久住昌之のうた

久住昌之とは、マンガ『孤独のグルメ』や『花のズボラ飯』などの原作を行い、自分でも描く漫画家。生まれも育ちも三鷹で、吉祥寺界隈では楳図かずおの次によく目撃される漫画家だと言われているらしい(みうらじゅん談)。

先週の土曜日、高円寺フェス2011 みうらじゅん×久住昌之×前野健太トークイベントで僕は初めて生の久住昌之を見た。みうらじゅんにいじられながらも、軽妙に切り返すのが面白かった。

笑点の公開録画の取材に行き、適当に座席を選んで座っていたら、オープニングで真横に司会の三遊亭円楽(先代)がやって来て、そのつもりは全くなかったのにテレビ画面に写り込んでしまったエピソードが紹介されていた。おちゃめな人だ。

散歩も趣味だと言っていた(『散歩もの』というマンガの原作もしていますね。画は『孤独のグルメ』の谷口ジロー)。その散歩がすごくて、東京から大阪まで散歩で行ってしまったという。ただし、1日に歩ける所まで行って、電車で帰ってくる。再開するときは前回の地点まで電車で行って歩き始めるのだという。僕もこの夏、自転車で地べたを踏んで東京から京都まで行ったので、その話にとても共感した。彼の場合、三重から国道163号に入り、奈良を経由して大阪に向かったそうなので、僕と完全に同じコースというわけではないが。
京都府笠置町のあたりを歩いていたら、車に乗った知り合いに偶然会ったという話もすごかった。その付近の写真を見せてくれたのだが、僕が京都に住んでいた時に何度かドライブで出かけたコンビニが写っていて懐かしかった。もっとすごいのは、その知人が久住昌之を見つけて無理な停車をしたために、後ろの車が追突したという話なのだが。
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NHK『カーネーション』第38回

ドラマ『坂の上の雲』の記者会見で高橋英樹が「3年がかりの大作なので途中で予算が切れ、最後はナレーションだけで済ますのではないかと心配した」などと言っているのを聞いて(ここに出ている会見の発言だが、件の発言はカットされているようだ)、話が完結する前に打ち切りになり最終回は文字説明ばっかりだった漫画界の迷作『日露戦争物語』(江川達也)を思い出した当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第38回目の放送を見ましたよ。

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第7週「移りゆく日々」

糸子(尾野真千子)のイブニングドレスはダンスホールの踊り子たちの間で大評判となり、ロイヤル紳士服店は大繁盛だった。2ヶ月先まで埋まっていた注文も、やっと折り返し地点まで来た。すると今度は、最初の頃にドレスを作った客が普段使いのワンピースも欲しいと言ってくるほどだった。婦人服をバカにしている店主(団時朗)であるが、金儲けのクチになるのでたいそう機嫌が良かった。

踊り子のサエ(黒谷友香)と糸子はすっかり打ち解けていた。最近のサエはロイヤル紳士服店には顔を出さず、糸子が居る時を狙って家に遊びに来るようになった。サエはロイヤル店主の意地汚い性格を知っており、彼と顔を合わせたくないのだ。彼に金が流れるのも気に入らない。
家にはミシンもあるし、糸子の評判は高まっていることを理由に、サエは糸子に独立することを勧めた。糸子もその気になり始めた。

早速、糸子は善作(小林薫)に店を辞めて独立したいと相談した。
ところが、酒を飲んですでに酔っ払っている善作はめちゃくちゃなことを言い出した。まず、糸子が「小原洋裁店」と言ったのが気に入らなかった。ここは呉服店だと言ってへそを曲げた。
次に、ロイヤル紳士服店に修行に出た糸子が身に付けたのは職人の腕前だけであり、そもそもの目的である商売人としての腕は挙げていないと難癖を付け始めた。イブニングドレスで繁盛したことは認めるが、それだけで商売人として成功しているとは言えない。

そこで善作は、もう1軒別の店を繁盛させることができたら独立させてやってもいいと、酔いに任せて適当な約束をした。
糸子は腹を立てたが、それに従うほかなかった。ロイヤルの店主に、ドレスを全て仕上げたら店を辞めることを申し出た。金のなる木を失うわけにはいかない店主は、困った顔を見せたり、怒ったりして引きとめようとするが、当然糸子の意思は固かった。父との約束のことを打ち明けると、店主は呆れてしまいそれ以上何も言えなくなった。

