みんないってしまう / 山本文緒

先日,理系高学歴未婚地味女性と,公園の東屋でボーっと花畑を眺めながら取り留めのない話をする機会があった.
休日はなにをして過ごすか,という質問をしたところ,どうも要領を得ない返事しか返ってこなかった.つーか,まるで「山口さんちのツトム君」みたいだし.
♪映画を見るかと聞いても 買い物するかと聞いても
 いつも返事はおなじ~
 う~ん,別にぃ

しつこく聞いたところ,やっと「一日中,本を読んでいることが多い」と聞きだすことができた.
じゃあ,どんな本を読むのか?と聞くと「うーん,いろいろ」とはっきりしない.
最近一番面白かった本とか,好きな作家とかいるの?と聞いても「恥ずかしくて言えない」と頑なだし.

「僕,銀色夏生とか読んでるよ.別に恥ずかしいことないし」
と先にちょっぴりボールを投げてみたところ,やっと
山本文緒かな.でも,すごくドロドロした話ばっかりだから,木公クンが読んでも面白くないと思うよ
と打ち明けてくれた.

んなもん,僕が面白いと思うかどうかなんて,僕が読んでみないことにはわからないじゃん

みんないってしまうつーことで,GEOにて100円で「みんないってしまう」という短編集をGET.
これを手に取ったのは特に深い理由はなく,GEOの書棚ではこの1冊しか発見できなかったから.

しかし,これが,モロHIT!
おもしれぇじゃん.
12編収録されているけれど,僕的にひとつもハズレなし.

嫌がる女の子から,無理に聞き出した甲斐があるってもんよ.

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高杢著「チェッカーズ」

パラパラと立ち読みしただけなんだけれど.

チェッカーズ高杢禎彦著「チェッカーズ

実はこの本を立ち読みしたのは,1ヶ月以上前で,まだクロベエが死ぬ前.立ち読みしたときは,まさかクロベエが死ぬなんて思っていなかったし,ましてやチェッカーズメンバーの確執がこんな形で取りざたされるとはまったく思っていなかったんだけれど.
http://news.goo.ne.jp/news/nikkan/geino/20040915/p-et-tp0-040915-0003.html?C=S

高杢はメディアでイロイロ言ってるけれど,悪いけれど彼に同情はできないなぁ.
チェッカーズ」は暴露陰口のオンパレードだし.これがある限り,彼の味方はむしろ少ないと思うなぁ.
つーか,根性が汚い.
自称「がんを克服したオレの自叙伝」なんだけれど,僕がパラパラとめくった限り,闘病生活のことなんてほとんど書かれていない.「闘病記」というオブラートで包んだ,負け惜しみ.
こんなこと,僕が言うのもおこがましいけれど,かなりみっともない本です.

フミヤの「あの本はデタラメ」というクレームに対して,高杢は「デタラメなんて言うとは営業妨害だ」と息巻いているようだけれど,論点はそんなところじゃないと思う.
「チェッカーズ」,というか「フミヤ」という後光がないと商売できないご自分を恥じるべきかと.
チェッカーズ」を読んでいると,だんだん「高杢の自叙伝」なのか「高杢が書いたフミヤの伝記」なのかわからなくなる.フミヤのご威光でしか仕事できなかったご自身を恥じるべきかと.

今回のクロベエが引き金となった騒動だって,「お願いですから,ボクも発起人に入れてください」って,フミヤのお尻を追いかけてるだけじゃないですか.
自分に正義があると思うなら,「クロベエを偲ぶ会」でもなんでも自分で主催すりゃあいいじゃん.
そういうところにパワーを向けるべきなのに,ワイドショーかなんかに出て「フミヤに仲間はずれにされた~」って泣きごと言うのってどうなのよ?

高杢が次に本を出したとして,それが”男らしかったら”,お金出して買います.
しかし,今回の本は,買う価値がないと思った.定価1,365円が惜しいのではなく,統計情報としてこの本の売り上げ部数が伸びるのが許せなかった.

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いまさら,初恋 / 山下勝利

Blog のネタにしようと思い,GEOの古本を漁り,山下勝利「いまさら,初恋」を入手.

20の短編が集められている.全ての短編に共通する主題がある.
“平凡な家庭があり平穏な生活を送っている中年が,思いがけず初恋の相手に再会し,一時の間,思い出と情熱に燃える” というもの.

2-3拾い読みする分には楽しめるのですが,10編も続けて読むと,さすがに食傷気味になった.
あと,どの話も,途中で「主人公の背景説明」に関する1パラグラフがお約束で出てくるのも,いささかわざとらしくて目に付く.

