NHK『ゲゲゲの女房』第55回

 シュールかつ奇想天外、それでいて洗練されたコントで人気のコンビラーメンズ片桐仁が貧乏神役で出演すると聞いて、彼の個性的な風貌は大好きなので嬉しいやら、1年前に放送されていた「つばさ」に出てきたラジオの精(イッセー尾形)は滑りまくりだったし大丈夫かなと心配になったりするやらの当方が、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の第55回めの放送を見ましたよ。

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「こんにちは赤ちゃん」

 病院で検査を受け、布美枝(松下奈緒)の妊娠が確かめられた。
 病院の待合室では、医療費を支払えなくなって困っている母親を目撃したり、お産や子育てに金がかかると愚痴をこぼす母親たちの声を聞いた。自家の経済状況に照らして、不安になる布美枝。
 しかし、自分が母親になるという事実はそんな悩みを払拭してくれた。布美枝は有頂天になり、茂(向井理)になんと言って報告しようかと考えながら、意気揚々と家路についた。

 ところが、家では茂と下宿人の中森(中村靖日)が深刻な表情で向かい合っていた。漫画家としてついに芽が出なかった中森は、大阪に残してきた妻子の元に帰えり、40歳を超えた年齢で、襖貼り職人として一から出直すという。仲間が挫折したことに加え、家賃収入まで無くなったことを残念がる茂。さらに、中森のように子どもがいると生活が大変であり、貸本原稿の稼ぎ程度では家族を養うことは無理だとまで言い出す始末。
 それを聞いた布美枝は、自分の妊娠のことを言い出せなくなってしまった。

 改めて自分が稼がねばならないと思った布美枝は、化粧クリームセールスの仕事を続けるつもりだった。しかし、営業所長(吉田羊)は問題の発生を避けたいと思っている。特に客先でのトラブルが心配だと言い、布美枝はクビになってしまった。

 その日の夜、同業者の戌井(梶原善)も招いて、中森の送別会が開かれた。こういう事には鼻の効く浦木(杉浦太陽)もひょっこりと現れ、中森を紹介したのは自分だと主張して図々しく卓に並ぶのだった。村井家の料理が以前よりも質素になったと言ったり、中森らに対する無礼な物言いで場の空気が悪くなる。
 そこへ、はるこ(南明奈)まで現れた。作品が貸本として出版されることが決まり、それを報告に来たのだ。中森の事情を知らず、快活で明るく振舞うはるこ。そして、はるこに一目惚れした浦木は、中森を差し置いてはるこをちやほやする。そのため、周囲はますます白けて行く。
 布美枝は、明暗を分けるふたりの姿を見ていると胸が苦しくなった。それにつられて、妊娠のこともますます言い出せなくなってきたのだった。

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名古屋メダリオン・ツアー(2): 名古屋城

 みうらじゅんのメダリオンを入手するために名古屋に来た。
 そして、当blogにおけるメダリオンの原点は、2004年11月7日に名古屋城で購入した1枚である。

 それから早5年半。
 自分がどれだけ成長したのか、もしくは成長していないのか。それを自分自身で見定める必要があろう。そのことを確かめるために、再び名古屋城にやって来た。

 5年半の間に退化したとだけは考えたくない。

【名古屋城を見つめる俺】

2004年 2006年 2010年
2004年: 自分を写していなかった。
自分を撮ることをしていなかった
2006年: 喫煙時代
ウエストポーチにはタバコが入っていた
2010年の俺: 禁煙デブ
タバコはやめたが、腹が出始めている

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名古屋メダリオン・ツアー(1): みうらじゅんの100冊展

 「みうらじゅんの100冊展: Book on Rock ‘n’ Roll!」という展示会が、名古屋PARCOにおいて 2010年5月20日から6月13日までの日程で開催されている(開催案内)。メジャーデビュー30周年を記念した企画。

みうらじゅんの100冊展 於・名古屋パルコ

 多くの著作物と共に、その書籍の生原稿が展示されている。
 21世紀にもなってワープロは使わず、クセのある字で原稿用紙に鉛筆書きされているのが特徴。余白には、雑誌編集者に宛てた一言メモなどが書かれているのを見ることができた。簡素なものだけれど、腰の低い挨拶文。「みうらじゅんって、結構いい奴なんじゃねーの」という気分になる。
 一方イラスト原稿の方は、本や雑誌に掲載されているものそのままで、余計なことはほとんど記されていない。カラーイラストは少なく、白黒原稿の上に薄くて透ける紙(トレースシート?)を載せてカラー指定してある物が多い。漫画家の原画展など見に行くと、きちんと彩色されているものが展示されている。それらとの違いが僕には興味深かった。

