おともだちパンチ

森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」より。

「おともだちパンチ」を御存知であろうか。
たとえば手近な人間のほっぺたへ、やむを得ず鉄拳をお見舞いする必要が生じた時、人は拳を堅く握りしめる。その拳をよく見て頂きたい。親指は拳を外側からくるみ込み、いわば他の四本の指を締める金具のごとき役割を果たしている。その親指こそが我らの鉄拳を鉄拳たらしめ、相手のほっぺたと誇りを完膚なきまでに粉砕する。・・・(中略)
しかしここで、いったんその拳を解いて、親指をほかの四本の指でくるみ込むように握りなおしてみよう。こうすると、男っぽいごつごつとした拳が、一転して自身なさげな、まるで招き猫の手のような愛らしさを湛える。こんな拳ではちゃんちゃら可笑しくて、満腔の憎しみを拳にこめることができようはずもない。かくして暴力の連鎖は未然に防がれ、世界に調和がもたらされ、我々は今少しだけ美しきものを保ちえる。
「親指をひっそりと内に隠して、堅く握ろうにも握られない。そのそっとひそませる親指こそが愛なのです」

彼女はそう語った。

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先斗町 いづもや

土用なので、鰻を食す。
注文したメニューは「鰻丼(松)」(1680円)。
竹とか梅とかはもっと高くて豪華だけれど、松。
当方の財布が心許なかったわけでも、今日の人間ドックで「コレステロール値が高い」と言われてちょっと節制したわけでもない。

木公だからであることは、賢明な読者ならすぐに気づくことだろう。

鰻丼(松)

窓からは鴨川と、夏の京都の風物詩である川床が見える。

いづもやの川床

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東寺

平日の正午に東寺の南大門に腰かける、なんとなく気だるく、社会人落第な雰囲気。
しかし、風は涼しい。

蝉の大合唱を聞き、鳩が不器用に歩く姿を眺めると、せわしない世間に対する優越感。
しかし、なんか寂しくもある。

背後に不規則な足音を感じて振り返ると、杖をつきながら歩いてくるおばあさん。
「すごい蝉ですねえ」
と、僕の考えを見透かされた。
さすがは、年の功。ばてて、日陰で休んでらっしゃるけど。

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「太陽の塔」(森見登美彦)

太陽の塔

もう一度、もう二度、もう三度、太陽の塔のもとへ立ち帰りたまえ。
バスや電車で万博公園に近づくにつれて、何か言葉に尽くせぬ気配が迫ってくるだろう。「ああ、もうすぐ現れる」と思い、心の底で怖がっている自分に気づきはしまいか。そして視界に太陽の塔が現れた途端、自分がちっとも太陽の塔に慣れることができないことに気づくだろう。
「つねに新鮮だ」
そんな優雅な言葉では足りない。つねに異様で、つねに恐ろしく、つねに偉大で、つねに何かがおかしい。何度も訪れるたびに、慣れるどころか、ますます怖くなる。太陽の塔が視界に入ってくるまで待つことが、たまらなく不安になる。その不安が裏切られることはない。いざ見れば、きっと前回より大きな違和感があなたを襲うからだ。太陽の塔は、見るたびに大きくなるだろう。決して小さくはならないのである。

(森見登美彦 『太陽の塔』 p.116)

太陽の塔を前にした時に我々が感じる畏敬の念を、これほど見事に捕らえた文章は、僕が知る限り他にはない。

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「友情」(武者小路実篤)を読んだ

クサくて、プラトニックな恋愛物語の大好きな当方である。

漫画なら「タッチ」や「めぞん一刻」であり、歌謡曲なら「木綿のハンカチーフ」や「Blue Moon Stone」をよく口ずさむし、テレビドラマなら「同級生」とか「男女7人夏物語」を挙げるし、文学作品なら「ノルウェイの森」とか「智恵子抄」だったりするわけである。

そんな当方のお気に入りリストに、「友情」が加えられた夜。

わが愛する天使よ、巴里へ武子と一緒に来い。お前の赤ん坊からの写真を全部おくれ。俺は全世界を失ってもお前を失いたくない。だがお前と一緒に全世界を得れば、万歳、万歳だ。

「友情」 下篇 9章

クサい、クサすぎる。
でも、いい!
ゾクゾクする。

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蒼井優 限定文庫カバー (集英社文庫 ナツイチ2007)

映画「ミツバチとクローバー」や「フラガール」の主演のほか、イオンカード新ビオフェルミンSのCMに出演している女優蒼井優の話です。

「風俗で蒼井そらとしたいっ!」や「不法侵乳 14」、「隣りの女子大生 悪魔の肉調教」等に出演しているAV女優蒼井そらの話じゃありません。

集英社文庫の夏のフェア”ナツイチ2007“において、蒼井優の限定カバーがついた文庫本が発売されていました。

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小泉今日子の半径100m

威張って言うほどのことではないが、当方は美人に弱い。

“美人に弱い”と言っても、「ねぇ、あれ買ってぇ~」と言われたらホイホイ金銭を貢ぐとか、妖艶な微笑を向けられたら耳の天辺まで真っ赤になってうつむいてしまうとか、そういう類の弱さではなくて。
美人にのぼせ上がるという類の弱さではなくて。

寒さに弱いとか、魚の光物に弱いとか、数字に弱いとか、そういう類の弱さ。
美人を、生理的に受け付けない弱さの方。

そんなわけで、山瀬まみとかが大好きなのだが。

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タバコケースをなくした

当方が肌身離さず持っていた、タバコケースが見当たらない。

Red Hot Chili Peppers の “One Hot Minute” というアルバムのジャケットをパクッたブリキのケース。
特にレッチリのファンと言うわけではないが、イラストの女の子が可愛くてお気に入りだったタバコケース。

タバコが17本しか入らないから、タバコを買って3本吸ってからじゃないとタバコを収納することができないケース。
ちょっと不便だけれど、愛用していたタバコケース。

当blogの愛読者の方(特に♀)と初めてお会いすると
あ、よく写真に出てくるタバコケースだ
と言われ、ある意味当方のアイデンティティのひとつになっていたタバコケースだったのに。

すげぇショックだ。

在りし日のタバコケース
タバコケース