99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方 / 竹内薫

さらっと読めた。
大筋で面白かった。

僕的山場は、4章の「仮説と真理は切ない関係」。
科学哲学者ポパーの「科学は、常に反証できるもの」という、科学に関する定義の話とか。

自分をちょっと偉そうに語るなら、大学院時代にまぁ、「徒弟修業」で身に着けていた考え方ではある。
そういう意味で、某講座で受けた教育に感謝。
その反面、「なんで、そういうこと体系的に教えてくれなかったかなぁ・・・。ちっ」と、自分の不勉強を人のせいにしてみたり。

何の話かというと、要するに、
「科学的知見は、暫定的な”真理”であり、反証が見つかっていない場合のみ”とりあえず間違ってはいない”ということに過ぎない。そして、そのことを保障するために、理論は反証可能性を有していなければならない」
ってことかと。

この本、そういうことを啓発する科学哲学の入門書としてすごく面白かった。
しかし、そのことを過度に一般化して、対人コミュニケーションの話にまで当てはめようとしている部分は、ちょっとどうかと思った。

マリモ -酒漬けOL物語 / 山崎マキコ

午後10時半頃、月に2回は通っている某ラーメン屋で夕食。
ゴールデンウィークの真っ只中、人々は行楽や恋に花を咲かせているかもしれないし、いないかもしれないと想像するが、当方は地味に1人でラーメンをすすっていたり。
いつもは空いているラーメン屋なのに、今日はちょっぴり繁盛気味。
両隣のテーブルにはアベックらしき客がラーメンとか餃子とかをつまんでいる。あっちの長テーブル(10人くらい座れる)では、サークル帰りの大学生らしき一団が陣取っており、1人地味でおとなしい女の子がちょこんと座っている。結構好み。
そんな連中を横目に、4人がけのテーブルを1人で占領し、文庫本を片手にズルズルとラーメン。汁が紙面に飛ばないように注意して食べ読みしていたけれど、そういうときに限って、やっぱり汁が飛ぶ。丼を丸ごとひっくり返して、本を1冊全部ダメにしてしまえば思い切って買い直す気も起きるだろうに、直径1mm程度の飛沫を1つ飛ばしただけで終わる。中途半端でちょっと気持ち悪い。

そんな感じで、読み始めたのが、山崎マキコ著「マリモ -酒漬けOL物語」だったりする。
意外と売れていたみたいだし、知り合いの何人かもblogその他で感想を書いていたし、ちょっと泣けるという噂も聞いていたので、興味が魅かれて手に取った。

完全に僕の幻想だが、OLというキーワードと表紙に描かれている青い制服の女性から、「仕事はちょっとアレだけれど、義理人情に厚く、サッパリとした性格で、快活なOLが会社のオジサン達を向こうに回して大活躍」みたいなストーリーを勝手に想像していた。
賢明な読者諸氏ならもうお気づきのことだろうと思うが、著者の「マキコ」から江角マキコを無意識に連想し、表紙の制服もドラマのイメージを踏襲しているので、完全に「ショムニ」の世界を頭に描いていたのである。

しかし、注文したラーメンの最後のゆで卵を食べる頃(どうでもいいが、ゆで卵があまり好きではない当方は、ラーメンに入っているゆで卵を最後の最後まで残す。ついでに言うと、おでんのゆで卵もめったに食べない)には、その認識が誤りであることを思い知らされた。

主人公の大山田マリモは暗く、ジメジメしている。
趣味が、ネットゲームらしいし、セリフの随所に2ちゃん用語らしいものが出てくる。
・・・ダメだ。当方の「女性に抱く恋心」の範疇を完全にはずれている。
萌えない。

ラーメンの具を全て食べ終えレンゲでスープをズルズルとすする頃には、路線を変更し、文章の中のお酒描写を丹念に追って楽しむことにしようと決める。
ある晩はオサレなカクテルを、別の晩にはアダルトにワインを、そして時には渋く日本酒をチビチビとやる。珍しい銘柄なんかもいっぱい出てくる、そんな小説なんだろうと思うことにした。なんてったって「酒漬けOL」なんだから、『美味しんぼ』なみの薀蓄のオンパレードなんだろう。勝手にそう想像した。

・・・ダメだ。
お酒に対する愛が1つも見られない。
主人公マリモは、酒を飲んで記憶をなくすのが関の山で、アルコールならば何でもいいらしい。
焼酎をウィスキーで割って飲んだりしている。
酒の薀蓄を語らせるどころの話ではない。