 そんなわけで、わざわざ京都府内から新幹線に乗って名古屋まで見に行ったのだが、とても満足できる内容だった。
 パルコ主催の展示会なので、全国のパルコで順次開催される可能性もある。僕の家から近いところだと、大阪心斎橋パルコで開催されたら、もう一回見に行っても良いと思っている。

 ちなみに、会場入口のみうらじゅん序言には「パルコ主催なので、エロは控えめです」と書いてあって笑った。実際、仏像スクラップブックとか怪獣スクラップブックなどは表紙を開いて中を見せていたが、彼のライフワークである「エロスクラップ」だけは閉じて展示されていた。

 堪能した展示会であったが、僕の最大の目的は別にあった。

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NHK『ゲゲゲの女房』第54回

 本日未明の自分のコメントの補足として、本記事を書くためのメモ・ファイルを放送直後の状態で大公開するので、関心のある人は本文と見合わせてニヤニヤしてはいかがでしょうかとアナウンスする当方が、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の第54回めの放送を見ましたよ。

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「私、働きます」

 家計簿の前でため息をつく布美枝(松下奈緒)。このままでは生活が成り立たない。自分が何とかしようと決意した。まずは、良き相談相手である貸本屋の美智子(松坂慶子)を訪ねることにした。

 貸本屋のこみち書房では化粧クリームの実演販売が行われていた。元銭湯の女将・靖代(東てる美)がセールスレディとして来ていて、売れ行きも好調であった。貸本屋の店先で実演販売をするというのは、美智子のアイディアであるという。場所を提供する代わりに、集まった女性客が本を借りてくれるので、お互いにとってメリットなのだという。日本は豊かになったので、人々は自分で本や雑誌を買うようになった。それで貸本業も伸び悩んでいるのが最近の美智子の悩みでもあったのだ。

 貸本業会の困窮に合わせて、布美枝は自分たちも困っているのだと打ち明ける。そして、自分も化粧クリームのセールスをやりたいと靖代にすがりつく。布美枝が内気でおとなしい性格であることを知っている周囲の人々は、向いていないのではないかとひどく驚く。しかし、靖代の手引きで、一応営業所長に会わせてもらうことになった。

 営業所では、実際にクリームの塗り方を習う。それを見た営業所長(吉田羊)は布美枝の採用を即決する。手先が起用であることに加え、素朴な人柄が客の心を掴むだろうと考えたからだ。
 一瞬喜ぶ布美枝であったが、他のセールスレディ達の活発な雰囲気を目の当たりにし、自分には務まらないのではないかと早くも後悔し始めるのだった。今までに外で働いた経験といえば、1日だけ即席めんの実演販売を手伝った経験しかない。しかもその時、大失敗をした(第10回参照)ことを思い出して怖気付くのだった。

 憂鬱なまま家に帰って来た。自分が外で仕事をすると言えば、茂(向井理)は反対するに決まっている。それを口実に仕事を断ろうと考えた。おずおずと話し始める布美枝であったが、仕事をしている茂は生返事しか返さない。しかも、茂は急に笑い出した。『河童の三平』の話が面白くて、描きながら自分で吹き出しているのだ。
 楽しそうに漫画を描く茂の姿を見ると、何も言えなくなってしまった。彼にはなるべく金の心配をさせず、のびのびと漫画を描いて欲しい。そのためには、やはり自分が働きに出て急場を凌がなくてはならないと強い決意を固めた。

 翌日から、早速仕事を始めた。初日は靖代と一緒に得意先をまわり、見習いをすることになった。訪問した家で、クリームの試供中に米が炊き上がった。手の離せない主婦に代わって、布美枝がご飯をおひつに移す手伝いを買って出た。しかし、炊きあがった米の匂いを嗅いだ瞬間、吐き気を催してしまう。

 初仕事で緊張しすぎたせいかもしれないし、変なものを食べたせいかもしれないと、迷惑をかけたことを謝る布美枝。しかし、靖代は妊娠であると見抜き、自覚のない布美枝に告げるのだった。