その頃、奈津(栗山千明)が玉枝(濱田マリ)の店に髪を結いにきた。翌日が入籍だという。ただし、父(鍋島浩)の喪中で式は挙げられない。父が買ってくれた高価な花嫁衣裳なのに、父が自分で無駄にしてしまったなどと、奈津は皮肉な冗談を言っていた。

ところが次第に顔を曇らせ、玉枝に打ち明け話を始めた。自分は小さい頃からずっと、玉枝の息子である泰蔵(須賀貴匡)のことが好きだったのだと。自分のことなど知られていないと思っていたのに、名前を知ってくれていて嬉しかったなどと話した。そのあたりまで話すと、しくしくと泣き出すのだった。
玉枝は人払いをし、奈津の気が済むまで店で泣かせてやるのだった。

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NHK『カーネーション』第37回

今朝の『額縁をくぐって物語の中へ』はゴヤの「着衣のマハ」&「裸のマハ」であって、2枚を並べるととてもエロチックであり、服を着ている方はばっちりメイクなのに、裸の方は化粧が取れて髪も乱れているという説明にますますエロさを感じた当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第37回目の放送を見ましたよ。

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第7週「移りゆく日々」

昭和8年 (1933年)、奈津(栗山千明)の父(鍋島浩)が死んだ。

糸子(尾野真千子)は葬式に行く気になれなかった。奈津は小さい時から糸子に敵愾心を持っており、糸子にだけは絶対に弱みを見せようとしない。父を失くして大変な時に、糸子に会うと神経が参ってしまうのではないかと心配なのだ。
しかし、幼なじみの父の葬式に参列しないわけにもいかず、渋々と出かけていった。ところが、そこで見た奈津はいつも以上に気丈に振舞っており、糸子を目の前にしても少しも動じるところがなかった。

一方、糸子の仕事は大忙しだった。
サエ(黒谷友香)のイブニングドレスが評判を呼び、他の踊り子たちがロイヤル紳士服店に殺到した。店主(団時朗)はホクホクしながらも、糸子に無理難題を押し付けた。1着を3日で仕上げろというのだ。背広を最高級の製品だと考え、ドレスは女子供向けの低級品だと思っている店主は、ドレス作りに手を抜いても構わないから、とにかく早く仕上げろというのだ。店の職人たちも同様で、ミシンは背広づくりに優先され、糸子はミシンも使うことができなかった。

糸子は立腹した。
しかし、踊り子たちが1日でも早くドレスで踊りたいという気持ちもわかり、素早く仕上げることを重要視した。そこで、客の体に布を当て、直接裁断するという工夫を始めた。型紙を作る工程が省ける分、早く作成できるのだ。その工夫が成功し、客も店主も満足した。

店でミシンが使えないので、糸子は自宅のミシンでドレスを縫っていた。
ある日、芸妓の駒子(宮嶋麻衣)が訪ねてきた。2ヶ月先まで仕事の詰まっている糸子は彼女の依頼を一時的に断らざるを得なかった。残念がる駒子であったが、ふたりは久しぶりに女同士で楽しくおしゃべりをすることができた。

仕事で奈津の料亭にも出入りする駒子は、彼女の家の様子を教えてくれた。
先代女将である奈津の母(梅田千絵)は意気消沈し、ほとんど仕事もできない状態になってしまっている。その分を取り戻すかのように、若女将の奈津が気丈に働いているという。以前と同様に元気であるし、ツンツンとして口やかましいという。奈津の結婚に関して、式は無期延期のままだが、婿の入籍だけは済ませたのだという。一刻も早く、店に男手が欲しかったのではないかと思われた。

今年もだんじりの時期になった。
奈津のことが気がかりな糸子は、大好きなだんじりもどこか上の空だった。奈津が強がっていることが手に取るように想像できたのだ。こういう時は素直に泣くのが一番なのにと心配になってきた。どんな事でもいいから、自分が奈津に刺激を与えて、彼女の感情を爆発させてやる必要があるのではないかとまで思うのだった。