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「山瀬まみのおウチが好き。毎日が好き。」の目次

本日、入手しました。

まだちゃんと中を見ていませんが、山瀬写真がふんだんに使われており、当方にとっては「山瀬まみ写真集」としてニコニコと眺めている次第。

特に、p.42 で横座りしている山瀬まみに目が釘付け。この山瀬まみが家の片隅にちょこんと座っていれば、もう何もいらないと言い切れる。富も名誉もいらないし、飯も食わなくても生きていけそうな気がする。
以前、モト冬樹がプライベートで「君が部屋に座って笑ってさえいてくれれば、僕はもう何もいらない」と山瀬まみに言ったらしく、それを見事にテレビで山瀬まみに暴露されていたが、まさしく、その心境。

・・・気を取り直して、
Web上では本書の情報がまだ少ないようなので、目次を紹介しておく。

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山瀬まみのおウチが好き。毎日が好き。

2006年3月7日に山瀬まみ著「山瀬まみのおウチが好き。毎日が好き。」が発売になります。

山瀬本としては、2003年の「まみ&マロンたれとソースの本」以来3年ぶりとなります。

本書の情報は今のところ少ないのですが、雑誌ESSEに連載していたエッセイをまとめたもののようです。
山瀬エッセイとしては、1990年の「安売り王女さま」以来16年ぶりの単行本でしょうか。

その他、3月26日に横浜で、4月9日には京都でトークイベントもあるそうです。

※「山瀬まみのハッピートーク」イベント

3月26日(日)14:00~
横浜ランドマークプラザ1Fガーデンスクエア
問い合わせ コンジェペイエ横浜ランドマーク店
045-222-5236

4月9日(日)13:00~と15:00~
京都四条河原町阪急4Fカフェスペース
問い合わせ コンジェペイエ四条河原町阪急店
075-223-8722

(「徹子の部屋」出演者情報2006年3月3日より)

京都行くしかないよね!
2回とも見るしかないよね!
この日は、たとえ女の子からデート(デート?デートなのか!?)に誘われたとしても、
黙れ、ブスがぁ。今日は、山瀬様の神聖なる日なんだよ、ボケがぁ!
と、口汚く悪態をつく予定です。

引用の出典にも書きましたが、2006年3月3日の桃の節句には「徹子の部屋」への出演も決まっています。
#しかし、トークイベントの案内がTV番組のホームページに載ってるっていったい・・・。

何はともあれ、山瀬ファンの当方にとっては、世間より早めに山瀬色の春が来ちゃった様子です。
ありがとう。

つきあい方の科学

某研究会の受付にいた、某学生さん(♀)に苗字を名乗ったところ
松田裕之先生ですか?
と聞かれた。

確かに、彼女の手元にある名簿を覗き見たところ、僕の名前の隣に松田裕之先生のお名前があった。
往年の名翻訳書「つきあい方の科学」を翻訳した人が、こんなにウソ臭い姿格好をしている若造であるはずがあるまいに。
間違えられて悪い気がする相手ではありませんが、自分の実力を考えると、非常に気恥ずかしい思いをしてしまう人違いなり。

いや、この昼行灯風の風貌の影に潜む知性を彼女は見抜いたのか。
なかなかやるな。
・・・とは、僕の勝手な思い込みで、純粋な勘違いだと思うけれど。

しかし、その受付の女学生一流のヨイショだったのかもしれない。
なんせ、僕も悪い気をするどころか、なんとなく気分が良かったし。
彼女こそ、「つきあい方の科学」を身に着けている逸材かも。
#ていうか、この本にはそういうことが書かれているわけではありませんので、誤解なきようお願いします。

あと、せっかく人々をびっくらささせようと思って、イメチェンをはかって望んだのに、反応が薄くてつらかったなり。
それから、某Y先生、気配を消して近寄るのはご遠慮ください。いまだに、あなたに怒鳴られている悪夢を見て夜中に目を覚ます僕なのですから、いきなり背後に現れると心臓が止まるかと思います。
(2日ほど前、某姉弟子をナンパしている夢を見て、そこまではいい気分だったのに、いきなりあなたが怒鳴りながら追いかけてくる夢を見てしまい、はっと目を覚ました僕なのですから。ていうか、そんな夢を見る僕自身、いかがなものかと思いますが)

日々是作文 / 山本文緒

性懲りもなく,山本文緒を読み続ける当方.

今回,ハズレ.
端的に感想を述べると
「オナニーエッセイほどつまらないものはない」
ということ.

著者に対して非常に失礼な書き方になってしまいましたが.
もちろん,彼女が「作文のプロ」として,出版社の意向に沿ってその手の文章を書いたのだろうから,彼女の人格を否定する意味では言っていません.
#あと,あちこちに寄稿したエッセイの寄せ集めなので統一感がないのも仕方あるまい.