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NHK『ゲゲゲの女房』第53回

 昨日の放送があまりに良かったため、録画しておいたものを夜に見直し、やっぱり同じところでウルッとしてしまった当方が、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の第53回めの放送を見ましたよ。

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「私、働きます」

 玄関の物音を見に行くと、下宿人の中森(中村靖日)が倒れていた。彼は貸本出版社から頼まれた原稿を届けに行ったのだが、頼んだ覚えは無いと言われ、原稿料も貰えなかったという。どうやら、業績が悪化して原稿料を工面できなくなった出版社が発注をなかった事にしたらしい。電車賃すら苦労している彼は、原稿料をあてにして往路の電車賃しか持っていかなかった。金が貰えなかったので、水道橋の出版社から調布まで歩いて帰って来たのだという。仕事が全く見つからず今後の食い扶持も心配する中森のことを、布美枝(松下奈緒)と茂(向井理)は決して他人事だとは思えなかった。

 さらに1ヶ月経って、4月になった。
 茂の留守中に、はるこ(南明奈)が近況報告にやって来た。彼女はパチンコ屋に住み込みで働いている。仕事の終わった夜に漫画を描き、休みの日に持ち込みをしているが、まったく相手にされないという。しかし、自分の手伝った漫画が本になっているのを見せてもらい、より一層やる気にみなぎるのであった。そんなはるこの姿を見て、布美枝は自分の境遇と照らして、少し考えるところがあった。

 茂は『河童の三平』を携えて貸本漫画出版社を何軒も回っていた。しかし、一向に出版先が見つからない。街角で途方に暮れていた茂は、出版社社長の富田(うじきつよし)に出くわした。原稿料不払い事件による絶交から半年ぶりの再会だった。富田はあちこちで不義理をしたため、作家から総スカンをくらい、出版すべき漫画原稿がないのだ。過去を根に持っている茂であったが、落ちぶれた姿ですがりつく富田の頼みを断り切れず、また、自分も他に出版のあてが無いこともあって、彼の会社から本を出すことにした。

 はること行き違いに、茂が帰宅した。『河童の三平』出版のめどが立ったことをとても喜ぶ布美枝であったが、原稿料を3ヶ月後払いの約束手形で受け取ってきたことに落胆する。相手が富田書房であることも大きな不安の種である。支払いが滞っており今すぐに現金が欲しい布美枝。しかし、茂は出版社が見つからずいつまで経っても金が入らないよりは、3ヶ月後に金を受け取る約束をした方がマシだと楽観的な態度を見せる。そう励まされて、布美枝も頷くしかなかった。

 心の中では、茂も富田のことを信用しておらず、不安でいっぱいであった。しかし、今できることは漫画を描くことだけであると自分に言い聞かせ、しゃにむに原稿に取り掛かるのであった。一方の布美枝は、自分が働きに出なくてはならないと考え始めるのであった。

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NHK『ゲゲゲの女房』第52回

 辻希美が第二子を妊娠したというニュースを聞いて、そういや最近、杉浦太陽が出てこないなと思った当方が、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の第52回めの放送を見ましたよ。

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「私、働きます」

 夜が明けた。
 はるこ(南明奈)に手伝ってもらったおかげで、茂(向井理)の原稿にはめどが付いた。彼女を家から送り出すときに、少しばかりの金を包んで持たせてやった。上京の頼りにしていた深沢(村上弘明)が病に倒れたことで途方にくれていた彼女だが、茂の手伝いをしたおかげでやる気を取り戻すことができた。
 朝になってやっと、はるこが少女漫画家の卵であると説明してもらった布美枝(松下奈緒)であるが、まだなんとなく釈然としない。

 完成した原稿を届けに行こうとするが、茂は発熱してまともに立って歩けなくなってしまった。代わりに届けに行くと申し出る布美枝に対して、茂は頑として譲らない。自分が少女漫画を描いていることを秘密にしておきたいこともあるし、意地の悪い出版社社長に布美枝が対応するのは不憫だとも思うからだ。
 しかし、自分は少しでも茂の役に立ちたい、原稿料を値切られるのは以前にも経験しているから大丈夫だと強く訴えた。その意気に圧された茂は、布美枝に原稿の配達を任せることにした。