そんな中、だんじりの喧騒の中で泰蔵(須賀貴匡)と八重子(田丸麻紀)の息子が迷子になってしまった。
それを偶然見つけたのは、得意先回りに行く途中の奈津だった。どこの子かはわからなかったが、川辺に近づこうとしていたのを危ない所で呼び止めたのだ。すると、子供を探していた泰蔵がすぐにやって来た。

彼は奈津の初恋の人である。けれども、泰蔵は奈津のことを知らないので、いつも一方的に眺めるだけだった。今でも彼を見ると気が動転してしまう。
ところが今日は、泰蔵が奈津の父のことで励ましてくれた。奈津は自分のことが泰蔵に覚えられていると知ると嬉しかったが、ますます正気を失った。舞い上がってしまい、お使いのことを忘れ、今来た道を引き返してしまうのだった。

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生まれて初めて『天空の城ラピュタ』を見た俺の独り言

1986年公開の映画『天空の城ラピュタ』が名作の誉れ高いことは知っていた。けれども、僕はこれまでラピュタのことが好きではなかった。

その理由は、ハイダーの「バランス理論」を援用して説明できる。

バランス理論の簡略図

バランス理論の簡単な説明は次のとおりである。
僕たちは、いろいろな理由によって他人や物事を好きになったり嫌いになったりする。そのときのプロセスの法則の一つだと言われている。

この理論では、物事の好き嫌いに関して3者関係を想定する。「自分」、「相手」、「何か」である。その3つの間の関係をプラスとマイナスで表すものとする。好意を抱いている関係をプラス、嫌いな物をマイナスとする。たとえば、僕は山瀬まみが好きなので「自分-相手(山瀬まみ)」の関係をプラスとする。僕は黒ビールが嫌い(その理由は割愛する)なので「自分-何か(黒ビール)」の関係をマイナスとするわけである。

3者関係のそれぞれにプラスとマイナスの記号を付ける。ここで中学校で習う「マイナスの掛け算」の知識を動員する。つまり、プラスとプラス、および、マイナスとマイナスの積はプラスになる。一方、プラスとマイナスを掛け合わせた積はマイナスになる。この定義に従い、3つの関係のプラスとマイナスの記号を掛け算する。3者関係の掛け算の積がプラスの時には安定し、マイナスの時には不安定となると考えられる。上の図の左側を見ると、プラス×プラス×マイナス で積がマイナスとなる。この状態は不安定である。
不安定な時、人は積がプラスとなるよう態度を変えると考えられている。図の右側のように、それまで嫌いだった何かを好きになる(右上)か、それまで好きだった相手を嫌いになる(右下)だろうと考えるのだ。

この理論を当てはめれば、僕のラピュタ嫌いが説明できる。
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NHK『カーネーション』第36回

今朝はオープニング・テロップを見ながら「???」となった当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第36回目の放送を見ましたよ。

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第6週「乙女の真心」

サエ(黒谷友香)と喧嘩別れしたことで、糸子(尾野真千子)は店主(団時朗)に激しく叱責された。他の職人たちが帰った後も、長く怒鳴られていた。

やっと解放され、店から出ると同僚の川本(駿河太郎)が待ってくれていた。糸子が泣きながら出てくると思い、慰めてやろうと思っていたのだ。
しかし、意外にケロッとした様子で川本はあてがはずれた。それでも、川本はかき氷を食べに誘った。

かき氷をペロリと平らげ、この暑いなか休むことなく怒鳴り続けた店長の方が大変だったに違いないなどと、糸子は少しも悪びれる様子がなかった。けれども、洋服づくりに没頭すると儲けを度外視してしまう悪い癖があるのだと川本に打ち明けた。父(小林薫)にも叱られた過ちを繰り返したことを反省するのだった。
そこまで話して一人で満足してしまうと、糸子は後ろを振り返ることもなくさっさと家へ帰ってしまった。川本はもう少し糸子と一緒に居たかったのだが、それを口に出すことはできなかった。