先の言い方が悪いとするなら,マイルドな表現に改めるとすると
「等身大の山本文緒がわかる.良くも悪くも」
になります.

売れっ子作家になるまでの苦悩とか,成功者の喜びとか,恋愛観とか,若い読み手(♀)に対するエールとか,いろんなことがとても主観的に書かれています.
その手のことに興味のある人,もしくはこの本のターゲットと思しき人々(思うに,20-30代で仕事にも恋愛にもがんばりたい,だけど今の自分はなんか違うと思っている女性)にとっては面白く読めるかもしれません.

ただ,読んでいて嬉しかったのは,彼女が札幌に部屋を借りて仕事場を作ったという話.たまに気が向くと1週間くらい滞在するらしい.

どんな土地でも悪い人はいるだろうが,私が札幌で知り合った人は皆一様にさっぱりしていて,ねちっこくない.合理的で親切で押し付けがましくない.

(山本文緒「日々是作文」 p.267)

自分の暮らした街の人を,こういう風に書いてくれると嬉しい.

あと,直木賞受賞前,候補者リストに挙がったという報告を受けるくだりが好き(「愛憎のイナズマ」 p.286).
それが何だったかは忘れてしまったけれど,何かのときに僕も彼女と同じような興奮と冷静さを経験したことがあったような気がする.そのときの自分の心情が活字になって客観的に読めたのが良かった.

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プラナリア / 山本文緒

ごめんなさい,久しぶりに本読んで泣きました.
#といっても,涙がにじんだ程度

5編収録.

【プラナリア】
乳がんで乳房を切除した女性が主人公.
それだけ聞くと「病気を克服して強く生きる女の物語」なんだけれど,実はこの女性,かなりイヤな奴.100人中95人くらいは,「いけすかねー女」と言うこと間違いなし.
なんか淡々としていて,僕的に「ごめんなさい」.

【ネイキッド】
老舗の和小物店を一緒に経営していた夫と仲たがいし,現在一人暮らしでモラトリアムしている女性が主人公.
彼女もまた,わりとイヤな奴.
そしてまた,これも淡々としていてあんまり好きじゃない.
ただし,”チビケン” と肌を通じて心まで通じちゃうくだりはイイ.

【どこかではないここ】
山本文緒には珍しく,主婦が主人公.
しかし,愚痴っぽい主人公なところとか,主人公がいけ好かない女だと思っている相手が実は学生時代の同級生だとか,かなり山本プロット全開.
これも,淡々と読むしかない.

【囚われ人のジレンマ】
学生時代の(ていうか,今もだけれど)僕の研究柄,かなり「もしや」と思ったお話.案の定,「もしや」だったお話.
主人公の恋人は学生時代からのお付き合いで,主人公自身は社会人として働いているが,恋人は大学の社会学部の博士課程の1年目.わはは.
でもって,その恋人の研究テーマが「囚人のジレンマ」だそうで.げはは.
途中で,かの有名な「共犯の容疑者2名がいて,自白するか黙秘するかうんぬん・・・」がご丁寧に出てくるし.むはは.
しかーし,朝丘君(恋人の大学院生ね),最低限「応報戦略」もセットで説明しないとだめじゃーん.まぁ,大学1年生の時の回想として出てくるセリフなので,まだ勉強の途中だったのかもしれないけれど.

何はともあれ,主人公も恋人も,かなりイヤな奴に描写されてますな.
しかし,僕の知る限り,数少ない「大学院生の生態」がうまく描写されてる作品だと思いました.
大学院生とか若手研究者の♂を落とそうとしていて,彼の生態とか頭の中とか行動傾向とかがイマイチよくわからずに苦労している女の子は,とりあえず参考図書として役に立つでしょう.

いやーホント,自分のことは棚に上げるけれど,朝丘君みたいな奴が学生時代には周りにいっぱいいたような気がするので,笑った,笑った.

【あいあるあした】
白眉.
山本文緒の数多の作品群の中で,僕的大ヒット.
珍しく,男性主人公.脱サラして小さな居酒屋の大将(本人は「マスター」とか苗字とかで呼ばれるのが大嫌い)で,口数少なく,女性に対して不器用で頑固な30代.
ニガニガしく思いながらも,ホームレスの女性を家に住まわせてやる人情派.だけど,天真爛漫なその女性に細かいことで心をかき乱されちゃったり.
とにかく,「がんばれ,不器用なおっさん」を心のスローガンにしている当方としては,かなりイケていて,泣けた作品.