個人的な趣味として,「ちょっと火遊びしてみたい男(女)ココロ」っつーのにヘドが出そうになるってのもあってイヤになってきた.
ただ,「初恋の淡い思い出を語る」パートは,心地よく読んでいる自分がいるけれど.

さらに,巻末に掲載されている阿川佐和子の「初恋にバイバイ」を読んで,「ちょっと,不思議な縁があるなぁ」と思った・・・

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優しくって少し ばか / 原田宗典

優しくって少しばか“札幌のママ”の言いつけを守って,原田宗典の本を読んだよ!
優しくって少し ばか」という短編集を買ってきて,表題の作品を読んだよ!
さすが”ママ”だね,すげぇ面白かったよ!

ストーリーは,平日の午前11時に始まる.
かすかに揺れるセミダブルのベッドの上に,ちょっぴり上気して,汗ばんだ若い男と女.

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どくしょのたのしみ

プライベートなメールを「投稿記事」にしてしまうシリーズ第2弾

–投稿者: 「木公クン,本読まないよねー」呼ばわりするオンナ さん–
ね、ね、69おもしろかったでしょ?
読後に世界が、ぐぐっと広がってくるでしょ?
村上春樹、深いでしょ?魂に訴えかけてくるでしょ?

そーなんだよ、それが読書の楽しみってやつなんだよ。

あとはねえ、そうだなあ木公くんにあうのは
原田宗典
とか
中島らもなんかもいいかな。

でもね

もうちょっと、してから教えようと思ったんだけど
ほんとは、もうちょっといろいろ読んでから読んで欲しいのだけど

舞城王太郎

なんというか、荒唐無稽でジャンプの原作みたいで文体も読みやすくて
こいつぁ、すげえよ。
今回の芥川賞候補が「好き好き大好き超愛してる。
あたしが読んだのは
阿修羅ガール」三島賞受賞作
煙か土か食い物メフィスト賞受賞作
熊の場所

さしずめ「熊の場所」あたりがおすすめか。

情緒とかあんま、ないのですが、たたみかけるような強引な展開が心地よい。
でも、なんか幸せ信じて豊かに強く生きなきゃだめだ、ってなメッセージが根底に流れているのです。
きらっと希望にゃのー。
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へーい,夏休みの宿題よろしく,読書感想文でも書いてみま~す.
#そのうちね.

ノルウェイの森

ノルウェイの森〈上〉ノルウェイの森〈下〉

「○○クンって,優しいのね」
「誰にでも優しいわけじゃないんだよ」

今朝,いつものごとく,くだらない事をツラツラと考えているときに,そんなフレーズを思い出した.
当方,よく女の子に「いい人」だとか「親切」だとか「優しい」だとか思っていただいたり,言っていただいたりすることがある.たいていは,そっけなく「ありがとう」と言ったり,オチャラケで「いや,死んだ爺ちゃんの遺言が『女性に優しく』だったから」と煙に巻いたりしている.今度同じようなことを言われたら,もうちょっと気の利いたことを言おうと,今朝思った.それで思い出したのが,冒頭のセリフ.

それで,このセリフの出典はなんだっけと考えて,思い当たったのが高校1年の春に読んだ村上春樹のノルウェイの森.ただし,本当にそうかどうかは自信がなかった.ちょっと読書好きの女の子なら「ふふ.それって,△△のセリフのパクリじゃないの?」って言いそうだし,その時に話をあわせたり,僕が考え違いをしていて恥を書かないように,きちんと出典にあたって理論武装しておく必要があると思った.そんなわけで,書店を3軒回り,ノルウェイの森を入手し,問題のページに貼る付箋まで用意して一気に読み込む(いつもの事ながら,このエネルギーを・・・).

以下,長くなる前に,同じ手を使おうとしているご同輩のために結論だけ述べておくと,このセリフはノルウェイの森には載っていない.誤用して赤っ恥をかかないように気をつけたまえ.

さて,以下はグダグダ文である.
ノルウェイの森を初めて読んだのは,上にも書いたとおり高校1年生の春.割と具体的に時期を覚えているのは,その頃お付き合いしていた女の子から借りて読んだから(つーか,彼女も友達から借りていたものを僕に又貸ししたんだけれど).当時,ノルウェイの森はベストセラー作品でありミーハーな興味があったことと,僕が The Beatles にかぶれており彼らの曲名を冠した小説に非常に興味があったこと,そして何よりも,彼女との共通の話題のためっつーのが読み始めた理由だった.
特に,The Beatles の “Norwegian wood” はギターとシタールの旋律がとてもきれいで,僕の大好きな曲の一つだった(Norwegian wood が収録されているRubber Soulは,ほかにも Michelle とか Girl とか In my life とかメロディアスなアコースティックナンバーが目白押しで,大好きなアルバムだな).”Norwegian wood” は John Lennon が不倫相手との情事を隠喩的に歌った曲なんだけれど(ヨーコの前の奥さんの時代),とにかくきれいなメロディーで「いかにも恋の歌」って感じだった.小説ノルウェイの森も,当時は「珠玉の恋愛小説」みたいな紹介のされ方であり,僕は勝手に「きっと,ビートルズの曲のようにロマンチックな小説なんだろうなぁ」と勝手な予想の下に読み始めた.