翌日は激しい雷雨になった。
そんな悪天候にもかかわらず、サエが再びロイヤル紳士服店にやって来た。

サエは糸子に正直な胸の内を語りだした。
自分は客のことを単なる金づるだと思い、彼らを適当にあしらうように踊りの相手をしているのは真実だ。岸和田の客には、どうせ踊りの良し悪しなどもわかるはずがない。
しかし、一人だけサエの踊りを褒めてくれた客がいた。その人は、彼の仕事の世界で成功している立派な人物である。道を極めた人に認められたことはとても嬉しかった。サエには踊りの才能があると認め、修行を積めばもっと上手になると言ってくれた。けれども、自分は精進することもなく、相変わらずその場しのぎの仕事しかしなかった。そのうち、その客にも指名されなくなってしまった。

その客というのが、サエにイブニングドレスのことを話した客であり、サエがドレスを見せたい相手だった。衣装をいくら着飾ったところで、中身が変わるわけではないことはわかっているが、どうしても着たいのだと、サエは本心を語った。

糸子はその話に感じ入るものがあった。糸子は洋裁講師・根岸(財前直見)の教えを常に忘れていない。人は着るものによって中身が変わると信じている。
糸子はサエのドレス作りを再び請け負うことに決めた。そして、自分が全身全霊をかけて一流のドレスを作ると約束した。サエに対しては、その一流のドレスに吊り合うだけの踊り子になるよう精進しろと、傲慢ながらもサエを勇気づけるに十分なエールを贈るのだった。

それからふたりは二人三脚でドレス作りにとりかかった。生地選びや試着、仮縫いなどを何度も繰り返した。糸子は少しも妥協を許さなかった。サエも嫌な顔ひとつせず付き合った。納期が遅れることも気にしなかった。ふたりは目標に向かって最大限の努力をした。

そしてついに、満足の行くイブニングドレスが完成した。
その日の夜、早速サエが着用するというので、糸子はダンスホールの見学に行った。そこでは、サエは男性客に取り囲まれ、ひっきりなしに指名を受けていた。ホールの真ん中で踊る姿も華やかで、堂々として見えた。糸子もそれを見て満足だった。

しばらくすると、上等な身なりをした男がホールに現れた。彼が入ってくると、店内は時が止まったかのように静まり返った。サエを取り囲む人垣が自然に崩れ、その男は一直線にサエへ向かって歩いた。サエは何も言わず、優雅に彼の誘いを受けた。
意中の客と踊るサエは、さっきまでの様子に輪をかけて美しかった。ホールにはふたりの他には誰もいないかのように見えた。

ただし、その客というのは歌舞伎役者の春太郎(小泉孝太郎)だった。糸子がこの世でもっとも嫌いな男の一人だった。彼のニヤケ顔を見ていると胸がムカムカしてくるのだった。

ちょうどその頃、奈津(栗山千明)の父親(鍋島浩)がこの世を去った。

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NHK『カーネーション』第35回

NHK『額縁をくぐって物語の中へ』を見ていて、江戸時代の絵師・歌川国芳の作品に「其のまま地口 猫飼好五十三疋」という猫のとんち絵で東海道五十三次を描いたものがあることを知り(Wikipediaで調べる)、また東海道を走りたくなった当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第35回目の放送を見ましたよ。

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第6週「乙女の真心」

踊り子・サエ(黒谷友香)のイブニングドレスを受注した糸子(尾野真千子)であったが、どうも気が進まなかった。サエの傲慢な態度が気に入らないのだ。
同僚の川本(駿河太郎)は、そんな糸子を励ましてくれた。立派なイブニングドレスを仕立てればダンスホールで評判になり、多くの踊り子が糸子の元へ殺到するに違いないと言うのだ。それを聞いて糸子はその気になり、迷いも吹っ切れた。

ロイヤル紳士服店での仕事を早めに終えると、自宅でイブニングドレス作りに没頭した。神戸の祖母(十朱幸代)から借りてきたドレスを勝手に分解して研究した。徹夜して、その日のうちに安い布を使用した試作品を完成させた。

そのまま眠り込んだ糸子が再び目を覚ますと、母・千代(麻生祐未)が勝手にドレスを着て踊っていた。若い頃、何度もイブニングドレスを着て舞踏会に行ったことがあるのだという。意外なところに参考人がいることに糸子は驚いた。
千代によれば、糸子の試作品は踊りやすさが全く考慮されていないという。ダンスのポーズを取ると布が引き連れて違和感があるという。そのため、ドレスと踊り手の見た目も悪くなってしまうと指摘した。