 出版社事務所から、子供を背負った女性(望月寛子)が出てくるのを目撃した。出版社の春田社長(木下ほうか)の話では、自分の妻だという。自分ひとりでは家族を養えず、夫婦揃って仕事をしているのだという。村井家の苦しい台所事情を知っている春田は、布美枝はなにか仕事をしていないのかと下品に質問するのだった。

 春田は茂の原稿を一瞥し、イヤミを一言加え、裸でしわくちゃの5千円札を差し出した。茂から原稿料1万円が貰えるはずだと聞いていた布美枝は食って掛かる。しかし、新人の原稿料は規定で5千円だと言って聞く耳を持たない春田。茂にはキャリアがあるのにどういうことだろうと思い、原稿を見てみると「水木洋子」というペンネームで少女漫画が描かれてあった。春田は、茂本人が別のペンネームで少女漫画を描くというから仕事を任せたのだ、新しい名前だから新人だと言い張る。それに気圧されて、少ない原稿料を受け入れざるを得なくなった。

 帰り道、布美枝は一人涙を流す。茂が自分に仕事を隠していた理由が、あの不本意な作品にあると悟ったのだ。茂がどんなに辛く悔しい思いで仕事をしていたのかと思うと、悲しくてならないのだった。茂に心配をかけないよう、気を落ち着かせてから帰路についた。

 家では、原稿料が半分しか貰えなかったことを深く謝る。しかし、茂は意に介していなかった。あの社長はとても強欲なので、自分が行っても同じ結果だったろうと笑い飛ばすのだった。
 普段は締まり屋の布美枝であったが、今日だけはささやかな贅沢として、コーヒー豆を買って帰ってきた。早速淹れようとする布美枝を抑え、病み上がりの茂が自分で準備を始めた。コーヒー豆は少ないから自分はいらないと遠慮する布美枝であったが、出版社で嫌な思いをしてきたのだから飲む権利があると勧める茂。

 ふたりは、ここ数日のわだかまりを全て解くように、静かに本音を話しあうのだった。茂は少女漫画の決まりが悪くて言い出せず、布美枝を遠ざけていたことを白状した。布美枝は、自分は蚊帳の外なのに、知らない女性を仕事部屋に入れたことを面白くないと思っていたとはっきり伝えた。
 また、ペンネームが変わっていたことも残念がる布美枝。しかし、茂は絵さえ描ければ名前にはこだわらないのだと言い切る。その熱意を聞いて、布美枝は安心するのだった。

 その時、玄関で物音がした。

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NHK『ゲゲゲの女房』第51回

 ここ数日、ドラマの方が不穏で暗い展開なので、せめてマクラはノーテンキなことを書こうと思ったけれど、やっぱり内容に引きづられて愉快なことが思いつかず、まだまだ修行が足りないなぁと反省した当方が、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の第51回めの放送を見ましたよ。

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「私、働きます」
 良き理解者であった三海社が倒産したことで、茂(向井理)はそれまで付き合いの無かった出版社の仕事を請け負っている。自分の好きな作品ではなく、少女向けの漫画を描かなければならない。コツもわからず、気分も乗らない。締め切りも過ぎている。

 事情を知らない布美枝(松下奈緒)は、原稿の手伝いをするのを楽しみに待っている。やっと仕事部屋から声がかかったと思ったら、蛍光灯を取り替えろと言われるだけだった。期待はずれだった布美枝は、自分から原稿の手伝いを申し出たり、茂の肩を揉むと提案したりする。しかし、茂は大声を出して布美枝を仕事部屋から追い払うのだった。
 それ以後も、布美枝が部屋を覗こうとすると襖を閉めたり、外出中も入室を禁じたりするのだった。

 村井家に河合はるこ(南明奈)が訪ねてきた。家族を説得して上京してきたのだが、頼りにしていた三海社が消滅していて、行き先がないという。戸惑う布美枝を尻目に、茂は彼女の手を掴んで仕事部屋に連れ込んだ。彼女なら少女向けの作品を描くのに最適なアシスタントだと思ったからだ。はるこも、プロの漫画家の手伝いができるとあって張り切るのだった。

 はるこが何者なのか紹介もしてもらっていない布美枝。命じられるままに茶を持って行ったが、いつも自分が手伝いをしていた机にはるこが座っているのを見てショックを受ける。気を取り直し、鍋料理を準備して夕食を楽しもうとするが、締め切り前にゆっくりと鍋を食べる時間などないと、茂に一喝されてしまう。茂は、握り飯を作るように言いつけると、再びはること一緒に仕事部屋に篭るのであった。