伏線の張り方も絶妙でした.
もしお読みになることがあったら「プリン」と「髪の毛」には要注意.

あと,

(前略)・・・俺の頭を「よしよし」と言って撫でた.

でホロリ.
これだよ,これ.

キュンとくるね.

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邪馬台国はどこですか? / 鯨統一郎

先日の「タイムスリップ森鷗外」に引き続き,鯨統一郎の歴史ミステリを読んでみた.

この人の破天荒なアイディアには感心させられる.

今回は,バーに集まる4人の人々の歴史談義を下敷きに,歴史上の有名な出来事に関する新解釈を繰り広げる.
で,取り上げてる題材が素っ頓狂でおもろい.

「悟りを開いたのはいつですか?」では,ブッダは実は悟りなんて開いていなかったんじゃないかと,いわゆる仏教の根底を覆す大風呂敷を広げる.

書名にもなっている「邪馬台国はどこですか?」では,九州 vs 畿内の論争で有名な邪馬台国のあった場所について,”隠し玉”ちっくな説を主張.

「聖徳太子はだれですか?」では,お札の肖像画にもなった超有名人の聖徳太子をして,彼は架空の人物ではないかと空想をめぐらせる.

「謀反の動機はなんですか?」では,織田信長が明智光秀に討ち取られたことについて,信長自身が画策した壮大な”自殺計画”であると説得する.

「維新がおきたのはなぜですか?」では,明治維新の真の黒幕を勝海舟であるということを議論.

「奇跡はどのようになされたのですか?」では,イエスの復活は巧妙に仕組まれたお芝居で,十字架に貼り付けられた時点ですでにイエスとユダが入れ替わっており,処刑されたのはユダではないかという仮説を論じる.

ここで,話の種明かしをするのは反則っぽいが,どの話も冒頭に仮説を提示して,残りの紙面で検証を行うというスタイルなので,まぁありでしょう.

読んでみた感想としては,思考遊びとして十分に面白かった.「よく,そんなこと思いついたよな」って感じで.
そして,説得の道筋も,あり.一人の登場人物が大胆な仮説を提示→聞き手が反論→仮説をサポートする証拠を再提示 という構成で,議論がスムーズに流れてる.

登場人物の会話スタイルをとっているため,小難しい話でも,まぁ割とすっと頭に入ってくる.
ただ,個人的には,やや冗長な感じもしたので,もっとサクッと事実の記述だけで読ませてもらいたかったかも.そうすると売れなかったと思うだろうけれど,話の内容自体はスムーズになると思った.

あと,正直な感想として,「邪馬台国はどこですか?」以外の話は,読後感があまりよくなかった.
仮説を支持するための証拠の提示が,すべて歴史上の史料の”解釈”でしかないので,真偽のほどは断定できないと思った.
それに対して,「邪馬台国はどこですか?」に関しては,仮説の検証が比較的容易にできる.本書の中でも触れられているとおり,指摘されているポイントを実際に掘って,邪馬台国の跡が出てくりゃいいだけなので,検証ができる.
#c.f. ブッダが悟りを開いたかどうかなんて,客観的に示す証拠なんて出てきようがないから,シロともクロとも言いようがない.

んなわけで,「邪馬台国はどこですか?」という話は,スタイル,内容ともとてもよい.
その他の話は,スタイルは面白いけれど,客観的に見ると,僕的にいまいち.

いずれにせよ,面白くて夢中になることに間違いはない.

Special thanks to hirori.

ファースト・プライオリティ / 山本文緒

おひさしぶりです,山本さん.
以前のように,Junk Cafe で読みまくらせていただきました.

31編収録された短編集です.
主人公はいずれも31歳.
でもって,ボクの個人的な事情なんてどうでもいいけれど,僕も31歳.
できすぎ.
とうせなら,サーティーワン・アイスクリームでも食べながら読めばよかった.

他の読み方をする理由は特になかったので,初めの話から順番に読んだ.

最初の10編をあたりは,
「あ,今回ハズレだ.面白くねー」
と思いながら,半ば義務感で読んでた.
なんか,どの話も妙に頑固で偏屈で愚痴っぽい登場人物ばかりで,かなり萎えた.

しかし,11編目の「旅」あたりから,読んでいる僕の心境に変化が現れているのがわかってきた.
相変わらず,どの登場人物も頑固で偏屈なんだけれど,愚痴が減ってくる感じ.
そして何よりも,お話の中の雰囲気が俄然やわらかく,ホンワカしてくる.

以下,いくつか気に入ったお話.

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