しかし、どこか間の抜けている千代は、ドレスを仕立てる時の具体的な手順はすっかり忘れてしまっていた。糸子の詳しい質問には一切答えられなかった。そこで糸子は、神戸の祖母に電話で話を聞いてみた。祖母によれば、仮縫いと試着を繰り返し、本人の体型にぴったり合うまで何度も修正を加えるのだと教えてくれた。
サエの人となりを好きになれない糸子は、彼女に何度も会う羽目になるのが気に入らなかったが、教えてもらったとおりにすることにした。

ロイヤル紳士服店で試作品を試着したサエは大喜びした。もう何も作りなおす必要はないから、これをそのまま引き渡せと騒ぎ出した。
しかし糸子は、これはあくまで見本であり、粗末な生地で作ってあるので売るわけにはいかないと断った。自分は客に最高のものを着せるという矜持がある、だからこんなものを着せるわけにはいかないのだ。

糸子とサエは激しい口論になった。
糸子は、洋裁とダンスという専門分野の違いはあるが、その道の玄人として最高のものを客に提供したいという気持ちがわかるはずだと主張した。ところがサエは、自分はそんなに立派なものではないと反論した。自分の仕事は、男に合わせて適当に踊るだけであり、専門性も矜持も持ち合わせていないと言い切った。

糸子はそのように下品な女のドレスを作るつもりはないと啖呵を切り、部屋を出ていってしまった。
残されたサエはじっと考えこんでしまった。

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NHK『カーネーション』第34回

昨夜、数カ月ぶりにジョギングをしたら、今朝は全身筋肉痛に襲われて難儀している当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第34回目の放送を見ましたよ。

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第6週「乙女の真心」

今年の夏は暑くなった。
ロイヤル紳士服店では、雑用のほとんどが糸子(尾野真千子)に押し付けられていた。糸子が炎天下で一人で作業している間、店主(団時朗)と他の従業員たちは屋内でティータイムを満喫していた。

店主の自慢話に、従業員たちはお世辞を言って彼のご機嫌をとっていた。店主によれば、自分はいつまでも岸和田の田舎者を相手に商売するつもりはない。近い将来、心斎橋や東京に進出するつもりだと大きな事を言っていた。

そんな話をしている矢先、ダンスホールの踊り子・サエ(黒谷友香)がロイヤル紳士服店に現れた。店のことは糸子から聞いた、自分のためにイブニングドレスを仕立てて欲しいと言うのだった。
すぐに糸子が店内に呼ばれた。店主は、糸子が心斎橋百貨店の制服を作ったことを紹介し、婦人服に詳しい糸子なら完璧な仕事をこなすだろうと推薦した。この時、糸子はイブニングドレスが何なのか知らなかったが、洋服に詳しい店主なら助言してくれるだろうと思い、控えめながら仕事を引き受けることにした。

早速サエの採寸が始まった。ふたりっきりになった糸子は、勘助(尾上寛之)のことをおずおずと尋ねた。しかし、サエは騒動を起こした勘助などにはこれっぽっちも会う価値がないと面白くなさそうに答えた。とりあえず勘助が更生したことに安心し、糸子はそれ以上何も言わなかった。後に勘助の母(濱田マリ)に聞いてみたところ、その話に嘘はなかった。

現在、サエら岸和田の踊り子は和服にエプロンという出で立ちでダンスをしている。サエは、自分の上客にその姿をバカにされたという。東京などのダンスホールでは女性はイブニングドレスを着ているが、岸和田の踊り子は田舎くさいと笑われたのだという。勝気なサエは、その客を見返したいというのだ。前金として、10円もの大金を躊躇なく置いて帰っていった。あとで知ったことだが、一流の踊り子ともなると、月に軽く300円は稼ぐのだという。

店主は金払いのいいサエにほくほくした。
サエがいなくなったので、糸子は店主にイブニングドレスがどういったものなのか詳しく聞こうとした。しかし、店主も自分は紳士服専門だからと言って、何も知らないことを白状した。これは糸子の仕事だといって、全ての責任を押し付けた。多額の前金を手にしたことで、店主は今さら仕事を断るつもりもなかった。

困った糸子は、ファッションに詳しい八重子(田丸麻紀)にダンスホールの新聞記事を見せてもらったり、舶来物をたくさん持っている神戸の祖母(十朱幸代)にイブニングドレスを見せてもらったりした。それでおよその感じを把握できた。