しかし,当時の僕は「こんなもん,読むんじゃなかった」と激しく後悔したのを覚えている.
(今でも本質はあまり変わっていないと,本人は思い込んでいるのだが)当時の僕は,恋愛に関して非常に保守的で,古風で,プラトニック志向で一途なもので,いやカッコつけて言うとその通りなんだけれど,要するに「お子ちゃま」だったわけです.ギリギリ,その時付き合っていた女の子と,生まれて初めてキスをしたかしなかったかの時期だったと思う.
そんなわけで,主人公ワタナベがとっかえひっかえ行きずりのセックスをしたりする姿にすごく幻滅したり,「なんて不潔な小説なんだ」と憤慨したりしていた.
#そう,まるで,登場人物の緑ちゃんの元カレみたいなタイプやったわけ.

15年経った今,とにかく面白い作品だった.
何が面白かったかと言うことについて,たくさん書きたいことがある.小説を読みながら「後でblogにあんなことを書こう.こんなことを書こう」とたくさん考えながら読んだ.
しかし,いまキーボードに向かうと,なんだか胸がいっぱいになって何も書けなくなった.
あんなにつまらない小説だと思っていたのに,15年の年月が僕を全然違う人間に変えてしまったようだ.
以上,終わり.

思わせぶりなところで終わって,申し訳ないです.勘弁.
どうしても聞きたい人は,どっかの飲み屋でウィスキーを3杯くらいおごってくれたらお話します.

一つ書いておくと,僕は緑が好きだな.

も一つおまけ.この小説のラストシーンは,The Beatles の “Nowhere man” がモチーフなのかも.

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村上龍『69』

フクちゃんはそんな男で,どげんしたら女ひっかけられると?と聞くと,いつも同じことを教えてくれた.
高望みはいけん.
(村上龍『69(シクスティナイン)』)

けだし名文.

東京→京都の移動でずーっと読んでいた.

そもそも,知人であるところの女性から,
木公クン,本読まなさそうだよねー.人生楽しまないと嘘って書いてある本だよ.絶対お勧め.読め読め
と,何度かシツコク言われたので,重い腰を上げ,空き時間に駒場のローソンで思わず発見したので購入.
そういや,某先生からも「木公はほんとに本読まないよな~」と呆れられたことがあったなぁ.わかる人にだけわかる,このオカシサよ.

つーか,「うるせー,黙れ」と内心思ってしまったことを激しく後悔するくらい,読む価値のある1冊だった.

最近,alm-ore を読み始めてくれた別の知人女性は「女の子,妄想,ガンダム,クルマしかネタがないですねー」と,褒めているのか,ケナしているのか微妙なコメントを寄せてくださいましたが,『69(シクスティナイン)』は「女の子,妄想,長崎,’69」しかネタがない.
’69には,僕はまだ受精卵すら存在していなかったけれど,「ああ,わかるなぁ.この馬鹿な青春のパワー」って感じで,楽しく一気に読めました.

主人公の矢崎剣介の頭の中には「女の子」しかないし,「口だけは達者」だし.村上龍もかなり楽しんでこの作品を書いていたようで,ストーリーから逸脱した文章がいきなりあらわれたかと思うと「・・・と言うのは嘘で,実は・・・」みたいなフレーズが随所に出てくる.この,読者をからかった展開って,まさしくalm-oreの目指している路線じゃん.
なんだか,他人事だとは思えない小説だった.

ただ僕と主人公には,一部に大きな隔たりがあった.
主人公は,体制に唾吐き,言ったことはやり遂げる有言実行な男だ.
僕は,体制に守られてぬくぬくするのが大好きで,口だけの有言不実行な男だ.
どっかのアホみたいに,何でもかんでも噛み付けばいいとは決して思わないけれど,自分の意思をきちんともって反体制的な生き方をするのは良いなと思った.

いやいや,そんな小難しいこと抜きにして,「青春って馬鹿だねー.男の子の生きる原動力って,女の子だよねー.あとはロックだよねー」と,頭を空っぽにして読むのに最適かと.

