウキョウコさんでしょうか。失礼ですけど」
「ツウチョウ、まだ見てないんですか?」
「ツウチョウ?ああ、銀行の?はい、あの、うん、ええ、今日はまだ」
「今日はまだって、あのねぇ、今、午後十一時ですよ」
「あ、そうなんですか」
思わず間抜けな返事をしちまった。
「ホントに……だらしない人だとは聞いていたし、見た時もそんな感じがしたけど……せめて、毎日記帳するくらいの心がけがあってもいいんじゃないですか?」
 俺はムカッときた。確かにそれはそうかもしれないが、俺の人生だ。顔も知らないコンドウキョウコにどうのこうの言われる筋合いはない。
 とは言うものの、この女の声はなんと言えばいいか、「美人」という連想を強力に従えていたので、俺は、つい、自信のない口調になってしまったのだった。
「はぁ、そうかもしれませんね」
 大規模な溜息が再び聞こえてきた。
「とにかく、明日、必ず通帳に記帳してもらってください。明日の晩、またそちらに電話しますから」
 そして、そのかすれたような、「美人」を連想させる女の声は、いきなりプープーという間抜けな音に変わってしまった。というか、もちろんその変化の瞬間には、ガッシャンという、機械的・破壊的な音が聞こえたわけだが。

冒頭のシーン。
主人公の<俺>は便利屋。行きつけのバーのマッチを持ち歩き、それを名刺がわりにしている。彼に用事のある人間は、そのバーに電話をかけてコンタクトするのだ。聞き覚えのない女から電話がかかってくるところから物語が始まる。

僕はこの物語の主人公は大泉洋がぴったりだと信じているのだが、それは先の引用を読めば共感してもらえるのではないだろうか。C調で間抜けなところなんてそっくりだと思うのだがどうだろう。

あと、著者・東直己の文章で面白いのは、主人公が理解できない言葉は毎回カタカナで書かれている。意味を理解すると漢字になる。
先の引用では、前後の脈絡なく相手から「通帳」と言われてまごついているのだ。そこがカタカナになっている。銀行の通帳だとわかって漢字に直る。
もちろん、コンドウキョウコにも心当たりがないからカタカナだ。物語が進めば、彼女の漢字表記も明らかになる。

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中島隆信『大相撲の経済学』

大相撲の力士が八百長に関わっていたというメール記録が見つかり、日本相撲協会が揺れている。来月、大阪で開催される予定だった平成23年大相撲三月場所の開催中止も正式に決まった

ここ数年、大相撲はスキャンダルまみれだ。
2007年には時津風部屋で力士への暴行死亡事件が発生したり、力士が野球賭博を行っていた問題であるとか、横綱・朝青龍が一般人への暴行をはたらき現役を引退したり。

そこへきて、今回の八百長発覚。ついに、日本相撲協会は存続の危機にすら直面しているようだ。

なお、大相撲に関する不祥事は昔からたくさんあるようで。「大相撲 不祥事の歴史: 耳の彩、眼の朝」にはいろいろと香ばしい事件が列挙されている。たとえば、拳銃所持で逮捕された大関、部屋関係者に暴力をふるって失踪した横綱、3億円の所得申告漏れなどなど、どれもこれも一般人の想像を絶しているような、いないような。

考えて見れば、大相撲の世界は異様だ。
江戸時代が終わって140年も経つのに、力士はいまだに髷を結っている。あの体の大きさを見ても、僕達と同じ人間だとはいまいち信じられない。
番付という制度の下、力士はピンからキリまで完全な序列に組み込まれている。下っ端の力士や入門したばかりの者は、先輩力士達に厳しい滅私奉公をしなければならないといった話も聞く。
僕達とは住む世界が違うようだ。

「そんだけ違う世界に生きているんだから、一般常識とは違う論理や習慣に従うのも仕方ないよな」
と思わないでもない。

一方で、
「それでも、なんでも、僕達と同じ現代社会に生きているのだから、一般的なルールや考え方に従ってもらわないと困るよ」
と言いたくもなる。

どちらの意見を採用するにしても、まずは大相撲の世界がどういう所なのかある程度勉強してみる必要はあるのではないかと思う。

そこで、今回、中島隆信の『大相撲の経済学』を読んでみた。

著者は慶応大学商学部の教授だが、『これも経済学だ』、『お寺の経済学』などの著作がある。
レヴィット&ダブナーの『ヤバい経済学』と同じような路線で、日常的にありがちな問題を、経済学でいうところの「インセンティブ」の観点から鮮やかに説明してみせるタイプの著作家だ。
なお、ちょうどこの記事を書いている途中、NHKで大相撲の不祥事のニュースが流れており、「大相撲に詳しい 慶応大学 中島隆信教授」としてコメントが流れていた。

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リリー・フランキー『美女と野球』

リリー・フランキーが1990年代に雑誌連載していたエッセイをまとめた物。

リリー・フランキーの代表作といえば、『東京タワー: オカンとボクと、時々、オトン』だろう。
同作は、リリー・フランキーの自伝小説であり、最愛の実母との死別をテーマにしている。苫小牧一の親不孝と言われている当方ですら、思わず泣かされてしまった(前に読んだ時の記事)。

同作は、一貫して、冷静でしっとりとした文体で書かれている。激しい感情は胸の内に深くしまいこんであった。なんて美しい文章を書く人なんだろうと感心させられた覚えがある。

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