一方で糸子は、人は老いてゆくという自然の摂理を生まれて初めて意識しはじめた。
勘助の母が奈津(栗山千明)から聞いたという話では、彼女の父は倒れて寝込んだままだという。奈津は母(梅田千絵)と助けあってなんとか料亭を切り盛りしているが、結婚式は延期になったままだという。
神戸の祖母も体調を崩して寝ていた。本人らは風邪をこじらせただけだと軽く言っているが、明らかに様子がおかしかった。あまり喋ろうとしないし、大好きなカステラにもほとんど手を付けられずに残してしまっていた。

自分の父・善作(小林薫)も最近はまったく覇気がない。酒ばかり飲んでは、酔いつぶれて布団に入らずに朝まで寝ていたりする。糸子を怒鳴る声にもめっきり元気がなくなった。糸子は、善作のことを少し見くびるようになった。
けれども、彼の気持ちがわからないでもない糸子だった。歳をとり、店も潰れる瀬戸際にある。目をかけていた長女・糸子が、自分の期待を裏切って商売人として使いものにならない。酒に溺れるのも当然かも知れないと思うのだった。

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NHK『カーネーション』第33回

今夜放送の『ためしてガッテン』(生かす!きのこパワー 13倍UP激うま健康ワザ)はゲストとして山瀬まみ藤田朋子が共演するということで、20年前の『山瀬まみ・藤田朋子のおませなふたり』を思い出し(参考: ふたりが「オリビアを聴きながら」を歌う映像)胸の熱くなっている当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第33回目の放送を見ましたよ。

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第6週「乙女の真心」

糸子(尾野真千子)は初めての洋裁受注に有頂天になり、自ら申し出て客(宮嶋麻衣)から代金を貰わなかった。善作(小林薫)は、その行為について商売人失格の烙印を押した。街中から糸子の洋裁屋のチラシを回収し、店頭から洋裁の張り紙も取り除いてしまった。

善作は、糸子を隣町のロイヤル紳士服店に働きに行くことを命じた。商売の基本を一から勉強させ直そうというのだ。自分の行ったことに反省していた糸子は、素直にそれを受け入れた。

当時、女性の洋装はまだ珍しかったが、男性のそれはずいぶんと普及し始めていた。時流に乗り、ロイヤル紳士服店もなかなか繁盛していた。
しかし、店主(団時朗)は威張っていて意地悪だった。糸子が紅茶を淹れると、口をつける前に理由も言わずに取替えさせたりする。それでも、新入りの糸子は従うしかなかった。さらに、4人いる職人たちも総じて付き合いにくかった。糸子のことを見くびっているのか、みんな態度がよそよそしく、まともに口も聞いてくれなかった。

そんな中、一人だけ糸子に愛想の良い職人・川本(駿河太郎)がいた。他の職人の手前、直接話しかけてくるわけではないが、仕事をしながら頻繁に彼の視線を感じた。糸子は少々不思議に思ったが、あまり深く考えないようにしていた。

ある日、仕事を終えて帰宅すると、玉枝(濱田マリ)が家で待っていた。最近、次男の勘助(尾上寛之)の様子がおかしいのだという。夜どこかに出かけて、遅くまで帰ってこない。勤め先の和菓子屋が給料を払ってくれなくなったと言い訳して、家に金を入れなくなった。給料が貰えないわりには、真面目に仕事に出かける。どうも外で悪い遊びを覚えたようだといって、糸子に相談に来たのだ。

話を聞くと、糸子は即座に家を飛び出した。勘助の友人・平吉(久野雅弘)の口から勘助の行き先はすぐに知れた。ダンスホールに入り浸っているのだ。

糸子はダンスホールに入店し、勘助の行動を監視した。
勘助は踊り子・サエ(黒谷友香)をが他の客と一緒に踊るのをじっと見つめていた。1曲終わったのでダンスを申し込もうとしたが、押しの弱い勘助は他の客に遅れをとってしまった。またじっと待つはめになった。