 大きな疎外感を感じる布美枝であった。

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NHK『ゲゲゲの女房』第50回

 吐血とは胃などの消化器からの出血であり暗褐色の血を吐くことで、喀血とは肺などの呼吸器からの出血で咳とともに鮮血を吐き出すことであると学び、深沢のケースは「喀血」だったのだと思い至り、昨日のまとめ記事のラストをこっそり書き換えた当方が、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の第50回めの放送を見ましたよ。

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「私、働きます」
 結婚記念日の夜、やっと茂(向井理)が帰って来た。深沢(村上弘明)が結核で倒れたことを説明し、帰りが遅くなったことを詫びる茂。

 布美枝(松下奈緒)は早速、結婚記念日の贈り物を手渡す。それは、空き瓶に細工を施した、手作りのペン立てであった。茂は何も用意していなかったが、「河童の三平」の新連載が決まったことをプレゼント代わりに報告する。それは茂がずっと描きたいと言っていた作品であり、布美枝はとても嬉しく思うのだった。

 深沢が倒れてから1ヶ月が経った。茂らが考えていたよりも、深沢の状態は良くないようだ。
 三海社に様子を見に来た茂。そこでは、業者が出入して事務所の片付けをしていた。仕事を続けられなくなった深沢は、会社を整理することにしたのだ。慌てて「鬼太郎夜話」の最終原稿を取り戻そうとする茂であったが、どさくさの中で紛失してしまっていた。この一件で、未出版の原稿と今後の収入源の両方を失ってしまった。

 その足で別の出版社へ売り込みに行く茂。しかし、「河童の三平」はまったく相手にされないし、長編も描かせてはくれない。ましてや、妖怪物すらやめるよう言われる。さらには、水木しげるは売れない漫画家であると業界内で悪い噂になっているとイヤミまで言われる。怒って帰ろうとする茂であるが、思いとどまって仕事を受けることにした。

 帰宅し、茂は布美枝に一部始終を説明した。仕方がないとサバサバしている茂とは対照的に、布美枝は落胆してしまっている。新たな出版社との仕事が決まったことを聞いて、布美枝は少し前向きになることができた。そこで、どんな漫画を描くのかと尋ねるが、茂はイライラしはじめて作品について話そうとはしない。ついには仕事部屋に閉じ篭ってしまった。

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1キロ 100円

 僕の予算は「1キロ 100円」だ。
 「1キロ 100円」と聞いて、みなさんは何を想像するだろうか。

 日々、スーパーでお買い得品を抜け目なく探している人なら、豚肉、鶏肉などのグラム単価を思いつくかもしれない。しかし、あれは「グラム xx円」と言いながら、実際には「100グラム」あたりの価格である。いずれにせよ、当方が問題にしているのは「キロ」である。一桁違う。
 つーか、1kg 100円の肉って、いったいどんな品質の肉なのか。

 僕はスーパーでミネラルウォーターを買う。ブランドによって値段はマチマチだが、機嫌の悪い時は98円の2リットル入りボトルを買う。機嫌の良い時は、2リットルで198円のものを買う。水の重さは1リットルあたりおよそ1キログラムなので、「1キロ 100円」といえば、機嫌が良い時の当方が買うミネラルウォーターにほぼ相当するわけである。
 しかし、別にそんなことを言いたいわけじゃない。

 ていうか、読者の目を重さの単位に向けさせたのは、当方の作為だ。
 僕が本当に言いたかったのは、「1km あたり 100円」という話である。距離の単位についてだ。

 距離に比例した料金と言えば、タクシー料金が思い浮かぶ。
 そこで、「タクシー料金を調べる」というサイトで、タクシーの料金を調べてみた。地域によって違いがあるので、東京23区内を参考としよう。そこでは、初乗り運賃が2kmまでで640円(小型車)とある。初乗り料金なので、1kmで降りたとしても640円取られる。つまり、「1キロ 640円」という事になる。初乗り以後は、290m ごとに80円とのこと。1km乗ると約275円かかる計算になる。

 タクシーに関して言えば、「1キロ 100円」という当方の予算はオーバーしてしまう。

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