トニーたけざきのガンダム漫画

トニーたけざきのガンダム漫画1st ガンダムパロディ漫画 「トニーたけざきのガンダム漫画」 .
安彦良和のアシスタントをやっていたという筆者が,その画力を最大限に発揮しつつ ,ガンダムの有名せりふを見事に取り込んで,稀有なギャグ漫画として昇華させている.
とりあえず,ガンダム好きな皆さんにオススメしたいです.

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約束するサル―進化からみた人の心(小田亮)

約束するサル―進化からみた人の心今回の東京出張における,新幹線のお供だった「約束するサル―進化からみた人の心」.

著者の小田亮先生は,日本における進化心理学の第一人者の1人.
あとがきには,この本を書いた理由は,進化心理学の意味や面白さを一般の人に伝えたかったからとある.
その目的は,一通り果たされている本である.

各章の概要としては
1章では,進化心理学のパースペクティブ(“心のリバース・エンジニアリング”)について述べられている.
2章から3章にかけてはこの10年間の進化心理学の基礎的な知見についての概説が成されている(大きな文脈としては,「性選択」「包括適応度」「互恵性」のお話.あえて,読み手の興味をそそるように,キャッチーな研究をピックアップすると,女性の腰のくびれに関する”ウエスト・ヒップ比”,規範の逸脱者に対する選択的認知を行う「裏切り者検出装置」のお話など).
5章では,進化心理学の知見の他分野(主に,ロボット・人工知能などの工学分野)への応用可能性に関する議論.
6章では,進化論的パースペクティブに対する誤解の解消.
という内容である.

この分野をちょっとでもかじったことのある人なら,目新しいことはまったくありませんが,進化心理学や生物学に関してぜんぜん見聞きしたことのない人にとっては,新鮮で,ある意味ショッキングで,興味深く読めるのではないでしょうか.
あと,「生物学的なお話は人間には当てはまらない」とハナから決めてかかっている人にも,とりあえず読んでみてもらいたいところですね.

難点は,(専門家ではない,一般の読者の興味を惹きつける目的と思われる)雑談っぽい記述が随所にちりばめられており,論旨がわかりにくくなっている点が随所に見られることと,タイトルですね.
「約束するサル」って,いかにも”似非評論家”のエッセイっぽいよね.一見,一般ウケしそうなんだけど,ダメっぽい気がするのは僕だけだろうか?
#ちなみに,セックスはなぜ楽しいか(通称,「長谷川のピンク本」)は,ある意味大成功な書名だと思うけど(これも,進化心理の硬い本です).

ケータイを持ったサル

知人より,こんな図柄の年賀状をいただいた(クリックで拡大).

「ケータイばっかり使ってると,サルになっちゃうよ」っつーことですな.

別の知人も,「『ケータイで連絡取れるからいいや』という態度で,待ち合わせの段取りすら満足にできなくなった現代人ってどうなのよ?」とある機会に言っていた.

どうやら,こういう思いは,多くの人が抱いているようで.「ケータイは健康に悪い,ケータイは社会の迷惑だ,ケータイ使うと馬鹿になる」なんて話があちこちから聞こえてきます.

そんな,流行を抑えつつ,本当のサルと現代人(ケータイを使う若者)をオーバーラップさせることでベストセラーを狙った(と思われる)本が,『ケータイを持ったサル―「人間らしさ」の崩壊』(正高信男)です.
#実際,結構売れたみたいで.僕が買った時(2003年11月末)も,注文してからしばらく待たされた.今は,増刷したみたいね.

読んだ感想は「正高先生,ちょっと暴走しすぎ?単に売れることだけを目的にした?」でした.
みんながなんとなく思っている,現代社会の表層的な問題点だけを抜き出してきて,都合のよいようにサルの行動と比較しているに過ぎない感じです.
あと,かなり「????」だったのは,”昔は大家族で, じじ,ばば が子育てをやっていた.それが子供人格形成に大きな役割を果たした.現代の核家族ではそのよな役割を果たす人がいない” と,(よくある話を)主張しつつ,別の場所では”人間の社会的かしこさは,40代を境に低下する.このような年代は子供とうまく接することができない”みたいなことが書いてある.
#今,手元に本がないので,記憶を頼りに書いています

先にネガティブなことを書いてしまいましたが,個々のパーツはいずれも面白く,まともな研究の成果が報告されています.
特に,サルのコミュニケーションパターン(相手にメッセージが伝わっているかどうか判断する話や,ネットワークのパターンの話)に関する知見は今まで知らなかったことなので,勉強になりました.
また,夫の小遣いに関する夫婦への調査結果とか,笑えるし.^^;


ケータイを持ったサル―「人間らしさ」の崩壊

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