そこでやっと、勘助は糸子の存在に気づいた。
糸子は勘助のことを叱った。自分の雇い主を悪者にして給料が貰えないと嘘をついていること、母を心配させていることなどを責め立てた。女にうつつを抜かす前に自分の責任を果たせと叱責した。それでも勘助は、ここで帰ったらもう二度とサエと踊ることができなくなる。自分はサエのことが好きになってしまったのだと楯突いた。

ついに堪忍袋の緒が切れた糸子は、場所をわきまえず勘助に掴みかかって大暴れした。
そして、すぐに事務所に呼ばれた。支配人(稲健二)は糸子の男勝りの態度を評価し店で雇いたいくらいだと言うが、糸子はもちろん洋裁が天職だと言って断った。それでも糸子への評価と勘助への評価は別だとして、彼は当然出入り禁止となった。その場にサエも同席したが、彼女は一言も発せず、迷惑そうな様子を貫いていた。

帰り道、勘助は女々しく泣き続けた。糸子は腹立たしいばかりで、少しも慰める気にならなかった。

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NHK『カーネーション』第32回

コラムニスト泉麻人の娘、朝井麻由美の存在を知り、しかも彼女がわりと体当たり系(例えば、セミ食ってる。閲覧注意)のフリーライターになっていると知って目頭の熱くなった当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第32回目の放送を見ましたよ。

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第6週「乙女の真心」

糸子(尾野真千子)はうきうきしながら駒子(宮嶋麻衣)の洋服の製作に打ち込んだ。駒子も完成が楽しみで、生地合わせや仮縫いのために足しげく糸子の元を訪ねた。いつしかふたりは、本当の友だちのように仲良くなった。最初の服の完成前なのに、次はどんな洋服を作ろうかと楽しげに話しあったりした。

一方で駒子から、奈津(栗山千明)の父(鍋島浩)が倒れたと聞いたことは心配であった。しかし、気位の高い奈津は、糸子に同情されるとますます落ち込むと想像できた。そのため、糸子は奈津の家へ見舞いに行くことは差し控えた。

そして、ついに駒子の洋服が完成した。早速試着した駒子は大喜びした。それは駒子によく似合っていたし、駒子本人をとてもよく引き立てる色使いとデザインであった。
最初は大はしゃぎしていた駒子だが、急に感極まって涙ぐんでしまった。駒子は芸妓である。芸妓はいくら芸を磨いたり、本を読んで勉強したりしても、あまり認められることはない。結局、見た目の良し悪しで優劣が決まってしまうというのだ。糸子の作ってくれた洋服を着ると、自分がとても美人に見える。それが嬉しくて泣いてしまったのだ。
駒子は、この服を着て馴染みの客を驚かせたり、見返してやりたいと思った。

その話を聞いていた糸子は、洋服を着た駒子を強引に外へ連れ出した。恥ずかしがる駒子を後押しし、街を歩かせた。すると、人々はみな駒子に見とれ、異口同音に美人だと噂しはじめた。その反応に駒子は自信を持つことができた。徐々に顔を上げていき、ついには堂々と街を歩くのだった。
糸子も、自分の作った洋服が一役買っていることに鼻が高かった。洋服のことを尋ねてきた人には、ちゃっかりと宣伝することも忘れなかった。

洋服の完成度と、駒子の喜ぶ姿に満足した糸子は、代金を受け取ろうとはしなかった。客の喜ぶ姿から、自分自身も学ぶことが多かったので金はいらないと言うのだ。その代わり、また洋服を仕立てに来ることを約束させるのだった。
糸子は、自分の懐の深さに有頂天になった。

しかし、その話を聞いて激怒したのは善作(小林薫)だった。
そもそも今回の洋服の材料費は、糸子が必ず返す約束で善作に出してもらったものである。それが返せなくなった。次に洋服を受注したとしても、その材料を仕入れる金もない。ましてや、仕事の対価を貰わないことは慈善事業であり、商売人のすることではない。
善作の怒りは激しかった。糸子を強く折檻し、店の中もめちゃめちゃに荒らして出て行ってしまった。

糸子も、自分で自分が情けなくなった。夜、布団に入っても泣き続け、なかなか眠ることができなかった。

すると、両親の寝室からもむせび泣く声が聞こえてきた。よく耳をすますと、それは善作の泣き声だった。善作も悔しく、情けない思いでいっぱいだった。糸子がやっと一人前の商売人になったと思って将来を期待していたのに、それが裏切られたのが情けないと言っていた。妻・千代(麻生祐未)の前でおいおいと泣き続けた。

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NHK『カーネーション』第31回

今週の放送ではついに笑福亭鶴瓶の息子が登場すると知り、いろんな意味でますます目の離せなくなった当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第31回目の放送を見ましたよ。

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第6週「乙女の真心」

昭和8年(1933年)。
善作(小林薫)は、ビワの葉温灸という新しい商売を始めた。その張り紙を店頭の目立つ所に貼ってしまった。小原呉服店の業態が混乱するばかりで、客も寄り付かなくなった。糸子(尾野真千子)は一家の先行きがますます不安になった。さらに最近の善作は、昼間から酒を飲んでは糸子に絡むようにもなった。

一方で糸子は、洋裁屋の宣伝に力を入れた。印刷屋に務めはじめた静子(柳生みゆ)の力を借り、チラシを作って街中に配った。

その頃、料亭・吉田屋では奈津(栗山千明)の結婚準備が進んでいた。奈津は嬉しそうにしていたし、自分の母(梅田千絵)以上に女将仕事にも熱心に取り組んでいた。

奈津の母が、糸子の洋裁屋のチラシを持ってきた。糸子をバカにしている奈津は、洋服を作るのは心斎橋に限ると言って、チラシに一瞥もくれなかった。しかし、吉田屋に出入りする芸妓たちの間では、近くで安く洋服が手に入ると言って好意的に受け止められた。

さっそく、芸妓の駒子(宮嶋麻衣)が糸子の所へやって来た。初めての指名客に糸子は慌てふためいた。一方の駒子は、糸子の様子を見て不安を覚えるのだった。

糸子と駒子は、婦人雑誌をめくりながらデザインの品定めを行った。
駒子が希望するのは、大人びて落ち着いたデザインの洋服だった。しかし糸子は、それらのデザインは、童顔で可愛らしい雰囲気の駒子には似合わないように思われた。もっとフワリとした可愛らしい洋服が似合うのではないかと提案した。

その提案に対して、駒子は自分には絶対に似合わないと強硬に反対した。聞けば、以前に心斎橋の洋裁屋で可愛らしいデザインのものを仕立てたが、自分にはまったく似合わなかったという。その洋服を着ると、顔色が悪く、足も短く見えたのだという。

その話を聞いた糸子は、洋服のデザインが駒子に似合わないのではなく、服の仕立てが悪かったのだと説いた。きちんと採寸して要所をしっかりと作れば足が長く見えるし、生地選びを失敗しなければ顔色も映えると説明した。
その話を聞いて駒子は納得した。本当は自分でも可愛らしい洋服が大好きだったのだ。その時の駒子は、見ている糸子まで嬉しくなるような笑顔を浮かべた。それを見て、必ず駒子の満足するものを作り上げようと決意するのだった。

採寸を済ませ、次は生地屋へ向かおうとした。しかし、その時に問題が3つ持ち上がった。

1つ目の問題は、生地を仕入れる金の問題だった。宣伝用のチラシを大量に刷ったため、糸子には金が残っていなかった。先日パッチを100枚作って手に入れた金は全て善作に渡していた。
しかし、他に頼るあてもなく、渋る善作に頼み込んでなんとか必要最少限の金を確保した。

次の問題は、一人で生地を見ていても、駒子に似合う色がわからないという問題だった。実際に駒子の顔に当ててみなければ、どの色が最適か判断することができなかった。店頭で糸子が困っていると、生地屋の主人(妻形圭修)が生地見本帳の存在を教えてくれた。それを借りて、糸子は急いで駒子に会いに行った。

最後の問題は、座敷に向かう途中の駒子を捕まえたものの、すでに白粉を塗ってしまっていて見本合わせができないことであった。翌日の昼間に、化粧を落として糸子に面会することを約束して、その場は別れた。

しかし、その日のうちに、化粧を落とした駒子が糸子の所へやって来た。予定されていた座敷が急遽なくなってしまったのだという。奈津の父・克一(鍋島浩)が急に倒れたのだという。予約を全て取り消し、店を閉めるほどの容態らしいと聞いて、糸子は心配するのだった。

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